───FantasticFantasia-Set54/最強を目指して何が悪い!……知らんよ?───
【ケース123:弦月彰利/サム……ゲッペタン】 デ・ケ・テッテン♪ 彰利&みさお『ゲッペッタン♪』 とある日の夜、オイラとみさおさんは悠介の工房へと押し入り、宴を開いておりました。 宴といっても大袈裟なものではござんせん。 三つの王国がようやく落ち着きを取り戻したことに関して喜びましょうという名目で、 オレンジジュースを飲み交わそうという、ささやかなる宴もどきです。本当です。 でもそんな中、悠介だけはとても迷惑そうな顔をしていました。 彰利 「じゃんじゃん食べなさい、大いに飲みなさい。今日の主役はキミなんだから」 悠介 「そりゃあ喜ぶことだろうけどな……どうして人の工房でやるんだよ」 彰利 「騒げる部屋も帰る家もこの世界には無いからさ……」 みさお「正直に言うと、地界人ってだけであまりいい顔されないですよね、わたし……」 悠介 「ああもう解ったよ……!解ったからあからさまに泣くのはやめろ……!」 彰利 (フッ……) みさお(チョロイです……) 理解を頂戴した俺とみさおは一瞬だけ黒い笑みを浮かばせ合いました。 でもべつにやましいことをしようってわけじゃないんです。 実際、今回の名目は本当に喜び合いませうってものだからです。本当です。 悠介 「けどな、今ようやく賢者の石を精製するための地盤が整ったところなんだ。     そこらへんの道具や素材やアイテムに触ったりするなよ?」 彰利 「へ?分析やってないん?」 悠介 「そりゃあやってあるさ。けどな、考えてもみろ。     無くなった材料は複製でどうとでもなるが、     初めての挑戦へ向けて固めた地盤ってのは一番最初の材料にしかこもってない。     俺はここまで錬金を続けてきたけど、なによりそれが大事だってことに気づいた。     だから、もしその地盤を破壊でもしやがったら───     いくら俺でも怒りのあまりに皇竜に変わるかもしれないなぁ……」 彰利 「押忍!絶対破壊しません!!暗黒の神にも誓います!」 みさお「……?なんですか?その『皇竜』って」 彰利 (悠介がドラゴン化した時の姿だ……!!     その時の悠介っていったらおめぇ……アレだ!     今の状態の数十倍はあろうかという強さだぞ……!!) みさお(え───えぇっ!?今よりですか!?……な、なにかの冗談ですよね?) 彰利 (……みさおさん。キミは見たこと無いからそう言えるのやもしれんが、     一度でもアレを見ちまっちゃあそげなことは冗談でも言えやしねぇぜ……?) みさお(ぁ……本当なんですかぁ……) そう、彼だけはドラゴン化させちゃあならねぇ。 もしドラゴン化させちまったなら、それ=運が悪けりゃ空界の終わりの日だ。 大袈裟に思うやもしれんが、 竜人以外の全ての気配が安定してる今の悠介ならば……多分そうなる。 精霊やら飛竜やら召喚獣に好かれてる悠介だ、 その力を存分に破壊の力に変えてレーザーを放ちまくるでしょう。 そうなりゃあ空界は第二のナメック星になってしまうこと請け合い……! おお恐ろしや……!!……いや、別にロシアの殺し屋が怖いって言ってるわけじゃないよ? 悠介 「まあ冗談だからそう怖い顔するな。     確かに怒りはするだろうけど、ドラゴン化なんてやっちゃいけないことだ。     でもゲンコツ程度で済ませる気は無いから注意はしておいてくれ、本気で」 彰利 「ぎょ、御意」 一瞬工房内に溢れ出した殺気に威圧されたオイラはついつい頷いてしまいました。 元々頷くつもりではござんしたが、脅されて頷いたみたいでなんだか癪です。 みさお「なんていうか……悠介さん、錬金術を始めてから随分と変わりましたね」 彰利 「そうかえ?元々几帳面なところはあったし、     集中してやることが旧日本を愛でること以外に増えただけっしょ。     んむ、そういう意味ではやっぱり趣味を持つことはいいことということじゃい」 みさお「……錬金術って……楽しいですか?」 クイクイとオイラの魔導着の袖を引っ張るみさおさん。 オイラはそげなみさおさんに極上ガイアスマイルを返してやりつつ頷いた。 彰利 「なんつーかね、病み付きになる。     もうね、創造の理力にはそりゃあ敵わんが、自分で何かを作る喜びがそこにある。     俺にここまで言わせるものですよ?そりゃもう良いに決まってるじゃねぇの」 みさお「自分で言わないでくださいよ。でも……いいですね、そういうの」 彰利 「ンム。しかも悠介ったら地盤となる素材もアイテムも、     純度100%での錬成が成功すると分析するからさ。     素材が無くなれば創造していつでも使えるわけよ。     さらに言えば、錬金術をやってれば絶対に付いて廻る『錬成時間』。     それをなんとかする方法をオイラ達は持っとるからね。     難しいものなら40日以上かかるものも、一日も経たずに錬成出来るわけよ。     今悠介がこれだけのアイテムとか素材とかを、     こんな短期間で錬成出来た理由はそこにあるんじゃよ」 みさお「へえ……あ、あの、これって触っても大丈夫なやつですか?」 彰利 「ウィ?……ややっ!?」 みさおさんが指差す方向に見慣れん結晶体発見。 マテリア……のようだが、こげな色のマテリアは昨日まで無かった筈だ。 あ……じゃけんどなんだかとっても落ち着きますのぅ……。 彰利 「なぁ悠介?ここにあるマテリアってなんのマテリアだ?」 悠介 「ちょっと待ってくれ、今手が離せない……、……よし。悪い、なんだ?」 液体の調合を終えた悠介が滅菌手袋を外しながら歩いてくる。 俺はそれを待ってから悠介の視線をマテリアに促すと、もう一度訊いてみた。 悠介 「ああそれか。それは昨日錬成したばっかりのフェアリーマテリアだ。     妖精がくれた『鱗粉』から妖精が持つ力を抽出して結晶化させたんだ」 みさお「鱗粉って……そんなものからこれだけの結晶体が錬成出来るものなんですか?」 悠介 「あぁ、えっとな。妖精たちは俺が創造者(クリエイター)
だってことを知ってるんだ。     だから鱗粉にある力を調べて、その性質が解ったら創造しても構わないって。     まあそんな了承の上に出来たのがそれだ。     それがあることで人の心が穏やかになってくれたら嬉しいです、だそうだ」 彰利 「ほへ〜……んで、妖精の力ってのは?」 悠介 「これの近くに居ると心が落ち着くだろ?それだ」 彰利 「おお……そういやさっきから心が落ち着いておりますよ。     闇に染まったこのオイラでさえも。     だから『穏やかになってくれたら』とか言ってたってわけね?」 ナルホロナルホロ、人類平和計画の一歩がここにあるわけね? オイラはステキな物語の一端を体験したような気がして、 マテリアを見ながら素直に頷いた。 それと同じようにみさおさんもうんうんと頷いて、ふと悠介を見た。 みさお「でも───妖精さんにまで気に入られてるんですね。     人からは案外嫌われやすいのに」 悠介 「世の中ってのはそうやって出来てるってことだろ。     実際、あっさりと謀反されたわけだし。俺は人間の王になんか向いてないんだよ」 なんたって竜族の王だしね。 悠介 「……キサマ今よからぬことを考えなかったか……?」 彰利 「ゲッ……!そ、そげなことあるわけないじゃん!ねぇ!?     ほ〜らリラックスリラックスゥ〜ン♪」 ギラリと竜の目のように蠢いた親友の目の前にフェアリーマテリアを差し出す。 すると───って、これの効果かどうかは解らんけど悠介は苦笑して、 錬成に戻っていった。 ハフゥ、くわばらくわばら……。 などと思ってると、みさおさんの肩がビクゥと跳ねた。 みさお「ひやっ!?あ、あの、彰衛門さん……!?     い、今足に何か当たったんですけど……なんですかコレ……!」 彰利 「む?……パントマイム?」 みさおさんが虚空に手を伸ばして何かを触っているように見せてくる。 だが違うようで、あっさりと『違います』と否定されました。 彰利 「フサフサならフェンリルで、短めの体毛ならベヒーモスじゃよ。     今は悠介の魔法で見えなくなってるけど、     この工房の中って召喚獣と精霊と飛竜で溢れてるから気をつけなされ?」 みさお「え……あれってまだ続けてたんですか?」 彰利 「うむ!そのとーり!お蔭で魔力も諸力も大分安定したー、って喜んどったよ」 みさお「うわぁ……悠介さんってば努力の人……」 彰利 「でも竜人の力は相変わらずだから気をつけるように」 みさお「うわぁ……悠介さんってば恐怖の人……」 迂闊に触れると火傷じゃ済みませんよ? まあそれはそれとして。 彰利 「いかん、いかんぞ。     悠介が錬金に没頭してしまっては、俺達に出来ることなど限られてしまう」 みさお「仕方ありませんよ、賢者の石を錬成するっていうならそれだけ準備も大変です。     ……そりゃあ、なにを用意すればいいのかなんてわたしには解りませんけど」 彰利 「ンム、実はオイラもナリ。     院生で、しかもこの短期間でここまで上り詰めたのは悠介だけでしょうな」 確かに錬成方法とかはノーちゃんに聞いたりしてるんだろうけど、 それでも悠介がそこまで辿り着いた事実は変わらない。 『ノーちゃんに聞いたから出来る』じゃない。 『ノーちゃんと契約できたこと』自体が既に悠介の頑張りの結果なんだ。 それに錬成方法を聞いたところで、必要となるものが無ければ何も出来やしない。 たとえば───高度な錬成に伴う諸力とやらとか、魔力やらとか属性とかだ。 その点を言えば悠介は様々な属性の加護を受けている。 空界の全ての精霊に好かれているんだ、当然だ。 さらに言えば妖精とも仲がいいらしいじゃないか。 そりゃあ、もう自然の中に敵は居ないって思えるわけであり、 そんな自然が悠介に味方するのも頷ける。 みさお「それであの、ちょっと気になったんですけど。     賢者の石って本当に石なんですか?     錬金術で出来るものって、名前と固体が一致しない時がよくありますから」 彰利 「おぉそう言やぁそうさね。石なんでないのかい?俺もよく知らん」 みさお「そうですか。じゃあ悠介さんに訊いて───……無理そうですね」 彰利 「そうね」 ふと視線を移してみると、悠介は錬成に必要な素材を調合中だった。 かなり慎重に行ってるところをみると、コンセントレートを使ってあるんだろう。 彰利 「……オセロでもやりますか」 みさお「……そうですね」 俺の提案に少し間を置いてから頷くみさおさん。 その表情から察するに、どうやらまた俺に勝てるつもりらしい。 フフフ、だが甘いよみさおくん。 俺はこの錬金術の世界に浸りながら、ついにオセロの攻略法を思いついてしまったのだ! 題して───はなまるアルバム!! 彰利 「って違うよそれ!!」 みさお「うひゃあっ!?な、なんですか!いきなり叫ばないでください!」 彰利 「むっ!?これは失礼した。さ、始めましょう」 俺はいつものように懐からゴゾォとオセロ盤を取り出し、 工房の中にあるテーブルに設置する。 彰利 「フフフ、この俺を本気にさせたことを存分に後悔なさい。     今日こそキサマが負ける記念日よ……」 みさお「彰衛門さんっていっつもそう言って負けてますよね」 彰利 「こ、今回ばっかりは違わい!!     錬金生活で身に着けた秘奥義、とくと見よ!!これが男の生き様じゃあっ!!」 スカァン!───開幕のベルが鳴った!! ───……。 ……。 彰利 「ありません……」 みさお「………」 全然ダメ……むしろ前の方が粘れたくらいに瞬殺……。 そうだよね……錬金とオセロ、なんの関係もないよね……。 なんか違うって……思ってたよ……。 みさお「あ、あの……も、もう一回やりましょうかっ?     ほら、調子悪い時ってありますし、ね?男の生き様を見せてくれるんでしょう?」 彰利 「フ、フフフ……ワイは男やない……。『犬』や……『負け犬』や……」 もう決定した。 俺、オセロ、弱い。 好きってだけじゃ強くなれないんだ。 漫画とは違うんだ。 ウフフ……解ってた、先生解ってたよ……。 パイロットウィングスみたいに飽きるほど鍛錬を積まなきゃだめなんだ……。 くそう、パイロットウィングスが対戦モノだったら絶対に誰にも負けない自信があるのに。 彰利 「さようならオセロ……。俺はもうキミとは頑張れないよ」 脱オセロ宣言をここに。 いままで俺とともにあってくれてありがとう。 さようなら、今までの俺。 そしてようこそ、新たな愛に目覚めたオイラ。 彰利 「というわけでこれからどうするかね」 みさお「立ち直り早いですね」 彰利 「落ち込んでてもつまらんよ。そんなことは千年生きてりゃ嫌でも悟るわい」 でも逆に千年生きてても見えないことってのもあるんだよね。 人生って難しいぜトニー。 彰利 「まあそげなことはどうでもよかギン。悠介の錬成でもヌボ〜ッと眺めてますか」 みさお「そうですね───って、彰衛門さん?     錬金もいいですけど、彰衛門さん自身の鍛錬は進んでるんですか?」 彰利 「ぬ?オイラ自身って……ああ、修行はしてるかどうかってことかね?     しとらんよ。うん、しとらん」 みさお「そうなんですか?わたしが言うのもなんですけど、そんなことで大丈夫ですか?」 彰利 「相手のことまるっきり知らんのだから、     大丈夫なのかとか訊かれてもそりゃ解らんよ。     じゃけんど───むう、いかんなぁ。     最近『悠介が居ればなんとかなる』的なことを考えてるオイラが居る」 イカンとは解っていても、こうまで力の差があると…… ノート『それは汝がそう思っているだけだろう』 彰利 「ややっ!?ノーちゃんでねが!どぎゃんしたのさ突然!」 ノート『たわけ者に喝を入れに、な』 突如現れたノーちゃんは宙に浮きながら俺を見下げたような目で見下ろした。 その目が意味することは解ってるつもりだ。 彰利 「お前、ホンマにワイなんかが勝てると思っとるんかい……。     河内が最初っから挑戦しようとしないのとはワケが違うんやで?     あっちはパンでこっちは飛竜や。     少しでも落ち度があればワイ、死んじまうんやで?     せやったら最初からジハードだけ誘き寄せて悠介に戦ってもらった方がええやん」 ノート『戦いを放棄したいと、そう言うのか?』 彰利 「放棄……違うわ、放棄と違う。     ワイは何も無理にワイが戦う必要はないっちゅうことをやな……」 ノート『親友に戦いを任せて自分は安全な場所に居る。     それの何処が放棄ではないとほざく』 彰利 「違う言ゥとるやろが!ワイは確実性の話をしとるんや!!     ワイがあいつに勝てるんか!?ワイでもあいつに勝てるんか!!     一番最初に聞いた質問の答えも出さんとなに偉そうにしとんねや!!」 ノート『汝はそれを、本気で訊いているのか?』 彰利 「おぉ本気や!どや、答えられるもんなら答えてみぃ!」 ノート『勝てる』 彰利 「ハッ……ほれ見てみぃ。     そんなん最初っから解りきったなんやてぇ!?」 私は大変驚きました! 今……今この人……人?いや精霊だ、この精霊……なんて言ったの!? ノート『勝てる勝てないを決めるのは私ではないんだがな。     言ってほしいのならいくらでも言おう。【汝が勝とうと思えば勝てる】。     汝は何か思い違いをしているのではないか?     私は見込みも無いのに力を与えたりはしない。それは誰であろうと同じだ。     確実性の話?答えられるものなら答えてみろ?     それを言う以前に汝は強くなろうと努力をしたか?     それこそ答えられるものなら答えてみろ』 彰利 「ぐっ……!」 ノート『勝てる努力さえしようとしない汝が何を盾に【確実性】などと謳う。     身の程を知れ。そして───少しでも悔しいと思う気持ちがあるのなら、     強くなる努力をしてみろ。その時は私がいくらでも力を貸そう』 彰利 「よし貸せ!!」 ノート『………』 彰利 「ややっ!?」 なんつーか凄まじく呆れ果てた顔で見下ろされてしまった。 でも構わん。 彰利 「貸すってゆゥたんやから貸さないわけあらへんよなぁ?     さぁ貸せほら貸せとっとと貸せ」 ノート『まさか汝……最初からそうするつもりだったんじゃああるまいな……』 みさお「ノートさん。彰衛門さんがエセ関西弁喋ってるあたりで気づけないと、     これからやっていけませんよ?」 ノート『ぐっ……!』 彰利 「ほっほっほ!ほれ!とっとと貸してみぃ!貸してみぃや!えぇ〜〜〜っ!!?     お前まさかぁ〜〜〜、あれほど偉そうなこと言っといて     力貸さねぇんじゃねぇええだろぉおおなぁあ〜〜〜っ!!!」 ノート『……マスターの気持ちが解った。みさお、といったな。     このたわけ者を全力で殴ってやっても構わないか?』 みさお「死なない程度にお願いしますね」 ノート『当然だ』 みさおさんとなにやら小声で話したノートさんが、 指をバキボキ鳴らしながら近づいてくる。 彰利 「お?貸す気になったかー───て、ちょい待て!待ってや!     なに指鳴らしとんねん!力貸すのに指鳴らす必要なんてあらへんやろ!!     や、やめや!近づくんやない!!それ以上近づいたら!近づいた、ら……!!     ちょっ!やめぇってマジで!や、やめヴァアアアーーーーーーッ!!!!」 ───……。 ……。 みさお「……動かなくなりましたね」 ノート『致死には至らない。大事無い』 彰利 「死んだらシャレにならんでしょうが!」 みさお「あ、起きました」 ガバーッと起きた途端にヒドイお言葉来襲。 まるで起きてはいけなかったみたいじゃないですかチクショイ。 彰利 「ともかく!俺に力をよこしなさい!楽して強くなろうが俺のモットー!     時間をかけずにパパッと強くなれるならそれで良し!!」 ノート『……本気か?』 彰利 「オウヨ!つーか修行とかって嫌いなのヨネー。     というわけで修行無しで強くなるコースを所望します。     今ならこの彰利特性オセロ盤をプレゼント!」 みさお「要らなくなった途端に交換条件に出しますか……」 OHとっても経済的! きっとノーちゃんも口から手が出るほどに望むに違いねぇよ!? ノート『そんなものは要らない』 彰利 「……いや……解ってたけどね?」 心の中で慰めの言葉を言うのはやめよう……余計に悲しくなる。 ノート『いいだろう、付いて来い。これから私の世界にて汝を鍛え上げる。     少々苦痛を伴うが……なに。汝が望んだことだ、我慢も出来るだろう』 彰利 「……少々じゃないんだろうね」 みさお「そうですね……」 ノーちゃんが虚空に穴を作る。 そこから見える先にはノーちゃんと初めて会った場所が存在していた。 彰利 「これってただの転移?」 ノート『違う。異空間に私の世界を作ったものだ。     ここでは外からも中からも、全ての情報が遮断される。存分に集中出来るぞ』 彰利 「……ノーちゃんが特訓講師を勤めるの?」 ノート『汝ひとりで何が学べる。途中で挫折するのが目に見えている』 彰利 「グ……グウムッ」 まいったねこりゃ……完全に見切られてるよ。 みさお「それじゃあ頑張ってきてくださいね、彰衛門さん」 彰利 「オ、オウヨ〜」 ノート『何を言っている、汝もだ』 みさお「え───えぇっ!?わ、わたしもですか!?なんでですか!?」 ノート『四の五の言うな。いくぞ』 みさお「わひゃっ!?あ、あわぁああああーーーーーー…………───」 ノートが指をクンと上げると、みさおさんが宙に浮いて穴の中に飛んでいってしまった。 まさかみさおさんが空を飛んでまで行きたがってたとは……。 ノート『さあ行くぞ。汝の望みを叶えてやる』 彰利 「お、俺の言うことだけをなんでも聞く裸のねーちゃんをくれ!!」 ボゴシャアッ!! 彰利 「うげっぴ!!」 ……その後のことはよく覚えていません。 ただ冗談を言っただけなのに殴られた頬は俺の意識を削ってゆき。 薄れ行く意識の中でぼくが見た最後の景色は、 工房の中で俺をチラリと見ながら小さく笑む親友の姿でした。 その顔が『何も心配するな』って言ってるような気がして、なんだかとても不安でした。 ───……。 ……。 ゴォオオオ…… 彰利&みさお『フ〜〜〜ア〜〜〜ムア〜〜〜〜〜イ!!』 さて、妙な世界に連れてこられた俺とみさおさんは、 俺が目覚めると同時に高いところで叫んでました。 だってねぇ、見た目はノーちゃんが居た場所だけど、 ちょっと先の方に行ってみれば物凄い高さの山の上なんですもの。 だから俺とみさおさんは叫んださ。岩の上に乗って『我是誰(フーアムアイ)』と叫んださ。 彰利 「いンやぁ〜、     気絶させられて連れてこられた時はどうしようって思ったもんじゃけんどね。     なかなかどうして、いい場所じゃないか」 みさお「そうですね。でも……息苦しいのと身体が重いのはなんとかなりませんかね」 ノート『そういう世界だ。それは叶わない』 彰利 「グムムー……するってぇとここって重力二倍とか酸素不足とかあるんかい?」 ノート『汝らの修行環境に合わせているだけだ。普段ならばそんなことはない』 彰利 「なんとまあ……」 みさお「マジすか……」 俺とみさおさんは顔を見合わせて溜め息を吐いた。 みさおさんは本当に『なんでわたしまで』って顔をしてる。 彰利 「で、俺はここで何をしたらええのん?」 ノート『全ての鎌の完全行使だ。好きな時に一瞬にして出せるようになれ。     さらに鎌の力と持ち主の力の全ても出せるようになってもらう』 彰利 「な、なんだってーーーーっ!!?」 みさお「あ、あの、じゃあわたしは……?わたし、鎌なんて出せませんよ……?」 ノート『汝には少々特殊なことを教える。     汝にその素質があるということはエルフの里で理解した』 みさお「……本当になんでも知ってるんですね。     べつに覗き見していたわけじゃないんですよね?」 ノート『己のところへ向かっている者が居れば、     どのような用で向かっているのかを調べるのは当然だろう。     意識の目をそちらに向かわせれば、大体の事情は飲み込める』 みさお「なんでも出来るんですね……羨ましいです」 ノート『……前世のことを言っているならお門違いだ。前世は前世、今は今だ』 みさお「……そうですね」 彰利 「………」 ぬう、なにやら無理矢理連れてきたオイラのこと完全に無視って、 湿っぽい話をしとるがよ。 そあらじゃっどなぁ、うん。 彰利 「んでー!?事細かく言えば俺は何をどうすりゃいいんじゃい!     楽して強くなりたい言ゥたやろが!!ホレ!バーンとやったれや!」 ノート『ああそれは構わん。汝はそこらに寝転がっているだけでもいいくらいだ』 彰利 「……そうなん?」 ノート『その代わりと言ってはなんだが、     身体も精神も鍛えていない状態で能力のみを引き伸ばすんだから、     それなりの苦痛は伴うがな』 彰利 「オウヨ!それでも構わへん!!     ようはワイが努力するかしないかの問題やさかいなぁ!     河内の気持ちを理解した上で、ワイは河内を越えてゆくんや!」 みさお「……彰衛門さん。     わたし正直、自分だけ楽しようっていう河内恭介は大嫌いなので     そのエセ関西弁やめてください」 彰利 「……そうだね。俺もあいつ嫌いだし」 最初の彼は輝いていた。 なんとなく真似してみたけど、物凄い罪悪感と情けなさに包まれてるよ俺……。 彰利 「ノーちゃん、楽して強くなろうコースはやっぱ無しだ。     俺、あんなクズでゲスで情けない『なんやて男』にはなりたくない」 みさお「その方がいいですよ。もしそうなってたら遠慮せず刺してました」 彰利 「……キミ、時々すごいこと言うよね」 みさお「彰衛門さんほどじゃないです」 彰利 「………」 俺がどげなことを言ったと? まあいいコテ。 彰利 「つーわけで俺は真面目に修行するから。     俺の方は修行方法知ってるから、みさおさんはノーちゃんとファイトだ!」 みさお「えぇっ!?そんな、一緒にやりましょうよ!」 彰利 「だめだ」 みさお「ケンシロウみたいに即答しないでください!!」 彰利 「ごめんよ!でもぼく怖かったんだ!     そんなわけでオイラはトニーだけの秘密のトレーニングを駆使して強くなるから、     キミはノーちゃんにご教授願いなさい!!」 みさお「うわっ!ヒドイです!彰衛門さんそれでも親代わりですか!?」 彰利 「バカヤロコノヤロォ!親でも苦手な人物ってのは居るもんなんじゃい!      親だって人間なのですよ!?解るでしょ!?」 みさお「彰衛門さん今は死神じゃないですか!」 彰利 「グ、グムーーーッ!!」 なんてこと!確かに今オイラは死神だ! ……でもそれとこれとは話が別ですよ? なんてことを思考展開して、口を止めた時でした。 ノート   『……騒ぎ終えたか?だったらそろそろ始めるぞ』 彰利&みさお『キャーーーーーーッ!!?』 会話が終わったのだろうと確信したノーちゃんが一歩ズイと歩み寄ると、 オイラとみさおさんの頭をムンズと掴んだンです。 彰利 「そ、そう急くなよノーちゃん!会話はまだ───始まったばかりだ!」 ノート『知ったことか』 彰利 「あらヒドイ!!」 みさお「ノ、ノートさん!     わたしのことはいですから彰衛門さんのこと強くしてあげてください!」 彰利 「ややっ!?これみさおさん!     人を生贄に使うなど、そのようなことはこのじいや!教えておりませんぞ!?」 みさお「どの口がそんなこと言うんですか!!」 彰利 「古の傷口が」 ノート『そうか、それは良かったな。では始めるぞ。     言っておくが楽をしないというのなら私の教えは辛いぞ。覚悟しろ』 彰利 「ちっとも良くねぇえーーーーーーーーーーっ!!!!」 虚空世界にぼくの悲しみの声が響き渡りました。 なんていうかこれからのことを考えると悲しくなってくるからです。 でもきっと、悠介なら喜んで修行するんでしょう。 だったらオイラも少しは前向きにやったほうがいいのかもしれません。 彰利 「大友くん!ぼくらここで生きていこう!」 みさお「いやですよそんなの!」 即答されてしまった……でもねぇ、心に少しの余裕を作ってみれば、 ここって地界でも空界でもない空間であり、ぼくらはそこへ降り立ってしまったのだ。 だからぼくはこの空間に名前をつけようと思います。 その名前は───『漂流空間』です。 何故なら食べられそうなものが何ひとつなさそうだからです。 それでもぼくたちはここで生きていかなければならないのですから、 気をしっかりと持たなくてはならないのです。 彰利    「これこれみさおさん……。        これからのこと考えれば、少しは現実逃避しといた方がいいと思うよ……?        ノーちゃんは半端なことする精霊じゃないから、        彼が『辛い』って言えば絶対に辛いんじゃよ?」 みさお   「うぐ……うぅ……わ、解りましたよぅ……」 彰利    「さあ、ともに現実逃避をしましょう。せーの」 彰利&みさお『ぼくらは未来に撒かれた種なのだ!!』 みさおさんが仲間に加わった!! ノート『では始めよう。     まず弦月彰利、汝はこの世界で自由に動き回れるようになってもらう』 彰利 「ぬ……?ほっほっほ、なにをおっしゃるか。     じいやは既に自由に動ける身ですぞ?」 ノート『死神化を解いた状態でだ』 彰利 「な……なんだって!?そ、そんなことができるもんか!!     大友くん!それはぼくに死ねと言っているのか!?」 ノート『出来る出来ないは問題じゃない。やれ、といっている』 彰利 「それが出来るなんて証拠はないじゃないか!もしあるのなら言ってみろ!!」 ノート『やろうと思えば出来なくもないだろう』 彰利 「証拠は!」 ノート『……人の話を聞いているのか?』 彰利 「証拠は!!」 ノート『……先に言っておくが、私に危害を加えようとした場合は全力で相手になるぞ』 彰利 「ウグッ!!ウ、ウウ……ウウーーーーッ!!」 『大友流・証拠はナックル』は未遂に終わった。 だってそうでしょう。 悠介でさえ勝てなかったやっこさんに、オイラがどう勝てと? でもぼくは暴力には屈しません。  ───ガンッ!! ノート『ぐっ!?』 彰利 「さ、さあこーーい!!俺は逃げも隠れもせーーーん!!」 強くなるって決めちゃいましたからねぇ。 圧力に物怖じしているようじゃあ上は目指せません。 ノート『……少しはいい面構えになった。そうでなければ面白くない───!』 ノーちゃんが首飾りに手を添えて、それを綺麗な杖へと変化させた。 あ……ヤバイ。本当に本気だよ。 ノート『刮目せよ!我、審判者スピリットオブノートの名の下に無の審判を開始する!』 彰利 「し、審判関係ねぇえーーーーーっ!!」 そう叫んだ次の瞬間には俺の地面は爆発し、 浮き上がったところを様々な属性に射抜かれて撃沈。 所要時間、僅かに10秒。 おそらく魔法なんぞ使わなかったら一秒でKOだったに違いないです。 Next Menu back