───FantasticFantasia-Set58/モイスチャー効果───
【ケース128:晦悠介/背負うのか、それとも───】 悠介 「じゃあ少し要領を実践してみるから、よく見ておくんだぞ?」 みさお「はい」 ───そうして、昼の時間がやってきた。 俺は今日上がりこんだ原中の猛者どもと家族が食べる分の大凡の材料を創造し、 今はみさおに調理法を教えながら調理している。 みさおは案外物覚えがいい方のようで、 教えたことはよほどのことがない限りは再現してみせた。 悠介 「時にみさお、オムレツは作れるか?」 みさお「あ、はい。彰衛門さんに一番最初に教えてもらったものです。     他にもいろいろ教えてもらいましたけど、     じっくり教えてもらったのはオムレツだけでしたね」 悠介 「そか、さすが彰利だな。いいか?オムレツが上手く作れるってことは、     他の料理にも大体の応用が効くってことなんだ。     だからまず、どんな料理がダメでもオムレツだけはきちんと覚えておけ。     硬くなりすぎず、かといって半熟になりすぎないように。     タイミングも作り方も案外気を使うからな、その分上達の地盤もしっかりするぞ」 みさお「なるほど……やっぱり料理って奥が深いです」 悠介 「まあそんなもんさ。それより……悪かったな。     空界ではいろいろ忙しくて一緒に居てやれなかった」 みさお「あはは、構いませんよ。そりゃあ寂しくなかった言えばウソになりますけど、     錬金をしてる時の悠介さん、すごくいい顔してましたから」 悠介 「そうなのか?自分じゃ解らんな」 みさお「『自分』のことって案外他人の方が知ってるものですよ。     特に自分が知らないことは他人から見た視点の中に多く含まれるものですから」 悠介 「ん……それはそうだな」 納得しながらも調理は続けてゆく。 調味料は───って、そうだった。 さっき調べてみたけど何ひとつ無かったんだったな。 大方俺が居ない間に誰かさんたちが四苦八苦して失敗劇を繰り返したんだろう。 仕方なく調味料を創造すると、調理中のものに降りかけてゆく。 もちろん化学調味料は使わない。 あくまで天然の味にこだわりを求めた創造調味料だ、健康にももちろんいい。 でもな─── みさお「あの……悠介さん?     創造物で味付けされるとどう覚えたらいいか解らないんですけど」 とまあ、困ったことに問題も発生するわけだ。 悠介 「はは……悪い。調味料揃えたらまた教えるから、今日は勘弁してくれ」 みさお「絶対ですよ?」 悠介 「ああ、解ってる」 みさお「絶対です」 悠介 「……?解ってるって」 みさお「…………本当ですか?本当に……ゼットに勝てるつもりですか?」 悠介 「ん───……そっか」 何度も訊く理由はそれか。 でも─── 悠介 「みさお。俺は一度言ったことは出来れば曲げたくないって思ってる。     だから───勝てる勝てないの問題じゃなくて、     俺はミルハザードを呪縛から解放してやりたくて戦うんだ。     その時に俺の力が及ばなければ……確かに今度こそ俺は死ぬんだと思う」 みさお「ゆ、悠介さん───!!」 悠介 「でもな、……でも。不思議と怖くないんだ。     そりゃあ勝てる保証も確証も自信も無い。でも……はは、どうしてかな。     多分さ、俺は今までいろんなやつらに支えられてここまで来れた。     死神に……ルナに出会ったことで始まった『俺』の未来だけど、     それはずっと昔からの因果みたいに続いてきてる。     それでもそれを心から嫌だなんて思ったことはない。     あのバカに出会えたし、なにより……うん、いろんなやつに出会えた。     それこそ自分がこうして生きていられる未来のひとつとして」 みさお「えっと……つまり?」 悠介 「……ありがとうな、って言いたいんだと思う。     はは、ホントは俺もよく解ってないんだ。それでもこの感謝の気持ちは本物だ。     怖くない理由は、そうした感謝したいやつらに囲まれているからだと思う」 耳を澄ましてみれば、まだ居間の方からみんなの騒ぎ声が聞こえる。 楽しそうな声に、笑い声。 そして───妙な歌を歌う、あの馬鹿の声。 それを聞いていられるだけで、酷く落ち着く自分が居た。 だからこそ本当に思う。 『ひとりじゃないっていうのはいいものだ』って。 悠介 「でもな、そう考えると……     ひとりでずっと空界の均衡を守ろうとしてきたあいつが可哀相に思える。     どっちを守ってもどっちかの角が立つっていう状況で、     あいつはもう三千年以上も近く、セシルの言葉を貫いてきた」 みさお「………」 悠介 「なぁみさお。こんなこと訊くのは酷いし卑怯だって解ってる。     でも聞かせてくれ。……俺は、ミルハザードをもう解放してやるべきか?」 みさお「悠介さん……」 悠介 「俺はあいつを『助けてやりたい』。     悲しみしかないあいつの背負うべきものから、あいつを解放してやりたい。     でも……三千年以上も貫き通してきた思いを、あいつはきっと捨てられない。     だから……だからさ、俺はきっと、あいつを───」 ……殺してしまわなきゃ、いけなくなると思う。 だから─── みさお「……悠介さん。今のわたしからは何も言えませんけど───     わたしの前世、セシル=エクレイルとしてなら言ってあげられます。     どうか……ゼットを解放してあげてください。     わたしはゼットに悲しみを残してほしくて世界の平和を願ったわけじゃない……。     なによりわたしが居なくても彼が幸せで居られるようにって願ったからです」 悠介 「……そっか」 ───結局そう言ってもらっても、俺が勝てる保証は何処にも無いんだろう。 けど、戦いってのは保証にすがってやるものじゃない。 確かに命の遣り取りをすることは間違いない。 保証ってものがあるだけで随分と心は助けられる。 それでも保証は保証であって、確証じゃない。 そんなものにすがって戦っていれば勝てる戦いも勝てしない。 もうこれは勝負とか生易しいものじゃなくて……そう、殺し合いなのだから。 悠介 「………」 ふと自分の手を見てみた。 彰利は自分の手が血に染まって見えたと言った。 でも俺はそんなことはない……ないけど、恐らくこの手は血に染まるんだろう。 殺したいわけじゃない。 救いたいと思ったからこそ願った戦で、 どうして相手を殺す覚悟を決めなくちゃいけないのか。 俺は小さく、頭の片隅でそれを思った。 みさお「……悠介さん。大丈夫ですか?」 悠介 「ん?……なんだそれ、大丈夫って」 みさお「なんだか凄く悲しそうな顔をしてます。     なんか、初めて会った時の彰衛門さんみたいです」 悠介 「………」 ……確かに、俺は今そこに至ろうとしてるのかもしれない。 幼い日に人を殺めてしまった親友の居る場所に。 恐怖が無いって言ったらウソになる。 現に、見つめた手はいつの間にか震えていて───それを治めるためだったら、 この拳が砕けてもいいと思えるくらいの不安が身体を支配するからだ。 そう、ミルハザードと戦うことに恐怖はない。 ただ俺は、自分が殺人をしてしまう事実に恐怖している。 だって、あいつは『元』が付くとはいえ人間だ。 俺と同じように竜人であり、確かに凄まじく強い存在ではあるけど人間なんだ。 その見解はきっと、他のやつらが俺を見るソレとそう変わらない。 俺だって竜にはなれるし竜人にもなれる。 だとしたら俺は、……───ああそうか、 今になってようやくミルハザードの言葉が理解できた。 『世界でたったふたりの竜人じゃないか』 そう、世界にたったふたりなんだ。 人でも無く竜でも無い、中途半端なのに中途半端だからこその力を得てしまった存在。 あいつはずっとひとりで、竜人っていう枷を背負ってきたんだ。 それが、俺みたいなヤツでも半端な存在と出会えた。 威圧はしていても心のどこかで喜んだかもしれない。 悠介 「………」 料理が皿に盛り付けられた。 自分でも無意識に動いていた手に驚くけど、それでも息を吐くと次に取り掛かった。 みさお「悠介さん……何を、考えてるんですか?」 悠介 「………」 みさおが小さく質問を投げかけてきた。 俺はそれになんて返すべきかを思案して、すぐにやめた。 悠介 「ごめんな、セシル。俺は……お前の幼馴染を殺───」 みさお「やめてくださいっ!!」 悠介 「え……」 みさお「っ……悠介さん……今あなたは何を言おうとしたんですか……!?」 悠介 「なにって……」 みさお「やめてください……!     あなたは間違っても冗談以外で『殺す』なんて言っちゃいけない人です!     彰衛門さんを見て解らなかったんですか!?     人を殺めるっていうことがどれだけの足枷になるか!心の傷になるか!」 悠介 「……みさお。でもな、俺は───」 みさお「ゼットが戦いの末に死んでしまったならそれは仕方の無いことです……!     でも……でもっ……最初から『殺す気』でなんて行ってほしくない……!!     わたしっ……わたしはっ……!ううんっ……!     わたし以外の誰だって……そんなこと望んでません……!」 悠介 「………」 『……結果論っていうのはなんて残酷なんだろう』 まだ俺が高校生で、不良をやっていた頃に彰利が呟いた。 当時の俺達は周りからは浮いた存在で、 よく授業をサボって屋上で寝転がりながら空を見上げていた。 ……あの頃の空を思い出す。 ちっぽけな雲がぽつんと孤独に浮いていた、あの真っ青な空を。 綺麗だな、なんて言える筈もなく───ただ俺達みたいだなって言葉を贈ったあの空を。 ずっと前───そう。 今を唱えるよりずっと前に、彰利は人を殺めた。 それは彰利の中のレオがやったことだけど、 それでもあいつの視界では自分の腕は血に染まった。 けれども彰利は生きることをやめずに成長して、現在までを歩んできた。 覚えたことがたくさんあって、忘れたこともたくさんあった。 けど───それでも。 あの言葉だけは、いつまで経っても心の中に焼きついて離れない。 『……結果論っていうのはなんて残酷なんだろう』 たとえ人を殺めたのがレオだとしても、 その死神の宿主が彰利ならばそれは確かに宿主に降りかかる言葉だ。 ───結果論。 たとえばその場に立っていたのが自分のみで、周りの全てが死んでいたのなら。 子供の彼は何を理由に正論を語れば良かったんだろう。 自分でさえ自分が殺したと思ってしまった彼は、何を思って泣けばよかったんだろう。 それを思うと、今でもあの頃の気持ちが蘇る。 真っ青な空に浮かぶひとつの雲。 いつしか寝入ってしまって、目を覚ました時でも遠くの空で独りぼっちだった雲。 そんな雲に手を伸ばして、あいつは言ったんだ。 ……ひとりじゃないって、いいよな───って。 あの時のあいつの苦笑を今でも覚えてる。 感情なんて浮上してなかった時だけど、 あれはあの時のあいつが出せる精一杯の笑顔だったって解ったから。 だからこそ俺は─── 悠介 「……そうだな。俺は……間違っても『そっち』に行くわけにはいかなかったんだ」 あいつのあの苦笑を覚えているからこそ、俺は─── 本気で人を殺めるだなんて言っちゃいけなかったんだ。 あんな悲しそうな苦笑をするあいつが辿り着いてしまった場所には行ってはいけないんだ。 精一杯の笑顔だったのに、 悲しいという感情しか思わせない笑みが出来るようになるわけにはいかないから。 悠介 「悪い。もう少し考えてみる。だけど……」 みさお「ぐすっ……わ、解ってるつもりです……。     全力で戦っていれば……きっとどっちかが死んでしまうってことくらい……。     それでも誰かを殺すために戦いに出ることが、     悠介さんが望んだ空界の在り方なんですか……?」 悠介 「───……!」 ……ああ、そっか。 何を悩んでたんだろう。 これじゃあ何も変わらない。 俺もミルハザードも、ただ平和な在り方を望んだだけなのに。 ミルハザードの過去を見た俺なら、それを自分で気づけた筈なのに─── 誰かを殺すために戦いをするんじゃあ、 それはセシルやミルハザードが嫌った時代そのままだ。 俺はそんな時代の所為で あんな風に変わり果ててしまったミルハザードを救いたいって思ったんじゃなかったのか? 悠介 「───ん!」 みさお「え?わっ!ひゃああっ!!?」 目が覚めた思いだった。 思わず俺はみさおを抱き上げ、 深冬にさえやってやったことがなかったいわゆる『高い高い』をしてしまった。 みさお「ゆ、悠介さん怒りますよっ!?わたし子供じゃありませんっ!!」 悠介 「解ってる。俺の方がよっぽど子供だ。だから、ありがとうな」 言って、みさおを下ろして笑った。 何を悩んでたんだろう、ってくらいの笑みで、自然に。 本当に馬鹿だ俺は。 元々力を求めた理由だって、守りたいものを守るためだった筈だ。 それがいつから『殺すためのもの』になったんだ。 こんなこと、俺を信じて契約してくれた精霊たちに申し訳ない。 悠介 「よしっ!料理続けるかっ!」 ワシワシとみさおの頭を撫でて、放置していたフライパンを握った。 ───正直どうなるかなんて解らない。 でも……うん、そうさ。 俺は俺に出来ることをすればいい。 その結果がどうあれ周りに迷惑をかけることになるだろうけど、 そうすることしか出来そうに無いから。 俺は人が思うほど器用な性格なんてしてないし、 かといって平気で何かを見捨てられるほど不器用でもないつもりだ。 だからこそ、自分には出来ることをしっかりやろう。 あいつと戦うことで起こる周りへの迷惑を、少しでも減らせるように─── 【ケース128:弦月彰利/フェマール】 デゲッテッテデーーン!!マキーーン!! 彰利 「闇をさらに黒く染める霊訓!!暗黒神さまはとってもしみったれでケチである!」 ディー『訳が解らないですね……』 彰利 「いやいやいいのよ、意味も訳も求めてるわけじゃないから。     そんで?このブラックオーダー弦月彰利になんの用かね?」 ───オッスオイラ弦月彰利! えーと、特に説明することもありませんが、 突如ウンディー姉さんにツラ貸せと呼び出されたので居間の外におります。 ディー『あの……ものは相談なのですが……貴方は悠介さまの親友、だそうですね?』 彰利 「むっ!?オウヨ!『もうたまんない!』ってくらいの親友仲ぞ!?」 ディー『そ、そうなのですか。では───!』 彰利 「へ……?」 ぼくはこの後、大変驚くことになりました。 何故ってウンディー姉さんがぼくに、 『男が好きな女の条件を教えてくれ』と言ってきたのですから。 ───……。 ……。 彰利 「よいかねウンディー姉さん。男というのは『尽くすおなご』に弱いものです」 ディー『尽くす……女性?』 彰利 「然り。たとえば───料理が出来たり」 ディー『料理───ですね!?それでは!』 彰利 「ウィ?あ、これ!!お待ちなさい!まだ話は───」 ───……。 ディー『悠介さま!昼食を作っ───!』 みさお「うーわー……悠介さんってホント料理上手ですね」 悠介 「彰利にはまだ負けるだろうけどな───ってああウンディーネ、丁度良かった。     お前も食べるか?ちょっといっぱい作りすぎてな。     クラスメイツたちに出すものだけど、それにしても多すぎるから。     先に摘む程度に食べていってくれないか?」 ディー『え?あ、あの、えと……は、はい』 パク、モグモゴ…… みさお「うわぁ……味まで完璧です。     ってウンディーネさん?どうして料理食べながら泣いてるんですか?」 ディー『いえあの……勝てないくらいに美味しいので……』 悠介 「?よく解らんが、いっぱい食べてくれな」 ディー『ハイ……』 ───……。 ディー『他に……他に無いんですか!?殿方が好む女性像というものは!』 彰利 「家庭的ってとこかね。     裁縫も出来て、掃除洗濯炊事と揃ってれば言うことなんて少ないっしょ」 ディー『裁縫に掃除洗濯炊事……!や、やります!』 彰利 「へ?いやこれはあくまでノーマルの男の理想であって、     悠介は───あぁ……行っちゃったよ……」 ───……。 ディー『あ、あの悠介さま!お部屋が散らかってるなどということはありませんか!?     もしそうなのでしたらこのわたしが───』 みさお「思ったんですけど……この家、埃ひとつありませんよね……」 悠介 「掃除は朝起きたら欠かさずやってるからな。     これはもう習慣だな、目覚めたら掃除しないと落ち着かない。     一応若葉たちも続けてくれてるみたいだし、一安心かな?」 みさお「だからってここまで徹底することないでしょうに……。     清掃のプロが泣きますよ?」 悠介 「知らん」 ───……。 ディー『ゆ、悠介さま!洗濯するものなどはございませんか!?     ありましたらわたしの水で、心ゆくまで綺麗に───!!』 悠介 「いいかみさお、     彰利も言ったと思うけど洗濯物ってのはただ洗濯すればいいわけじゃない。     繊維によっては洗い分けしないといけないし、     色落ちする服と一緒に別の服を洗えば色が移る。     洗剤だってたくさん入れればいいってわけじゃない。いいな?」 みさお「洗濯物のことで王さまが説教しないでくださいよ……」 悠介 「馬鹿お前、王にだってこだわりと常識ってのがあるんだ。人種差別するな。     それに今の俺は王でもなんでもないぞ?」 みさお「竜王ではあるじゃないですか───とまあそれは置いておくにしても、     どのみちここまで出来るんだったら     炊事洗濯掃除では誰かの助けなんて要りませんね」 悠介 「ん───ああまあ、そうかもな。掃除はべつとしても、     よっぽどのことが無い限りは台所とかはひとりで立っていたいもんだ」 ───……。 ディー『………』 彰利 「あ、あのさ、俺はちゃんと、     ヤツは完璧超人だから手伝いなんて無駄だって言おうとしたよ?     けどキミってば早とちりしてさっさと飛んでってしまうから……     えっとその……怒ってる?」 ディー『……はぁ……さすがはマスター悠介さま……!     全てご自身でおやりになられるなんて、素敵です……!』 彰利 「………」 なんつーか幸せそうでした。 なんのためにオイラを頼ったんだか解りませんなこりゃ。 彰利 「あのー?そいで、自己解決出来たんならオイラもう行っていいよね?」 ディー『ええ、もう用済みです。何処へなりとも失せなさい』 彰利 「ひでっ!?もうちょっとやさしい言葉で見送ろうよ!」 ディー『お断りします』 キッパリと言い放って、ウンディー姉さんはスミ〜と飛んでいってしまった。 彰利 「うぅ……なんて幸薄いぼく……」 ウンディー姉さんたらなんてヒドイ……。 これからはキャス子さんとでも呼んであげましょうかねまったく……。  ◆キャス子さん───きゃすこさん  好きな人のことしか考えられない者の典型。  好きな人には心より尽くすが、それ以外の人は生ゴミ以下にしか見えていない。  利用価値のないものはサバサバと切り捨てていき、  生涯の全てを好きな人のために費やす人のことをキャス子と言う。  *神冥書房刊:『キャスターは参らないゾ』より ……まあそれはそれとして。 中井出「彰利一等兵!!なぁに突っ立っとるか!こっちに来い!」 彰利 「むっ!?この私に何か用なのかね!?」 中井出「うむ!将棋盤があったから女子対男子で遊んでいるのだ!     そしてあっさり負け続けている!このままでは男子の敗北は必至!!     よって貴様の助力を要求する!!戦場に赴け!」 彰利 「ぬう!サー・イェッサー!!」 いやなんつーか、何かをやろうなんて考えるまでもなさそうでした。 うっしゃあいっちょ打ち負かしてやるかねィェーーーッ!! ───……。 ……。 彰利 「ありません……」 結果:瞬殺。 相手はキリュっちなのだが、勝負は思いのほかあっさりとついてしまった。 桐生 「やったー!勝ったよー!ふふーーんだ!     やっぱりアキちゃんなんて卑怯なマネが出来なきゃ楽勝だね!」 彰利 「なんだと小娘!この彰衛門を侮辱いたすか!」 桐生 「むっ!年上に向かって小娘だなんて言っちゃだめだよ!?」 彰利 「なんと!?そげなこと誰が決めたのかね!!」 桐生 「えっ!?え……えっと……た、多分『礼儀』を作った人が決めたんだよ!」 彰利 「礼儀───おお!あのアントニオ=ホドリゴ=ノゲイラ氏か!」 桐生 「う、うん!そうだよ!その人だよ!!」 彰利 「───引っかかりおったなキリュっち!ノゲイラは格闘家だ!」 桐生 「なっ───騙すなんて最低だよアキちゃん!!」 彰利 「なにを言うか小娘が!人にウソをつく方がよっぽど最低ではないのかね!!     しかもよりにもよって元教え子をですよ!!」 桐生 「う、ううーーっ!!」 彰利 「これ!そういう時は『ウウーーーーッ!!』でしょう!!」 まったくなっちょらんよキリュっちってば!! こうなったらオイラが空手の奥義とともに漂流教室の素晴らしさを伝授しよう! 中井出「なんつーか……顔合わせるたびに言い合ってるのな、あのふたり」 真穂 「うん。小学校時代からの……まあ、言っちゃえば友達みたいなものだから」 中井出「……あのさぁ桐生?あの人って本当に桐生の母親で、先生なんだよな?」 真穂 「うんそうだよ」 中井出「……どう見ても同年代にしか見えねぇよなぁ……」 真穂 「あ、あはは……しかも下手したら恋人同士にだって見えるのが怖いよね……」 中井出「どうせならあの告白、現実のものになってたらよかったのになぁ」 総員 『まったくだ、面白そうだったのに』 真穂 「あのね……弦月くんが親になんかなったら、わたし恥ずかしくて近所歩けないよ」 彰利 「うわヒッデェ真穂さん!!アータそれ言いすぎですよ!?俺が何をしたと!?」 中井出「ちなみにどうして恥ずかしくて近所を歩けなくなると?」 真穂 「今でさえこんな遣り取りしてるふたりが夫婦になったら、     いったいどうなると思う?」 藍田 「どうって……あー。天下の往来でこんな子供みたいな喧嘩されちゃあ、     あっという間にミセスネットワークに広がるな」 総員 『なるほど、そりゃあ確かに近所は恥ずかしくて歩けない』 彰利 「どういう意味かねそりゃあ!!」 桐生 「アキちゃん!     まだわたしとの話が終わってないのに他の人と話しちゃだめでしょ!」 彰利 「オイオイ嫉妬かよ……モテる男は辛いね?」 ボゴシャア!! 彰利 「つぶつぶーーーーっ!!!!」 桐生 「し、しっ……嫉妬なんかしてないもん!!」 彰利 「うきっ!うきっ!うきぃいいいいいーーーーーっ!!!!」 大激痛!!我が麗しの顎が無残にもゴシャアと爆砕!! つーかなんでみなさん絶対に顎狙うんですか!?オイラそれが不思議でなりません!! 彰利 「ほががががが……!え、えぇパンチもっとるのォォォォ……!!     お、俺と一緒に世界を目指さんかね……?」 桐生 「えっ!?え、えっと……あう、あうあう……」 彰利 「むっ!?どぎゃんしたとよキリュっち!!」 キリュっちを襲う突然の───!……なんだろ? ともかくキリュっちってば顔を真っ赤にさせてあちこちに視線を彷徨わせております。 中井出「……これ、どう取る?」 真穂 「お母さんのことだから絶対に勘違いしてるね。     大方『一緒に世界を目指す』って言葉を     『俺と一緒に世界旅行にいかないか』って受け取ったんじゃないかな」 藍田 「凄まじい誤解能力だな……」 田辺 「あー……でもさ、あの様子からすると桐生(母)って、     弦月に対してまんざらでもないってことか?」 真穂 「娘のわたしから見ても、弦月くんってお母さんのお気に入りだからね……」 田辺 「お気に入りねぇ……。     あれってどう見ても自分の気持ちに気づいてない純情少女って感じだけど」 中井出「よし彰利!そこだ!いっきにかませ!」 彰利 「むっ!?オウヨ!!轟天弦月流奥義───ぶちかまし!!」 ボゴッシャァアアアンッ!!! 桐生 「はきゅっ!?」 キリュっちの首に我が助走付きショルダータックルが炸裂!! キリュっちはその勢いに任せてジュザ〜〜と畳みの上を滑っていった! 中井出「って何やってんだアホォーーーーッ!!」 彰利 「むむっ!?何を言うのかね!キミがかませと言ったのではないかね!?     キミはなにかね!もしやこの私をからかったというのかね!?」 中井出「かませの意味が決定的に違うわぁっ!!     ───だがナイスタックルだった。今のは90点あげていい」 彰利 「サンキュー・サー!!」 真穂 「サ、サンキューじゃないってば!!お母さん大丈夫!?」 桐生 「アァ〜〜キィ〜〜〜ちゃぁあ〜〜〜んんん……!!?」 真穂 「あ〜……大丈夫そうだね」 ズゴゴゴと足の筋力だけで上半身を起こすキリュっち。 ここまで来るともう空手も関係無い気がするが、 その体から溢れるバトルオーラは多分、オラの数倍はありそうな戦闘意欲によるものです。 彰利 「えーと……てっちりくんって呼んでいい?」 桐生 「なにそれ知らないもん!!     適当なこと言って誤魔化そうったってそうはいかないよ!?」 彰利 「キリュっちって美人だよね!」 桐生 「えぁっ!?……な、ななななに言い出すのアキちゃん!!     わわわたし、そんな、美人さんなんかじゃないもん!」 中井出「あっさり誤魔化されてるな……」 藍田 「凄いな、お前の母親……」 真穂 「何が凄いのかは聞かないでおくよ……」 周りの観衆がなにやらやかましいですが気にしません。 とにかく今は怒りを適当に遣り過ごすことにします。 彰利 「いやいや美人ですぞ!そりゃもう美人です!自覚ないのですかキリュっち!」 桐生 「あ、あう……あうあう……やめてよアキちゃん……。     わたし美人さんなんかじゃないってば……。恥ずかしいよ……」 彰利 「よっ美人!超美人!ビッグバン美人!!アモルファス美人!!」 田辺 「なんだ?アモルファスって。エディー?」 真穂 「結晶みたいなもののことだったと思ったよ。アモルファス結晶」 中井出「エディーじゃないのか」 彰利 「美人!この美人!!このっ!美人!美人が!美人め!美人め!!」 ズパァアアアンッ!!! 彰利 「ぶべぇえええーーーーーっ!!!」 桐生 「やめてったらぁっ!!」 中井出「……で、褒めても殴られるわけだ」 藍田 「なんつーか……弦月だなぁ」 飯田 「なんていうか途中から褒め言葉じゃなくて責め言葉になってなかったか?」 中村 「ところで……さっきから日余がドス黒い殺気を放ちまくってるんだが……」 中井出「目を合わせるなヒヨッコ!殺されるぞっ!」 中村 「なにぃ、なにがヤツをそこまで強く!?」 丘野 「愛だろ」 中井出「愛だな」 藍田 「なんで一斉に俺を見て愛とか言うんだよ!!」 みなさま楽しそうですね。 もうキリュっちにボコボコにやられてる俺のことなんかシカトっすよシカト……。 ああ、ダメだよキリュっち、 そげな熱烈なアタックされたらいくらオイラでもメゴシャアッ!! …………。 【ケース129:桐生真穂/シーラーカンスは野球選手らしい】 そんなこんなでいろいろあって、昼食の場は設けられた。 悠介 「じゃあ各自に箸は回ったか?」 藍田 「俺のが無いぞー?」 彰利 「フフフ、そりゃそうよ。俺が二刀流してるからな」 藍田 「訳の解らん突発的行動してないで寄越せ」 彰利 「いやいや俺はただテル先生を見習ってだね。     ほら、両ききになれば執刀速度も上がるわけじゃん?」 中井出「お前は医者になりたいのか───っつーか勉学の時点で既にダメだろ。     お前が医学部なんて考えられんし想像もつかん」 彰利 「俺……こんなクラスメイツたちに囲まれて、今日も幸せだぜ……」 悠介 「おーそりゃよかったな。じゃあ───いただきます」 総員 『いただきますっ』 いただきますの挨拶と同時にみんなが思い思いに箸を動かしてゆく。 こんな人数座れるのかなって思ったけど、 そこはそれ、晦くんがテーブルを創造したり庭の方に座る場所を用意したりして、 案外なんとかなった。 もともと広かった場所だし、 外の方も秋ならではの穏やかな日差しに当てられて、案外気持ち良さそうだった。 中井出「ぬう!こりゃまたなんともはや……!」 藍田 「ヘンなヤツだよな〜、不良だったのに料理の腕は一流だなんて」 彰利 「フッ、まあよ」 藍田 「お前のこと言ったんじゃなくて───や、そりゃまあ、確かにお前もそうだけど」 真穂 「不良だったのは高校生の時だけでしょ?     それに、不良が料理作っちゃいけないなんてことないんだし」 田辺 「そーそー、美味いならなんでもいいじゃん」 丘野 「ほう。ならば田辺よ、お前は同じ美味しさの料理でも、     ゴリモリマッチョの兄貴の手料理と     憧れのお姉さんの手料理、味さえよければどっちでもいいと?」 田辺 「嫌な喩えすんなよな……。     そもそも憧れのお姉さんとゴリモリマッチョの兄貴の料理の腕が同じだなんて、     微塵にも考えたくねぇぞ」 藍田 「いやぁ、でもマッチョはいいと思うぞ?筋肉って男としては憧れるし」 中井出「だからお前はオリバなんだよ藍田二等兵……」 藍田 「マ、マッチョの何が悪いんだよ!筋肉一番筋肉最高!!」 ルナ 「ちょっとうるさいわよ、静かにしてよもう」 藍田 「なにをぅ!?空き缶なんぞに筋肉と力みのカタルシスは語れねぇんだよ!!」 ルナ 「あきかっ───!く、くうううう!!」 木葉 「姉さん、お醤油です」 若葉 「ありがとう木葉ちゃん」 中村 「んじゃ、俺は山葵を」 丘野 「瀬戸〜、そこの酢ゥ取ってくれ〜」 水穂 「お茶、おかわりしたい人居ますか〜?」 総員 『ギブミー!』 桐生 「うわあ……おいしいねこれ。……でもなんだかもう一声欲しい気分」 悠介 「欲しいのは声じゃなくて味だろ」 桐生 「うん、そうだね。でもやっぱり料理ならアキちゃんの方が上手なんだね」 彰利 「俺が唯一悠介に勝てる能力ですけぇのぅ」 中井出「何を言う!お前が晦に勝てるものなんてまだまだたくさんあるぞ!」 藍田 「そうだ!それを俺達は解ってやっている!」 彰利 「なんと……!そ、それはなにかね!?」 中井出「変態っぽいところとかオカマっぽいところとか……」 藍田 「ホモでロリコンで女装趣味があるとことか……」 彰利 「イヤァアアアろくでもねぇええーーーーーーーっ!!!!」 ……食事は随分とやかましい状況で続けられた。 てっきり晦くんが注意したりすると思ったけど─── 苦笑して、みんなと食事を囲む晦くんはなんだかんだで楽しそうだった。 それに……さっきよりいい顔をしている。 悩みが晴れた顔っていうのか、とにかく棘があまりなさそうな顔っていうのかな。 ……だめだね、なんだか上手く喩えられないや。 美奈 「マホ〜、そこの料理取ってもらっていい〜?」 真穂 「え?あ、うん」 美奈に『和』としか言えないような料理の皿を差し出す。 ……なんていうのか、見渡しても一面『和』なのがさすが晦くんって感じだ。 しかも旅館や料亭で食べるより美味しいのもさすがだ。 和に対する探究心と追求心はかなりのものらしい。 中井出「うむ、かなりの美味だぞ晦一等兵。ところで……幻のマンガ肉は美味かったか?」 悠介 「見た通りだ。あの美味さは極上だ」 彰利 「美味かったぞ?おぉ美味かったぞぅぉ〜〜〜!!     ほっほっほ、悔しいか?え〜?悔しいかぁ〜?」 中井出「いや、別に悔しかぁないが。むしろ今のお前の顔が滑稽だったからそれでいい」 彰利 「よせやい照れるぜ、そんな、俺のフェイスがビューテホーだなんて」 藍田 「……弦月って死神になってから聴力も上がったんだよな?」 中井出「ようするにスペックが足りてないンだろ」 彰利 「ブッコロがすぞこの野郎」 夏子 「でも……あれだよね。ここって町の五月蝿さが届かない分、すっごく静かだよね。     空気もいいし見晴らしもいいし」 清水 「だよな〜。なんつーかすげぇ落ち着く」 言いながら食事を続けるみんなは、それはもうご機嫌だった。 それはそうだろう、こうして落ち着ける条件が揃っていて、 なおかつ気心許せるクラスメイトたちに囲まれてれば楽しくもなる。 ルナ 「やかましいけど……悠介の料理美味しいからいっか」 セレス「五月蝿いのはいつものことでしょう」 水穂 「ゼノさんゼノさん、このお漬物美味しいですよ。食べてみてください」 ゼノ 「ふむ、確かになかなかだ」 この家の人達も案外自分のペースを守っていて、 別段困った様子ももう見受けられなかった。 中井出「そんで?お前らここ……っと、確か『地界』だったか?     地界にはオフ日を満喫するために来たんだよな?」 彰利 「オウヨ」 中井出「明日にはまた空界ってところに行くのか?」 悠介 「そうだな、そうなる」 藍田 「はぁ〜ん……大変だよなぁ。つーかさ、怖くないのか?     守りたいって気持ちは解らんでもないが……     それってお前がやらなきゃいけないことか?」 そう、それはちょっと気になってた。 なにも今までこうして地界で生きてきた晦くんが、 空界で起こる死ぬ可能性のあることをする必要なんてないんじゃないかって。 悠介 「覚悟は決まってる。ああ、もちろん死ぬ覚悟なんかじゃないぞ?」 彰利 「あったんみゃーくさ、     死ぬ覚悟なんぞ持参されたらもうたまったもんじゃなぎゃあよ」 中井出「そうそう。でもま、しゃあないよな。     行くなって引き止めたいけど、それを聞く晦じゃないしな。     ただし……絶対生きて帰ってきてくれよ?そして帰ってきたら、     俺が本日に至るまで蓄積してきたイメージを是非具現してくれ。     俺の脳内超絶極秘エロビデオを創造させてくれ」 ポムと晦くんの肩を叩く中井出くんの顔は、今までのどんな時よりも輝いていた。 悠介 「とりあえずお前をコロがすリストに載せていいか?」 彰利 「それで悠介が帰ってくるなら安いもんだろ?」 中井出「そんで俺が死ぬのかよ!!」 彰利 「それで悠介が帰ってくるなら安いもんだろ?」 中井出「繰り返すな!」 藍田 「すげぇ……さすが上官殿だ!まさかエロビのために命をかけるなんて!」 七尾 「男の人って凄いのね……」 丘野 「誤解するな、こんなケースは中井出だけだ」 清水 「すげぇや……さすがエロビマニアだ!」 彰利 「エッロマッニアッ!エッロマッニアッ!!」 総員 『エッロマッニアッ!エッロマッニアッ!!』 中井出「やめろ!つーかなんで幕ノ内一歩に送る声援みたいなリズムなんだよ!!!」 ……予想はしてたけど、段々と収拾がつかなくなってきている。 中学校の頃のみんなと一緒に居るのは相当に面白いんだけど、 代わりに収拾がつかなくなることが多々ある。 や、ほんとに楽しいからいいんだけど。 真穂 「そういえば弦月くん、結局粉雪と付き合うことにしたんだよね?」 彰利 「ウィ?オウヨオウヨ。黒い恋人だが、一応粉雪も納得してくれたわけだし」 桐生 「ム───アキちゃん?     恋人さんが居るのに別の女の子に『美人』だとか言っちゃいけないよ?」 彰利 「ほっほっほ、何をぬかすかと思えばこの小娘め、麿に説教をいたすか。     これ中井出、この不届き者を手打ちにいたせ」 中井出「なんでそこで俺に言うかね」 彰利 「バカヤロコノヤロォ、そげなもん俺が殴られたら痛いからに決まってるだろうが」 中井出「……なんつーかお前、ほんと変わらないよな」 彰利 「フフフ、変わらないものなんてねぇぜ?現にオイラ、もう黒だし」 丘野 「それでも性格は変わらないって言ってるんだろ?」 真穂 「そうだね。でもさ、弦月くんは本当にその……自分だけが黒でいいの?」 ひとりだけっていうのは寂しくないのかな、という意味をこめて言ってみた。 すると弦月くんはモシャアと溜め息を吐いて、そげなもん当たり前じゃいと言い切る。 彰利 「なんつーかね、もうブラックオーダーでいいやって感じですよ。     元々黒好きだったし、死神もどっちかっつーと黒側だし。     それ考えたらどうにもこのままの方がええんじゃねぇの?ってな感じでして」 藍田 「話は変わるけどさ、お前って結局日余とどこまでいってんの?」 夏子 「あ、藍田くんっ!?デリカシー無いよっ!」 藍田 「すまん今の質問無し。無かったことにしてくれ」 麻衣香「さっそく尻に敷かれてるわね……」 真穂 「わたしも今そう思ってたところだよ……」 藍田 「う、うっさい!」 顔を真っ赤にしながらそう言う藍田くんには、迫力というものがまるでなかった。 でも、こんな空気も悪くない。 彰利 「オイラと粉雪ならぶっちゅまでいきましたよ?」 藍田 「ラ、ランクAか……なかなかやるな」 彰利 「ほっほっほ、すげぇだろ!えぇーーーっ!?キサマはどうなんだい!」 藍田 「フッ、俺もAだ」 彰利 「友よ……」 藍田 「友よっ……!って!     お前みたいに先輩だとか剣豪美女だとかとAしたヤツに、     抱き合った上で友とか言われたかないわっ!」 彰利 「なんと!?ノゥ違う!!あれは事故だ!俺の意思でやったわけじゃない!!」 藍田 「……そういや過去でも未来でも女の胸、揉みしだいてたよな?     篠瀬ってヤツと、メイさんって言ったっけ」 彰利 「ア、アアーーーーーッ!!!」 モシャア……!! 彰利 「ひいっ!?何処からか冷たい殺気が!!」 何かを感じたのか、弦月くんが肩を跳ねあげた。 ……殺気の発生源は言うまでもなく粉雪だ。 彰利 「と、とととところで藍田っ!?キサマの声って何気に王国兵士に似てるよね!?」 藍田 「えっ……そ、そうかっ!?」 言って、藍田くんが誇らしげな顔で天井を見上げるように物思いに耽る。 と─── 藍田 「って───王国兵士は『ウォー!』くらいしか言ってねぇだろうが!     言葉らしい言葉も喋ってねぇのに解るかっ!」 怒った。 彰利 「馬鹿野郎話し合わせろよ!ブチコロがされるでしょう!?」 藍田 「合わせられるかっ!!そもそも話逸らせてねぇよ!!」 彰利 「なんですと!?何を根拠にそんなことを言うのかね!」 藍田 「だからっ!     話逸らしたいなら日余にそういう話を持ち込まないと意味ねぇだろうが!!」 彰利 「……はうあ!!」 今頃気づいたようだ。 というかそもそも、藍田くんと話し合ってて話を逸らしても意味が無い。 真穂 「弦月くんって……案外馬鹿だよね」 彰利 「え!?いや───ィヤッハッハッハ!!知ってたよ!?うん知ってた!」 中村 「自分の馬鹿さ加減を?」 彰利 「違わいっ!……いや、違わんけど。     でも不毛な行動だってことくらい知ってたさ!」 真穂 「じゃあどうやってこの殺気を鎮めるの?」 彰利 「え……えっと……愛?」 中井出「よし!愛といえば藍田だ!晦〜、オリバ薬創造してくれ〜」 彰利 「出来れば一生涯オリバ薬を〜」 藍田 「どうしてお前らはそう人のことオリバにしたがるんだよ!!」 総員 『面白いからに決まってるでしょう(だろうが)!!』 藍田 「てめぇらぁあああああああっ!!!!」 真穂 「あはは……」 そうしてまた、どんどんと収拾のつかなくなる方向へ。 そうした中でも晦くんはゆったりと食事を取り、時折に溜め息を吐いている。 ……ああそっか、晦くんにとっては食事時がやかましいことなんて茶飯事なんだ。 相変わらずの巻き込まれがた苦労人のようだ。 それでも抗えるだけの能力がある分、まだ救いがある気はするけど。 悠介 「ごちそうさま」 総員 『速ッ!!?』 悠介 「たわけ、お前らが遅いんだ」 彰利 「これ悠介!ちゃんと一口20回噛まなきゃだめでしょう!!」 悠介 「俺は毎度40回噛む」 彰利 「なんと!?」 真穂 「うわー……わたしは24回くらいなのに……」 ……その分一口が少ないけど。 でも晦くんの食べ方を見るに、大口ってわけでもなかった。 あの引き締まった体はこうした常と鍛錬によるものなんだろうか。 真穂 (…………えっと) わたしはふと思い立ち、弦月くんに軽いゼスチュア(ゼスチャーとも言う)を送った。 すると…… 彰利 (……───!?) クワッ!と目を見開き、何故かマンガとかである『表へ出な』って顔をして、 親指で廊下を促した。 ……ついて来いって言ってるようだったけど、 なんだか喧嘩でも始めそうな雰囲気にちょっと躊躇する。 けどわたしは両隣に軽く言葉をかけると立ち上がり、 弦月くんが歩いてゆく方向へと歩いていった。 ───……。 ……で。 彰利 「あんじゃコラオウコァ!!おどりゃこの俺に喧嘩売ろうって気かコラァ!オラァ!     オウコラァ!アァッ!?コラァ!!」 喧嘩でも始める雰囲気どころか、やる気満々のようだった。 必要以上に『コラ』という言葉を使い、何故かフォークで髪の毛を()かしている。 相変わらずの謎の人っぷりだったけど、とりあえずやかましいことは確かだった。 晦くんがよく弦月くんに『やかましい』とか言う気持ち、解るなぁ。 彰利 「あんじゃあおどりゃあなに溜め息なんぞ吐いてんじゃあ!オウ!?」 真穂 「あのさ、弦月くん。ちょっと訊きたいことがあるんだけど。     晦くんってさ、弦月くんみたいに女の子になったことないの?     それを訊きたかったんだけど」 彰利 「あんじゃ───愛?……喧嘩じゃないの?」 真穂 「口の前で手を閉じて開くゼスチャーのどこが喧嘩になるの……」 彰利 「いや、口から連続爆裂魔光砲を吐くゼスチャーなのかと……」 真穂 「………」 はぁ……なんか今、 この人の親友をやってる誰かさんの苦労が物凄く明確に思い浮かべることが出来た。 真穂 「あの……さ。弦月くんの意識の中で、     いつからわたしの像はピッコロ大魔王への進化を遂げたの?」 彰利 「……出会った頃?」 や、疑問系で訊ねられても困るけど。 しかもかなり失礼だ。 真穂 「本当に不思議だね……よくこういう性格なのに好いてくれる人が居るよ……」 彰利 「まったくだね、そりゃ俺も同意見」 真穂 「って、話が逸れちゃった。     晦くんって弦月くんみたいに女の子になったことってないの?」 彰利 「ありますよ?」 真穂 「え───」 予想外。 まさかとは思ったけれど、本当にあったなんて。 真穂 「ふえぇ〜……あ、で……どうだった?綺麗だったの?」 彰利 「ん……えっとさ。真穂さん、自分はまあ平均くらいには可愛いと思う?     ああまあ可愛いって思ってことにしといとくれ?じゃなきゃ話が進まんたい。     まず自分を美しいと想像してみて」 真穂 「え……う、うん」 目を閉じて、自分を無理矢理美化させてみる……いや、 美化させてみようとするけど全然上手くいかない。 彰利 「上手くいかないっしょ?」 真穂 「え?どうして───」 言い当てられたわたしは少しドキリとした。 けど弦月くんはケタケタと笑って─── 彰利 「なんつーのかな、悠黄奈さんは恐らくその先に居るおなごだよ」 真穂 「……悠黄奈さん?誰?」 訊きなれない名前に首を傾げる。 と、弦月くんはさも当然のようにきょとんとした顔で、 彰利 「誰って……真穂さんが訊いてきたんでしょ」 ……え? 真穂 「え……え、えっと……それってつまり……」 彰利 「悠黄奈さんは悠介がおなごの時の名前ザマス。     言っとくけど物凄いべっぴんさんじゃよ?     おなごになったことがあるオイラですら     『まあ綺麗!』とか思いつつトゥシューズに画鋲入れたくなるほどに」 真穂 「この場合トゥシューズと画鋲は関係ない気がするけど。     でも……そんなに綺麗なんだ」 再び目を閉じて想像してみる。 まずは今の晦くんに女の子のカッコをさせたような想像。 ……妙に似合いはするけど、女の子ってイメージには辿り着かない。 次。体つきを女の子に近づけさせる想像。 ……………………不気味だった。 真穂 「えと、やっぱり全然想像つかないんだけど」 彰利 「まあそんなもんさね。想像は悠介の得意分野じゃけぇのう。     想像できなくても嘆くこたぁあんめぇえよ。     だがしかし、あのべっぴんさは他の人にはないものがござる。     これで心までおなごになったらちとやべぇよ?」 真穂 「え……どうして?」 彰利 「綺麗である。炊事洗濯掃除なんでもござれ。運動神経抜群。頭もいい方。     大体のことならなんでもこなす。……つーか欠点が見当たらない」 真穂 「あー……」 確かに晦くんが女の子になったりしたら大変かもしれない。 でも不思議と、元が男であるって意識が強い所為で、 顔を見なければあまりイメージできないって考えが確かにある。 真穂 「えっとさ、女の子の状態の晦くんの映像って見れるかな」 彰利 「それは夜の部に回すつもりだったから今はダメYO?     夜の部ではオイラたちが赴いた後悔の旅を上映するつもりだから」 真穂 「後悔の旅?」 ……なにか後悔するようなことをしたんだろうか。 ちょっと想像つかない。 晦くんが苦労するって意味で後悔したっていうなら容易に想像できるんだけど。 彰利 「まあなんつーかそう、乞うご期待?     またまた悠介の恥ずかしいシーンが見られるから貴重ですよ?」 真穂 「晦くんの苦労ってさ、     そもそも弦月くんと遭遇したことで大幅にアップしたんじゃないかなぁ……」 彰利 「否定はしませんよ?」 真穂 「ここは親友として、否定はするべきだと思うけど……」 彰利 「ままま、楽しみに待っといで!今はなによりもメシ食いましょう!     メシを食べなきゃ力が出ないのは全人類共通だと思うであります!     つーわけでレッツハバナーウ!!」 真穂 「粉雪に見つかって怒られるのが嫌なだけじゃないの?」 彰利 「グムッ!?ぬなっ……ななななにをおっしゃるやら!?     オオオイラはべつに粉雪など恐れちゃいませんよ!?」 真穂 「あ、粉雪」 彰利 「ヒィッ!?」 弦月くんがババッと後ろを振り向く。 が、粉雪は何処にも居ない。 ……それはそうだ、冗談なんだから。 彰利 「ちっ……ちくしょおおおおーーーーっ!!どどど何処に隠れやがったぁっ!!     居るのは解ってんだぞてめぇええーーーーーっ!!!」 でも弦月くんは騙されたことにすら気づかずに構えを取り出した。 ……思うんだけど、これは恋人に対する反応なんだろうか。 彰利 「ち、ちくしょう!インビジブルか!?卑怯だぞセバスチャアーーーーン!!!」 真穂 「セバスチャン?」 彰利 「『インビジブル』という映画(?)で透明人間になった人でーす♪     炎で燃やされても電撃で焦がされても生きてた凄まじい人間さ♪」 真穂 「……自分の恋人をそんなバケモノと同一視して楽しい?」 彰利 「俺は遠慮がない男じゃけぇのう。     おなごに気を使っていた漢の俺はもう死んだのだよ。     それはたとえ相手が恋仲の者だろうと同じこと」 真穂 「なんだか難しいね。漢じゃなくちゃやさしくしちゃいけないの?」 彰利 「フッ……男というのはだね、真穂さん。欲望に忠実な者のことを言うのだ。     つまり欲望など無しにやさしい漢とは違って、     欲望があるからこそ人にやさしくするのが男。OK?」 真穂 「うわー、そういうことハッキリ言っちゃうんだ……。     でもなんか物凄く弦月くんっぽいね」 彰利 「いや……照れるな、そう褒められると」 真穂 「……ほんと相変わらずだね。べつに褒めてないってば」 変わらない反応につい笑みが漏れてしまう。 弦月くんはそんなわたしの反応に少しばかり確かな照れを感じたのか、 目を逸らしながら顔を赤くして頬を掻いていた。 真穂 「ん、じゃあ行コっか。あんまり長い時間ふたりだけ居ないと誤解されるし。     ウチのクラスメイト達って絶対に妙な方向に勘違いするのが好きだから」 彰利 「しっしっしっしぃ〜っし・しぃ〜あわせぇ〜♪     たぁ〜くさんはっるっのっお〜とずれよぉ〜♪     逆子〜はぁと〜て〜も〜く〜るしいな〜♪げぇ〜んしりょくの〜海よ〜♪」 真穂 「……なに歌ってるの?」 彰利 「え?いや……なんだろね。あたしゃ日々を思いつきで生きていますから。     ところでモイスチャー効果ってステキだと思わない?     そりゃあ纏めたい髪もピッチリ決まるわさ」 真穂 「そういえばずっと気になってたんだけどさ。     弦月くんの髪の毛ってなにかで固めてるの?     いつでもバサバサオールバック風だし」 彰利 「形状記憶と根性で」 真穂 「………」 いつから髪型って根性で決められるようなものになったんだろう。 しかも形状記憶って…… 真穂 「形状記憶って……生まれたときからそんな逆毛だったの?」 彰利 「うむ。だから逆子だったらしいよ?」 真穂 「関係ないってそれ……」 彰利 「しっしっしっしぃ〜っし・しぃ〜あわせぇ〜♪     たぁ〜くさんはっるっのっお〜とずれよぉ〜♪     逆子〜はぁと〜て〜も〜く〜るしいな〜♪げぇ〜んしりょくの〜海よ〜♪」 真穂 「疲れるからその歌やめて……」 彰利 「じゃあ『ファイ王に行こう』でも歌おうか?     ハ〜イキングにゆっこっお〜♪ホ〜イホイディアホゥホッホ〜♪って」 真穂 「……思うんだけどさ、どういう経緯でそういう歌が思いつくの?」 彰利 「どうって……どうだろ。解りませんなぁ」 真穂 「はぁ……」 なんだかとっても疲れた瞬間だった。 Next Menu back