───FantasticFantasia-Set59/その一日にアディオスを───
【ケース130:桐生真穂(再)/アブラハムニの真実】 デンデ・デンゲ・デンデゲデンデデンッ♪ ドントドントッ♪ 彰利 「アンブラハンムニィ〜は〜羊っの子っ♪」 中井出「ひっとりっはノッポ〜であっとはっチビッ♪」 蒲田 「みぃ〜んななっかよっく暮〜らしってる♪     さぁ〜んあおっどっりっまっしょ♪」 丘野 「右ィ〜手♪」 総員 『右〜ィ手♪』 ツッチャン♪チャンカチャンカ♪ 彰利 「アンブラハンムニィ〜は〜羊っの子っ♪」 中井出「ひっとりっはノッポ〜であっとはっチビッ♪」 蒲田 「みぃ〜んななっかよっく暮〜らしってる♪     さぁ〜んあおっどっりっまっしょ♪」 丘野 「右ィ〜手♪」 総員 『右〜ィ手♪』 中村 「ひだ〜り手♪」 総員 『ひだ〜り手♪』 ツッチャン♪チャンカチャンカ♪ 彰利 「アンブラハンムニィ〜は〜羊っの子っ♪」 中井出「ひっとりっはノッポ〜であっとはっチビッ♪」 蒲田 「みぃ〜んななっかよっく暮〜らしってる♪     さぁ〜んあおっどっりっまっしょ♪」 丘野 「右ィ〜手♪」 総員 『右〜ィ手♪』 中村 「ひだ〜り手♪」 総員 『ひだ〜り手♪』 中井出「おしィイイーーーーーリ!!!?」 総員 『おしィイイーーーーーリ!!!!』 悠介 「どんな生物だよ!!」 中井出「尻に左右の手が生えてるんだ。それ以上もそれ以下も無い。     移動手段は両手であり、呼吸でもするかのように年中無休で放屁してる」 悠介 「………」 あ……物凄く疲れた顔してる。 悠介 「……ノってるところに悪いが、     その歌の最初って『アブラハムニは』じゃなくて『【アブラハム】には』だぞ。     しかも『羊の子』じゃなくて『七人の子』だ」 総員 『なっ……なんだってぇえええええーーーーーーーっ!!!?』 突然のツッコミに、わたしたち全員が絶叫をあげてMMRと化した。 ───現在夜の部。 すっかり泊まっていくつもりのわたしたち全員は、未だに晦くんの家出騒ぎ通していた。 ちなみに今は中井出くんのイメージを 晦くんが具現化したカラオケマシンで歌いまくってる状態だ。 彰利 「な、なにそれマジ!?アブラハムニじゃないの!?羊じゃないの!?」 悠介 「あ、あのなぁ……羊がノッポでどうするんだよ……。     歌ってて疑問に思わなかったのか?     そもそも羊は『ひとり』なんて数え方しないだろ」 彰利 「へ?……ア、アアーーーーーーッ!!!」 悠介 「歌のタイトルも『アブラハムの子』。羊だなんて何処にも書いてない」 中井出「な、なんですってぇええーーーーっ!!?」 中村 「お、俺今まで『油ハム煮』の歌だと思ってたのに!     どっかの地方にそういう物があって、これは旨いぞって歌だと思ってたのに!!     油ハム煮に使われるのが羊の子の右手とか左手とかって歌じゃなかったのか!?」 悠介 「いや、どんな歌だよそれ」 蒲田 「俺はどっかの場所に『アブラハム(にん)
』という少数民族が居るとばかり……」 悠介 「七人しか存在しちゃいけないなら歌になる前に絶滅するだろ」 蒲田 「はうあ!!」 飯田 「盲点だ……」 真穂 「で、でも晦くん、どうしてそんなこと知ってるの?」 悠介 「これでも一度は親になったり祖父になったりしたことあるからなー……。     『みんなのうた』なんて本人が要らなくなればお蔵行きなんだ、     それをたまたま掃除してた俺が見つけて覚えただけのことだよ」 中井出「なるほど……マテ。親だとか祖父だとかってなんだそりゃ。     お前そんなにプレイボーイだったのか?」 悠介 「ぶっコロがすぞこのたわけ……!」 彰利 「アーハイハイ!それをこれから見せるからちょっと落ち着きめされい!!」 見せるって───ああ、昼頃に言ってたアレのことかな。 中井出「見せるってまさか……晦の子供と孫をか!?」 悠介 「なぁ中井出よ。     衝撃を受けた人間ってどれだけ地面から離れていられるか、試していいか?」 中井出「ど、どうどう……!!そんな景色が歪むほどの殺気を出すことないだろ……!」 モシャアアアアと殺気で景色を歪ませている晦くん。 これはちょっと危ないんじゃないだろうか。 真穂 (ゆ、弦月くん、なんだかもう速く映像出した方がいいみたいだよ……?) 彰利 (OK解ってますわ。んだばちょほいと離れておりなせぇ) 小声で訴えるわたしに小声で返すと、 弦月くんは陰陽の人が印を描くように手を振り出した。 まず手を叩き合わせ、次にVサイン。 さらには手を広げた状態で親指と人差し指をくっつけて丸を作り、 最後は五指で突きをするようなポーズを取って構えた。 彰利 「キルキルアウナンアウマクキルナン……!!     くらえ正義の必殺!ゴールデンキャノンボォオオーーール!!」 ドンチュゥウウウウウウンッ!!! 構えた弦月くんの手の平からふたつの黒い光が出現すると、 弦月くんはそれを壁に向かって放った。 いったい何をするつもりなのかと思った矢先、 黒い光が壁に当たるとそれが映像を写す幕となった。 中井出「観音寺弾(キャノンボール)にする意味はあったのか?」 彰利 「無い」 本当に無意味だったのは事実だと思う。 ともあれ幕に映像が映し出されると、 今までガヤガヤと騒いでいたクライスメイトたちも押し黙った。 中井出「……?猫、だな」 一番最初に映し出されたのは猫だった。 縞虎柄の毛に和服を装着した、なんていう凄まじい格好の猫だ。 しかも二足歩行。 妙に落ち着いた雰囲気を出したその様子はまるで─── 真穂 「……この猫、晦くん?」 悠介 「う……ど、どうしていきなり解るんだよ……」 真穂 「あ、やっぱりそうなんだ。     なんとなく雰囲気で『そうじゃないかな〜』って思ったんだけど」 どうやらやっぱり晦くんらしい。 フサフサの毛並みを見ると触りたくもなるが、生憎とこれは映像だ。 何気なく晦くんを見てみると目が合って、『……ならないからな』と目で釘を刺された。 察しっていうか、先読みが早すぎるよ晦くん……。 ───……。 ……。 総員 『…………ホゥ……』 悠介 「だぁああっ!!ばかっ!!さっさと飛ばせ彰利っ!     お前らもなに熱い溜め息吐いて凝視してんだぁっ!!」 映像開始からしばらくして、その幕には女性の姿の晦くんが映し出された。 これがもうなんと例えたらいいのか……一言で言えば凄まじく綺麗だった。 男子の大半は頬を染めて熱い溜め息を吐いて、 女子の大半もまた憧れと羨望の眼差しで熱い溜め息を吐いていた。 その気持ちは本当に解る。 無駄な贅肉の無い、だけど筋肉ゴリモリってわけでもない、 本当に憧れのスタイルの女性がそこに居たんだから。 彰利 「ほっほっほ!なにを馬鹿な!飛ばすなんてことをするわけがあるめぇよ!!     アタイはまだキミがブロリーになった際、     キミにボコボコにされたことを忘れたわけではござらんぜ!」 悠介 「くっは……!ひ、人の忘れたい汚点を見世物にして楽しいか!」 彰利 「もうたまんない!」 悠介 「こ、こここここのタワケ……!!」 カタカタと震えるつごもりくんを余所に、映像はどんどんと流れてゆく。 そんな中でなにかを思いついたのか、晦くんが……えっと、みさおちゃん、だったっけ。 ともかく小さな女の子に話し掛け、ふたりしてニヤァと黒い笑みを浮かべた。 ……なにやらよからぬことを考えてるみたいだけど、 ここはそっとしておいた方がよさそうだった。 ───……。 ……そして、それからしばらくのこと。 彰利 「キャアアアーーーーーーーーーッ!!!!」 わたしは、晦くんとみさおちゃんの黒い笑みの理由を知った気がした。 中井出「ふっ……ふじっ……!ふじふじじ……!藤巻……!?」 藍田 「あの『漢魔人』の弦月が……藤巻十三を……!」 映像には今まさにタライの水で自分の下着を洗う弦月くんが居た。 彰利 「やめれぇええええええーーーーーーっ!!!やめろっ!見るなぁあーーーーっ!!     なして!?オイラこんな映像出そうと思った覚えは───」 悠介 「因果応報って知ってるか?」 彰利 「ムッハァーーーッ!!?ダダダダーリン!?もしや貴様が!?     人の忘れたい過去を見世物にして楽しいか!?」 悠介 「もうたまんない!!」 彰利 「ギ、ギィイイイイイイイーーーーーーーーッ!!!!!!」 自分が言ったことを今まさに自分が言われたのが悔しかったのか、 弦月くんは顔を真っ赤にして叫んだ。 そんな中でもクラスメイト達は生暖かい目で弦月くんを見て、 どこまでもやさしい顔をしていた。 彰利 「イヤアアアアアアアアア見んといてぇええええーーーーーーっ!!!!     そげな子供のポエムを見つけた親みたいな顔せんといてぇえーーーーーっ!!!」 中井出「すげぇよお前……。     この映像だけで俺の頭の中で25レベルはレベルアップしたよ……」 藍田 「立派な男になったな……」 中村 「でもこのひとりっきりでパンツ洗ってる姿って泣けてくるな……」 丘野 「俺達が戻った後でこんな出来事が起こってたとはなぁ……」 麻衣香「これが噂の藤巻十三現象なんだ……。     暗がりの中で涙流しながら下着洗ってる姿がまた泣かせるね……」 殊戸瀬「……この時ってやっぱり下着履いてないのかな」(ボソリ) 春菜 「そっ、そうなるのかなっ?」 悠介 「姉さん……混ざるなよ」 春菜 「だって当時はお漏らしだ〜って騙されたし。     まさかアッくんが藤巻十三になってるなんて」 真穂 「あのー……それはいいんだけど……あ、あんまりよくは無いか。     それでも弦月くんが蹲って本気泣きしちゃったんだけど」 悠介 「……桐生よ。心の痛みってのはな、     自分も味わってみなけりゃ解らないものなんだ。     一方的に高笑いなんてしやがったたわけにはいい薬だ。     どうせ明日にはケロっとしてる」 ヘタをすると今日中には立ち直るだろうから、と続ける晦くんは溜め息を吐いた。 ほんと、とことんまでに心労を溜めてしまう人だ。 真穂 「で───結局晦くんは未来の晦くんと融合……したんだよね?」 悠介 「ああ。そうなる」 中井出「なるほどなぁ……それで親にも祖父にもなった、とか言ってたのか。     俺は正直本当にお前がプレイボーイになっちまったのかと……」 悠介 「この歳で孫が出来るヤツなんて居ないだろ……。     大体もし子供が居たとしても、     その子供が子供を作らないかぎり俺は祖父になんてならない。     でも現実的に……というか年齢的にそれは無理だろ」 中井出「まあそりゃ確かに。     でもなぁ、ああいう非・現実的な映像見せられれば     案外なんでも信じちまうってもんだろ?」 悠介 「まあ……確かに」 晦くんは少し困った顔で頭をカリッと掻くと、小さく息を吐いた。 中井出「しっかし大賢者さまね。栄えある我が原中のクラスメイツの中から、     まさか勇者と大賢者さまが生まれようとは」 藍田 「忘れちゃいけないのが藤巻十三の誕生だろ」 彰利 「忘れろこの野郎!!」 藍田 「すまん無理」 彰利 「うう、ちくしょう……」 中井出「まあそう落ち込むなよ藤巻。明日があるさ」 中村 「そうだぜ藤巻。俺達は逆に心配してたんだぜ?     ああして暴走した男になってくれてはいたけど、     それもすぐに消え失せるんじゃないかって」 丘野 「だがお前は立派に藤巻ってくれた。だから俺達はお前を応援するぞ藤巻」 彰利 「さも当然のように藤巻言うんじゃねぇ!!」 藍田 「よろしく藤巻!これからも!」 彰利 「嬉しそうだねキミ……」 真穂 「あ、でもさ藤巻くん」 彰利 「真穂さぁああーーーーーーーーん!!!!!」 真穂 「えっ?やっ、はは……ご、ごめん……なんだから自然に口から……」 自分でも驚くくらい自然に『藤巻』って呼んでいた。 気をつけないと。 中井出「泣くな藤巻……男はこうして強くなっていくんだ藤巻」 中村 「そうだぞ藤巻、胸を張れ藤巻」 彰利 「キミら絶対楽しんでるっしょ……」 総員 『当たり前だ!見縊るな!!』 彰利 「見縊らせてくださいマジで!!」 原中大原則ひとつ、“面白いものはどんなことをしてでも実行せよ”。 たとえそれがクラスメイツの苦しみに繋がろうと、 谷底へ突き落とすくらいの心意気をもってその刹那を楽しむこと。 もちろん谷底から這い上がってきたら突き落とすわけだけど。 けどまあ、これも気心が知れてるからこそできることだ。 お昼の定番番組となっている『笑いものにしていいとも!』はそれから度外されるべきだ。 ゲスト、または一般人を連れてきて、 さんざんっぱら笑いものにするソレは見ていて気分が悪い。 真穂 (あれで人気があるのも考え物だよね……) 訪れる一般人も一般人だけど。 まあそれはそれとして。 真穂 「あのさ、ふじっ───ゆ、弦月くん」 彰利 「マホさん……今『ふじ』って……」 真穂 「い、言ってないよ?うん、言ってない」 彰利 「……そ、そうだよね?真穂さんまでオイラを藤巻なんて呼ばないよね?」 田辺 「いいや俺は聞いた。そして録音した」 藍田 「なにっ!?お、お前もだったのか!?     俺だけじゃ……俺だけじゃなかったんだな!?」 田辺 「おお藍田!とするとお前も!?」 藍田 「田辺っ……!」 田辺 「藍田っ……!!」 総員 『友情だ……』 彰利 「マホさん……」 真穂 「や、いやははは……そ、それで訊きたいんだけどさ。     どうして、その、藤巻十三現象なんかが起こっちゃったのかなーって」 彰利 「ヴ」 奇妙な声が発した。 汗がだばだばと流れてきて、今にも何か叫びそうな様子で弦月くんはオロオロしだした。 中井出「ハッ、愚問だな桐生二等兵。恐らく彰利一等兵は男にクラスチェンジしたのち、     その溢るる欲望を吐き出せなかったために夜な夜な恐ろしい夢を見た。     まあどんな風に恐ろしいのかはこの家の女性や、     栄えある原中女子軍の名誉のために伏せておきたいところだが───     どうせここまで言えば同じだということで暴露しよう。     どうせ夢の中で女性の知り合いという知り合いのアハ〜ンな夢でも見たんだろう」 彰利 「ち、違う!俺じゃない!!」 真穂 「弦月くん。犯人はお前だ、なんて誰も言ってないよ」 彰利 「ど、どちらにせよあたしゃあそげなことしてませんよ!?     夢の内容なんて全然覚えてませんし!!だからこの話題終わらせましょうよ!」 中井出「漢から男に堕ちたお前がいまさら何を恐れる……」 彰利 「キミのそういうところを恐れとるんですよ!」 中井出「はっはっは、そりゃ心外だな。だがな、よく聞くんだ彰利一等兵。     貴様は漢から男に堕ちた。いわばケモノ。(ジュウ)だ。     それを今更隠すことになんの意味がある」 彰利 「男に堕ちてもみだりにおなごを傷つけるクソ野郎に     クラスチェンジする気なんてねぇわい!!」 悠介 「その時はまだ、己の先のことなど微塵も知らない彰利であった……」 彰利 「親友ゥウウウウウッ!!!おっそろしいデマカセ言うのやめれぇえええっ!!」 真穂 「誰も予想だにしなかった……。その言葉が、彼の最後の言葉になるだなんて……」 彰利 「真穂さんやっぱアータ楽しんでるっしょ!!」 真穂 「原中生ですから」 ムンと胸を張って見せた。 すると弦月くんは漂流教室の子供のような顔をして涙を流した。 彰利 「ウウッ……ウウーーーッ!!」 麻衣香「藤巻くん……真穂の無法の量を見誤ったわね」 真穂 「無法の量って……それ言ったら他のクラスメイツたちって尋常じゃないよ……」 彰利 「ていうか麻衣香ネーサン?お願いだから普通に藤巻言うのやめてくれない?」 麻衣香「藤巻くんもさ、いい加減わたしのこと『ネーサン』って呼ぶのやめない?」 彰利 「だってねぇ……なんか『ネーサン』付けた方が語呂のいい名前だし」 麻衣香「呼びづらいなら綾瀬でもいいって何度言わせるのよ藤巻くん」 彰利 「あの……だからさぁ……。そりゃね?     俺もその『藤巻くん』ってのが某ガンバリストのことだったら文句なんて無いよ?     でもそれがあっちの方の藤巻だと……」 麻衣香「藤巻くんって格闘とか得意?」 彰利 「藤巻じゃあござんせんけど得意ですよ?」 麻衣香「腕っ節は?」 彰利 「強ェエぜ?」 麻衣香「うん、藤巻だ」 彰利 「結局それが言いたかっただけっすか……」 真穂 「気を落とさないで、ふじま───弦月くん」 彰利 「……サミングしていい?」 真穂 「言葉に攻撃で返すのは暴力的だよ?」 彰利 「なら彼は暴力大王というわけですか」 藤巻───弦月くんが晦くんを指差す。 ……ああ、確かに。 真穂 「でも悪意のある悪口はいけないと思うよ?     それは本人が嫌がってるのに何度も同じことを言う方が悪いよ」 彰利 「あの……真穂さん?そげなこと言ってたら俺はどうなるの?」 真穂 「藤巻───じゃなかった、ふじ───じゃなくて!     ふ……ゆ、弦月くんの場合、欲望の果てでこんな風に自業自得を受けてるわけで」 彰利 「そりゃそうですけどね……男に堕ちた俺が悪いんですけどね……。     頼むからマジで藤巻って呼びそうになって噛むのやめてくれない……?」 真穂 「き、気をつけてるつもりなんだけど……」 なんともしがたい状況というか意識というか。 きちんと弦月くんと呼ぼうとしてるのに、どうしても弦月くんの顔を見ると…… 早朝の薄暗い中で下着を洗っている姿が思い返される。 そうなるとどうしても……ね? 解ってほしい、この気持ち。 中井出「まあまあ十分楽しんだところで歌の続きいこーぜー!!というわけで晦一等兵よ!     今まで一度たりとも歌ってない貴様にハナをきってもらう!     なんでもこい!この中井出の思考から具現されたカラオケマッスィーンに     存在しない曲など無し!」 悠介 「和歌に合う音楽はあるか?」 中井出「和っ───!?あっ……!い、いや……ぁ……!     さすがのこの中井出の思考の中にも、和歌のレパートリーは無かったわな……!」 彰利 「クズが!」 中井出「こ、ここぞとばかりに罵るな藤巻!」 彰利 「ふ、藤巻言うな!!やンのかコラ!!」 中井出「おぉやったろうじゃねぇか!!こうなったら───」 ギリギリと歯を噛み締めながら睨み合う。 本気で喧嘩でも始めようかって形相だけど、これは毎度のことだ。 で、決まって出る勝負方法は─── 彰利&中井出『将棋で勝負だぁあーーーーーっ!!!!』 ……ゲームばっかりである。 どうして毎度毎度、 ふたりとも同じ勝負科目をぴたりと選択するのかは原中の七不思議とされているけど。 どうやら今回は将棋らしい。 悠介 「将棋か。じゃあ俺が審判しよう。───駒と将棋盤が出ます」 気づけばいつの間にか晦くんがふたりの間に立つような図形になっていて、 しかもすぐさまに駒と将棋盤を創造。 駒をふたりに渡して、すぐに戦いは始められた。 原中のクラスメイツたちが見守る中、将棋勝負はおごそかに進められた。 ……かに見えたんだけど。 ドゴシャァアアンッ!!ズガガガガガァアアンッ!!! 彰利 「はごべぇえええええーーーーーーーーっ!!!!!!」 弦月くんの体が突如、電撃でも走ったかのように跳ね上がって煙を出した。 悠介 「……ちなみに。姑息な真似をすると軽い電気が流れるようになっている。     死にはしないけど辛いのは確かだから気をつけるように」 中井出「んなっ───!!お、俺やめていいか!?」 悠介 「投了は認められない。勝負がつくまで続くし手抜きをしても電撃だ」 中井出「ヒ、ヒイ!!」 中井出くんはまるで闇のゲームに参加してしまったかのような情けない声をあげた。 慌てて周りの原中生を見るけど、みんながみんな極上のスマイルで親指を立てた。 ……原中大原則ひとつ。危険なことにはたとえ同じ原中生でも(にえ)にして生き延びろ。 ようするにトルネコさんの法則だ。 一言で言えば『誰だって自分が一番かわいいのさ。あんただってそうだろ?』の法則。 悠介 「ああそれと、時間稼ぎもさせないために駒を動かす時間も限られてる。     そっちの方がやる気もでるし、緊張感が味わえるだろ?」 中井出「え───じゃ、じゃあもし動かす時間に間に合わなかったら?」 悠介 「やっぱり電撃が襲う。しかも互いに敵意を出させるように、     自分にも相手側にも流れる仕組みだ」 中井出「な、なんだってぇええーーーーーーっ!!!?」 真穂 「うわぁ……傍迷惑な……」 中井出くんはひとりでMMRと化し、すぐさま駒を進めた。 そして弦月くんの番───なんだけど。 中井出「あ、彰利!早く進めろ!彰利!……あ、彰利!?」 彰利 「グビグビ……」 中井出「キャーーーッ!!?」 なんていうか突然の電撃が相当効いたのか、シビレて動けないようだった。 そうこうしている間にも時間は刻一刻と進み…… 中井出「ジョー起きて!ジョーーーッ!!」 中井出くんはもう涙目になって、何故か弦月くんをジョーと呼んで震えていた。 その様子はまるで、 チーム戦なのにただひとりで戦うハメになった某サイキョー流の男のようだった。 しかし時は無情とはよく言ったもので───バヂィッ!!バリバリバリィイッ!!! 彰利&中井出『オゴゲギョバゲガギヤァアアアアーーーーーッ!!!!』 ふたりはその身に電撃を受け気絶。 勝負の行方は見事なダブルKOとなった─── 【ケース131:中井出博光/博光の祀り】 中井出「夜も更けきったッッ!!総員!心の巴里は今も業火に包まれているか!?」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「うむ実に良しッ!!というわけでこの世の果てで恋を熱唱する覚悟もプラスし、     今こそ『かめはめ波を撃てる』と信じていたあの頃のピュアを胸に焦燥せよ!     立ち上がる時は今なのだッ!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「うむ実にいい返事だ!     それではこれより原中名物『怪談話死』を開始するッ!!」 総員 『Sir(サー)YesSir(イェッサー)!!』 サァッ───スパァーーーンッ!! ───晦の母屋の深夜にて熱い会議を繰り広げようという時に、 我らが泊まることとなった広間の襖が勢いよく開け放たれた! その先に居たのは───晦だ。 悠介 「やかましいぞっ!静かに寝やがれ!」 中井出「断固拒否する!!この煮えたぎる熱い思いはもはや誰にも止められん!     というか集団でどこかに寝泊りするなんて修学旅行みたいでいいじゃないか。     そして修学旅行としいえば怪談話に枕投げに女子風呂覗き!これは譲れん!」 総員 『サー・イェッサー!!』 悠介 「女子軍が別の部屋だからって、声高らかにそんなこと叫ぶなよ……」 中井出「見縊るな!女子が居たって叫ぶぞ俺は!」 総員 『サー・イェッサー!!』 悠介 「お前らなぁ……」 晦が熱い溜め息をブブルバフゥと吐き出した。 が……まあいつものことだ。 見かける度に溜め息吐いてたような気もするし、それはそれで最強。 中井出「ところでどうだ晦一等兵。貴様も混ざっていかないか?」 悠介 「怪談話なんてまだるっこしいことするくらいなら、     本物の幽霊に会った方が早くないか?」 中井出「いや……残念だが俺は、     モノホン幽霊に遭遇したところでどうということも無かった男だ。     怪談話のしっとりした雰囲気には惹かれるが、実物はなぁ……」 悠介 「お前が怪談話をする意味がまるで見えないんだが……」 中井出「あ、いや、だからほら、怪談話のしっとりした雰囲気に惹かれるんだって。     実物なんて何かに夢中になってりゃどうとでもあしらえるし」 悠介 「つまり恐怖よりもしっとりした雰囲気のみを欲するわけか」 中井出「解ってるじゃないか。……つーかさ、晦って結構鋭いよな。     先読み上手っつーかなんつーか」 悠介 「そんなことないだろ。ただの偶然だ」 そうかね。 あんまりそういう感じがしなかったからこそ言ったんだが。 悠介 「そんなことよりだ。騒ぐなとは言わないけど、周りに迷惑しない程度にやれ。     俺に迷惑かけるくらいならまだしも、     ルナや若葉や木葉の睡眠を邪魔すると面倒なことになるぞ」 中井出「おお、自分への迷惑をものともしないとは。人物特性『自己犠牲』か?」 悠介 「そんなもん人の人物特性に組み込むなたわけ」 彰利 「フッ……だがまあこのまま寝るのも口惜しい」 悠介 「……で。今回はどっから沸いて出たんだ親友」 彰利 「岩をも徹したコケの一念から生まれ出でました。そっれよっかさー♪     ……女子軍の部屋へ夜這いしに行きません?」 中井出「おお!中々に腐ってるな弦月一等兵!」 彰利 「よ、よしてください上官殿!照れるであります!」 悠介 「照れるなよ」 まったくだ。 彰利 「けどさ、やっぱこういうイベントでは夜這いは基本でしょう。     漢から男へと下った今、何も恐れるものはありません」 中井出「男っつーか藤巻だけどな」 彰利 「やかましっ!」 悠介 「あー……とりあえず寝言は寝て言え。     男の都合で女の寝込みを襲うなんて下衆思考だぞ」 中井出「そういうお前は女に寝込みを襲われたんだっけ?」 悠介 「あ、あのなぁ……っ!ああいや、それでいい。体験者からしてみれば酷い侮辱だ。     だから言っておく……やめとけ」 中井出「………」 彰利 「………」 顔を真っ赤にして、羞恥に耐えながら振り絞るように語る晦。 ……いや、なんつーか物凄い説得力だった。 夜這いをネタに藍田でもからかおうかとは思ったりしたが、 元々行くつもりはなかったものの…… なにやら絶対に行くわけにはいかないという思いに駆られる状況だった。 ここは素直に話題を変えてやったほうがいいか。 中井出「ところでさ、女になった晦ってやたらと綺麗だったよな」 灯村 「あ、そうそう。アレがマジで女だったら俺ゃあ惚れてたね」 島田 「ああ、あれにゃあ驚いた。変われば変わるもんだよな」 彰利 「オイラはオイラは!?」 蒲田 「お前はなぁ……なんていうか、髪型がモロ彰利だったから」 飯田 「言われるまでもなく『あぁ彰利だなぁ』って思いにさせられたからなぁ」 三島 「その点で言うと悠黄奈さんはよかった……」 悠介 「『悠黄奈さん』とか言うな」 皆川 「いやぁ、けど女子からも人気あったぜ?     理想的なプロポーションしてるとか顔立ちが綺麗だとか。     案外憧れた女子も少なくないんじゃないかね」 悠介 「恐ろしいこと言うなよ……」 中井出「………」 ……なんつーか今悟った気がする。 どの道話題を逸らしたところで、晦は溜め息だらけではなかろうかと。 よし決定。こいつ根っからの苦労人体質だ。 ……いやまあ、ずっと前から解っていたことではあるが。 思うんだが、もしこの世に『不幸を吸収する道具』なんてものがあったら─── 晦の不幸レベルはどれくらいのものなんだろうか。 もしかしたら一回吸い取るだけで魔人ブウが復活するかもしれん。 丘野 「まあまあ中井出、上官ともあろう者がそう落ち込むな。     ここはまず原点に戻ろうじゃないか」 中井出「原点?」 丘野 「そう。まず生まれたことに感謝するんだ。     そうすれば心も落ち着くし冷静に考えられる。     さあ歌おう……て〜のひらを〜太陽に〜、すかしてみ〜れ〜ば〜♪     真ぁ〜っ赤ぁ〜に〜流〜れる〜、僕のち〜し〜お〜♪」 中井出「丘野……お前ってやつは……」 丘野 「オケラだ〜って〜、オケラだ〜って〜♪……オォケラだぁ〜って〜♪」 中井出「ちょっと待て!お前オケラになんのこだわりを抱いてんだ!!」 丘野 「ウヘヘヘヘ……オケラさん、俺の恥ずかしいところ……見る?」 皆川 「うわこいつナチュラルに寝惚けてやがる!!」 清水 「帰って来い丘野!!帰って来い!!このままじゃお前、     自分の知らないところでオケラツィォンティーガーのあだ名を付けられるぞ!」 悠介 「どういう寝惚け方だよ」 彰利 「つーかもうちょいまともなあだ名は無かったんか?」 さらにまったくだった。 中井出「仕方ない……丘野二等兵には残酷だが、この様子の一部始終をカメラに収めて、     成長の記録と題して余すことなく女子軍に公開してやろう」 皆川 「なんて愚かな……。半端に寝ちまったばっかりに……」 清水 「強く生きろよ、丘野二等……」 彰利 「よし、せっかくだから鼻にカールでも差し込もうか。チーズ味の」 中村 「いやその前にチョコボールを詰め込めるだけ詰め込んで、     トドメにカールだろ。チーズ味の」 藍田 「あ、じゃあ首には酒のつまみ用によくある焼きたらこを連ね縛ったネックレスを」 島田 「頭には当然、食い散らかしたポテトチップスの空き袋王冠。チーズ味の」 灯村 「いやいやその前に頭の上に昔懐かしのスライムくんを大量に入れてから、     食い散らかしたポテトチップスの空き袋王冠だろ。チーズ味の」 皆川 「じゃあお肌にはチョコバットの溶けやすいチョコメイクを」 三島 「鼻から飛び出たチーズ味のカールに、     駄菓子名物きなこ餅(楊枝に刺さったアレ)を刺してと」 田辺 「耳の穴にはビーフジャーキーをさりげなくあしらい……」 宇佐見「口周りには昔からの人気の『一枚桜漬け大根』の汁を塗って、     その上から駄菓子屋名物粉ジュース(青)を塗りたくると泥棒ヒゲの出来上がり」 蒲田 「耳から飛び出たビーフジャーキーに、穴を空けた一枚桜漬け大根を刺し───」 岡田 「目と鼻の頭には子供時代には人気があった変装グッズのメッカ、     鼻眼鏡を美麗に装着させて美しさを際立たせる……」 藤堂 「あ、どうせなら口にはうまい棒を差し込もう。チーズ味の」 田辺 「さらにそのうまい棒の穴にビーフジャーキーをさりげなく……」 総員 『よし!完成ッッ!!』 中村 「命名しよう!彼こそは時代の覇者、超・丘───ぶわっ!くっせぇっ!!」 岡田 「うわほんと臭ぇ!!すっぱい!甘いっ!     桜漬けと粉ジュースとチーズ臭さとビーフジャーキーの香りが相まって……!」 蒲田 「な、なんつーかザリガニの死体があるドブ川の匂いにも似た嫌な香りだ……!」 中村 「嗅いだことはないが、きっと腐った血肉の香りとはこんなものなのでは……!?」 総員 『よし決まった、今日から丘野をラフレシアと呼ぼう』 悠介 「……めげないよな、お前ら」 面白ければそれでいいわけだ、過程などどうでもいい。 中井出「というわけでラフレシア丘野が窒息して気絶したところで撮影は終了しよう」 岡田 「ラフレシアアァアーーーーーーッ!!!!」 中村 「ラフレシアが気絶したぞぉおーーーーーーーっ!!!!」 蒲田 「ああっ!やっぱり鼻に詰めたチョコボールとカールと、     口に詰めたうまい棒とビーフジャーキーがまずかったか!!」 岡田 「起きろ!起きるんだラフレシアァアアーーーーッ!!!     こんな恥ずかしい死に方があるかぁあーーーーーっ!!!!」 三島 「こんな死に方、末代まで語り継がれるぞぉっ!!     『こんな死に方だけはしないように』って、     先生がたやお偉いさんがたがお前を反面教師にして若者を導くぞぉっ!!     お前それでもいいのかラフレシアァアーーーーーーーッ!!!」 悠介 「成仏出来ずに悪霊になっちまいそうな死に方だなこれは」 彰利 「俺なら幽霊になっても恥ずかしくて人前には出れないねぇ……」 中井出「俺もだ」 岡田 「俺も」 中村 「おいらも」 蒲田 「やきいも」 満場一致のようだった。 ともあれラフレシアは晦に気つけをされることで見事に復活し、 長い夢を見ていたよ……と遠い目をしていた。 それが夢ならどれだけよかったことか。 中井出「えー、では。いつまでも騒いでいたって始まらん……     ということで怪談話死を開始する!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「総員スモールは済んだか!?ヤバイのであればビッグもしてこい神が如く!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「なにぃ貴様ら!揃ってビッグをもようしたというのか!?」 総員 『サー・ノォサー!!』 中井出「よろしい!ならば耳の穴かっぽじって鼓膜破って悶絶死してでもよく聞け!     これより原中名物怪談話死を開始する!!」 総員 『Sir(サー)YesSir(イェッサー)!!』 中井出「ではまず!ハナは奇妙話担当で知られる原中の悪夢!     弦月彰利一等兵に語ってもらおう!!     ちなみに猥談などしおったヤツにはそれ相応の罰を与えるので気をつけるよう!」 総員 『Sir(サー)YesSir(イェッサー)!!』 中井出「うむいい返事だ!では彰利一等!話を開始せよ!     貴様にその時間をくれてやる!」 彰利 「サンキュー・サー!!では二等兵ども!よく聞け!」 悠介 「とりあえず怪談話をするって雰囲気じゃないよな、軍人ノリって」 中井出「まったくだ」 ───……まあそんなこんなで、俺達は寝ることさえ惜しんで今日という日を堪能した。 あぁいや、日付はもう変わってるから今日という日ってのもおかしなもんなんだけど。 でも……あの映像を見れば解る。 晦は本当に危ない戦いをしようとしていて…… ヘタをすれば二度と帰ってはこないんだって。 だからこそ俺達はいつも以上に騒ぎ、 わざわざ晦を呼び寄せるような行動をしてさらに騒いだ。 冥土の土産にしたいわけじゃない。 ただ同じ原中生として、一緒に騒ぎたかっただけだ。 不安が無いって言やぁウソにはなるが……こんなことがあってもいいだろう。 そう思うと、自然と一緒に騒いでいられる気がした。 Next Menu back