───FantasticFantasia-Set60/動き始めた非日常───
【ケース132:晦悠介/火蓋の先にあるもの】 ───早朝。 冷め切らぬ興奮を抱いたまま崩れるように寝入っている原中の猛者どもを見下ろして、 俺と彰利は小さく頷き合った。 悠介 「……疲れたけど、いい休日だったよな」 彰利 「んむ、まったくだ」 小さな苦笑が漏れる。 苦笑といっても嫌な気はまったくする無くて、 この休息をこいつらと一緒にとったことをむしろ喜んでの苦笑だった。 中井出「うぅ……マスター、俺カフェオレで……」 藍田 「お、俺は……むにゅふ……ダッチコーヒーで……」 島田 「俺もダッチ……」 灯村 「斜め左に同じ……」 藍田 「んぐぐ……右に俺が居るんだから……右に同じで……いいだろが……」 中村 「ふぁひゅひゅ……ナイス地獄耳(デビルイヤー)
……」 悠介 「……同じ夢でも見てるのかこいつら」 彰利 「まあ原中生だし」 さらに俺と彰利は笑い合って、静かに広間をあとにする。 顔を洗って歯を磨き、朝食を適当に作って食し、さらに歯を磨いて外に出る。 まだ少しだけ暗いその景色の中をのんびりと歩き、石段をひとつずつ登って神社の境内へ。 そこでは、いつかと同じようにリヴァイアが待っていた。 リヴァ「……もういいのか?まだ陽も上りきっていないのに」 彰利 「ううん、わたしも今来たところだから」 リヴァ「え?あ、いや……なに?」 悠介 「なぁに待ち合わせの王道(女編)をやってるんだよ」 彰利 「いやぁあはははは、一度やってみたかったんじゃよ。みさき先輩の如く」 リヴァ「よく解らないが……いいんだな?」 悠介 「ああ、空界に行こう。一応書置きも創造して置いてきたから心配無い。     むしろ……リヴァイア。お前がいつからここに居たのかが気になる」 彰利 「あ、そういや。リヴァっち?どうなん?」 リヴァ「リヴァっちはやめろって言った筈だが……ああもういい、言っても無駄だ。     ……ここにはさっき来たばっかりだ。     こっちはこっちでいろいろと準備があったからな」 悠介 「準備?」 準備って……なんだ? 彰利 「そうか……俺の誕生日を祝ってくれるのか……ありがとう」 リヴァ「え?あ、いや……誰も誕生日を祝う準備をしているだなんて言ってないが」 彰利 「な、なんだって!?俺を騙したのかてめぇ!!」 悠介 「落ち着け」 ドシュッ! 彰利 「ホギョオウ!?」 暴走一歩手前……つーか既に暴走していた彰利の頚動脈に地獄突きを進呈した。 ……は、よかったんだが……どうにも覚悟がズレた所為で、妙な当たり方になった。 彰利 「おががががが……な、なにすんねん……!」 案の定彰利は予想以上の痛がり方をし、フルフルと震えている。 ほんと……なんというか『ドシュッ』って感じの刺さり方だったし。 悠介 「お前さ、中井出たちとのノリが抜けてないだろ。ちょっとは落ち着け」 彰利 「サー・イェッサー!!」 悠介 「……あのな。言った刹那にそれで返すなよ」 彰利 「ゲッ……!!」 彰利が驚愕のフェイスで応えた。 ……どうやら無意識だったらしい。 まあ俺達もこれで案外、あいつらとの付き合いも長いから。 しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。 ……いや、俺は滅多にやらないぞ? 彰利 「いやぁ〜っははは、しっかし気持ちのいい朝だよね?     こんな日は世界の中心でフーアムアイを叫びたくなるね、うん」 悠介 「いっちょやるか?」 彰利 「おっ?話が解るじゃん悠介。んじゃあ失礼してご神木さまの上で」 悠介 「よし」 俺と彰利は頷き合うと、困惑するリヴァイアを置いて神木へと上る。 やがて頂上へと辿り着くと大きく息を吸った。 ゴォオオオ…… 悠介&彰利『フ〜〜〜ア〜〜〜ムア〜〜〜〜〜〜〜イ!!!!!』 そして両手を広げて絶叫。 まだ早朝の月詠街に我是誰が響き渡り、俺達の心を奇妙に満たしてくれる。 彰利 「クッハァ……!やっぱフーアムアイはいいね〜ィェ。     なんてーのかね?こう……スッキリするよ」 ゴォオオオ…… 悠介 「フ〜〜ア〜〜ムア〜〜〜〜〜イ!!!!」 彰利 「フ〜〜ア〜〜ムア〜〜〜〜〜イ!!!!」 悠介 「フ〜〜〜ア〜〜〜ムア〜〜〜〜〜イ!!!」 彰利 「フゥウウアァアムアァアアーーーイ!!!」 神木の上で叫び続ける。 するとどうだろう、俺の中に少なからず興奮や緊張がどんどんと薄れてゆくじゃないか。 彰利 「……最高だぜ」 隣りでは俺と同じように溜め息を吐く彰利が居た。 やっぱり緊張しないわけもなく、けれどこうして恥もなにも捨て去って叫ぶと…… 案外心は無茶な方向へと流れ、穏やかにはなってくれた。 たとえそれが一時的なものであろうが、心が少し休憩できる瞬間を俺は喜んだ。 悠介   「いくぜ彰利!」 彰利   「おうっ!」 悠介&彰利『クロスチェンジャァアーーーッ!!』 マキィンッ!! 掛け声とともにポーズを取る。 なんの打ち合わせもない動作だったというのに見事に付き合ってくれる彰利は、 やっぱり妙なところで妙な才能を持ってるんじゃなかろうかと苦笑してしまった。 悠介 「……ん。なぁ、彰利」 彰利 「オウヨ?」 悠介 「絶対……生きて帰ろうな!」 彰利 「フッ───当たり前じゃあ!」 言い合って、再び申し合わせたわけでもないのに拳を振り合った。 その瞬間に見た彰利の顔はスッキリした笑顔で、 やがて振り合った拳は互いの拳へとメゴシャアとぶつかり合い─── 彰利 「AAAAAAGHHHHHH(アァアアアアグゥウウウウウ)!!!!!」 悠介 「あ」 彰利の拳がまるでDIOのように砕けた。 しまった……加減するの忘れてた。 彰利 「ば、馬鹿なっ!DIOが!このDIOがぁああああっ!!!!!     って痛ェエエエッ!!!!キ、キミねぇ!ちったぁ加減ってもんをだねぇっ!!」 悠介 「わ、悪いっ!嬉しくてつい……!」 砕けた彰利の手からは折れた黒い骨などが飛び出していて、 さらには黒い血がチューーーと吹き出していた。 しかし筋肉に力を送ると、それらがビッタァ!と治ってしまった。 ……どういう回復能力だよ。 彰利 「ワムウ!」 さらには治った手ともう片方の手を空に向けて構え、叫ぶ彰利。 どうやらカーズの真似をしたかっただけらしい。……ワムウ関係無いな。 けれどもそんな動作のひとつひとつに自分達の今までが存在しているような気がして─── ……気づけば俺は、彰利と目を合わせながら笑っていた。 こんな時だからこそ思う。 『ひとりじゃないっていうのはいいものだ』と。 声  「急かしたりするつもりはないが───そろそろ行かないか」 笑いがやがて溜め息となり、笑みに段落がついた頃にリヴァイアが話し掛けてきた。 リヴァイアが居るのは境内だけど、声を高める必要もなく早朝の晦神社にはよく徹った。 俺と彰利は同時に頷くと神木から飛び降りてリヴァイアのもとへと着地する。 悠介 「悪い、待っててくれたのに勝手に騒ぎ合って」 リヴァ「いいや、わたしの方こそすまない。空界の出来事なんて、     本来は空界人であるわたしたちがなんとかしなければいけなかったんだが」 悠介 「それは言いっこなしだ。     ミルハザードのことは……俺が何をどうする必要もなかった筈なんだ。     こうして俺が空界に向かわない限りは、     ミルハザードだって空界の均衡を続けると思う」 リヴァ「───……」 悠介 「だからこれは俺の我が儘だ。リヴァイアが気にするようなことじゃない」 彰利 「そうそう、悪いのは全部ダーリンよ!このダーリン!ダーリンめが!!」 悠介 「どういう罵り方だよ!!」 そうして、親友としてのくだらなくも顔が緩んでしまう遣り取りが始まった。 けど───リヴァイアはどうしてか、俺達が空界に飛んだあとも辛そうな顔をしていた。 ───……。 ……。 空界、リヴァイア工房。 そこではベリーとルーゼンとバルグのじっちゃんが居て、 魔導を展開しながら何かを行っていた。 さらには、既にその場にはみさおが居て、俺達の顔を見て小さく手を振っている。 ……いつの間に。 リヴァ「みさおなら、お前達が来る少し前に先に来たんでな。     先にこちらに送っておいたんだ」 悠介 「……そか」 訊くまでもなくリヴァイアは答える。 その声は───なんというか、無駄な時間の一切を省こうとするような言い方だった。 けどそれはおかしい。 今この時点、これからの出来事で時間の概念すら忘れるようなことをするのは俺くらいだ。 だっていうのに、どうしてリヴァイアが時間を惜しむ必要があるんだろう。 悠介 「………」 ……考えてみたところで解りはしなかった。 彰利 「そんで?リヴァっちたちはなにやっとるん?」 リヴァ「……いろいろだ。説明すると長くなる、あまり気にするな」 彰利 「あらそうお?」 リヴァ「ああ。それから悠介」 悠介 「うん?」 聞こえた声に、みさおの方に向けていた視線をリヴァイアに向ける。 そんな俺にリヴァイアは少し微妙そうな顔をして、だけどしっかりと言った。 リヴァ「……すまない。ミルハザードのことは完全にお前に任せることになるが……」 悠介 「気にするなって。言ったろ?これは俺の我が儘なんだ。     リヴァイアが気にするようなことじゃない。     戦い始めればどうなるかは解らないけど、     少なくとも今は空界のためだとか殺したいからとかそんな理由は無いんだ。     ただ、もういろいろな束縛から解放してやりたい。そう思ってるだけだ」 リヴァ「……一筋縄どころじゃないぞ?この戦いは負けは死にイコールする。     助けられるヤツなんて誰も居ないし、助太刀出来るやつも居やしない。     つまり───本当にお前ひとりで戦うことになるんだ。     だからわたしは逆に訊きたい。お前はどうしてそこまでする?」 悠介 「ん───」 今まで考えてきたことの集大成を述べよ、と言われてる気分だった。 けど、多分答えは決まってるんだと思う。 これから先、誤ることさえなければ俺はその意思を大事にしていけると思うから。 悠介 「ただの我が儘だよ。『あいつを解放してやりたい』っていう」 リヴァ「………」 俺の言葉を聞いたリヴァイアは『とんでもない馬鹿だな』と溜め息を吐いて、 けれど次の瞬間には諦め、または開き直りを思わせるような笑みで笑った。 リヴァ「この世界の命運を任せる、なんてことは言わない。     王だの竜王だののことは一切忘れて、せいぜい盛大な喧嘩をしてこい。     後始末はこっちでやるさ」 悠介 「へ?」 後始末って……じゃあもしかしてここに集まってるやつらって…… リヴァ「体調は万全か?」 悠介 「え?あ、ああ、そりゃあ」 リヴァ「そうか。今現在ミルハザードはフルドブルグ山上空を通過したところだ。     常に移動しているようだから『ここだ』と断定は出来ないが───」 悠介 「なぁリヴァイア。ここに集まっているやつらって全員、     その……後始末をしてくれようとしてるやつらなのか?」 リヴァ「───……そうでもない、いろいろあるんだ。     お前はミルハザードとの戦いを第一に考えていればいい」 悠介 「……そか」 それは……ああ、そうかもしれない。 今から他のことに気を取られているようじゃ、絶対に隙が出る。 恐らくは一瞬の隙でさえ死に繋がる相手だ。 気、引き締めないといけないよな。 残念ではあるけれど、いつまでも楽しかった気分には浸っていられない。 悠介 「……ん」 ゆっくりと体の中に意識を開放してゆく。 黄昏を創造する時にいつもやっていることだが、 逆に言えばそうすることで戦っている時の意識が体を走ってゆく気がする。 黄昏を創造すること自体が戦いの時ばかりだからだろう。 習慣、というかパブロフというか、 条件反射のような反応はこういう時にありがたいと思えるものだ。 悠介 「リヴァイア、ミルハザードが何処に向かっているのか解るか?」 リヴァ「いいや。場所としては確定できない。     戦うのだとしたら、自分から向かった方がいいだろう。     最終的に何処に辿り着くのか解ったものじゃないが、     今のところは南東……アズナトラ地方に向かっている」 南東───か。 よし……! 悠介 「解った、サンキュ」 それだけ解れば十分だ。 ノートは今日、ミルハザードがなにかしらの行動をとると言っていた。 ノートが俺にそう言ったのであれば、それはきっと俺達にとって良くないことだろう。 だったら止めるのは早いに越したことはない。 彰利 「待てぇい貴様ァッ!!」 ───と、リヴァイアの工房から飛び出そうとした俺に待ったをかける存在が居た。 つーか彰利。 彰利 「貴様、よもやひとりで行く気ではあるまいな!?」 悠介 「ひとりで行く気だが」 彰利 「即答!?えーと……あの、悠介くん?     最後に確認したいんだけどさ、キミ、死ぬかもしれんのだよ?     それでも戦うのかね?いったい何がキミをそうまでさせるのかね?     私にも解るよう平明に答えてもらいたいのだがね」 悠介 「馬鹿野郎はほうっておけないんだ、それだけだ」 彰利 「いやしかしですな!このまま親友が危ない道に走るのを笑って見過ごせと!?」 悠介 「微妙に話が逸れてる気がしないでもないが……ああそうだ。     昨日お前が俺に言った質問な、答えは『イエス』だ」 彰利 「へ?質問?」 悠介 「死にかけた相手がお前だったら、どんなことをしたって助ける。     ミルハザードと戦う理由にはならないだろうけど、     馬鹿野郎を救いたいって気持ちにウソは無いってことだよ」 それだけ言うと工房のドアをノックして空界へ繋げる。 彰利が再び何かを言ったが、それさえ無視して俺は飛び出していった。 【ケース133:弦月彰利/モムノフ】 ───悠介が出て行った。 残されたのは静寂と、コクリと頷くリヴァっちたちだけだ。 彰利 「……なんかある、って顔だねこりゃ」 リヴァ「その通りだ検察官。事前にスピリットオブノートに聞いていたことがある。     それをどうにかするには悠介以外の全ての者にここに居てもらう必要があった」 まるでそれが当然だというようにリヴァっちは語る。 でもそれに少しとっかかりを感じた。 そりゃあ俺達が束になってかかってもミルハザードに勝てないのは解ってる。 アレは規格外だ、戦わなくてもそれが解るバケモンだ。 だがだ。 それにしたって悠介ひとりで行かせることになんのためらいもない事実に、 俺は少し心をざわめかせた。 ……もちろん、そんなものはすぐに消滅させたけど。 考えが無かったらリヴァっちだってこんな方法を取らないだろう。 リヴァ「最初に言っておく。ミルハザードが起こした行動とは、     『セシル=エクレイル』を探し当てることだ」 彰利 「セシル?───って……」 何気なくみさおを見下ろす。 いつの間に傍に来たのか、俺の服の袖を小さく摘んでいたみさおは不安げな顔で俯いた。 リヴァ「そうだ。もう解っていることだが、簾翁みさおの前世はセシル=エクレイルだ。     そしてミルハザードはセシル=エクレイルを探している。     ……厄介なことに、モンスターを率いてだ」 彰利 「モンスターを?……ちょっと待った、なんすかそれ。     竜族と人間とモンスターって敵対してるんしょ?     なんだってモンスターがミルハザードに加担するのさ」 リヴァ「モンスターにだって意思がある。死と生を訊ねられれば生を取るのは当然だ。     まして、相手が空界最強を自他ともに認めるミルハザードならばな」 ……どう転んでも死ぬしかないなら、協力するしかないってことか。 気持ちは解らんでもないな。 誇りのために死ぬのもそれぞれだけど、死んだあとには何も残らないんだから。 俺は自分が生きた時代をなんども置き去りにしてる身だから、 その気持ちは自分のことみたいに解るつもりだ。 『生きていれば、きっと何かを変えられる』。 それが俺の場合、悠介の未来だっただけなんだから。 彰利 「それで───俺はなにをすればいい?」 リヴァ「検察官に限らず、それぞれの者にはそれぞれの町や城を守ってもらう。     画面を見てもらえば解ると思うが、     モンスターの反応がそれぞれ町や城へと向かっている。     その全てがみさおを探すためのものであり、     だが敵対している関係のものが訊ねるだけで終わるわけがない」 彰利 「ようするに『みさおは居ねがー!』って訪問するついでに、     町や城をブッ潰す可能性が高いと」 リヴァ「言葉のたとえはどうかと思うが、ああ確かにその通りだ。     モンスターたちも必死だ、     しくじれば自分が死ぬと考えていれば気も高ぶるだろう。     そうなればその矛先が何処に向かうのか───言わなくても解るだろう?」 矛先は人間達に向かうってことか。 いやだね、余裕の無いヤツは。 彰利 「うっしゃ解った。んじゃあどうすればいい?みさおには地界に戻ってもらうか?」 リヴァ「いや───それはやめておいた方がいい。     モンスターの中にも頭のキレるヤツは居る。     もちろん魔術を行使できれば魔導術を行使する者も居る。     空界にみさおが居ないと知れば次元干渉も考えられる。     ゲートが開かれっぱなしになれば当然、     次元干渉が出来るモンスター以外も地界へ飛ぶことになる。     もしそんなことが起きて地界に飛ばれてみろ、地界は一日と経たずに消滅する」 彰利 「あー……軍事力でなんとかならんかね」 リヴァ「銃や大砲でミノタウロスが殺せるか?」 彰利 「………」 絶対無理だ。撃ったところで弾かれるか斬られる。 もしくは撃つ前に全滅。 バカデカい図体のくせに足速いし。 しかも一体や二体の話じゃないんだし。 彰利 「でも一日で、ってのは大げさでは?」 リヴァ「……次元干渉を考えれば、     何処にでも飛べるのはわたしを知っていれば理解は容易いだろ」 彰利 「あっちゃー……」 つまりゲートを開きっぱなしに出来るくらいなんだから、 ゲート広げまくって世界各地を繋げるのなんて容易いと。 リヴァ「だからわたしたちが取る行動は逆だ。     むしろ『みさおは空界に居る』とモンスターどもに教え、その上で戦う」 彰利 「うお……マジすか?」 リヴァ「マジだ。そうすれば少なくとも地界に危険は無い」 うおう……リヴァっちったら大胆な作戦に出ましたな……。 でも確かにそれが一番いいのかもしれん。 彰利 「とまあそういうことじゃけぇのう。     キミは守られる姫っぽく、お粥でも作ってなされ。     そして傷ついた人々にその粥を奨めるんだ、狂おしいほどに」 みさお「姫でどうしてお粥なんですか」 そこんとこだが俺にも解らん。 彰利 「じゃあリヴァっち、俺は何処を守ればいい?」 リヴァ「検察官はみさおと一緒にオーエンを守ってくれ。     わたしとルーゼンとバルグはレファルドを守る。     ファウエルはヤムベリングが守る」 彰利 「他ンところの村や町は?」 リヴァ「正直心許ないが───地界の人物に助力を求めておいた。     そいつらにはユウ───レブロウドを守ってもらう。     城以外の場所にはあまり強いモンスターは向かってなさそうだからなんとかなる」 ……今、ユウスケって言いそうになってたね。 彰利 「ふむ……でも確かに地界人じゃあ心許ないね。     OKだリヴァっち。えーと───フンッ!!」 そういうことなら僕にお任せ! オイラは自分の体と手を黒く染めると、 その手を無造作に体に沈め、必要なものを取り出した。 それは───真っ黒な球体だった。 リヴァ「……?それは?」 彰利 「南無。闇と影と黒で作ったシャドウサーヴァントでござる。     けどまあ強さとかはそのままだからさ、役に立つよ?」 言って球体をゴシャアァンと握りつぶした。 するとその球体から煙が溢れ、それが人のカタチを象ると─── 南無 『マイネームイズ……アイアイムナム!!アイアムナム!!』 一体の骨死神を生成した。 ただこれ使うと物凄く疲れるんだよね、体ダルイです。 つーかマイネームイズって言う意味あったんかね。 南無 『ほねほねほねほねほね!!久しぶりのシャバの空気ほね!!』 彰利 「こやつを地界の……誰が来るか知らんけど、     その人たちの役に立ててやっとくれ?」 リヴァ「……解った。他の町も心配だが、これ以上は手が回らない。     ああ、ただ注意はしておく。     町や城の者が一緒に戦うと言ってきても戦わせないでくれ。     正直、今この世界に居るブレイバーは明らかに力不足だ。     空界に癒しが戻ってからそう時も経っていないのだから当然だが、     それでも魔導術師の方が役に立つ。     攻撃補助を願うなら城や町の中からやらせてくれ」 彰利 「アイヨー」 リヴァ「それじゃあ───各自解散してくれ。健闘を祈る」 南無 『ほね……せっかく久々に出てきたのにみんなして無視かよほね……。     もういいほね!俺は夜華に慰めてもらうほねから!!』 彰利 「あ、夜華さんからは俺と悠介に関する記憶消しといたから、     貴様が俺な限り貴様のことも知らんよ?」 南無 『なんてことしてんだてめぇほね!!』 彰利 「ほっほっほ!せいぜい出会いから始めるじゃな!!     まぁあああ骨なんぞが夜華さんに受け入れてもらえるわけないだろうがね!!     だって夜華さん怖がりだもん!貴様なんかじゃ無理無理!!ムッハァーーッ!!」 そう!骨ごときが夜華さんに受け入れてもらえるわけがありません! だって夜華さんはオイラに関する記憶があればこそ、南無に接してくれたわけだしね。 みさお「…………あの。彰衛門さんもしかして妙なヤキモチ妬いてます?」 彰利 「むっ!?何をどう見ればそう思うのかね!?」 みさお「だってなんだか意地が悪いですよ?     まるで南無さんが篠瀬さんに受け入れられるかもしれない事実に、     少なからず腹を立ててるみたいです」 彰利 「…………」 胸に手を当ててよく考えてみました。 で、返答は─── 彰利 「アイアム雷電だって」 みさお「訳解りませんね」 彰利 「まったくだ」 まあよう解らんし、俺が夜華さんのことを思ってあーだこーだ言うのは今さらか。 やぁねぇ、オイラともあろう者が未練ですか? や、自分が情けない『男』だってのは、今気づいたことなんかじゃないからいいんだけど。 男なら未練のひとつくらい許容だわな、うん。 彰利 「つーわけで……んむ」 カタカタと顎を動かしている南無に影を繋げ、 俺の中にある『篠瀬夜華』への思いの全てを『送信』する。 未練の許容なんてガラじゃないし、いい加減スッキリしたい気持ちもある。 それに……こんな俺の恋人になってくれた粉雪に失礼だ。 だからこれでいい。 俺は粉雪だけを思ってこれからを生きていこう。 彰利 「今度こそ、アディオス夜華さん」 やがて、影が全ての送信を終了する。 俺の中に残る『篠瀬夜華』という人物の情報は既に、ただの知り合いとしてだ。 南無から流れ込んだ恋心なんてものは全て無くなった。 逆に言えばそれ以外は残っているので、 どうしてそこまで気になっていたのかが不思議なくらいだ。 それを考えると思考回路や思いってのは複雑ながらもよく出来ているんだと思う。 彰利 「よっし!行こうかみさおっ!」 みさお「はいっ」 不安ながらも元気な顔を見せるみさおは、多分俺がやったことを全て見ていたんだろう。 それでも健気に笑いかけてくれるその姿に、なんだか少し安心出来た。 彰利 「んじゃあリヴァっち、そっちの健闘も祈るさー」 リヴァ「ああ。死ぬなよ」 彰利 「大丈夫さー。モンスターどもに     これでもかってくらいの後悔の時間を差し上げてくるから心配するなさー」 リヴァ「そうか」 その会話を合図にするかのように各自が解散する。 ───多分、リヴァっちが頼んだ助っ人ってのは俺の知る者たちなんだと思う。 小僧だったり椛だったり、ヨウカンだったりオチットさんだったりと。 でも正直、さっきは夜華さんにだけは来てほしくないなって思ってた。 やー、多分それすらも未練からくるものだったんだろうね。 今ではおなごを危険な目に合わせるわけにはいかないって思考しか回らんけど。 あ、でも夜華さんが来るとなると聖も来るんかな。 それはちと心配だね、パパとしては───って、 こんなところでも未練全開してんじゃねぇやい。 彰利 「あー……俺って自分で思ってるより単純かも」 みさお「あはは、今さらなに言ってるんですか」 彰利 「………」 みさお「?どうかしたんですか?」 彰利 「い、いや、なんでもない……」 ストレートでしたね……。 俺ってそんなに単純男として映ってたのか……。 ───……。 ……。 ───ややあってオーエン城城門前……到!着!! 彰利 「遠き者は耳に聞け!近き者は目にも見よ!!     今より我らは神となり新時代の王となるのだそこんとこヨロシクゥ!!     よっしゃあこれだけ言えれば恥ずかしくない!レッツ復唱!!」 みさお「しませんよ……」 彰利 「なんと!?」 今現在、ようやっと騒がしい町の人々を城ン中に閉じ込めたところです。 まあそりゃね、いきなり 『モンスターが来ますよ!さっさと隠れろ!』って言われたって信じられませんわな。 だから無理矢理押し込めたね、このダンディは。 彰利 「リヴァっちたちは上手くやってるかね」 みさお「彰衛門さんよりかは確実に」 彰利 「ヒドイねキミ……」 これでもオイラ必死だったんですよ? まあやり方だけ取れば、闇に沈めてから城門の中に移動させただけだけどさ。 彰利 「っと……お話はここまでだ。来なすったぜ」 みさお「え───あ」 視線を地平線に向けると、ずっと遠くの方から駆けてくる姿があった。 それも、ひとつやふたつじゃない。 その数の多さが土煙を起こし、それがどんどんと近づいてくるのだ。 彰利 「気ィ緩めんなよみさお〜……!!油断してたらやられましたじゃ済まねぇぞ〜!」 みさお「は、はいっ!」 シェイちゃんと戦った時の緊張感が蘇る気分だった。 願ってるわけでもなく早まる鼓動が息を苦しくさせる。 やがて目前まで迫った土煙を前に駆け出した───!! ジークン「ヘロウ」 ドゴシャシャシャァアアーーーーッ!!!!! みさお 「うひゃああっ!?あ、彰衛門さんっ!?」 ジークン「ギョォッ!?な、何事!?」 ……盛大にヅッコケました。 彰利  「何事!?じゃねぇええーーーーーっ!!!!      か、返せ!!俺の緊張感と早まる鼓動を返せぇええーーーーっ!!!」 ジークン「借りてもいないものを返せるわけねェザマショウ!!      それよりも我ら棒人間、貴様らの助っ人に来たザマス。      我らが来たからにはもう安心ぞ?」 彰利  「いりません!いい子だから帰って集落でも守ってなさい!」 みさお 「お、落ち着いてください彰衛門さん!!なんかお母さん語になってますよ!!」 ───……ジークンらが去っていった。 彰利 「ああ……なんか先行き不安だ……。久しぶりにキリっと行こうと思ったのに……」 みさお「心の底から似合いませんね」 彰利 「どうせシリアスの似合わん男ですよあたしゃあ!!」 みさお「あ……今度こそ来たみたいですよ彰衛門さん!」 彰利 「う、うむ!この鬱憤を怒りに変えて、存分に後悔させて差し上げましょう!!」 向けた視線の先には土煙。 しかし確かにモンスターの姿が確認出来た。 ……良かったって思っていいのか悪いのか。 彰利 「いくぞみさおぉっ!!“戦闘開始(セット)”!!」 みさお「はいっ!!“戦闘開始(セット)”!!」 心の中で火蓋が落ちる。 それとともにその場を真っ黒に染め上げ、一気に駆け出した。 【ケース134:ヤムベリング=ホトマシー/ディスラプター】 ベリー「はぁ……やーれやれ……。なんでわたしが城なんて守らなきゃいけないんだか」 ファウエル城門前で溜め息ひとつ。 うだうだ言うやつはシビレさせてとっとと閉じ込めたからいいけど、 興味の無い対象を守るっていうのは正直やってられない。 でもなぁ、やっとかないと悠介に睨まれるだろうし。 ベリー「あーあ、どうせ守るんだったらクグリューゲルスの方がまだマシよ……。     でもあそこなら守りなんていらないだろうし───」 クグリューゲルスは晦悠介という存在の影響もあってか、 それに追いつこうとする魔導術師が増えたおかげで以前より頼りにはなる筈だ。 あそこに居る講師もなかなか出来る方だし、助力なんて必要無いだろう。 ベリー「この世界がどうなろうと知ったこっちゃないんだけどね……。     ま、悠介に嫌われるのは好ましくないし、仕方ないか」 誰にともなくぼやいて魔導展開をする。 まぁ、いつでもいらっしゃいってやつね、負ける気はさらさら無いし。 ベリー「って……おーおー来た来た。まぁ雑魚が何匹来ようがわたしひとりで十分だわ」 よーするになるようにしかならないってこと。 ケセラセラってやつね。 ベリー「んじゃ、いっちょハデにブッ潰しますかぁ」 ウェルドゥーンの赤い魔女と言われたわたしの実力、とくと思い知らせてあげましょ。 【ケース135:カルナ=ナナクサ/やってられないこと】 声  《伝えるのは以上だ。気を抜くな》 カルナ「……解った。“切断(カティング)”」 リヴァイアからの通信を切断した。 先日の内に繋げてもらった送話だけど、どうにも慣れない。 とはいえ…… カルナ「はぁ、まいったな」 モンスターが攻めてくるかもしれないからそれに備えろ、か。 そりゃあそこいらのモンスターには負ける気はしないが、多勢無勢は否めない。 それに、子供達には俺が戦っているところなんて見せたくない。 一応それらしいことを言って中の方に引っ込んでもらってはあるが、 子供たちがそれをずっと守っていてくれるかどうか。 かといって雷の聖堂に入ってもらってたんじゃ、迷う可能性が高い。 だから普通に城門の内側に閉じ込めたわけだけど……心配ってことには変わりは無い。 妙な好奇心なんて出さなければいいけど。 カルナ「言ってても始まらないな。……それに、敵さんもおでましのようだ」 見えてきた影に溜め息ひとつをこぼした。 次いで指をパチンと鳴らし、 まるでマッチやライターでも点火するかのように人差し指の上に火を灯す。 カルナ「このエデンを傷つけるヤツは誰であろうと許さない───“着火(イグニス)”!!」 胸の前の虚空に静止させた火種を両の拳を弾き合わせるように潰した。 そうすることで両手に巨大な炎が生まれ、体に式の反応が行き渡った。 ───敵さんはもう目前だ。 数はハンパじゃないが、それでもこの門の先に行かせはしない───!! 【ケース136:篠瀬夜華/奇妙奇天烈男】 夜華 「……解った。ここを、守ればいいんだな?」 声  《ああ。どのような手段を用いたって構わない。死なない程度に頑張ってくれ》 夜華 「………」 『つうしん』とやらは一方的に切られた。 正直どうして自分がこんな状況にあるのかが解らないが、 言ってしまえばあの女の『力を貸してほしい』という言葉の真剣さに打たれた、 としか言いようがない。 聖  「ママ……大丈夫?」 夜華 「ああ。不安が無いといえば嘘にはなる」 頼まれたことは『もんすたー』とやらと戦えというものだった。 もんすたー……物の怪の類のことを指すらしいが、 わたしは昔からそういったものの話が苦手だった。 ただでさえ住んでいた町にはよくない噂があり─── 昔、あの町があった場所で大量惨殺があったと聞いていた。 その所為か物の怪の類が出現したことも確かにあり、 そもそもわたしはあの町に着く前に物の怪と遭遇している。 そんな危ないところを『■■■』に助けられ─── 夜華 「…………?」 ……なんだ? 襲われ、助けられた場面はこんなにも鮮明に思い出せるのに、 助けてくれた者の姿と名前が出てこない。 何者かと背中合わせにして、名前を聞いた記憶さえあるというのに─── 聖  「ママ……?」 夜華 「あ……あ、いや……」 最近はこんなことばかりだ。 まるで自分の中から何か決定的なものが抜け落ちてしまったかのような感覚。 もし本当に抜け落ちてしまっているのだとしたら、 わたしはいったい何を落としてしまったんだろうか。 原点に戻ってみれば、わたしが『かんぱに』の者や聖に会ったことでさえ、 誰かの存在があったからこそ成立したものだって解っている。 だがその『誰か』がわたしの中には存在しない。 それは聖も同じようで、お互いの心内を語り合った際には驚いたものだ。 もちろん鮠鷹や楓さまに訊いてみたところで返された言葉は同じ。 鮠鷹は『集団記憶喪失にでもなったのかな』と言っていたが、 どんな言葉を出されても自分を納得させられるだけの説得力は存在していなかった。 夜華 「なぁ聖。わたしは───」 声  『───ほねぇええええええええぃああぁあああああーーーーーっ!!!!!』 シュゴォオオオオオオオオッ!!ガションッ!ガショションッ!! 骨  『スーパー白骨セカンドツーダッシュ!デュアルレベル99発進!!』 夜華 「………」 聖  「………」 ……突然のことでどう反応していいのか解らなかった。 ともかく現状を説明するならば、空から骨が降ってきた。 それも喋る骨だ。 骨  『ほ〜ねほねほねほねほね!!夜華さん久しぶりほね!!     もう愛してるほね!結婚してほね!!』 夜華 「だ、誰だ貴様は!!」 骨  『ほねぇっ!!?』 言葉と、少々の恐怖とともに刀に手を当てると─── 骨が心底驚いたというふうに顎を大きく開いた。 骨  『だ……誰って……ほ、ほねねねね……!!     夜華さん……そりゃないよ夜華さん……!     所詮この南無は夜華さんにとって、弦月彰利の影でしかなかったほね……?』 夜華 「……ゆみ───?あぐっ!?」 ざっくりと胸を斬られるような痛みが走った。 『ゆみはりあきとし』───その言葉が嫌ってくらいに胸を締め付ける。 なんだこれは……こんな感覚、今まで味わったことなど─── 骨  『えーとそれでは仕方ねぇほね、自己紹介からいこうほね。     手っ取り早く済ませちまおうほねね?アイアムナム!!アイアムナム!!』 聖  「……ナム、さん?」 骨  『フルネームは天空×字=南無って言うほね。     これでも貴様らとは会ったことがあるほねよ?』 夜華 「───!?そうなのかっ!?だったら───だったら教えてくれ!」 骨  「ほねっ!?何をほね!?     いきなり教えろだなんて言われても解らねぇほねよ!?バカかてめぇほね!!」 夜華 「なっ───だ、誰が馬鹿だ!!貴様わたしを侮辱する気か!?」 骨  『貴様だってアイアムナムを侮辱しているほねよ!?     弦月彰利は弦月彰利、俺は俺ほね!!それが何故解らないほね!?』 夜華 「ぐっ───」 まただ。 その言葉───名前、だろうか。 それを聞いただけでこんなにも苦しい。 辛い思いと嬉しい思いが混ざったような、そんな感情が溢れ出す。 だというのにその正体がまるで浮かんでこないのがこんなにも苦しい。 だがだ───その名前を平気で口にするこの骨は、 この焦燥にも似た感情の正体を知っているに違いない。 夜華 「答えろ貴様!!この感情の正体は───」 骨  『アイアムナム!!』 夜華 「あいあむ───!?なんだそれは!わたしはこの感情の───」 骨  『ナム!!アイアムナム!!』 夜華 「訳の解らないことを言うな貴様!!」 骨  『アイアムナム!!アイアムナム!!!』 夜華 「〜〜〜……なにが言いたいんだ貴様ぁっ!!」 骨  『だから南無だって言ってるでしょうほね!?     俺は【貴様】じゃなくて【南無】ほねよ!!アイアムナム!!』 夜華 「黙れ貴様!!まずわたしの質問に答えろ!!」 骨  『だぁあからほね!!俺ゃ貴様じゃなくて南無ほねよ!!     頭あったけぇのかてめぇほね!!これだから肉付きは困るほね!     もっと素直なココロと体でぶつかるほねよ!!     よくココロを裸にするって言うほねでしょう!?     それと同じで身も骨にするほね!!     そうすればめくるめく愛のロードが開けること請け合いほね!!』 夜華 「訳の解らないことを言うなと言ったし、     まずわたしの質問に答えろと言った筈だ!!     答えろ!わたしのこの感情の正体はなんなんだ!!」 わたしはいい加減我慢の限界を訴えるかのように声を高くした。 だが骨はそんな一方的な感情に驚くこともせずにコカカカカと顎を高速で動かした。 骨  『夜華ちゃん、それは恋心というものほね』 夜華 「……鯉?」 骨  『そうほね。     夜華ちゃんは今まさに魚に進化しようとしているほね───って違うほね!!』 夜華 「違うだと……?今さっき『そうだ』と言ったばかりだろう!」 骨  『【今】なの【さっき】なのどっちなの!!ほね!』 夜華 「今さっきは今さっきだ!!」 骨  『オイオイ逆ギレかよほね……これだから肉付きは困るほねねぇ……。     チミ、もう少しカルシウム取ったほうがいいほねよ?     さあ!ぼくの肋骨をお食べよ!!』 言って、骨は自分の肋骨を『ばぎぃっ!』と折り、わたしに差し出してきた。 折った瞬間『ほねぇええいやぁあああーーーーーーっ!!!!』と痛そうに叫んだが─── もちろんわたしは丁重にお断りした。 骨  『ひでぇほね!せっかくカルシウム不足を心配して骨を差し上げたというのにほね!     すげぇ痛かったほねよ!?どうしてくれるほね!』 夜華 「そんなこと、わたしに言われたって知るか!!貴様が勝手にやったことだろう!」 骨  『ほ〜ねほねほねほねほね、だがそれは貴様のカルシウム不足が招いたことほね。     全ては夜華ちゃんが怒りっぽいからこんなことになったほねよ?     だからこの痛恨の痛みをなんとかしてほね夜華ちゃん……』 夜華 「やっ……夜華ちゃんと言うな!!」 顔が灼熱するのを感じる。 どうしてこんなにもこの骨に翻弄されてしまうのか。 嫌だったら無視をする方法だってあるだろうに、 どうしても突っかかってしまう自分が居た。 聖  「ママ……なんだか楽しそう」 夜華 「なぁっ!?な、ななななにを言うんだ聖!!     わたっ……わた、わたしは楽しんでなどいない!」 骨  「夜華ちゃんたら……そんなにも俺と一緒に居るのが嬉しかったのかほね……」 ケショリ。 夜華 「ひあぁっ!?」 ひやりとした感触がわたしの手を掴む。 すぐに目を向けてみれば、骨がわたしの手を取って跪き、 手の甲にごつごつとした歯と顎骨を押し付けてきた。 夜華 「ぞわゎわわわゎゎああああああーーーーーーーーーっ!!!!!!」 骨  『親愛の証にチッス進呈ほね。ドキドキしたほね?』 夜華 「こっ───この痴れ者がぁああーーーーーーーーっ!!!!!!」 顔の灼熱とともに極自然に体が動いた。 腰に備えてあった刀を鞘ごと抜き、腰の回転とともに一気に繰り出す。 コパキャァアーーーーンッ!!!! 骨  『ほねぇえええーーーーーーっ!!!!』 繰り出した『飛燕龍-凪-』は狂うことなく的確に骨の頭骨を吹き飛ばした。 だがそれは途中で消え、次の瞬間には空から降ってきて首骨と合体した。 骨  『いきなりなにをすのかねほね……我輩びっくりしたほねよ……。     うお、やっぱりだめほね。自分のことを【我輩】だなんて、出ュ浮みたいほね。     骨ともあろうものが、ついうっかり……ポリスじゃなくてもうっかりほね』 何を言っているのかは解らないが、 わたしは常に持ち歩いている和紙で骨が触れた部分を拭った。 骨  『ほねっ!?なにをするほね!親愛を拭い捨てるとはなにごとかほね!!』 夜華 「だだ黙れ!!そんなことよりわたしの質問に───」 骨  『ほねっ!?夜華ちゃん敵だほね!敵が攻めてきたほね!!     ───敵だ!みんな油断するな!?ほね!』 夜華 「なっ……くそ!こんな時に───!!」 やっとこのよく解らない感情の答えが見つかると思ったのに、何故こう邪魔が入る───! 夜華 「おい貴様!」 骨  『貴様違うほね!南無!アイアムナム!!アイアムナム!!』 夜華 「くっ……だったら南無!この戦いが終わった時には全て吐いてもらうぞ!」 南無 『ほ、骨の俺に何を吐けっていうほね!?生憎と胃袋も臓物も無いほねよ!?』 夜華 「そういう意味で言ったわけでは───くあっ!?」 間近まで迫っていた物の怪の攻撃が頬を掠めた。 くそっ……今は四の五の言っている場合ではない。 夜華 「聖いくぞ!怪我をしないよう注意しろ!」 聖  「はいママッ!」 南無 『ほねほねほねほねほね!!俺も頑張っちゃうほねよ!?     さあ久しぶりに目覚めろほね!“冥府誘う深淵の災い(ハデスディザスター)”!!』 骨……南無は高らかに笑うと、ボロボロの黒マントから大きな鎌を取り出した。 そしてそれを横凪に一閃すると───ビジュンッ!ズガガガガガァアアアンッ!!!! 夜華 「なっ……」 聖  「……!」 その場に居た物の怪の大半が塵と化してしまった。 南無 『ほ〜ねほねほねほね!!俺の腕もまだまだ鈍ってないほね!!     やっぱり攻撃一辺倒っていったらダークイーターほねよねぇ〜っ!!     もうフレイアちゃんたらステキほね〜ぃ!!』 夜華 「……貴様、何者だ?」 南無 『骨ほね』 夜華 「ただの骨が動けるわけがないだろう、どういうことだ」 南無 『尋問は相手がとてつもなく偉そうだから嫌いほね。     だからこれくらいにしとこうほね?』 夜華 「断る。大体何故わたしたちに加担する。     まずはそれを説明してもらわなければ───」 南無 『ややっ!ほね!再び敵が来たほね!     これは話なんぞしてる場合じゃねぇほねなぁ〜〜っ!!』 夜華 「なにっ!?貴様逃げる気か!!」 南無 『そうほね!』 夜華 「なっ……!」 骨はあっさりと逃走宣言をし、会話から逃げ出した。 だがしっかりと物の怪と戦う姿からするに、どういうわけかわたしたちへの殺意は無い。 ……どうなっているんだ、解らないことだらけだ。 聖  「……ママ」 夜華 「……解っている、何も言うな」 そう、今は悩んでいる場合ではない。 子の世話のために動けない楓さまに、くれぐれもと頼まれたことだ。 今さら四の五の言ってどうなるものでもない。 わたしは静かに刀を腰に差すと、物の怪へと疾駆した。 恐らく、わたし如きでは敵わないであろう相手へ向かって。 【ケース137:晦悠介/そして、死闘へ】 ゴォッ───ォオオオオオウゥンッ!!! 黒竜王『───!……』 悠介 「久しぶり、って言えばいいか?」 何処ともとれない大空の果て、俺とそいつは再び対面した。 その表情はおかしなものを見たというもので、 まるで俺の存在が信じられないと断言するかのようなものだった。 黒竜王『生きていたのか、貴様……』 悠介 「いろいろな犠牲の上でだけどな」 いろいろな犠牲っていうのは言うまでもなく自分が竜に近づきすぎたことだ。 黒竜王『だが懲りることもなく我の前に現れた、ということは───』 悠介 「……セシル=エクレイルからの伝言だ。     黒に飲まれようとしてる幼馴染を解放してやってくれ、だとさ」 黒竜王『───フン、それを聞いて安心した。     まだセシルは空界に居るということだからな。     以前の戦いで何も学んでいないのだとしたらとんだお笑い草だ。     貴様ごときが我を止められると本気で思っているのか?』 悠介 「止める気なんてさらさら無い。ただ───お前はもう眠れ。     この世界にはもう力で抑える均衡なんて必要無い。     だから……いい加減もう休め。お前はもう立派に均衡を守り続けただろう」 黒竜王『フン、小僧が一端の口を叩く……。     死ぬ覚悟は出来ているんだろうな』 悠介 「死ぬ覚悟か。それならもう何度かしたな。     もちろんただで死ぬ覚悟なんか、一度たりともしなかったけど」 黒竜王『言うだけなら容易いな───では今すぐ消えろ!』 飛翼が大きく開かれる。 意識が数瞬そちらに向かった刹那、 強烈な咆哮とともに巨大な口から極光が放たれた───!! 悠介 「っ───いきなり遠慮無しかっ!!」 放たれた極光に、すぐさま手に持っていたヴィジャヤを奔らせる。 そうすると、嘗めて加減されたものだったのか、 予想以上にあっさりと極光は虚空の彼方へと弾かれた。 黒竜王『ほう。この短期間でどのような鍛錬を積んだのかは知らんが、なかなかやる』 悠介 「つぅ……!そりゃどうも……!」 だが、あっさりとはいえその威力は確かなものだった。 見れば手が薄く焦げ、ブスブスと煙を上げていた。 さらに言えば皮膚が焼け爛れたためか、 その皮膚の下からは竜の鱗めいたものが見え隠れしている。 俺はその事実に、少なからず動揺した。 黒竜王『呆けている場合か!?』 悠介 「───!」 聞こえた声にハッとする。 だが視線を手から離した時には既に時遅し。 眼前に迫る巨大な尾撃は容赦なく俺の体を打ち砕き、 遥かなる広大な台地に鮮血の雨を降らせた。 Next Menu back