───FantasticFantasia-Set62/真意。混沌に迫る空界───
【142:晦悠介/ブレードアーチ】 ───……ゴコッ……メキ、キッ……! 悠介 「がっ……は、あ……っ!!」 めり込んだ岩肌から体を掘り起こすように立ち上がる。 あの高さから勢いよく吹き飛ばされて立ち上がれるなら上出来だろう。 悠介 「くっそ……“戦闘開始(セット)
”」 まだ唱えてもいなかった戦闘開始を唱える。 と、屠竜剣の柄に装飾として埋め込んだプレートがチキキと輝く。 それがきっかけとなり、俺の意識も研ぎ澄まされる。 不思議なものだ───この空界で戦ってきて、 一番神経が研ぎ澄まされる時っていうのは……いつでもセットを唱えた時だった。 悠介 「“ヒール”……」 遥か上空に居るミルハザードを見上げながら、尾撃によるダメージを回復させる。 ミルハザードは完全に俺を見下した態度でゆっくりと降下してくると、 その途中で翼の羽ばたきを止め、落下するように着地した。 当然その巨体が『トンッ』などという小さな着地をするわけもなく、 轟音とともに周りの景色はミルハザードの大きさの分だけクレーターを作った。 黒竜王『あれくらい避けてもらわねば面白みが無いんだが?     貴様、よもやそれしきの実力で我に勝てるつもりか』 悠介 「知らん」 黒竜王『なに……?』 悠介 「勝つために来たんじゃない。開放するために来た。     お前にとってはどうでもいいことかもしれないが、     戦いの意味を履き違われるのは心外だ」 黒竜王『……フン、確かにどうでもいいことだ。     それで、どうするのだ?貴様の実力は我には到底及ばない。     それでも戦うか?抗うか?勝てぬと知ってなお立ち向かうか』 悠介 「………」 黒竜王『───?』 小さく溜め息を吐くと頭を掻いてミルハザードを睨みつけた。 悠介 「……覚悟なら散々決めてきた。戦う、抗う、勝てぬと知って立ち向かう。     結構じゃないか。それが強者の周りをこまごまと駆け回る弱者の姿でも、     俺はそれでも逃げ出さないそいつにこそ共感する。だから言ってやる」 ヴオンッ─── 悠介 「───寝言は寝て言え」 ドォッガァアアアアアンッ!!!! 黒竜王『───ッ……!!』 振り上げ、振り下ろしたヴィジャヤの石突きが、砕けた岩肌をさらに破壊した。 黒竜王『……雰囲気が変わった。貴様、なにをした』 悠介 「べつに。ただ気を引き締めただけだ」 精霊たちや召喚獣や飛竜たちに言わせれば、戦闘に入った俺は雰囲気が変わるそうだ。 それが“戦闘開始(セット)”を唱えたからか、 武器を手にしたからかどうかはこの際どうだっていい。 今必要なことは、目の前のこいつをコテンパンにブチのめすことだけだ。 敵わないからとか強すぎるからとかはこの際どうでもいい。 リヴァイアたちに迷惑をかけることになっているなんてこと、 工房に居たあいつらを見れば解ることだった。 だから俺は俺に出来ることを精一杯、全力でやりとおすだけだ。 つまり───敵わなかろうがどうだろうが、俺の体が動くまでこの馬鹿野郎をブチノメす。 ───殺すことが目的じゃない。 こいつに、もうこの世界には均衡なんて必要じゃないってことを解らせてやればいい。 もちろん全力中の全力でいくのだから、互いの命などいつだって保障出来ない。 だが実力が伴わなければ死んでしまうのは向かい合った時点での結果論だ。 今はそんなものは必要じゃない。 悠介 「───一応、最初に訊いておく。姿はそのままでいいのか?」 黒竜王『無論だ。貴様ごときに心配される筋合いなど無い。     存分に狙い撃て。貴様の好きなデカい的だぞ』 悠介 「……そっか。それ聞いて安心した」 最初から手加減するつもりなんて無い。 ミルハザードにとってのこの戦いがどんなものかなんて知らないが、 俺にしてみれば命懸け以上の死と隣り合わせの戦いだ。 手段なんて選ばないし、そもそも選ぶ必要もない。 悠介 「“インビジブル”解除。汝ら、その数をひと束とし、より強靭なる者へと至れ」 インビジブルを解除し、その場に姿を現した召喚獣に月癒力の融合を浴びせる。 召喚獣はその全てを融合し、より強力なバハムートへ変わる。 既に飛竜たちはここに辿り着く前に融合させてある。 ジハードを加えることで、より強力な飛竜へと変わってくれている。 精霊たちはノートとニーディアとニンフ以外この場に居ないが、なるようになるだろう。 黒竜王『融合召喚獣か。以前は中々梃子摺らされたがな。     今さらそんな力が強いだけのウスノロの攻撃を食らうと思うか?』 悠介 「俺はお前じゃないからそんなことは知らない。     案外こまごまと口うるさいんだな、黒竜王さんよ」 黒竜王『チッ───小僧が!』 本当は予想くらいついている。 こいつにはバハムートの攻撃は当たらないだろう。 けど、個々として召喚しているよりはバハムートとして召喚してあったほうが、 召喚獣たちの危険は少ないということを見越しての融合だ。 それはもちろん飛竜たちにも言えたこと。 傷つくのは……俺だけでいい。 悠介 「───……はぁ。───いくぞディル!」 ディル『応ッ!!』 大きく息を吸い、吐いてから突撃を開始した。 俺はディルの背に乗り、ディルはミルハザード目掛けて飛翔。 ジハードとの融合をも混ぜたその速度は今までの比ではなく、 一瞬にして間合いは詰められた。 黒竜王『フンッ!速さだけが自慢か!』 悠介 「“紫電を放つ雷神の槍(ヴィジャヤ)”!!」 驚くべき反応速度で振るわれる尾撃に向け、唱えた言とともにヴィジャヤを振るう。  ヒュオッ───ギャリィインッ!! 黒竜王『グッ……!?』 悠介 「ッ───」 唱えた刹那に紫電を唸らせたソレは、ミルハザードの硬い鱗を確かに削った。 だがこちらも無事では済まない。 想像以上に勢いよく振られた尾撃の衝撃はとてつもなく、 槍を掴んでいた手が勢いに持っていかれ、手の皮が部分的に裂けてしまった。 悠介 「っ……双方削るだけかよ……どういう鱗だ……!」 ディル『ミルハザード相手に攻撃の衝突など無謀だぞ王よ!     攻撃は出来るだけ避け、隙をついて攻撃しろ!』 悠介 「ああ、解ってる!解っちゃいるが───」 イメージトレーニングを根本から覆す力を相手が持っていた場合、 イメージトレーニングなんてものは無駄に終わるだけだ。 それを、たった今この場で知った気分だ。 けど止まらない。 実力に差があるからって退いたりなんかしない。 悠介   「バハムート!」 バハムート『ギシャァアアアアアォオンッ!!!!』 俺の声に、今まで待機していたバハムートが喉を唸らせる。 首を下から上へ回転させるように持ち上げる動作とともに、 その体へと空気中のマナが吸収されてゆく。 以前のバハムートには無かった動作だ。 恐らく───ゾーンイーターの存在が追加された今、 大気中のマナを『吸収』して放つ能力が付加されたんだろう。 だがそれを見たミルハザードは鼻で笑うようにして言った。 黒竜王『言った筈だ。デカいだけの存在の攻撃など当たりはしない』 悠介 「だったら当たるように動きを止めるだけだ!ディル!」 ディル『解っているぞ王よ!』 せせら笑うミルハザードへディルゼイルを向かわせ、俺は大地を疾駆した。 ディル『ルォオオオオオオオオオオオオッ!!!!』 コォアガガァッチュゥウウウウウンッ!!! ディルゼイルの口から黒紫色のレーザーが放たれる。 だがミルハザードはそれを飛翔で避けてみせ、駆けてきていた俺を見て笑う。 ここまでは予想通りだ───! 黒竜王『……?なにがおかしい───』 悠介 「LuminousDestory(至光にて万物を砕かん)───Fill agains Fill. Sword of SupremeRuler(満たし、更に満たせ。その意が覇王の剣と化するまで)───!!」 黒竜王『なに……?───!』 悠介 「“魔導(エクス)ッ……極光剣(カリバ)ァアアアーーーーッ”!!!!」 ギヒィィイイイイイイイインッ!! 避けるためだけの小さな飛翔をしたミルハザードを、眩い極光が狙い打つ───!! ミルハザードは明らかな驚愕をその目に映し、 だが瞬時に今一度飛翼をはためかせる。 悠介 「させるかよっ!“風神息吹(ゴッドブレス)”!」 だがそれも予想していたことだ。 俺はミルハザードの頭上に風魔法であるゴッドブレスを発動させ、 その風圧でミルハザードの飛翔を潰した。 黒竜王『魔法だと───!?貴様!!』 響く咆哮。 だが次の瞬間───エクスカリバ−に飛翼を削られた瞬間には、 その咆哮は絶叫へと変わっていた。 黒竜王『グォオオオオオオオッ!!!』 飛翼が千切れたわけじゃない。 だが動かそうとしていた翼が傷つけられる痛みは相当なものなのだろう。 ミルハザードは落下こそしなかったものの、大きくバランスを崩した。 そこへ─── 悠介 「フラついてる暇なんて無いんじゃないか?」 黒竜王『なんだと!?───!!』 ミルハザードが鋭い眼光で俺を射抜く───が、それも一瞬のこと。 マナを吸収し、その身に輝きを纏ったバハムートを見て、 ミルハザードは明らかに驚愕した。 悠介 「屠り散れ大気!!“ディバインフレア()”!!」 黒竜王『───〜〜〜ッ!!』 刹那の幕間から先の音が消滅した。 耳が音を感知することを嫌い、 だが目の前で放たれた極光は大気さえ破壊しながらミルハザードへ襲い掛かる。 ミルハザードはなにかを叫び、飛翼をはためかせようとしたが間に合わない。 どう考えてもあの巨体では消滅する以外に道は無いだろう。  ───そう。あの巨体では、だ。 ギシャァォンッ!!! 悠介 「───ッ……」 ようやく耳が感知できるくらいの音が景色の果てに消え、やがて霧散する。 その先には“黒竜”の姿は無かったが─── ゼット「ッ……晦……悠介ぇええ……!!」 代わりに、ゼットという人の姿をした存在が浮遊していた。 俺が蒼竜王と戦った時と同じ方法でゼットもレーザーをかわしたのだろう。 もっとも、俺の場合は猫になってかわしたわけだが。 悠介 「なんだ、もう竜の姿は終わりなのか?」 ゼット「───……チッ。嘗めてかかったことは素直に認めよう。     が───それだけだ。俺に勝てないと言ったことは曲がりようが無い事実だ!」 悠介 「そうだな。けど、俺や彰利はずっと『決まっていること』に抗って生きてきた。     だから俺もまた、その『決まっていること』を破壊するだけだよ。     それに俺にとってのこの戦いは勝ち負けの問題じゃない。     あんたを解放できるか出来ないかの問題だ」 ゼット「まだほざくかよ。貴様ごときに俺が生きた三千年の歴史は覆せやしない。     ───教えてやるよ。努力だけじゃあどうにもならない絶望があるって事実を」 悠介 「狭界の中で生きようとしたのはお前自身の『努力』じゃないのか?     目の前で味わった絶望のためなんかに生きた意味を捨てようとするなよたわけ」 ゼット「チッ……ほざけ!!」 ゼットの体が変貌する。 人の姿だったソレは竜人のものとなり、生えた角と飛翼がその存在の意味を証明する。 そう、即ち─── ゼット「俺の目的のために貴様が邪魔だ!!今ここで滅びろ───晦!!」 その姿の意など、そこにのみ終着するのだ。 悠介 「───ディル!」 ディル『承知!』 合図を送ると、ディルゼイルが俺の傍に降りてきて、 そのまま屠竜剣に嵌っている皇竜珠の中へと消えてゆく。 次に俺は賢者の石を媒介に屠竜剣とヴィジャヤの在り方を書き換え、融合させて構えた。 ゼット「───……面白いことをするな。剣と槍を融合させたのか?」 そう。 根源レベルから書き換えて融合させた故に、二度と解除されることはない。 けどその代わりに、いつでも槍か剣かに変化させることが可能だ。 『そうなるように書き換えた』のだから。 故にこの剣は剣でありながら槍。 雷迅槍でありながら屠竜の力を持つ最大の武器に変わったのだ。 悠介 「いくぞ、ゼット。全力で───あんたを止めてみせる」 ゼット「その夢事、貴様の死を以って塵と砕く。     再び俺の前に立ったことを後悔させてやるよ」 ゼットの腕が再び無骨な剣へと変貌する。 気をつけるべきはその鋭さと、口から放たれる極光だ。 それだけは身を以って知ったことだ、理解に至るには十分すぎる。 ゼット「消えろ───!!」 ガォンッ!!───まるで空気を斬り裂くような勢いで飛翔するゼット。 離れていた間合いなど最初から無かったかのように潰れ、 竜人は既に目の前に来て───大地に立つ俺へと無骨な剣を振り下ろしていた。 悠介 「っ───」  ジギィンッ!!ギシィッ!バギィンッ!! 一度弾いただけではその勢いは止まらない。 矢継ぎ早に振るわれる数閃は一撃一撃が性質の悪い削岩機のようで、 受け止めた剣から腕にかけて相当な重力と衝撃を残してゆく。 だがそれも以前ほどではない。 既に以前の倍以上の連撃を弾いてなお、 武器を落としてしまうなんて事態には至らなかった。 悠介 (───よし!これなら───!)  ヒュオッ───パギィンッ!! ゼット「───……!?」 振り上げた屠竜剣がゼットの剣を跳ね上げた。 その事態が不自然でならなかったのかゼットは数瞬の間だけ驚愕に飲み込まれる。 悠介 「今───!!」 もちろんその隙を逃す手は無い。 一瞬にして体の奥底から神魔竜人を引き出した俺は全力を以って屠竜剣を握り、 今だ驚愕から冷めないゼットへと振り下ろした。  ガギャシャァアッ!! ゼット「ギ───ア……!?」 次の瞬間、ゼットの左肩から右脇腹にかけての部位が鮮血の一線に染まる。 硬い鱗と肉が裂ける音は鉱石を砕く音さながら。 噴き出した血は大地へと降り注ぎ─── そうなってみて初めて、ゼットは自分が斬られたことに気づいた。 ゼット「キサマ───ァアアアッ!!」  バシャアッ!! 悠介 「ぐっ───づ……!!」 弾かれたことで天へと掲げられていた無骨な剣が馬鹿げた速度で落とされた。 反応しきれなかった俺の肩から脇腹にかけての部位も刻まれ、鮮血が飛び散る。 ゼット「殺す!もはや死んだことを後悔する時間すら与えん!刹那にくたばれ!!」 悠介 「馬鹿言え───そう簡単に負けられるか!!」 吼えた言葉とともに剣がぶつかり合う。 言葉を放ったのが先なのか、剣がぶつかり合ったのかが先なのか。 もはやそんなことを考えている暇さえないくらいの速度で、互いが互いに剣を振るう。 弾かれれば弾き、削がれれば削ぎ。 一対の剣閃の軌跡が消える前に次の軌跡が閃きを描くその様はまるで動く絵画。 見る者が見れば美しいとさえ思えるアーチが幾重にも重ねられ、 その度にその絵画を鮮血が彩り、火花が飾り尽くす。 絵画を飾るのは小気味の良い剣戟の高鳴りであり、時に肉を削ぐ音である。 その刹那では放たれた咆哮さえ彩と化し、痛みによる苦痛の声さえ美しい音色に変わる。 ゼット「ツゴモリィイイイイイッ!!!」 悠介 「ゼットォオオオオオオッ!!!」 一対のアーチは終わらない。 蒼空に火花を舞わせ、裂帛の咆哮に霧と化される鮮血を舞わせてなお沈まない。 リズムもなにもない剣戟は絶えることなく続き、 時に紫電を、時に極光を空へと舞わせて描かれ続ける。 互いの息遣いさえ裕と聞こえると集中力と、切羽無き剣戟の嵐。 矛盾さえ矛盾であると断ずるその集中は肉を削がれた程度では潰えない。  ゴォッ───ガシャァンッ!!  ヴオッ───ガカッキィイイインッ!!!! 悠介 「づっ───」 ゼット「はぁああ───!!」 が───一見対等に見えるその戦はしかし、対等では無い。 少しずつ、だが確かに俺の方が押されている。 それは何故か? それは───俺が既に神魔竜人を解いているからだ。 そしてゼットもまた、実力を隠して嘲笑っている。 『貴様では俺には勝てない』 その意を込めた連撃を何度も叩き込まれているんだ、解らない方がおかしい。 けど、それでも俺は全力を出せない。 それは、今が時と思う数瞬しか許されない行動だ。 竜人の力が体に馴染んだ今だからこそ、無闇矢鱈と神魔竜人状態を継続すれば理性を失う。 だが神魔竜人無しでゼットに勝てるのかと言ったら、断じて否だ。 慢心の塊のようなこいつだが、それに見合った実力を確かに持っているのだ。 癪だけど、確かにノートの言う通りだ。 俺の力じゃあこいつには敵わない。 ゼット「ウェアアッ!!」  ゾパァンッ!! 悠介 「づ、あ───!!」 左手の感覚が絶たれた。 見るまでもない。 俺の腕が宙を舞った(・・・・・・・・・)。 ゼット「ハッハァアッ!!」 悠介 「っ───」 ここに来て、力の差が現れ始めた。 今までもそうだが、今ではもっとだ。 両腕で武具を振るう場合、片腕が無くなるのは致命的な失態だ。 もちろん相手はその隙を見逃すような馬鹿じゃない。 高らかに笑いを混ぜた奇声とともに、ガシャンガシャンと剣を振り下ろしてくる。 ゼット「フハハッ!どうしたツゴモリ!さっきまでの威勢は!アァッ!?」 けど、だからってやられっぱなしなのは癪ではある。 だったら今は─── ゼット「早くもチェックメイト───、……!?」 悠介 「───間に合わせがあればそれでいい」 それは。 誰が見ようが異常そのものだっただろう。 俺でさえその事実を呆れた眼差しで見るくらいだ。 だが否定する気はないからこそ成功に至る。 ゼット「掻き集めたマナを……腕に変換するだと!?」 悠介 「───なんだ、呆ける余裕があるなら再生させてもらうぞ」 ゼット「───!」 ゾリュッ……メキィッ! 切れた腕の周りに掻き集めたマナを賢者の石で腕に変換。 それを見て呆けたゼットの隙を突いて、その腕をさらに自分の腕として再構築する。 ……創造の理は我が裡に。 自分の在り方さえ見失わなければ、どんな傷だって治してみせる。 ゼット「……そうか。貴様は創造者だったな。腕を失うくらいは些事か」 ……随分と勝手なことを言ってくれる。 腕を失うことは些事なんかじゃないし、創造することだって些事じゃない。 なにより即興でマナを腕に変えたりしたものだから、 自分で解るくらいに疲れが現れている。 状況は劣勢になるばかりだ───どうしたらいい。 ゼット「ハッ、息が上がったか?さすがのクリエイターも生命体の部位の創造は辛いか」 ……冗談。 身体の創造なんて、賢者の石の行使に比べれば遥かにやさしい。 慣れの問題なんだろうが、 俺はまだ『慣れた』と言えるほど賢者の石を使いこなせていない。 さらに───『マナを腕として構築する』なんていう無茶な書き換えをしたために、 普段の精神消費よりも消費が激しい。 悠介 「……、……御託はいらない……。続きだ───!」 ゼット「……せいぜい楽しませてから死ね。今の貴様は既に雑魚だ」 ゼットが岩盤を蹴り砕いて疾駆する。 離れていた間合いなどやはり間合いにすらならない。 ああそうだな、このまま戦えば俺は絶対に死ぬだろう。 もちろん───このまま戦えば、だが。 悠介 (負担が増えるのは目に見えてる───けど) やるしかない。 どの道あとで苦しくなるのなら、 俺を見下して再び油断しているこの馬鹿を今この時にブチノメそう。 悠介 「……リミットブレイク」 ゼット「なに───?」 小さな言葉とともに屠竜剣に嵌っている皇竜珠を取り外す。 と、そこへ流れる筈だった竜人力と、そこに流れていた竜人力の全てが俺の中で爆発する。 ───勝負は一瞬。 出来るだけ短く、速く、迅速に。  ドンッ───!! ゼット「───!」 竜人力を全開にし、さらに神魔竜人を開放。 俺を嘲笑っていたゼットへと剣の連撃を加えてゆく。  ゾブシャシャガギャゴギャバギィッ!!ガシィンッ!!ヂギィンッ!! ゼット「が、ふ───!?キ、サマ……!何処にこれだけの力を───!!」 振るう剣は一撃必殺の勢いで。 されどその速度は剣舞さながらの速度で。 一撃一撃に全力を込め、だが速度さえ全力で。 明らかな無茶のために腕が軋みを上げるが止まるわけにはいかない。 見ればゼットの腕の無骨な剣はところどころが破壊されていっている。 最初こそ当たっていた攻撃はその実、今ではその剣で防がれている─── ならばせめてその剣だけでも破壊を───!! 悠介 「ガ、ァアアアアアアアッ!!!!」 自分の声が耳に届いた時、ふと考えた。 攻撃しているのはどっちで、攻撃を受けているのはどっちなのだろう、と。 声を発している自分は明らかにどんどんと力の波に飲まれてゆく。 そのための苦痛がどうしても口から漏れ、 己を高めるための咆哮さえも弱弱しいものになっていた。  ───ならば。 今この時に劣勢なのは果たして、攻撃を受けているゼットなのか。 それとも、休むことなく連撃を放つ俺なのか。 そんな小さな自問自答を、自分の中が繰り返した。  ヴオンッ!!パガシャァアアアンッ!!! ゼット「ギ───!?」 懇親の力を以って振り下ろした屠竜剣の一撃が、ゼットの剣を破壊する。 普通ならばそこで一旦は満足して状態を元に戻すだろうが、 相手が動けるのならばあの剣の有無なんてあまり関係無いことを知っている俺は─── 悠介 「その隙、もらった───!!」 防御するエモノが無くなったそいつ目掛けて、 振り下ろした剣を持ち上げるように第二撃を放っていた。  ───バッシャァッ!! ……そして舞い上がる鮮血。 何が起こったのか解らないといった感じのゼットが、 裂かれた自分の体を見て小さく声を漏らした。 けどその言葉を聞き取っている余裕なんて俺には無かった。 すぐにゼットから離れて神魔竜人を解除し、荒々しく息を吐き散らした。 悠介 「は、あ───が、はぁっ……!はぁっ……!!」 ───眩暈がする。 竜人の力が体に溢れれば溢れるほど、自分の自我が何処かへ行ってしまいそうで恐ろしい。 けど───大丈夫だ、きっとなんとかなる。 あいつの武器は破壊した。 ゼットなら武器が剣だろうが拳だろうが同じことかもしれないが、 それでも腕は潰すことが出来た。 だったらこのまま─── ゼット「……なんだ、もう終わりか?」 悠介 「はっ……は、……な、なに……?」 ゼット「余裕を見せてくれるなら、再生させてもらうぞ?」 悠介 「はっ……───!?」 息が数瞬止まる。 今、こいつはなんて言った? いや───俺はなにを休んでいた? 相手はゼットだ。 こいつが狭界で様々な敵の能力を吸収してきたということを忘れたのか? その能力の中に“治癒”の力が無いなんてどうして言える───! 悠介 「っ……くっそぉおおおおおっ!!!!」 屠竜剣を強く握り疾駆した。 だがそれも無駄に終わる。 切り裂いた筈のゼットの傷は見る間に塞がってゆき─── 痛々しかった裂傷が完全に塞がると、その上を硬い鱗が覆っていった。 砕けた筈の腕は崩れた先から生えてきて、再び無骨な剣へと姿を変える。 ゼット「残念だったな、ツゴモリ。     俺も体力は消費したが、お前のその疲れじゃあ現状はふりだし以下だ」 ゼットは再び俺を見て嘲笑う。 俺は構わず屠竜剣を一閃させたが、その攻撃はあっさりと五指によって掴まれてしまう。 悠介 「っ───!?」 ゼット「随分弱ったな。今のお前は片手で殺せる」 ゼットの言葉が俺の胸に突き刺さる。 ……それは、そうだろう。自分でも自覚している。 このままじゃ本当に殺されるだけだ。 守りたいものも守れず、 あいつと馬鹿をやりながら歩んでいく筈だった未来までもが塵と化す。 ゼット「飽いた。塵と化せ」  ボゴォンッ!! 悠介 「───、ア───」 呼吸が止まった。 ああ、それはそうだろう。 だって、腹に穴が開いている。 穿ったのは───ゼットの拳だ。  ……痛い。とても……痛い。 抜き去られる腕の鱗が傷口をズタズタにしてゆく。  ……熱くて仕方が無い。それなのに、どうしてどんどん冷たくなってゆくんだろう。 眩暈がする───眩暈が……  思考が働かない。何かを流された───?いったい何─── ダメだ、辛くても動かせ。思考を回転させろ。  目を閉じたら楽になれるだろうか─── 死にたいのか。動かせ───!  楽?楽になる……?楽になって……どうするんだ? 腹が貫かれたからなんだ!そんな穴ごとき、癒す理なぞ既存でしかないだろう!  楽になって……これから先に存在する未来の全てを放棄するのか? それが既存ならば───超えてゆけ!!  ……冗談じゃない。俺はまだ───死ねない!! ゼット「……味気の無い幕だ。力の配分さえ出来ない半端な輩が俺の前に立つな」 ……───膝が地面に落ちた。 けれど、痛みはもう無い。 腹にあった穴は既に塞がり、意識もハッキリとしてきた。 ゼット「時間を無駄にしたな。今すぐ殺してや───なにっ!?」 悠介 「お返しだ───受け取れこの野郎ォオオオオッ!!!!」  ゴォッ!!グボォンッ!! ゼット「ゲハァアアッ!!?」 立ち上がり様───全ての力を全力解放して放った拳がゼットの腹を穿つ。 再生された腕ではなく、神魔竜人の一撃で切り裂き、 今だ完全に再生していなかった肩から脇腹にかけての傷痕を捻り開くように。 だがこれだけじゃ済まさない。 いっぺん死に際の意識ってのを味わってみやがれ───!! 悠介 「腕の一本くらいくれてやる!     死に際の恐怖でも味わってみやがれ!───諸力魔力全力開放!!」 ゼットの腹を貫いた腕全体に極光を込め、放つこともなくさらに力のみを重ねてゆく。 ───放たれることもなく込められ続けられた力が辿る道はただひとつ。 ゼット「なっ───!?よ、よせぇえええっ!!」 悠介 「“極光暴壊烈破”(カリバーン・エクスプロージョン)!!!」 キィイイイッ───ギャガァッ!!ドォッガァアアアアンッ!!! ゼット「ギィイイァアアアアアアアッ!!!!!」 悠介 「がぁっ!!うぐあああぁぁあああああっ!!!!」 右肩───否。右胸部から右手にかけての全ての感覚が消失する。 当然だ、その部分は完全に吹き飛んで消滅している。 だがその代償分は思い知らせてやった。 ゼットの体は大きく砕け、上半身と下半身がなんとか繋がっている状態で吹き飛んだ。 悠介 「消失した部位が出ます───弾けろ!」 それでも休んでる暇は無い。 俺は即座に右腕を創造すると、屠竜剣を手にとって駆け出した。 もちろん───吹き飛んだゼットに向かって。 ゼット「ツ……ゴモリ……!ツゴモリィイイイイッ……!!」 ゼットは虚空を吹き飛びながらも物凄い形相で俺を凝視してきた。 ───構わない、このまま─── ゼット「ッ───ガァアアアアアアアッ!!!!!」  キュアァアアアアッ!!!ドゴォッッ!チュゥウウウンッ!!! 悠介 「!?かっ───ぐあぁああっ!!」 吹き飛んでいるゼットの口から放たれた極光をまともに食らう。 腹部が完全に消滅してるってのになんてヤツだ───!! 悠介 「っ……くそっ……」 けれどその威力も随分落ちている。 体を吹き飛ばされ、体は焼けはしたけれど死に掛けるほどのものじゃない。 悠介 「疾───!」 吹き飛ばされ、倒れていた体を立たせるとすぐに疾駆する。 景色の先のゼットは既に立っていて、その腹も徐々に塞がってきている。 だがその表情は見るからに屈辱に溢れている。 俺はそんなゼット目掛けて屠竜剣を─── ゼット「───貴様の守りたいものとやらの中には、この世界の民も含まれているのか?」 悠介 「───!?」 振り下ろす直前で止めた。 ───ゼットは構えていない。 どういうつもりだ、と思うより先に俺は問い返していた。 悠介 「……だったらどうだっていうんだ。人質でも取る気か?」 ゼット「人質?……ハッ、人質ね。貴様相手にそんなものは必要無い。     貴様みたいな甘いヤツには俺は殺せやしないからだ」 悠介 「………」 ゼット「時にツゴモリ……。貴様が守りたいものが今どうなっているか、知っているか?」 悠介 「……?」 ゼットはグジュグジュと再生していっている腹の穴に手を当て、荒い息を整えながら言う。 けど、その質問の意味が解らない。 ゼット「今、この世界に存在する特定の場所にモンスターの軍が突撃している。     レファルドなどの城はもちろん、チャイルドエデンや町などもだ」 悠介 「───……」 ゼット「感じる気配は様々だ。     相当数のモンスターの気配が消え、だが人間の気配は一向に減らない。     ああ、それは貴様にとっては安心していい要素だろうな」 悠介 「……何が言いたい。時間稼ぎのつもりか?」 ゼット「重要なことを教えてやってるだけだ。     人間ども……特に貴様の親友や知り合いどもが殺しているモンスターはな、     その全てが“生贄”だ」 悠介 「生贄?……───まさか」 ゼット「そうだ、そのまさかだ。     人間どもが躍起になってモンスターを殺せば殺すほど、     狭界のバケモノどもを召喚する糧となる。     弱いモンスターならいくらでも殺せるだろうが、     召喚獣を相手にして、果たして生き残れるかな?」 悠介 「……てめぇっ……!!     ふざけるな!お前の人生はその『召喚』の所為で狂ったんじゃねぇのか!!」 ゼット「フン……俺はもうセシルさえ居てくれればそれでいい……。     モンスターどものお陰でセシルの居場所も確認出来た。     あとは邪魔な貴様らを殺せば、     この空界は俺とセシルだけが生きる平穏な世界に変わる……!」 悠介 「っ……!!」 怒りで意識が飛びそうになった。 こいつは───そんなことのために空界に生きる全ての人を殺そうとしているのか……!? ゼット「……ハハッ……理解出来ないって顔だな……。     ああそうだな、他の誰にも理解出来ないさ……。     仕方ないだろ……俺はもう壊れちまってる。     それがどんなことだって解っていても、     そうすることでしか自分を救えないんだよ……!」 悠介 「ふ───ざけるな!セシルひとりのために空界全てを破壊する気なのか!?」 ゼット「ああそうだよ!!だから理解出来ないって言ってるんだ!!     俺の生きたこの数千年という時間の全てはセシルの願いがあってこそのものだ!!     その時間がどれだけのものだと思う!     人だった自分が人では無くなる瞬間がどんなものだと思う!     目の前で守りたかったものを守れなかった瞬間がどんなものか貴様に解るか!」 ……っ……そんなもの、解りたくもない。 こいつはもう矛盾の塊だ。 自分がその事実に苦しんだというのに、今度は俺にその苦しみを味わわせようとしている。 けど─── 悠介 「……せっかくだけど、そんなものはもう理解出来てる。     親友を失う気持ちなんてものは、二度と味わいたくない」 ゼット「だったらどうする!?俺を殺すか!     言っておくがよしんば俺を殺せたところで、召喚獣はこの世界に降り立つぞ!     モンスターごときを潰すのに力を使い果たした貴様の仲間では、     どう足掻いたところで死ぬ以外に道は無い!」 悠介 「……寝言は寝て言え」 ゼット「なに───!?」 悠介 「生憎だけどな、あいつらは死んだりしない。いや───誰ひとり死なせはしない。     お前が口にしたことの全ては否定させてもらう」 ゼット「ハッ……無理だ、って言ってるんだぞ俺は。この世界の王である俺がだ!」 悠介 「……そっか。だったら───」 下ろしていた屠竜剣を今一度構え、そして───言ってやる。 悠介 「お前は、王の器じゃない」 ゼット「ッ───ほざけクズヤロウがぁっ!!」 再生が終わると同時にゼットが爆ぜた。 岩盤を踏み砕き、瞬速と言える速さで俺の後ろに回りこむと同時に剣を振り下ろす。 だが俺はイーグルアイでそれを予測し、 躱してみせるとそのままの体勢から屠竜剣を奔らせる。  ヂギィインッ!!! ゼットはその攻撃を剣で弾き、舌打ちをして再び凄まじい速度で疾駆する。 ゼット「無駄なんだよ……!いい加減理解しやがれ!     守りたいものを守るなんてことは幻想でしかねぇんだよ!     貴様はそれを知った上で、どうしてまたそんな絵空事を謳ってられるんだよ!」 疾駆のたびに踏み砕かれる岩盤が砕ける音とともに、憎々しげに聞こえる言葉。 苛立ちと悲しみが織り交ざったようなソレは、 しかし俺の中ではもう答えが出ている言葉だった。 悠介 「守れなかったことも、守れたことも───その全てが『今』を作ってくれた。     俺はそんな世界が好きだし、生きてきた時間の全てを否定なんかしない。     そして───そんな世界で一緒に笑ってくれる馬鹿と歩める歴史を、     なによりも俺とあいつが信じてる」 だからいつだって夢を見る。 こうなってくれたらいい、こうなればいいと思うことを糧に未来を目指せる。 諦めた時点で終わりだということを知っているのだからこそ、 絵空事をいつまでだって謳っていられる。 悠介 「そうだな。お前には解らないよ。     全てを否定して、自分の大切なものを奪ってしまったことを、     自分でやっちまうような馬鹿野郎にはな」 ゼット「───ッ!!くたばれてめぇ!!今すぐ生きることをやめろ!!」 背後で岩盤が砕ける音がした。 その速度は予測などでは捉えきれない速度。 振り向いた時には既に吹き飛ばされていて、地面と平行に吹き飛ばされた俺は─── さらに放たれた極光に飲み込まれ、体のいたるところを破壊された。 悠介 「っ……」 ゼット「貴様の理想はここで潰れる!貴様の信頼したものや仲間もろともだ!     信頼なんかじゃ弱者は強くなれやしないんだよ!     弱者は強者に飲まれて死ぬだけだ!俺はそういう世界で生きてきた!     そんなことも解らないクソガキが───俺に説教たれんじゃねぇ!!」 悠介 「ッ……は、はははははっ……!!」 ゼット「……なにがおかしい……!」 悠介 「───何度だって言ってやるよ。お前には解らない(・・・・・・・・)。     弱者は強者に飲まれて死ぬってことしか知らないお前には───解らねぇよ!!」 ゼット「ッ───くたばれ!!」 仰向けに倒れた俺の頭目掛けて無骨な剣が振り下ろされる。 速度、硬度、切れ味、どれをとっても一撃で俺の頭を破壊できるものだろう。 けれど、そうした死の具現が目前に迫っても─── 俺は自分の意思を否定するつもりはなかった。 【ケース143:インタールード/それぞれの葛藤。そして───】 カルナ「っ……は、はぁっ……!はあっ……!!」 体中から血が滴る。 意識はおぼろげで、だけど───目の前にはもうモンスターの軍など居ない。 カルナ「はぁっ……はは、……人間、やれば出来るもんだ……」 言ってはみるものの、 後に現れたモンスターが最初に現れたモンスターより弱かったのが幸いしただけのことだ。 現に火種はゼロだし回復の式だって既に使い切った。 あとは───まあ、エデンの中で休めば傷はなんとか塞がるだろう。 カルナ「っ……まいったな……。5メートル程度なのに、とんでもなく長い……」 足を引きずって歩く。 けれど眩暈さえする状況の中では、その歩みは極端に遅かった。 まずいな……こんな状態で敵の一体でも現れたら─── カルナ「───……え?」 ゾクリ、と体が震えた。 武者震いだとか小さく震えるだとかそんな次元の問題じゃない。 ───こんな感覚は初めてだ。 カルナ「…………」 嫌な予感が抑えられない。 けれど頭の中にあるのは『今はエデンに向かうな』ということだけ。 俺が向かえば、恐らくエデンの中の子供達を巻き込むことになる。 この悪寒の正体は───俺を殺そうとする殺気だろう。 眩暈がする視界をなんとかしながら振り向いてみれば、虚空に大きな渦が出現している。 ……これか。 カルナ「くそ……くそぉ……」 体は既に満身創痍。 恐らくスライムを屠るのでさえ困難なくらいの出血多量状態だ。 こんな状態じゃあ殺してくださいと言ってるようなものなのに─── どうしてこの体は逃げることを選ばなかったんだろう。 カルナ「……はは、そんなの、解りきってる」 ……子供たちを見捨てるわけにはいかない。 理由はそれだけで十分だ。 カルナ「こうなったら……やれるだけやってやるだけだ!!」 虚空から禍々しい姿の存在がズルリと現れる。 その姿は明らかに空界に存在するモンスターとはかけ離れた存在だ。 力の差は歴然───普通ならばゴミと同じ扱いをされ、 見向きもされないような強さの差が存在するだろう。 だがソイツはこの場に『召喚』された。 召喚されたからには『意味』が必要であり、 ソイツの場合───目の前に居る存在の破壊だろう。 俺はなんだか自分の思考に文句でも飛ばしたい心境に陥りながら───小さく息を整えた。 ───……。 ガシャァアアアアンッ!!! 夜華 「うあぁああああっ!!!」 雄牛の一撃がわたしを刀ごと吹き飛ばした。 がつん、と巨大な岩をぶつけられたような衝撃がわたしの中を徹ってゆくと、 まるで渇を入れられたかのように思考が復活する。 刀が砕けることは無かったが、その勢いだけでわたしはみっともなく地面を転がった。 ……その手が刀を落とさなかったのは奇跡と言えるだろう。 今の一撃だけで痺れて動かない。 だというのに雄牛は視覚では捉えることさえ出来ない速度でわたしの横に駆け、 倒れているわたしに向けて無情なる一撃を振り下ろした。 わたしは恐怖のあまりに目を閉じるだけだ。 夜華 「───!!」 嫌だ───嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 死にたくない!こんなところで死にたくない! なにも残せずに死にたくない!何も───何も? ……わたしに何が残せるというのだ? わたしには何が出来ると───ゾブシャアッ!! 雄牛 「グゥウウオオオオオオオオオオッ!!!?」 夜華 「っ!?」 ハッとした。 肉が裂かれる音と雄牛の絶叫を聞いて目を開けてみれば─── 怪物 『ウルルルル……!!』 夜華 「───、は───あ……!!」 雄牛など小さな存在に見えるほどの巨大な怪物がそこに居た。 巨大な顎が雄牛を噛み砕き、咀嚼し、飲み込んでゆく。 ……これが恐怖でなくてなんだろう。 自分より強いものをいともたやすく食事にしてしまうその景色はまるで悪夢。 わたしはだらしなく震え、やはり死ぬことに恐怖した。 けれど、先ほどの思考への答えさえ見い出せないわたしは恐怖することさえ半端だった。 わたしには何があるのか。 そんなことは解らない。 けれど───気になることはひとつだけあった。 あの骨に訊く筈だった、わたし自身の心のこと。 ただそれだけが心残りだと思考しながら、わたしはそっと目を閉じた。 ───……。 彰利 「死神の力をナメんなぁあーーーーーーっ!!!!!     オォオオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアーーーーッ!!!」  ドドドンッ!ドンッ!トンッ!トンッ!!  メゴボゴドゴボゴゴシャシャシャシャァアアアーーーーッ!!!! モンスターども『ギョェエエーーーーーーーッ!!!』 疲れきった体に鞭打って攻撃を連発する。 だがしかし拳はあまり致命を与えるには向かず、 塵にならないモンスターどもは再び俺に襲い掛かる。 彰利 「く、くそったれぇえええええーーーーーっ!!!!」 やがて。 ついにモンスターの攻撃を許してしまった俺の体は次々と刻まれてゆく。 流れる血は黒いが、その色に見合った力は消費すすぎたために行使できやしない。 彰利 「くっそ!ペース配分誤ったぁあーーーーっ!!     マテリアにももうマナが残ってねィェエーーーーーーッ!!!!」 仕方なくルナカオスで攻撃を連ねてゆくが、それさえも受け止められてしまう始末……。 くうう、情けなや……!! 彰利 「お、おんどれらあんま調子こいてんじゃねぇぞですよぉおーーーっ!!?     こっちには対ジハードさん用にいっちゃん最初に用意したブツがあるんだぞ!?」 みさお「えぇっ!?そんなものあるならさっさと使ってくださいよ!」 彰利 「獣使いのキミにはソロで戦う者の気持ちは解らんとです!!     アイテムってとっても高いのよ!?これは金なんか使ってないけど!」 みさお「だったらすぐに使いましょうよ!」 彰利 「オッケン解ってる!つーわけで離れてなさい!巻き込まれると……死ぬぜ?」 みさお「なっ───」 彰利 「キルキルアウナンアウマクキルナンンン……!!     食らえ正義の必殺!!ゴールデンキャノンボォオオーーーールッ!!!」 みさお「なぁあああっ!!?そんなものがジハードさん用の対策だったんですか!?」 彰利 「ノゥッ!違うぞガール!     これはただのキャノンボールではない!!なぜなら───!」 ほうったキャノンボール……つーか宝玉から闇が溢れる。 俺はソレに月操力を流し込み、誘発させた。 彰利     「終わりにしようぜモンスターども……これであの世へ送ってやる!         ビッグバンかめはめ波ァアアアーーーーーーーーッ!!!!!」 モンスターども『ギィッ!!?』 ドガァアッ!!チュゥウウウウンッ!!!!! ズァアアアガガガガガァアアアォオオンッ!!! モンスターども『…………!!!』 宝玉に込めた闇の光が放たれる。 襲い掛かってきていたモンスターの8割がそれで消滅した。 みさお「な……な、なぁああ……!!」 彰利 「最強!」 これぞ、ドワーフのじっちゃんに作ってもらったエンチャント宝玉に込めた、 フルブレイクカタストロファーの威力です。 宝玉にエンチャントさせたものだから何度だって使えます。 悠介が屠竜剣にエンチャントさせたエクスカリバーを何度も使ってたのと同じ原理だ。 最初の頃、この宝玉は黒竜王戦に役立てようと思ってたくらいだからね。 方法としては黒竜王の口にほうり、爆発させてコロがそうと目論んでいたくらいだ。 死神の力の解放だのなんだので忘れてたけど……や、思い出せてよかった。 でもねぇ……不安なのが宝玉の強度なんだよね。 悠介が屠竜剣にエクスカリバーをエンチャントさせたのと同じで、 フルブレイクをエンチャントさせたこの宝玉はイマイチ強度が不安だ。 屠竜剣みたいに壊れたりしなきゃいいけど。 彰利 「つーか……いい加減、剣の名前決めたんかな」 謎だ。 謎だけど───今はそんなこと思ってる場合じゃないねぇ。 みさお「そ、そんな強力なものがあるならどうして最初から使わなかったんですか!」 彰利 「とっておきだからじゃい!!     これはモンスターハンターの回復笛よりモロイんですよ!     時と場合を考えないとすぐメゴシャアン!!解る!?」 みさお「解りません!」 彰利 「なんだとこの馬鹿!少しは考えなさい!」 みさお「あっ……彰衛門さんに馬鹿とか言われたくないです!」 彰利 「なんですと!?」 みさお「って───彰衛門さん!後ろです!」 彰利 「むっ!?」 みさおさんの言葉に、ゴギュリと首を180℃回転させて背後を見た! と─── モンスター「キャーーーッ!!?」 ……モンスターに驚かれてしまった。 彰利 「き、キミ!何を驚いておるのかね!?     死神なんだからこれくらい平気で出来ますよ!     つーかモンスターであるキミにそこまで驚かれると俺の立場無いんですけど!?」 みさお「立場あるつもりだったんですか……」 彰利 「うわひでっ!!───て……え?」 ───突然といえば突然。 驚いたモンスターの背後、その虚空で巨大な黒が渦巻いた。 それはまるで空間を抉じ開けるように引き裂かれていき、 だが───その内側から一体の巨大な生物が出ると同時に閉ざされた。 ……モンスターは気づいていない。 それはそうだ、あのバケモノには気配がまるで無い。 振り上げた腕は音さえ立てず、振り下ろした腕でさえ音も無し。 音が知覚できたのはせいぜい─── 貫かれたモンスターの肉が削げる音と、死に際の絶叫のみだった。 だがそれも刹那的だ。 叫んだばかりのモンスターは死ぬことが許される前にバケモノに丸呑みにされた。 咀嚼の痛みが無いのがせめてもの救いだろうが、どの道死ぬのなら大差無いのだろう。 怪物 『イルルルゥウウイイイ……!!』 モノを食ってようやく、目の前のバケモンから気配が溢れた。 それは───悠介と一緒に居た『召喚獣』と同じものだった。 彰利 「マジか───!?じゃあこいつ───」 召喚獣……!? そんな確認の言葉を叫ぶ間も無かった。 音も無く風の乱れも無く放たれた腕は俺目掛けてのもの。 振り切られれば死ぬという意識だけが頭を支配したというのに俺は動けなかった。 ……今回ばかりは走馬灯さえ働かない。 これが真実の死に際ってやつなんだろう───そう思った。 ───……。 ルーゼン「うあぁあっ!!」 バシャアッ!! リヴァ「ルーゼン!……くっ……!」 ルーゼンの肩が大きく裂け、血が地面を濡らす。 だがそんなことに気をかけていられるほどこちらも余裕は無い。 召喚獣『コォオオオァアアアアアアンッ!!!』 ザコなんてすぐにカタがついた。 だが───それらの後に現れたこの召喚獣は、 モンスターとは比べ物にならないくらいの強さだ。 現れたのが一体だったからよかったものの、 一体だけでこの強さだ───正直冗談にもならない。 魔導や式を無効化するわ毒は吐くわ、もう滅茶苦茶だ。 こうなったら─── バルグ「───!?なにをする気じゃリヴァイア!」 リヴァ「一か八かだ!エクスカリバーを使う!     これでダメなら元より手なんて無いだろう!」 バルグ「ム───ぐ、う……!」 本来なら真っ先に止めるバルグだったが───もう解っているんだろう。 こいつには魔導や式は通用しない。 だがその無効化を上回る力をぶつければなんとかなるかもしれない。 もちろん効果があるという保障は一切無い。 それでもやるしかないのだからバルグは止めなかった。 リヴァ「そう───やるしかないんだ」 その言葉を胸に刻み込み、ゆっくりと両手に極光を込めていった。 どうにでもなれだ───これでダメならもう手はないのだから。 ───……。 ベリー「……ほら、やっぱり碌なことにならなかった」 虚空に現れた召喚獣を見て溜め息を吐いた。 利用されてることを知りながらもどうしようもないなんて、やってられないったらない。 結局生贄でしかなかったモンスターどもは既に召喚獣に食われ、跡形も残って無い。 ベリー「召喚獣ね……初めて見るタイプだけど。なにキミ、研究対象になってくれるの?」 召喚獣『是に至らん。殺すものを殺せればそれでいい』 ベリー「……あ、そ」 まいった……問答無用の殺戮系か。 魔力があればなんとか使役も出来るんだろうけど、 モンスターどもを一掃するのに大半使ってしまった。 今残ってる魔力じゃあ仮契約さえ出来ないだろう。 こんなことなら悠介の工房から何かのマテリアちょろまかしておけばよかった。 召喚獣『御託は好かん。刹那に滅びろ』 目の前の召喚獣から嫌になるくらいの諸力が漏れる。 その差は───あー……考えたくないわね。 もういいや、エクスカリバー使えるだけ使って、もしダメだったらとっとと逃走しよう。 工房に戻ればまだ魔力回復させるものくらいある筈だ。 ───……ある筈なのに。 召喚獣『キル』 ベリー「───!」 一瞬にして詰められた間合い。 両手に極光を込める間すら与えられなかった。 やがて振るわれる刃だらけの腕は、確実にわたしを殺すものだった。 ───……。 ゾブシャアッ!! ゼット「───な、に……!?」 悠介 「……ははっ……言っただろ。腕の一本くらいくれてやる……いつだってなぁ!!」 振り下ろされた無骨な剣を左腕で強引に押さえた。 否───押さえたと言うにはあまりに無残だ。 腕は掌から肩にかけてを両断され、血が噴き出している。 だがそれでも死ねない理由がある。 痛みに耐えられる理由がある。 ゼット「貴様……まだ抗う気か!?」 悠介 「何度だって抗うさ……!ここで諦めたらあいつに会わせる顔が無いんでね……!」 ゼット「あいつ……?弦月彰利のことか。     くだらないことを言う……お前の言う親友は今まさに死に直面しているところだ。     いくら闇の真に至れたところで力の使い方を知らないあいつでは、     召喚獣を相手に生き残ることなど不可能」 悠介 「っ……だから……“信頼”が必要なんだよ……!     解ってないようだから言ってやる……!     俺はあいつらが死ぬだなんて微塵にも思ってない……!     そして───俺の目にも自分が死ぬ未来予測なんて出来ちゃいないんだよ!!」  ヴオッ───ザギャアンッ!! ゼット「ギイッ!?ヅ───貴様!何処にこれだけの余力を……!」 悠介 「何度だって言ってやる!お前には解らねぇよ!!」 ゼット「貴様ァアアアアアッ!!!!」 腕を切りつけられたゼットが激昂する。 だがそんなものは気にしない───俺は俺に出来ることをするだけだ。 そのための行動、そのための予備は既にしてあるんだ。 ───集中しろ、俺の相手はこいつだ。 彰利たちが戦っている召喚獣たちじゃない。 ゼット「気に入らねぇ!お前の理想も想像も全て、ここで俺が砕いてやる!!」 悠介 「やってみやがれ!!それさえも超えてやる!!」 剣がぶつかり合う。 既に何合目になるのか───その感触が迫力を無くすことなどない。 弾き弾かれ、削ぎ削がれ。 血を流そうが血を吐こうが、腕を斬ろうが斬られようが止まらない。 ゼット「馬鹿なヤロウだ!     俺に向かわず召喚獣どもを潰しにいけば仲間はまだ助かっただろうに!     解るか!?貴様はたった今、自分が信頼するヤツラを見殺しにしたんだよ!!」 悠介 「寝言は寝て言え!だからお前には解らないって言ったんだ!!」  ギシィイインッ!! ゼット「ッ───」 悠介 「〜〜……!!」 剣と剣が火花を散らし、双方が互いを睨みながら制止する。 しかしそれも数瞬のことで、やはり互いが互いの剣を弾くように間合いを取る。 だがそうした途端に口から放たれた極光は俺の左足を削ぎ、 俺はバランスを崩して倒れかける。 当然ゼットがその隙を逃す筈もなく、一撃必殺の攻撃を俺の頭部目掛けて振り下ろす。 悠介 「───“屠竜剣(グラム)”!!」  ヒィンッ!ザギャアッ!! ゼット「づっ───!?」 攻撃に気を取られすぎだ。 振るった屠竜剣にも気づかず、ゼットも俺と同じように左足を削がれた。 ゼット「貴様……!!」 悠介 「ッ───」 互いがすぐに再生を行使。 直った刹那に再び攻防───その繰り返しだ。 一進一退もあったもんじゃない。 その戦いに一進はあっても一退など有り得なかった。 悠介 (……生きろよ彰利……!俺も絶対にこの馬鹿に喝入れてやるから……!) 一瞬の幕間に考えたことはそんなこと。 けど幕間が終わればそんな思考は飛び、再び剣戟と肉を削ぐ音ばかりがその場を支配した。 大丈夫だ───絶対に間に合う。 だから俺はそれを信頼して、こいつを───!! 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