───FantasticFantasia-Set64/幕間(まくあい)。先にある戦へ───
【ケース151:晦悠介(再)/───】 ───いや。本当は解っていたことなのかもしれない。 いつだって現実ってのは厳しいものだということを。 悠介 「…………!!」 気配を察知し、転移した先には……みさおを丸呑みにしたミルハザードが居た。 ところどころに傷を負っている黒竜はしかし、 俺を見下ろしてニヤリと笑うと───その傷の全てを回復させてみせた。 その能力を知っている。 これは───月生力(・・・)……!! 悠介 「〜〜〜〜っ……ゼットォオオオオッ!!!!」 頭に血が逆流した。 気づけば叫びだけで殺しかねないほどの絶叫をあげ、ミルハザードに向けて飛翔していた。 だが───ギヂィイイ……!! 悠介 「っ!?な───」 空間が歪む。 ミルハザードの周りの景色が捻じ曲がり、虚空に巨大な渦が出来ると、 ミルハザードは迷うことなくその渦に身を投じた。 月空力だ───! 悠介 「…………!!」 一瞬の戸惑いが命取りとなった。 渦は瞬く間に消滅し、虚空には何も存在しなくなる。 すぐに気配を探知してみるが……ミルハザードは“この空界”には居なかった。 悠介 「〜〜っ……なに考えてんだあの野郎ッ……!!」 目的が見えない。 それでも追いかけてみさおを助けなければいけないのに、 俺にはその手段が存在していなかった。 悠介 「───そうだ彰利!!彰利!?」 彰利 「聞こえとるよ……」 悠介 「───……彰利……」 振り向いた先に居た彰利は顔面蒼白にして立っていた。 恐らく……目の前で食われるみさおを助けることが出来なかった故だろう。 悠介 「彰利……お前、月空力使えたよな?     ミルハザードが転移した先に飛んで欲しいんだ───出来るか?」 彰利 「……出来る。けど先に注意しておくことと訊きたいことがある」 悠介 「注意……?」 彰利 「黒竜王のヤロウは『食った相手』と融合して、     融合した相手の能力をそっくりそのまま吸収する力がある。     あいつが月生力とか月空力を使えるのはその所為だ。     けどそれは、ノートの力で分離できるくらいの融合なんだそうだ。     ……悠介のことだからノートの力でみさおと黒竜王を分離させるだろうけど、     だからこそ訊きたい。……相手は黒竜王だぞ。     ノートの力を行使するとお前が酷く疲れるのは知ってる。     そんな力を使って、疲れて───そんな状態で勝てるのか?」 悠介 「………」 そんなことは知らない。 けど、助けなけりゃなんのために強くなろうとしたのかなんて解らない。 悠介 「彰利、俺は───」 彰利 「あぁ、解ってるよ。お前は絶対に行くって言うに決まってる。     こんな時ばっかり馬鹿なんだ、お前は。何年親友やってると思ってんだよ」 悠介 「彰利……」 彰利 「……悠介、この戦いはお前に任せっきりになると思う。     お前がノートの力で分離を実行したら───みさおのことは任せとけ。     一緒に闇と同化して完全に気配消しとくから。     だから───遠慮なくブチノメしてこい」 悠介 「……ああ!」 トン、と俺の胸をノックするように叩く彰利の胸に、俺も同じくノックするように叩く。 ……もう引き返せない。 あいつが『守りたかったもの』の来世の力さえ利用するくらいに狂ってるなら─── あいつを開放する方法なんてひとつしかない。 悠介 「……行こう。あの馬鹿を……潰しに」 彰利 「ああ、全部見届けてやる。胸張ってブッ潰してこい」 彰利の言葉を耳にしながら、 精霊達や召喚したまま待機させておいたバハムートを呼び戻す。 さらにエリキシルを創造し、飲み下すことで万全を整えた。 彰利 「準備オッケー?」 悠介 「ああ。やってくれ」 彰利 「……うし。そんじゃあ───」 彰利が目を閉じて集中する。 いつもはふざけている親友だが、娘を目の前で食われたことで気が引き締まったんだろう。 ……皮肉なものだ。 こんな時でないと、こいつのこんな真面目な姿が見れないなんて。 彰利 「……月空力の痕跡を確認。……本当にいいか?飛んだら引き返せないぞ」 悠介 「解ってる。やってくれ」 彰利 「……解った。転移先は『俺達の時代』の空界だ。     どうして黒竜王が敢えて『俺達の時代』に飛んだのかは解らん。     その時代を潰したいのかもしれんし、平和な時代への嫉妬かもしれん。     けど俺達ゃ何が何でもあのイカレ野郎を止めなきゃならない。     それが出来なけりゃあ俺達が築いた未来の全てが消滅するだけだ」 悠介 「……ああ」 今は空界に居るが、いずれ地界にも辿り着いてしまうだろう。 そうなれば本当に俺達が歩んできた道の意味の全てが無に帰る。 なんとしても止めなければいけない。 彰利 「……ま、なんだかんだで俺とお前なワケだよな、最後は」 悠介 「お前は戦わないけどな」 彰利 「応援なら任せろ」 悠介 「寝言は寝て言え」 ……くだらないことを言い合って、やがて顔を見合って小さく笑った。 死ねばこれが最後の笑み。 果たせばきっと、いつまでだって笑っていられる。 だったらなんとしてでも果たしてみせよう。 俺達や、いろいろな人々が歩んできた道と、歩むべき道のために。 彰利 「歴間移動───開始」 景色が光に包まれる。 転移した先でミルハザードが何をしているのかは解らない。 けれど、みさおを救うことに余念は無い。 だったら───今はそれを第一に考えるべきだ。 そんなことを考えている内、やがて景色は変わっていった。 ───……。 ……。 そしてその場へ辿り着く。 降り立った場所はロトニウス地方の近くだろうか───見覚えはあった。 が─── 彰利 「ッ───!!」 悠介 「───な……」 そこで俺達が見たものは、明らかに想像を超えたものだった。 否───誰が予測できるだろう。 ……ミルハザードは確かにそこに居た。 だがソレは何かを食らっていた。 それがなんなのか───解らない俺達じゃあなかった。 彰利 「冗、談……だろ?」 彰利が愕然とした声を出す……当然だ。 何故ならソイツは、ソイツ自身(・・・・・)を食っていた。 いや───丸呑みにしてみせた。 顎が裂けようが喉が潰れようがお構いなしだ。 無理矢理飲み込んでみせ───融合した。 この時代のミルハザードと、だ。 黒竜王『ヴ……ギググ……!!ツゴモリ……ツゴモリツゴモリツゴモリィイイ……!!!     コロシテヤル……コロ……コロコロ……ギギ……!!』 悠介 「っ……」 見ていられなかった。 その目は既に完全にイカレ果て、焦点さえも定まっていない。 裂けたままの口から漏れる『ツゴモリ』という言葉だけが ソイツの全てを支配しているかのように、 目は焦点を捉えぬままに顔だけが俺の方へと向けられた。 彰利 「……悠介……」 悠介 「……彰利、みさおを頼む。切り離したらすぐに転移してくれ」 彰利 「悠介!?本気かよ!殺されるぞ!?」 悠介 「いいから。お前はみさおを連れて何処か遠くに逃げろ。     この時代じゃなくてもいい。未来にだって構わない。     あいつは……絶対に俺がなんとかするから」 彰利 「なんとかするったってよ……!」 悠介 「っ───」 彰利 「あっ───おい!悠介!戻れ悠介!!冗談なんかじゃねぇ!!     本気で殺されちまうんだぞ!!解ってるんだろお前も!!     ただでさえとんでもない黒竜王がそいつ自身と融合しちまったんだぞ!?     単純計算じゃあ強さは二倍だ!     あいつはもう誰だろうが戦って勝てる相手なんかじゃ───!!」 彰利の言葉を振り払うように疾駆した。 先に待つのは死か、それとも───俺達が望む未来なのか。 そんなことを、ただの少しだけ幻視した。 悠介 「ノート……頼む」 ノート『……正気か。分離を行使すれば汝は全力で戦えなくなるんだぞ。     召喚獣や飛竜を分離させるのとは訳が違う。     あれだけの存在から分離できるのはせいぜいでみさおひとり。     ミルハザードの分離は絶対に成功しない』 悠介 「……ああ、解ってる。だからみさおだけ分離してくれればいい。     どのみち相手がミルハザードな限り、分離したところで二対一は避けられない。     だったら一対一の方がまだ対処出来る」 ノート『………』 ノートは無言だった。 だが俺の意思を受け取ってくれたのか、力の行使を開始した。 黒竜王『ツゴモリィイイイイイッ!!!!』 悠介 「───!」 ……近づかれたことを視認出来なかった。 気づいたら目の前。 巨大な口が開かれ、その奥で極光が煌いていた。 ノート『避けろマスター!』 悠介 「いいからやってくれノート!早く!!」 ノート『くっ───!!』 ノートが分離を開始した。 その刹那にミルハザードの体からみさおが切り離され、虚空に舞う。 俺はその姿をブラックホールで彰利の手元に転移させ、ありったけの思いを込めて叫んだ。 悠介 「逃げろ彰利ぃいいいいっ!!!!」 彰利 「───!!」  バガァッ!!ドガガガガォオオオンッ!!!! 次の瞬間には景色が真っ白に染まった。 避けようとしたが避けた方向に首を振られ、為す術など無かった。 俺がせいぜい出来たことは、地面が破壊されないように上空へと飛翔するだけ。 それだけで───俺の目の前の全ては光に包まれた。 ───……。 ドッガァアアアアッ!!! 悠介 「がはぁあああっ!!!」 体が岩山に沈む。 生きていたのが不思議なくらいの衝撃を受け、 竜人状態でさえ眩暈するその威力に少なからず物怖じした。 悠介 「づっ……大丈夫かお前ら……!」 それでも岩山から体を起こすと、 俺をかばってくれた精霊たちとディルゼイルに語りかけた。 ノーム『だ、だいじょーぶだぞー……』 サラマ『動く分には支障はないが───ぐっ!』 ディー『サラマンダー、無理はしないで。……癒しの力をここに。キュアライト』 傷ついた精霊全てにウンディーネが回復の奇跡を振り撒く。 ひとまず傷は回復したが、だからといって安心出来る相手じゃない。 シルフ  『とんだバケモノになったものだな……』 ニーディア『己の許容を超えた力を一気に手に入れた故だろう。       みさおとやらと融合したのは最初からこれが目的だったわけか』 ウィル  『己の力のみで立ち向かわないとは……美しくない』 シェイド 『言っている場合か。       ただでさえ少なかった勝てる見込みが潰えたと言っていい状況だぞ』 ディル  『どうするのだ王よ。正直こんな事態は予想外だ』 悠介   「………」 遠く離れた草原で空に向かって咆哮を飛ばすミルハザードをイーグルアイで眺める。 既に何を思っているのかまるで解らないその様は、 完全に狂った狂戦士(バーサーカー)のようだった。 ノート『こうなってしまっては希望は少ない……だが汝はそれでもやるのだろう?』 悠介 「……当たり前だ。もうあいつは次元干渉を使えるバケモンだ。     ここで逃げたところで何処まででも追ってくる」 ノート『……否定してやりたいところだが、その通りだ。     あいつはどんな手を使ってでも屠らねばならない』 そう。もう開放がどうとかの状況じゃなくなってしまったのだ。 アレはもうただの破壊者。 自分を王だのと言えていたゼットとは違う。 完全に力に飲まれ、その上で微かに残る情報を元に破壊を繰り返す……バケモノだ。 そしてその微かに残る情報というのが『晦悠介』と『簾翁みさお』に対する感情。 感情の全てはそれぞれだろうが、狂戦士に至ってしまったのなら取る行動などひとつ。 即ち───破壊のみ。 ノート『その通りだ。会話が通用するだなどと思うな。     もうアレは汝が開放してやりたかった存在ですらない。     それでも開放してやりたいというのなら、もはや絶命こそが開放だ』 悠介 「………」 解ってる。 そうしない限り、もうあいつは解放されはしない。 ノートは言ったんだ、『あいつの分離は出来ない』と。 それはつまり、もうあいつはずっとあのままだということ。 正気を失ったあいつを野放しにすることは、 それだけで世界の滅亡にも繋がるということだ。 悠介 「やるしか……ないんだよな。俺はあいつを殺さないと───」 ノート『……なんの慰めにもならないかもしれん。だが敢えて言おう。     殺すのではなく、救ってやるのだと考えろ。     ミルハザードへの救いになる選択肢がそれしかないのであれば、     それは間違い無く救いになるのだと信じろ』 悠介 「……───ああ。サンキュ、ノート」 ノートに感謝をしつつ、屠竜剣を構えた。 ───もう戻れない。 なるほど、転移したらもう戻れないっていう彰利の言葉も奇妙な因果で真実になったな。 悠介 「そして……悪い、ノート。約束破る」 ノート『……仕方ないだろう。こうなってしまってはそうでもしなければ死ぬだけだ。     この空界が無残に滅びようと心配するな。私が出来る限り再生させよう』 悠介 「……ん」 ノートに弱々しい笑みを送ると、ゆっくりと体の隅々に竜人の力を満たしてゆく。 即ち───暴走覚悟の神魔竜人全力開放。 さらに黄昏を創造してから再び創造したエリキシルを飲み下し、全てを万端にして構えた。 そして……俺を見つめる精霊たちとディルゼイルに向き直ると、深呼吸をしてから言った。 悠介 「悪い、お前達は彰利たちと一緒に居てくれるか?     こっちは俺だけでなんとかするから」 ディル『なっ───正気か王よ!それでは貴様が───』 ノート『いいや飛竜よ。ここはマスターの言う通りにしておけ。     マスターは己が裡の竜の暴走を覚悟で立ち向かうのだ。     その上で一番危惧することは、暴走した時に汝らを傷つけてしまうことだろう』 ディー『悠介さま……そんな……』 ウィル『そんなことは一向に構いません!     このウィルオウィスプ!いつでもマスターの一番傍に───』 ドゴォンッ!! ウィル『ブベッ!?』 ノート『……汝は少し黙っていろ。では汝ら、それでいいな?』 精霊達『………』 ディル『………』 精霊達とディルゼイルは何も言わなかった。 その代わりに確かに頷くと、ノートとともに飛翔し───視界から消え去った。 悠介 「すぅ……はぁ」 あとは俺だ。 あのバケモノ相手にどうやって立ち回るか─── 悠介 「……そんなの決まってるよな。いつだって全力だ」 強がりをしたかったわけじゃない。 けれど自然に出た笑みを噛み締めるように屠竜剣を握る手に力を込め─── 悠介 「“───戦闘、開始( セット )”」 改めてその言葉を唱えた。 ───さあ始めよう。 無謀でしかない、俺達の未来を守る戦いを───!! 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