そうして、静かな景色が目の前に広がった。 吹く風は地界のソレよりも穏やかで、だけど今も何処かで誰かが戦うこの世界。 不思議なもので、多分どこよりも戦いのあるこの世界は、どこよりも穏やかでもあった。 ……こうして落ち着いて息を吸うなんてどれくらいぶりだろう。 きっとそう遠くはない過去を思い返して、何気なく苦笑した。 思い出せないのは平和な証拠。 疲れたように、だけど笑みを浮かべることが出来るのはやり遂げた証拠。 きっとこれからもっと楽しくなる未来を思って、俺はまた笑ってみせた。 なんでもない、だけどかけがえのないこの日常に感謝をしながら。 ───おさらいってことでアニメの総集編よりはダレない程度に愛を語る黒───
【ケース01:弦月彰利/『ラベルト=ゲラン』と『ロベルト十団』って似てるよね】 彰利 「いや似てねぇよ!!」 みさお「なにがですか?」 彰利 「さあ。というわけで叫びましょう!」 ゴォオオオォ…… 彰利 「フ〜〜〜ア〜〜〜ムア〜〜〜〜〜イ!!!」 さて、現在ウェルドーン山頂。 悠黄奈さんの意識調査のために、ヤムヤムの工房へと来たのですが…… 如何(いかん)
せん暇なのです。 だからこうして頂上に来て風を受けながら叫んでるわけですが。 彰利 「……戻ろっか」 みさお「なにやりたかったんですか」 知りません。 ───……などとやってたのが一時間前。 結局ヤムヤムの屋敷の、さらにヤムヤムの工房前でしばらく待つ頃になったのですが……。 チャカランチャンチャンチャチャチャッカラッチャッチャ〜〜ン♪ 彰利    「うぃで〜みつ〜♪」 みさお   「それは!」 彰利&みさお『ハイオク〜ハイオク〜ハイ〜オク〜♪』 彰利    「うぃで〜みつ〜♪」 みさお   「それはぁっ!!」 彰利&みさお『お出かけにお出かけにお出か〜けに〜♪』 彰利&みさお『うぃで〜みつ〜♪(それは!)うぃで〜みつ〜♪(それはぁっ!!)』 …………。 彰利&みさお『とにもかくにもいろいろあれこれうぃ〜で〜み〜つ〜だーーーっ!!』 …………。 彰利 「………暇」 みさお「ですねー……」 暇なあまり、マンホールズの『出光(うぃでみつ)』ソング歌っちまったよ……。 とはいえ、まあしゃあないか。 他のことしようにも、悠介の意識調査が気になってヤムヤムの工房前から動けやしない。 彰利 「居留守かーっ!?とでも言ってみる?」 みさお「やればやるだけ遅れるわよ、って脅されたじゃないですか」 彰利 「や、そうなんだけどね?いや〜、俺達の行動パターンをよく知ってる対処だよ」 みさお「俺達の、じゃなくて彰衛門さんの、の間違いですけどね」 彰利 「グムムーーー……」 世界に蔓延るパパ上さま……娘が酷いこと言うんです。 でもまあふざければ付き合ってくれるし、べつにいいんですが。 ガチャア─── 彰利 「むっ!?」 みさお「あっ───」 と、その時でした。 工房のドアが開かれ、中からヤムヤムが出てきたのです! 彰利 「お、おぉお……終わったか。して……結果は?」 ベリー「おめでたです」 彰利 「なんと!?母さん赤飯だ!!」 みさお「訳解りませんよ!」 彰利 「まったくだ!!」 が、騒ぎながらも視線はふたりともヤムヤムに。 じゃけんど、ヤムヤムは一度チラリとみさおさんを見ると、 工房に入ってるように、と促した。 みさお「……?」 みさおさんは首を傾げながらも工房の中に入ってゆく。 で……残されるオイラは自然的にヤムヤムと向き合うこととなった。 ……フッ……どうやらこのワシに話があるようだぜ? それでは改めて訊いてみましょう。 彰利 「んで……結局のところ悠介はどうなん?」 ベリー「えっとね……男───っていうか悠介に戻すことは、今は無理だけど可能よ」 彰利 「マジですか!?」 ベリー「ん、マジ。でもね、今の悠黄奈ちゃん、ちょっと危険」 彰利 「危険……って?暴走とか!?」 ベリー「違う違う。なんかね、魔力と諸力とマナの回復が出来なくなってるの」 彰利 「へ……?なんすかそれ。行使のしすぎ?」 ベリー「……ちょっと違うみたいなのよね。     得体の知れない力で抑えられてるっていうかね」 彰利 「……?」 訳解らん。 けど───得体の知れない力ってのはなに? いや、それが訳解らんけど。 ベリー「あ、それと……これが一番重要なんだけど。     悠介───というか悠黄奈ちゃんの中から、     『無の諸力』と『魔力の大半』が無くなってるの」 彰利 「無くなってるって───何故かね!」 ベリー「そんなことわたしが訊きたいんだけどね。でも変なのよツンツン頭。     ノート、居るでしょ?あの時空の狭間に消えてったノートね?」 彰利 「んなこた解りますけど」 ベリー「なんかね、悠黄奈ちゃんの中からノートの波動を感じられるのよね。     これ、どういうことだと思う?」 彰利 「……悠介ン中にある無の諸力の反応だったってオチは?」 ベリー「言ったでしょ、無の諸力は無くなってるの。     だから悠介の中の諸力の反応ってことは絶対に無いわ」 彰利 「………」 そうなんか。 じゃあ───実は次元に消えたと見せかけて、すぐに悠介の中に転移したとか。 ……いや、まさか、だよなぁ。 彰利    「んじゃあ悠介の中にマジでノートが居るってこと?」 ベリー   「さぁ……断言は出来ないけど」 声     『いいや。その通りだ』 彰利&ベリー『おひゃぁあああああああああっ!!!!』 何処からか聞こえた声に心底ビビった。 いや、ビビる必要なんてなかった筈だったんだが、なにせいきなりだったもので。 彰利 「ぬおぉ!?ル、ルドラ!?」 で、振り向いた先にルドラが居た。 じゃけんど───感じる気配はどうしてかノート……って、あれ? ルドラ『ふむ……世界を創造した時点と、無の精霊の私に対する干渉を拒んだこと。     そしてなにより、この口調で解りそうなものだろう。汝は存外鈍いようだ』 彰利 「え……え、えぇええええっ!!!?ウソでしょう!?     ル、ルルルルドラ───キミって……ノーちゃん!?」 ルドラ『───刮目せよ』 ……ルドラはノーちゃんお馴染みの言を唱えると、自分の手に石を出現させた。 それを首飾りに変えると、次は杖に変え───地面に突き立てた。 すると長めだった髪の毛の全てが後ろにブワァッ!と下がり───アアーーーッ!! 彰利 「うぅっわきったねぇ!!そんなんありかよ!!」 私は大変驚きました─── だってね、ルドラの姿ってば髪の毛を全部後ろに流すだけで…… 思いっきりノーちゃんなんだもの。 彰利 「くっは……おかしいとは思ったんだよ……!     悠介と俺の思い出の世界───黄昏とは関係ねぇあんたなのに、     どうして展開する世界が黄昏だったのか、って───!!」 名前だって最初っから『黄昏を抱く創造の世界』だった。 それってつまり、俺達が気づけなかっただけで、 最初っからこやつは全てを知ってたってことで……!! 彰利 「おのれ貴様!よくも今まで俺達を騙し続けてくれたな!!     貴様にゃ言いたいことが腐るほどある!ちょっと耳貸せやコラァ!!」 ノート『………いいだろう。汝にはそれを言うだけの資格がある。遠慮などするな』 彰利 「うっしゃあ!耳の穴かっぽじってよく聞けよ!?えーとえーと……あんがと」 ノート『……なに?』 おお、ノーちゃん驚愕。 でも構いません、続けます。 彰利 「や、キミが居なかったら俺達空界ごと消えてただろうから。     それに、キミのお陰で強くなれた。     決めてたんだ、もういっちょ会えたら絶対にお礼言おうって」 ノート『……熱でもあるのか?』 彰利 「なんだとてめぇ!!生きてりゃ誰でも熱あるわ!!」 ノート『……フフッ、ああいや……すまない。予想外だったものだからな。     だが私こそ礼を言いたい。汝らのお陰でもう一度、この世界へ辿り着けた』 彰利 「ム───」 ルドラ……つーかノーちゃんは驚くくらいに自然な笑みを俺に見せた。 それはなんとも驚愕の一瞬───だったから、それに対して極上ガイアスマイルを送った。 ……ら、哀れみの表情を送られました。 ガイアさん、この人……じゃなくて精霊、ヒドイです。 彰利 「あ、でも訊きたいんだけどさ。     悠介の中の無の諸力ってやつと魔力の大半を奪ったのってノーちゃん?」 ノート『ああ。精霊の力を取り戻すために少しずつ吸収していたんだがな。     こうして戦いも終わった。ならばもういいだろうと、全てを頂いた』 彰利 「うお……どぎゃんして?」 ノート『今の宿主……いいや、もうマスターで構わないか。     今のマスターは不安定だ。     いくら泉で癒されたとはいえ、無茶をすれば安定していない魂が崩れるだろう。     だからこそ、力があれば無茶をするだろうと思ってな。大部分を奪った。     ……三つの戒めをくれてやるには丁度いい状況だった』 ベリー「三つの……戒め、って?」 ノート『この空界を融合に導いた先で、私は神界に降り立った。     そこでの私は力を使い果たしていてな。     魔力も使えなければ諸力も使えない。かといって神界にはマナが無い。     精霊として決定的な三点を失ってしまったということで、     三つの戒めと称して己に枷たのだ』 己に刻んだ、ねぇ……。 もしかして名前が『ノート』から『ソード』になったのってそんな安直なコト? 『欠点』の『点』とかけて、点を三つ増やした〜、とか。 や、まさかね。世界の精霊ともあろうものが……ねぇ? 彰利 「で、その戒めを今まで苦労してきた分、腹いせに悠介に送ったと?」 ノート『ついでに言えばマスターを女に変えたのも私だ。     こうしておけば戦いに行きたくても行けないだろう』 彰利 「なに考えてんだてめーワ!!」 ベリー「てめーワじゃないわよ!     で、でもとにかく!わたしの薬の副作用じゃなかったわけね!?」 ノート『そういうことだ。問題は無い、魂が安定するまであのままで居させればいい。     私との契約も再びさせてもらったから、     魂が安定する頃には諸力も魔力も回復するだろう』 彰利 「うーわー、すげぇ傍若無人っぷり」 ベリー「あ、ちょっと待った。キミ……あ、いや、スピリットオブノートって、     今まで悠介の中の神と死神を担ってたのよね?     だったらそれが精霊になっちゃった今、悠介の中の神魔ってどうなるの?」 うおう、そりゃもっともな意見。 言われてみて不安になってきましたよあたしゃあ。 ……じゃけんどノーちゃんはべつに気にした風でもなく、世間話でも語るかのように ノート『問題は無い。精霊の状態でマナが無かった頃とは話が違う』 と言ったのです。 彰利 「オウコラハゲデブアブラムシ、そりゃいってぇどういう意味で」 ホゴォンッ!! 彰利 「覇王ッ!!」 ベリー「ややこしくなるから黙ってて……!」 彰利 「おがががが……!!な、なにすんねん……!!」 黄金がシュートされました……目の前に火花が飛んでるよ……。 しかも火花に混ざってジョルノ=ジョバァーナまで飛んでるよ……。 ああもう訳解ら〜ん……。 ノート『説明すればこうだ。私が神界に降り立った時、私には魔力も諸力も無かった。     マナが無いのだから当然だな、精霊はマナを諸力や魔力に変えて行動する。     それは知っているな?』 ベリー「それはもちろん」 ノート『だが幸いにして私は【無】だった。     どのような場だろうが、時があれば馴染むことは出来る。     神の力を開花できたのは神界で生きた故だ』 ベリー「うん、それも解るけど」 ノート『ではそれを理解させた上で訊こうか。     今の私はマスターの中にあった【無の諸力】と【魔力】を手に入れ、     既に【無の精霊】として大分力を取り戻している。     汝らが危惧している神魔の行方だが、     果たして神と死神には精霊のように力の回復に必要なマナが存在するか?』 ベリー「へ……?あ、あぁあああっ!!!!」 彰利 「むっ!?なにかね!ひとりで納得するなんてずりぃぞてめぇ!!」 ベリー「……ホント動じないわよね、あなた」 彰利 「よせやい」 そげに褒められたら照れてしまうじゃないですか。 ベリー「えっとね、ノートが言いたいのはつまり。     精霊には魔力と諸力の回復にマナが必要だけど、     神や死神は自然的に回復してゆくの。     そりゃあ闇や神聖なんてものがあれば回復速度は変わるだろうけど、     そもそも自動回復なのよ。精霊と違って」 彰利 「ふむん?」 ベリー「で、ここからが問題。ノートは、ノートが降り立った神界には     マナが無かったからこそ精霊であることを一時的にやめて、     『神』になってその場に順応した。     でも神と死神の力がほぼ自動的に回復するシロモノなら、     わざわざそれを捨ててまで精霊に戻る意味なんて何処にもないわけ。解る?」 彰利 「解らん。なに言ってんだてめぇ」 ズパァアアアアーーーーンッ!!!! 彰利 「ペキャアーーーーーーーイ!!!!」 物凄い炸裂ビンタがボクの頬を襲いました……おお痛い。 彰利 「な、なにすんねん!!」 ベリー「いーい!?つまりね!今のノートは神でも死神でも精霊でもあるってこと!!     地界で言う月の家系も神と死神の力の果てに生まれた家系なんでしょ!?     それと似たようなものなの!!解る!?」 彰利 「うむ解りやすい!最初っからそう言えタコ!」 ベリー「こ、このトンガリくんがぁああーーーーーーっ!!!」 彰利 「お?なんだ?やンのかコラ!!」 ノート『……静まれ汝ら』 ベリー「だ、だってこのツンツン頭がっ……!」 彰利 「はーい、オイラ静まりまーす。……いつまで騒いでんの?」 ベリー「ギ、ギィイイイイイイーーーーーーーッ!!!!」 ギャーギャー騒ぐヤムヤムを悠介がそうするが如く無視して、ノーちゃんに向き直る。 まだいろいろと気になることってあるしね。 彰利 「えーと、ようするに悠介ってばまだ神魔も使えれば月操力も使えるってこと?」 ノート『そういうことになる』 彰利 「ちなみにルドラが使う黄昏に『鎌』としての形が無かったのって、     元々が鎌としての能力じゃなかったからってことなんかな」 ノート『半々だな。マスターの中の死神と融合し、     本人の力や鎌の力を吸収したからこそ世界の創造を行使できるようになった。     ならば、形が無いとはいえそれが【鎌】の力であることに変わりは無い』 彰利 「あー……なるホロ。だから完全にコピー出来なかったわけね?」 ノート『そういうことだ。なまじっか【鎌】としての力も混ざっている所為で、     中途半端なコピーだけは可能になってしまっていたがな』 彰利 「あ───じゃあ質問。悠介の黄昏って結局鎌だったん?」 ノート『それも半々だな。     未来におけるマスターの作り出す黄昏は確かに鎌の力を借りたものだ。     が、現代のマスターが作り出した黄昏は、     間違い無く創造の理力で創造されたものだった。     故に現代と未来のマスターが融合してからの黄昏は結果的に半々。     創造の理力でもあれば、鎌の力でもある。     一度【形のみ】をコピーした汝なら解るだろう?』 彰利 「あー……形だけはコピー出来たんだけど、いきなり硝子細工みたいに砕けたね」 あれはほんにビビリました。 いきなりガシャアアアンだったし。 ってそっか。 ようするにあれこそが『半々』の結果ってことか。 俺がコピーしようとしたのは鎌であり、 結果的に鎌と創造の理力との半々で形成されてる悠介の鎌の複製は失敗に終わった。 俺がコピー出来たのは『鎌だけ』であり、世界を創造するために必要な半分─── 即ち『創造の理力』はコピーできなかったということだ。 そういや悠介の記憶の映像の中でもノーちゃんが言ってたもんね。 『複製は行われた時点で複製でなければならない』的なことを。 その鎌を複製するなら、現れるものはその鎌でなくてはならない。 だからこそ、形があっても中身の無い複製品は壊れたのでしょう。 彰利 「あー……ナルホロナルホロ。     やっぱ頭のいいヤツが居ると納得できることも多いね」 ベリー「なんでわたしを見ながら言うかなぁ……」 彰利 「まあそげなわけで───質問ラッシュになるけどいいかな」 ノート『既にそうなっているだろう。なにを今さら気にすることがある』 ……違いないですな。 ───……。 ……。 彰利 「へー……つまり?ノーちゃんが悠介に……あ、違うか。     その時はまだルドラだったわけだし。     ともかくルドラが悠介に『汝には汝の言がある』って言ったのは、     悠介に成長を促すためだったってこと?」 ノート『そういうことだ。早い段階で【真】に至ったとしても、     それではマスター自身の成長に繋がらない。     ああして己自身で己の言に至ろうとすることで、     確かにマスターは至るところまで至った』 彰利 「まぁねぇ……今の悠介に勝てるヤツなんて、俺ゃ知らんよ……。     って、ノーちゃんなら大丈夫でないかい?」 ノート『フフ、さあな。戦う気が無いから決着の行方などそもそも存在しない』 彰利 「ありゃ」 まあそりゃそうか。 世界を融合しちまうような人だ、考えてみればいくら悠介でも敵わないだろう。 じゃけんど……そげな精霊のマスターなんだよね、悠介って。 いやぁ、やっぱファンタジーって不思議だわ。 彰利 「そんでさ、ヤムヤム。悠黄奈さんを悠介に戻す方法ってあるんだよね?」 ベリー「魂が落ち着くまでは女の子のままにしとくけどね。     一応方法としてはもう記憶させてあるわ」 彰利 「記憶って?」 ベリー「ほら、悠介とツンツン頭って唱えと動作で猫になれるじゃない?     それと同じように、動作と唱えで悠介に戻れるようにしておいたから」 彰利 「ほほう……で、参考までにどげな動作と唱え?」 ベリー「ふとしたことで発動しないように複雑なものにしておいたけどね。     えーと……やってみた方がいい?」 彰利 「いい」 ノート『興味はあるな』 ベリー「………」 ヤムヤムがひとつ溜め息。 そしてコホリと咳払いをしたあとに顔を赤らめると、ゆっくりと構えた。 ベリー「ドンドコドンドコズンバコズンドコドンドンドンドンドン!アイヤーーーッ!!」 で……動作と唱えを実践してみてくれたんだが。 なんだい、サクラテツじゃないか。 ベリー「……えーと……まあその、こんな感じ」 彰利 「キミ……馬鹿?」 ベリー「あんたにだけは言われたくない」 ひでぇ言い草だった。 ベリー「大体にしてこの動作だってツンツン頭の記憶から取り出したものなんだから。     記憶の素であるツンツン頭にそんなこと言われたくないわよ」 彰利 「だからってそれを唱えにするって……ふとした拍子に発動したらどうすんの」 ベリー「うん?悠介に戻ったら魂が竜に傾くからね。     弱ってる人間の魂が押しつぶされてまた死ぬわよ」 彰利 「なんと!?で、で───もし死んだらどうなるのかね!?」 ベリー「またホムンクルスを飲み直してもらうことになるわね。     その時悠介は死んでるのと同じだから、     またツンツン頭に飲んでもらって送信してもらうことになるけど」 彰利 「な、なんですってぇええーーーーーーーっ!!!?」 また……また馬糞を飲めと!? オイラもうあんなの冗談じゃねぇです!! 彰利 「全力で悠黄奈さんを守りましょう!」 ベリー「……?言われるまでもないけど。どしたの急に」 彰利 「いや……訊かないでください……」 あれは不幸な事故だったんだ……忘れよう。 彰利 「さてと、質問はこのあたりでええかのぅ」 ベリー「ん、そうね。じゃあ次は悠黄奈ちゃんの様子でも見ますか」 彰利 「あ、賛成〜っ!もう起きてはいるんだよなぁ?」 ベリー「一応ね。慎ましやかに元気よ」 慎ましやかに元気って……どういう感じだ? まあいいコテ、会いに行きましょう。 我等はコクリと頷くと、静かに工房へのドアを開くのでした。 ───……。 ……。 ゴワチャアァ…… 彰利 「竜ちゃーん!居るー!?」 悠黄奈「あの、すいません。ここに竜、という人は居らっしゃらないようです。     あ、もしよろしければわたしも探すのをお手伝い致しますが───」 彰利 「あぁあいやいやいや!!冗談だから冗談!ね!?」 悠黄奈「そうですか。失礼しました」 彰利 「グウウ……」 入った途端の言葉は冗談ともとられずに受け止められてしまった……。 いつも通りの冗談だったっていうのに、罪悪感がモシャアと心の中を襲いました。 まあこれもいつかは慣れてゆくんでしょう。 地界のみんな、僕は頑張っていきてゆきます。本当です。 もう空を走りながら『わーい!』とか言っちゃいます。 人を殺したことだってあるっていうのに、 あの笑顔は反則だと思うんですが、どうでしょう。 彰利 「漂流教室ってすげぇ漫画だったよな……」 みさお「入ってきた途端に思いふけないでくださいよ」 そんなもんは俺の勝手だと思うんだが。 まあよいです。 彰利 「悠黄奈さんモーニン。調子はどうかね?」 悠黄奈「はい、よく眠れました。意識調査、というのは……眠ることなんですか?」 彰利 「や、ちと違うけど」 眠るのは確かだけど、眠ってる間に調査されるようなものだし。 つーか…… 彰利 「ヤムヤム?べつに寝かせてからやらんでも、     キミなら普通にデータ分析できたんじゃない?」 『ホラ、俺と悠介が初めてキミに会った時みたいに』、と続ける。 ヤムヤムは『あ〜』なんて懐かしがりながら天井を見上げていたけど、 俺に視線を戻すと『にへら』と笑って 『急に訳の解らない光で分析されたら怖がるでしょ』って言った。 ……考えが無いわけでもないらしい。 彰利 「……ちなみにみさおさん。キミは知ってるのかね?」 みさお「え?なにがですか?」 彰利 「ノートのこと」 みさお「ノ……?あ、あれぇっ!?」 みさおが工房の出入り口に立っているノートを見つめて驚愕。 みさお「な、なんでノートさんが居るんですか!?次元の彼方に消えた筈じゃあ……!」 彰利 「その説明はちと長くなるから後でな。     ただ知ってるかどうかを知りたかっただけだから」 でもこの驚き様を見れば一発だがや。 てっきり俺とヤムヤムが話し合ってる時に、 既にノートからみさおに話が通ってるかと思ってた。 彰利 「で、これからどぎゃんするん?まだ調べることとか残ってるん?」 ベリー「様子が見たかったんでしょ?     意識調査も終わったし、魔導と諸力の原因も解ったんだから帰っていいわよ。     ていうか……こんなこと言ってるとどこぞの医者みたいね」 彰利 「………」 リヴァっちともども、ドラえもんチックになりかけてるとは言わないけどね。 彰利 「んじゃ、行きますか。悠黄奈さん、OK?」 悠黄奈「あ、はい。でもあの……わたしに帰る場所、というのは存在するのですか……?」 彰利 「ム」 ……しもうた。 考えてみりゃあこの世界に俺達の帰る場所なんぞなかった。 レファルドは既に悠介に謀反したらしいし、他の国なんて余計でしょう。 ……悠介の工房にでも行くか? や、でも俺開き方知らないし。 アカデミーにあった工房はもう『工房の鍵』を取り外しちまったらしくて、 あそこからはもう入れなかった。 困ったな、おなご状態で地界に戻ったら中井出たちのオモチャにされちまうし。 他の誰かならそういうことは喜んでするんだが、悠黄奈さんにするにはちと可哀想だ。 いや……ほんに元が悠介だなんて考えられねぇよ。 そりゃね、雪子さんのガッコの文化祭に行った時に女装させた悠介も、 めんこかったと言えばめんこかったけど。 彰利 「まあいいコテ。そんじゃあリヴァっちのところにでも行くか。     リヴァっちならこっちの次元のこととかに詳しそうだし、     工房のドアくらいこじあけてくれるでしょう」 ベリー「……目の前にウェルドゥーンの赤い魔女が居るのにそっちに行くっていうの?」 彰利 「だってキミだと『体で払え!』とか言ってきそうだし。     リヴァっちと俺の仲だからな!きっと無償で聞いてくれるよ!?」 ベリー「どういう目で見られてるのさあたしゃあ……べつに代価払えなんて言わないわよ。     で?どんなこと調べてほしいの。     実験体になれだなんて言わないから言いなさいな」 彰利 「……とても出会った早々に人体実験しようとした者の言葉とは思えませんな」 ベリー「ちょっとね、争いの中で思考が至ったっていうのかな。     ともかくわたしは悠介の味方でいることにしたのよ。だからいいの」 彰利 「ふむん?」 まあいいっていうならいいけどね。 彰利 「悠介の工房の開き方って解る?」 ベリー「あ、なぁんだそんなこと。簡単よォ。伊達に魔導ハッカー空界一を誇ってないわ」 みさお(……誇れたもんじゃないですね) まったくだ。 月影力で影を繋げてきてまで言葉を送信してきたみさおにそう返す。 聞かれたらややこしくなりそうだし。 ベリー「ちょっと待ってて。えーと───」 ヤムヤムが光を灯した指を()る。 すると宙にいろいろな画面のようなものと文字の羅列が広がり、 ヤムヤムが次元干渉がどうのと唱え始めた。 ベリー「ほら見つかった。悠介の工房でいいのよね?」 彰利 「イエス。開ける?」 ベリー「わはー……無理」 彰利 「ぬおっ!?な、なんだとてめぇ!     見つけるまで簡単だったくせに開けられねぇとは如何に!?」 ベリー「あっはっはぁ、だって悠介のプロテクトって完璧すぎるんだもん……。     これ、他のハッカーが見たら泣くわよ……?」 彰利 「……ちなみにどげなプロテクトかけられてんの?」 ベリー「えっと……こういうのって文字とか言葉とかいろいろなものごとを鍵にして、     何重にもロックするのが基本なんだけどね。     悠介ったら『イメージ』でロックしてあるの。     だから漠然としてて『擬似的な鍵』も作れなければ、強引に解除することも無理。     工房初心者の場合、プロテクト解除の言葉だのを自分が忘れても平気なように     ヒントとかを組み込ませてたりするんだけど───」 彰利 「それもなかったと?」 ベリー「ううん……あったけど。     『日本の歴史において、大業を成し遂げた者を出来る限り鮮明に述べよ』だって」 彰利 「………」 ああ、そりゃ無理だ。 無理だぜ親友……。 よっぽど日本のことを学んだ空界人じゃないと、そりゃ無理だ……。 つーても……悠介のことだ。 ヒントがそれでも、どうせ『10人以上を述べよ』とか 『それは大業なんかじゃない』とかと断ずるんだろう。 というわけで不可能。 こりゃあ悠介じゃなけりゃあ開けられねぇわ。 悠黄奈「日本の……あの、それでしたらなんとか出来そうな気がしますが」 彰利 「へ?あぁいいよいいよ、無理せんで。悠黄奈さん、記憶が曖昧なんだから」 ベリー「そうそう。人格として生まれちゃったんだから、     基本的な事柄の記憶以外は確かに存在しない筈。悠黄奈ちゃんには無理よ」 悠黄奈「……大丈夫です。大丈夫、のような気がするんです。     もしわたしでも出来るのでしたら、お手伝いをさせて頂けませんか?」 ベリー「うぐ……」 彰利 「ぬう……」 ……まいった。 こうまで真剣に頼まれると断るに断れない。 なまじっか記憶が曖昧だったりすると、 どうにもこう……ウソや偽りが無いから返答に困る。 真面目に対応してやらねばって気を起こしたのなんてどれくらいぶりだよ俺。 ベリー「……そ、そうね。基本の術式は悠介の力として裡にあるわけだし───。     えっと、いいかな?     まず指に光を───あ、光っていうのは『式』を描くのに必要なもので───」 ……こうして、ヤムヤムの手短な授業が始まりました。 コツを伝えて手短に説明するものだったが、さすがは基本が悠介なことはある。 悠黄奈さんは要領よく記憶してゆくと、 すぐに指の先に式の光を浮かべられるようになった。 ベリー「で、自分の指が宝石箱を開ける鍵だっていうことをイメージするの。     宝石箱じゃなくても、自分の大切ななにかをしまっている箱でもいい。     それを開けるのは自分の指だってイメージを鮮明にして、     次にこの擬似の扉に触れる。で───あとはヒントを元に答えをイメージして。     最後に頭の中で箱を開けるように鍵を回して。それで完了」 悠黄奈「……はい」 そうして、悠黄奈さんがコクリと頷いたのでした。 ───……とまあ、それが僅か30秒前程度のこと。 ガチャ、バタン。 悠黄奈       「開きました」 彰利&ベリー&みさお『ゲェエエエエーーーーーーーーッ!!!!』 ……で。 かくして悠介の工房のドアは、 満面な笑みの悠黄奈さんの手によってあっさりと開かれたのでした……。 すげぇよ悠黄奈さん……さすが基本が悠介なことはある……。 でもその事実はさっさと忘れるつもりです。 悠介は悠介、悠黄奈さんは悠黄奈さんだ。 既に人格として生まれてしまっているのなら、同一視するのは可哀想ってもんです。 いやしかし……こうも見事に開けられちゃうとね……。 恐るべし、悠介の日本魂……。 ───……。 ……。 悠黄奈「これが工房、という場所なのですか。     ……何故でしょうか、懐かしいと感じます」 彰利 「それはね?記憶を失う前のキミが使っていたからなのですよ?」 悠黄奈「……そうなのですか?」 彰利 「私は大変驚きました」 悠黄奈「……?わたし、なにか驚かせるようなことを言いましたか……?」 彰利 「いえ、仕様なので気になさらんで」 さて、悠介魔導工房へとやってきた我等ですが─── いやいや、相変わらず整頓されております。 ベリー「で……思ったんだけどここで何するの?」 彰利 「なにって……思いつく限り、帰る場所がここしかなかったもんで。     こんな状態の悠黄奈さんを地界に連れてゆくわけにもいかんでしょ?だから」 ベリー「帰る場所って……レファルドに行けばいいじゃない。     あそこの誤解なんてもう解けてるんだから」 彰利 「あれ?そうなん?」 それは知らなんだ……。 彰利 「でも城は破壊されたんしょ?んじゃあ休める場所なんぞ無いじゃない」 ベリー「そこはツンツン頭の月癒力ってやつでどうとでも出来るんじゃない?」 彰利 「ぬう……俺は嫌だぜ!?直すのが城規模になると消費だってハンパじゃない!     そもそもあたしゃあもう悠介に月癒力送りまくった所為で疲れとんの!     月の光も浴びんとのんびり出来るか!!夢だけでメシが食えるか!!」 ベリー「最後のは全然関係ないみたいだけどね。     まあいいわ、確かに今のレファルド見せたら     悠黄奈ちゃんでも悠介でも兵士や民を嫌いになっちゃうだろうから」 彰利 「……む?それって?」 おかしなことを言うヤムヤムに問い返した。 悠介は確かに人物特性の中に『微・人間嫌い』があるけど、 裏切られたとはいえ誰か大事なものや人に危害が落ちない限りは嫌わない筈だが…… ベリー(……大きい声では言えないんだけどね。     悠介が飼育してたウォルトデニス、居たでしょ?     壊された城の瓦礫が悠介が作った泉……というよりは池の中に落ちちゃってさ。     なんていうのかな、全滅しちゃってるのよね) 彰利 「あ……あー……」 そりゃダメだ。 悠介は『被害の無い裏切り』は気にしないだろうけど、 小さいとはいえ『命が断たれる裏切り』は絶対に許さない。 こうなったらもうレファルドの王に戻るとか、そんなことは絶対にないだろう。 で……それは悠黄奈さんも同じだ。 兵士や民の所為で死んでしまった魚を見れば、絶対に嫌悪感を覚えるに決まってる。 ……けどな、なんか違うんだよな。 なにが違うかって言われたら不思議と解らないんだけど。 ………………むう。 彰利 「悠黄奈さん!」 悠黄奈「はい、なんでしょう」 彰利 「ぬ?あ、えーと」 ふいに張り上げてしまった声にも動じず、ゆったりとした動作で振り向く悠黄奈さん。 さすがだ……教えたメイドさんの極意をさっそく使いこなしてる。 メイドさんたるもの、いつの日にもなるべく動じず清楚たれ……そう教えただけなのに。 や、もともとこんなんなのかもしれんけどね。 彰利 「悠黄奈さん、レファルド皇国に行こう」 ベリー「へ?や、ちょっとツンツン頭!?」 彰利 「じゃーじょーぶじゃって。     だってこの世界って融合してからは現代の空界がベースになってるんでしょ?     だったらウォルトデニスのアレは無いって」 ベリー「おばかっ!融合しようがベースが現代だろうが、     『現代のその場』にはウォルトデニスを飼ってた池なんて無かったのよ!?     だったらそこに未来の結果が上書きされるのは当然でしょ!?     しかも融合してから見に行ったんだから残ってるって断言できるわよ!」 彰利 「それでもです。悠黄奈さんにはこの世の汚さを知っていただきます。     善だけでは生きてゆけないということを知ってもらいます     じゃないといつか誰かに騙されてしまいますよ」 ベリー「……メイドって時点で騙されてるんだけどね」 彰利 「おだまりゃあ」 悠黄奈「……?」 ともかく、ぼくらの目的が決まりました。 これからレファルドに行き、全ての真実をお知らせしましょう。 ……つーかさ、現代がベースになってるなら城も壊れてないってことだよね? って違うか。 壊れてないだろうけど、魚が死んだって事実は消えたりはしないってことだ。 ベリー「……えーっと……ここをこうして、と……」 彰利 「むっ!?なにをしておるのかね!」 ベリー「悠介の工房のドアをね、現代の地界と繋げたの。     現代って言ってもわたしにとっちゃあ未来の方が現代なんだけどね。     まあアレよ、未来側の地界に降りたくなったら     リヴァイアの工房から降りればいいから。こっちは現代用ってことで」 彰利 「ナルホロ。ちなみに地界の何処に繋げたん?」 ベリー「えっと……ツンツン頭のデータにあった、『母屋の天井裏』ね」 彰利 「ナルホロ」 それは便利だ。 あそこはどうしてか俺しか近寄らなかったし、 若葉ちゃんからなる晦家の一員は全然近寄らなかった。 だったら滅多にお邪魔されないだろうし、こりゃ便利だ。 彰利 「でも勝手にいじくるなんて、キミもヒドイね」 ベリー「ハッカーに人権なんてものはない。人権が無いならなにやったって許されるのよ」 彰利 「あの……それ普通逆なんじゃない?」 ベリー「存在自体否定されてんのにあれがどーだとか気にしててどうすんのよ。     だったら無法を受け入れて自由を仮初の自由を謳ってたほうがまだ面白いわ」 彰利 「……そりゃ、一理あるわい」 納得しちまったけどしゃあないです。 だってそう思っちまったんですもの。 彰利 「つーわけで行きますか。     えっと……一応さ、現レファルド国王って居るんだよね?」 ベリー「ん、居るわよ。突然現れた池と魚に驚いてたけどね」 彰利 「……つーことは処分される可能性が高いってこと?」 ベリー「あー……そうなるわね」 そりゃいかん。 死体を利用するようで嫌だけど、人々の腹黒さを知ってもらう絶好のチャンスなのに。 え?オイラヒドイヤツ?いえいえ、人の汚さは知っておいて損はねぇ。 これも悠黄奈さんを思えばこそです。 そもそも俺も人間どもって『好き』には部類しないし。 そこんところは悠介と同じわけだ。『微・人間嫌い』って。 ……って、誰に話してるんだか。 誰?そげなもんはもちろん、己の中の影スケさんだ。 僕の中で情報を得ようと頑張っておりますよ。 意思ある影を持つと中々面白いもんです。 まあ知識はまだそれほどないから、俺が暇になってもたいした会話は出来ないんだけど。 彰利 「まあいいさね。話はこれくらいにして、現国王に挨拶しに行こうか」 みさお「はい、なんだか緊張しますね」 ベリー「ヘンタイ的なことやって追い出されないようにね?」 彰利 「任せろ。城ひとつくらい今の俺なら余裕だ」 ベリー「追い出されて抵抗すること前提で行こうとしないの!!」 彰利 「月操力は使いすぎ状態だけど黒は別ですよ?」 ベリー「だから……!追い出されること前提で行かないの!」 べつに追い出されたくて行くわけでもなかったんだが。 まあよいです。 ともあれ僕らはレファルド皇国へ行くこととなったのでした。 Next Menu back