───死と生と絶望と友情に涙する馬鹿野郎と、笑い合うモミアゲと黒───
【ケース14:晦悠介/師備忘録】 ───そうして、全ての国に話を通すという『やるべき事』は終了した。 さらに言えば王の地位をさっさと捨ててしまった元国王どもの後釜もさっさと選ぶと、 それで本当にやることは無くなったんだと思う。 が、やることが終わっても俺と彰利と中井出は飛竜の背に乗り、 空界の空を飛翔していた。 中井出「な、なぁ〜〜っ!!今日は何処行くんだぁ〜〜っ!!?」 彰利の後ろで風を防御していた中井出が言う。 ……が、すぐに砂でも目に入ったのか、顔を一気に逸らしてカタカタと震えだした。 悠介 「町だの村だのに行って知らせなきゃいけないだろ?     偉いヤツばっかりがなれて、実力があるヤツが弾かれるようじゃあ意味がない」 彰利 「せやね〜。けどさ、実際驚いたよね。まさか新たにオウサマ決めた途端に、     アルテミュラー元帥が世界的に魔闘大会を開こうなんて言ってくるなんて」 ……そう、現在空を飛び、各地を回っている理由はそこにある。 アルテミュラーはかねてより兵、近衛、将軍などの地位に疑問を感じていたのだそうだ。 今現在の国の将軍などは、実力もない貴族どもの集まりにすぎない。 自分らは自ら戦わず、兵どもに命令をくだすばかりのそいつら。 王が変わるという事実も手伝って、アルテミュラーはここらで貴族の怠慢を捨て、 真に実力のあるものを将軍にしようと言ってみせたのだ。 ……王には絶対の忠誠を誓う彼だが、やはり前国王に不満はあったらしい。 ちなみに今のレファルドの国王はリヴァイアだったりする。 話を通した時には怒号してみせたが、 最終的には『それが民のためになるなら』と進んで国王となった。 他の国も同じく、気づけば王が変わっていた。 オーエンはルーゼン=ラグラツェル、ファウエルはバルグ=オーツェルン。 ようするに空界における至高魔導術師と呼ばれた彼女らが王となった。 王位に就くのならば夫も儲けねばと言われたリヴァイアやルーゼンは焦ってはいたが、 考えてみれば千年の寿命をその身に宿している彼女らはそうそう死んだりしない。 子を授かるまでもなく、 しばらくは一人身で王や王女を続けるのもいいだろうという話になった。 それとは別に、ヤムベリング=ホトマシー……ベリーが、 なんの気まぐれかクグリューゲルス魔術アカデミーの院長の座へと収まった。 最初はオドオドしていたアカデミー生だったが、 性格が随分変わったと言い出し、今では案外慕われていたりするのだから不思議なものだ。 そうしたいろいろな物事の先に時は過ぎ─── 気づけば、空界の中で二週間が過ぎていた。(……地界ではまだ三日も経っていないが) ───……。 ……。 悠介 「よっ、王女サマ」 リヴァ「王女はやめろ……今まで通りでいいって何度言わせれば気が済む……」 中井出「105?」 彰利 「5億?」 リヴァ「……ああ、もういい。少し黙れお前ら……」 あれから空界中を飛翔し、謁見の間に戻ってきた俺達を前にリヴァイアは溜め息を吐いた。 王ってのはなかなかどうして、疲れが溜まる仕事だからな……経験者は語る。 リヴァ「ああそうだった。悠介、お前に言っておきたいことがあった」 悠介 「俺に?なんだ?」 リヴァ「お前はノヴァルシオ……じゃないな。ラピュウタに住んでいるんだったな?」 悠介 「一応」 原中の猛者どもも帰って、今は静かなもんだった。 リヴァ「そうか。……中井出、とかいったな。こちらでの生活には慣れたか?」 中井出「ああ。俺ももうすっかり空界デビューだ」 意味が解らんが、それでも中井出は笑った。 ……あれから。 俺達は一度地界に戻って、ルナ達にも全てを話した。 中井出率いる原中の猛者どももその時に帰り、 今では地界で世話なく働いたり、大学に行ったりしていると思う。 けど───中井出だけはこうして空界に残っている……それは何故か。 ……簡単だ。 中井出の唯一の肉親であるじいさんが死に、 財産から始まるなにもかもを欲望しか頭に無い親戚連中に奪われたゆえだ。 悠介 「………」 中井出「……?どした?」 悠介 「……いいや」 その時のことを昨日のことのように思い出す。 本気の涙なんて見せたことのなかった中井出が、俺達に涙を見せた初めての時を。 【ケース15:中井出博光/そうして、それから】 ───『支えてくれる人が居るなら、俺もその人を支えながら生きていける』。 それはずっと昔から続いている、俺の生き方だった。 ───……。 彰利 「んじゃあ我らはルナっちを始めとする晦家の人々に怒られてくっから。     チミたちも一度家に戻ったらどうかね?」 中井出「だな。俺もちょっと心配なことはあるし」 心の中でじいさんのなに考えてるか解らない顔を思い出しながら、小さく苦笑した。 オリバ「ところでよ……いつまで俺、オリバなんだ?」 悠介 「この際一生オリバやるか?」 オリバ「勘弁してくれ……」 悠介 「冗談だ」 晦が放つ合図のような言葉の先に、オリバが藍田へと戻る。 そんな風景を横目に、俺は長い長い石段を降りていった。 ちゃんとメシ喰ってるだろうか、と心配をしながら。 ───……。 ……。 そうして家に戻って、 流しに食器が無いことからメシ喰ってないんだろうと思い、俺は早速調理を始めた。 この家にお世話になることになってから、この家の食事事情は俺が担っている。 馬鹿な頭なりに、高齢者に丁度いい料理ってのを学んだもんだ。 誰かのために……いや、じいさんのために料理を作るってのは、 案外悪い気分じゃなかったのを覚えてる。 出来上がった料理───質素だけど会心の出来のそれを見て笑ったのだって覚えてる。 けど─── 中井出「じーさーん、メシ出来たぞー」 台所と隣接して存在するテーブルに料理を置いて、いつものようにじいさんを呼んだ。 高齢な割に、メシとなるとすぐに現れるじいさん。 その日だって、すぐにやってくる筈だった。 中井出「じーさん?」 けど、今日に限ってじいさんは全然部屋から出てこなかった。 あまり広くなく、老人ふたりが住むには丁度いいという広さの家。 ガタがあり、台風の時はいつだってガタガタとやかましく、 そんなガタの所為でばあさんが死んでしまったこの家。 そんな場所でずっと一緒に暮らしていた。 言ってみれば台所と目と鼻の先にあるじいさんの部屋。 そこは暗く、カーテンが締め切ってあるようだった。 中井出「……寝てるのか」 苦笑を混ぜたことを昨日のことのように思い出す。 ガタが来ているために開けるのにも引っかかりを感じる引き戸を開け、 薄暗い部屋へと入ってカーテンを開く。 中井出「じいさん、メシ」 そうして窓から布団へと目を移した時、じいさんは穏やかな表情で眠りこけていた。 ……感じたものはあったかもしれない。 けど俺はいつもの調子を崩すことなく、“呼吸をしていないじいさん”に語りかけた。 中井出「…………じいさん、メシ」 覚悟してなかったわけじゃない。 いいや、どちらかといえば───いつだって覚悟はしていた。 そんな時に思った。 どっかのアニメみたいだな、って。 まさか自分と自分の祖父がこんなことになるだなんて思わなかったけど─── 中井出「……いつも怖かった、か……」 いつも怖かった。 いつかじいさんと離れ離れになってしまうことが。 それならせめて何かを残してからにしたかった。 ……その言葉が、自分の中に滲むのを感じた。 俺は───何かを残せただろうか。 このじいさんに、何かをしてやれただろうか。 アニメとは違い、支えてくれる幼馴染も居ない俺は─── これから何を支え、何に支えられていけばいいのだろう。 そんな考えだけが……ただ虚しく、馴染みのある家の壁へと消えていった。 そして……そんな風に呆然としていた時、家にズカズカと入り込む音を聞いた。 見知らぬ人が黒い服───喪服を着て、じいさんを囲んだ。 ───……。 じいさんの葬式は綺麗に晴れた秋の日に行われた。 今まで見たこともなかったような親戚連中が黒い服を着て、 まるで作業をするかのように過ぎてゆくその日。 じいさんの死が確認されてから既に数日経った今日、俺は初めてじいさんの死を知った。 俺が仕事の都合で外泊して、 さらに晦の家に泊まっていた時───じいさんは既に他界していたのだそうだ。 それからの手配は“たまたま”遊びに来ていた親戚がやってくれたらしく、 じいさんの寝顔がやけに整っていたのはその所為だったんだなって理解した。 それでもじいさんのために集まってくれる人が居るのを純粋に喜んだ。 そして─── じいさんは俺が両手で持てるくらいの小さな箱と化し、ばあさんと同じ墓に納められた。 不思議と涙は出なかった。 ただ恩は返せただろうかと思って、 いつか話したように『死ぬときまで一緒』に居られなかったことを謝った。 ……そうして再び日常に身を包む。 いや……それが日常と呼べたのかはまるで解らない。 葬儀屋が全てを終わらせたのちに家に戻ってみれば、家の前には数人の男たちが居て。 中に入ろうとしてみれば『この家は差し押さえられたんだ』と言われ。 俺の肉親が残してくれた保険金などの全ては、 自分が住んでいた家ごと───親戚のものになっていた。 そんな時に思った。 いや……彰利や晦の記憶を見ていた俺だからこそ理解した。 じいさんは死んだんじゃなくて、きっと─── 中井出「………」 人ってものに絶望したのがその日。 行く当てを無くした俺はカラッポの頭で一生懸命考えて─── 仕事仲間に電話をかけて、情けないけど生きるための交渉をした。 住み込みで働かせてくれ、なんでもするから家においてくれ───そんなことを言った。 けど、誰もがNOと答えた。 ……まあ当然と言えば当然だったのかもしれない。 そんな人間関係に嫌気がさして、仕事を一方的にやめた。 何か罵倒のようなものが聞こえたけど、そんなものは一切無視して。 それからの俺は……まあ、ひどい思考を働かせたと思う。 『孤独』。 孤独といえばあいつらだよな、と一方的な考えを働かせて、長い長い石段を登って行った。 言ってみれば仲間が欲しかっただけなのかもしれない。 人の汚さに文句を唱えることの出来る仲間が。 ……そうして晦の家に辿り着いた俺は、ギャースカと騒ぎ合う家族を見て溜め息を吐いた。 孤独?これが? 自分の状況を思い返すと笑いがこみ上げた。 なんだ、あいつらにはまだ家族が居るじゃないか、と。 けれどもそんな考えもすぐ吹き飛んだ。 ……馬鹿か俺は、と。 きっと、こいつらほど孤独の意味を知っているやつらは居ない。 それを、なに悟ったような思考で笑ってんだか、と。 悠介 「中井出?もう戻ってきたのか───って、なんだよその格好」 そんな時だ。 喪服姿の俺を見つけた晦が声をかけてきたのは。 俺はさっきの思考のこともあってか晦たちの目を見ることも出来ず、ただそっぽを向いた。 けど───どうしてだったんだろうな。 晦は苦笑して、俺の顔を掴むと無理矢理俺の視線と自分の視線を合わせた。 そして軽く言った。 悠介 「住むか?空界に」 ……それが救いじゃなくてなんだというのだろう。 なんでもかんでもお見通しだとでも言うかのように、そいつは俺に笑ってみせた。 視界の奥で彰利が晦の家族にボコられるのを眺めながら、いつしか俺は泣いていた。 その時から───俺は地界の全てを捨てて、空界で生きることを決めた。  ……どうしようもないことってあると思う。  けど、それでも支えてくれる人が居るなら、俺もその人を支えながら生きていける。  それはずっと昔から続いている、俺の生き方だった。 【ケース16:晦悠介/サムソン】 王城のテラスに設置された椅子に座り、溜め息を吐き─── 悠介 「…………」 思い出したことを軽く頭を振ることで流した。 今さらだ、中井出はこっちに慣れてきたし、地界に戻るつもりもないらしい。 といっても、知り合いの家を訪ねることくらいはするだろうが、 地界に住む気はもうないだろう。 地界じゃあ中井出は行方不明扱いにされているらしいが、 原中の猛者どもはその全てを知っている。 何度か警察が訪ねてきたらしいが、もちろん全員が『知らぬ存ぜぬ』で通した。 中には自分も空界に住もうかとか言ってるヤツも居たが、それは遠慮してもらった。 さすがに自分の生活があるやつをホイホイと行方不明には出来ない。 そんなこともあってか、猛者どもは口を揃えて言った。 『地界的に死んだってことになったら空界に住まわせてくれ』と。 ようするに───地界で老いたり死に直面したりしたら死んだことにして、 そっちに住まわせてくれ、というものだった。 それならと俺と彰利は同時に頷いた。 俺達も似たようなものだからだ。 彰利 「しっかしアレだよね、     交通事故とかでポックリいっちまった場合はどうするんかね」 悠介 「月癒力で生き返らせて、こっちに連れてくればいい。     遺体は俺が偽者でも創造しておけばいいだろ?」 彰利 「あ、そか。猛者どもならクラスメイツが死んだとなれば、     すぐに情報を掴んで教えてくれるだろうし。     でもなぁ、どうせなら寿命の頃まで頑張ってほしいもんじゃて」 悠介 「……だな」 王城のテラスから景色を見下ろす。 人々が賑やかに動く城下町が見えるそこは、なんだか心が和やかになる場所だった。 彰利 「あ、そういやさ。悠介はどう思う?」 悠介 「どう思うって……なにがだ?」 彰利 「天寿を全うするって言葉の意味と、事故死について」 悠介 「……聞き飽きたな、それ」 彰利 「あ、やっぱり?」 小さな頃から考えてたことがある。 それの答えはいつだって同じだったが、 時々こうやって確認でもするかのように彰利と話すこと。 それが───天寿と事故死の違いについて。 彰利 「んじゃあやっぱ答えは変わらん?」 悠介 「お前は変わったか?」 彰利 「変わらんねぇ」 天寿を全うする……即ち、寿命までを生きるというソレは、実は事故死と大差無い。 もちろんその『大差』は『運命を信じる者』に対してのみ有効となる言葉だ。 ───考えてもみよう。 たとえば運命という絶対的な生きる道があったとして、 それを信じる人はそのレールの上を歩いてゆくだろう。 そのレールには最初から起こることの全てが敷き詰められている。 例えば───三歳の頃に火傷をするだとか十歳の時に階段から落ちるだとか。 100歳まで生きようとしたつもりが、 事故で死んでしまうなんてこともあるかもしれない。 ここで問題だ。 その、100歳まで生きようとしていた人は事故死でこの世を去った。 知り合いや家族は寿命まで生きててくれればと泣いたそうだ。 ───が。 こと『運命』を生きる者に対してはその涙は相応しくない。 いや、『寿命まで生きててくれれば』という言葉が似つかわしくない。 何故ならば─── 悠介 「運命に生きる時点で、そいつはそこで事故死するって決まってた。     だったら───それがそいつの寿命だ」 彰利 「事故死が寿命だなんてイヤなもんだけどね。     まあでも、いくら喩えを出してみたところでやっぱりそれが寿命なんだよね。     だから『運命』を信じるヤツが、死んだヤツに対して     『もっと生きてて欲しかった』って言うのはヘンな感じがするんだよなぁ……」 悠介 「感情の生き物なんだから仕方ないだろ。     『貴方の死は決まっていたことだから』って冷めたこと言われるのは嫌だ。     ……って、この言葉も何回目だろうな」 彰利 「さぁのう」 テーブルを挟むようにして小さく笑った。 王城は静かなもので、けれど時折、風に乗った城下町の喧噪が耳に届く。 悠介 「……最初から決まってる死、なんて冗談じゃないよな」 彰利 「あたぼうよ」 人間、いつかは死ぬ。 だけどその死に場所が、死因が、最初から決められていると考えるのは好きじゃない。 だから『運命』が嫌いだ。 けれども世界には運命が存在する。 そうなるべく存在する未来は確かに存在する。 癪なものだけど、 そういった一本道があったが故に俺の中に『ルドラ』という死神が降り立った。 けど───今生きている道はノートですら知らなかった未来。 こうして何気なく話したという事実も、既に別の時間軸の俺がやったのかもしれない。 それでも俺達は運命よりも偶然を信じる。 運命なんてものが存在するにしても、 最初から起こることが決まっていた物事を信じるつもりはなかった。 中井出「や〜、一般庶民の分際で王城を自由に闊歩出来るってなぁいいねぇ。     って、なんだ、こんなとこ居たのか?」 彰利 「おや、謁見の途中でビッグウェーブに襲われて駆け出していった     我らが提督中井出博光ではないか」 中井出「説明口調でビッグウェーブとか言うな」 悠介 「そもそも出会い頭にビッグウェーブとか言うなよ……」 彰利 「おっとソーリー。まあ提督、おぬしもここに座りんしゃい」 中井出「ああ」 中井出が俺と彰利の隣に座る。 そうして三人で景色を眺めて───ふと、ホウと息を吐いた。 彰利 「なんつーか、ようやく一息って感じだよな」 中井出「そっか?今度は剣術、魔導術、式、なんでもアリの大会するんだろ?」 悠介 「ああ。まず各分野で戦って、残った何人かで今度は異種格闘形式で」 中井出「空いてる騎士枠とかってどれくらいあるんだ?」 悠介 「貴族どもは追い払っちまったからな……結構空いてる。     騎士も兵士も、大体が貴族だったからそれはもう、な」 中井出「なるほど。んじゃあこれからは実力者のみが君臨する国になると?」 悠介 「なりたいヤツがなるべきだって。それで実力があれば十分だろ?」 中井出「まあ、そりゃ確かに。実力によっちゃあ女将軍とかも誕生するわけだよな?」 悠介 「実力があればな」 彰利 「難しいかもしれんけどね」 その言葉で一端区切りをつけるように、向かい合わせていた視線をもう一度景色に流した。 すると─── 悠介 「……?」 中井出「んあ?どした晦」 悠介 「いや……王城の門番に捕まってるヤツが居る」 中井出「ほほう。どれ」 中井出がテラスの手すりから身を乗り出すように景色を眺める。 と、すぐに見つかったのか『ふむぅ』と声を漏らした。 中井出「遠くて解らんな。髪が長いってのは解るけど」 悠介 「女だな。剣も持ってるし───多分大会に参加するために来たヤツだろ」 彰利 「んで……なんで捕まってるワケ?」 悠介 「簡単だ。あそこの門番、貴族だからな。一方女剣士の方は田舎者というか、     少なくともお偉いさんとこの娘って感じじゃないからな。     イチャモンつけてるんだろ」 彰利 「ウハー、嫌だねぇ」 彰利の言葉に『まったくだ』と返すと、俺は紙袋を創造してそれを被った。 もちろん紙袋というからにはアレだ。 彰利  「あ!悠介てめぇずっこいぞ!」 校務仮面「悠介?誰だそれは。俺は校務仮面だ」 中井出 「いきなりなりきられても困るんだが」 彰利  「それ貸しんさい!俺が行くから!」 校務仮面「だめだ!校務仮面の正体は絶対に秘密なのだ!!」 ぎゅむと校務仮面を掴んだ彰利と悶着。 そんな様子を見ていた中井出はなんだか可笑しそうに笑っていた。 校務仮面「サミング!」 ドチュッ! 彰利 「ウビッ!!」 一瞬の隙をついてのサミング一閃…… 校務仮面をめぐる闘いは、思いのほかあっさりとついたのだった。 校務仮面「というわけで困っている少女を救ってくる」 彰利  「ま、待て貴様!そうはさせるか!」 なんと彰利が痛みに目を閉じながら襲い掛かってきた! 彰利 「あ」 ───が、見当違いの方向へと駆け、手すりを乗り越えて落下していき─── 彰利 「アァアアアアアーーーーーーーーッ!!!!!」 ───ヒョォオ〜〜〜……グチャッ。 ……潰れた。 校務仮面「じゃ、行ってくる」 中井出 「落下した親友に見向きもしないとはな……」 校務仮面「そう思うなら見てみろ。落下した場所にもう彰利居ないぞ?」 中井出 「……ほんとゴキブリ以上の生命力な……」 まあ言ってても仕方ない。 俺は軽く跳躍すると風を創造し、ゆっくりと門番の居る場所を目指した。 ───……。 ……。 女剣士 「何故ですか……!?大会には誰だろうと参加出来ると聞いたのに……!」 門番  「何度も言ってるだろう?貧民は参加出来ないんだよ。      まったく冗談じゃない……お前みたいなヤツが好成績でも収めようものなら、      貧民ごときが私の上司になるじゃないか……」 女剣士 「っ……!?そんな理由で……!?」 門番  「とっとと帰れ貧乏人が。      ここは貴様のようなヤツが来ていい場所じゃないんだよ」 校務仮面「じゃあ俺はいいのか?」 門番  「なにっ!?」 女剣士 「えっ……?」 女剣士の後ろからそっと現れ、門番の野郎に声をかけた。 もちろん校務仮面を装着しながら。 門番  「な、なんだ貴様は!」 校務仮面「校務仮面だ」 門番  「こ、こむ……?怪しいヤツめ!ここに何しに来た!!」 校務仮面「まあまあ怒るな門番。俺は校務仮面として困っているお嬢を助けに来ただけだ。      というわけでこの女剣士を通してやれ」 門番  「ハッ、誰だか知らないが残念だったな。      ここは貴族か王族関係者じゃなければ通れないことになっている。      もしくは上等なブレイバーくらいだろうがな、      その女はブレイバーでもなんでもない。無理だな、通せない」 校務仮面「だめだ通せ」 門番  「なにぃ〜〜?貴様この俺に向かってなんて口の利き方だ?      俺はモッドヘッヅ卿の末っ子のアレジン=モッドヘッヅだぞ?」 校務仮面「アラジンか」 門番  「アレジンだ!!貴様この俺を馬鹿にしてるのか?      俺を怒らせたら父上が黙っていないぞ?」 校務仮面「親は関係ねぇだろうが親はよ……。      親の七光りが無けりゃまともに意見出来ないのが貴族か?」 門番  「な、なんだと貴様あぁあああっ!!!」 校務仮面「で、通してくれるのか通さないのか」 門番  「通すわけがないだろうが!貴様は死刑だ死刑!そっちの女もだ!」 校務仮面「ほお……」 こういうヤツが居るからオエライさんってのは嫌いなんだ……。 そうやって溜め息を吐くとともに、首に下げていた賢者の石を握った。 さらにイメージを流すとそれがラグナロクとなる。 この数日間のうち、ノートの協力のもとに賢者の石と融合させたゆえだ。 とまあ説明は省いて、と。門番へと突きつけられる。 門番  「ひっ!?な、なにをする気だ……!?お、おお俺を殺すのかぁっ!?」 校務仮面「ん」 ちょちょいとラグナロクと融合した状態にあるランクプレートを見せる。 女剣士には見えないようにだ。 すると─── 門番 「はっ……は、はわぁああああああーーーーーーーーっ!!!!」 門番絶叫。 あまりの驚きっぷりにハゲるんじゃないかってくらいに絶叫してみせ、 大慌てで距離を取った。 門番  「ま、ままままさかあ、あなたさ、さまははは……!!!」 校務仮面「校務仮面だ。通っていいな?」 門番  「は、はいもちろんです!そちらのお嬢さんもどうぞ!!」 女剣士 「……?」 校務仮面「ここで起きたことはリヴァイアに報告しておく。      貴族がどうので差別するヤツは皇国に必要じゃない」 門番  「あ、あわわわわ……!!」 すれ違い様に門番にだけ聞こえる程度の小声で言った。 門番は竦みあがったまま、同じ方向を見ながらへたりこんでしまった。 女剣士 「……あ、あの?」 校務仮面「ホレ通れ。ちなみに俺は校務仮面であり、      実際に存在する人物とは関係無いフィクション的存在だ」 女剣士 「………」 女剣士は少々困惑顔をしていたが、すぐに気を取り直すと一礼をして歩いていった。 ……これでよしと。と頷いた時─── 門番 「く、くそっ!このままで終わってたまるか───!!」 ヘタリこんでいた門番が襲い掛かってきた───!! 門番  「サーーーーームソーーーーーーーン!!!!!」 校務仮面「麦チョコ!!」 ペキッ、コキン……!───どしゃあ。 肩に掴みかかってきた門番を逆に掴み、関節を外すことで気絶に導いて黙らせた。 校務仮面「……あっけなくも虚しい勝利だった……」 などと黄昏てると、彰利が俺の影からゾゾゾゾゾと沸いて出た。 彰利  「終わったんか?」 校務仮面「終わったぞ。というか人の影から現れるな、不気味だから」 彰利  「いや〜、悠介も黒になったとしたら解ったかもね。これ案外たまんないよ?      こう、ズズズズズって現れる瞬間とか」 校務仮面「残念ながら解らんな。……ところで彰利よ。      今のところどれくらいの人数が登録してる?」 彰利  「大会かね?そうさの……ざっと726名だわいな」 校務仮面「うお……それはそれは」 空界の人口は案外少ない。 広いとはいえ町や村よりも自然が多い世界だ、それは当然かもしれない。 それでも700人以上が来るっていうのは、なかなか多い方なのだ。 などと思いつつ、校務仮面を脱ぎ去った。 悠介 「はぁ……何気に校務仮面って暑いよな……」 彰利 「そらそうだろ。つーかべつに素顔で行ってもよかったんでないかい?」 悠介 「さっきの女にしてみれば、     この城に入ってるって時点で俺も貴族もそう変わらないだろ?     だったら変装でもしてた方がまだ面白い」 彰利 「ふむ」 『なるほど』と続ける彰利をよそに、俺は中井出が待つテラスを見上げた。 そこでは両手を広げてフーアムアイをやってる中井出が。 ……流石だ。 悠介 「俺達も戻るか」 彰利 「だぁね。んでどうする?やっぱ俺達も参加してみる?」 悠介 「俺達が将軍とか騎士とかになってどうするんだよ……」 彰利 「ンマーーそれもそうだな。第一キミ、大賢者さまだし」 悠介 「それやめろ……」 ふと見下ろしたラグナロクのプレートに刻まれた称号を見る。 そこには“賢戦無双の勇者(ワイズブレイバー)
”の文字と“法皇至りし五天の空王(レヴァルグリード)”の文字が刻まれていた。 ……困ったことに、今までこのプレートを見て驚かなかったヤツは居ない。 渡してくれたミルグナント=ロハイムでさえ、これを見せたら腰を抜かしたほどだ。 でも今はこのプレートを作った者として、莫大な金を王国から寄付してもらったとか。 あいつを国王にするって話も出たが、それはあいつ自身が遠慮した。 今は実家に戻って両親と暮らしているそうだ。 悠介 「……空界もどんどん変わっていくな」 彰利 「うん?ははっ、そりゃそうだろ。変わらないモンなんてないんだ。     時間軸だって繰り返せば変わるんだし、     そもそも根本から変わらないものなんて無い」 悠介 「お前が言うと説得力あるよ。今までサンキュな」 彰利 「こちらこそ。そんでもって───」 ───パァンッ!! 悠介&彰利『よろしくなっ!これからも!!』 手を弾き合わせ、笑い合った。 長い間生きてきて、それでも子供な俺達だけど───いつだって隣に立っていた。 笑顔も涙も、苦しみも楽しみも───いつだって共有してきた。 それはきっと、これからも。 いつまでも子供な俺達だけど、 子供だからこそいつまでだってガキみたいに一緒に馬鹿やっていこうって思える。 そして───これからは、あいつも。 彰利 「中井出なら文句ないよな。きっと、腐るほど馬鹿やっていける」 悠介 「ああ。なんなら千年の寿命でも埋め込んでみるか?」 彰利 「ブフッ!っはははは、それ、いいかもなっ」 悠介 「……冗談だ、って言おうと思ったんだが……案外あいつのほうが望むかもな」 彰利 「それだったらそれでいいんでないかい?結局俺達ゃ人間から離れちまってる。     俺ももう黒だし、悠介は竜人。千年以上なんて平気で生きるバケモンなんだ。     あいつが望むなら、いつまでだって一緒に馬鹿やってよう」 悠介 「……そうだな。そうなったら───面白いな」 見えもしない未来を思って、小さく笑みをこぼした。 その未来でも、やっぱりこいつが隣に居ない未来は想像できやしなかった。 彰利 「……よっしゃ。んじゃあ運営委員として仕事しますかぁ」 悠介 「いつの間にそういうことになってたんだよ……」 ふたりでのんびりと歩いてゆく。 一部始終をテラスで眺めていた中井出が笑っていたが、 今話したことはてんで聞こえちゃいないだろう。 悠介 「はぁ……平和っていいな」 彰利 「孫悟飯になるなよ〜?」 悠介 「あんな伊達マッスルになるか、たわけ」 彰利 「だぁな、修行の虫に言う言葉じゃなかったわ」 悠介 「修行の虫言うな。それよりお前こそナマケるなよ」 彰利 「フッ……この弦月彰利、楽して強くなろうがモットー。     しかしそれ以上に黒である俺は、もはや退化することなど無いのです。     『自分自身を黒に変換した』ようなもんだからね、飲み込んだ情報は漏らさんよ」 悠介 「黒が記憶してるから退化のしようがない、ってことか」 彰利 「アイドゥ。さらに黒が俺なら、生命体を吸収して黒の規模を広げれば、     それイコール俺の存在が広がるってこった。     だから強くなることはあっても弱くなることは有り得ないってこと」 悠介 「……楽でいいな、お前」 彰利 「楽して強くなろうがモットーっつーたでしょうが」 そんなことを話しながら歩いてゆく。 目の前にあるのはレファルドの王城。 かつて、なんの冗談か自分が王となったソレを見上げ、やっぱり小さく笑った。 どんな国になるのかな、とおどけた感じに言うと、隣の親友もやっぱり笑って答えた。 魔導都市になるのだけは勘弁だな、と。 ───なんにせよ……大会は明日からだ。 今日集まったやつらは宿を取って、翌日に備えるだろう。 誰が優勝するのかには……実はあまり興味が無い。 誰が優勝するのかではなく、どんな闘いをするのかに興味がある。 ……俺も、明日に備えていろいろ準備をするとしようか─── Next Menu back