───ナイスガイと言ったがべつにガイにナイスと言ったわけじゃない黒───
【ケース17:弦月彰利/そして訪れた夜に】 彰利 「………」 中井出「………」 ノート『………』 ───夜。 俺とノーちゃんは、かねてから打ち合わせていた通り、 『遣り残したこと』をするために集まった。 中井出は……なんか起きてたから誘った。 必然的に今この場で、眠っているのは悠介だけということになる。 中井出「なぁ……なにするんだ?」 ノーちゃんによって深い眠りに誘われた悠介は、叩いても突ついても起きやしない。 まあ、そうじゃなければ困るんだが。 彰利 「悠介を女にした意味のカケラを今から解消しようってことさね」 中井出「……?よく解らんが」 ノート「マスターは幼い日に感情を置き去りにしてきてしまった。     その置き去りにされた感情を、精神に潜ることで目覚めさせるんだ」 中井出「感情を?でも……案外普通じゃないか?晦って」 彰利 「恋愛感情とか幸せに対する感情も無いヤツが普通かね?」 中井出「あ……そういや……って、でもさ。     晦って何処で感情を置き去りにしちまったんだ?     思うに……彰利ほどヒドイ目には遭ってない気がするんだけどな」 ……ふむ。 彰利 「みんなさ、俺の人生見てヒドイだとかあんまりだとか思うかもしれんけどね。     俺の人生より、案外悠介の人生の方がヒドイ部分ってあるんよ」 中井出「ヒドイ部分……?何処だよ」 彰利 「んー……『目の前で親が二回死んでるところ』」 中井出「……?それならお前の方が回数多いだろ。     11回だっけ?生と死を繰り返して───あ」 彰利 「気づいたか?……そういうこった。     俺の方はね、『両親が死んだあと』からやり直してるんだよ。     けどね、悠介は本当の家族全員を目の前で逝屠に殺されて、     義理の両親が目の前で天井に潰されて。     さらに言えば引き取ってくれた先の晦の両親にまで自殺されて、     しかもそれら全員に『死ね』って言われた。時の番人の所為でね。     トドメは───その全ての親を、『自分の手で殺した』んだよ」 中井出「………」 彰利 「ハッキリ言うがね、悠介だってもうとっくの昔にコワレちまってたんだよ。     精神のほうが、だけどね。多分、義理の両親が目の前で潰れた瞬間にだ。     でも悠介はルナっちに魂結糸を結んでもらうことで、     それなりの生きる力を手に入れてた。けど崩れた精神は散らばる寸前だ。     俺と晦神社の石段の前で再会した時、もう悠介はボロボロだったんだ。     でも───その先でボロボロの精神を少しだけでも持ち直す出来事があった」 中井出「若葉ちゃんと木葉ちゃんの存在か」 彰利 「そゆこと。『こんな自分でも誰かを笑わせられる』って温かみを知ったことで、     悠介はその瞬間にこそ救われたんだと思う。     あとはもう解るだろ?その頃から悠介は『誰かのために』って生きてきた。     自分にもそれが出来るってのは、壊れた精神が掴み取った唯一の生きる理由だ」 中井出「じゃあ……晦は今日まで、ずっとその精神のみで……?」 彰利 「……もう解ってるだろ?ノーちゃんと契約できたのも、     いっぺんに様々な召喚をするだけの精神力があったのも、     それが悠介の『生きる理由』って意味を持つ『精神』だからだ。     皮肉なもんだけどさ、     そんなことが無ければ悠介はここでこうやって生きてなかった」 中井出「………」 彰利 「そんなわけじゃけぇ、俺ゃこれから悠介の精神の中に入っていろいろやってくる。     感情復活祭りってやつだ。……相手が悠介だとちと不安だけどね」 中井出「やっぱ精神に入った異物は駆除しようとするのか?」 彰利 「そうハッキリと『異物』って言われるとオラ辛ェ……」 友の何気ない言葉がオイラの胸に突き刺さりました……。 中井出「俺も行ったほうがいいか?」 彰利 「せやな。面白そうだし」 コクリと頷き合うと、ノーちゃんを見た。 もうOKザマスよという意思表示だ。 ノート『精神の中ではいろいろと厄介なことが起こる。     マスターが経験したものごとの全てがある場所だからな。     出来る限りは私と精霊とでカバ−しよう。汝らは気にせずマスターの感情を探せ』 彰利 「御意。中井出もそれでOKね?」 中井出「然り。いつでも来いだ」 ノート『……よし。それではいくぞ───』 瞬間、目の前が真っ白になった。 見える景色は全てが輝きに染まったように見えなくなり、たまらずに目を閉じた。 が───すぐに瞼の裏からも感じられたほどの光が消えてゆくと、ゆっくりと目を開く。 彰利 「……?おお」 中井出「黄昏……だな」 目を開いた先にあるものは黄昏に染まる草原。 毎度のことながら、悠介と俺を繋ぐ象徴であるソレが、精神に広がっていた。 中井出「うーわー……右も左も草原……地平線の果てまで草原ってのは初めて見た……」 彰利 「まったくだ……どれ」 ちぃとイメージを働かせ、それを弾いてみた。 すると……手の平に現れるモップ。 中井出「お───創造できるのかここ」 彰利 「そうみたいやね。OK、感情探知機よ!いでよ〜!!」 ……シ〜ン…… 彰利 「あれっ!?なんも出ねぇ!!……しまった、イメージが曖昧すぎたか」 中井出「フッ……見ちゃいらんねぇな弦月一等兵……。     こういう場所ではこういう創造をするべきだ!     出でよ!我が最大級の欲望!!我がメモリーと想像と捏造から産まれる愛よ!!」 キィイイイ───ポムッ。 中井出がイメージを弾かせると、そこに……一本のビデオテープが出現した。 中井出「おっしゃあああああああああああーーーーーーーっ!!!!!! 彰利 「………」 なんか訊くまでもなく内容が解ってしまった。 彰利 「キミねぇ……ここで創造したものが外に持ってけるとは限らんのだよ?」 中井出「大丈夫だ!何故ならロマサガ3のミューズさまの夢の中でも、     銀の小手だけは持って帰れた!それは何故か!?     それは手に入れたものがどれだけ大切なものかで持ち帰れるか否かが決まるのだ!     そして俺はこのエロビデオが何より愛しい!愛してる!!」 彰利 「やっぱエロビかよ……」 中井出+ビデオ=エロビデオだからなぁ……。 創造した時点で絶対そうだって思ってたよ……。 声  『遊んでないでさっさとしろ……』 彰利 「むっ!?その声はノーちゃん!?」 声  『……前から言おうと思っていたがノーちゃんはやめろ。     それからさっさと進め。精霊たちがなんの消費も無く     マスターの精神を安定した状態でいられると思っているのか』 彰利 「……そういや気になってたんだけどさ。安定が崩れたらどうなるん?」 声  『マスターが戦ったことのあるモンスター、召喚獣、精霊と戦う羽目になる。     最初に言っておくが、もしそうなっても黒で吸収しようなどとは思うな。     現れるものはマスターの精神が象ったものだ。     それを吸収するということは、マスターの精神を弱らせることにイコールする』 彰利 「ゲッ……」 話の途中から企んでたことがあっさりと無になりました……。 さすがノーちゃん……って、ノーちゃんって呼ぶなって言われたっけ。 じゃあ……やっぱ『スッピー』か。 中井出「そんじゃ急いだほうがいいか……行こうぜ彰利」 彰利 「お、オウヨ。そんじゃあスッピー、随時アドヴァイスよろしく」 声  『スッピー……汝、一度死んでみるか?』 彰利 「あの……それ、ドラグネイルさんにも言われたんですけど……」 声  『───』 あ、シカトされた……。 拗ねちゃってスッピーったら。 中井出「んで……なあ。     結局スピリットオブノートが晦を女にした理由ってなんなんだ?」 彰利 「ふむ、いい質問です。悠介を悠黄奈さんにした理由のひとつ……つーても、     今解決しようとしてるのがソレなんじゃがね?     悠黄奈さんはね、悠介の中に無いものの象徴として創られたようんもんなんだわ。     つまり、幸せを感じる感情だの、誰かを好きになる感情だのの具現。     悠黄奈さんは映像ン中の悠介に、確かに奇妙な恋愛感情を抱いておった。     違和感はあったんだけどね、それでも幸せそうに頬染めてるワケよ。     で、スッピーが悠黄奈さんを誕生させた大元の理由ってのがアレだ、     魂が一体化していくっつーことはさ、感情にもなんらかの影響があるってことだ。     だったら片方が好きだの嫌いだのを感じるようなら、流れてくでしょ?」 中井出「へえ───なるほど。     ……あ、じゃあ悠黄奈ちゃんを切り離す前にやることがある、ってのは……」 彰利 「そゆこと。悠黄奈さん切り離しちまったら、     もう悠介には好きとか幸せとかの感情が戻らなくなる。     そういう感情は悠黄奈さんが持ってるからね」 中井出「そっか……あら?     ちと待て、誰かを好きになるのと何かを好きになるのって違うのか?」 彰利 「悠介の『昔好き』のこと言っとるんなら『違う』って答えますよ?     やっぱ『誰か』と『何か』じゃあ『好き』の意味合いが違いますし。     スッピー的には待っててもよかったんだろうけどさ。     ホレ、この二週間、悠介ってば全然変化無かったっしょ」 中井出「だな。だからこうやって俺達が出動したわけだ。……厄介で面倒だな」 彰利 「そうね」 中井出「ほんとそう」 なにはともあれ当てもなく歩く。 見える景色は草、草、草。 正直嫌気がさすが、進まないわけにもいかない。 彰利 「めんどっちぃのう……よし提督!サイバーフォメーション!!」 中井出「応ッ!!サイバァアアアーーーーーーッ!!!ドォッキィーーーーング!!!」 ガキッ!ガキッ───ガッキィイイインッ!!!! ───説明しよう! サイバーフォーメーションとは───まあその、中井出がただ俺に負ぶさるだけである!! 彰利 「オーケーフレンド!!エネルギーチャージマキシマム!」 中井出「熱量、肺活量、興奮度───オールグリーン!!」 彰利 「テイクオフプレパレーション・オン!!」 中井出「カウント開始!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!!」 彰利 「イグニッションッ!!!」 ドンチュゥウウウウウンッ!!! 中井出を背負ったままレッツ飛翔!! 風を切り、草原を蹴散らし、景色の果てまでレッツ・フライティン!! 体は黒に変え、 吸収した飛翔モンスターに変換してますからいつもの飛翔の二倍以上は速いです! 彰利 「つーかスッピー!?何処に向かえやいいのかね!!」 声  『そんなもの、知っていたら既に私が開放している』 彰利 「ムッハァーーーッ!!そりゃそうだ!!     でもキミ解らないことは無いんじゃないの!?」 声  『マスターの精神は他の者よりも複雑だ。単純な汝と一緒にするな』 彰利 「うわひっでぇ!!中傷された!今絶対中傷された!!ね!?提督!」 中井出「いや、なんつーか俺もお前は単純だと思うし」 彰利 「たっ……!!」 飛翔しながら驚愕しました……ひどいやこの人たち……。 彰利 「つーか広い!広すぎここ!!果てもなんもねぇじゃん!!」 中井出「……彰利、彰利。ここ、誰の精神か解ってて言ってるか?」 彰利 「あ〜ん!?悠介の精神に決まってるだろうが〜〜っ!」 中井出「そだな。んで?今現在の晦の力の内包量っていくつくらいだって言ってた?」 彰利 「ほぼ無制限ってアア〜〜〜〜〜〜ッ!!!」 な、なんたることっ……!! つ、つまるところここは『内包』の部分でありっ……!! こ、この精神世界には果てが無いっ……!! 彰利 「んじゃあこげなところでどないせいっつーんじゃい!!     なに!?地面でも掘れってか!!それとも───……あ」 ……なんだ、簡単なことだ。 ここがあの草原で、悠介の精神の中なら───絶対にあれがある。 彰利 「グワバババ〜〜ッ、そうと解れば話は早ぇ〜〜〜っ!     見せてやるぜ、この二週間、     暇さえあれば各地へ飛んで食らったモンスターの衆を〜〜〜っ!!」 気づいてからは速かった。 体の中に内包する影と闇を総動員させ、 吸収したモンスターの中でも機動力に特化するカタチを象らせると、 その全てに探索を開始させた。 彰利 「フフフ、た、頼んだぞ、我が盛栄たちよ〜〜〜っ」 影と闇の大半を放った俺はその場で力尽き、 中井出とともに───ズドゴシャバキベキゴロゴロズシャアーーーーッ!!!! 彰利&中井出『ウギャアアアアアーーーーーーーーッ!!!!!』 ……コケた。 飛翔中だったしね……。 ───……。 ……。 彰利 「……飛車取り」 中井出「ゲーーーーッ」 さて、影と闇の偵察モンスター666体をネロ=カオスが如く放ったオイラは、 中井出と闇のゲームをしてました。 果報は寝て待てといいますが、寝られる状況じゃないんで。 中井出「なぁ彰利……この闇のゲームつまんねぇよ……。     闇のゲームっつーから遊戯王っぽいのを期待したのにな……。     たた闇で象った将棋版と駒で戦うだけかよ……」 彰利 「一応闇のゲームじゃん」 中井出「そうなんだけどな……はあ」 どうにもなりません。 影と闇を放ったはいいけど、全然見つかった報告無いし。 絶対ある……無きゃおかしいんだよな、『約束の木』。 中井出「えーと……ここ、と」 彰利 「む……ん〜だばここ」 中井出「ここだな」 彰利 「よし、ここだ」 中井出「むむっ!な、ならばここ───おろ?」 闇からの反応があった。 場所は───随分離れてるけど、放った闇や影は俺自身。 闇がその場に居るならすぐに転移できる。 中井出「ふはははは!王手飛車取り!!詰めたぞ!どうだ彰利!!」 彰利 「中井出よ!目的地を発見したぞ!こげなことをやってる場合じゃねぇ!!」 中井出「な、なにぃ!?逃げンのかてめぇ!!体勢が悪くなったからって卑怯だぞ!」 彰利 「バカモン!悠介の感情と将棋なんぞと、どっちが大事なのかね!」 中井出「あと一手進めば終わるだろうが!やれ!やってくれ!俺を勝たせてくれ!!」 彰利 「だめだ」 ジュルン!と黒で生成した将棋を影で飲み込む。 中井出「オアァアーーーーーーーッ!!!!」 彰利 「急ごうか」 中井出「お、俺の勝利が……初めての『王手飛車取り』が……」 ……中井出が言葉で誰かを殺せるなら 千人は殺せそうなくらいのドス黒い声で嘆きの呟きを漏らしました。 でも無視です。 スチャッと中井出を小脇に抱えると、すぐに転移を行使するのでした。 ───……。 ……。 ───ビジュンッ!! 彰利 「愛……」 てなわけで転移終了。 黒から影や闇にも反応を送ったから、全ての影と闇も一緒に転移しました。 彰利 「……よっ、久しぶり」 ───そして。 見上げた先にあるのは『約束の木』と、その枝に座るひとりの少年。 おそらく、悠介が置き去りにしてきてしまった『感情』そのものだ。 子悠介『……うん、久しぶり』 ニコリと笑うソイツは、やっぱりずっとずっと昔に見たソイツの笑顔そのままだった。 十六夜の家が火に焼かれる前に、ここで会っていた少年の頃のまま。 それを見たら、なんだか懐かしくなって俺も笑っていた。 彰利 「ずっと……ここに居たのか?」 子悠介『うん。キミは気づいてくれなかったみたいだけど、僕はずっとここに居たよ。     初めてキミがここを訪れた時も、みさおちゃんがここに訪れた時も、ずっと』 彰利 「……悠介の中に戻るつもりは?」 子悠介『無理だよ。悠介自体が僕を忘れてしまっている。     もう何度呼びかけたか解らない。     何度も何度も声を嗄らしても、彼には僕の声が届かない。     あるとしても、時々に届くだけだよ』 彰利 「……文字通り、心の底から笑った時だけ、か」 子悠介『うん。記憶に新しいのは……召喚獣と精霊と飛竜のみんなと笑った時。     僕の声が届いたと思ったのに、彼は僕の声なんかには見向きもしない。     ……当然だよね、彼は【自分】を振り返らない。     【自分】は誰かを助けるためのものであり、それが出来ればいいって思ってる。     だから【僕】の声も届かないし、【僕】を受け入れようとはしないんだ』 彰利 「………」 それが、今の今まで悠介が感情を取り戻さなかった理由か。 まいったね……。 彰利 「じゃ、俺の時と同じ方法で一体化してもらうぜよ?」 子悠介『……?どうすればいいの?』 彰利 「『ここ』に悠介の精神を引きずり出す。     言ってみれば無茶な話かもしれないけど、俺の時はそれが出来てた。     だからやろうと思えば出来る筈だ」 中井出「あ……そういや映像ン中でもこの世界でみさおちゃんとゼノが戦ってたよな」 彰利 「そういうことじゃい。つーことだから───やれ!!」 子悠介『やれって言われたって……僕にはそんなもののやり方、解らない』 彰利 「ああ、それなら簡単。スッピー、出番やで〜」 声  『……こう都合のいい時だけ呼ぶのはやめろ』 彰利 「えーじゃん。つーわけで魔導ハックするみたいに悠介の具現体出現させて。     ヤムヤムでも出来たんだからスッピーでも出来るよね?」 声  『造作無い』 シュパァンッ!!! 彰利 「ぬおっ!?」 中井出「オワッ!?」 突然だった。 拍子もないままに悠介が目の前に出現し、 しかし精神も眠っていたのか目を閉じたままポテリと倒れた。 ……が、それで目が覚めたのかムクリと起き上がった。忙しいヤツです。 悠介 「……?なんだ?俺、確か準備に回されて───どこぞ馬鹿ふたりの所為で、     肉体的には疲れなかったけど精神的に疲れて泥に沈むように寝た筈だが……」 彰利 「本人の顔を堂々と見ながらの冷静な状況説明ありがとね」 中井出「目覚めてすぐに出来る芸当じゃないな、さすがだモミアゲ王」 悠介 「………」 あ、微妙な顔した。 でもすぐに怒らない……成長したものですな。 悠介 「……やれやれ。立ち寄らないようにって思ってたのにな……。     ノート、お前案外意地悪だな」 声  『マスターを思えばこそ、だろう?意地も悪くなる』 中井出「……?なんだそりゃ……なんかまるで、来ようと思えば来れたって言い方だな」 悠介 「ここへの来方なんて、ノートがさっさと見つけちまってたよ。     それでも気持ちの整理がつくまで待っててくれ、って俺が頼んでたんだ」 彰利 「あんですと!?つーことは……ス、スッピーてめぇ!!」 声  『知らんな。私は【知っていたら開放している】と言っただけだ。     訊ねられなかったから言わなかっただけであって、     付け足せば【マスターに止められていなかったらやっていた】』 彰利 「ギ、ギィイイイイイーーーーーーーーッ!!!!」 オーマイガァ!!(おかしすぎるわよ!!) い、いつから俺はこいつらに振り回されていたのだ!? なんたること!オーマイガァ!!(おかしすぎるわよ!!) 彰利 「ところでさ、嫌ってくらいに滲み出させた麦茶を温くするとさ、     なんか鉄サビみたいな味と匂いがしない?」 中井出「するな」 うむうむと頷いた。 それでざわついた心は落ち着いてくれたのです。本当です。 ……やっぱ俺って単純なんかな。 少し寂しい思いをした瞬間でした。 子悠介『……やあ』 悠介 「……よお」 彰利 「Yah(ヤー)
〜〜〜!!Yah〜〜Yah〜〜Yah〜〜!!     Yah〜Yah〜Yah〜〜〜〜〜ッ!!!」 悠介 「やかましい!!」 彰利 「すいま千円……」 怒られてしまった……。 子悠介『キミが来るのをずっと待ってた。僕は───』 悠介 「……言わなくていい、全部解ってるつもりだ」 彰利 「続行だーーーーっ!!!」 中井出「Yah(ヤー)ーーーーッ!!!!」 ゴスンッ!!ゴパシャッ! 彰利 「いでっ」 中井出「ギャアアーーーーーーーーッ!!!」 悠介 「うるさいよお前らはっ!!」 彰利 「いってぇな殴ることねぇだろ!?暇だったんだからしょうがねぇだろうがよぉ!」 中井出「不良のエッセンスを混ぜ込んでみました。よし似合わん」 彰利 「まったくだね。つーか中井出、涙出てる」 中井出「いや……拳が飛んできたからつい、創造したテープでガードしちまって……」 彰利 「あー……だから叫んだわけね」 見れば、確かに中井出の手の中でゴシャゴシャになっているテープが。 つーか中井出相手にどういう腕力で殴ろうとしてたんだ親友。 ……って、違うな。 多分テープの中身を知ってて、わざと破壊しおった。 中井出+ビデオテープ=エロビっていう方程式は、 原沢南中学校迷惑部の中に生きた者ならば誰だって知ってる。 当然、ソレに対する情熱も。 その証拠に、新たなるエロビを創造しようとイメージを集中させているようだ。 ……懲りないね。そして流石だ中井出。 悠介 「じゃ、始めるか」 子悠介『……そうだね』 悠介と、子供の悠介とが手を伸ばす。 俺はそれを見て─── 中井出「E・T!!」 ……中井出が叫んだことと同じことを思った。 そして中井出は空を舞ったのだ。 新たに創造したらしいビデオテープをかばい、背中をボゴシャアアア……と殴られて。 ……やがて大地に舞い落ちた彼の寝顔は……この上無く至福に満ち満ちていた。 それでいいのか中井出。 などと確認している中、背後で眩い光が溢れ───ジュウウウウ!!! 彰利 「ギャアアアアアアアア!!!!!」 皮膚が焼けました。 『黒と影と闇』を背負ってると、どうしても強すぎる光に弱くなります。 密度上げてないと焼けどするからイヤなんだよね、どうにも。 くそう、これではデビルメイクライ3の闇使いではないか。 そう思った俺はシュパァーーーンと跳躍すると、 着地とともに黄昏の大地に拳を突き立て───バジュゥウウンッ!!!! 悠介 「───うおっ!?」 一体化が終わった悠介を驚かせるくらいの闇でその場を包み込んだ。 うむ!全然痛くない!やっぱ闇の中っていいなぁ!!光なんてダメよダメ!! 悠介 「……人の精神の中でな〜にやってやがるかお前は」 彰利 「うンむ、ちぃと闇を展開してみました。光で塗りつぶそうったってダメよ?     この闇を押し返したくば、シェイちゃんとウィルっちの力と、     さらにオイラが吸収した666体のモンスター+召喚獣を潰す気で来るんだね」 悠介 「もう一体化済んだんだからやってる意味が無いんだけどな。     まああれだ、べつに展開したままでも俺は構わんぞ」 彰利 「なにぃ!?」 オーマイガァ!!(おかしすぎるわよ!!) 普通精神の中を闇で染められたら嫌な顔のひとつもするってもんでしょう!? なのにこの人笑いましたよ!?苦笑じゃないですよ!? 彰利 「……フッ……貴様も成長した、ということか……」 感情が復活したのに、 世界を闇に染めとくのもどうかと思った俺は、さっさと闇を回収した。 彰利 「しかしアレだな、黒である俺に忠誠を誓ってくれる黒生物居ないもんかね。     俺としては黒ということで、ジハードさんあたりが欲しいんだけど」 悠介 「いきなりだな。でも無理だと思うぞ。     あいつは体が黒いだけであって、直接『黒』とは関係ない」 彰利 「あー、解っとる解っとる。     そげなもん黒である俺がいっちゃんよーと解っつばい。     言ってみただけじゃけん、あんま気にすんじゃねぇだよ。     ……で、だ。もしどこぞにミルハザードの死体っつーか、     死に際の体とかあったとしてさ。それって吸収できると思う?」 悠介 「お前は……。あの黒竜二体分を吸収できるつもりなのか?」 彰利 「んにゃ、無理だってのはよく解ってますガネ。     ただ吸収出来たら楽して強くなれんのになぁと思っただけさ」 悠介 「大きすぎる力を吸収すれば自我崩壊するだけだぞ」 彰利 「それも解っております故。全部の鎌三段階まで引き上げて、     さらにもっといろんなもの吸収すれば可能になるやもだけどね」 悠介 「……鎌の昇華以外に努力らしい努力はしないってことか」 彰利 「その鎌の昇華だって、吸収した力で強引に屈服させてるだけだしね。     俺様ラクチン、超ラクチン」 悠介 「少しは努力しような」 彰利 「グ、グウウ〜〜〜〜ッ」 自然に笑みを浮かべている親友の言葉に、さすがに調子が狂った。 なんつーか……いい顔で笑うんだなぁって思ったから。 騒いだ所為で喜びもなにもあったもんじゃなかったけど、改めて。 『この笑顔は俺のもんだ』───じゃなくて。 彰利 「悠介」 悠介 「うん?」 彰利 「んー……まあ、その。おめでとさん。よかったな、感情戻って」 悠介 「……ん」 悠介は笑った。……苦笑で。 『本当によかったのか』ってくらいの苦笑いだった。 俺は訳が解らず、けれどその理由も聞けないままに意識を戻されるのを感じた。 【ケース18:弦月彰利(再)/ナイスガイ】 ───……そうして、『俺が』やるべきことは終わったんだと思う。 レファルド王城の薄暗い部屋の中……俺と中井出は悠介の精神の中から戻ってきた。 で…… 中井出「うわぁあああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」 中井出が泣いていた。 何故って、その手の中にエロビデオがなかったゆえであろう。 中井出「ミューズさまの馬鹿ーーーッ!!お、俺のドリームを返せぇえーーーーっ!!」 彰利 「起きないから奇跡って言うんですよ」 中井出「やかましい!」 彰利 「大体キミ、空界でどうやってエロビデオ見る気なのかね?     ここにゃあテレビだのビデオだのは無いぞ?」 中井出「彰利……お前はなんにも解ってない。いいか、エロビデオは男のロマンだ。     たとえ中身を知ることが出来ずとも、     そのエロビデオ自体が自分の望んでいたものだったら嬉しいだろうが。     ガキんちょがカードゲームでレアカードを手に入れたのと同じだ。     存在してるだけで嬉しいんだ。     今なら解るぞ、親が子を儲けた時の『産まれてきてくれてありがとう』の意味」 彰利 「……とりあえず俺と十六夜の両親を抜いた全国のお父さんお母さんに謝れキサマ」 エロビと産まれてきてくれてありがとうの気持ちを一緒にするな。 つーかエロビは『男のロマン』じゃなくて、『中井出のロマン』の間違いだろう絶対。 彰利 「さて……俺のやることなんてのは大部分が終わってもうた。     あとはレアモンスターでも探して吸収するか、鎌を昇華させるくらいかね」 中井出「……あれ?なんか忘れてないかお前」 彰利 「?……なんか、って?」 中井出「ほらアレだよ、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと……ンー……お、そうだそうだ。     ホレ、日余ン家の両親───つーか父親だな。カンカン照りなんじゃないか?」 彰利 「ア……アアーーーーーーーーッ!!!!」 オーマイガァ!!(おかしすぎるわよ!!) なんで今の今までこげな大事なこと忘れてたんだ俺ゃあ!! やべぇ……やべぇよ!!このままじゃ悲しい別れがボクを待つ!! 彰利 「グ、グウウ〜〜〜〜ッ、     こ、こうなったら大会が終わったらすぐに挨拶にいくしかねぇ〜〜〜〜っ」 中井出「全然困ってるように見えないのは俺の錯覚か?」 彰利 「いやマジで困ってます。でも大会が気になるのは確かだしね……」 おお、なんという悲しき試練よ。 中井出「ああ、確か各国によって分けるんだっけ?」 彰利 「うンむ。レファルドが剣術と武術でオーエンが魔術。     ファウエルが魔導と式だった筈。     その中で勝ち残った上位何十名かをレファルドに集合させて、     そこで無差別格闘の真髄を見せられるわけだ」 中井出「移動手段が面倒になりそうだな───って、そのためのアレか」 彰利 「そゆこと」 この二週間のうち、悠介が黄昏を具現してまで創造した物体がある。 インビンシブルっつーのか……とにかくとんでもなく速い乗り物。 最初は地面を走る乗り物を創造したんだが、 試乗時にスピードイーターに襲われてあえなく大破。 久しぶりに見たスピードイーターはやはり速く、 吸収してくれようと思ったけど失敗に終わった。 影と闇を発生させたら凄まじい速さで逃げおったのだ。 彰利 「アレは『地界人』じゃなくちゃ動かせない仕組みじゃからね。     運転は任せましたぞ、提督」 中井出「って俺かよ!提督って普通、奥の椅子に座って命令するんじゃないのか!?」 彰利 「なにぶん人員不足ですから……」 中井出「……こんなところばっかり現実的なファンタジーなんて嫌いだ……」 彰利 「ほほほ、まあそう言いなさんな。なんなら原中の猛者どもに収集かけっか?     あいつらなら仕事も大学もほっぽって駆けつけてくれるだろ」 中井出「ん……いや、いいわ。それはもうちょいみんなが時間取れるようになってからだ」 彰利 「……そうだな」 なんとはなしに返した。 でも……来るんかな、そんな時間。 今さらだけど人間ってのは忙しい。 子供の頃こそ友達と馬鹿やってられるけど、 俺や悠介や今の中井出みたいに都合のいい状況なんてそうそう訪れない。 そして……大切な人を失ってまで得る『都合のいい状況』なんて、 恐らく中井出は望んじゃいなかった。 彰利 「……寝るか」 中井出「そうだな。晦も存分に寝てることだし」 忘れていたかのように『くあ……』と漏れた欠伸を噛み殺してベッドを軋ませた。 そして俺は……スッピーが悠介の様子を見守る中、 人の成長についてをただぼんやりと考えながら───やがて、眠りについた。 ───……。 ……。 ───翌朝。 彰利 「ほぎゃあああーーーーーーーーーっ!!!!」 皆の衆が我が絶叫で目覚めた。 中井出「ななななんだどしたほぎゃああああーーーーーーっ!!!!」 悠介 「なんだよいきなほぎゃあああああーーーーーーーーっ!!!!」 それぞれが叫ぶ叫ぶ。 何故全員『ほぎゃあーー』と叫ぶのかは、同じ叫びをした俺自身も謎なわけだが─── 悠黄奈「くぅ……」 ……あの。 なんで俺のベッドに悠黄奈さんが寝てるんでしょうか……。 彰利 「……?」 悠介 「……?……───?」 中井出「…………?」 謎でした。 だって視線を動かせば、ほぎゃーと叫んだ悠介が居る。 でも俺のベッドにゃ悠黄奈さん。 ……ミステリーだ。 彰利 「やっ!そーじゃなくて!!スッピー!?おいスッピー!!     てめぇの仕業だろスッピー!出て来いスッピー!!」 ノート『スッピーと呼ぶな!!』 出てきた。 彰利 「普通に呼んでも出てこなさそうだったもんで。     で、こりゃいったいどういうことかね!!     私にも解るように平明に答えてもらいたいものだね!!」 ノート『……汝らの願った通り、悠黄奈を具現しただけだが?』 彰利 「よし解決だ!」 中井出「やったな友よ!」 悠介 「いいのかそれで……」 彰利 「まあまあ、これでキミも魂レベルから立派な人外になったわけだし」 悠介 「立派言うな」 でも実際、悠介の中から『人間』の魂が消え去ったのは確かでしょう。 あれ?でも─── 彰利 「スッピー?悠介の魂ってどうなったん?半分になったりしてないん?」 ノート『以前にも言ったように、魂を複製して融合させた。     欠けた部分はどうにもならないが、魂の器は満たした。     心配はいらない、次第に器に馴染んでいくだろう』 中井出「で、でも欠けた魂は戻らないって……」 ノート『欠けた部分は【人】の部分だ。     人間をやめていいというマスターの意思を汲んで、人以外の魂を強化しておいた。     悠黄奈のほうも同様だ。     【人】として切り離したのだから、【人】の魂を器に満たせば事足りる』 中井出「………」 彰利 「………」 悠介 「………」 ポム。 彰利 「よっ!人外!!」 悠介 「おっ……お前に言われたかないわぁああっ!!!」 中井出「ちなみにもう『人』としての魂は復活しないのか?」 ノート『未来永劫に無理だ。可能だとするならば、以前言ったような私の力くらいだろう』 彰利 「つーと……前にドラグネイルさん復活させてたし……うあ、じゃあ千年後?」 ノート『そういうことだ』 ポム。 中井出「サウザンド人外」 悠介 「肩叩いてまで言うな……」 彰利 「言い方変えるとサウザンド外人」 悠介 「関係ないだろそれ……」 中井出「ガーイジン!ガーイジン!!」 彰利 「ジーンガイ!ジーンガイ!!」 中井出「ガーンガイ!ガーンジン!!」 彰利 「ガーイガン!ガーンジイ!!」 中井出「ガーイガイ!ナーイガイ!!」 彰利 「ナーイガイ!ナースガイ!!」 中井出「ナースガイ!!ナーイスガイ!!」 彰利 「ナーイスガイ!!ナーイスガイ!!」 中井出「ナァーーイスガイ!!ナァーーーイスガイ!!」 ふたり『ナァーーイスガァアアーーーーーーイ!!!!』 悠介 「カァアアアアーーーーーーーッ!!!」 ふたり『おわぁああああーーーーーーーーっ!!!!』 ……この後、ブチキレた悠介の魔手により俺と中井出はボコボコにされた。 Next Menu back