───ライリーライリーデイ───
【ケース32:晦悠介(無道再)/全ての駄目で足らぬ貴様でもひとつの墓で十分だ】 ───そうして。狭界から戻ってきてから一日が経過した。 悠介 「騎士団への入団希望者のリストはまだか?」 兵士 「はっ……もうしばらく時間がかかります」 悠介 「そっか。じゃあこっちの     アカデミーの学科増加のための資金免除手当ての書類を……     ってリヴァイア、これくらい自分でやれ……」 リヴァ「ばか、こっちだって手がいっぱいなんだ。そうじゃなけりゃ呼んだりしない」 悠介 「だったら溜め込むなばかっ!仕事は小まめに崩していけって言っただろ!?」 リヴァ「面倒だったんだ、仕方ない」 悠介 「くっは……!」 体が少しは回復した俺は、 早速大会の所為で一気に押し寄せられてきた書類整理の手伝いをリヴァイアに頼まれ、 今現在こうして手伝っている。 断ってもよかったんだが、 軽いリハビリにはなるかと思った───のが、そもそもの間違いだった。 リヴァイアのヤツ、王宮の仕事を山になるまで溜め込んでやがって……。 おかげでこっちは朝っぱらから手伝いっぱなしだ。 ……まあ、これを捌けるのもひとえにダイ=ジンさんのお陰だが。 悠介 「あ〜〜〜…………ッ!!───よし終わった!あとはお前だけで出来るだろ!?」 リヴァ「ああ、なんとかなる。助かったぞ」 悠介 「次からは溜めるなよ……はぁ」 ───……。 ガシィ。 悠介 「………」 リアナ「………」 ハテ。 何故俺は、王宮通路の真ん中で、将軍で騎士さまなリアナに捕まってるんだろうか。 リアナ「師匠、約束です。忘れてませんよね?」 悠介 「………」 マテ。 あれは俺が暇だったらって話で…… リアナ「正直に答えてください。『暇』ですか?それとも『何か』をしてますか?」 悠介 「………」 疲れてはいる。 が、なにかをやっているわけでもない。 是非とも『暇じゃない』といって逃走したいものだが─── 悠介 「……暇だ」 何を思ったのか俺の器官は爆弾発言をしてしまった。 そりゃな、真剣な顔で暇かどうかと訊かれたら…… 疲れてはいるが忙しいわけじゃない俺はそう答えるに決まっていた。 リアナ「それじゃあ剣術を教えてくれますよね!?」 悠介 「あ、あー……あぁ……」 まあ、いい。 今度こそいい運動にもリハビリにもなるだろう。 ここで一度思い切り体を動かして─── ───……。 ……。 リアナ「はっ……はぁっ……!あ、ありがとう、ござい、ましたぁっ……」 悠介 「……ふう」 よし、汗ひとつかいてない。 これは困ったぞ、いまや常人の修行程度じゃあ息も乱れないし汗もでない。 ……いや、べつに困らないか。 それならそれでいい。 じゃ、さっさと訓練場から離れて部屋に戻って惰眠でも───がしぃ! リオナ「………」 悠介 「………」 や、だから待ってくれ。 どうして……ど〜してリオナが俺の腕を掴んでるんだ? こいつ、ベリーのところでいろいろ学ぶんじゃなかったのか? リオナ「聞いたぞ。いまやお前、ヤムベリングさまより魔術が得意らしいじゃないか。     ……わたしの教師になれ。妹に刃を向けたこと、それで目を瞑る」 悠介 「マテ。刃を向けたのは修行だからであって───」 リオナ「問答無用だ!!」 悠介 「………」 何を言っても無駄そうだった。 こうして俺は、自分の知っていることを題としたものを、 講師免許を首に下げながら講師をした。 ───……。 ……。 リオナ「大人の講師より解りやすかったぞ。また来る。よろしくな」 悠介 「………」 また、って言ったな……。 ……いやいや、まさかな。 悠介 「回復には寝るのが一番だ……さっさと寝───」 がしっ。 悠介 「………」 歩き出した俺の腕を掴むなにか。 ……振り向いたらダメだ晦悠介。ほら、よく考えろ……お前は寝るんだろ? 悠介 「………」 でも腕を掴まれながら無理矢理歩くわけにもいかない。 仕方なく振り向いてみれば─── ベリー「はろはろー♪」 悠介 「………」 ベリー「あ、なによその『うげぇ……』って顔」 悠介 「休みたいから行っていいか?」 ベリー「頼まれてたものが出来たから報せに来たんだけど、いいのかな?そんな態度」 悠介 「………」 ベリー「動けないから練成頼む〜って報せを飛ばしたの、誰だったっけ?」 悠介 「……マテ、俺は何も頼んでない。なんのことだ?」 ベリー「え?だってホラ、映写機作ってくれってツンツン頭に報せ頼んだでしょ?」 悠介 「映写機?……いや?」 ベリー「……?でも頼まれたのは事実だし、その代償として     悠介がなんでも言うこと聞いてくれるって確かに交渉したんだからね?     今さら無かったことにしろなんて言ったら怒るよ?」 悠介 「だから待てって!俺はそんなの───」 ベリー「ハイ、これ交渉書ね」 悠介 「へ?」 ベリーがヒョイと謎の紙を渡してくる。 そこには地界文字で 『ヤムベリング=ホトマシー様に緊急通達。私、晦悠介は現在動けない状態です。  故にあなたさまに頼みごとをしたいと思い、筆を取りました。  どうかレファルド皇国まで魔導映写機を届けてくれないでしょうか。  それが可能でしたら、私晦悠介はあなたさまの言うことをなんでも聞く所存です。  かしこ、中井出博光 晦悠介』 と─── 悠介 「待てキサマ!これ思いっきり『中井出博光』って書いて潰されてるじゃねぇか!     お前の目は節穴か!?それとも盲目かこの野郎!!」 ベリー「あっはっはぁ、わたし知ーらないっとぉ。     わたしは悠介に頼まれたつもりでやってたんだもん、     悠介に代償払ってもらわなきゃ納得出来ないわ」 悠介 「かっ……!……ああ、いい……さっさと済ませよう。で?何が望みだ。金か?」 ベリー「そんな、人をギャングみたいに言わないでよ。     ただね、研究所の改装を手伝ってほしいわけよ。     ほら、タマゴ動かしたらスペース余りすぎちゃってさぁ」 悠介 「……解った、解ったからとっとと案内してくれ……」 ベリー「こういう時って男手があると楽よね?ね?」 悠介 「いーからとっとと行け……」 ───……。 ……。 『ありがとー、助かったわー』……などと言ってたベリーから解放されて数分。 俺はレファルドに戻り、彰利を探して空中庭園に戻ろうとしていた。 が───がしっ。 悠介 「……今度はなんだ?」 リアナ「はっ、はぁ……あ、あの師匠っ!     さっきひとりで練習していたら、少し気になるところがあったんです!     少しでいいですから付き合ってください!」 悠介 「………」 ……断れよ?俺……。 ───……。 リアナ「ありがとうございましたぁっ!」 ……俺の馬鹿。 ああいや、一応もう解放されたわけだからとっとと─── ルーゼン「ダーリーン!!」 悠介  「ダーリン言うなぁっ!!……って、ルーゼン?なんだよ、レファルドまで来て」 ルーゼン「ちょっと材料調達に行ってきて欲しいの!行ってくれますわよね!?」 悠介  「ば、ばか言うなっ!俺はこれから休───」 ルーゼン「王の命令よ!お行きなさい!!」 悠介  「あ……あぁああのなぁああ……!!!」 ───……。 ルーゼン「助かりましたわー、またよろしく〜」 悠介  「王が魔導錬金なんてやってるなよたわけっ!!」 材料集める俺も俺だが。 はぁ……今度こそ─── ジークン「見つけたぁあーーーーっ!!!」 悠介  「帰れ!」 ジークン「ギョッ!?な、なにを言うかボケ!      我はただ貴様に審判を頼みたくて来たんザマスよ!?」 悠介  「審判頼むためにわざわざ集落からここまで来るなよ!      ……って、いったいなんの審判なんだ?」 ジークン「縄張り争いに決着をつけるべく、      公平を規して種族以外の者を審判に迎えようと」 悠介  「知らん、俺は寝るんだ……他をあたってくれ」 ジークン「ホホウ……どうやら地界人は人の頼みも聞かない薄情者らしいザマスね……。      やはり空界と違っていちいち事細けェ文化に生きてきたんザマショウ……」 悠介  「よしやってやる!何を隠そう俺は審判の達人だ!」 ジークン(……チョロイ) ───……。 シークン「なにぃいい!どう見たって我らの勝ちだろう!何処に目ェつけてんだクズが!」 悠介  「やかましい!引き分けって言ったら引き分けだ!!      審判頼んだんだったら素直に聞き分けろ!!」 スークン「審判だからって偉そうにしてんじゃねぇクズが!!てめぇ何様だクズが!!」 悠介  「やかましい!つーかわざわざ語尾に『クズが』って付けるな!!」 シークン「黙れクズが!」 ニークン「死ね!!」 悠介  「くあぁあああああっ!!!!てめぇらいっぺん死ねーーーーーっ!!!」 ドゴシャゴッパァアアアアアアアンッ!!!! 棒人間『しぎゃあああああーーーーーーーっ!!!!』 ───……。 悠介 「うぐ……っ……馬鹿なことした……」 レファルドに戻ってきた俺は、 ただでさえ弱っていた力をさらに行使したためにヨロヨロだった。 ああくそ……頭痛ぇ……。 ───がしぃ。 悠介 「……〜〜っ……ああもう誰ぇっ!!」 みさお「はぁ、わたしですけど。どうかしたんですか?」 悠介 「……みさおか……頼むから腕掴む前に声くらいかけてくれ……」 みさお「いえ、掛けたんですけどね。     そうしたら人生に疲れた人みたいにヨロヨロ歩いていってしまうものですから」 悠介 「───……なぁみさお。     そういうことを人の目を奥を見るような目をしながら言うの、やめような」 なんだかとっても悲しいから。 悠介 「それで……もしかしなくても何か用なのか?」 みさお「ああいえ、さっきベリーさんが来て、映写機忘れたわよ〜とか言ってきたので」 はい、とみさおが映写機を渡してくる。 ……これってあれだよな、宮廷魔導術師たちや国王が使って会話するっていう……。 中井出のヤツ、これ使ってなにを───って、ひとつしかないか。 中井出+映像=エロビデオだからな……。 悠介 「……解った、これは俺が責任と憤怒を持って中井出に渡しておく」 みさお「ふ、憤怒ですか?」 悠介 「ん……まあ気にするな。それより───」 くしゃっ…… みさお「え?あの……悠介、さん?」 悠介 「一緒に居てやれないばっかりで悪い。     今度時間が出来たら思いっきり遊んでやるから」 みさお「…………悠介さん、性格変わりました?」 悠介 「いきなり失礼なヤツだな……。まあ、悪いって思ってるのは確かだからな。     っと、それじゃあな、みさお。     あんまりここらへんうろついてると兵士にイチャモンつけらるぞ」 みさお「もうつけられましたよ……。『子供がこんなところをうろつくんじゃない』って。     『50も生きてなか小僧がなんば言いようとやー!』って叱ってあげましたけど」 悠介 「どうしてそこで方言使うのかは解らんが、そうか。     ……あー……せっかくだから一緒に来るか?」 みさお「?どうしたんですか、突然」 悠介 「いや、やっぱりここでこうして別れるのってヘンかなってな。     みさおもこの後空中庭園に戻るんだろ?」 みさお「あ、はい、それは確かにそうですけど……悠介さんもすぐ戻るんですか?」 悠介 「すぐ、って表現が実現すればいいけどな」 前途は多難なのだ。 なにせ、ここまでがここまでだ。 けど……進まなけりゃあ用事が終わらないのは確かだからなぁ……。 ───……。 ギィ……バタン。 中井出「お?おぉ晦一等兵、起きたか」 マゴシャア!! 中井出「へぶしーーーーーっ!!!」 みさお「うわ痛っ……!!」 大会の時に使わせてもらっていた部屋に居た中井出を発見するなり、 ナックルパートで空の旅にご招待した。 中井出「おあだいだだだだだ!!お、お前なぁ!俺ゃ生身の人間なんだぞ!?     ちったぁ加減してくれ───って、ああ、加減してこの痛さなのか」 悠介 「納得してるところ悪いが、人の名前を使って誰かに何かを頼むのはやめろ……」 中井出「あ、ありゃ?バレた?」 悠介 「バレないとでも思ってたのかお前は……!」 中井出「おお、そりゃもう。自分の名前書いといて、     消しときゃいいのにわざと横線にした俺の偽装工作……見事じゃなかったか?     思わず他の誰かが犯人では!?って疑っちまうだろ?」 ……ダメだこいつ、地界文字って時点で終わってることに気づいてない。 彰利ならやりかねないだろうが、そもそも彰利が魔導映写機を欲する理由が無い。 悠介 「……あのな、空界の誰が地界文字で空界人に手紙出すんだよ……」 中井出「あ」 悠介 「アホゥ……」 みさお「アホゥですね……」 中井出「そんなみさおちゃんまで……」 悠介 「とにかく、渡したからな。     それで何するのか……訊くまでもないから訊かないけど、     皇国を桃色に染めるのだけはやめろよ?」 中井出「あーあ大丈夫大丈夫。俺も今や魔導術師見習いだ。     ちょいとばかりこの映写機の構造調べて、     なんとかして妄想を映像に変える力が欲しいだけだから。     なんつーの?やっぱ自分の思考以上にエロいものなんて無いと思うんだわ」 悠介 「行こうかみさお、この部屋に居ると頭が痛くなってくる」 みさお「そうですね、子供にあんなことを熱心に語る人の傍に居るのは危険です」 中井出「え?あ、あれぇっ!?も、もうちょい聞いてってよ!     俺絶対にこの妄想具現化を実現してみせるって言ってんだよ!?     すげぇ夢じゃん!ちょっ───待ってえぇええええっ!!!」 キィ……バタン。 ───……。 ……。 悠介 「で……彰利のヤツは何処に居るんだ?」 みさお「彰衛門さんを探してたんですか?彰衛門さんなら今、     駆け出しメイドさん講座として悠黄奈さんにいろいろ教えてる途中の筈ですけど」 悠介 「……王城で?」 みさお「王城で」 狭界から戻った途端にこれか。 狭界でのあいつは真面目だったのになぁ。 ……いや、これも別の意味で真面目なのか? 真面目に悠黄奈にメイド業を教えてる、って意味では。 悠介 「あまりその現場は見たくはないが……行くしかないな」 みさお「彰衛門さんなら置いていっても平気なんじゃないですか?     べつに置いていって困るようなことは───」 悠介 「───それもそうだな。よし、さっさと帰る」 みさお「切り替え早いですね」 悠介 「ん?んー……元々、修行だの狭界だののことで話がしたかっただけだからな。     考えてみれば、そうやって俺があいつの自由時間を潰す理由なんて無い。     だったら俺ものんびりと休んで───」 ガッシャーーーーンッ!!! 声  「キーーッ!!こン小娘!なんべん言えば解っとや!?     そんな拭き方したら皿が落ちるのあたんみゃーくさ!!かんなじばーーーい!!」 ……休んで……─── みさお「……調理室ですね」 悠介 「そうだな……」 声  「っあーー!手が滑ったなんて当たり前のこと言ってこのお子はーーっ!!     しっかり持たなきゃ落ちるって何度も言うちょろーーーっ!?ちょろ!?」 みさお「何語でしょうか」 悠介 「時代錯語だ」 みさお「訳解りませんね」 悠介 「まったくだ」 ビジュンッ─── 悠介 「うん?」 バルグ「おお、こんなところにおったか。ちと頼まれてほしいんじゃがの、若いの」 悠介 「バルグじいさん……どうしたんだ?」 調理室から聞こえてきた声に頭を痛めていた時、 ふと聞こえた次元が歪む音に振り向いてみれば─── そこに居たのはバルグのじいさんだった。 バルグ「なに、ちょいと自国の方で兵士どもがたるんどるもんでな。     世界的に有名なお前さんにしごかれれば少しはシャッキリするんじゃないかとの」 悠介 「そんなものは自国の騎士か将軍にでも頼んで───」 バルグ「ほれ行くぞ。もたもたするでない」 ムンズと、人の話も聞かんじいさんの手が俺の腕を掴んだ。 悠介 「えっ!?いやちょ───待て!少しは人の話を───握手(アクセス)
!!」 ガシィッ!! みさお「へっ!?あ、あぁあああーーーーーーーっ!!!!」 転移されるまさに直前、 俺はとっさに傍に居たみさおの手を握ると……まあその、巻き込んだ。 その途端に転移は発動し、 気が付けば───俺とみさおはオーエンの城へと降り立っていた。 ───……。 ……。 悠介 「はぁ……」 みさお「お疲れさまでした……」 着くなり総勢百人以上の兵や将軍や元帥を合わせた者たちと戦わされ、 肉体的というよりは精神的に疲れた俺は……ただただ溜め息を吐いた。 目の前にはボロ雑巾のように練兵場に倒れ伏す兵士や将軍や元帥たちが。 みさお「でも万全じゃないのに“人”の状態でここまで出来るんだから凄いですよね。     やっぱり人間超越者です」 悠介 「ああ……もうどうでもいいから休みたいよ俺は……」 バルグ「ほっほっほ、悪かったの。さて、疲れてるところ悪いんじゃが、     ちと国の財政のことで相談したいことがあるんじゃ」 悠介 「あ、あのな……そんなことは王国直属の大臣にでも……」 バルグ「生憎と今日はオフ日での、居ないんじゃ」 悠介 「だ、だとしても俺より他のヤツに……」 バルグ「……これが良い方向に解決しなければ、城下町で暴動が起きるやもしれん。     じゃからこうして信用におけるお前さんに頼んどるんじゃがな」 悠介 「ぐあ……」 じいさん……その言い方卑怯だ……。 そして神様……既に手伝おうとしてる俺は、本当に馬鹿なんでしょうか……。 ───……。 ───そうして。 『助かったぞーい』などと言って、 転移する俺達を見送ったバルグじいさんの言葉を受け流し、空中庭園へと戻ってきた。 みさお「王様って大変なんですね」 悠介 「やってみりゃ解る……あれは本気で大変で面倒だ」 言葉少なめに庭園を歩き、自分の家と決めた場所に入る。 ……いや、入ろうとした。 したら─── エメオ《侵入者アリ、侵入者アリ》 悠介 「───へ?」 家の中に、忘れもしないエメオ=ノヴァルスが居た。 そして撃たれた。レーザーを。おお倒置法バンザイ───じゃなくて!!! みさお「あわわわわぁあああーーーーーっ!!!ゆ、ゆゆゆ悠介さぁあああんっ!!!」 悠介 「みさおっ!?ってそっちもか!!」 見れば、自分の家に戻ろうとしていたみさおもレーザーを撃たれて逃げ回っていた。 どうなってんだ───なんて考えるまでもない。 みさお「ゆ、悠介さんっ!これってどうなってるんですかぁっ!?」 悠介 「こいつらはウィルの適当な状態で発生と攻撃をしてるんだ!     つまり、地上に居る悠黄奈に預けといたウィルに何かあったんだ!!」 みさお「なにかってなんですかぁっ!!」 悠介 「し、知るかぁああああああっ!!!!!」
───ちなみにその頃のウィル 彰利 「おわぁーーーーっ!!!輝☆太郎(かがやきたろう)
が吐いたーーーっ!!!」 ウィル『ゲフッ!!ゴフッ!!ガゴフッ……!!』 悠黄奈「ノノさん……これは少し香辛料を入れすぎなのでは……」 ノノ 「そう?もっと辛くてもいいくらいだけど」 彰利 「王室料理担当の言うセリフじゃねぇや……。     皿磨きもまともに出来ない上に味覚音痴とは……」 ノノ 「任せて!掃除もまったく出来ないわ!」 彰利 「ッキーーッ!!威張るんじゃなかとーーーっ!!!     あんた少しは物事を身につけんしゃあ!!かんなじばーーーい!!」 悠黄奈「あの、彰利さん?その『かんなじばい』とはなんなのでしょうか……」 彰利 「適当に叫んでるだけだから気にせんでええよ」 悠黄奈「そうですか……あ、ウィルさん、お水をどうぞ。少しは落ち着くと思います」 ウィル『た、助かります……───ふぅ、確かに落ち着きました』 彰利 「水飲む精霊って初めて見たわい。もちろん、辛さに悶える精霊も」 ウィル『黙れ下郎が』 彰利 「黙れパンチラ!!」 ウィル『パッ……!?わ、訳の解らない罵り方をするな!!
シュゥウウウウウ…… 悠介 「はっ……はぁ……と、止まった……?」 みさお「みたい……ですね……」 さすがにエメオ=ノヴァルスを破壊できるほどの余力は残ってなかった俺は、 情けないことに逃げ回っていた。 ああいや、情けないとか言う前に生きていなけりゃ意味はないんだが。 悠介 「はぁ……なんだってんだ今日は……」 みさお「どうせまた彰衛門さんがなにかやったんですよ……」 悠介 「………」 否定できないのはあいつの日頃の素行の成果だろうな。 悠介 「しかしまいった……。体が弱ってるっていう自覚はあったけど、     まさか理力まで使えなくなってるとは思わなかった」 みさお「仕方ないですよ。元人間なのに竜の力を限界まで引き出していたんでしょう?     多分、消費してしまった力を補うために理力が消費されてるんですよ」 悠介 「反動力まで枯れてるような状態だからな……そりゃ当然か」 困ったことに、神魔竜の反動ってのは予想以上に半端の領域を超えたものだった。 ノートに言わせれば『少しずつこうやって抗体を作っていくしかない』そうなんだが、 それでもあの反発反動力が枯れるほどの影響が出るとは思いもしなかった。 お陰で現在の俺は“ただの”人体超越者。 能力は一切使えず、みさおの協力が無ければここに戻ることも出来なかった存在だ。 残りカスだとしても残っていた能力で、神魔竜人拳使ったりラインゲート開いたり、 そりゃもう枯れた能力をさらに枯れ果てさせるようなことをした代償だ。 悠介 「まあどうであれ……これでやっと休め───」 ビジュンッ!! リオナ「晦悠介!!」 悠介 「………」 よし、神をチェーンソーで斬殺しよう。 その時、どうしてか俺はそう思った。 悠介 「な、なんの用だキサマ……今の俺の平穏を乱すヤツはそれ相応の───」 リオナ「わたしに錬金を教えてくれ!」 悠介 「───……へ?」 リオナ「いいのかダメなのかどっちだ!答えろ!いや、いいと言え!教えろ!!」 悠介 「ちょ、ちょっと待て、落ち着け……。なんだっていきなり錬金術なんだ?     錬金学科は一切受けずに変則魔術学科ばっか取ってたお前が……」 リオナ「ぐっ……じ、実は───」 いきなり来訪した彼女は、いきなり話を始めた。 そりゃあ理由を訊ねたのは俺だが。 ……ともかくそうして、 彼女が錬金を覚えたいと言った理由は……まあ、呆れながらも理解できた。 悠介 「キサマ……よもやそんなことで錬金を覚えたいなどと……!」 リオナ「自分でも馬鹿者だということくらい解ってる!だが仕方無いだろう!     わたしにとってのリアナが自慢の妹であるように、     リアナにとってのわたしも自慢の姉なんだ!!     そのリアナが言ったんだぞ!?     『師匠って錬金も魔術も出来るのに剣術まで出来て凄いね』って!     そしてその穢れの無い目をわたしに向けて言ったんだ!     『姉さんも同じアカデミーに居たんだよね?      凄いね、師匠みたいに錬金も魔術も出来るんだ』って!!     ここで『出来ない』と言えるか!?     いいや言えない!言えるか!そもそも言うか!!言うもんか!!     だからわたしは錬金術を覚えなければいけないんだ!     リ、リアナにウィンドマテリアをプレゼントするって言ってしまったんだ!!」 悠介 「こ、こぉの天地崩壊級激烈最強大たわけぇっ!!!!     なんだってそんな約束したんだ!!今すぐ本当のことを話して謝れ!!     それが本当の真実で、ウソじゃない本当のお前だろうがぁっ!!」 リオナ「ば、ばばばばかっ!!リアナはわたしのことを尊敬の眼差しで見てたんだぞ!?     今さらウソだったなんて言えるか!なんてこと言い出すんだ貴様は!この馬鹿!」 悠介 「お前に馬鹿とか言われたかないわっ!!とっとと帰れたわけ!!」 リオナ「うぐっ……う、うぅうう……た、頼む晦悠介ぇえええ……!!!     未来の姉を助けると思ってぇええ……!!」 悠介 「だぁああーーーーっ!!!泣くな抱きつくな未来の姉言うなぁああっ!!!!     解った!!解ったからとにかく離れろぉっ!!!」 リオナ「教えてくれるのかっ!?信じていたぞ晦悠介!     貴様は人を見捨てるようなヤツじゃないって信じてた!!     ありがとう晦悠介!貴様は命の恩人だ!!」 この世界じゃなにか? ウソを救うのが命の救済で、しかも命の恩人を貴様呼ばわりするのが普通なのか? ……ああいや、考えるのやめよう。 悠介 「というか……ウィンドマテリアなら純度100%のがまだ工房に残ってるぞ?     それ持っていくか?べつに金は要らないから」 リオナ「ばかっ!わたしが作ったものを渡さないと意味がないだろう!!     プレゼントの意味も知らないのかお前は!!」 悠介 「礼儀知らずな上に     自慢の妹にウソついて泣きつく見栄っ張り馬鹿に言われたくないわ!!!」 みさお「諸行無常ですねぇ……」 万物は留まることを知らない……まったくだ。 少しは留まることを知って、人を安息に誘ってもらいたい……。 ───……。 リオナ「うあわわわわっ!!」 ドゴシャァアアアアアアンッ!! リオナ「す、すまん晦っ!え、えと、これは……」 悠介 「違うそれじゃないっ!とりあえず慌てるな!     工房内は風の属性で満たしてあるんだから、     冷静かつ慎重にやれば風属性に長けてるお前なら───」 リオナ「だだだだがお前に借りた備品がっ───あぁっ!」 がしゃぁあんっ!!! リオナ「すすすすまない晦っ!わたしはまた───」 悠介 「ばかっ!そんなところで頭下げるな!後ろに棚が───」 リオナ「え?あっ───うわぁあああっ!!!」 悠介 「っ───」 ガシャアッ!!バシャァアアーーーンッ!!!! 悠介 「ぐあっちぃいいいいーーーーーっ!!!!」 リオナ「うわぁあああっ!!?ばばばばかっ!わたしなんかを庇うからっ!!」 悠介 「たわけっ!気にしてる暇あったら集中しろっ!!     というかなんでウィンドストーン一個作るのにこんなに命懸けなんだよ!!     ウィンドストーンって言ったら解毒薬より下の『ランクE+』の代物だぞ!?」 リオナ「うぐっ……す、すまない……」 悠介 「ああいや……悪い、休んでないから気が立ってるんだ……。     お前のペースでいい、ゆっくり慣れていけ。俺も出来る限りで協力する」 リオナ「……ああ───いっ!?」 グラッ───がしゃんっ!! 悠介 「うっ───えぇっ!?」 ガカァアアアアアアッ!!!! 悠介 「おぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!?」 リオナが傍にあったサンダーマテリアを落とし、 それが床に砕けたことによりその場に雷光が発生。 もちろん俺はリオナを庇い……満身創痍状態に。 自分のシンボルの属性で焼き焦げるなんて、本当にシャレになってないな……。 しかしまああれだ。 もし俺が彼女に送る言葉があるのなら─── 悠介 「……お前、よくアカデミー卒業出来たな……」 そんなところだろう。 ともあれ俺はみさおの月生力で体の傷だけでも癒してもらいながら、 先のことを考えて頭を痛めていた。 リオナ「す、すまんっ!本当にすまんっ!!」 悠介 「ああいや……謝るのはいいから作業続けてくれ……。     いいか……?自分の得意とする属性を疑うな……。     風を使うんじゃなくて、風と一緒に在ることをイメージしろ……。     それが解ってれば、ちゃんと万象は応えてくれるから……」 リオナ「あ、ああ……解った」 リオナは小さく頷くと、もはや残り最後となった材料を手にした。 それをゆっくりと砕き、魔導器の中に入れて混ぜてゆく。 リオナ「……白状するとな……晦。     わたしは錬金の学科を取らなかったんじゃなくて、取れなかったんだ」 悠介 「……?」 がつっ、がつっ、とさらに砕く音がする。 そんな音とともに、リオナはゆっくりと懐かしむように自分のことを話し始めた。 リオナ「わたしは最初から魔術師になるためにアカデミーに入ったし、     そのための費用さえ家の中から掻き集めてやっとっていうくらいだ。     裕福ではなかったんだ、当然だな。     だから必要な学科だけを取り、早く昇学して卒業する必要があった。     在学しているだけで周期にかかる費用がある。     寮に入れてもらうことを拒んだお陰でそれも小さく纏まったが、     そもそも入学だけでも手一杯の金しかなかったんだ。     本来ならそれ以上続けられる筈もなかった」 悠介 「………」 リオナ「けどな、途方に暮れていたわたしのもとに、一通の手紙と金が届けられた。     ……差出人は妹だったよ。大切にしていた剣を売って、金に代えたんだ。     馬鹿だと思うだろ?     立派になってリアナに楽をさせたいと思ってアカデミーに入って……     その所為で逆に金を無くしてしまった馬鹿な姉のために、大切な剣を売るなんて」 悠介 「……?でもリアナは自分の剣持ってただろ。相棒とまで言ってたぞ?」 リオナ「リアナはもともと二刀流だったんだ。剣は得意だが盾が苦手なヤツでな」 悠介 「………」 この姉にしてあの妹あり、か? いくらなんでも得意不得意が分かれすぎだろ……。 リオナ「今となっては売ってしまった剣が何処にいったのかも解らない。     そもそも世界が融合する前に売ったものなんだ、     何処にどう流れたのかなんて解るわけがない」 悠介 「そっか……それはごぉぁああああっ!!!」 リオナ「うわっ!?つ、晦悠介!?」 か、体から力が搾り取られる……!? この反応は───諸力か!?ちょ、待て! もしかして悠黄奈のヤツ、ウィルだけならまだしも何体も召喚してるのか!? 悠介 「ちょ……待て……!!シャレに……」 意識が遠退く。 が、ここで目を閉じたら帰ってこれない気がする。 た、耐えろ……耐えるんだ…………よし無理! あっさり無理だと悟る中、俺は工房の床に無様に倒れ伏した。 だが希望は捨てない。 悠介 「みさお!レファルドに行って───いぐっ!?ぐ……!!     レ、レファルドに行って……悠黄奈に精霊使うのやめろって……言ってくれ……」 みさお「あ───は、はいっ!!すぐ行きますから頑張ってください!!」 俺の状態を察してくれたのか、みさおは工房のドアを開け放つとすぐに転移して消えた。 ……けどな、頑張れっていったって……本気でヤバイぞ。 リオナ「うぅ……つ、晦……大丈夫なのか?わたしになにか出来ることは……」 悠介 「なにもしないでくれ……」 リオナ「さ……サワヤカに言うなっ!!人がせっかく……───うん?     なぁ晦悠介……この工房の中には、なにか特効薬かなにか無いのか?     抜け目の無い貴様なら何かあるんじゃ───」 悠介 「あ……そういやそこの棚にエリキシルが……」 リオナ「エ、エリキシル!?き、貴様そんなものまで作っていたのか!?     錬金のことなんてからっきし知らないわたしでも、     エリキシルがどれだけ凄いかくらい知っているぞ!?」 悠介 「御託はいいから取ってほしいんだが……」 リオナ「あ、ああっ……えと、すまない……」 しゅんとして、リオナは棚にあるエリキシルを手に取った。 が───グキッ…… リオナ「つっ───!?あ、あぁっ!!」 落とし、壊したまま片付けもしなかった練成素材の欠片を踏み、 拍子に足を捻ったらしいリオナはエリキシルを滑らせ───がしゃん、と。 見事に粉砕してくれた。 リオナ「あ……うあぁあああああっ!!!エ、エエエエエリキシルがぁあああっ!!!!」 現在この工房にあるものの中では マテリアルインゴット並の価格のするソレを破壊したリオナは、それはもう絶叫。 顔面蒼白になりながら震え、倒れた自分も顧みずに砕けたソレを震える瞳で見つめた。 気にするなと言ってやりたいところだが、こっちもそろそろヤバイ。 意識が朦朧としてきて、……あ、ダメだわコレ。 意識失う時と同じ感覚だ。 まずいなぁ……───
───……その頃のレファルド皇国調理室 みさお「アホですかぁあああああっ!!!!」 コッパァンッ!! 悠黄奈「ふきゅぅっ!?」 ノノ 「おおっ!スリッパ攻撃!」 みさお「ゴキブリが出たくらいで精霊を行使しないでください!!」 彰利 「いや……そりゃ無茶ってもんだぜみさおよ。空界のゴキブリってデケェんだもん」 みさお「記憶が無いのにゴキブリが怖いなんてどういう脳味噌加減ですか!!     いいですか!?今後一切、     悠介さんの体調が完全に回復するまで精霊行使は禁止です!!」 彰利 「まぁまぁいいじゃないのぉみさおさん。     ゴキブリを恐れないおなごって、逆に『おかん』みたいで嫌だよ」 みさお「その所為で悠介さんが死にかけてれば世話し合りませんよ!     解ってるんですか!?今の悠介さんは能力が一切使えない状態なんです!     それなのに諸力を消費する精霊召喚なんてやったら、     それこそ死んでしまいますよ!」 彰利 「あ……そういやそうだった。で……悠介大丈夫なん?」 みさお「……わたしがここに来る前、もう立っていられないくらいの状態でした。     そうじゃなければ『わたしが』言いにくるわけないでしょう……」 彰利 「む……そりゃすまんかった。そういうことなら任せときんさい。     精霊どもが出てこんよう、俺が見張っておきましょう」 みさお「そうしてください。それじゃあわたし、戻りますね」 彰利 「達者での、坊や……」 みさお「誰が坊やですかっ!!」
…………。 リオナ「……?お、おい……晦……?お───おいっ!!返事しろ晦!!」 悠介 「……ぅ……、い、じょうぶ……。まだ、かろうじて……」 リオナ「お前……こんな体でわたしやリアナの相手をしていたのか……?     どうして言わなかったんだ!どうして!」 悠介 「かっ……このたわけ……!お前らが真剣に頼むからだろうが……!     真剣に前を見てるヤツに協力出来ないくらい     情けない馬鹿なつもりはないぞ俺は……!」 リオナ「晦……貴様は……」 悠介 「悪い……正直喋るだけでも消費する……。少し休ませてくれ……。     なんとか、諸力の消費は止まったみたいだから……寝る」 リオナ「す、すまない……わたしが見栄なんて張って、お前を巻き込んだから……」 悠介 「気にするな……というか喋らせるな……そしておやすみ……」 ……がくり。 リオナ「え……お、おいっ?こんなところで寝ると体を痛めるし風邪を───おいっ!」
───……一目見て、それが夢だと解った。 悠介 「ここは……」 そこは、自分が一度も見たことのない世界だった。 いや、世界というよりは景色だ。 雰囲気でそこが地界だということくらいは解るが、 何故自分がそこに居るのかがまず解らなかった。 司会者『栄えあるマッスルボディ世界一決定戦優勝者はエントリーナンバー508番!     日本のビスケット・オリバこと藍田亮選手です!!』 オリバ「CertainrySir、謝謝楊海王」 司会者『かしこまりましたと言われる覚えはありませんが、おめでとうございます!!     あっと!ここで応援に来ていた人たちが壇上まで駆けつけました!!』 中井出「マッスルボディマッスルボディ!!」 中村 「筋肉一番!筋肉万歳!!」 彰利 「キャアア!!ステキだぞマッスル−!!」 殊戸瀬「マッスルボディー!オリバ万歳ーーーっ!!」 島田 「オーリーバ!オーリーバ!!」 夏子 「藍田くんステキーーッ!!」 佐野 「スーテキ!」 丘野 「スーテキ!」 彰利 「フースキ!」 中井出「ファッスフィ!!」 丘野 「マッスブディ!!」 中村 「マッスルボディ!!」 増山 「マッスルボディ!!」 蒲田 「マッスルボディ!!」 清水 「マッスルボディ!!」 飯田 「マッスルボディ!!」 長井 「マッスルボディ!!」 総員 『マッスルボディーーーーーッ!!!!!
がばーーーーっ!!! 悠介 「ヤな夢見た!!!!」 ていうかなんだあの夢訳解らん!! いやそもそもなんであんな夢─── 悠介 「ぐっ……!!?」 声  「あっ、こらっ!まだ起き上がるんじゃない!!」 悠介 「……?リオナ……?」 声はした。 が、目の前がぼやけていてよく解らない。 それに……勢いよく起き上がったっていうのにまた意識が─── 声  「───!?おい晦っ!?晦っ───」 ───……。 ……。 悠介 「ぐあぁああああああーーーーーーーっ!!!!」 がばーーーーっ!!!───再び勢いよく起き上がった。 今度が視界もちゃんとしていて、体もさっきより軽い……が。 悠介 「は、はぁっ……はぁああ……!!っ……ぐっは……はぁああ……!!!」 全身から嫌な汗が出てる。 そりゃそうだ……よりにもよってあの夢を見るとは……。 リオナ「……起きて大丈夫なのか?」 悠介 「あ……リオナか。そっちこそ大丈夫なのか?錬金は───」 リオナ「ああ、あれはまた今度だ。情けないが今のわたしでは作れない。     そんなわけで、貴様の言うとおりにする。     貴様のウィンドマテリアをプレゼントして、     いつかわたしがウィンドマテリアを練成できたら……それとすりかえるつもりだ」 悠介 「ああ、それでいいと思うぞ……」 こっちも、さすがに今日は騒いでほしくないし。 リオナ「ところで……なぁ晦。寝言で何度も言っていたが……     『ダニエル』っていうのは誰なんだ?」 悠介 「ぐっ───!」 忘れたいことを抉られてしまった……。 ダニエル……そう、ダニエルだ。 ヤツがとうとう俺の夢の中にも現れやがったのだ。 ご丁寧に空界まで追いかけてくるなんて、どういう呪いなんだかまったく……!! 恨むぞ……?最初に『超絶ミラクルダンディー・コックリーニョさん』を広めたヤツ……。 ああいやいや、いかんな…… 人間余裕が無くなってくるとなんでもかんでも人の所為にしたがる。 ……この際、人間じゃないだろう、なんてツッコミは無しだ。 悠介 「よし……体も少しは動くみたいだし、今のうちに体の筋を伸ばしておこう……」 言って立ち上がる。 ふと、どうして工房の中じゃなくて庭園の家の中なのか……などと思ったが、 それはリオナが連れてきてくれたんだとうと納得することにした。 悠介 「んっ……───んーー……!」 やがてぐぅっと伸びる。 そして───咳き込んだ。 リオナ「こ、こらっ!弱った体で無茶はだな……!」 悠介 「い、いやっ……げほっ!無茶なんてしてるつもりはな───げほっ!がはっ!!」 な、なんだ……? 風邪なんて引いたこと無いってくらい健康体だったってのに……まさか風邪引いたのか? それにしてはなんか……ヘンだ。 咳の瞬間、やけにヘンな味がして……しかも腹が痛い。 これは───? 悠介 「うっ───ぶふっ!?」 リオナ「なっ……」 リオナが驚愕の表情をする。 ……当然だ、俺だってそうなんだから。 どういった理由があるのかは解らない。 ただこれは風邪なんかじゃないってことだけはよく解った。 何故なら……俺は血を吐いたからだ。 悠介 「あ……、れ……?」 さらに眩暈に襲われ、立っていられなくなったまた倒れた。 リオナ「晦!?おい晦!!」 ……咳は止まらない。 血が飛び散り、熱が出て、自分じゃ解らないが恐らく顔面は蒼白だろう。 やがて意識は完全に途切れ、ただ俺の頭の中には叫ぶリオナの顔だけが焼きついていた。 ───……。 ……。 ……と、そんなことがあったのが30分前。 あれから地上から戻ってきたらしいみさおが、 慌てるリオナと血まみれで倒れる俺を発見し、すぐに彰利に報せたのがその時間でもある。 ベリー「んー……地界で言うストレス性の胃炎だね」 総員 『ああ……』 そして……ようするにそういうことらしい。 俺の今までの鬱憤やら溜め息やら苦労やらの蓄積は、 今になってこうして結果を表した、ということだ。 つーか…… 悠介  「こら……なんだよその『ああ……』ってのは……」 彰利  「いや、なんだろね。      悠介が一生のうちにかかる病気リストがあるとしたら、      絶対にストレス系のものは含まれてるだろうなって思ってた」 みさお 「わたしも」 ベリー 「わたしも」 イセリア「わたしも」 中井出 「やきいも」 悠介  「お前らなぁ……っつ……!くあ……!」 ベリー 「あぁほら無茶しない。普通なら安静度は高いんだからね?      そこんところを努力と根性と腹筋で耐えてるのは悠介の凄いところだけど」 イセリア「大丈夫。苦労人なら一度は通る道だから……」 悠介  「お前も通った道か……」 イセリア「は、はは……それはもう……」 ……がしっ! 悠介&イセリア『同志よ……』 ベリー    「あーあはいはいそこ、友情確かめ合わないの。安静にしろというのに」 悠介     「貴様には一生解らんよ……」 イセリア   「そーだよこのいんごーばばー」 ベリー    「お黙り」 組んでいた肩を解き、ベリーに文句を飛ばす。 なんにせよ……胃炎になるなんて不覚だ。 俺ってそんなにストレス溜まってたのか?それも、血を吐くほどに……。 ベリー「とーにーかーく。悠介はしばらくはお休み。     せっかくだから胃炎と能力の両方ともゆっくり治しなさいな。     それと、本当に辛い時はちゃんと理由を説明して断ること。いい?」 悠介 「ニセモノだって解りきってた紹介状で     人のこと追い詰めたキサマに言われちゃお終いだ……」 ベリー「そ、それはその……言いっこなしってことで、ね?」 ごにょごにょとバツが悪そうにそっぽ向きながら言うベリー。 そんなベリーを余所に、リオナがすまなそうな顔で俺の顔を見て言った。 リオナ「その……お前はそんなにもストレスが溜まることをしてきたのか?」 悠介 「へ?あ、いや……」 まず第一に『貴様』じゃないことに驚いた。 や、それは捨てておこう。 悠介  「ストレスが溜まることねぇ……」 彰利  「……?な、なにかその目は!まるで現物を見るような目でオイラを見るな!!」 悠介  「ふふっ……ストレスが云々よりもな、リオナ……。      俺は周りに恵まれてんだか      恵まれてないんだか解ったもんじゃなかったってことさ……」 リオナ 「……よく解らないが」 悠介  「解りたいなら一度は自然に血を吐いてみなけりゃ無理だな……」 イセリア「うんうん……そうだね」 俺とイセリアがうんうんと頷く中、皆が悲しい目で俺達を見つめた。 ……ほっといてくれ、 ストレスで血を吐いたことで繋がった親近感など珍妙すぎてキサマらには解らんのだ。 血を吐いたことのない貴様らに解ってたまるか!! ……いやいや、なんかそれヘンだ、落ち着け俺。 彰利 「まぁよ、リヴァっちとかの手伝いはこっちでやっちゃるけぇ、     キミは思いっきり休みんさい。この俺の本気、見せちゃうよ?」 悠介 「ここで休んでてどうやって見せられるんだよ」 彰利 「……あれ?そういやどうやって見せるんだ?」 みさお「わたしに訊かないでくださいよ」 彰利 「……?」 自分で言い出しといて、妙に疑問の壷に入ったのか…… 彰利は首を180度捻りながら悩み始め───って 悠介 「怖ェエよ!」 彰利 「え?なにが?───うおっ!?悠介が天井にくっついてる!?     キサマ弱った体のくせにいつの間にそんな妙技を!?」 彰利が180度捻った顔で言う。 どうやら無意識に捻っていたらしい……。 悠介 「……というか。180度捻った状態の場合、首の骨はどうなってるんだ?」 みさお「1、伸びてる。2、ボルドヘッド先生みたいに伸びる。3、複雑骨折。4、分離」 悠介 「とりあえず5、黒で繋げてる。でアンサー」 彰利 「正解は4の分離でしたー♪」 ブチブチ───ゴトリ。 生首彰利「……な?」 総員  『ほぅわぁあああーーーーーーーーーっ!!!!!』 悠介  「わざわざ首落としてから確認取るな!怖いだろっ!……って!いててて……!」 生首彰利「ああほれほれ、無理するでないよ」 みさお 「生首状態で空浮いて喋るのと      胃炎の痛みに耐えるのとどっちが無理だと思ってるんですか」 生首彰利「後者でアンサー」 総員  『や、それ絶対無いから』 生首彰利「不っ思議し〜ぎ〜し〜ぎ〜し〜ぎ〜フ〜〜〜マ〜〜〜♪」 みさお 「生首だけで舞わないでくださいっ!!」 ベリー 「……ねー、ちゃんと人の話聞いてたー?      悠介、安静にしなきゃいけないんだってばー」 生首彰利「おっとこいつはいけねぇや、騒いだらマズイね」 悠黄奈 「ところで……どうやって生首だけで喋ってるんですか?」 みさお 「というかどうして喋ってられるんですか」 生首彰利「ピエロだからさーーーーーっ!!!」 関係無いと思うが。 というかむしろ関係ない(断言系)。 リオナ 「嘘をつくな。首が取れて生きている存在など居ない」 生首彰利「嘘じゃないさ?      世界レベェ〜ルのピエロともなれば、生首になっても喋れるものなのさ。      現にボクはこうして喋ってるじゃないのさ」 みさお 「それは彰衛門さんが人間やめてるからですよ。      ていうかいい加減首くっつけてください」 生首彰利「せっかちだねぇ」 悠介  「……そもそもお前ら人を休ませるつもりはあるのか……?」 総員  『皆無!!』 悠介  「出ていけたわけどもぉおおおーーーーーーっ!!!!!」 生首彰利「貴様のようなヤツはクビだ!出ていけぇっ!!」 みさお 「どうしてここで雄山になるんですか!!」 生首彰利「もちろんなんとなくさ?まあいいじゃないさ、日本代表。      ボクのような世界レベェ〜ルのピエロに付き添ってもらえるなんて、      普通じゃあ在り得ないことだよ」 生首の世界レベェ〜ルピエロに居てもらって喜ぶやつは居るだろうか。 いや居ない……反語。 ああもういい、強引に寝てしまおう。 こっちはもう休まなきゃやってられない体なんだから。 そう思い、起こしていた体を寝かせて目を閉じた。 声  「あれ?寝るのかい日本代表」 日本代表言うな。 声  「彰衛門さん、もう寝かせてあげましょうよ。     というかどうして悠介さんの上を浮遊徘徊してるんですか」 声  「ピエロだからさぁーーーーーっ!!!」 もう無視だ無視……寝よう、とにかく寝よう。 そしてその先でいい夢でも見て心を癒そう。 ……ということで、どうかダニエルが出ませんように……。 などと思いながら、俺の意識はゆっくりと……沈むはずもなく、強引に沈めていった。 Next Menu back