───日常の一端───
【ケース34:晦悠介/リハビリで世界崩壊の力を振り絞るモミアゲ大王】 ───……。 悠介 「ン……」 ス……と景色が開いた。 見えるのは白い天井───といっても病院というわけじゃない。 ここは……ああ、そっか、庭園の部屋だ……。 悠介 「……、ぅ……」 体をゆっくりと起こす。 が、固まっているかのように体が重い。 悠介 「く、っそ……!一体何日寝てたんだ……!」 体の中に諸力と魔力の反応はある。 完全に回復している筈なのに、体はそれこそ鉛になったかのように重い。 鉛の重さなんて軽いと思う体を作ってきたとはしても、 根本が弱っていたらそうはいかないようだった。 声  『汝が眠っていた期間は丁度一週間だ』 悠介 「……ノート?」 両親指の指輪から出てきたノートが俺が寝ていた場所の隣に立つ。 相変わらずの神父服がフワリと揺れ、その場にどこか神聖な雰囲気を齎す。 無属性の精霊なのにそう感じるのは、やっぱり神父服に覚える先入観からだろうか。 悠介 「一週間……それだけの時間、ずっと眠ってたのか……?」 ノート『眠っていた、とは違うな。眠らせていた。     胃炎は治っているが、あまり無茶はするな』 悠介 「……あー……」 頭がボーッとしてる。 それよりもさらに体が鈍っているようで、 どうにも自分の意思と体とが繋がっている感じがしない。 悠介 「っ……冗談じゃないっ……!!せっかく鍛えたのに、鈍ってたまるか……!!」 重い体をギシリギシリと動かしてゆく。 意思としてそうしようとするのと、体が動く感覚はあくまで曖昧だ。 だからこそそれを乗り越えようと少しずつ動かし、立ち上がり、やがて歩いた。 ノート『無茶をするな、と言ったばかりだが?まあそれを訊くような者でもないか。     ……それで?理力や魔法を使って回復させたりはしないのか?』 悠介 「鈍った時のことも考えて……!これに慣れる……!!回復はいらない……!」 ノート『……呆れた修行の虫だな』 悠介 「どうとでも言えっ!くぅうぁああああああああっ!!!!」 ギシリと動く体を強引に動かす。 繋がりやがれ!俺の意思と俺の体───!! 悠介 「はぁっ!!フッ!せいっ!!───たぁっ!フゥッ!!ハァアーーーッ!!!」 フオッ───シュッ、フォッ!───ヴオッ!フォフォンッ!ボッ!! 突き、肘、上段蹴り、回し蹴り、跳躍ニ連蹴り、突き、の順に体を動かす。 そこまでは体が動いたが、少し集中を乱せばすぐに体が鈍くなった。 悠介 「……ふ、ふふふ……」 そうかそうか……だったら簡単じゃないか……集中を乱さなけりゃいい……!! 悠介 「はぁあああっ……!!!」 意識を体と連結させるようイメージし、一気に体を動かしまくる。 突きや蹴りを幾度となく振るい、何も無い場所に魔法や魔術や式を放ち、 さらには竜人や竜になってみて具合を確かめた。……ちゃんと部屋の外には出て、だぞ? ……よし!集中さえ纏まってれば大体のことは出来る! 体が鈍ってるならその分動かせばすぐに直るだろ───よし!! 悠介 「よしノート!リハビリに行くぞ!」 ノート『……狭界か。あそこはリハビリには向かないと思うが?』 悠介 「一度全力で暴れてみたい……っていうのは迷惑な話か?」 ノート『……ふむ』 悠介 「って……そうか。そういえば狭界じゃあ精霊は───」 ノート『いいや、アレはデマカセだ。     真実は確かにあるが、汝が気にするほどのことは存在しない。気にせず行け』 悠介 「デマ!?……あ、あのなぁっ!!」 ノート『どうした?なにか不都合があるか?』 悠介 「………」 無い。 そんなものは無いが……納得が出来るのかと訊かれればノーだ。 悠介 「解ったよ、なにか事情があるなら泉に着くまでに教えてくれな」 ノート『構わん。どうせ弦月彰利が言う筈だったことだ。     今ここで私が話しても不都合は無いだろう』 悠介 「よし、話は纏まった。じゃあ行くか。神魔竜解放!!」 ゾフィィンッ!! 皇竜王『ギシャァアォオオンッ!!!!』 ノート『……咆哮しないと気が済まないのは仕様か?』 皇竜王『仕様だ』 ニヤリと口の端を歪めた。 ……けど、随分あっさりと神魔竜化が成功したな。 前は随分と時間がかかったものだけど。 皇竜王『………』 ノート『……?どうした』 皇竜王『……いや、気の所為だな』 もしくは体が慣れてきているのかもしれない。 それならそれでいい、竜化に免疫が出来ることに文句なんて無い。 ……もっとも、それは自分の力でゆっくりと……って意味だが。 過程の無い実りは、どうにもしっくり来ないから。 皇竜王『……というわけで、攻撃していいか?』 ノート『そうくると思っていた。相手をしてほしいのなら構わん』 皇竜王『やっぱノートか……。あのなぁ、俺の性格解ってるだろ?     自分の知らないところでこういう耐性とか出来ても嬉しくないんだけどな』 ノート『無茶をした罰だ。汝が死ねば精霊たちも諸力を失う。     それはつまり、契約の失効と悠黄奈の暴走を意味する。汝はそれを良しとするか?     それなら汝の放つ極光を抗いもせず受けるが』 皇竜王『……無茶をしたのは悪かったよ。けどこれが罰なのは……』 ノート『お詫びに手合わせすると言ってるんだが?     私と手合わせ出来るなど、滅多にあることじゃないぞ』 目の前の、空界の象徴たる最強の精霊野郎が小さく笑う。 確かにこれはいい経験になるだろう───って。 皇竜王『ちょっと待て!ノートが攻撃を仕掛けるってことは、     俺の中の力が消費されるってことじゃないか!』 ノート『そうだな。ここが崩壊することが無いという意味では丁度いい』 皇竜王『オイ』 確かにその通りだが、あくまで俺の力を使って戦うつもりらしい。 ……が、代わりに空界のマナを掻き集めて俺を見るノート。 その気配、その威圧感はやはり以前と変わらない───否。 以前にも増して、その力強さを感じる。 ……そうだ、考えてみればノートだってノート自身と融合したんだ。 彰利がここに居れば、単純計算で強さは二倍だ、とか言ってたところだろう。 ───それは恐らく真実に近いと思っていい。 ノート『さあ、いつでも来い』 皇竜王『……じゃあ、暴れさせてもらうぞ』 ノート『……───刮目せよ』 ノートが手に杖を出現させ、その先端を地面に叩きつけた。 すると景色があっという間に変異し、全てが緑に染まる。 ……“全ての始まりにして終わりなる世界”。 これが、俺の黄昏ではなく『精霊スピリットオブノート』が行使する世界だ。 ノート『さて……覚悟はいいか?私は出来ている』 皇竜王『ああ、俺も構わない』 全力で戦える相手が居るというのはいいものだ。 だからこそ、皇竜王化した時の自分の実力を見るという意味も含め、全力で戦ってみたい。 そう思った俺は、それこそ全力で力を解放した。 ───……。 ……。 ───……そして。双方ボッコボコになるまで争ったわけで。 悠介 「いぢぢぢ……!!な、なんつー馬鹿げた強さしてるんだお前はぁっ!!」 ノート『たわけっ!!全力で極光吐いて世界を破壊した汝に言われたくない!!     強化された世界をあっさりと砕いた汝にこそ言い返すわ!どういう強さだ!!』 力を使い果たし、人の状態に戻ってしまった俺は、 庭園の草原に倒れて荒い息を吐き乱していた。 それはノートも同じで、やっぱり双方ともにボロボロ状態で文句を飛ばしていた。 ノートが展開した世界を全力極光で破壊したまではよかったが、 その後はもうハチャメチャバトル。 ただでさえバケモノ並に強かったノートだ、それは実際二倍近くの実力を誇っていた。 最初はそれはもうこちらが押していたんだが、 不覚にもペース配分を誤り───あとはボコボコ。 まいった、やっぱ強ぇわ……。 ノートと戦えるって思考がどうにも焦りや興奮を呼んじまったみたいで、 俺も冷静な判断が出来なかった。 ノート『まったくな、冷静に向かってくれば少しはいい戦いになったというのに』 悠介 「仕方ないだろ。一度、何も出来ずに負けた相手だぞ?     なんとか長引かせようと思うと力も入る」 ノート『ミルハザードの時はそうでもなかっただろう』 悠介 「あれはちょっと事情が違う。     アレは守るものがあったから必死だった。けどこれは違うだろ」 ノート『なるほど?つまり私情で戦うとなると、どうしても雑念が入るわけか』 悠介 「うぐ……」 そうかもしれない。 ハッキリと否定できないってことは、そうなんだろう。 そこのところも鍛えないとな……。 ノート『だがどうだ?思い切り暴れたお陰で体もほぐれたんじゃないか?』 悠介 「一応な……」 体のナマリは強硬手段でなんとかなった。 人離れした体はやはり、人離れした方法でなんとかなるってことだろう。 悠介 「けどまいったな。神魔竜化すれば確かに爆発的に強さは増す。ん、それは認める。     けど攻撃のパターンが一定化されてちまう。尾撃、極光レーザー、体当たり等。     一気に間合いを詰めて剣で斬りかかる、なんてことは出来ないからなぁ」 今まで鍛えてきた『人型』としての修行が無駄になってしまうという意味では、 正直あまりいい気分ではない。 ノート『不服ならば神魔竜の力を行使出来る状態で、竜人状態になればいい。     忘れたか?ミルハザードはそれが出来ていた筈だがな』 悠介 「あ……」 そういえばそうだ。 ミルハザードはとんでもない強さで、だけど人型の時も竜の時も似たような強さだった。 それはつまり、そういう風に自分を変えることに成功したってこと。 さらに言えば、そういった『既存』があるのなら、俺はきっと超えてゆける。 悠介 「……想像は既存を超越する、か。よし!修行再開だ!」 ノート『あれだけ暴れて……少しは休もうという気にはならないのか』 悠介 「へ?なんでだよ。きっかけとか理解に繋がるものに衝突したら、     とりあえず試したくなるのが人ってもんだろ?」 ノート『………』 悠介 「……コラ。なんだよその     『汝は人ではないだろう』ってツッコミ意識を含んだ視線……」 ノート『目はいいようだな、全く間違いが無い』 悠介 「あのなぁ……」 困ったもんだ。 なんだかノートのやつ、 俺達や原中の猛者どもとの邂逅で性格が変わっていってる気がする。 べつに変わることが悪いって言うわけじゃないが、 どうにもこう……気苦労の種が増えたような気がしてならない。 ともかく俺は力を解放して───倒れた。 悠介 「あ、あれ……?」 ノート『たわけ。力を使い果たしたばかりで解放が出来るか』 ……ああ、そりゃそうだ。 ノート『そのまま寝ていろ。リハビリは済んだ』 悠介 「………」 トンと杖が俺の額に当てられた……途端、俺の意識はあっさりと刈り取られ、落ちてゆく。 待て、とでも言いたかったのか───俺の手は虚空を彷徨ったが、 そのままパタリと落ちると動かなくなった。 【ケース36:晦悠介(再)/茄子の恵み】 ………………。 ……ツンツン。 悠介 「ン……?」 妙な感触を覚え、うっすらと目を開けた。 すると……目の前にある誰かの顔。 というか…… 悠黄奈「……お目覚めですか?」 悠介 「……一応」 メイドさん(こう言わないと親友が怒る)が俺の顔を覗いていた。 というか見下ろしていた。 なんでこんなことをしてるんだろうかとか疑問には思ったが……まあ、べつにいい。 頬に突付かれたような感触も残っていて、 何故起こされたのかとかも思ったのだが、それもまたどうでもいい。 悠介 「……はぁ」 心地良い風が吹いていた。 草原に寝転がりながら身に受けるには勿体無いって思うくらいの風が。 そういえば───こんな風に体も心も落ち着かせるのなんてどれくらいぶりだろう。 眠っていたら解らない心地良さは、確かにそこにあったのだ。 悠介 (……?) じゃあつまり、そのために起こされた? ……いや、まさかな。考えすぎだ。 でも仮説として出せるだけでも、感謝する価値ってのはあるんだと思う。 けど口で言うのは恥ずかしいから……心でだけ感謝しておいた。 情けないことに、どんなことがあっても苦手なのは変わらないのだ。 自分自身と向き合うのはとても奇妙な思いをするものだ。 それはたとえ、記憶喪失だろうと変わらない。 ましてやそんな人がメイドさん(こう言わないと親友が怒る)だったら、 男としてはとても悲しいことじゃないだろうか。というか悲しい。 悠介 「……女々しいっていうか、情けないよな、ほんと」 とことこと歩いていってしまった悠黄奈を眺めながら、小さく唱えた。 悠介 「ホムンクルス、か……」 解っていることはひとつだけだ。 俺はこのままじゃあいけない。 出来るだけ馬鹿やって、出来るだけ笑っておかなきゃいけない。 誰に命令されるでもなく、それはやらなきゃいけないことなんだ。 たとえそれが不自然でも構わない。 笑いフリでも、いつかは自然に笑えるのだろうから。  ───サク。 悠介 「……?」 少し離れたところで、悠黄奈が居る方向とは別の方から草を踏む音がした。 何かと思い見てみれば───そこに居るのは原中の清水。 清水 「お……よーっ、晦ーっ」 休日だったのか、普段着を着た清水はコンビニ袋を軽く掲げ、俺に笑みを飛ばした。 それはまるで、落ち着ける場所へと偶然やってきた友人に、 食料を見せて笑む級友のようだった。 ……本質はまあ、そう変わらないわけだが。 清水 「そんなところで大の字なんて、誰か強敵と殴り合いの喧嘩でもしたのか?」 悠介 「あながち間違いじゃない」 寝てる間に何処かへ行ったのか、周囲に居ないノートを思ってそう言った。 強敵すぎて話にもならなかったが。 あの強さなら、確かにミルハザードも滅ぼせる。 そう考えると自分が必死になって……そう、本当に必死になって倒した事実が霞む。 などと思っていると、清水がコンビニ袋から一本のなにかをコサッ、と出す。 清水 「“美味い棍棒”食うか?」 悠介 「……うまい棒じゃないのか?」 清水 「棍棒なんだ。新発売らしい。───っと、汚すつもりは無いから安心してくれよ?     ちゃ〜んとレジャーシートも持参した」 言って、レジャーシートを敷いてコンビニ菓子を咀嚼し始める級友。 レジャーシートの上で、 弁当じゃなく菓子を食うという光景……どうして異常に思えるんだろうか。 普通に考えれば自然を汚さないって意味では丁度いい筈なのに。 ともあれ俺は、横の清水がチョコバット(バットの大きさを再現!期間限定!)を食う中、 美味い棍棒をコリコリと食い始めた。 清水 「デケェ……デケェよぉお……」 悠介 「お前さ、普通食う前にそれくらい気づくだろ……」 本物のバットほどの大きさのチョコ菓子をゴリゴリ食らう清水。 こいつの期間限定モノへの弱さは中学の時から変わってないようだが、 それでも少しは考えてからモノを買うべきだと苦笑する。 悠介 「ンー……やっぱりダメだな。俺、和菓子の方が口に合う」 清水 「ゲフッ……あー……やっぱり?どうしようかとは思ったんだけどな。     でも市販品で晦が納得するとは思わなかったし」 『でも、たまにはいいんじゃないかなって思った』って続ける清水。 なんとはなしに、こいつは妙に気配りが良かった。 それも、中学の頃から変わってない。 悠介 「何か食べたい和菓子、あるか?美味い棍棒の代わりに創造する」 清水 「お、じゃあアレ頼む。ホラ、中学ン時に晦が言ってたろ。     何処だかのなんたらって店のさ、なんとか団子」 悠介 「覚えてないなら覚えてないって言えって。     和菓子専門店“小樽濁し”の一日七食限定、七色秘蔵蜜団子だろ?」 清水 「あ〜ぁそうそう!それそれ!」 悠介 「解った。俺も久しぶりに食べたいとは思ってた」 言って、イメージを膨らませる。 和菓子を創造するにあたり、俺はいつも以上に想像を強固にする。 何故って、失敗するわけにはいかないからだ。 思い出せ、あの味を!思い出せ、あの程よい柔らかさを!! 悠介 「───七色秘蔵蜜団子がニ人前出ますっ!」 キィイ───シュポムッ! ややあって、我が眼前に創造される美しい七色の団子。 もちろん受け皿ごと創造したから、レジャーシートに落下、などという馬鹿は無い。 悠介 「さあ、存分に食しめされい……」 清水 「……晦。なんかキャラ変わってるぞ」 ほっとけ。 俺だってかつては人の子だったんだ、好物を目の前にして冷静で居られるか。 清水 「これ、食い方とかってあるのか?」 悠介 「倭の基本は自由にだ。茶も然り、菓子も然り。     作法がどうとかよく言うけど、俺達はここで作法を習ってるわけじゃないだろ?     親しい者と一緒に嗜む茶がカタッ苦しくてどうする」 清水 「お、なるほど。んじゃ、いただきま〜す」 清水がハモッ、と団子を銜え、一個だけ串から抜き取るとモッチャモッチャと咀嚼する。 そしてクワッ!と目を開き─── 清水 「ぐっはぁあああーーーーーっ!!美味ぇええええーーーーーっ!!!」 ───叫んだ。 清水 「うわなんだこれ!団子!?これが団子か!?有り得ねぇ味だぞ!?」 悠介 「小樽濁しはずっと昔から続いてる和菓子の大御所店だ。     材料も昔から同じものを使って、     そういった材料だって昔ならではの製法で造られたものしか使ってない。     覚えてるか?彰利の記憶の中にあっただろ。     俺と彰利が過去に飛んで、俺が団子屋で団子食ったの」 清水 「お……おーおー、そういやそんなこともあったっけ。     アレだよな?晦が金を持ってなかったっていう世にも珍しかった───」 悠介 「そこのところは思い出さなくていい……」 あぁいうのを『人生の汚点』というのだろう。 でも大丈夫だ。俺はよくやっている、と思う。 少なくとも親友ほど人生の汚点は多くないと信じてる。 大多数の人間に藤巻十三を見られることほどの人生の汚点なんて、俺には無い。 よしプラス思考。そしてすまん親友よ、心の平穏に貴様の汚点を使わせてもらった。 清水 「……って。もしかしてこの団子って……」 悠介 「そういうことだ。奇しくも俺が無銭飲食しかけた場所が、     知る人ぞ知るのちの老舗店、小樽濁しだ。     あぁ、ちなみにこの団子は過去の方の団子だからさらに味が古風で染みるぞ」 清水 「はぁあ〜〜〜……」 関心した風に団子を見る清水。 そんな清水に創造したお茶を渡すと、俺も自分の分を創造して一息ついた。 清水 「……昔の人ってすげぇよな。     こんな美味いモノを、誰に教わるわけでもなく作っちまうんだもんよ」 悠介 「ああ。俺が過去のことを好きなのは、     そりゃあ朋燐の意識の所為もあるんだろうけど……     そんなものを抜きにしても、俺は昔の人っていうのは素直に凄いと思ってる」 清水 「そ、そらお前……こんな見事な団子食わされたら納得するしかないだろ……。     茶も美味いし団子も美味い……。     特にこの蜜と団子の柔らかさとの調和がたまらん……」 『俺、こんな美味い団子初めてだ……』と感動する清水。 そんな彼を横目に、ふと疑問に思ったことを訊ねてみた。 悠介 「そういえば清水、今日はどうしてここに来たんだ?」 清水 「むあ?んぐ……」 喋らず、手で待ったを示すと、お茶とともに団子を咀嚼する清水。 どうやら口にモノを入れた状態では喋りたくないようだ。 清水 「んぐんぐ……んむっ、ん……」 そしてゆっくりと飲み下すと、俺を見る。 悠介 「べつに作法は気にしないって言ったろ?」 清水 「いぃやダメだ。こんな美味い団子を食わされたら、     作ってくれた人への礼儀くらい弁えるべきだ。これはもはや神業だ」 悠介 「……解るか、友よ」 清水 「解るともっ……!」 がっしと腕を組み合った。 そして生じる親近感……。 心地良い風に撫でられながら、 俺と清水はしばし、この団子の素晴らしさについて熱く語り合った。 ───……。 ……。 悠介 「───じゃなくて!」 ハッと気づけば30分経過。 清水 「お、おお……どうした晦」 悠介 「団子の話も素晴らしいが、俺はお前にそれを言いたかったわけじゃない……」 清水 「?」 ハタと首を傾げる清水。 だが話題の真を思い出したからには、ひとまず団子の話は置いておこう。 悠介 「今日はどうしてここに来たんだ?って訊きたかったんだよ。     ひとりでここに来るなんて、よっぽどだろ?」 清水 「ん……や、ただなんとなくだったんだけどな。     今日仕事休みだし、猛者ども誘おうとしたんだけどみんな都合つかなくて。     原中以外の友人は……まあ、なんつーのかな。     原中ほど気心しれてないしノリ悪いからな。     考えれば考えるほど、中学時代ってのは最高だった」 悠介 「まあ、それはそう思う」 清水 「お互い無茶しまくれば気心だって知れるってもんだって解った。     けどさ、そうなると他の友人にまでそれ求めちまって、     ちょっと落ち込んでたんだ。……だからかな。     少し落ち着いて考えたくてここに来た」 ……なるほど。 けど─── 悠介 「よく晦の家のやつらが通したな」 清水 「へ?なんか誰も居なかったぞ?     居たのは町長のじいさんだけ。羽棠黄仁っつったっけ?」 悠介 「───……羽棠のじいさん、来てたのか」 清水 「ああ。なんか縁側で茶ァすすってた。     いいのかアレ、勝手に上がって飲んでたみたいだけど」 悠介 「……いいさ。もう、俺はあの神社との繋がりが薄い。     今さら縄張り意識みたいなものを燃やすのもどうかと思うし、     そもそも俺は貰われの身だ。神社の相続権は若葉に渡したし、もう俺は関係ない」 清水 「そか。だったらいいけど。     俺もさ、なんだかんだでそのじいさんに上がらせてもらったからさ。     あまり強く言えなかったから丁度よかった」 悠介 「………」 ……今さら、なんの用なんだか。 悠介 (ダメだな、やっぱりあのじいさんは好きになれない) 知らず、溜め息が漏れた。 それを知ったのは清水の指摘があったから、だ。 清水 「どうかしたのか?」 悠介 「あ、いや……。ところで清水、羽棠のじいさん、なにか言ってたか?」 清水 「ン……いや。ただ『悠の字は居ないのかのぉ』って言ってただけだ。     急ぎの用だったみたいで、しばらくは待ってるみたいだったけど」 悠介 「……そか」 行ってみるべきだろうか───いや、急ぎの用っていうんだから仕方ないか。 悠介 「よし、じゃあ行ってくる。お前はどうする?」 清水 「もうちょいこっから景色でも眺めてるわ。     念のため訊くけど……飛行モンスターとか、来ないよな?」 悠介 「今まで来た例は無いから大丈夫だろ。来たとしてもノートがなんとかしてくれる」 清水 「へ?スッピー晦の中から出てるのか?」 悠介 「スッピーって……ああ、一応。     そこらへんに居ると思うから、あまり怒らせるようなこと言うなよ」 清水 「俺は人を怒らせない男だと近所でも評判だが」 悠介 「閏璃が言いそうな言葉だな。まったくもって信憑性が無い」 清水 「まったくだ」 ケタケタと笑う清水に軽く『じゃあ行ってくる』と言って、屋根裏へと続くドアを─── 声  『ま、待つんじゃよーーーっ!!!』 ───開けようとした時、聞き慣れた馬鹿野郎の声が聞こえた。 悠介 「……彰利?」 彰利 『俺に運転出来ねぇものはねぇんじゃぜ?……マクシミリアン=Gナス』(自己紹介) 悠介 「………」 振り向いた先には、巨大なナス型の着ぐるみを着た馬鹿者が居た。 着ぐるみの額部分には何故か『G』の文字があり───まるで意味が解らなかった。 悠介 「で……そのGナスが何の用だ」 Gナス『ホホ……実は俺、狭界で孤独な修行やってたんじゃがね?     その甲斐あって、それはもうかつての俺が霞むほど強くなったんじゃよ。     ……本当ですよ?』 悠介 「修行……お前が?」 Gナス『そしていよいよメルティア嬢の鎌も卍解出来るかという時、     ふと妙な魔法使いのババアに会ったんじゃよ。     敵じゃねぇと感じた俺はもちろん攻撃した。狂おしく』 悠介 「……こっちの話は無視なわけな」 Gナス『すると……なんじゃろ?ババアめは俺に妙な術をかけやがったんじゃよ。     俺の姿はみるみるナスに。解りやすいですか?』 解りやすいというか───一目瞭然だろこれは。 Gナス『ヤツは俺の動きを着ぐるみで封じると同時に、     俺の能力まで封じやがったんじゃよ。でも何故か不死身』 悠介 「ようするに……不死身ってこと以外、完全に人間みたいな状態ってことか?」 Gナス『そうじゃよ。だから俺の親友、俺のハートを救って』 悠介 「いや、都合がいいから一緒に来い。そのまま」 Gナス『ノ、ノーーッ!!至急力の解放を求める!!     犬以下の戦闘力でどうしてババアに勝てようかぁーーーっ!!     解放を!紳士としてナスから人に進化する機会を要求する!!』 悠介 「だめだ」 Gナス『なぜぇ!?』 清水 「つーかお前、そんな格好でここまで来たのか?」 清水と俺の視線がGナスの体を下から上まで見渡す。 Gナス『悩殺じゃぜ?』 清水 「素っ裸状態でナスの着ぐるみ着た男の何を見て悩殺されるんだ俺は」 Gナス『………………大胸筋じゃろか?』 清水 「いや、顔と手足以外見えてねぇから。つーかその口調なんなんだ?付属品か?」 Gナス『なんじゃよ!?付属品だったら貴様に迷惑かけるのか!?』 清水 「……とりあえずお前のことアズマカズーマって呼んでやろう」 悠介 「じゃあ略してマカズだ」 Gナス『訳わからねぇんじゃよ!?俺はGナスで御免蒙る!!(意味不明)     ともかく俺はパイロットとして世の紳士となる!     そうなればいつしか敵の女との結婚もウハウハですよ?デカルチャー』 清水 「よし、とりあえず今の発言録音しといたから日余に聞かせてやろう」 Gナス『ギャアア!!斯様なところにゼントラーディーのスパイが!?     至急テープの破壊を要求する!!     もしくは宇宙エネルギ−でミューティレーションをーーーッ!!』 清水 「だめだ」 Gナス『なぜえ!?ウウ……エウーーーッ!!いっそ殺せーーーーっ!!     もう僕は大変ですよ!さあ殺せ!死んだもんじゃねぇや!!』 弱体化したショックからか、思考回路がまともじゃないGナスはそれはもう叫びまくった。 まあ高校の頃なんてこんな性格毎日だったし、 その頃に戻ったって考えればどうということもないだろう。 悠介 「……そもそもの素朴な疑問、いいか?」 Gナス『なんじゃよ!?貴様までナスに言葉の包丁振り翳す調理人なのかね!?     煮るなり焼くなり好きにしろーーーい!!』 とりあえず包丁じゃ煮ることも焼くことも出来ない。 悠介 「そんな着ぐるみ着て、あの長い井戸をどうやって通ってきた?」 Gナス『42回ほど溺死してきました』 悠介 「……すまん、聞いた俺が馬鹿だった……」 Gナス『それよりジャパンスキーくん、     ナスな俺を置いて地界に行くつもりじゃったのかね?』 悠介 「誰がジャパンスキーだ……こっちにもいろいろあったんだ。     っと、いろいろって言葉で濁すのは卑怯だな」 ───俺は、清水に聞いたことを包み隠さず全て教えた。 Next Menu back