───複雑だけど単純なソレ───
【ケース37:晦悠介(再パンマン)/がんばっていきませう】 ───……さて。 Gナス『ところで……目の前を滑ってゆくキノコを食ったら巨大化して火を吹いたヤツは、     果たして人間と言えるのじゃろか』 悠黄奈「言えないと思いますよ」 再び空界に戻ってきた俺達は、なんとも妙な会話をしてホウけていた。 リハビリも済み、絶縁宣言もした俺にとっては、 どちらかといえば地界よりは空界の方が居心地がいい。 でも彰利が結婚するまでは弦月屋敷に住むのもいいかもしれないとか思っている。 というか散々誘われてる。 Gナス『親が黒と言やあ白いもんはより白く……色ガラ物はくっきりと。     ブラックオーダーになって以来、自分以外のものの洗濯は念入りじゃよ?』 悠黄奈「あの……訳が解らないのですが」 ジオンから再びGナスに戻った彰利は、それはもう……なんていうか変だった。 元から変だったが、なんていうのか……変態オカマホモコンが逆流してきた感じではある。 高校の頃のこいつはところどころで訳が解らなかったからな……。 Gナス『弱いがそれなりに勝手に生きたいと願う者は果たして武人じゃろか?     人はそれをザコと呼ぶ。……脆弱武人』(傍若無人ではないらしい) 清水 「……ナスになってから随分と口数が多くなったな、こいつ」 悠介 「一度死んで蘇ったら折られた棘も再生してるし……なんなんだろうな、こいつ」 Gナス『ナスじゃよ?』 悠黄奈「ナスには手足なんて付いてないと聞きましたが……」 Gナス『なにぃい!?では盆の時にナスとキュウリの艶かしいボディに突き刺す割り箸は     なんの役割を果たしているんじゃよ!?     ナスとキュウリを生贄に見立て、     四点に槍を突き刺して魂を呼び込んでるとでもいうのかーーっ!?』 清水 「どうなんだ?晦」 悠介 「迷わせといてやれ。答えを教えたら騒げなくなりそうだ」 Gナス『二十歳前では足りない残酷描写が描かれるんですか!?なんてバイオハザード!     素足の俺なんてスネ毛とともに肉を噛まれてあっという間にゾンビじゃよ!?』 悠介 「落ち着け、そして黙れ。訳が解らんから」 清水 「つーか弱くなったら知力も弱くなったってこと、あるのかな。     とりあえずなにか諺みたいなこと言ってみてくれ」 Gナス『散切り頭を殴ってみれば、文明開化の破壊力……?』 ……諺じゃないし、そもそも訳が解らなかった。 清水 「あ、あのなぁ……破壊力示してどうすんだよ……」 Gナス『戦いは火力と破壊力ですよ?』 悠介 「お前は文明開化するだけの破壊力でなにをするつもりなんだ……」 Gナス『革命じゃよ!パンの歴史に革命を起こすんじゃよー!!     フランスパンを鈍器くらいに硬く焼いて食物兵器にするんじゃよ!!     相手はただのパンだと油断してるから、     背後から堂々と撲殺できるって寸法じゃよ!画期的じゃろ!?』 清水 「撲殺できるほどの硬度のパンの何処が『食物』なんだよ!!」 Gナス『………………』 清水 「無責任に解らねぇんじゃねぇ!!」 Gナス『た、たすけてぇ』 Gナス、再び襟首を掴まれるの図。 Gナス『お前にはまだパンの素晴らしさが解ってないのじゃよー!!』 清水 「パンの素晴らしさ……?」 Gナス『そ、そうじゃよ?昔の人がこんなことを言っていたんじゃよ。     ……泣くな、うぐいす……ヘイゲリョー?』 悠介 「………」 清水 「……で?」 Gナス『つまりうぐいすパンは泣いた嬢を泣き止ませる効果があるんじゃよ!!     もう間違いねぇ!!ヘイゲリョーの意味は解ったもんじゃねぇんじゃが、     口の中をうぐいすの野郎で満たしてやれば泣いてる暇なんざねぇのじゃよ!?』 悠介 「死ぬだろうが!!」 Gナス『窒息寸前で助けるんじゃよ!!     そうすれば頬を涙で濡らした嬢が抱きついてきてウハウハじゃよ!?     ちなみにウハウハ後の責任は取れません。     射殺されようが死国(ベアハッグ)
されようがあのー……一切の責任は取れんのじゃよ?』 悠介 「お前やっぱ黙れ……」 Gナス『ともかくこうしてここでジャパンスキーの回復を待つのも退屈なんじゃよ。     ちょっと町にでも出てみねぇかい?』 清水 「どうせ死ぬから大人しくしてろって」 Gナス『ハーーーッ!!この若僧が!!どうせとはなんじゃよ!?     俺だって日々成長してるんじゃよ!?見さらせ俺の生き様ーーーーっ!!!』 Gナスが駆けてゆく。───転送魔方陣に向かって。 悠介 「あっ!おいっ!!魔方陣は───」 Gナス『もう誰も俺を止められないんじゃよ!?     それはたとえ親友の言葉でも俺のメロスはノンストップじゃよーーーっ!!!』 ……解説しよう。 棒人間の集落へと続く転送魔方陣は崖近くにある。 さらに現在、転送魔方陣は俺の中の諸力の枯渇の所為で不安定である。 言ってみればGナスがここに来れたのも偶然が重なっただけだろうし、 普通に転送されようとすれば─── 声  『ハアアーーーーーーッ!!!!』 声  「あぁっ!!彰利さまが庭園の崖から落下しましたぁーーーっ!!!」 声  『ギャアヤヤァアーーーーーーッ!!!!     こ、この高さ!スペランカーでも命が無ぇえーーーーーっ!!!!!』 ……こうなるわけである。 清水 「……死んだ、な」 悠介 「死んだなぁ……」 どうせ一分以内に生き返るんだろうけど。 悠介 「……しゃあない、俺も行くか……」 清水 「大丈夫なのか?転送魔方陣、動かないんだろ?」 悠介 「俺があそこに直接立てば、動きはすると思う。お前はどうする?」 清水 「んあ?ああ、俺は景色見に来ただけだからここに居るわ」 悠介 「そか。じゃあ───悠黄奈、付いてきてくれ」 悠黄奈「え───あ、はいっ」 ニコリと笑み、俺の後に続く悠黄奈。 まだそんなに日があるわけじゃないが、 自分から悠黄奈に話し掛けるなんて珍しいと自分で思った。 けど仕方が無い。 後悔だけはしたくないから。 悠黄奈「……?悠介さま?」 悠介 「なんでもない。行こうか」 俺は小さく溜め息を吐くと、魔方陣の上に立って意識を集中させた。 すると景色は瞬時に変わり、なんとか棒人間の集落へ降りることは出来た。 ニークン「───!!」 悠介  「ぐあ……!」 で。 降りた矢先にニークンと遭遇。 ニークン「インヴェイ───」 悠介  「させるかぁーーーーっ!!!!」 他の棒人間に知らせようとしたニークンの頭をドライヴシュート。 マゴチャアという奇怪な音が鳴り響き、ニークンが集落の岩肌に減り込んで死んだ。 悠介 「………」 考えてみれば、今の彰利ってこいつらと似たようなものなんだよな。 そもそもこいつらだって一応召喚獣なわけだし。 悠介 「ああいや、それよりも今は彰利を追いかけよう。急ぐぞ、悠黄奈」 悠黄奈「え?あ、は、はい」 いろいろ考えてる場合じゃない。 なにやら嫌な予感がするので、さっさと落下地点に行った方がよさそうだ。 あの場所、あの位置から落下するに───……
その頃のナス───『ミロ野=Bナス』(名前) Bナス『驚きじゃよ……まさか空界にソフトクリームがあったなんて。     じゃがソフトクリーム持ってるのは自由の女神じゃったっけ?     よく解らねーけど同建設物として扱おう。ゆえにBナス。     クリームが溶けるまでの儚ぇ女神じゃぜ?     食ったら女神の資格が失効されるんじゃよ。ウルド姉さんのように。     あれ?免停じゃったじゃろか……』 店人 「はい、120B$ね」 Bナス『………』 店人 「?……どしたの」 Bナス『のう店主。実は金がねぇので恵んじゃくれねーじゃろか。女神の顔に免じて』 店人 「く、食い逃げだぁ!!」 Bナス『ギャア待つんじゃよ!?まだ逃げちゃいねぇーーーっ!!!     少しは人の話を聞くものじゃよ!?損はさせません!儲かるよ奥さん!     め、女神を女神とも思わぬその心意気……恥を知れ!!』(自分も) 巡回兵「くっ……食い逃げご法度、     平和で有名なオーエン城下町で食い逃げとはいい度胸だ宇宙人……」 Bナス『そして現れなきゃ気が済まねぇヤクザ殿ォーーーーッ!!!     なぜぇえ!?ヤクザは全世界共通の職業なのですかぁーーーーっ!!?』 巡回兵「くっ……いいからちょっと付き合え。あっちの断頭台まで」 Bナス『な、なんじゃってぇーーーっ!!?     何処の平和な城下町に断頭台が設置されてるっていうのじゃよ!?     い、今すぐ自宅への帰還を求めたい!!よろしいですか!?』 巡回兵「だめだ。行くなら冥府へ行け」 Bナス『や、殺られるーーっ!!誤解なのじゃよー!!俺ははめられたーーーっ!!!     裏でうごめく真の巨悪はこいつなのじゃよーーーっ!!!』 店人 「へ……?う、うわぁ!ち、違いますよ!?」 Bナス『ヤ、ヤツは罪もない俺を魂のない操り人形にし、次々と少女たちを襲わせました!     ……何故だか知んないけど』 巡回兵「くっ……人に責任押し付けて逃げようたぁいい度胸だ……。     ジワジワとじっくりいたぶってやるで、兄ちゃんよ……。     今日は家まで歩いて帰れると思うなよ」 Bナス『な、なんじゃってーーーーっ!!?     それでは俺は何処へ歩いてゆけばいいのですか!?』 巡回兵「冥府」 Bナス『やっぱりぃいーーーーーーーっ!!!!』 巡回兵「くっ……とりあえずこの着衣邪魔だから脱げや。脱げねぇっつったら俺が剥ぐ」 Bナス『なぜぇえええ!!!』
悠介 「……はぁ。ヘコんだ地面……     点々と続く血痕……死んで復活したのは間違い無いか」 問題なのはここがオーエンの近くってことだ。 しかもご丁寧なほど厄介なことに、血痕がオーエン城下町に続いてる。 悠介 「はぁ……頼むから大人しくしててくれよ……?」 悠黄奈「あ、あまり気負いしないでくださいね……?」 悠介 「無茶ってもんだろそれ……」 再び溜め息を吐いた俺は、嫌な予感を拭い去れないままにオーエンを目指した。 ───……。 ……そして。 兵士 「こらっ!何してるんだお前!!」 彰利 「う、うあわーーーーっ!!」 何故かナスの着ぐるみを着ておらず、裸のまま逃げる親友の姿を目撃した。 さらに言えば着ぐるみを着てないからといって力が戻ったわけではないらしく、 特に抵抗も出来ないまま兵士たちに捕まった。 彰利 「ち、違うのじゃよーーーっ!!これはなにかの巨大な陰謀じゃよーーーっ!!!」 悠介 「……………」 ギャアアアと叫ぶ親友。 俺はただ、そんな裸で捕まる親友の勇姿を目に焼き付けた。 彰利 「こらっ!服くらい着せるのじゃよ!!紳士としてパンツの返還を要求する!!」 兵士 「だめだ」 彰利 「なぜぇえ!!!」 やがて連れ去られてゆく親友。 俺はただそんな姿を見て、心の中で手を振るだけだった。 彰利 「───!ジャ、ジャパンスキー殿!!ジャパンスキー殿ォーーーーッ!!!」 悠介 「いっ……!?」 が。 それで終わると思っていた矢先、目ざとく俺の姿を発見した親友は俺を見て泣き叫んだ。 当然兵士が黙っている筈も無く─── 兵士 「キミ、知り合いかね?」 悠介 「知らない人です」 彰利 「ホォーーーーーーッ!!!?」 ───彼はしこたま戦慄した。 兵士 「旅人を巻き添えにしようとは……!来い!厳重に罰を与える!!」 彰利 「や、やめるんじゃよ!!両腕を掴んで歩くのは!!     俺のナパームデスが火を噴くんじゃよ!?女人禁制のゾーンじゃぜ!?     か、返してぇえ!!もうナスでいいから隠すモノの進呈を心より望むーーっ!!」 兵士 「だめだ」 彰利 「な、なぜぇええ!!?どうしても裸で罰を受けろと申しますかぁーーーっ!!!     泣かずにはいられねぇ!!これはやはり陰謀じゃよ!?     何故神は結婚前に斯様な試練をお与えになりやがったのかぁーーーーっ!!!!」 試練というかただの自業自得だと推測するが。 彰利 「待つんじゃよ!?     王様に取り合ってくれれば俺がどれだけ素晴らしい人だったかが解りますよ!?     だから待ってくださいお願いします!!一日にそう何度も死にたくねーーー!!     お慈悲を!お慈悲をーーーーーーっ!!!」 兵士 「だめだ」 彰利 「なぜぇええ!!!!」 ……結局連れていかれた。 悠黄奈「あの……助けなくてよかったのですか?」 悠介 「大丈夫、あいつアレで楽しんでるから。     結婚する前に無茶したくなるのは当然だと思うぞ」 そう、あんなこと、結婚してしまったらやろうだなんて思えないことだ。 たとえ勢いに流されてそうなってしまったとしても、今のあいつはきっと楽しんでる。 悠介 「じゃ、行くか。とりあえず心配しなくても逃げてくると思うけど───」 声  「ギャワーーーーーーーーッ!!!!」 悠介 「………」 聞こえる断末魔。 ……どうやら死んだらしい。 町人 「お、おい聞いたか!?なんでも裸の男が兵士から逃げようとして、     道端に散ってた硝子の破片踏んで倒れたところを馬車に轢かれたらしいぞ!!」 町人2「な、なんだって!?なんていうかそりゃあ……えーと……物凄い死に方だな?」 まったくだった。 ───……。 ……。 Gナス「ヘヘ……大復活じゃよ?」 そしてなんとなく復活した。 復活とともに着ぐるみまで出現したのは驚いたが、とりあえず壮健らしい。 悠介 「お前なぁ……もうこの際その姿で注目浴びるなとは言わないけどな。     せめて食い逃げ沙汰とか捕まるようなことを実行するのはやめろ……」 Gナス『ホホ……俺が悪いんじゃろか?』 悠介 「あーたーりーまーえーだっ!!」 Gナス『グ、グゥムッ……』 悠介 「ナスがグゥムとか言うな!!」 Gナス『ハーーーッ!!?じゃ、じゃあどうしろっつーんじゃよ!?     こちとら第二の人生をナスとして生きる覇者じゃよ!?     野菜になったこともねー貴様に何が理解出来るんじゃよ!?』 悠介 「いや……どういう生き方しても     『野菜になったこともねー』とか言われる人生なんて有り得ないだろ……?」 Gナス『だったらなんじゃよ!?     俺のこの姿を人生ごと否定するっていうのかねユリ・ゲラー君!!』 悠介 「だぁれがユリ・ゲラーだ!!」 Gナス『へへ……ところで嬢、俺と一緒に食い物巡りしねーかね?……お代は嬢持ちで』 悠介 「男としての甲斐性一切無しだな」 Gナス『うるせぇボケェーーッ!!どうせ野菜じゃよ!!?     男でもねぇからなんじゃっつーんじゃよーーーっ!!     くぅうう人種差別にすら属さない我が身が憎らしい!!     かくなる上は貴殿に決闘を申し込む!!人類VS野菜じゃよ!!     ややや野菜じゃからって思って油断してると、     栄養失調方面でそれはもうあのー……大変なことになるんじゃよ?』 いきなりなんの話だ……。 悠介 「とりあえずゆっくりと市場でも見るか」 Gナス『わあ、へへへ……。今日は野菜が安いんじゃよー?』 機嫌が直ったようだ。 ……といっても、空界の野菜というのは本当に『野』である。 栽培などしておらず、 自然の大地に育まれたものを、その手のモノを売る人が採集しにいく。 元手がタダなのに売れるっていうのは羨ましいと思うだろうが、そうでもない。 なにせこの世界にはモンスターが居る。 野菜ひとつを手に入れるのにも命懸けだったりする。 特に高級野菜ともなると、ランクの高いモンスターの住む場所にあったりするから大変だ。 実はブレイバーの中にも野菜を採集して売り、金を稼いでいたヤツも居たらしい。 中には魔術師や魔導術師の中にもそういうヤツが居たらしいが、 悉く失敗に終わっていたらしい。 ……ゆえに。 この世界では案外野菜が高かったりする。 かつての貧民街で野菜を育てたりしたが、その際は民達に引かれたりもした。 『そ、そんな高級なもの、受け取れません!!』と。 空界の主食はパンであり、米も麺類も知られていない。 だから彰利がラーメンだのレタスチャーハンだのを作った時は驚かれたもんだ。 Gナス『ホホ……嬢?このとても美味しそうなレタスを俺に奢っちゃくれねーじゃろか?』 悠黄奈「すみません、わたしも無償で働いている身ですから、お金は……」 Gナス『へへ……じゃあ消去法で親友よ、金を出すんじゃよ?』 悠介 「お前さ、自分で稼いだ分はどうしたんだよ。     院生時代に稼いだ金が少しくらい残ってるだろ?」 Gナス『素材の横流しの罪において、巨大な陰謀によって没収されたんじゃよ……』 悠介 「………」 それすらも自業自得だ。 呆れてものも言えん。 悠介 「解ったよ。息抜きは必要だし、確かに金なら腐るほどある。     全然使わないのはもったいないよな」 Gナス『そうじゃよー。まずは米とトンカツを買って食卓を囲むんじゃよー。     刻んだキャベツの上にトンカツ……     染みるソースが俺の五臓六腑を刺激して唾液満載……じゃよ?』 悠介 「この世界にトンカツなんてあるのか?」 Gナス『肉もあるしパンが主流だからパン粉だってあるんじゃよー。     米は作れば問題無しじゃよ?』 悠介 「キャベツは。この世界じゃ栽培しても別のものが育まれるぞ?」 Gナス『……レタスで代用するのじゃよ!!     レタスの水分とトンカツの油が醸し出す絶妙な戦慄!!     ステキな食い合わせが俺の腹の虫を大号泣させるぜ!?     尻から汁が飛び出ることすら覚悟の上じゃよーーーっ!!!』 マゴシャア!! Gナス『ギャアアーーーッ!!!』 殴り飛ばしたGナスが風に乗って市場を飛んでゆく。 さすが自称超一流パイロット。 風に“乗る”のですらお手のものだ。 ドゴロガゴシャアアアーーーーーーン!!! ……着陸は下手以下だったが。 巨大なナスがおもむろに大地をズザザァと滑ってゆく景色は壮観だな。  ───ドゴシャア!! 悠介 「あ」 悠黄奈「あ……」 転がり滑ってったGナスが、遠くの方で馬車に跳ねられた。 血を撒き散らして吹き飛び、転がり、馬のような動物の蹄で容赦無くバキベキと踏まれた。 ……死んだな。 悠介 「……行くか」 悠黄奈「え?でも……」 悠介 「ほっといても普通に生き返るから。それよりもこっちはこっちで楽しもう。     考えてみれば、こうしてのんびり市場を見て回ることなんて無かった」 悠黄奈「……そうですね。そうしましょうか」 ナス、放置の巻。 どうせ一分と経たずに復活するのだろうから気にしていてもしょうがないのだが。 ───……。 ……。 悠黄奈「あ、あのっ……?これ……」 悠介 「記念だ、気にするな」 アレから。 しばらく露店を歩いた俺達は、ひとつの彫金店の前で足を休めていた。 というのも、悠黄奈が興味を引かれたのがここしかなかったからだ。 そんなわけで、今日の記念としてアクセサリをひとつ買ってやろうってことになった。 一応……まあその、 メイドさん(こう言わなければ親友が五月蝿い)の仕事をいろいろしてもらってるわけだし。 ちなみに言うが、指輪なんぞじゃ断じてないぞ?ただのブレスレットだ。 でも悠黄奈は顔を赤らめて、腕に嵌めたブレスレットを抱くように俯いた。 ……なんだかな。 顔を赤らめてもらうほど、いい人間を通してるつもりなんて無いのにな、俺には。 それでも……それが想い出になってくれるならそれでいい。 悠介 「………」 悠黄奈「……悠介さん?」 悠介 「うん?……ああ、次行くか」 悠黄奈「はい」 ……そう、これでいい。 他にやってやれることなんてない。 結局俺は他人を守ろうとしても上手くいかず、こうして後悔ばかりするのだから。  ───……ホムンクルスの寿命は、普通の人間の何分の一程度。 早いもので20日、長くて一年。 その間に、悠黄奈には寿命が訪れるだろう。 そして眠るのだ。思い出以外の何も残さないまま。 いくら魂の繋がりがあるといっても、所詮繋がり。 俺の中に人の魂の欠片を残して消えるなんてことは有り得ないし、 俺の中に『人』の魂が蘇ることは永遠に無いってノートは言っていた。 そもそも人じゃなくていいと願ったのは俺だ。 ───考えなかったわけじゃない。 人が思うような“神”でもない自分達が、 生命を創造するということがどんな結末を意味するのかを。 結局俺達は未熟で、誰かが祈るような“神”って存在じゃないのだ。 そりゃあ理力を使えば、ゼノがそうだったように悠黄奈は生き続けるだろう。 理力じゃなくても、賢者の石で在り方を書き換えてやればいい。 でもそれって……悠黄奈が悠黄奈じゃなくなるってことじゃないのか? 確かにラグナロクの構造を書き換えて、槍や剣に変えたりする俺だけど─── 仮にも“人”として、生命として誕生したものを書き換えるなんて…… 俺にはそんなこと出来ないし、悠黄奈だって望まない。 ……解るんだ、あいつは俺だから。 あいつはもう全部知っていて、その上でこうして、動ける時間を楽しんでる。 だから思い出を残してやりたいと思った。 その思いは彰利だって同じだ。 誰に言われるまでもない。だって───……ホムンクルスのことは一番最初。 マナ基礎力学の教室で知っていたのだから。 こうなることくらい、俺だって彰利だって知っていた。 そして……それと同じくらい、寿命が大して無いことも知っている。 ───当然だ。 竜の力に加え、精霊や反発反動力を、製造されたちっぽけな魂で受け止めていたんだ。 普通に考えれば、どれだけ理屈をつけようが耐えられるわけがなかった。 悠介 「………」 ……本当に。 俺はなにをやっていたんだろうか。 守りたいものを守るために力をつけたっていうのに、 どうして守れる命を守ろうとしないのか。 そんなことが、ただ頭の中でぐるぐると回っていた。 ……なんて思っていた時。 Gナス『へっ……』 なにやらガラの悪いナスが、煙草を銜えながらこちらを睨んでいた。 Gナス『楽しそうですね……?えぇ?』 どうやらヤクザを真似ることでヤクザに襲われる事態を防ごうとしているようだが─── ペッ───ギュッ…… Gナス『ギャアア!!』 唾を吐くように、銜えていた煙草を捨てたナスは……煙草の火を踏み消して絶叫した。 ……素足だしなぁ。 Gナス『あ、あぅぅ……!有り金置いてけぇえ!!』 足の裏を火傷したナスが、ジタバタともがき転がりながら叫ぶ。 所詮ナスか……。 つーか靴履こうとか思わないのかこいつは。 悠介 「……あのな。静かにしろって何度言わせりゃ気が済むんだお前は……」 Gナス『ウウ……エウーーーッ!!じゃから好きで騒いでるんじゃねぇんじゃよーーっ!!     確かにアズーマを貶したくていろいろやってるけど、     これはもう本気で痛くて泣けてきてるんじゃよ!     私怨だけじゃあ済まされねぇーーーーっ!!!!(という私怨)     ……自爆の場合私怨になるんじゃろか?』 悠介 「知るかっ!!とにかく付いてくるなら妙なことでモメ事増やさないでくれ。     欲しいものはちゃんと買ってやるから」 Gナス『ひょっ!レタス……空界で言うところのポリットとやらを味わってみるのじゃっ!     地界の味とどれほど違うのかいざ尋常に勝負!!』 悠介 「そか。じゃあ……悪い、その右から二番目のポリットをくれないか」 店人 「あいよぉ」 丁度近くにあった野菜屋でポリットを購入。 さっそく品定めをし、一枚剥がしてショリリと食らうGナス。 すると……───ドシャア。 死んだ。じゃなくて眠ってる。 悠介 「……物凄い安眠効果だな……」 店人 「あぁっとと、そのポリットは料理用だからそのまま食べたら危ないよ。     料理用じゃない方は向こう側にある野菜屋で買ってくれ」 悠介 「料理用と直食用とで分かれてるのか?」 店人 「ああそうだよ?直に食べる場合はそう成長してないポリットを使うんだ。     料理用の方はじっくりと熟成……というか成長したポリットを使う。     そうじゃないと、どうにも眠くなって仕方ないんだ」 悠介 「………」 地界のレタスは安眠効果があるってだけなのに、空界のレタスは食べた途端に安眠か……。 凄いな、本当に。 店人 「ところであんた……旅の人かい?」 悠介 「うん?ああ、一応」 店人 「んー……もしかしてブレイバーだったりしないかな」 悠介 「……っと、そっか。プレートはラグに埋め込んだから解らないよな。     俺は一応ブレイバーだ。それがどうかしたのか?」 店人 「ああ、ちょっと困ってるんだけどね。     よかったら素材を収集してきてくれないかな。     無理だったら無理って言ってくれていいから。     ランクに見合った行動をとってくれ」 悠介 「解ってる」 案外頼み慣れているのか、おっさんはkittyさんのように伸びたヒゲをサワリと撫で、 解りやすいように話してくれた。 店人 「出来るだけ早くに精霊石の欠片が欲しいんだ。     あ、精霊石の欠片っていうのは精霊の住む場所に稀に見られるっていう石でね。     普通の石に精霊が発する力のカスが滲み込むとそうなるっていう。     ここから近い精霊の住む場所はロックスフォールの滝だよ。     ……どうだい?行ってくれるかい?」 悠介 「───えーと……どうだいもこうだいも……なぁ?」 悠黄奈「はい……」 店人 「?……どうしたんだい?やっぱりランク的にキツいところなのかい?」 悠介 「いや、精霊石でいいんだな?」 店人 「うん?ああ、出来るだけ純度が高そうな物がいいかな。     ウチは野菜も売ってるけど、どちらかというと万屋でね。     なんでもいい品を売るっていうのがウリなんだ。だから───」 悠介 「ああいや、その理屈は解る。俺もその手のことはしたことがあるから」 店人 「なんだそうなのかい?だったら話は早い。良かったら取ってきてくれないかな」 悠介 「それは構わない。で……モノは相談なんだけど、そっちのそれ……」 店人 「ン───ああこれかい?これは虹色のスカーフって言ってね。     ところどころ痛んでるんだけど、随分昔にウチの先祖が崇めてたっていうものさ。     なんでも大昔にあった聖魔戦争に終止符を打つきっかけとなった     召喚師の持ち物らしいんだけど───」 悠介 「それ、くれないか?精霊石分の代金は要らないから」 店人 「えぇ?これをかい?     さっきも言ったけどこれはウチの先祖からの崇めモノだからね……。     商売繁盛の証として置いてあるモノだから、売るわけにもあげるわけにも……」 悠介 「───……じゃあこれでどうだ?     空界に住む全精霊の属性分の精霊石を持ってくるっていうので」 店人 「なっ……正気かいあんた!根源精霊の精霊石ならまだしも、     上位精霊の精霊石なんて発見例が極めて稀で───」 おっさんの言葉を無視して、大分満ちてきた諸力を解放して精霊を召喚する。 もちろん、近くに居る悠黄奈からもだ。 店人 「えっ……あ───ひぇえええええっ!!!?」 当然おっさんは驚愕。 ……本当に当然だな、ただの客かと思ってた相手が精霊召喚師じゃあ。 悠介 「で───交渉は成立するだろうか」 店人 「あっ、あっ……くっ……!!は、はうあ……!!あわわ……!!」 息を詰まらせたような返事とともにこくこくと何度も頷くおっさん。 ……交渉は成立した。 悠介  「じゃあ───悪い。頼めるか?」 ウィル 『もちろんですともマスター!さあ作りましょう……美しい精霊石を!』 シェイド『静かに出来ないのか貴様は……』 精霊達がそれぞれの力で、その力の結晶を精製してゆく。 やがてその全てが終わると───そこには全ての精霊分の精霊石が残された。 悠介 「じゃ、これな。スカーフ貰っていくぞ?」 店人 「は、はひっ……!それはもうっ……!!     まさか貴方が空界を救ったモミアゲ王だったなんて……!     言ってくださればすぐにお渡ししたのに……!!」 悠介 「……そう言われると思ったから言わなかったんだけどな……」 なんで『空界を救った=モミアゲ王』ってことになってるんだ……? というかなんなんだよモミアゲ王って……。 悠黄奈「あの……そのスカーフは?」 悠介 「元の持ち主に返す。いらないって言うかもしれないけど、それでもな」 悠黄奈「……みさおさん、ですね?」 悠介 「───知ってたのか?」 ……いや。 知ってるって事実に『やっぱり』って思った。 知ってて当然だ……だって俺と悠黄奈は繋がっている。 ノートも言っただろう、俺と悠黄奈を繋げているのは“連結魂”のようなものだと。 知ろうと思えば解らないことなんてそうそう無い。 悠介 「やっぱり……全部知ってるんだよな?」 悠黄奈「……はい。それと同時に疑問の全てが解りました。     わたしは記憶喪失なんかではなくて、元から記憶なんて存在しなかった。     わたしはあなたであり、あなたはわたし。けれどわたしの魂自体は、     弱った“人”としての魂がホムンクルスで強化された状態のもの。     ホムンクルスに寿命が来れば死んでしまうし、     それは“神”ではない以上抗いようのないものです。     そして───“月の家系”に産まれた者達は皆、     人々が言うような“神”の存在なんて信じていない」 そう。それはつまり─── 悠黄奈「わたしは……こうして今を生きられるだけで満足です。     わたしだって思考の中の神様なんかに頼らないし、     そうするくらいなら自分で努力をします。     だからこそわたしは、わたしの生涯をわたしの生涯のままに終えたい。     悲しんでくれる人が居るとしたら……それはとても悲しいことですけど、     あはは……これって“よかった”って言えるんでしょうかね……。     寿命が短いから出会える人も少なかった……だから悲しむ人も多くない。     これって……喜んでもいいことなんでしょうか……」 悠介 「………」 涙が滲み、やがて道の一点を濡らした。 それでも俺は気の利いた言葉のひとつもかけてやらないままに指を構え、 軽く額を弾いてやった。 悠黄奈「はにゅっ!?……?」 涙に濡れた瞳をパチクリと瞬かせ、俺を見る悠黄奈。 そうしてからようやく口を開いた。 悠介 「たわけ」 悠黄奈「え……た、たわっ……!?」 悠介 「喜んでいいか悪いかなんて自分で考えて自分で決めろ。     お前の感情はお前だけのものだ。そこに俺とお前の繋がりなんて関係ない」 悠黄奈「あ……」 悠介 「解ったらほら笑う。ホレ笑え」 に〜う、と頬を引っ張って無理矢理笑顔を作らせる。 が……妙に顔が整っているため、無理矢理に笑わせるのは似合わなすぎた。 悠介 「───……」 そして両手で頭を抱えて落ち込む俺。 悠介 (なに顔が整ってるとか思ってんだ俺ゃあ……!!ありゃあ元々俺だろが……!!) 自分の人格をかなり疑った瞬間だった。 許されるなら泣いていいだろうか……つーか泣く。 悠黄奈「わ……!?あ、あのっ!?どうして泣いて───あ」 悠介 「いやいい!何も言うな!!繋がりで解っただろうけど言わなくていい!!」 悠黄奈「あ、えと……はい」 はぁ……くだらないこと思考してる場合じゃない。 気をしっかり持て俺。 悠介 「……正直さ、お前がどれだけ生きられるのかは解らない。     けど、それを受け入れてくれてるんなら話は別だ。     出来る限り思い出ってやつを作っていこう。     その先で妙な奇跡が起きてお前が生きることになろうがどうだろうが、     それは確かにいい思い出にはなるだろうから」 悠黄奈「そうですね。はい、頑張ります。     ───ところで話は変わりますけど。     ひょっとしてもう力の全ては回復してるんじゃないですか?」 悠介 「そりゃ当然。反発反動力がそれぞれの力に変換されていってるからな。     理力も諸力も魔力ももう回復済みだ。伊達に無限能力超人とか言われてない」 今までは無限汲々を阻止する魔具を付けていたために回復しなかったが、 それももう力に耐え切れずに崩壊した。 ……壊れないってイメージも混ぜとくんだったと少々後悔。 けど動けないよりはマシというもので、 やっぱりもう創造するのはやめたため、現在に至る。 なんてことを考えながら、俺はポムと悠黄奈の頭に手を置いた。 悠黄奈「んにっ……ゆ、悠介さん……?」 悠介 「最後の時が来て怖くなったら……正直に言えよ。     生きたいなら生かせるし、そのまま見届けてほしかったら見届ける。     お前は俺なんだから……他のみんなに遠慮はしても、俺にだけは遠慮するな」 悠黄奈「悠介さん……は、はい、そうですよね」 悠介 「───よし。いい返事だ。じゃあ話も終わったことだし、次行くか」 悠黄奈「……えいっ」 がばしっ! 悠介 「とわっ!?ちょ───こら!いきなりなにを───!」 なにをもなにも無い。 悠黄奈のヤツがいきなり人の腕に抱きついてきたのだ。 離せと言って腕を払おうとしたが、俺を見上げる楽しげな笑顔がそれを阻止した。 悠黄奈「ふ……ふふふっ……なんだか双子のお兄さんが出来たみたいです」 悠介 「背はちっこい双子だけどなー……」 というか似てないだろ、明らかに。 悠黄奈「む。似てます。似てますよ、絶対」 悠介 「人の心を読んでムキになるなよ。というか絶対に似てない。     誰が見たって双子なんて思うか、たわけ」 悠黄奈「むぅ……じゃあ訊いてみましょう。あの、すいません」 悠介 「って……!こらっ!人の腕を引っ張りながらだなっ……!!」 注意してくれようと思ったが、何を言っても聞きそうになかったのでやめた。 ……なにもここまで遠慮の枷を外すことなかったのに……。 あぁ……俺今、ちょっとだけ後悔した。 悠黄奈「あの。わたしたちは双子に見えますよね?似てますよね?」 で、早速俺を引きずりながら街頭インタビューをするたわけ。 当然町の人間は首を傾げながら俺達を見つめる。 当然だ、似てるところなんててんで─── 町人    「お、おお!なんとそっくりでセクシーなモミアゲだ!!        間違いねぇ!あんたら双子だね!?」 悠介&悠黄奈『モミアゲ言うなぁあああーーーーっ!!!!』 町人    「へ!?お、おぉうわおわぁああああーーーーーーーーっ!!!!」  ───ズドゴシャゴワシャァアアアアアーーーーーーーンッ!!!!! 町人 「ほぎゃああああああーーーーーーーーーっ!!!!!」 その日、ひとりの無礼なおっさんが、創造した 『赤子のパンチより弱いダメージしか与えられないグローブ』でボコボコにされた。 当然そのグローブは俺と悠黄奈の分創造され、 彼は凄まじい速度で放たれる拳の弾幕で空中に浮いていった。 何発殴ったかは忘れたが、 当然街頭インタビューはたったの一度きりで最終回を迎えた。 Next Menu back