───空間世界と魔物という存在の答え───
【ケース42:晦悠介/ブレードヘル】 ズガガガギギギガギィンッガィンッギャリィンッ!! ───ザザァッ!! 悠介 「ッチィ!!」 影悠介『ハァアッ!!』 連撃を連ね、弾き、双方ともに距離を取るとともに次へのイメージを連ねる。 戦いなど存外にイメージ通りにはいかないものだけど、 それがあるのと無いのとでは対応の仕方が違ってくる。 例えば───自分の癖を思い、初撃は必ず低い攻撃からくるのだと想定すれば、 それが正解に一致するのだとすれば弾くのは容易い。 ───もちろん、正解に一致すればだ。  フォゥンッ!! 悠介 「とわぁっ!!?」 影悠介『ッ───』 相手も俺の動きを読んでいれば世話が無い。 悠介 「この───!!」 影悠介『アァアアアアア……!!!』  ヒィン───ガィンギキィンギガガガガィンッ!!ヂギィンッ!! 連ねる刀撃は接触の度に幾重。 脇差二刀同士で行う戦いはそれこそ高速度打ち合いであり、 一瞬の油断や隙が命取りになるものだ。 加えて、両手にある得物と背にある得物は重過ぎる。 振り遅れればあっけなく、相手の得物が俺を切りつけるだろう。 けどそれでいい。 相手も真剣、こちらも真剣。 手に当て、引くだけで綺麗に切れるであろう得物を振るうからこそ、 緊張感も高まるというものだ。 ───体のリハビリは終わった。 あとは実戦のリハビリを存分にするだけだ───! 悠介 「“我が意思は擬似をも越える(イミテーション・サーパッシング)
”───“四空、誓約ヨリ矛盾ヲ分カツ(人技、疾空にして蒼雷)”!!」 影の攻撃を弾き、間合いが開くとともにイメージを解放。 すぐさまに奥義の構えをし─── 悠介 「“───閃空 飛翔ニ堕ツル万物(閃技 飛翼にして刃)”───!」 背にあった野太刀を投擲し、それとともに疾駆した。 ───が。 悠介 「───!」 ガギィン、と───放った野太刀が弾かれた。 ……同じく、放たれた野太刀によって。 刹那に開けた視界から影が現れ、ほぼ同時のタイミングで脇差二刀を振り下ろした。 悠介&影悠介『“───疾空 交差セシ白銀ノ閃(疾技 交わりにて無二を砕く)”!!』 ギヂィンンッ!!! 悠介 「───ッ……!!」 影悠介『……!!』 奥義の第二撃───交差する刃は、同じく交差する刃にて受け止められた。 悠介 「〜〜〜っ……!!」 影悠介『っ……───』 懇親での鍔迫り合いが続く。 だが同等の力、同等の体を持つ者同士では圧し勝ちや圧し負けなどは有り得ない。 ───そう。武器までもが同じならば、だ。  ───ギャリィンッ! 悠介 「づっ……!?」 影悠介『その隙、もらった───!!』 武器の重さのために疲労が溜まっていた俺は圧し負け、 たたらを踏んだ俺に向け───姿勢を低くした影が神速で疾駆した。 間合いが詰められる時の間などまさに刹那。 その速度を殺すこともなく振るわれる、 掬い上げるような奥義の第三撃は俺へと向けられた。 自分で自分に関心するなんて馬鹿なことだが、 その瞬間……俺は確かに影である自分の動作に関心していた。 その三撃目は確かに速度を殺すこともなく放たれ、隙も慢心も無かった。 相手がそれに反応出来なければ絶望するだけだ。 ───が。相手が自分である限り、自分の速度に反応出来ないことなんて無い───! 悠介 「疾───!!」 ガツッ! 影悠介『───!?』 交差する刀の峰が振り上げられるのを、咄嗟に振り下ろした柄の底で防いだ。 その一瞬を逃すことなく、強引に振り上げられる力とともに小さく宙に飛ぶと、 空中で体勢を立て直し─── 悠介 「はぁっ───!!」 着地と同時に地面を蹴って疾駆。 勢いのあまり地面が炸裂したが、それだけの速度を以って懇親の一撃を振るう───!! 影悠介『───……!くぁぁああああっ!!!』 強引に振り上げたために両腕を掲げたままの影は、振るわれる一撃を見下ろして吼えた。 同時に筋が断裂するほどに強引に二刀を振り下ろし、 振り上げられる奥義の第三撃を弾いた。 ……折れず曲がらずのイメージのもとに創造された武具だ、砕けることなどない。 本来相手の武器を弾くための第三撃だが、 振り上げる攻撃と振り下ろす攻撃とでは振り上げる力の方が弱い。 だが筋を断裂してまで振り上げる動作を振り下ろした影は、 込めた体重によって俺との攻撃のぶつかり合いを遣り過ごした。 悠介 「くっ……!」 影悠介『づっ……!』 再び離れる間合い。 だが今までと同条件じゃない。 影の腕は筋がイカレ、腕がだらんと下がったままだ。 それでも戦意を喪失しないのは……ああいや、まったく諦めが悪い。さすが俺だ。 悠介&影悠介『疾───!!』 バォオンッ!!───疾駆による勢いで地面が炸裂する。 土煙をあげての疾駆は凄まじい速度を齎し、刹那の瞬間に眼前に相手の顔が迫っていた。 俺は脇差二刀を加減も無しに振るう。 対して相手は─── 影悠介『はぁっ───!!』 ヒュオ───ガキィンッ!! 悠介 「───!?」 身を捻り、鋭い勢いで足を振り上げて俺の二刀を弾き飛ばした。 その足には───“氷狼砕く魔法の具足(ヴィーダル)”が。 回復より戦いを優先させるなんて、なんてやり辛い相手だ───って、相手は俺だった。 悠介 「“氷狼砕く魔法の具足(ヴィーダル)”!!」 刀で戦うのをやめると、即座にヴィーダルを創造して構えた。 やがて始まる蹴り技のみでの争い。 脇差二刀に比べて具足自体に破壊能力があるために、 衝突するたびに足に衝撃が突き抜ける。 だが退くこともなく連撃を連ねていった。 【ケース43:不死身ハンター/ラリーマン】 戦い、休み、戦い、休みを繰り返しまくっていたジャパンスキーを眺めること数日。 俺も随分と体が作られていき、もはや200キロまで平気で走れるようになった。 なにせ、悠介が俺の時間だけを調整して体を作るためのことをいろいろと尽くしてくれた。 そのためにもうマッスルです。 悠介と同じく、ダイヤモンドマッスルに近い筋肉に。 お陰で贅肉などは一切無くなりました。 もはや脆弱武人などではございません。 リンゴだって握力で潰せるんじゃよ?ほぉうれマゴシャア!と。 不死身「ふふ……ふふふははははは……!!!これで俺も努力メン!?     そして見よ!今こそ呪いが我が根性の前に平伏す時!!     はぉおおおおおおおおおお……!!!!」 ウゴゴゴゴ……と体中の全エネルギーを放出するようにイメージする。 もちろん創造が出来るわけでもないが、なんとかなる気がしないでもない!! 出来る……俺なら出来る!!今の俺ならば!! 不死身「汝のさだめ……滅びなり!!」 グラントのように腕を大きく広げ、胸を張ると───……特になにも起きなかった。 不死身「……まだ努力が足りぬと!?ガッデム!!」 これではいかん!!もっとだ!さらなる努力を!! そう思った俺は、 未だに自分の影との決着がつかないジャパンスキーのもとへと駆け出した。 ───……。 ……。 さらに一週間後。(悠介による我が肉体経過時間は一年) 不死身「アイ!アム!マッスル!!愛のマッスル!!」 筋肉ゴリモリになった…… といっても細い筋肉の密集体だから細身のままだから醜くもない俺。 そげな状態で俺は再び気合を込め、放出した───!! 不死身「オォオオオオッ───チェストーーッ!!!」 ゴォオオオ……ガカァアアアアアッ!!!! 気合を込め、さらに込め、裡に溜まったものを全て吐き出すイメージを解放させる。 すると体から黒い極光が溢れ、まるでブロリーの第二形態への移行の時のように輝く。 体が少し浮くと、やがて黒い極光が弾けた。 不死身『ルォオオオオオオオオオオオッ!!!!』 ───その時確信した。 力が戻った、と。 呪いが弾かれ、声が霊的に近づくと、俺の中に黒と闇と影が溢れた。 だが前ほど重くない。 むしろ酷く自分との一体感が強く、強くイメージすることもなく体が闇と影を行使出来た。 彰利 『……おお』 悠介の言う通りだ。 自分が思う以上に闇と影を屈服させることが出来た。 そして、それとは別に納得できることがあった。 ようするに……今までの俺には『心構え』が足りなかったのだ。 何かを使役するという自覚。 それはなによりもまず、心に刻んでおかなければいけないことだったのに。 黒の秩序として、核として。 中心にある者の意思が弱いものであれば、 それに殉ずる力も真剣に働こうとするわけがなかった。 彰利 『……ん』 ぎゅっと手を握った。 その手に、その心に溢れるのは充実感。 やり遂げ、さらに次を目指せるという意思が俺の心を満たしていった。 彰利 『よっしゃあ!悠介!ちょっと組み手しようぜ組み手!今なら俺───』 悠介 『……んあ?どした?』 彰利 『………』 振り向いた先に、なんつーか……尋常ならざる力の波動を放ってる竜人な親友が居た。 というのも、どういうことか……竜状態の時に感じられたハンパじゃない力の波動を、 竜人の状態のままに放ってたりするんですよ悠介さん。 彰利 『え、えーと……それ、どういう……?』 悠介 『ん?ああ……竜の力を竜人の状態で引き出せるようにした。     覚えてるか?ミルハザードが竜の状態でも     竜人の状態でも同じくらいの強さだったのを。それを自分の中で開化させた』 彰利 『あ……あーあーあー……そういや……』 つーことはなに? ただでさえハンパじゃなく強かった彼が……さらに強くなってしまったと? 悠介 『ていうかさ、俺こそお前になんだそりゃって訊きたいぞ?     狭界で何体ぐらい幻獣食ったんだ?感じる波動が尋常じゃない』 彰利 『や、だからさ。言ったでしょうが、以前の俺が霞むくらいに強くなったって。     今の俺は以前の通常の三倍くらい強くなってるのだよ。磯野カツオの如く』 悠介 『いや……三倍程度じゃないだろそれ。しかもカツオ関係無い』 黒の濃度はそりゃあ三倍以上ではあるけど。 彰利 『あーあ……お前の竜人の力にまでは辿り着けたんじゃないかって思ったのに』 悠介 『そこまで強くなれば十分じゃないか……?』 彰利 『いーやダメだね!俺はお前に追い着く!努力する!スバラシイコト!!     俺は努力に目覚めた!努力一番努力万歳!!』 体に力が溢れる……高まる……!! 影や闇や黒が活力を受け取って増幅してゆくのだ……!! そう、考えてみれば単純だったのだ。 俺が強くなるのは、 裡に内包する666体のモンスターと数十にも渡る幻獣の成長に繋がる。 故に───俺が強くなるのは俺が強くなるだけでは留まらないのだ。 そのお陰で一気に力が増したわけだが─── 悠介 『……?』 彰利 『………』 また差をつけられてしまったがよ……。 彰利 『え、えーと……もしやもう神魔竜状態の力も竜人のままで引き出せる……とか?』 悠介 『ん……いや。正直まだ竜の力引き出すだけで精一杯だ。     だからもっと修行してモノにしていきたいって思ってる』 彰利 『……これからは修行する時は俺も誘いなさいよ?』 悠介 『それは構わないけど。どうしたんだ?努力嫌いのお前が』 彰利 『だぁから目覚めたんだってばよ。心構えを変えなきゃならん。そう思った故。     で、修行で思い出したけど───キミ、リアナさんとリオナさんのこといいの?』 悠介 『へ?あ───』 しまった……と言葉をこぼす親友さん。 愚かな……。 悠介 『そうだよそう、そうじゃないか……。     修行する時は呼んでくれって言われてたんだっけ……』 彰利 『モテモテですな』 悠介 『やかましい、モテるとか言うな。     俺はもうルナと一緒に居るって決めてるんだから』 彰利 『あらそうなの?もったいねぇ……。選り取り緑なのに』 悠介 『俺からしてみればお前の方がもったいないって思ったよ。     篠瀬のヤツ、お前のこと本気で想ってたのに』 彰利 『うぐっ……』 悠介 『……言われたら辛いだろ?辛いものを人に押し付けるな、たわけ』 彰利 『ゴメンナサイ……』 これは一本取られたネ……。 でもね、正直本気で夜華さんの記憶を消した時は悲しかったんよ。 あの時は……うん、本気で悲しかったし辛かった。 自分を想ってくれてる人の気持ちを裏切るのって、やっぱり軽いものじゃないから。 悠介 『言っといてなんだけど、気にするなよ。     記憶消した時、そうするしかなかったから消したんだろ?     俺はそのことになんの文句も無いし、     言ったところでどうにかなるものじゃないってことも解ってる。     だから一言だけ。……人の記憶ってそんな簡単じゃないから気をつけろ』 彰利 『へ?それって……』 悠介 『でもまあ……大丈夫だろうな。お前の記憶消去ってかなり効果が高いから。     なにせ親友の記憶から自分の記憶消しっぱなしにしたくらいだ』 彰利 『うう……それはもう水に流そうぜ友よ……。     いいじゃないの、キミを思ってしたことだったんだから』 悠介 『喩えで上げただけだ、恨んじゃいないよ。     ただな、もし篠瀬の記憶がなんらかのきっかけで戻ったりしたら……     お前本気で恨まれるぞ?』 彰利 『望むところだ!!……つーか嫌われることや恨まれるのなんて慣れてますよ?     今さらどなたに恨まれようが構いませんさね。キミだって嫌われ慣れてるっしょ』 悠介 『そりゃな。俺達の平穏なんて中学くらいにしか無かったんだ。     それ以外の道が全て嫌われ者の歩む世界だ。小学ではお前に負けるけど、     高校の場合はお前はむしろ好かれてたからな』 ……そういやそうだった。 でも小学で悠介が嫌われていたのは間違い無い。 ただいつも若葉ちゃんと木葉ちゃんが一緒に居たからそう見えなかっただけであって、 元々創造の理力を見せた時点から悠介はずっと嫌われていた。 それってつまり、俺よりヒドイと言えないだろうか。 俺はただ自ら周りに嫌われていっただけだし。 おもら神、今頃なにやってんのかなぁ。 彰利 『ってそうだよ悠介!!お花見!お花見まだ行ってねぇよ俺達!!』 悠介 『狭界の方はもういいのか?』 彰利 『うぐ』 それ言われるとオラ辛ェ。 何故かって、今ちょいとヤバい状況にあるからだ。 彰利 『……えっとさ。     ちと狭界の方でヤバいことが起きてるんだけど……相談に乗ってくれる?』 悠介 『ヤバいこと?なんだよそれ……って相談もなにも言ってもらわなきゃ何も解らん』 彰利 『ごもっとも。先に相談に乗るかどうか訊くのってなんかズルかったな。     OK話ましょう……今狭界で起ころうとしていることの全てを』 俺は一度ゴクリと息を飲んだあと、ゆっくりと全貌を話していった。 ───……。 ……。 悠介 「……狭界の幻獣が次元に穴を空けようとしている……?」 彰利 「……そ」 話し合いのために俺は黒、悠介は竜人を解除し、草原に座りながら話し合っていた。 内容は……悠介が言った通りだ。 彰利 「知っての通り、狭界の幻獣の強さはミルハザードが狭界に居た時───     つまり約三千年くらい前とはあまりにも違ってる。     確かに融合ミルハザードと比較してみれば弱いヤツばっかだろうと思う。     けど、その中にも色々な能力を持った幻獣が産まれてきてるのは確かで……     それは当然、次元干渉能力に近い能力を持ったヤツも居る。     そいつが本格的に力をつけるか、それとも別の強者に食われでもしたら───」 悠介 「……その幻獣が能力を開花させて、べつの世界に現れる可能性がある……?」 彰利 「そゆこと。巨人族と生粋の竜族は元から狭界に住んでいた存在みたいでさ、     べつに別の世界に行こうだなんて思ってないみたいなんだけど……」 悠介 「……それを狙ってるヤツが居る、か?」 彰利 「狭界の幻獣どもは多分みんなそう思ってる。     力関係が滅茶苦茶だからな。     いつ自分が殺されて、誰に取り込まれるか解らないんだ。     それなら別の世界に出て己が最強になればいいって……そう思ってるみたい」 悠介 「……なるほど」 話して聞かせると、悠介は難しい顔をして息を吐いた。 そして言う。 悠介 「……ひとつ聞かせてくれ。     狭界ってのは……元から思念の集まる場所だったのか?」 ───その質問は。 俺が狭界で最も気にしていて、ようやく答えに辿り着いたことそのものだった。 彰利 「……答えはノー。原因は大昔にあって、     今よりもずっとずっと昔……まだこの世界にレヴァルグリードが居た頃まで遡る」 悠介 「………」 彰利 「俺も巨人の里に居た研究者に聞いただけだから詳しくは無いけど、答えは得た。     ……遥か昔、狭界には───」 ノート『……その続きは私が話そう』 悠介 「……ノート?」 彰利 「スッピー……」 スッピーが現れた……そして続きを話すってことは…… 彰利 「ウソじゃない真実、教えてくれるんだな?」 ノート『………』 スッピーは黙って頷いた。 やがて話だした。 この世界と、狭界の関係の全てを。 ノート『……遥か昔、世界と世界の狭間には空界……つまり、この世界があった。     当時の空界の長は私であり、この世界全てを統べる存在だった。     弦月彰利が時折に私を【世界の精霊】と称していたが、あながち間違いではない』 悠介 「……続けてくれ」 ノート『空間世界は表と裏の世界で構築されていた。表の世界を空界、裏の世界を狭界。     空界は人と精霊が住まう世界であり、狭界は竜と巨人が住まう世界。     そこに【幻獣】などという存在は一切在り得なかった』 彰利 「……ん」 それを聞いた時は俺も驚いた。 けど、確かに狭界にあった昔の記録には、狭界に幻獣が居たなんて記録はなかったのだ。 ノート『ある日のことだ。予てより敵対関係にあった巨人と竜族、その長同士が衝突した。     当時の巨人の長はアハツィオン=イルザーグ。     英雄ゼプシオンの親族にあたる巨人族の王だった。     そして……竜族の長は言うまでも無く解るな?』 悠介 「……皇竜王、レヴァルグリード」 ノート『その通りだ。両者は激突し、凄まじい攻防を繰り広げた。     その末に、レヴァルグリードが死力を込めて放った極光、     アハツィオンが死力を込めて放った魔術とが衝突。     大地は荒れ果て、極光は大地をどこまでも穿ち、     やがて表の世界でもある空界をも貫いた』 悠介 「それって……ウォルトデニスの泉の……?」 ノート『その通りだ。強く圧縮された極光は大地を穿ち、次元さえ捻じ曲げた。     かつて狭界最強と謳われたレヴァルグリードとアハツィオンの全力だ、     それだけの力があったのだろうな。     散った極光はアハツィオンの魔力を吸収し、次元にあってはならない力を齎した』 彰利 「次元干渉、か?」 ノート『似たようなものだ。     次元を歪ませ、表裏一体である筈だった空界と狭界を切り離し、     さらに力が炸裂した現場である狭界に異常を齎した。     それが……他の世界から思念を引きずり込むというもの。     さらにその思念は意思を持ち、     塵となったモンスターを取り込んで形を象っていった』 悠介 「……待て。『モンスター』は何処から現れたんだ?     聞いた限りじゃあ……空界には精霊と人しか居なかった、って……」 彰利 「あ……そういやぁ」 それはヘンだ。 モンスターは一体何処から─── ノート『空界と狭界の繋がりが断たれる瞬間、少しだが空界にも思念が流れこんだ。     ……ところで訊くが、モンスターはどうして繁殖能力を持っていると思う?』 彰利 「へ?どうしてってそりゃあ……生きてるから?」 悠介 「…………いや。いや……おい……ちょ、ちょっと待ってくれ!それって───」 ノート『……マスターは理解に至ったようだな。     その通りだ。その中途半端な存在が【亜人】、エルフやドワーフであり、     完全に取り込まれた存在こそが……人間が思念に取り込まれ、魔物と化した姿だ』 彰利 「───へ?」 悠介 「っ……」 な、なにそれ……? じゃあ……モンスターって…… ノート『考えたことは無かったか?     倒したモンスターや竜族は何故、塵になって狭界に流れるのかと。     ……簡単だ、そこが還るべき場所だからだ。     モンスターと化した人間は既に思念の塊であり、     思念は狭界から発生したもの。     竜族は空間断裂のドサクサに空界へ飛ばされたレヴァルグリードからなり、     アハツィオンとの戦いにより瀕死だったレヴァルグリードは竜王を産むと、     のちの全てを側近であるジハードに任せた』 悠介 「え───レヴァルグリードって雌だったのか!?」 ノート『いいや、正真正銘の雄竜だ。     だがレヴァルグリードがどういう呼ばれ名をしていたか知っているだろう』 悠介 「……九頭竜?」 ノート『その通りだ。レヴァルグリードは自分の体を血肉として竜王を誕生させた。     信じられないような馬鹿馬鹿しい話かもしれんが、     あの皇竜王は真実規格外の力を持っていた。     ……が、その時のレヴァルグリードはシュバルドラインと同じく、     アハツィオンの妻である存在の命を賭した戒めにより弱体化していた。     それさえなければ、アハツィオンなど敵ではなかっただろう』 彰利 「参考までに……なんでスッピー、狭界での出来事まで知ってんの?」 ノート『……レヴァルグリードを見取ったのは私だ。     その際、記憶を覗かせてもらった故にすぎない』 彰利 「……そっか。で……その時ってやっぱ、皇竜王って五頭竜だったん?」 ノート『ああ。そうなってから千年は生きたがな。やがては力尽き、塵と化した』 彰利 「そか……と、ところで……さ。皇竜王の塵って……まだ空界にある?」 ノート『いいや。丁度今から10年前に狭界へと還ったが』 彰利 「───!!」 10年前……?なんてこった……。 じゃあやっぱり、あの黒竜の正体は……─── 彰利 (どうりで馬鹿みてぇに強い筈だ……) 塵に記憶が残るっていうなら、恐らく力さえ残るってことだ。 ってことはつまり、あの黒竜は冗談抜きで皇竜王が幻獣として蘇った存在───。 これでもし、塵になった瞬間に『戒め』ってヤツ消えちまってたりしたら……いや。 あの時感じた波動は本気で半端じゃなかった。 それはつまり……弱体化なんてしてないってことにイコールするんじゃないだろうか。 悠介 「……彰利?」 彰利 「………」 解らない。 けど不安ばっかりが込みあがってくる。 考えてもみよう。 今俺達がこの話をするきっかけになったのは、 狭界の幻獣たちが次元干渉をしようとしている、ということがそもそもだ。 つまりその次元干渉が確立してしまったら、この世界でも地界でも冥界でも、 何処に出るかも解らないが、とにかくあの黒竜が降りたつということ。 そうなれば……その世界は抗う術を失う。 だったらどうする……?だったら…… ノート『……言い忘れた。モンスターが元人間と解ったとはいえ、     今のモンスターに加減をする必要はない、ということを伝えておく』 彰利 「え……え?なんでさ」 ノート『モンスターとなってしまった人間を捨ておくわけがないだろう。     すぐに【モンスター】となった部分だけを切除した。     だがそのまま放置していたのは間違いだった。     自然消滅すると踏んだが、存外しぶといヤツでな。     増殖し、点々と様々な場所へ移ると……環境に適合した体を作り、     やがて完全な【モンスター】として確立した。     繁殖能力の云々を先ほど説いたが、答えはこれだ。     切除される際、【人の情報】をコピーしていったのだ。     故に繁殖もすれば徒党も組み、怒りもすれば泣きもする。     と人に近いが、人ではない。……安心しろ、汝らは人殺しなどしていない』 悠介 「………」 彰利 「は……はぁあ……」 あ〜……安心した。 もし本気でモンスターが人間だとしたら、俺達人間の肉を焼いて食ってたことになる。 漂流教室じゃあるまいし、そこまで堕ちたくない。 悠介 「じゃあ、ようするに……モンスターも思念の塊みたいなものなのか?」 ノート『そういうことだ。     じゃなければゲーム感覚で何かを殺すブレイバーシステムなど作るか』 悠介 「ん、そりゃ確かに。     精霊が、“元”とはいえ人間を殺すゲームを作るのはどうかと思う。     でもようやく納得した。     ようするにノートは思念の駆除がしたくてブレイバーシステムを作ったんだろ?」 ノート『そんな大げさなものじゃないがな。現にそう言った物事が始まると、     モンスターを倒して塵にした人間は皆調子づいた。     それがエスカレートし、いつしか癒しの大樹まで枯らせ、     自らモンスターに不利な状況を作った』 彰利 「話だけ聞いてりゃホント馬鹿だよね」 悠介 「同意見だ」 ノート『だがその癒しをマスター、汝が蘇らせてくれた。……心から礼を言う』 言って、悠介に頭を下げるスッピー。 これには流石の悠介も吃驚仰天である。 悠介 「なッ、ちょ───待て!!頭なんて下げるなよ!!     大体癒しならノートにだって回復させることが出来た筈だろ!?」 彰利 「あ、それ俺も気になってた。なんだってずっと放置してたん?」 ノート『人間どもの自業自得だからだ。先に立つ後悔など無いのだと戒めるためだ』 悠介 「……納得」 彰利 「いきなりですな。解るけど」 痛い目見てみなきゃ解らんかったのですよきっと。 ノート『私はな、人の世界は人のみでなんとかするべきだと考えていた。     それゆえに何があろうがほうっておいた』 彰利 「それでええと思うよ?」 悠介 「同じく。それでいいと思う。癒しの大樹を枯らせたのが人間の罪なら、     償わせるのは当然ってもんだろ?」 ノート『……そのために聖魔戦争が悪化したと言ってもか?』 悠介 「人間の自業自得だ」 彰利 「自業自得だぁなぁ」 悠介 「力を見せ付けて自分たちの首絞めてりゃ世話無い。     巻き込まれたやつらには気の毒としか言いようが無いけど、仕方ないだろ」 彰利 「………」 巻き込まれたやつ、か。 悠介のことだ、ミルハザードのことを言ってるんだろうな。 悠介 「ノートが気に已むことはないだろ。     人の世界は人のみでなんとかするべきなら、それは当然の報いだ」 彰利 「んだんだ。それに、過ぎたことを愚痴ャラティしたってしょうがなかろうもん。     過去に囚われる辛さは、我らも存分に体感しておりますからなぁ。     ……もちろん、その虚しさも」 ノート『……そうだったな。汝らは複雑な事情の上でここに立っているんだったな』 彰利 「ま、そんなわけだから。自業自得は自業自得のままでいいのです。     今は狭界の幻獣の陰謀をどう対処するかだ」 ノート『ふむ……』 悠介 「ンー……それを企んでる幻獣をツブす、ってだけじゃダメなのか?」 彰利 「やめといた方がいいよ?だって今の狭界のボス、レヴァルグリードだし」 悠介 「ブフッ───!?」 ノート『なに───!?』 あ、やっぱ驚いた。 ってそりゃそうか。 彰利 「えっとね、間違いじゃなければ     相手はレヴァルグリードの塵から幻獣になった黒竜だよ。     どんな思念の先に幻獣になったのかは解らんけど、     出現した時期が10年前らしいのです」 ノート『……計算が合うということか。だが強さはどうなんだ?感じたままに答えてみろ』 感じたまま……ね。 彰利 「……悠介の神魔竜くらいの強さに感じた」 ノート『ほう……』 悠介 「……つまり、ミルハザードより……?」 ノート『それはどうだろうな。……さて、話はここまでにしよう。     マスター、汝は神魔竜の力を竜人状態でも引き出せるようにしておけ』 悠介 「相変わらず簡単に言うな……けどまあ、結局は修行するつもりだけど」 悠介は頭をコリコリと掻いて立ち上がると、その場から離れて精神集中に入った。 瞑想、ってやつだろうか。 ノート『……弦月彰利』 彰利 「んお?どしたのスッピー、俺も修行再開しようと思うんだけど」 ノート『その前に答えろ。汝が感じた黒竜とやらの強さの波動は、     初めてマスターが竜化した時に感じたものと同じものだったのか?』 彰利 「へ?えと……オウヨ。そうだけど、それが?」 ノート『いや……そうか。それは弱ったぞ……どうする……』 彰利 「スッピー?」 ノート『……なんでもない。修行に戻っていいぞ。私は少し考えたい』 彰利 「…………?」 言うことだけ言うと、スッピーは黄昏の世界からスゥッと消えて、居なくなってしまった。 なんだったんデショね。 つーか結局どうするんだ?狭界の幻獣どものことは。 彰利 「……修行、身に入るかのぅ」 不安でした。滅茶苦茶。 Next Menu back