───ようこそ幕間。どんとこい世界大戦───
【ケース44:晦悠介/マグナムエース】 ───ドシャア。 悠介 「は……はっ……はぁ……」 竜人状態で竜の力を引き出すのにも慣れ、その状態で修行が出来るようになって早幾日。 黄昏の中では時を止めてあるとはいえ、 こう何日も修行しっぱなしだと外のほうが気になったりする。 それでもこうして修行ばっかりしてるのは……やっぱり修行の虫だからか? などと時折に悩んでしまう。真剣に。 悠介 「ん……」 乱れた息を整えると、倒していた体を跳ね上がらせて立ち上がる。 それから溜まっている疲労を理力で流しつつ歩くと、中井出を発見。 悠介 「中井出?」 なにやら難しい顔をしながら座り込んでいる中井出に話し掛けた。 と─── 中井出「……ダメだわやっぱ」 開口一番に諦めを宣言されてしまった。 そういえばそもそもなにやってたんだこいつは。 中井出「んあ……?おお晦。どした?」 悠介 「どした、って。逆に訊きたいくらいだが」 中井出「いやー、どうしたもこうしたも無いってばよ。     いろいろ考えて構成して、     そんでもって式を繰って映像系のことをいろいろやってたんだけどさ。     あー……なんだ?なんて言えばいいのか……。     とりあえずアレだ、単純なことに今さら気がついた」 悠介 「単純なこと?」 中井出「えーと、まあ……アレだ。以前完成させたテープを映像化する能力を思った。     考えてみりゃあここに黄昏があって、     お前のお陰でなんでも創造出来る空間がここにある。     つーことはだ。ここでエロビデオを創造すればいつだって見れるってことだ」 悠介 「…………続きがありそうだから抑えるが。     とりあえず創造をそういうことに使うのはやめろ」 と言ってはみたが、中井出は『いやいやいやいや』と言って首を横に振った。 中井出「無駄なんだって。結局のところさ、ホラ。     創造するにしたってイメージが必要だろ?     そうなると結局は俺の妄想ってことになるわけで……」 悠介 「あー……」 中井出「妄想を映像化する能力とそう変わんねぇんだよコレ……」 それ=無駄骨。 彼の努力の日々は、たった今を以って無駄となったそうな。 や、それにしたって創造の世界でそんなもんは創造してほしくは無いが。 中井出「そんなわけだから空界でエロビデオを見ようという計画は絶対不可能になった!!     諦めきれずに頑張ってたがそれももう無理!!     俺は涙を飲んで……エロビデオから卒業します!!」 悠介 「だぁっ!馬鹿っ!こんなところで爆弾宣言するなっ!!」 中井出「なにぃ何故だ晦一等兵!!宣言の何が悪か!!」 悠介 「宣言することが悪いんじゃなくて、宣言するその内容が悪いって言ってるんだ!」 中井出「俺にとっては遥かなメモリーだが」 捨ててしまえ、そんなメモリー。 中井出「大人の階段のーぼるー……俺はまだー、シンデレラっさー……」 悠介 「………」 ダメだ。 エロビデオのことを諦めることが相当ショックみたいだ。 遠くを見つめて歌いだしやがった。 悠介 「………」 ほうっておいたほうが良さそうだな、これは。 そう考えた俺は、静かにその場をあとにした。 ───……。 ……。 さて……そんなわけで彰利が修行している場所へと来たわけだが。 彰利 『ファイナルッ……かめはめ波ァーーーーーーッ!!!!』 ドンチュゥウウウウン!!!! ……なにやら黒状態でいろいろやっているようだ。 彰利 『お……悠介ー!どぎゃんしたのかねー!?』 空中でブンブカと手を振る親友。 なにやってたのかは知らんが、とりあえず良からぬことをしているわけじゃないらしい。 悠介 「なにやってたんだ?明らかに知識の偏りを感じる技を放ってたみたいだけど」 彰利 『ファイナルかめはめ波!!     知ってる人しか知らない、悟空とベジータのフュージョン技です!     記憶が確かならアルティメットバトル22でゴジータが使ってた筈』 いや、そんな明日使える無駄知識が聞きたかったわけじゃないんだが。 ……というか使えない無駄知識って本当の意味で無駄知識だろうな。 聞いたところで、俺が誰かに言う機会なんて思いっきり無さそうだった。 彰利 『まあそげなわけで、武技を研究中なわけよ。     ああちなみに【必殺技】と言わないのは、その意味を受け取ってのことです。     バトルゲームだとさ、やれ【必殺技】とか書いてあるけど───     必殺出来ない上に奥義より格下なんだよね。これってただのウソじゃん。     だから俺は技のことを必殺技と呼ぶのは改めようと思ったのです。     考えてみりゃあ夜華さんとかも必殺技なんて言わずに【刀技】って呼んでた。     見習うべきはそう!そこなのですよ!そこゆく親友』 悠介 「そこゆくもなにも、立ち止まってるから何処にも行きようがないんだが」 彰利 『冷静なツッコミサンクス。まあでもそう思ったわけだよ俺。     三千院の某執事も必殺技を覚えなければいけないと言われていたが、     結局某執事が覚えるものも【必殺】ではないと俺は考える。     だってシャレにならん。殺したら捕まるだけだよ?ただでさえ借金地獄なんだし』 悠介 「なんの話だ」 彰利 『なんだろね』 相変わらず説明の喩えが解らんヤツだ……。 彰利 『で、話は戻るんだけど。どう思う?狭界のこと』 悠介 「ああ……レヴァルグリードか」 彰利 『じゃなくて。幻獣どもが格世界に散らばるやもしれんのですよ!?     世界が……世界が滅んでしまう!!』 悠介 「滅ぶかどうかは解らないだろ。少なくとも神界と冥界は大丈夫だと思うが」 彰利 『甘い。甘いぞ悠介。神界はどうか解らんけど、     冥界はキングベヒーモス一体が流れれば早々にツブれるぞ』 悠介 「……否定出来ないな」 キングベヒーモスの実力はかなりのものだ。 竜の力を安定させた今ならなんとかなるかもしれないが、 少なくともヘタな攻撃が通用する相手じゃない。 彰利 『つーわけでさ。俺考えたんだけど……』 悠介 「うん?」 ちょいちょいと『耳を貸せ』のゼスチャーをする彰利。 べつにこれだけ離れてれば他の誰にも聞こえないと思うんだが。 それでも耳を近づける俺もノリがいいっていうかなんていうか……。 ───……。 ……。 悠介 「な、なにぃっ!!?     こっちから次元のゲートを開いて竜族と精霊と一緒に攻め込むだぁっ!?」 彰利 『ギャア馬鹿!声がデカイよダーリン!!』 悠介 「ダーリン言うな!!」 彰利 『まず反応するべきはそっちじゃないでしょ!?』 悠介 「ええいやかましい!お前それ本気なのか!?相手は幻獣だぞ!?     しかもレヴァルグリード率いる幻獣軍団!!勝てる見込みがあるのかよ!!」 彰利 『知らん!!』 悠介 「無責任に威張るなたわけぇっ!!」 耳打ちされた言葉の内容は、それはそれはとんでもないものだった。 なにせ、空界の実力者と竜族と精霊を率い、 狭界の巨人族、竜族と結託して幻獣と思念を滅ぼそうというものだったのだ。 とんでもないと思わずには居られやしない。 竜族といってもレヴァルグリードはそれに属さず、幻獣と数えられている。 相手が他世界へ出ようとしているのなら、なんとしても止めなければいけないのは事実だ。 事実なんだが…… 悠介 「お前……時々思い切ったこと考えるよな……」 彰利 『俺だからね』 そりゃそうなんだが……。 悠介 「……事情、聞けないかな。レヴァルグリードに」 彰利 『事情?事情って……なんのさ』 悠介 「どうして他世界に出ようとするのか、だよ。     レヴァルグリードがそれを目論んでるのかは俺は知らない。     案外止めようとしてるかもしれないし、けど確かにそう目論んでるかもしれない。     俺達には狭界の情報が少なすぎるんだよ。     だから、聞けないかどうかって思ってるんだ」 彰利 『……お人好しも大概になされい悠介。あたしゃあいつに殺されかけたのだよ?     それも、ただ北の大地に行ったってだけで。     しかもその北の大地になにがあるか知ってる?』 悠介 「お前は人の話をちゃんと聞いてるのか?     情報が少なすぎるって言ったばっかりだろうが」 彰利 『む、そりゃ確かに。……ぶっちゃけてしまうと、     狭界の北の大地には【思念が発生する次元の歪み】がある』 思念が発生する歪み……? それって幻獣の素になっている思念を吐き出す場所ってことか───? 彰利 『つまり、そこを縄張りにしてるレヴァルグリードは、     穴を塞ごうと思うなら絶対にラスボスになっちまうんだよ。     逆に言えばその穴さえ塞いじまえば思念は止まる。幻獣はもう出なくなるんだ』 悠介 「そうなのか……」 彰利 『……と、俺が思ってる』 悠介 「オイ」 彰利 『ああでも、北に行けば行くほど思念の量が多いのは確かだぞ?     だからって幻獣が強くなってるかといえば、そんなことはない。     研究者もそっちの方は10年前に調べてみたことがあるって言ってた。     今じゃ思念対策の魔術も編み出せたって言ってたから、     思念の影響で魔物化することもないみたいだ。     聞いた時は“思念対策”の意味がまるっきり解らなかったんだけどね。     スッピーの話聞いてたらその理由が解ったわ。     多分、狭界のほうでもモンスターになった人間は居たんだろうね』 悠介 「でも向こうに元々居たのは巨人と竜族だけだったんだろ?……って、そうか。     竜族がこっちに流れ込んできたのと同じように、     人間も向こうの世界に流れ込んじまったってことか」 彰利 『そうだと思うぜよ?     今になってようやく解ったわ、ノッカーが言ってた言葉の意味。     【この世界に存在するのなら、人間で居られる人なんて居ない】。     それはまさに、その通りだったってことだ。     力の無いヤツはモンスターになっちまうだろうし、     それなりの力のある場所じゃなけりゃ生きてもいけない。     人間の姿が巨人の里の奥にしか無かったのはその所為だな、こりゃ……』 悠介 「………」 狭界で何があったのかは知らないが、 彰利は少なくとも俺なんかよりよっぽど事情を知っているらしい。 難しい顔をしながら、ブツブツと呟いている。 彰利 『なぁ悠介。やっぱり歪みをなんとかしなきゃいかんよ。     事情を話せば巨人族も竜族も納得して力を貸してくれる筈だ。     歪み、時空関連なら俺がなんとかするから、塞ぎに行こう』 悠介 「……勝てる見込みは?ラスボスになるって言ったばっかりだろ」 彰利 『俺が犠牲になってる間に俺が時空の歪みを!……何人居るんだよ俺は』 悠介 「知るかぁっ!!お前いろいろ考えてるようでやっぱなんも考えてねぇっ!!     このアホォッ!!たわけっ!!」 彰利 『な、なんですとぉっ!?俺だっていろいろ考えてますわ!!……夕食はなんだろ』 悠介 「ポリットでも食って安眠してろ!……ああもうどうすればいいんだよ……!」 彰利 『答えは簡単!!……今こそ、二代目の力を行使する時なんじゃないのかね?』 悠介 「彰利……」 彰利 『精霊も、竜族も、み〜んなお前のこと信頼してくれてんだ。     世界の癒しも直して、脅威だったミルハザードも倒して。     それだけ感謝されてるなら、見返りがあってもいいんじゃないか?』 悠介 「あのな、俺は───」 彰利 『見返りに欲を突っ撥ねていろいろやったわけじゃない、だろ?     解ってるよそんなこと。でもな、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇんだ。     お前にだって解ってるだろ?空界だけの話じゃない。     天界だって冥界だって神界だって、     お前の【守りたいもの】がいっぱいある地界だって危ないんだ。     ……立ち止まるなんてお前らしくねぇぞ、親友』 悠介 「………」 簡単に言ってくれる。 人の性格を知った上で言いやがるんだから始末が悪い。 悠介 「……約束、するか。狭界のことが済んだら、今度こそ花見をしよう」 彰利 『悠介───それじゃあ』 悠介 「ああ。結婚前の最後無茶……やってみるか。     結婚したのに世界が崩壊しました、なんてシャレにもならないからな」 彰利 『お、おおっ!!』 悠介 「……ただし結婚は空界でやるぞ。俺とお前と、同時にだ」 彰利 『なんと!?えーと……ビーンダイナスティの皆様はどう説得して連れてこいと?     く、空界で結婚式挙げるんだYO!とか言ったら殺されそうなんだけど……』 悠介 「それはお前がなんとかしてくれ」 彰利 『うわヒデッ!!そんなあっさりと!!』 悠介 「───その代わり、こっちはこっちでなんとかするさ。     そよれり本当にいいんだな?それこそ死ぬかもしれないぞ」 彰利 『俺は貴様とともに最後まで馬鹿をすると決めたのですよ?     死ぬかもしれない───なぁんて、もう考えるだけ無駄だって。     言う言葉があるとしたら【死ぬわけにはいかない】だろ?     どのみち歪みは塞がなきゃいけない。     塞ぐならレヴァルグリードと戦わなきゃいけない。だったらやるしかない。     やるしかないなら勝たなきゃいけない。勝つなら死ぬわけにはいかない。     行き着く先なんて、やっぱ【未来】しか無いんだよ』 悠介 「……真面目な言葉、似合わねぇ」 彰利 『ほっときなさい!!どうせ似合いませんよ!』 くっくっと笑って、俺と彰利は手を弾き合った。 悠介 「───後悔しないな?」 彰利 『お手前こそ』 悠介 「するわけないだろ。やるならいつだって全力だ」 彰利 『オウヨ!!やったろうじゃねぇか!!     嫌われ者だった俺達が世界を救う───最高のバトルだ!!』 悠介 「たわけ、世界を救うだなんて難しく考えることなんてない。     俺達はただ、俺達に出来ることをするだけだろ?」 彰利 『冷めてるねぇ。でも、そだね。     俺達、世界救うために戦うんじゃなくて、     守りたいものを守るために戦うんだもんな。     それがたまたまそういう結果になるだけなら、     責任を負って戦うよりも自分の志で戦ったほうが気分がいいやね』 悠介 「ああ。じゃあ、ノートを呼んでこれからすることを話そう。     ───あ、いや……少し休んでから行くか。焦っても仕方が無い」 彰利 『せやね。まずスッピーと話して、それから───』 ノート『その必要は無い』 悠介 「おわぁっ!!?」 彰利 『スッピー!?き、貴様いつの間に!!』 いつの間にか後ろに居たノートの声に、思わず驚きの声が飛び出た。 ……気配殺して後ろに立つのは勘弁して欲しい。 悠介 「その必要が無いって……戦う必要が無いってことか?」 ノート『私と話し合う必要が無いということだ。そして訂正がある。     以前マスターに伝えたことに微量の偽りがあるとしても、     精霊が狭界の思念を苦手としているのは変わらない。     故に狭界には汝らと竜族のみで行け。     代わりに、開いたゲートを伝ってくる思念は私たち精霊の手で散らしてゆく。     汝らは気兼ね無く、狭界で暴れてくればいい』 悠介 「………」 彰利 『す、スッピー無しで?オイコラちょっとキミ、そりゃ結構難しいんでないかい?』 ノート『泣き言は聞かん。そもそも竜族を通すほどの巨大なゲートを、     汝だけで維持出来ると思っているのか?』 彰利 『うぐっ……』 無理、だな。 彰利の表情からも簡単に伺える。 ノート『ゲートは私が開いておく。汝らはその間に次元の歪みをなんとかするんだ。     こちらに流れる思念の影響でモンスターが強化する可能性もあるが、     それは私たち精霊に任せておけばいい』 悠介 「…………大丈夫か?」 ノート『案ずるな。汝らが狭界に行っている間はマスターとの契約は破棄させてもらう。     それならば悠黄奈を介すこともなく精霊の力を存分に行使出来る。     あとは汝が悠黄奈との繋がりを理力で強化すれば問題無い。     もう大分安定してきているからな』 悠介 「そっか。解った」 ノート『各地の竜王、竜族には既に報せてある。     皆、マスターの意思を尊重すると言っている。     竜王たちにとってみれば親子喧嘩だがな。望むところだと笑っていた』 悠介 「そ、そんなあっさりでいいのか……?」 ノート『何を不思議がっている。     そうして構えられるのは、ひとえに汝を皇竜王と認めているからだろう。     信頼する者とともにあろうとするのは当然だ。     汝らはそう思うからこそ、親友をやっているんじゃないのか』 彰利 『もちろんですとも』 悠介 「……だな。訊くだけ無駄だった」 覚悟は決まった。 あとは決行日を決め、乗り込むだけだ。 彰利 『あ、なんなら遺書でも書いてく?生きて還れる保障は無いし』 悠介 「だぁから……どうしてお前はそうやってすぐに悪いほうに考える」 彰利 『ピエロだからさぁーーーっ!!?』 悠介 「ピエロは関係無い」 彰利 『そんなことないさ?世界レベールのピエロともなれば、     アメリカンジョ〜クのひとつやふたつくらい言いたくなるってものさ。     つまりジョーク。今のはかぁるいジョークだったってことだよ日本代表』 日本代表言うな。 悠介 「そんなことよりいつ決行するんだ?」 彰利 『そんなことってなにさ!?世界レベ』 悠介 「冗談はいい」 彰利 『ソーリー』 解決した。 悠介 「それで。いつ決行するんだ?」 彰利 『俺としては早いほうがいいかな。け、けけけ決心が鈍らんうちに』 悠介 「武者震いか」 彰利 『いえあの、普通こういう時って【震えてるのか?】ってやさしく訊かない?     そして俺が強がりで【武者震いだっぜぇ〜い!】ってさぁ』 悠介 「結果が同じならいいんじゃないか?」 彰利 『ダメ!キミ解ってない!!こういうのはアレだ!もっと【タメ】を使ってだね!』 悠介 「よし、体動かしておくかぁ」 彰利 『あぁん待ってぇっ!!俺の話聞いて!?ね!?すぐ終わるから!』 悠介 「断る」(即答) 彰利 『ひでぇ!!』 ともあれ俺は気を取り直す覚悟で、ゆっくりと意識を集中させていった。 自分の全力が、最悪の事態だけは食い止められるようにと。 ノート『………』 その時に感じたノートの視線が気になったけど、 ノートは何も言わずに俺の手から契約の指輪の全てを抜き取ると、 俺と精霊との繋がりの全てを遮断した。 予告なしの行動に慌てた俺はすぐさま悠黄奈のもとに駆け寄ると、 繋がりを強化し、竜の力を俺に流させるイメージを弾けさせ、一息ついた。 そして一言文句を言ってやろうと振り向いた時─── その場にはもうノートの姿は無かった。 【ケース45:弦月彰利/ライクザウィンド】 ───……スッピーが悠介と契約を破棄してから数日。 ようやく万事を整えた俺と悠介は、時間から乖離された黄昏を解いて一息ついた。 その瞬間、遠くの方に居た中井出が足場を無くして落下してゆくという事故があったが、 それ以外はまあ……なんとも落ち着いたものだった。 中井出「落ち着いてんじゃねぇっ!!」 崖より先の方で修練していたために世界の足場が無くなって落ちた中井出も、 今はこうして壮健なわけだし───んむ、万事オッケーだ。 彰利 「まずどないしょう?」 悠介 「まずは狭界に行って、巨人と竜族に協力を頼んでみよう。     それがダメだったら……その時は俺達だけでなんとかするしかない」 彰利 「だぁね。そん時は……───そん時よぉって感じでいきましょう。ではGO!!」 悠黄奈「ま、待ってください!」 彰利 「むっ!?」 いざ旅立たんとするその瞬間、何故か悠黄奈さんが止めに入りました。 ……ほんに何故? 彰利 「……なにかね?私はこう見えて忙しいのだがね」 解らんかったけど、とりあえずダンディズム全開で返すことにした。 悠黄奈  「あの、わた……わたしも、連れていってもらえないでしょうか」 悠介&彰利『ダメ』 中井出  「即答だなオイ」 そら即答もしませう。 彰利 「かよわいおなごはここで待ってなさい。     大体悠黄奈さんの力の全ては悠介に流れていってるんだから、     悠黄奈さんが付いてきても役には立てませんよ?     あなたは存在するだけで助けになっておるのです。     なにせ無限汲々がプラスされてるわけだし」 悠介 「そうだぞ?お前はここで待っててくれ。     中井出にこっちの様子を映すように頼んでおいたから」 中井出「待てぇえっ!!付いていくとも映すとも言ってないぞ俺ぇっ!!」 彰利 「や、付いてこいとは言いませんよもちろん。     貴様なぞあの世界ではゴミクズ同然だからね」 中井出「その通りだと思うがここまでキッパリ言われると腹立つな」 疲れた顔でコリコリと頭を掻く中井出博光提督。 彰利 「せめてミノタウロスに勝てるくらいにまでならないと歯が立ちませんよ?     あっちのほうはゴブリンでさえかなり強いから」 中井出「うわ……そりゃ遠慮したいな。……つーか俺にどうしろと?」 悠介 「お前、映像系の能力ならかなり上達したんだろ?」 彰利 「不屈の筈だったエロビ根性のお陰で」 中井出「ほっとけ!!……そりゃ、そうだけど。なんでだ?」 悠介 「『映像』の能力を俺達に付かせれば、     お前らはここで安全に狭界の様子が見れるだろ?     そうしたら何も解らないよりは心配の要素は少ないだろ」 彰利 「……なんか知らん間に、悠介って悠黄奈さんにやさしくなったよね。     なに?なんかあったの?あったんならオイサンに詳しく聞かせてみ?     ン?悪いようにはせぇへんから」 悠介 「断る」(即答) 彰利 「早ェ!!ちょっとくらい考えようよ!!」 悠介 「やーかーまーしーぃ。今はそれよりも話し合うことがあるだろうが」 彰利 「押忍、もう無いと思うから詳しく聞かせて?俺だけ仲間外れなんて嫌だい」 スタスタスタ…… 彰利 「無言で去っていかんといてぇっ!!寂しいじゃないの!!」 悠介 「だぁもう!話が済んだんならここに居る意味無いだろうが!     無駄話なんていいから狭界に行くぞ!」 彰利 「最初はノリ気じゃなかったくせに……」 悠介 「ぐっ……と、とにかく!     今はやる気なんだからさっさと行こう!来ないなら俺だけで行くぞ!?」 おっとそりゃ困る。 この戦い、さすがに悠介だけでは荷が重かろうて。 そげな時に傍に居る唯一無二の親友……ステキですね? 彰利 「さあ友よ!手を取り合って勝利を掴もうじゃないか───って居ねぇし!!     おぉおい悠介ぇえっ!!?本当に去ることないだろうがよぉおおおっ!!」 自分でも『あぁ情けないなぁ』と思うような声を上げつつ、俺は悠介の姿を追うのでした。 ……って言っても悠介はヴァルトゥドゥスさんに乗って物凄いスピードで飛んでゆく。 当然俺の中に存在する幻獣でもそれに追い着ける飛行速度を持つ者はおらず…… 仕方無く俺は大地に降り立つと、すぐに体をスレイプニルに変えて駆け出した。 ───その速度はまさに神速!八本足は伊達じゃあねぇ!! ちなみにこやつ、以前吸収ではなく抹消した幻獣だが、 狭界に居る数日間の間に再び発見し、吸収した幻獣ナリ。 いや、なんでも吸収しておくものですな。 こげな時に役に立つとは。 ───そうしてようやくヴァルトゥドゥスさんの下まで追い着くと、 ヴァルトゥドゥスさんの速度に合わせて駆ける。 ……つーてももうウォルトデニスの泉は目の前だけど。 転移した方が早かったんじゃなかろうかと思ったが、後の祭りってやつですわ。 ともあれあとは狭界に行って、説得を試みるだけナリ! 彰利 『待っとれよー、初代皇竜王めが!     貴様なぞちょちょいのちょいで仕留めてやるわ!……悠介が』 悠介 「お前なぁ……」 既にヴァルトゥドゥスさんから降り、飛竜を緑竜珠に戻していた悠介が溜め息を吐いた。 や〜、ほんに悠介って溜め息と苦笑の多い人だよね。 さすが苦労人。 ……苦労してる原因が周りの所為ってのもあるけど。 Next Menu back