───交わる命、無くなる名前───
【ケース59:晦悠介(再)/命の行方】 ───で……広い空界をのんびりと歩くこと数日後。 悠黄奈「あの、悠介さん。ここは?」 悠介 「……イーディンジルド“氷河”……」 彰利から譲り受けた狭界の地図を参考に名前を唱えた。 ハハ、どうしてかな……なぁんで言った傍から氷関連の場所に立ってるかな、俺……。 悠黄奈「さ、寒いですね……」 悠介 「竜族にこの寒さはこたえる……」 既に自分を竜族と認めているのもどうかと思ったが、真実だから仕方ない。 そして仕方ないがゆえに寒さは苦手である。 悠介 「先に防寒服でも創造しておくか。     サラマンダーを呼ぶのもいいけど、ウンディーネみたいなことになりかねない」 悠黄奈「火の精霊が凍る、とかですか?」 悠介 「そういうこと」 想像してみて笑いそうになったが、それを堪えると“毛皮のマント”を創造した。 先に一着を悠黄奈に着せてやり、そうしてから自分の分を創造……っと、これでよし。 悠黄奈「はふ……暖かいです」 悠介 「暖かくなかったら嫌だぞ」 厚手の毛皮に包まれた俺達は、顔以外はなんとか寒さを防げていた。 秋も終わりというこの季節、既に冬に備えた服ではあったがこの寒さは危険すぎる。 氷河は氷河なんだが、どこからか吹雪が飛んできて困ったものだ。 おかげで前がよく見えやしない。 悠介 「───そうだ。フェンリル、出てきてくれ」 寒い場所といえばフェンリルだ。 あいつならきっと、この吹雪でも方向を見誤ることもないだろう。 フェンリル『呼んだか、王よ』 悠介   「ああ。ちと吹雪が強すぎて前が見えないんだ。先導してくれないか?」 フェンリル『いいや。この程度の吹雪ならば、       王の魔力を糧にすれば緩和することが出来るが。その方が早いのではないか』 悠介   「出来るのか?だったら頼む。これじゃあ地図を作るどころじゃない」 フェンリル『承知した。では魔力を使わせてもらうぞ』 悠介   「ああ、思いっきりやってくれ」 俺の返事に口の端をクッと歪ませたフェンリルが遠吠えするように吼えると、 その場に吹雪いていた雪と風が緩和された。 途端に視界が広がり、先ほどまで荒々しかった雪がハラハラと舞い降りるだけで、 何故だか綺麗なものに変貌した。 悠介   「助かった、ありがとうフェンリル」 フェンリル『構わん。正直狭界での対戦時に召喚されなかった鬱憤が溜まっていた。       思念に囚われやすい体とはいえ、暴れる機会を逃すのは存外悔しいものだ』 悠介   「……じゃあ、しばらく出てるか?」 フェンリル『ふむ。では好意に甘えよう』 まるで俺のその言葉を待っていたかのような即答だった。 悠介 (……この分じゃあ他の召喚獣も出しておいたほうが良さそうだな) そう思った俺は、早速小さなサイズで召喚獣を召喚。 フェンリルにもそれを施すと、再び歩きだした。 ……というか。 ゼプシオン『?なんだ』 悠介   「いや」 人間サイズのゼプシオンって物凄く違和感がある。 素直に言いたかったが、召喚しておいていきなりはないと思ったので保留。 悠黄奈「精霊さんたちも出した方がいいですか?」 悠介 「………」 出した途端にサラマンダーの体の炎が消えたり、ウンディーネが凍りそうだな……。 悠介 「あー……やめとけ。しばらくはゆっくり寝かせてやろう」 悠黄奈「そう、ですね。はい。解りました」 そう言うとスボスボと雪原を踏みしめて俺の隣へと駆け寄る悠黄奈。 ……ふと、その顔が真っ赤なのに気が付く。 悠介 「……悠黄奈?大丈夫か?」 悠黄奈「………」 悠介 「悠黄奈?」 悠黄奈「え……あ、はい……?」 予感的中。 顔が赤いだけじゃなく、時折ふらついている。 歩かせっぱなしで無茶させたか……? 悠介 「悪いっ、ちょっと休憩にしようっ」 悠黄奈「あっ、わ、わたしなら大丈夫ですから───」 悠介 「俺は病人の言い分は聞かないことにしてるんだ。     病人に甘えた言葉以外の発言権は無い」 悠黄奈「わ……」 ぴしゃりと説き伏せるとともに悠黄奈を抱きかかえると、 先を歩いていたフェンリルを始めとする召喚獣を呼び戻す。 それぞれがこちらへ歩み寄ってくる中で、 のたのたと蠢きながら寄ってくるゾーンイーターの姿は芋虫チックで貴重だが、 しばらくするとその姿が雪に埋もれて動かなくなった。 悠介   「……フェンリル、頼む」 フェンリル『………』 フェンリルは微妙な顔をしつつもゾーンイーターを掘り起こし、口に銜えると戻ってきた。 やはり芋虫にこの寒さはキツすぎたか。 悠介 「んー───……コテージが出ます。弾けろ」 イメージをしっかりと固めたのちにコテージを創造。 ドスゥン!という轟音とともに目の前にコテージが出現し、ひとまず一息をついた。 悠介     「じゃ、入るか」 ベヒーモス  『なんでもありだな、主よ』 悠介     「召喚獣にそれを言われたらいくら俺でも自分の存在疑うぞ……」 リヴァイアサン『疑えるだけのゆとりがあるのか』 悠介     「いや……正直疑うまでもなく認めてる……」 ともかくコテージの中に入ってゆく。 コテージの中は見事な防寒が出来ており、 何をするまでもなく既に灯っていた暖炉の火が室内を暖めていた。 そんな中─── フェンリル『……私は外に出ている』 暖かさを嫌ったフェンリルだけは外に飛び出し、 そっと窓から眺めてみれば、雪と戯れ駆け回るフェンリルを見ることが出来た。 ……犬、だな。うん。 悠介 「よっ……と」 しばらくはしゃぎ回る氷狼を眺めていた俺だったが、 腕の中の悠黄奈のことを思い出すと、予めイメージの中に混ぜておいたベッドに寝かせた。 悠黄奈「あ、あの、わたし───」 悠介 「はぁ……あのな。辛くなったら言うようにって、     地図製作の旅に出る前に行っておいたよな」 悠黄奈「うぅ……はい」 悠介 「約束破った罰だ、少し寝てろ」 悠黄奈「でも、わたしのこの体調は病気なんかじゃありませんから……」 悠介 「ん〜なことは解っとるわ。それでもいいから寝る」 悠黄奈「はうっ……は、はい」 ピシャリと額を叩くと、悠黄奈は小さくその部分を擦ってから観念した。 悠介   「じゃあ俺達は行ってくるから、養生しとくこと。いいな?」 悠黄奈  「え───わたし、お留守番、ですか……?」 悠介   「安心しろ、ひとりじゃないぞ。ゼプシオンが話相手になってくれるらしい」 ゼプシオン『なにっ!?ちょっと待てキサマ!!何故私が───』 悠介   「大丈夫だぞぅ悠黄奈!英雄という者はか弱きを見捨てたりはしない!!       さすが英雄!さすが巨人族騎士団隊長!!」 ゼプシオン『き、貴様ぁああああっ!!』 悠黄奈  「……解りました……ひとりじゃないのなら。       でも、早く戻ってきてくださいね」 悠介   「ああ」 ゼプシオン『こ、このっ……!覚えておけよ主……!!』 悠介   「ああ、どんな無茶でも引き受けるよ。……だから、頼む」 ゼプシオン『……大事なことならば最初からそう言え。だがその言葉、覚えておくぞ』 悠介   「二言は無いから安心してくれ」 渋い顔をしていたゼプシオンに礼を言うと、俺はゆっくりとコテージをあとにする。 ゾーンイーターもさすがに寒さが苦手と自覚したようで、留守番サイドに入った。 そんなわけで現在のパーティは俺、グリフォン、ベヒーモス、リヴァイアサンである。 フェンリルは雪と戯れているうちにどこか遠くへと旅立ってしまったらしく、戻ってない。 悠介 「さてと……どこからイメージに叩き込んでいくか……」 羊皮紙を持ちながらうろうろする男ってのは変なヤツだろうか。 構わん、なんとかなる。 納得したところで歩き出し、 氷河と草原の境目からの距離を考えて羊皮紙に書き込んでゆく。 今のところ一直線に来た筈だから、歩幅を考えると───
───その頃のゼプさん。 ゼプシオン『………』 悠黄奈  「………」 会話が無かった。 というか、彼の人生はとんと女性とは縁の無いものだったため、 女性が苦手な感があるらしい。 先ほどから彼女が横になっているベッドの周りをうろうろとし、 かと思えば椅子にドンと座って、難しい顔で腕を組んで彼女を診ていた。 その様子を擬音で表せば、間違い無く“む〜〜ん……”とか鳴ってそうな雰囲気である。 ……ふと、とうとうその雰囲気に耐えられなくなった彼女が彼に話し掛けた。 悠黄奈  「あ、あの。ゼプシオンさん?」 ゼプシオン『《ビクゥッ!!》───な、なんだ!?』 悠黄奈  「あの……えと。       こんなことを言うのはなんですけど……なにか話をしてくれませんか?」 ゼプシオン『むっ……ぐ……』 話。 今時の女性が関心を持つ話なぞ、彼は全く知りません。 彼は心の中で相当な葛藤を繰り広げたそうです。 ゼプシオン『……う、む……む……』 それはそれは、とても凄まじい意識の争いがあったそうです。 そうして、やがて口に出された話が─── ゼプシオン『け、剣の手入れの仕方を知っているか?』 悠黄奈  「け、剣……?」 ……所詮そんなもんだったらしい。 その様は、夏美さんに重火器の説明をしようとするギロロ伍長によく似ていたそうな……。
ドゴゴシャバキベキビタンビタンビタァアーーーーン!!!! モンスター『ギョェエエエエーーーーーーッ!!!!!』 ……さて、たまたま遭遇したモンスターどもが襲い掛かってきたのが数秒前。 だがその姿は、 すぐさまに“全力”で襲い掛かっていった召喚獣にボコボコにされて敢え無く昇天。 最後なんかリヴァイアサンに巻き付かれ、地面に叩きつけられまくってた。 泣き叫ぶモンスターを可哀想に思えたのがそんな瞬間だった。 けれども地図の製作のためには モンスターよりも景色に意識を合わせなければならないため、当然の如く無視。 じっくりと地図に転写していき、やがて─── 悠介 「……あとはこっちと向こうの洞窟だけだな。     グリフォン、ベヒーモス、リヴァイアサン、こっちに行こう」 俺はひとまず洞窟の方へと脚を向け、ゆっくりと歩き始めた。 召喚獣のみなさんは不完全燃焼なのが見て取れるほど猛り、 次の獲物を我先にコロがそうと目を輝かせている。 悠介 「……少し落ち着いたほうがいいんじゃないか?」 召喚獣『私は一向に構わんッッ!!!』 悠介 「なんで烈海王なんだよ……」 訳が解らなかった。 ───……。 ……。 ややあって───ドゴゴシャバキベキテュラテュラテュラ!! モンスター『ギャアアアーーーーーース!!!!』 どうやらモンスターハウスだったらしい巨大な洞窟内で、思うさまに暴れる召喚獣が三体。 テュラテュラっていう効果音が謎だったが、ともかく彼らは元気だった。 とはいえ窮鼠猫を噛むとはよく言ったもので、 追い詰められたモンスターどもも死力を振り絞って召喚獣たちに真っ向勝負を挑む。 が、さすがに相手が悪すぎた。 向かった先からとことん蹴散らされ、次々と塵と化してゆくモンスターども。 ……ああちなみに、“塵の還る場所”である狭界が空界と融合したことで問題も出たが、 そこはそれ、ノートがいろいろやってくれたお陰で問題は解決……してるんだと思う。 モンスターの塵は風に流され、別のモンスターに取り込まれるようになったらしい。 で、塵を取り込んだモンスターがどうなるかというと、 今までの突然変異とは違い、より取り込んだモンスターが“ミル”になるのだそうだ。 だからこれからは、ミルに至らずともモンスターの強さが上がる可能性がある。 塵を取り入れるモンスター候補はランダムなのだそうだ。 スライムが塵になったら必ずスライムが吸収するとか、そんなことは無いらしい。 まるっきりランダムなため、 今までミルだと思ってた強さのモンスターが数体現れることもあるのだそうだ。 それは竜も然り。 竜が寿命かなんらかのことで死亡し、塵になった場合─── ああ、補足しておくが、竜の塵は竜にしか取り込まれないらしい。 元が思念体のモンスターとは違い、竜族は元から竜族だからだ。 元素の思考と同じだな。 モンスターはそれぞれの地域へ移るごとに己を環境に合わせて変異させていった“思念”。 モンスターの元素は“思念”だが、竜族の元素はそのまま竜族だ。 環境に合わせて変異したわけじゃないのだ。 種族からして違う故に、その塵がモンスターに流れることはないらしい。 もしそんなことが出来るのだとすれば、 モンスターにもなっていない“思念そのもの”のみらしい。 悠介 「………」 などということを、ボコボコにされてゆくモンスターを見て思った。 そして考えてみる。 ミルハザードとの戦いの最中、 それぞれの町を守っていたやつらがモンスターを倒すと、その分だけ召喚獣が出た。 それは、その時から逝屠の馬鹿が空界に干渉していたからじゃないだろうか、と。 モンスターが死んだ先から召喚獣が出るなんてこと、 思念が流れてきたっていう事実しか思い浮かばない。 つまりミルハザードは逝屠となんらかの手段を用いて繋がりを持ち、 空界に異常を齎していたのでは、と……そう考える。 モンスターにだって魔導術師のようなヤツは居る。 ならば、次元干渉して逝屠とコンタクトが取れたヤツも居るかもしれないんだ。 それとも幻獣側にそんなヤツが───あ。 悠介 「もしかして彰利が会ったっていう魔法使いのババアって……」 ……そうかもしれない。 考えてみれば逝屠は十六夜の家系であり、次元干渉なんて出来やしない。 時の番人の思念があったとしても、時の番人は“時間を見守る者”だった。 自分から時間に干渉して時空移動をしたことなんて無かったと思う。 つまり……あの次元の歪に係わっていた中には、思いもよらない第三者が居た……? 悠介 「はぁ……考えすぎだな」 もしそんなのが居るとしても、あの大戦の中で死んでしまっただろう。 現実に幻獣の大半はあの戦いの中で滅び、この空界に残っている幻獣も相当少ない。 こうして地図を作るために、様々な地域を歩いてきたけどそんなヤツは居なかった。 だったらそれが結論なんじゃないかな。 悠介 「なぁお前らー、あまり暴れられると地図が書けないんだがー?」 召喚獣『私は一向に構わんッッ!!』 悠介 「俺が構うわっ!!」 ……ああいい、今は外殻だけでも見て周るか。 どうせすぐ終わるだろうし。 ───……。 ……。 そうして洞窟の地図を作り、外に出てきた時。 悠介 「あれ……雪が止んでら……」 どうしたことか、あれほど降っていた雪が止んでいた。 あれほど満ちていた氷の属性の気配も弱々しいものになっていて、まるで─── 悠介 「もしかして、やっぱり居るのか……?」 この場所の何処かに氷の精霊が居て、そいつが今危険な目に合ってるために……? ……仮説は仮説でしかない。 けど、その仮説をただの戯言かそうじゃないかを選ぶのは自分自身。 そして、俺はそんな可能性をほうっておけるほど馬鹿じゃない───!! 悠介 「急ぐぞみんな!気の所為なんかじゃなければ氷の精霊が危ない!」 召喚獣『オォオオオオオオオオッ!!!!!』 あれだけ暴れて未だ不完全燃焼の様子の三体は吼えた。 それとともに俺達は疾駆し、残された最後の道を全力で進んだ。  ───そして、大した間も無く景色は開け─── その先に、蒼髪の女と、あからさまな“魔法使いの格好をした老婆”が居た。 蒼髪の女は力無く氷河の上の氷の上に倒れていて、 その女へと老婆が手を伸ばしている……そんな時に俺達は駆けつけたのだ。 悠介 「伎装弓術(レンジ/アロー)
!!」 その様子を見て明らかに危険と感じた俺は、ラグを弓に変えて光の弓を発射させた。 ───当然、老婆に向けてだ。 老婆 『おっと』 だが老婆はそれをあっさりと避けると、俺を見て笑みを浮かべた。 悠介 「……その声質……幻獣か」 老婆 『当然だよ。あの世界で老婆が人間でいられるもんかい』 悠介 「───なにが目的でその女……いや、精霊を襲った」 老婆 『思念が無くなった今、こうでもしないと力を得られないんだから当然じゃないか。     なにを寝惚けたこと言ってるんだい』 悠介 「……モーラか。眠っている対象の心臓から血を吸う存在だって聞く」 モーラ『半分正解だね。若いのに頭が回るじゃないか。     いかにもあたしはモーラだよ。元の姿は“子供”だったけどね、     思念の影響でこんな老婆になっちまった。だがこれはこれで利用しやすい。     向かってくる相手が馬鹿であればあるほど全力が出せないんだからね』 悠介 「………」 モーラ『それに、いろいろな能力も身に付いた。今ではこの姿に感謝してるよ。     以前、心臓から血を吸ってやろうとしたヤツが居たんだけどね、     心臓の存在が探知出来ないヤツでねぇ。悔しかったからナスにしてやったよ。     あの時の慌てっぷりったらなかったねぇ。力も封じてやったら全力で逃げるんだ。     これが滑稽でなくてなんだい?えぇ?』 悠介 「……お前、もう黙れ」 再び弓を引き絞り、光の矢を放つ。 連続して放つ矢はモーラが逃げる先の地面に突き刺さり、 その度にモーラは精霊から離れていった。 モーラ『おやおや、やさしいねぇ。この精霊を助けるのかい。     思えばこの精霊も不運だよねぇ。あたしに会ったのも運の尽きなら、     あたしを退かせていた吹雪が突然弱まったのも運の尽きさ。     あれをやったのはあんただろう?     ありがとうよ、お陰で力の大半は吸わせてもらった』 悠介 「───!!」 モーラ『そして……あんたも運が無かった。連れを置いてきたね?     今頃のんびり寝てるだろうよ。     さらに言えばこの精霊はこのままほうっておくと死ぬよ?     あたしはもう行くけどね、どちらかを選ばなけりゃどちらかが死ぬことになるよ』 ビジュンッ!!───モーラが転移して消える。 俺はどちらを選ぶ、などという馬鹿な思考を展開する前に精霊に駆け寄ると抱きかかえ、 その様子を見た。が─── 悠介 「っ……」 ひどいものだった。 体の約半分くらいが思念に飲まれたノッカーのようになっていて、 気配を感じるまでもなく確かにこの精霊は長くないだろうと確信する。 そうした確信の先に思考したことは悠黄奈のこと。 ゼプシオンが居るから大丈夫だろう、などと考えたが……すぐにその思考を捨てた。 考えてみろ、そもそも“黒”状態だった彰利の能力を完全に弱体化させてみせた相手だぞ? いくらゼプシオンとはいえ、今では召喚獣。 より思念体側に近い状態なのだ。 そしてあいつは思念を食って力を得たうえ、自分の意思をしっかりと持っている相手だ。 悠介 「───!」 確信の先の思考が危険を感じ取った時、 俺は即座にブラックホールを創造して飛び込んでいた。 召喚獣たちも瞬時に付いてきて、そしてすぐに開ける景色。 そこには剣をコテージの床に突き立て、肩で息を吐いているゼプシオンが居た。 ゼプシオン『グッ……キサマ……!!』 モーラ  『そらどうしたんだい?       その大きな剣でこの老いぼれを切り捨てるんじゃなかったのかい』 ゼプシオン『なにをした……!!力が入らん……!!』 モーラ  『簡単さ、あんたに弱体化の呪いをかけた。       不死身になる代わり、力の全てを根こそぎ食われてゆく呪いさ。       等価交換ってやつだね。不死身になるには相応の代償が必要なのさ。       まあそのお陰であたしに殺されることはないよ。       殺しても死なないんだからね。そんな相手に時間を潰すほど暇じゃないんだ』 ゼプシオン『───!くっ……おい貴様!起きろ!寝ている場合か!!』 モーラ  『ヒェッヒェッヒェッ、無駄だよ。       あたしゃ寝ている相手の心臓から血を吸い出すようなバケモンだよ?       そんなことをするってのに、吸われてる相手は夢を見ながら死んでゆく。       その意味が解るだろ?一度寝かせたら、血を吸われて死ぬしかないのさ。       もし起こしたかったらあたしを殺すしかないねぇ』 悠介   「……そうか。だったらすぐにでもお前を───コロがさせてもらう」 可笑しそうに笑うモーラ。 その視線の先の悠黄奈の前に立つ。 モーラ『……なんだい、連れてきたのかい。置いてくれば邪魔にならなかったのにねぇ』 悠介 「あんたをコロがせば、呪いも眠りも解けるんだろ?」 モーラ『【殺せれば】ね。忘れたかい?     あたしゃ相手を弱体化の呪いにかけることが出来る。     攻撃を仕掛けようとしたらすぐにでも呪いをかけることが出来るのさ。     実際にホレ、見てごらんよ。     そこのあんちゃんも弱体化して、剣もまともに持ち上げられない』 悠介 「……死ぬ覚悟は出来てるんだろうな」 モーラ『死ぬ覚悟をするのはそこの嬢ちゃんだけだねぇ。     なにせ、夢の中でこの景色を見てるんだ。     そしてあんたまで弱体化して、自分の血が吸われるところまで見る。     ほぅれ、覚悟が必要なのはそこの嬢ちゃんだけじゃないか』 悠介 「そうか。話し合いも無駄だな」 モーラ『あぁまったくだよ。ミルハザードもレヴァルグリードも役に立たないったらない。     なぁんでこんな若僧なんぞに殺されて───』 悠介 「疾───!!」 言葉を遮るように疾駆する。 その速さに驚いたモーラだったが、すぐに呪いを行使したのか俺の体が“一瞬”重くなる。 だがその速さは依然変わらない。 モーラ『なっ───ど、どうなってるんだい!?』 再び襲い掛かる呪い。 だがそれでも勢いは“一瞬”しか止まらず、 それどころか最後の疾駆は一回や二回目の呪いを受ける前より速かった。 そして───ズボォッ!! モーラ『かはぁっ───!!?』 俺の腕が老婆の腹部を貫通し、光を放ち始めた。 モーラ『かっ……げはっ!な、何故だい……!?何故弱体化が効かないんだい……!!』 悠介 「効いてたさ。けど、あんたが自信過剰になってたのが敗北の原因だっただけだ」 モーラ『くあっ……こ、この糞餓鬼がぁああーーーーーっ!!!!』 バガァアオォオオオオオオンッ!!!! ───そうして炸裂するカリバーン・エクスプロージョン。 モーラの姿は粉微塵と化し、すぐに消え失せた。 そうすると体の違和感が消え、ゼプシオンも息を吐いてから剣を鞘に収めた。 ゼプシオン『……どうなっている?あの呪いはそう簡単に避けられるものとは思えないが』 そうしてみて早速、俺が呪いに耐えられた理由を尋ねるゼプシオン。 ……実際は耐えていたんじゃなくて、“力”を変換してただけなんだが。 悠介 「力の在り方だよ。呪いを掛けられる度に力の質を換えてた。     最初の疾駆が死神で、次の疾駆が神。最後が竜人だった。それだけだ」 ようするに力の質自体が違うのだから、 俺を黙らせるにはモーラは何度でも呪いをかけなければいけなかった。 それが、慢心から来る隙がそうさせなかったために死を招いた。 まったくざまぁない。 悠介 「っと、それより───!」 悠黄奈の隣に寝かせておいた精霊と、悠黄奈のもとへと駆け寄る。 悠黄奈はすぐにうっすらと目を覚ました───が、精霊はそうはいかない。 元々思念の影響を受けていたのか、感じるマナも異常だと思うほどに少ないのだ。 しかもその大半をモーラに食われた。 これじゃあ力尽き、消滅するのも時間の問題だ……。 どうする……?無理矢理にでも契約して休ませるか……? ……いや、そんなことをしても蝕まれてる半身はどうにもならない。 だったら半身を創造して…… 悠黄奈「……悠介、さん」 悠介 「あ……悠黄奈?……大丈夫か?」 悠黄奈「悠介さん、わたしの魂を……使ってください」 悠介 「え───?あ……」 突然の願いに思考が停止した。 けどすぐに解った。 恐らく悠黄奈は俺の思考を受け取って読んでいた。 そして…… 悠黄奈「わたしの命はどうせ短いものです。     それなら……どうせなら誰かの命を救い、その人と同化することで生きていたい。     そう……わたし、やっぱり生きていたいです。死ぬのなんて、嫌です。     だから……お願いします。     その精霊に足りない半身は……わたしの体を“変換”することで使ってください」 悠介 「いや……でもな、悠黄奈」 悠黄奈「わたしは、わたしの体が人よりも霊体に近づいていることくらい知っています。     そして、だからこそ精霊の体にも馴染みやすいということも知っています。     ……だから、それを知った上でお願いしているんです」 悠介 「………」 視線を移すと、弱々しく息を乱している氷の精霊が居る。 その半身はやはり変色し、使いものにならなくなっているのが手に取るように解る。 でも俺は…… 悠黄奈「悠介さん……これは天秤なんかじゃないんですよ……?」 悠介 「───!」 悠黄奈「わたしはきちんと、この精霊の中で生きます……。     あなたが心の中で涙したような、親達の救いの声を振り払った時とは違うんです。     この状況は天秤なんかじゃない……だからわたしも願うことができるんです」 悠介 「……俺は……」 悠黄奈「それとも悠介さんは、     生きたい、死にたくない願う人を見殺しにするような人だったんですか?」 悠介 「……とりあえず“人”じゃないな」 悠黄奈「……茶化さないでください」 悠介 「───解ってる」 覚悟を決めよう。 確かにこの方法を用いても、誰も死ぬことなんて無い。 でも……だけど、間違い無く昏黄悠黄奈という存在は消滅するのだ。 精霊をベースにするんだ、当然だ。 それは果たしていいことなのか、それとも─── 悠黄奈「……決まってます。本人が望んでるのなら、それはいいことですよ」 悠介 「───……ああ、そうだよな」 ……考えるまでもなかった。 願う者の意思を汲んでやればよかった。 選ぶのは。願うのは俺じゃない。 たとえそれが自分の半身のような存在でも、もう悠黄奈は俺じゃないのだから。 悠介 「後悔するなよな。後悔なんかしたら、俺が自分を許せなくなる」 悠黄奈「解ってます。それより早くしてください。精霊さんが保ちません」 悠介 「ああ。……じゃあな、悠黄奈」 悠黄奈「はい。また会いましょうね、悠介さん」 賢者の石へと戻したラグを強く握る。 そしてただ願い、在り方を書き換えた。 その場を眩く照らす光はかつて俺だったもので、今……精霊の半身になろうとしている。 そんな様子をただ眺めながら、ゆっくりと光を精霊の変色した半身へとあてがった。 ……それで終わり。 その場に残されたのは光でも変色した精霊でもなく、 ただ……穏やかな寝息を立てる氷の精霊だけだった。 【ケース60:弦月彰利/イコールがセルシウスさん】 …………映像は、目を覚ましたセルシウスさんが悠介と契約するところで終わりました。 彰利 「ブラボ〜〜〜……」 中井出「ブラボ〜〜〜……」 総員 『ブラボ〜〜〜〜〜』 そして僕らは泣きながら拍手をしました。 悠介からは映像を見せる前に聞いたことだが、聞くのと見るのとじゃあ大違いでした……。 中井出「ええ話や……なんてモン見せてくれるんや……」 中村 「悠黄奈ちゃんは精霊になってもうたんやな……」 丘野 「しゃあけどどないなんや……?     悠黄奈ちゃんの意識はきちんと残ってるんかいな……」 悠介 「一応。顔も悠黄奈に似た顔になったし、ちゃっかりと角も生えてる。     けど竜人の力も回路も無くなった。     ……というよりその分の力と回路が俺に流れ込んできた」 彰利 「ついてないね、キミ。また望まない力を手に入れたん?」 悠介 「……いいや、竜人の力はまた修行で自分のモノにしていけばいいことだし、     回路のほうは諸力とか魔力の回復に役立つ。     精霊の回復にも役立ってるからこれでいい」 彰利 「ホ……こりゃ珍しい。キミが他の力をあっさりと受け入れるなんて」 悠介 「俺にしてみれば属性が揃ったことの方が重いわ……。     制御が中々難しいんだ。今はその修行を考えてるところだ」 彰利 「さすが修行マスター」 悠介 「やかましい」 ぶっきらぼうに言って、イドさんとセルシウスさんを引っ込める悠介。 まあ確かにこうして上映も終わったことだし、 どんどんと心配のタネは潰していったほうがいいかもしれんが。 彰利 「ミルちゃんの過去の修正するの、     もう少し落ち着いてからの方がいいんでないかい?     こう、せっかくしっとりした話で心が妙な感じになったんだし」 悠介 「行こうって気分じゃないってことか?」 彰利 「あ、そうそう、それよそれ」 悠介 「じゃあ行こう」 彰利 「なぜぇええ!!!」 行くと決めたら引こうともしてくれませんでした。 そんなわけで僕らは───あ、ちょっと待った。 彰利 「そういやフェンリルは?どうなったん?戻ってきたん?」 悠介 「ああ。それでな、セルシウスのことが気に入ったみたいでさ。     今はセルシウスに従ってる状態だ」 彰利 「……それって出来るもんなん?」 悠介 「そりゃ出来るさ。精霊にだって血はあるし、魔力だってある。     召喚獣に必要なのは血と魔力だろ?なんの問題もない」 彰利 「あ……なるほど」 納得納得ゥ。 彰利 「つーことはだよ?悠介との契約は破棄したん?」 悠介 「ああ。べつに破棄しなくても大丈夫らしいんだけど、     そうすると力が分断されちまうらしいんだ。     だから俺よりセルシウスを守ってくれ、って破棄してもらった」 彰利 「ナルホロねぇ……なんにせよ、狭界側の精霊が血気盛んじゃなくてよかったねぇ」 悠介 「そうだな。考えてみればイド以外とは戦ってない」 空界の精霊は、大半と戦うハメになったから困ったものだったと続ける悠介くん。 いやはや、やっぱり頑張るマンに苦労は付き物ってやつでしょう。 愚痴っても仕方ありません。 とまあそんなこんなで納得した僕らは、 ギャアギャア騒ぐ原中の猛者どもに一言断ってから過去へと旅立ちました。 そう、恐らくファイナルフライトとなるであろう“後悔の旅”へ。 ……ウィ?ええ、もちろんとっとと終わらせる所存にございます。 ようはゼットが狭界に引きずり込まれんようにして、尚且つ争いを沈めりゃいいわけです。 なんとかならぁ!! 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