───愛───
【ケース64:弦月彰利(極再)/神にも悪魔にもなれない男】 ───……10分後。 彰利 「グ、グウウ〜〜〜ッ…………」 特に何も閃きませんでした。 おかしい……僕は何処で間違ってしまったのでしょうか。 僕は粉雪と結婚して幸せに浸るだけだった筈では……? ───!そ、そうだ!この状況を回避出来るステキな案を閃いた!! ゆきだるまが龍神烈火拳を覚えた瞬間くらいに嬉しい閃きです!! 彰利 「そ、そうだ!考えてもごらんよ春菜さんに夜華さん!!     キミたちが俺との一夫多妻を認めて結婚するってことは、     もし地界に戻ったりしたら     夫婦っぽく振舞っちゃいけないってことになるんだよ!?それでもいいのかね!」 春菜 「それはそれで面白そうだね」 夜華 「わ、わたしは……べつにその、     き、貴様と結婚したいからこう言ってるんじゃなくてだなっ……!!     くぁあっ……何を言ってるんだわたしは……!!そうじゃない!     わたっ、わたしはべつに構わん!!」 彰利 「あれ……?」 あの……普通ここで『そんなのべつに気にしなくていいよ!』とか言ってきて、 俺が『いえいえ国の規則には逆らえません!』とか言って……ねぇ? あれ……変だな、何処で間違ったんだろ。 春菜 「そういうわけで問題なんて無いよ?」 彰利 「ギャ……ヤヤ……!!」 どうしよう、頭が混乱してきました。 神様、僕はどうしたらいいんでしょう。 彰利 (接続(アクセス)
───我が(シン)) 僕は脳内の(シン)(罪ではない)に問いかけました。 だがゴッドは極上スマイルで親指を立てて“グッジョブ!”と言うのみでした。 だから僕は、いつかヤツをチェーンソーで惨殺してやろうと本気で思いました。 彰利 「───ハッ!そ、そうだそう!そうだよ!!     えーと───キリューーーっち!!キリュっちぃ!?     こげなことダメだよね!?いけないよね!?     教師としてこの人たちを鎮めたまえぇえーーーーっ!!!」 ワラにもすがる思いで僕は恩師に声をかけました。 すると─── 桐生 「そ、そうだよ!こんなこと、許せないよ!」 お見事……!キリュっちはぷんすかと怒りながら、注意をしてくれたのです。 ああ、今日ばかりは彼女の背に後光が差して見える上に頼もしく思えます。 僕はそんな菩薩のような彼女に感謝しながら、瞳に涙を浮かべたのです。 桐生 「アキちゃんは真穂と結婚するんだから!!」 後光が塵と砕けました。 彰利 「キリューーーっち!!なに言ってんのアータ!!     キッサマ今自分がなに言ったのか解ってんの!?     娘の意思も聞かずにあっしに何を望むと!?」 真穂 「そ、そうだよお母さん!     確かに弦月くんには恩もあるけど、それは恋愛感情とかじゃないってば!!」 桐生 「……じゃ、じゃあわたしと……結婚?」 彰利 「それこそなに考えてんのアータ!!     教師!しかも娘まで居る人が何を───夜華さんを指差さないの!!     夜華さんにも確かに聖って娘が居るけどアレは別!!     真穂さんには地界での暮らしがあるし、     キリュっちにも地界での暮らしがあるでしょ!!     解っとる!?これは“空界に住む”ってことを前提にした話ですよ!?     一夫多妻は空界だけ!!地界は違うの!解ってる!!?」 真穂 「そそそそうだよお母さん!!     弦月くんがお父さんになるなんて、わたし冗談じゃないよ!!?     そんなことになったら本気でご近所歩けないよ!!」 彰利 「いや真穂さん、それ言いすぎ」 真穂 「あっ、ご、ごめん……でも!やっぱりダメ!!     ───そっちの三人も睨まないでよぅ!     わたし本当に弦月くんとはなんでもないんだから!!」 夜華 「わっ……わたしはべつに睨んでなど……」 ウソです、一番睨んでました。 桐生 「そっか……残念。アキちゃんが家に来てくれたら、毎日が楽しそうなのに……」 真穂 「お母さん……お願いだから『楽しそう』ってだけで娘をエサにしないで……」 桐生 「エサなんかじゃないよ。     だって真穂が気を許してる男の子ってアキちゃんだけでしょ?」 真穂 「う……それは……そうだけど」 桐生 「あとになって気持ちに気づいて、だけどもう手遅れ、なんて可哀想だもん。     それとも他に気を許せる男の子、居るの?」 真穂 「うぅう……も、もう!     わたしのことはいいからっ!今は弦月くんのことでしょ!?」 彰利 「ギャア真穂さん!?ひでぇ!せっかく話が捻じ曲がってきてたのに!!」 真穂さんの一言で、三人娘のキツイ視線が俺に釘付け……。 さらに周りにおわす原中の猛者どもの視線まで……。 フッ、民の視線がいてーいてー。(ヤケクソ) 中村 「さあ弦月……決断を!!」 藍田 「さあ!」 麻衣香「さあ!!」 彰利 「ア、アゥワワワ……!!」 決断っつったってキミね……!! ここで断ろうものなら大変なことになりますよ……!? 俺に今一度、勇気を出せというのですか……!? つーか俺の意思は?俺の弦月屋敷での暮らしはどうなるんですか? 悠介 「……ちなみに。俺の意思はどうなる、とか考えてるんだったらそれは間違いだ。     今ここに、お前の意思を述べる場がちゃんとあるだろ。     胸張って言え。それがお前の意思になる」 彰利 「悠介……」 け、けどさ、それにしたってよぅ……。 こんなヘヴィな場で、しかもこの緊張を胸に秘めて危険な言葉を言えだなんて─── ハッ、そ、そうだ、こんな緊張してる時に言おうとするからだめなんだ。 だったら今はこの場をやりすごして、心を落ち着けてからもう一度…… 彰利 「よ、よし!じゃあ一応了承というカタチで───」 悠介 「───へ?」 カチッ。 彰利 「い、一応じゃよ!?こんな状況でアレコレ考えても考えがまとまらんし!     それに物的証拠がなけりゃあ何処までだって引き伸ば───」 中井出「録音したが」 彰利 「ギャアアアアアアアーーーーーーーーーーーッ!!!!!」 中村 「あ、俺も」 丘野 「なにっ!?お前もか!?」 藍田 「おお!俺もだ!!」 夏子 「わたしもよ!」 田辺 「俺だけじゃ……俺だけじゃなかったんだな!」 麻衣香「わたしたちは……一心同体よ!!」 殊戸瀬「……馬鹿ね、弦月くん。わたしたち原中の猛者を甘く見た結果がこれよ」 いつの間に!?ってちょっと待て!!そういやさっき、カチって音が聞こえたような!! 彰利 「なんでみんなしてテープレコーダーとか持ってんの!?おかしいでしょそれ!!」 殊戸瀬「わたしがみんなに渡したの」 彰利 「こんなところで用意周到っぷりを発揮しないでよ殊戸瀬!!     ギャア待って!待ってぇええええ!!これは何かの巨大な陰謀でしょ!?     お、俺そんな大それたこと……!!」 粉雪 「ふーん……そっか、いいんだ……へぇ〜……」 彰利 「あ、あわわわわ……!!」 助けてください!恐怖で胃に穴が空きそうです!! 僕の幸せ計画は何処へ飛翔してしまったんでしょうか!? 悠介 「これがお前の言ってた幸せか……。     ああ、いや……解ってる。ちょっと信じられなかったが……じきに受け入れるさ」 彰利 「いやちょ───待ってよ!!なんでみんなして俺から目ぇ逸らすの!?     今のはちょっとした……言った途端にブラボーって拍手しないでよ!!     そんな目で見つめられて拍手されても嬉しくないよ!!     なんで今まで推してたくせに軽蔑するような目で見てくるの!?」 中井出「ちなみに晦は?ヤムベリングさんとイセリアさんにも好まれてるみたいだけど」 悠介 「俺はルナとしか結婚しない。そう決めてある」 中井出「おお、男らしい発言。それに比べて……」 チラ……チラリ。 彰利 「なっ……なにかその目は!!哀れみを込めた目でオイラを見るなぁ!!」 中井出「いやいや、なにもお前が悪いとか言ってるわけじゃない。     逆に凄まじいものを見せてくれる気がして、嬉しいだけだ」 彰利 「あの……みなさんの中で、     俺がおなご三人と結婚するのはもう覆らない事実なのですか?」 悠介 「いまさら覆したらお前、先輩と篠瀬に殺されるぞ」 彰利 「ア、アワワ〜〜〜ッ」 ひでぇ……馬鹿な。 何故こんなことに……? 悠介 「気にするなって。     感情がまだ無かった頃なんて、女好きで通ってたお前だったじゃないか。     今こそあの時の気持ちを取り戻せ」 彰利 「いや無理無理!!俺もうそんな浮気っぽい性格じゃねぇから!!」 悠介 「男だろ!!今さら言い訳するな!!」 彰利 「───!!」 男……男……男……─── そ、そう……俺は男、男だ……。 男である俺が、なにをうだうだと迷ってる……? もう迷わないって決めた筈じゃなかったのか……? 覚悟決めろよ俺!俺が目指した漢ってのは、もっと懐の広い存在だった筈だろ!? こんな懐は広くありたくなかった筈だけど!! 彰利 「よ、よし!!男に二言はねぇ!!粉雪!春菜さん!夜華さん!     三人とも俺が面倒みちゃるわぁああーーーーっ!!!!」 中井出「オッ……」 中村 「オォオッ……」 総員 『オォオオオオオオーーーーーーーーッ!!!!!』 俺の衝撃告白を耳に受け取ると、皆様が弾けたように叫んだ。 テープレコーダーを宙に放り投げ、皆それぞれが俺の肩を叩いたり背を叩いたり、 肘で突付いてきたり胸を叩いたりといろいろやってきます。 中井出「言いやがった!!本当に言いやがった!!」 藍田 「待ってたぜその言葉!!待ってたぜお前の本気!!」 丘野 「それでこそ“男”だ!!応援するぜ弦月!!」 真穂 「粉雪、幸せにねっ!」 粉雪 「……喜んでいいの?これって」 総員 『もちろんだ!!』 彰利 「……あの。なんでさっきより今の方がみんなはしゃいでんの?     べつにさっきの衝撃告白の時にこうしても良かったんじゃ……」 悠介 「お前の声に真剣味が無かったからだ。だからみんな軽蔑の眼差しで見てた。     自分に余裕を作るための時間稼ぎに、     お前を好きだって言ってきてる女の気持ちを利用したんだ、軽蔑されて当然だろ」 彰利 「うわ……あっちゃあ……俺がもっともやりたくなかったことだよそれ……」 そう……そうだ。 俺は宗次みたいにはならないって決めたんじゃないか。 たとえ一夫多妻になるとしても、それは軽い気持ちじゃないなら受け入れられた筈だ。 それなのに俺は……!! 彰利 「───決めた!粉雪!夜華さん!春菜さん!!四人で絶対に幸せになりますよ!!     あなたがたに俺から捧げる愛情は、     そりゃあ時に偏りはあるかもしれんけど、決心は平等のつもりです!!     だから───すぅ……はぁ……───俺と!結婚してください!!」 総員 『言ったァアーーーッ!!告白だぁあーーーーっ!!!』 俺は最大限の勇気を振り絞って告白しました。 黒に紛れた心臓がバクンバクンと鳴って、まるで体全体が躍動しているかのようです。 不安ばかりなのは当然だ。 今まで地界で生きてきた俺や娘さんがたにとって、重婚は重罪。 それを意識的に理解しているからこそ、 複数の女性に告白など冷静のままに出来る筈もない。 当然、粉雪や夜華さんや春菜さんは固まってしまい───あら? 夜華 「し、しししし仕方、無いなっ……!!貴様がどうしても、というのなら……!!」 固まっていたのは春菜さんと粉雪だけだったようです。 持ち前の心の強さを発揮し、硬直状態から逸早く脱した夜華さんは、 ズイと前に出て顔を真っ赤にしながら俺のプロポーズを受け取ってくれました。 中井出  「……この場合、篠瀬さんが第一の妻……つまり正室ってことになるのかな。       そんでもって更待先輩と日余が側室ってことに───」 春菜&粉雪『───!!』 中井出が放ったその言葉が着火となった。 粉雪と春菜さんは俺のもとへと歩み寄ってきていた夜華さんをガシィと掴むと 元居た場所へと引きずり寄せていき、そのあとは我先にと俺のもとへのダッシュを開始。 虚を突かれた夜華さんは一瞬反応が遅れたが、 同じ速度を保っていた粉雪と春菜さんは邪魔をし合ったために一緒に転倒。 結局……一番最初に俺のもとに辿り着いたのは夜華さんだった。 中井出「おめでと、篠瀬さん。本音を言わせてもらうとさ、     俺的には篠瀬さんに彰利の結婚相手になってほしかったんだよね」 夜華 「……?な、何故だ?」 中井出「いや、特に理由は無いんだけど……一生懸命なのがいい」 丘野 「俺もだ」 夏子 「わたしも」 藍田 「おいどんも」 彰利 「やきいも」 粉雪 「ちょ、ちょっと待って!待ってよ!一番最初に選んでもらったのわたしだよ!?     だったらわたしが正室ってことになるでしょ普通!!」 彰利 「あのー、オイラ別に正室だとか側室だとかで結婚する気、無いよ?     言ったでしょう、決心は平等だって」 粉雪 「うー……」 悠介 「なんにせよ、これで解決だな。精霊はまだ回復してないが……行くか?」 彰利 「あとどんぐらいで回復しそうかね?」 悠介 「ん……丸一日、だな。マナと諸力を創造してすぐに回復することは出来るけど、     無理に一気に回復させるとなんらかの後遺症みたいなものが出るかもしれない」 彰利 「へ?なんでさ。創造は創造だろ?     べつに悪いモンを吸収させるわけじゃないじゃん」 分析してやるなら余計だと思う。 創造や複製は、やるからには創造と複製じゃなけりゃあならないって言ってた。 だったら心配なんて要らんのでは…… 悠介 「一気に回復させるってのがダメなんだよ。創造物に問題は無い。     契約したり同調したりしたばっかりの精霊が居るんだぞ?     新しい諸力も確かに安定してる。     けどまだ諸力をじっくり満たしていく程度の安定で、     精霊に流してやれるほどに満ちてないんだよ」 彰利 「……そんな状態の諸力を分析して精霊に流せば、     満ちてもいない不完全な力を流すことになるってこと?」 悠介 「そういうこと」 彰利 「けどさ、だったらそんな状態でマナの無い空界に飛んだら、     余計に悪化するんでないのかい?」 悠介 「……それなんだよな、問題は。かといって先延ばしにするのは好きじゃない」 彰利 「まあいいじゃんよ、ここは精霊たちを優先させようぜ?     もうちょっと落ち着いて状況整理していこうや。     それに、丸一日必要だってんなら明日の花見が終わったあとに行くのもええやん」 悠介 「───……はぁ……だめだな俺は。     誰かの幸せだとか未来のためだとか考えると、周りが見えなくなってくる」 彰利 「それを止めるために俺が居るんじゃねぇの、気にすんなや」 悠介 「そうだな。解った、俺の方こそもうちょっと落ち着くことにする。     ……そうだよな。未来は解らないけど……過去は逃げようは無いんだもんな」 そう言う悠介は、なんだかとても寂しそうに空を見上げた。 相手の過去を見たり、 戦ったりした悠介だからこそミルハザードを救いたいって思ったのかもしれない。 でもそれを急ぐ所為で誰かを傷つけたりすれば、きっと悠介は後悔する。 ……ホント、俺達って不器用だ。 足りない部分を親友に支えてもらわないと、安定出来ないんだ。 いつまで経っても不器用な子供のまんまだ。 力を手に入れたってなにしたって、 結局俺達はひとりじゃ生き方を見失っちまうんだ、きっと。 悠介 「なぁ彰利」 彰利 「んー……?」 悠介 「……俺達、いつまで一緒にバカやってられるだろうな」 彰利 「んー……」 いつだって思い、いつだって会話、いつだって話し合ったこと。 答えはいつでも心の中にあって、俺達の出す答えはいつだって一緒だった。 じゃあなんで何度も同じ質問をするのか……そんなことは簡単だ。 やっぱり俺達は、互いに答えを求めないと確信を持てない子供なんだ。 彰利 「……いつまでも、だろ。望めばいつまでだってバカやってられるさ」 悠介 「───……そう、だよな」 そうして顔を見合って笑った。 解らないことだらけの世界で、親友と。 友達たちがなにごとかとこちらを見ても遠慮せずに笑って。 そうすると……いつしかみんなも一緒に笑っていた。 そんな時の笑みには、きっと“意味”だの“理由”だのなんてものは必要なかった。 一緒に居られること、一緒に同じ時間を共有することがただ嬉しい。 それだけで良かったんだから。 彰利 (ああ……なにやってたんだろうな、俺……) 望めばきっと、いつだって掴み取れていたであろう日常。 そんなものを、感情とともに捨て去ってきていた自分が悲しいと思った。 それでも今を思えばこそ……俺はそんな後悔を笑い飛ばすことが出来た。 泣いても笑っても、道にさえ迷わなければきっとやっていける。 それならそれでいいじゃないか。 彰利 「よっしゃあ!!これから万年は生きるぞぉーーーーっ!!!!」 中井出「そうしたいんなら千年の寿命にどっぷり浸からないとな」 丘野 「俺としてはその万年のうちに、弦月の子孫がどれだけ増えるのかが気になるが」 粉雪 「っ……!!」 藍田 「はっはっは、顔が赤いぞ日余ぃ」 春菜 「あ、わ、わたし自分の子供で野球チーム作ってみたい!!」 悠介 「先輩。それ遺伝子の時点でドーピングチームだからやめといた方がいい」 春菜 「悠介くん、わたしのことは今まで通り『姉さん』でいいよぅ」 悠介 「断る。俺はもう晦神社とは関係無い」 彰利 「決めたことには頑ななダーリンだから、     そこんところは諦めたほうがいいよ、春菜さん」 春菜 「むっ!チェック!!」 彰利 「むっ!?チェックメイト!?」 春菜 「違うよ!いい?アッくん。わたしとアッくんはもう夫婦になるんだよ?     だからいつまでも『春菜さん』じゃだめだと思うんだ」 彰利 「あの……そう呼べって言った本人が何寝惚けたこと言っとんのですか?」 春菜 「いいからっ!!寝惚けてていいから呼び捨てで呼ぶの!いい!?」 ズズイと迫る春菜さん。 その目は明らかな気迫をが込められていて、 逆らおうものならば問答無用で“神屠る閃光の矢”あたりが飛んできそうです。 ……まいったね、黒になってからは光属性は滅法苦手になったし、 となると春菜さんの能力って俺の天敵になりかねないんだよね。 更待の血筋からなる月醒力…… 彼女の手から放たれる神屠る閃光の矢は他とは比べ物にならんし…… 彰利 「う、うん!そうだよね!いつかは超えなきゃいけない壁だもんね!!     でも地界に行ったら春菜さんとか先輩殿って呼ばせてもらうから。     そっちもかつてのように俺のことホモだとか変態だとか言うように」 春菜 「う、うん!それでいいから早くっ!」 彰利 「いや……否定してほしかったんだけど。マジでホモとか呼ぶ気ッスカ……」 ゴクリ……自然と喉が鳴ります。 鼓動はドキリコと高鳴って……僕の体はいったいどうしてしまったというのでしょう。 ……どうもこうもありません、緊張してるのです。 ですがもう僕は迷わないと決めたのです。 覚悟が決まっているのなら、ためらう必要一切無し!! いざ───! 彰利 「……は、……春菜」 春菜 「……───〜〜〜っ……う、うんっ!!うんうんうんっ!!     なにっ!?なになにアッくん!!」 彰利 「へっ!?い、いや、言えって言われたから言っただけで、     べつに用などありませんよ!?」 春菜 「ふ……ふふふ……あはははは〜〜……♪」 うお……なんか春菜さ───春菜の顔がトロケるように歓喜に染まってます。 名前で呼ばれるのってそんなに嬉しいもんなのかのぅ。 だったら─── 夜華 「?な、なんだ?」 彰利 「夜華……」 ガパキャァアンッ!!! 彰利 「へぶしーーーーっ!!!!」 夜華 「……誰が呼び捨てを許可した。調子に乗るな」 問答無用で飛燕龍-凪-が飛んできましたよ……? やっぱり呼び捨てされて喜ぶヤツなどそうそう居ないのでは……? 夜華 「あ……だ、だが勘違いするな?わたしが言いたいのは段階のことでだな……。     段階さえ踏まえれば、その……べ、べつに嫌なわけじゃない。だから、その……」 彰利 「あの……なにボソボソ言っとんのですか?ちぃとも聞こえんよ」 夜華 「う、うるさいっ!!貴様がそんなだからわたしはっ……!!」 彰利 「なにぃ!?夜華さんの声が小さいのは俺の所為じゃねぇでしょう!!」 夜華 「わ、わたしの声は小さくなどない!!妙な言いがかりはやめてもらおうか!!」 中井出「っておいおい、早くも夫婦喧嘩か?」 彰利 「バカ言っちゃいけない!僕は夜華さんを愛してる!!」 中井出「ウハァ……うさんくせ〜」 彰利 「いや……まあ。俺も愛してるって自分で言っててそう思った……」 やっぱ『愛してる!』って言葉ってどうしても胡散臭く感じるよなぁ……。 好きだ、とかの方がまだ気持ちがこもってる。 でも『大好きだ!』とかだとどうにも……ああもうなに考えてんだろね俺。 彰利 「でもですね、俺はもう自分の気持ちに素直になることにしたから構いません。     俺、夜華さんのこと好きです。もちろん粉雪のことも。     さらに言えば春菜にドキリと来たこともあるし、多分好きだと思う。     だから俺はもう遠慮などしないことにしました。     自分の心にくらい正直になります。変わりに夜華さんを騙しまくるから覚悟して」 夜華 「貴様……何故わたしばかりに……」 彰利 「それだけ取っ付き易いって意味じゃないですか」 この心に溢れる感情はもう騙せません。 南無の心など元より関係なかったのだ。 そう……俺は心の何処かで夜華さんに惹かれていた。 今にして思えば、ムキになって夜華さんにばかり突っかかってたのがいい例だ。 結局気になる相手に子供がすることなんて、 意地悪だと心とは正反対のことばっかりなわけだ。 そうして過去を振り返るとしみじみ思うわけだ。 ああ……ワイって夜華さんのこと好きやってんなぁ……と。 中井出「ところでさ。お前ってやっぱ三人とその……寝るんだよな?」 悠介 「天誅」 ドゴシャッ!!! 中井出「ゲボギョッ!!」 中井出気絶……なにやりたかったんだこいつは。 丘野 「提督の続きは俺が。……結局さ、家族構成どうする気だ?     やっぱ三人ともの間に子供作るのか?」 彰利 「む……奥様が欲しいとおっしゃるのでしたら……ねぇ?     作らんわけにもいかんでしょう。幸い、食うには困らん能力持っておるし」 春菜 「だ、だからね?わたしは野球チームを……」 や、それはもういいです。 夜華 「わ、わわわわたしはその、つまり……     ひじっ……聖の他にも、ももももうひとり、くらい……」 真穂 「わ……篠瀬さん顔真っ赤」 夜華 「う、うるさいっ!!わた、わたしはべつに彰衛門の子が欲しいなどとは!     全然、本当に、これっぽっちも……あ、い、いや!彰衛門!?     お前が嫌だというわけじゃないぞ!?現に思い出してみろ!     わたしはお前の娘である聖を、きちんと面倒を見ていただろう!?」 彰利 「む……」 確かにキッパリハッキリと物事を唱えられるようになってました。 アレは流石の僕も大変驚きました。 真穂 「……なんだか篠瀬さんのこの純情っぷりって、見てると和むよね……」 丘野 「同感だ……生き生きしてる」 中村 「弦月の記憶を無くしてた時の篠瀬さんって、     ただの真面目な剣豪美少女だったもんなぁ……」 夜華 「まっ……真面目の何処が悪い!!」 総員 『面白くないところが悪い!!』 即答でした。 悠介 「訳すとつまり、彰利のことで慌てふためく篠瀬は面白いと」 総員 『その通りだ!!』 さらに全員同意。ナイス原中魂。 【ケース65:晦悠介/傍観者】 夜華 「貴様ら……一度真剣の刀背(むね)で打たれてみるか……!?」 中村 「ふはは!面白い!こっちには提督バリアがあるんだぞ!     そんな攻撃なぞ“俺達には”通用せんわ!!」 悠介 「訳すとつまり、     盾にされる気絶中の中井出はボコボコにされるわけだ。……大丈夫か?」 夜華 「ご心配には及びません悠介殿。     気絶している者まで痛めつけるほど、剣の腕は下ではありません」 悠介 「そか。じゃあ」 頑張れ、って応援した。 それと同時に篠瀬が姿勢を低くして駆け出す。 瞬間、篠瀬の目が赤く変異し─── 音を立てることもなく物凄い速さで猛者どもの背後に回りこんだ。 ……さすが、どうやらもう“風の動き”を読んでいるみたいだ。 シルフを介して、篠瀬の召喚獣との戦いは知っているが……こりゃ速い。 中村 「あ、ありゃっ!?消えた!?」 夜華 「紅葉刀閃流───嵐華穿-濁流-」 チキ、ン───ズパパパパパパパパァアアアアアンッ!!!! 総員 『ギャアアアアアアアアーーーーーーース!!!!』 ……もちろん背後に回りこむだけで済む筈も無い。 既に刀背で打たれていた猛者どもは刀が鞘に収められると同時に激痛に襲われると、 そのままドシャアと倒れてしまった。 悠介 「……ちと失礼、と」 少々気になった俺は、小さく息を吐いた篠瀬を分析した。 すると───予想通り、篠瀬の中に僅かだが風の力が存在していた。 もしかしたら篠瀬とシルフの相性が良かったのかもしれない。 シルフと接触することで、篠瀬の中に風を感じる力が開花したようだった。 ……なるほど。 いくら鍛錬を積んでいたとはいえ、生身の地界人である篠瀬が召喚獣に勝てるわけだ。 悠介 (けど、千年の寿命も無い状態で、     シルフの能力の影響を宿したりして大丈夫なのか……?) 流石にちと心配になった───その時。 声  『……案ずることはない。軽い異能力として受け取ってもなんの問題もない』 悠介 「へ───って、オリジン?」 ハッキリと声が聞こえたことに驚いたが、この声は間違いなくオリジンのものだ。 なんでブレて聞こえなくなったんだ? ……ああいや、契約したことで存在が安定したのかもしれないな。 深く考える必要はないだろう。 悠介 「解るのか?」 声  『お前の記憶、あらかた調べさせてもらった。     その中からあの女の能力の喩えを挙げてほしいのなら、     アレはお前らで言う“月操力”程度の能力だ。     ただし、一点───“風”のみを極めた状態にある。     故に風の動きを知り、風とともに戦うことが出来る。     ああ、そこのところはお前の言うとおりだ。     シルフとの相性が良かったために開花したのだろうよ』 悠介 「………」 勝手に人の記憶を見るな、と言いたかったが…… 俺が言えた義理じゃないのでやめておいた。 好奇心で勝手に人を分析するのもいけないことだよな。反省点だ。 悠介 「じゃあ、目が赤くなったのは───」 声  『風を感じようとするのならそうなるだろう。     “家系”の者が力を引き出す時、そうなるのだろう?』 悠介 「……だな。俺だってそうだし彰利にしたってそうだ」 声  『それが出来るようになったのも、     あの女の魂に“浅美”とかいう女の魂が馴染んできた証拠だろう。     人間のことだど詳しくなど調べる気にもならんが、そういうことだ』 悠介 「………」 言いたいことを言って引っ込むオリジン。 ……言いたいことを言うと、さっさと引っ込む精霊……これで何人目だっけ。 いや……本質的には多分、全ての精霊がそんな感じなんだろうな。 なんかそんな感じがしてきた。 ───さて、それはそれとして。 悠介 「どうしたもんかな、この状況……」 騒ぐ者が居なくなった今、篠瀬と先輩と日余は彰利を引っ張り合っている。 猛者どもはまあ……『騒ぐ者が居なくなった』という言葉が示すとおり全員気絶。 そんな中で俺とイセリアだけがこの状況を見守り…… ふと目が合うと、ハフゥと溜め息を吐いた。 ……まったく。 いい知り合いを持つと、本当に退屈だけはしないよな。 悠介 「とりあえずみんな気絶してるわけだし……」 ……いいか、明日に備えてさっさと寝てしまおう。 猛者どもが風邪を引かないように温度調整をこの場所自体に創造して、と…… 悠介 「じゃあなー彰利ー。俺明日に備えて寝るからー」 彰利 「な、なんじゃってぇーーーーっ!!?     ち、千切れるーーっ!!大岡越前助けてぇえええ!!!!」 三人に引っ張られている彼は、それはもう叫んだ。 だがしばらくすれば収まるだろうと確信して無視。 ゆっくりと空に闇が訪れる中、俺は自分の家に戻って眠りについた。 Next Menu back