───風の心のお話───
【ケース66:弦月彰利(さらに再)/黒スケさんの視点】 ───……そうして翌日の昼あたり。 俺達は様々な準備をし、 ロックスフォールの滝とロジアーテ鍾乳洞の丁度中間にあるという 桜の樹へとお花見に出かけました。 ……もちろん、原中の猛者どもも一緒に。 デゲデッテッテ、デゲッテーテテン♪デゲデッテッテ、デゲッテーテテン♪ デゲデッテッテ、デゲッテーテテン♪デゲデッテッテ、デゲッテーテテン♪ ラ〜〜〜ラ〜〜〜〜♪ 彰利 「そ〜らに〜浮〜か〜んだ〜、月は、今夜ミステリャーイ♪     ゆ〜めか〜ま〜ぼろ〜し〜、魔法にかかぁているの〜ぅ♪」 中井出「さ〜がし〜て〜る〜もの〜、なにか、見つけるた〜め〜♪     七色〜の海〜に〜、わ〜たし〜今おりたの〜♪」 デンデゴデゴデゴデン♪ 丘野 「じ〜か〜ん〜もノイ〜ズ〜も〜♪みんなっ消えてゆ〜く〜わ〜♪」 藍田 「す〜べ〜て〜のめも〜リ〜を〜、ゼロに〜したいの〜♪」 デゲデゲデゲデゲ♪ 中村 「大人に〜な〜り〜たい〜の〜、子供に〜も〜どり〜たい〜の〜♪     わ〜か〜ら〜ないわ〜♪」 田辺 「欲しかぁった〜もの〜はど〜こ〜、捨ててき〜た〜もの〜はど〜こ〜♪     み〜ら〜い〜、め〜ざ〜めさせて〜〜〜〜♪」 なんで今さらウィザーズハーモニーのOP歌ってんのか俺達も解りませんが、 歌ってしまったからには文句などあろう筈もありません。 麻衣香「ふ〜る〜え〜ていな〜い〜で〜、む〜ず〜か〜しくな〜い〜わ〜♪」 夏子 「か〜ざ〜り〜を脱ぎ〜捨〜て〜♪自分を見つめて〜♪」 真穂 「ハ〜ドル〜を〜乗り〜越え〜て〜、今手に〜入〜〜れ〜たも〜の〜♪     ダ〜イ〜ヤ〜モンド〜♪」 殊戸瀬「ウソじゃな〜い〜夢〜じゃな〜い〜、     信じて〜み〜が〜くの〜よ〜、き〜い〜っと〜♪」 彰利 「ところでさ、おなごってやっぱデーヤモンドとか貰うと嬉しいもんなん?」 歌の最中ですが、気になったことを訊くことにしました。 だってね、やっぱオイラまだおなごの気持ちなぞ解らんぞなもし。 粉雪 「ううん、わたしはべつに」 と、一応昨日の出来事を吹っ切ってくれた粉雪が笑って言います。 春菜 「わたしもべつに嬉しくないかな。     宝石っていったって、モノの価値は周りじゃなくて自分が決めるものだもん」 真穂 「そうだね。いくら高い宝石もらっても、     好きな人からもらった大事なもののほうが価値が高いと思うよ?     ……って、恋人も居ないわたしが言っても説得力無いけど」 彰利 「いやいや、プレゼントとともに告白されることなら結構あったっしょ。     中学時代、しょっちゅうニセの彼氏にされたから覚えとります」 真穂 「わっ!弦月くん!言っちゃダメだってばっ!」 彰利 「おっほっほ、だからこの俺も随分と告白男性には睨まれたもんじゃて。     でも実際、抱き合ったり笑い合ったりした回数は誰よりも多かったかな、うん」 真穂 「うー……そうかも……。でも今は彼女さんっていうか、     奥さんが三人も居るんだからさ、あまりそういうこと言っちゃだめだよ?」 彰利 「解っております。今もひしひしと殺気を感じてますから」 実際のところ、中学の頃の俺と真穂さんは恋人よりも恋人らしかったと思う。 抱き合うこともあれば抱きかかえることもあり、 愛を囁くこともあれば腕を組むこともあり…… 告白男を諦めさせるためにデートまがいのことだってやったことがあったり、 校舎裏に誘き寄せてキスのフリをして諦めさせたことだってあるのだ。 ……そう考えるとちょっと不思議で。 よくそのまま恋人になる、なんてことにならなかったものだ。 まあ我らの間で、恋人よりも知り合い中の方が気楽だって気持ちがあったのでしょう。 今はそれでよかったと思ってます。 リアナ 「あははははははは!!あはははははははははははは!!!!」 リオナ 「くふっ……!くふふははははは!!ははははははははははは!!!!」 悠介  「お、おーい誰だぁ?こいつらに酒飲ましたの……」 ベリー 「わたしー!わたしわたしー!!」 リヴァ 「はぁ……たまには国のこと忘れて、喧噪の渦中に身を置くのも悪く無い……」 イセリア「だめだよー?もっと気楽にやっていかないと」 ルーゼン「あ、あのっ……イセリアさまっ!?お目にかかれて光栄ですっ……!      どどどどうか握手をっ……!!」 バルグ 「桜吹雪が綺麗じゃのぉ……」 ムフゥと息をつきながら周りを見渡してみれば、 自国やアカデミーのことをほっぽり出して花見に参上した面々。 酒に滅法弱かったようで、一口飲んだら笑い出したマグベストル姉妹に、 アルコールを飲むとともにしんみりと語り出したり、かと思えば騒ぎ出す“ゼロ”の家系。 こうして見るのは初めてだが、 イセリアさんをチラチラと見ながら顔を赤くしてるのはゼロ=クロフィックス。 目ェ見えないのにチラチラと見る、ってのはおかしなものだけど、 やってるんだからしょうがない。 さらにルーゼン……というかアシュラマンがイセリアさんに憧れてたのは正直驚いた。 そして─── フォード「………」 彰利  「………」 我が目の前には、ポリットを持った男。 そして我が手にはレタス。 俺と彼はキッと睨み合い、それぞれ持っていた野菜を交換して食し始めた。 彰利     「───!こ、これはっ……!瑞々しくもシャッキリとした歯ごたえに、         以前は急激に襲ってきた筈の眠気が         今度はゆっくりと体を包み込む穏やかな体感……!!」 フォード   「───!!これは……!!苦味も無く臭みも無く、スッキリとした……         だが確かな歯ごたえの中に待つ瑞々しさが口内を潤す……!!         さらに噛めば噛むほど野菜本来の味が味覚を刺激し、         心が穏やかになってゆく……!!」 彰利     「───……」 フォード   「…………」 彰利&フォード『友よ……』 そして芽生える友情……。 今、レタスとポリットは世界を越えた友好関係を築き上げたのです……!! それからの僕はフォードくんと野菜について熱く語り合いました。 すると意見の合うこと合うこと。 そう……僕は、そしてフォードくんは、 初めて好物の野菜に関して熱く語れる相手を見つけることが出来たのです……! 【ケース67:晦悠介/モミアゲさんの視点】 総員 『やんややんやー!!』 中井出「じゃんじゃん食べなさい!大いに飲みなさい!!今日は無礼講!!     明日の結婚式が終わるまで俺達の時間は無限のリヴァイアスだぁーーーっ!!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「だが聞けヒヨッ子ども!!飲みすぎて二日酔いになどならぬように努めろ!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「寝過ごして、寝惚け眼で結婚式に参列しないよう努めろ!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「藍田はマジでパンツ一丁オリバ姿で参列するらしい!!     各自、カメラの用意を怠るな!!     どうしても用意出来ない者は殊戸瀬にカメラを借りるように!!」 総員 『サー・イェッサー!!』 中井出「うむ!よい返事だヒヨッ子ども!!     ではこれにてカタッ苦しい音頭を終わりとする!!     各自!思いッ切り騒ぎ楽しみ歌いまくれッッ!!!」 総員 『Sir(サー)YesSir(イェッサー)!!』 毎度のことながら、この叫び合いはやかましい。 けど不思議と一緒に叫んでしまうのだから……やっぱり不思議だ。 春菜 「あ、悠介くん悠介くん」 悠介 「んあ……どした、先輩」 茶を創造して飲んでいる俺にてこてこと近づいてきて、とすんと隣に座る先輩。 その顔は……酔ってるな、うん。 春菜 「あはは、いやー、フラットさん呼ばなくてよかったのかなー、って。     大丈夫なの?いきなり明日『結婚式だー』とか言ったりして」 悠介 「あいつはアレで根はしっかりしてるから大丈夫だ」 春菜 「おお……さすが既婚者。余裕なんだね」 悠介 「余裕かどうかなんて二の次だよ。     なるようになる。それが嫌なら努力して、するようにする。     一応あいつの願いは叶えてやるつもりだから、文句とかもそれでチャラになるさ」 春菜 「んー……?願いって?」 悠介 「ウェディングドレスを着てみたいんだと。     初めての結婚はコテコテの和式だったからな。     だから今度はそうしてみたいんだとさ」 春菜 「わお……悠介くんよく了承したね」 悠介 「どういう反応なんだよ、その『わお』って」 春菜 「あはははは」 笑って誤魔化した。 というより、訳の解らん笑撃に襲われて笑い出したらしい……やっぱ酔ってやがる。 春菜 「や、でも……お世話になりました、悠介くん。     お姉ちゃん、絶対に幸せになるからね」 悠介 「だから。もう縁切ったって言ってるだろ。お姉ちゃんはやめてくれ。     じゃないとまた敬語使うぞ」 春菜 「あう、情緒が無いなぁ。こういう時は感動の場面を展開して、     ヒシと抱き合うのがドラマのようでステキだと思うんだけど」 悠介 「ノンフィクションで生死の境ギリギリを生き抜いてきた元後輩に、     今さらフィクションでどう感動しろっていうんだ先輩は」 春菜 「あっちゃあ……もうフィクションじゃあ感動出来ない?」 悠介 「さあ。まだ自覚出来るほど感情が発達してないから解らないな」 春菜 「そっかそっかぁ、あははははは」 悠介 「……先輩、酒飲みすぎ」 何が可笑しいのか、まぁた笑い出す先輩。 しかもガバーっと立ち上がると彰利のもとへと駆け出し、 腰から下へのタックルをぶちかまして彼とともに転がりまわった。 不意を突かれた彰利は顔面から岩石に衝突し、 鼻血を流しながらぐったりと動かなくなる始末。 ……ああ、平和だ。 中井出「まあま飲みなって!ホラ!!篠瀬さん酒飲めるんでしょ!?」 夜華 「あ、いや、わたしは……」 麻衣香「篠瀬さんって鍛えてる所為かスタイルいいよね〜……うふふふ……えいっ!!」 夜華 「うわぁあっ!!?な、なにをするっ!     やめっ……どこを触っているんだ!!離せっ!!」 麻衣香「うおう……さらしに包まれて尚この弾力……。     し、信じられん……計測したらスカウターが破壊されてしまいそうだ……」 真穂 「麻衣香、言葉使いが男の子っぽくなってるよ」 麻衣香「……どうせ小さい者の気持ちなんか同類にしか解らないわよ……」 中井出「そういうのが好きなヤツも居るだろ。ほい綾瀬、団子」 麻衣香「あ、うん……ありがと、中井出くん」 俺が作った団子をパックから出し、綾瀬に渡す中井出。 その行動は手馴れていて、一緒にお茶も渡す気安さは慣れ親しんだ光景のようだった。 桐生 「中井出くんと綾瀬さんは幼馴染さんなんだっけ?」 中井出「腐れ縁の間違いだろ。なぁ?」 麻衣香「そういうこと。初恋の相手には変わりないけど、     エッチなビデオ見てるのを目撃した時に、わたしの思いは儚く散ったわ」 中村 「提督……アンタすげぇよ……」 丘野 「つーかそれでよく今の関係が続いてるよな」 中井出「当時の俺は筋金入りだったからなぁ。今はもうエロビデオなんて懲り懲りだ」 藍田 「提督からそんな言葉を聞く日がやってくるとは……。     と、そんなわけで綾瀬よ。提督はもうエロビデオに興味が無いようだが?     初恋を再び沸騰させるのもいいんじゃないか?」 麻衣香「地界で生きるのをやめて、空界に住むようになったらそれもいいかもねー……。     生きる期間が圧倒的に違うんだもの、     一緒に居たらわたしが先におばあちゃんになっちゃうわよ。     そんなの嫌だから今は遠慮しとく。     地界に興味が無くなったら……うん、考えておくわ」 中村 「ちなみに提督がエロビデオ見てたのを発見したのはいつ頃?」 麻衣香「小学二年生の時」 総員 『提督……アンタすげぇよ……』 中井出「しゃ、しゃあないだろ……なんにでも興味を持つ年頃だったんだよ……。     お前もポンポンと話すなよな」 麻衣香「それまでは博光って名前からとって『ヒロちゃん』って呼んでたんだけどね。     その現場を見てからはもう中井出くんで十分になったわ」 夏子 「うわ……相当なランクダウン……」 中井出「そのくせ自分がピンチになるとすぐ人に頼って来ンだぞ?     こちとら碌な子供時代歩んでこなかったってのに」 夏子 「あ、それ知ってる。麻衣香、落ち込む中井出くん見たくないからってわざと」 ドボォッ!! 夏子 「はぐおぉっ!!」 中井出「んあ……?落ち込む俺がなんだって?」 麻衣香「なんでもないっ!気にしなくていいわよもうっ!!」 夏子 「カカカカカカカ……!!!」 脇腹と肋骨の境辺りを貫手で突かれた木村は、 その部分を押さえながらカタカタと震え出した。 ありゃ痛いな……けどみんなに見えないようにやったのは巧い。 島田 「あ……そういや殊戸瀬、お前ってそういう浮いた話とかって無いの?」 殊戸瀬「……知りたいの?」 灯村 「面白そうだから聞かせてくれ」 殊戸瀬「……そ。浮いた話かどうかは知らないけど、親が決めた許婚なら居るわ」 総員 『な、なんだってぇえええーーーーーーーっ!!!!』 殊戸瀬「何処かの企業の御曹司って聞いてる」 総員 『な、なんですってぇええーーーーーーーっ!!!!』 殊戸瀬「政略結婚らしいんだけどね」 総員 『なっ……なんだってぇええーーーーーーっ!!!!』 殊戸瀬「もちろん全部ウソだけど」 総員 『なんですってぇえええーーーーーーーっ!!!!!』 完全にからかわれていたらしい。 猛者どもは唖然として脱力し、その場にへたり込んでしまった。 中村 「殊戸瀬ぇ……冗談キツイぜ……」 丘野 「まったくだ。完全に騙されたよ」 殊戸瀬「……本当だったらどうしてた?」 丘野 「へ?」 殊戸瀬「……なんでもない」 ……ふむ。 悠介 「殊戸瀬〜」 殊戸瀬「……?なに、晦」 悠介 「なんで毎度俺にだけ『くん』をつけないのかは謎だが、まあちょっと話そう」 殊戸瀬「……べつにいいけど。で、なに」 悠介 「なにってこともないけど。今の話、本当なのか?」 てこてこと歩いてきて俺の隣に座った殊戸瀬の真に迫る。 が、殊戸瀬はしれっとした顔で『ウソだって言ったばっかりでしょう』と言った。 ノった時は笑顔でハシャいでくれるヤツなんだが、 俺と話す時の仏頂面は相変わらずのようだ。 悠介 「意味深に感じただけだよ。お前、丘野にはウソがつけない性質みたいだし」 殊戸瀬「……あのこと、誰にも言ってないでしょうね」 悠介 「言うか、たわけ。俺は約束は守るぞ。特に原中のクラスメイツたちとの約束はな」 殊戸瀬「……はぁ」 というのもこいつ、殊戸瀬睦月は丘野眞人のことが好きなのである。 中学時代、殊戸瀬が丘野の下駄箱の中に ラブレターを入れようとしていたところを発見して以来、 俺はずぅっと殊戸瀬から『くん付け』をされていない。 時折にふざけて『くん』を付けて呼ばれたこともあったが、それ以外はてんでだ。 殊戸瀬「……ほんとよ。許婚は居るし、政略結婚だし、御曹司っていうのも全部。     殊戸瀬エレクトロニクルカンパニー、知ってるでしょ?     あそこわたしの親の会社なの」 悠介 「……あぁ、あれか」 殊戸瀬エレクトロニクルカンパニー。 某会社の親会社にあたり、 どっかのカンパニーの研究データを盗もうとした某子会社を潰した会社だ。 会社、というのもヘンな呼び方だが、少なくとも表向きにはその子会社は潰れてる。 なんでも社員が謎の失踪に遭い、行方不明になったとか。 そんなことと他社からのデータ強奪未遂罪でその会社は崩壊。 親会社である殊戸瀬の会社が新聞で謝罪していたのを何度か見たことがあった。 ……未来で、だが。 悠介 「レイヴナスカンパニーとのいざこざ、もう収まったのか?」 殊戸瀬「随分経ってるけどね、あっちはまだまだこっちを許すつもりは無いみたい。     特にひとりの女社員がしつこいらしいよ」 悠介 「へえ……」 じゃあこのいざこざはあの未来まで続いてるってことか。 頑張るな、まったく。 悠介 「そもそもさ、いざこざの原因ってデータの強奪未遂なんだろ?     それはいざこざを何年も続けるほどの価値のあるものなのか?」 殊戸瀬「……仕方ないわよ、人が死んじゃったんだもの。     その女社員が怒るのも当然で、神隠しみたいにみんな居なくなっちゃったのも……     誰かに仕返しされてのことかもしれない。桜があるから言うわけじゃないけどさ、     今頃どこかの樹の栄養になってるんじゃない?」 悠介 「………」 人の考えることは解らん。 誰かを殺してまで、そのデータってのが欲しかったのか……? 悠介 「……ちなみにさ。そのデータってどんなものだったんだ?」 殊戸瀬「……ん、まあいっか。     そっちの過去とかいろんなもの、もういっぱい見させてもらったし。     わたしたちだけそういうの知ってるのってなんだかズルイ気がする」 はふ、と息を吐いて、仕方ないように苦笑して俺を横目に見る殊戸瀬。 そして、その口が唱えた。 殊戸瀬「わたしも詳しいことは知らないんだけどね。     なんか……機械に心を持たせるっていうものだったみたい。     レイヴナスカンパニーの、     なんとかっていう人の子供か孫が死んじゃった時が開発のきっかけ。     その人は死んでしまった子にそっくりの機械を作ったんだって。     その開発はとても精巧に出来てたそうで、     当時の機械開発局からしてみれば世界を震撼させるような技術よ」 悠介 「ん……」 殊戸瀬「でもね、その時にカンパニーの内部にスパイまがいの人が居て、     その機械に使われた“感情ユニット”のデータを盗んだの。     もちろん“自分の娘”として機械を作った研究者は怒ったそうよ。     実際にそのスパイはすぐに捕まって、データも確かに奪い返した。     でも……ね。少しだけ、ほんの少しだけだけど、     感情の基本ユニットのパターンが流れてしまっていたのよ。     もちろん流したのは捕まったスパイ。     そして───その流れた先っていうのがさっき話したウチの会社の子会社。     長ったらしい名前だけど、通称で『L's』って呼ばれてた」 悠介 「エルス?」 殊戸瀬「そう。まあ、そこに流れたっていうのが解ったのはそれから随分あとのことで、     んと……今から数年前くらいかな。わたしたちがまだ小学くらいの頃」 悠介 「へえ……そう昔の頃じゃないのか」 殊戸瀬「うん。そんな、データが盗まれてから何年も経った時でも、     未だ感情を持つ機械なんて無かった頃。     エルスでひとつのプロジェクトが動いてた」 悠介 「……?あ、待った。それ、一度新聞で読んだことがある気がする」 殊戸瀬「気に掛けない人以外にしてみれば結構有名な事件だからね。     新聞にも載ったし、ニュースでもやった。     ……プロジェクト名、『CODE:WindHeart(コード:ウィンドハート)』。     随分前に奪ったデータをエルスが無断で使用して、     心を持つ機械の少女を作ったっていう問題の事件。知ってる?」 悠介 「……ああ、知ってる」 殊戸瀬「そこでもいざこざがあってさ。こっちはもう大混乱。     下の会社がやったことだから上にも責任がある、なんて言って因縁つけてくるの。     そんなこと、そっちがそう思ってるだけでわたしたちには関係ないのに」 悠介 「その尻拭いが───」 殊戸瀬「そ。政略結婚ってわけ。レイヴナスカンパニーの誰かさんと結婚しろ、だってさ」 ……頭痛いな、地界の在り方ってのは。 悠介 「武力行使していいなら黙らせるけど。どうする?」 殊戸瀬「んー……いいや、やめとく。     そんなことしても丘野くんとのことが上手くいくわけじゃないし」 悠介 「望んでる結婚じゃないんだろ?だったらすることないだろ。     彰利がデスティニーブレイカーのひとつでも使えば、     既存事実を捻じ曲げることくらい出来るぞ」 殊戸瀬「そうはいっても……」 チラリと丘野が居るほうを見る殊戸瀬。 そこにはウヒャヒャヒャヒャと笑い転げる丘野が居た。 ……確かに、こっちのことなどまるっきり気にしていない。 少しでも殊戸瀬のことを気にしてるんだとしたら、 俺と一緒に居ることに焦りくらい感じるものだろうに。 上手くいかないもんだな、ほんと。 悠介 「なんだったら殊戸瀬のほうから告白してみたらどうだ?     気持ちが目覚めてないなら、それで目覚めるかもしれないだろ」 殊戸瀬「はぁ……それ、晦に言われても説得力ないかも……」 悠介 「……悪かったな、感情が乏しくて」 けど、確かに俺が言えたことじゃない。 こんなところでこんなことを言われるなんて思いもしなかった。 殊戸瀬「でもさ、実際どうなんだろうね。     もしかしたら未来に居たあの……カフェイン、だっけ?     あの人の親族がわたしかもしれないのよね?」 悠介 「あ……そうだな。そうなる」 殊戸瀬「はぁ……どうしよう。……実はさ、晦の気持ち……解らなくもないのよ。     わたしが相手さんと結婚しなかったら、     あのカフェインって子は生まれないかもしれない。     あなたにとっての深冬って子がそうであるように、     わたしは見たことも無い子供のことで頭を痛めてる。     だってそうでしょ?カフェインって人は確かに弦月くんや晦の記憶の中に居た。     でもさ、その親は全然でしょ?……あぁもう……頭痛い」 悠介 「………」 困ったもんだな……これは深刻だ。 けど、俺と殊戸瀬とじゃあ決定的な違いがある。 それは───本人がその結婚を嫌と思うか否かだ。 俺はべつにルナと結婚することに抵抗は無い。 でも殊戸瀬はどうだ?俺から見てみれば、嫌がってるようにしか見えない。 悠介 「殊戸瀬、その結婚やめちまえ」 殊戸瀬「え……晦?」 悠介 「好きでもないヤツと結婚する必要なんか無い。     まして、自分がそれを嫌だって思ってるうえに好きな相手が居るなら余計だ」 殊戸瀬「……だからさ、それ、晦に言われても───」 悠介 「俺はルナと結婚することに少しの嫌気も無い。     確かに好きかどうかって言われたら解らないけど、     他に好きなヤツが居るわけでもルナが嫌いなわけでもない。     だから俺は受け入れられる。けどお前はどうだ?     本当に、そいつと結婚しちまっていいって思ってるのか?」 殊戸瀬「でもわたしが結婚しなかったら───」 悠介 「未来のことなんてどうでもいい。“今”のお前、殊戸瀬睦月はどう思ってるんだ」 殊戸瀬「…………」 悠介 「原中大原則ひとつ。悩んでいるクラスメイツは全力で助けろ。     ……今のままじゃ助言をやることしか出来ないが、     お前が決断さえしてくれればなんだってやってやる。     俺と彰利はお前たち原中の猛者たちには大きな借りがあるんだ。     なんでもしてやりたいって思う気持ちにウソはない」 殊戸瀬「晦……───はぁ……ああもう、なにやってるかなわたし……。     まさか、よりにもよって晦に応援の言葉を送られるなんて」 悠介 「オイコラ、いきなりそれはないだろ」 殊戸瀬「……勇気だけ貰っていくわ。クラスメイツがドラゴンに立ち向かったってのに、     一方のクラスメイツが人間にすら立ち向かえないんじゃあ格好つかないし」 悠介 「へ───?」 そう言うと殊戸瀬は立ち上がり、胸に手を当てて深呼吸すると─── 殊戸瀬「おーーい丘野くーーーん!!!     わたし、殊戸瀬睦月は───丘野眞人くんが大好きです!!!」 丘野 「───ウヒャッ!?」 ウヒャヒャヒャヒャと笑っていた丘野がビクゥと固まる。 そして───みるみる真っ赤になると、ドシャアと倒れた。 中井出「ラ、ラフレシアァアアーーーーーッ!!!!」 中村 「ラフレシアが気絶したぞぉおーーーーーーっ!!!!」 藍田 「サブタイトルは『突然の告白!実は両想いだった彼奴ら!』で!!」 殊戸瀬「───え?」 灯村 「ヤケ酒が報われて良かったなぁ!笑い狂うまで飲んだ甲斐があったじゃねぇか!」 殊戸瀬「え……え……?じゃ、じゃあ酔っ払って笑ってたのって……」 島田 「へ?あぁいや聞いてくれよ。     殊戸瀬ってさ、いっつも人の話にはすぐに反応しねぇじゃん?     なのに晦が声をかけた途端に晦の隣に行くもんだからショック受けてさ。     んで、泣きながら酒飲みまくってあっという間に酔っ払ってさ。     アルコールに弱いくせによくやるよなぁ。     ……って、ところでなんでいきなり告白したんだ?」 殊戸瀬「え……や、えっと……───つ、晦っ!」 悠介 「へ───へっ?な、なんだ?」 突然叫ぶ真っ赤なお顔の殊戸瀬。 さらに俺の耳に自分の口を近づけて、俺にしか聞こえないような小声で─── 殊戸瀬「あ、の……さ、さっきの件、お願いしていい……?」 と言ってきた。 もちろん俺の対応は─── 悠介 「───ああ、任された。幸せになれよ」 ───クラスメイツを応援することだった。 殊戸瀬は満面で真っ赤な笑みで『もちろん』と言って、 倒れた丘野のもとへと駆けていった。 ……話を聞いてた俺にしか解らない突然の告白の意味。 でも───うん、任されたからには絶対に遂行するつもりだ。 さすがにこれでレイヴナスカンパニーが潰れる、なんてことは無いと思うが。 ……なんてことを思っていた時、顔を真っ赤に染めた彰利が現れた。 彰利 「ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!飲んでる!?ね、飲んでる!?」 悠介 「……いつ復活した」 彰利 「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!     なんかさ!なんかね!?酒飲んだら大変なことになってさ!!     666体のモンスターと数十体の幻獣たちが酔っ払っててさ!!     もう大元である俺なんか大変ですよ!?死んだもんじゃねぇや!!」 悠介 「………………」 質問に答えない親友は、それはもう酔っ払っていた。 両肩から飛び出てるダークセンチネルとアモルファスも同様で、 なにやらウネウネと蠢いている。 闇  『わ、……わーれはしこたま……ウゲェエエ……』 影  『さ……最高さ……?』 多分しばらくは夢の世界から戻ってこないだろう。 ……にしたってどうにかならんかこいつは。 悠介 「あー……ちなみに先輩は?」 彰利 「先輩……?あー、春菜ね……?春菜だったらぁ……ゥヒック……。     さっき俺が逃げないように影縫いしてきてさぁ……。     いやもうそれがほんと動けないのね……なんたって“影”縫いだからさ……。     で……えぇと……動けなくなった俺にぶっちゅしようとした春菜だったけど、     途中で襲い掛かってきた夜華さんと粉雪に吹き飛ばされてねぇ……。     その隙に俺は逃げてきたっていうわけらよぉ……」 悠介 「事細かな説明サンキュな。そしてお前はもう寝てたほうがいい」 彰利 「俺の愛はまだまだこれからぞ!?俺は酔っ払ってなんかいねぇえ〜〜〜っ!!!     俺が止まる時───それは!!ジョンブルマンに止められた時だ〜〜〜っ!!」 シパァンッ!!! 彰利 「へぶし!」 とりあえず顔面にきつけのナックル。 悠介 「止まったか?」 彰利 「お、押忍……暴走は止まったけど鼻血は止まりません……」 悠介 「黒い血なんて操って止めてしまえ」 彰利 「押忍」 ビシィッ!と鼻血を止める親友。 ……俺もだが、つくづく人間じゃないよな、ほんと。 彰利 「んでまあ……とりあえず     酔いの部分とアルコールは全てダークセンチネルに流してみたけど」 闇  『あぼろそべぶろろれべべぶら……見たなぁ……?』 悠介 「全力で狂ってるな」 闇  『わ、わぁ〜れは……心もち戦慄……』 悠介 「……いや、控えめなのか?」 闇  『いえいえワタクシ少々違ってございます!』 悠介 「…………引っ込めたほうが平和的じゃないか?」 彰利 「引っ込めると俺に酔いが届くんで。でさ、精霊の回復どんな感じ?」 悠介 「ん───……」 スッと自分の中に意識を埋没させる。 すると感じる、自分の内側の事柄。 内包している力や、自分が持つ力の在り方などが頭に叩き込まれ─── 悠介 「───……もう大丈夫だな。異常も無いし、新しい諸力も満ちた。     セルシウスの魂も安定したみたいだし───ああ、完璧だ」 彰利 「おお、そりゃ良かった。や、セルちゃんのこと心配だったのよね。     なんてったって悠黄奈さんの魂が宿った精霊だ、     もしものことがあったら俺も猛者どもも黙っちゃいねぇ」 悠介 「……そうだな。これで無茶してセルシウスを死なせようものなら、     あいつの魂が黙っちゃ───」 タラララスッタンタ〜〜〜ン♪ 悠介 「………」 彰利 「………」 狙ってんのかこのプレート……。 Next Menu back