───惑星ベジータ彰利───
【ケース68:晦悠介(再)/惑星ベジータ】 彰利 「なんか、ランクアップの音も懐かしいやね。     俺はもうずっとランクアップなんざしてねぇや」 彰利の呆れ声を耳に受け止めながら、 賢者の石をラグにして柄の部分に埋め込んであるプレートを見る。 と─── 悠介 「“空狭誘う法鍵の皇(ゲートキーパー)
”……?」 法鍵(ほうけん)……ゲートキーパー? ゲート……ラインゲートを司る者、って意味か……? ノート  『この場合、汝は人や竜よりも“精霊に近い”ことを表す』 悠介&彰利『オワッ!!?』 ノート  『……?どうした』 悠介   「あ、い、いや……」 彰利   「えっと……もう外に出て大丈夫なん……?」 ノート  『先ほどマスターが言った通りだ。既に回復している』 彰利   「あ……そ、そうすか」 気持ちはよく解るぞ彰利。 いきなり出てこられれば驚くよな、うん。 悠介 「それでノート、俺が精霊に近いっていうのは?」 ノート『ああいや、精霊に近いというよりも精霊そのものと言っていい。     喩えとしてだが、確かに汝の体は固体というよりも万象に繋がっている』 悠介 「万象って……」 ノート『汝は今、さほど意識するまでもなく雷を操れたり、     さらに自然の声を聞くことが出来るな?つまりそういうことだ。     体は確かにここにあるが、意識は万象に近いものに至っている』 彰利 「えーと、ノートン先生質問」 ノート『なんだ』 彰利 「それって……悠介自身がラインゲートみたいなものになってるってこと?」 ノート『少々違う。マスターはいわばゲートを開く“鍵”だ。     故に法鍵の皇であり、空界と狭界を誘うもの……つまり空狭誘う者。     私が空界の精霊であり、オリジンが狭界の精霊。     そして、そのふたつが一体となった世界の精霊と契約した汝が、     この世界の精霊となる。……解るな?』 彰利 「ノートン先生、解りません」 ノート『無理に理解しろとは言わない。だがいずれ解る。     考えてもみろ、マスターは全ての精霊と契約し、     体の中が常に諸力と魔力に満たされている状態だぞ。     そんな状態が長いこと続けば、体にその影響が出ないわけがない』 彰利 「ノートン先生、先生が出てくると御託が長くなる気がするのは気の所為ですか?」 ノート『……訊いてきた汝にそんなことを言われる筋合いは無いが?』 彰利 「お、押忍、そうですねごめんなさい」 ギロリと睨まれた彼はしこたま戦慄したそうな。 悠介 「……なぁノート。俺、時々思うんだがさ。     空界で暮らせば暮らすほど、どんどんと人間から離れていってないか?」 ノート『汝が望んだことだろう?     【守りたいものを守るためなら人をやめることさえ厭わない】、     汝はそう誓ったと思ったが?』 悠介 「そうなんだけどさ。     これ以上妙な称号が増えるのもどうかと思うわけだ、俺的には」 ノート『今さら無理だ。力を捨てたいなら止めはしないが、     皇竜王の存在が無くなっても戦争が始まらない保証などどこにも無いぞ』 悠介 「はぁ……解ってるよ。ちょっと言ってみたかっただけだ。     先に言っただろ?時々思うんだが、って」 彰利 「つまり思ったことを素直に言いたかったのね?シャイボーイ」 悠介 「やかましい」 けど……そっか。 俺自身が精霊ね……。 悠介 「あ、じゃあ質問。俺って誰かと契約出来たりするのか?」 ノート『出来る。だがそれは、汝自身が相手のことを認めた上でなくては成功しない。     故にそれが確信に至らない者は契約者と戦うのだ』 悠介 「あ───」 そうだったのか。 確かに今まで戦わずに契約してくれた精霊は、俺を認めてくれていた気がする。 南無 『じゃあもし俺がモミアゲと契約したい場合はどうすればいいほね?』 ノート『認めさせればいい。     手っ取り早い方法は自分の方が強いのだと認めさせることだが───』 ゴベキャア!! 南無 『ほギョオバッ!!』 ゴォッ───テコーーーン♪ 突然現れて突然モミアゲと言った骨は、全力で振るわれた拳によってお空の星と化した。 ノート『……その実力では無理だな』 彰利 「つーか普通に無理っしょ、力で認めさせるのは」 悠介 「んー……例えば俺はこいつのことをそれなりに認めてるけど、     もしこいつと契約したらどうなるんだ?」 ノート『確実に爆砕するな。     汝と汝の力と全精霊を受け入れられる者など、何処を探しても居ない』 悠介 「面白そうだ、契約しよう」 彰利 「ギャアイヤァアアア!!!!     キミなに聞いてたの!?爆砕するって言ってたじゃん!!いやだよ!?俺!!     いくら俺が無限の黒でもキミのような世界創造精霊と契約出来るわけ───」 とりあえず彰利の腕をギュムと掴み、逃げられないようにする。 悠介 「で……どうすればいいんだ?」 ノート『注意など聞いていないな……好きにしろ、黒である限り死にはしないだろう。     ……相手の力になりたいと意識し、己を“属性”として捉えろ。     地なら地、然なら然。己の属性を把握し、それを光の玉に変換する意識を解放し、     相手に流れるように念じろ』 悠介 「───」 彰利 「ギャヤッ───ギャアヤヤァアアアーーーーーーッ!!!!     念じちゃならねぇえーーーっ!!離して!離してぇええーーーーっ!!!     ブラックオーダー俺に力をーーーーっ!!!」 ヴンッ───ゴバァッッキィイインッ!!!!! 彰利 『ッ───ハァアアア……!!強くなったのがお前だけだと思うなよ!     今こそ修行の成果、見せてやる!!     ……なんで俺、こんな状況で修行の成果見せなきゃならねぇんだろうな……』 目の前の黒が悲しげな言葉を放つ。 だがその声のトーンとは裏腹に、腕を振り切ろうとする力は相当に高い。 ……いや、どんどんと増加していっている───!! 彰利 『幻獣パワー全開ッ!!』 バシィッ!! 悠介 「ツッ……!?」 彰利が俺の腕を払い、数歩下がる。 そうして向き合い、感じるのは───キングベヒーモスの気配。 悠介 「うわ……お前、アレをモノにしたのか?」 彰利 『力を支配下に置くのは苦労したがな……もはや誰にも負ける気がしない。     いい気分だ……そう───最高に、だ』 力が溢れる。 その場一体の穏やかな気配を完全に吹き飛ばすような黒の力が。 それでも彰利は正常だ。 口調は完全に変わっているが、それも黒の解放から来るものだろう。 驚いたな……吸収した生き物の力、全部モノにしてやがる。 彰利 『俺に足りないものは何か。それをずっと考えていた。     だが少し考えれば答えはすぐに出たよ。俺とお前は足りないものを補い合う子供。     それはつまり、お前が持っているものを辿れば良かったんだ。     努力、志、直向さ、自信……足りないものはいろいろあった。     だがこの状態の俺はそんなものをとうに超えた』 悠介 「ふむ……そか。じゃあ自信がついたところで契約しよう」 彰利 『ごめんなさい、勘弁してください』 総員 『折れるの速ッッ!!!』 広がった黒の気配を本能で感じ取ったのか、遠巻きに俺達を見ていた全員が叫んだ。 というか俺も。 彰利 『愚かだな貴様ら。いくら俺が強くなろうが、     それはキングベヒーモスが他の幻獣を食らったくらいの強さだ。     傷があったとはいえキングベヒーモスを両断するようなヤツが相手では、     いくら俺が強くなったとはいえそうそう勝てるわけもない』 真穂 「うわー、弦月くん口調が全然違う」 中井出「完全に黒化すると気が昂ぶるって本当だったんだな」 いや……どうやら逆らしい。 “黒を支配した”ことで、今は物凄く冷静になってる。 驕りも無ければ自信過剰なんて愚考も無い。 そのためか、血を思わせるような緋い目と、冷酷な死神を思い出させる黒衣が妙に似合う。 ……この状態の彰利と戦えたら、相当に面白いだろう。 けど───それは今じゃない。 もっと歳を取って、地界でいう寿命の歳近くを迎えた時にするものだ。 それまで、俺ももっと強くなろう。 今のこいつはここまでの強さで強くなることをやめるような馬鹿じゃない。 ───とまあそれは置いといてと。 悠介 『覚悟ォオオオーーーーーーッ!!!!!』 彰利 『───!させんっ───!!』 瞬時に神魔竜人を解放して疾駆。 契約の理を身に刻み、後ろに低く遠くに跳躍する彰利を追った。 そう、それはそれとしてだ。 今はとにかく契約というものを体験してみたい。 そしてここに居るやつらの中でそれが可能と思われるのは彰利しか居ない!! 彰利 『諦めの悪いヤツだ……誰に似た───?』 悠介 『誰にも似ない!俺は俺だ!!』 手を伸ばす。 速度ではまだ俺の方が上だ。 が───ヒュキィンッ!! 悠介 『チッ───!』 伸ばした手に向け、漆黒の剣が振るわれた。 見覚えのある造形───月操剣ルナカオスだ。 彰利の黒の全てを身に受け、黒と緋に染まった剣が時折に鈍く輝く。 彰利 『引け、悠介。ここは争いの場ではない筈だ』 悠介 『契約させろ。それで手を引く』 彰利 『頷けないな。爆発すると知って、何故そんな無謀が出来る』 悠介 『サン・ハイ』 総員 『面白いからだ!!』 彰利 『……貴様らな』 悠介 『隙ありぃぃいいっ!!!!』 ヒュオガギィイインッ!!! 彰利 『ツッ───』 即座にラグを奔らせ、ルナカオスを弾く。 そして今度こそ契約をせんと手を伸ばし───ヒュオゥッ!! 悠介 『とあっ!?』 再び振るわれたルナカオスに、俺は手を引っ込めた。 彰利 『生憎と武器の貯蔵は十分だ。     落ちた剣もこの剣も贋作だが、黒で象るのならどれであろうと武器になる。     お前が世界を有するように、俺も黒という我が身自身の世界を有する。     たとえば───』 長い長い跳躍からの着地と同時、彰利としが数歩バックステップしたのちに指を鳴らした。 パチン、という音が嫌に耳に届いた───次の瞬間。  ───ズガガガガガガガガガガンッ!!!! 悠介 『───!?』 彰利の体から放たれた黒が宙に舞うとカタチを作り、 やがて剣となって地面に突き刺さった。 彰利 『“無限の剣製”。(アンリミテッドブレイドワークス)武器の固有能力こそコピー出来ないが、     折れも曲がりもしない剣を作り続けることなど造作無い。     さらに、コピーは出来ないが付加することくらいは出来る。     月操力の付加に、鎌の力の付加、キングベヒーモスの極光紫電の付加……。     そんな力を使えばここら一帯がどうなるか解る筈だ。     ……引け、悠介。近づけば攻撃を加える』 悠介 『……というかさ、そこまで全力出すほど契約するの嫌か?』 彰利 『冗談ではない。故に引け』 悠介 『………』 とても正直なヤツだった。 どれだけキリッとしてても、彰利は彰利ってことか。 となれば─── 悠介 『“伎装弓術(レンジ/アロー)───草薙の叢雲(ツムガリノタチ)”!!』 彰利 『───!』 即座にラグを弓に変え、創造した剣を発射。 だが─── 彰利 『“熾天覆う七つの円環(ブラッディ・アイアス)”』 ゴゴォオッギキィイイイインンンッッ!!!! 風を切り裂いて彰利へと飛翔した剣はしかし、 緋と黒を混ぜたような色の、七枚の巨大な花弁によって受け止められた。 さらに彰利は剣が消滅するのと同時に花弁を弓と剣に変換し───ギリィッ!! 彰利 『“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”』 一気に引き絞った弦を離すと、捻れた刀身……螺旋の剣を矢として放ってきた。 悠介 『───!“架空・雷迅槍(ヴィジャヤ)”!!』 空気を捻り穿ちながら飛翔する剣を、虚空から放たれた雷を纏う槍が迎え撃ち、粉砕する。 貫けるかと思ったヴィジャヤだったが、 螺旋剣にキングベヒーモスの能力が付加されていたのか、そうはいかなかった。 そんな事実に驚きながら構える中、剣と槍の激突がその場に凄まじい砂煙を巻き起こすが、 それを文字通り煙幕にした攻撃は既に発射されていた。  ───ガガォンガォンガォオオンッ!!! まるで弾丸を放ったような音とともに煙を裂いて現れるのは剣の雨。 それを見た俺は弓を剣へと変え、出し得る最大の速度で剣を弾き飛ばしてゆく。 悠介 『っ……!!』   ギャリン、ギャリンと弾く剣、次々と後方に溜まってゆく剣。 果ては無いのかと思うほどの剣の弾幕と、止むことの無い弾丸を放つ音。 そして─── 悠介 『───!いぃっ!!?』 ヒュフィィインッ!!! 悠介 『くあっ───!!』 突如後ろから振るわれる斬撃。 跳躍することで躱さなければ、今頃ひどい痛手を負っていた。 放ち、弾かれ、俺の背後に溜まった剣から這い出てきやがったのか……!? 自分自身が黒だから、転移の音も出さずに移動できるってわけか、くそっ。 でも─── 悠介 『やべぇ……すげぇ面白い……』 戦っててここまで楽しめる相手なんてそう居ない。 楽しみは取っておくものかもしれないが───いや落ち着け。 目的を履き違えるな。 俺の目的は契約を体感することだろ? 悠介 (にしても───) 自分で放った黒い剣を自分の身で受け止め、先から吸収していっている親友を見る。 悠介 (つくづく異常だな……) でも、人が想像する死神って存在なんて、ああいうものなのかもしれない。 ……ゴクリ。 悠介 (いやいやゴクリじゃない!!今は戦いを楽しむよりも───) そう、契約を体感することが先だ!! せっかくの精霊化だ、試せることは試したい!! というわけで、まだ完全に慣れてはいないが─── 悠介 (神魔竜、開放───) 竜人状態で神魔竜を解放。 それに驚愕する親友の隙をついて神速で接近。 そのままの勢いで光の玉と化し、彰利の額の中に侵入!!  ドォッッガァアアアアアアアンッ!!!! 悠介&彰利『ギャアアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!』 ───した瞬間、全てが爆発した。 急に入ってきた精霊十三体と皇竜王の力に耐えられなかった彼は、 綺麗な花見景色とともに爆発したのです。 ……もちろん俺も。 その後、爆発はしたもののなんとか生還した俺と彰利は、 周りのみんなから散々怒られることとなる。 ───そうした秋の気配の中……俺の初めての契約は失敗に終わった。 【ケース69:晦悠介(再)/時には立ち止まって今日までを耽るのもいい】 悠介&彰利『はぁ〜〜……』 散々怒られ、花見の席の隅のほうでちまちまとお茶と団子を食う俺達。 やったことに後悔は無いが、 なんというか久しぶりに仲間外れ意識を思い出させられた気分ではある。 彰利 「キミねぇ……いくら興味が沸いたからって、     神魔竜解放してまで契約しようとするこたないでしょ?     あの力の質量の状態で“力”として俺の中に入りゃあそら爆発もするわ。     解っとる?キミ今ラインゲートの鍵なのよ?     光のラインゲートひとつでも俺は嫌うってのに、それ以外が12個も。     そんなエネルギー、いくら俺でも許容出来ねっつの」 悠介 「まあ気は済んだし、いいさ。お前が相当実力つけたのもよく解ったし」 彰利 「親友とのバトルで普通神魔竜使うかね……卑怯モンめ」 悠介 「なんとでも言え。でも、約束の喧嘩がこれでかなり楽しみになった」 彰利 「……キミさ、なんか最近バトルマニアになってきたよね」 悠介 「……自覚はしてる」 彰利 「その所為で俺、猛者どもに『惑星ベジータ』ってあだ名つけられたんですよ?     もうホンマに堪忍してやぁ……」 光との衝突とともに爆発した彰利は、さっき以来『惑星ベジータ』と呼ばれている。 先ほどまであれだけ凛々しかった彼を見ても尚、彼ら彼女らは容赦無かったのだ。 当の彰利は 『今まであだ名とかいろいろ付けられたけど、惑星扱いされたのなんて初めてだよ俺……』 と、何気に落ち込んでいたりした。 悠介 「さて……こうお花見したはいいが、手持ち無沙汰だな」 彰利 「同感。今まで強くなるためのことだとか     やらなきゃいけないことに振り回されてた所為で、     こういきなり平穏の場を設けられると……ねぇ?     しかも一緒になって騒ぐことを禁止されてんじゃあお手上げじゃい」 悠介 「どうしたもんかな」 彰利 「ブラック将棋でもやる?」 悠介 「お前、こっちの駒を変換するからやめとく」 彰利 「あれはあれで面白いと思うんだけどなぁ」  ■ブラック将棋───ぶらっくしょうぎ  ブラック将棋とは、彰利の“黒”で作った将棋盤と駒でする将棋である。  駒が彰利の一部のため、ピンチになると駒の文字を変えて有利に立とうとするため、  一度イカサマをされた相手は二度と相手をしてくれない。  *神冥書房刊:『昇技・人体頭破の怪』より 彰利 「ンマー……んじゃあアレ、やっちまう?」 悠介 「アレ?……ああ、歴史修正か?」 彰利 「そ。こう暇だとどうにもね。     皆様は俺らのことなど気にせずに楽しんでるみたいだし」 悠介 「そう───……でもないみたいだぞ」 彰利 「む?あ」 納得しかけたその時、宴会の場から外れて来る真っ赤なふたりを確認。 リアナ「んふふふふ〜……師匠〜〜……わたし、こう見えても結構強いんですよぅ〜」 悠介 「そうか。酒にも強くなろうな」 リオナ「晦ぃ……わたしは、わたしはお前にだったらリアナを任せていいと思ってるぅ〜」 悠介 「剣術の修行には付き合ってもいいが、その他は干渉しないぞ?」 ……マグベストル姉妹である。 ぐでんぐでんに酔っ払っているふたりは俺を囲むと笑い始め、やがて─── 悠介 「……寝るか?普通……」 人の足を枕にして寝てしまった。 彰利 「……どうする?」 悠介 「どうするもなにも───     マグベストル姉妹のアルコールと酔いを吸い取るブラックホールが出ます」 とりあえず要らんもんは捨てましょうだ。 パチンと指を鳴らすと出現するブラックホールが、 酔いは解らないが、アルコールを吸い込むと消滅する。 そして───途端にパチクリと目を覚ますふたり。 リアナ「え……うあわぁっ!!?     すすすすいません師匠!!師匠の足を枕代わりにするなんて───!!」 リオナ「……ぐぅ」 リアナ「姉さん寝直さないで!お願い!!」 リオナ「うぅ……なんだリアナ……。     知人がどんな地位に立ってようが、わたしは遠慮なんてしないんだぞ……」 遠慮しないから枕代わりか、知人よ。 悠介 「ほら、起きろってリオナ。こんなところで寝てると風邪引くぞ───ってそこ。     微笑ましいものを見る目でこっちを見るな」 彰利 「極上ガイアスマイルならOKかな?」 悠介 「余計にやめろ」 くっくっくと口を押さえて笑う親友。 そんなたわけを余所に、さらに体勢を変えて寝ようとするリオナの頭に、 創造したピコピコハンマーをピコッと落とした。 リオナ「うわっ……?な、なんだ今のは」 がばっと起きるリオナ。 俺はすかさず伸ばしていた脚で胡坐をかき、枕にされることを拒絶する。 さて、なにはともあれまずは 悠介 「おはよう」 リオナ「……寝てない」 寝てたが。 悠介 「まあいいや、良かったら話に付き合ってくれないか?退屈だ」 リアナ「だったら師匠!わたしに稽古をつけてください!!」 悠介 「マテ、落ち着け。俺はたった今、話に付き合ってくれって頼んだばっかりだぞ」 リオナ「わたしも魔術を教えてもらいたいところだが───話というのも気になる」 悠介 「いや、話自体大したことじゃないぞ。     時間を有意義に使いたいなら修行に移行したほうがいいと思う」 リアナ「あ……それならわたし、師匠がミルハザードを倒した時のことを聞きたいです」 悠介 「ミルハザードを倒した時の……?」 リアナ「はい。わたし、師匠が強いのは確かに知ってますけど……     でもその強さがどれほどのものかは全然知らないわけでして……」 悠介 「なるほど。教わるにしても、得体の知れない強さを持つ相手じゃ不安か」 リアナ「えぇっ!?あっ、やっ……そ、そういう意味じゃなくて……!」 悠介 「ははっ、冗談だ。……彰利、頼めるか?」 彰利 「任せてくれたまえ。一度見たものでも案外飽きないものさね。     俺も予習復習しときたいし。じゃあ晦悠介成長の記録、始まり始まり〜」 悠介 「……微妙な名前だな」 ともあれ、なぜか的を“俺のみ”に集中させた上映会が開かれた。 ……さらにどういうわけか、子供の頃の俺から。 悠介 「マテキサマ。何故わざわざここから───」 リアナ「〜〜〜っ……か、か、かか……かわいいですぅううう〜〜〜〜っ……!!!!」 彰利 「ね!?可愛らしいっしょ!?最強っしょ!?     コレがこんな寝言は寝て言え魔人になっちまうんだから世の中解ンねぇよ俺!!」 悠介 「人を指差して『こんな』とか言うの、やめような、親友」 始まった途端に画面に釘付けになってしまったリアナを見たら、 やめろなどと言える筈もなく…… 結局その場は、本当に俺の成長の記録観察会と化してしまったのだった……。 ───……。 ……。 リアナ「……人の醜さって、地界も空界も変わらないんですね……」 そうして見ているうち、やはり避けては通れない様々な場面に遭遇。 リアナとリオナは唇を噛み締めるようなやりきれない表情で、 それでも画面をずっと見続けていた。 リオナ「わたしたちにもいろいろあったが……ここまでは酷くなかったな。     大人が子供を殴るために神聖な場所に通うなど、間違っている……」 ……どちらにせよ、自分の成長の記録を見られるのって居心地悪いな、うん。 ───……。 リオナ「ちゅーがくせーの頃の晦はヤケに元気だな」 リアナ「それに周りの人もやさしいです。しょーがくせーの時はあんなに酷かったのに」 彰利 「女教師が平気でいたいけな子供を殴る時代じゃったからのぅ」 悠介 「あれはお前の自業自得だろうが」 ───……。 リオナ「……こーこーせーになってから、また暗くなったな」 リアナ「また周りがヒドイ人ばっかりになりました……」 彰利 「思えば高校が一番ヒドかったなぁ。味方なんて及川だけじゃん」 悠介 「及川、まだ教師やってるのかな」 彰利 「やってるっしょ、あやつには教師が合ってるって気がするし」 悠介 「……だな」 ───……。 リアナ「あ……死神と戦ってます」 リオナ「この頃はまた随分と動きが鈍いな」 悠介 「一介の高校生になにを望んでるんだお前は」 彰利 「今のキミと比べりゃ、そりゃ遅いって」 ───……。 リアナ「……?画面がなんか変ですよ?一度見たところをもう一回……」 彰利 「悠介ン中には現代と未来の悠介の記憶があるからね、仕方あんめぇ」 ───……。 リアナ「あ……ここで初めて『世界の創造』をしてるんですね」 彰利 「まさかねぇ……ルドラがスッピーだったとは夢にも思わんかったよ」 悠介 「あの強さも頷けるってもんだよな」 彰利 「ね……ほんとマジで強かったし」 ───……。 ……。 リアナ「あ……空界だ」 彰利 「密猟者が相変わらず殴られてますな。バウンドナックルって痛ぇのよね」 ───……。 リアナ「わわわっ……いきなりシュバルドラインに……!!」 彰利 「ヒヤヒヤするんだよね、このバトル……。明らかに力量不足ですよ」 悠介 「悪かったな……!!成り行きだったんだから仕方ないだろっ!」 リオナ「断るわけにはいかなかったのか?」 悠介 「逃げられる気がまるでしなかった」 リオナ「まあ……そうだな」 ───……。 ……。 そうして、リビングアーマー、マグナス、ゼプシオンと戦い、 ゼットに一度消滅されかけ、黄昏でゼプシオンと戦い、それから空界の精霊との戦い。 リアナとリオナは終始唖然とした顔で見続け……やがてミルハザード戦。 スピリットオブノート戦でも十分驚いていたふたりだが、 やはり空界に最大の存在感を見せ付けていた黒竜王との戦いだ。 ふたりは何度も息を飲みながらその戦いを見届け───やがて息を吐いた。 だがそれも束の間。 幻獣との戦いに続き、レヴァルグリード……逝屠との戦い。 だがまあそれが長引くことなく終わったため、ふたりはようやく安堵の溜め息を吐いた。 リアナ「あぁ……なんかもう敵わないって感じです……」 リオナ「お前、アカデミーに入る前からあんな無茶してたのか……」 彰利 「レヴァルグリードって逝屠だったんだ……なんで黙ってたのさ」 悠介 「言っても気分悪くするだけだろ」 彰利 「そらそうだけどさ」 悠介 「で、リアナ?やっぱり俺に教わりたいか?     俺としては自分は人に教えてやれるほど     強いだなんて思ってないから遠慮したいんだが」 リアナ「と、とんでもないです!これからもご教授よろしくお願いします!!」 悠介 「……この場合、とんでもないって言葉、適切か?」 彰利 「や、俺に訊かれても」 悠介 「あー……えっと、リオナは?独学で───」 リオナ「今の映像を見て確信した。空界にはお前以上の魔術師が居ない。     だったらお前に教わるのは当然だろう」 悠介 「………」 ああ……なんだろな。 なんか今、蝶々でも飛んでたら追いかけたい気分だ。 むしろそう……現実逃避したい。 悠介 「───よし、修行しよう」 リアナ「お供しますっ!」 彰利 「よっしゃ付きおうたる!」 リオナ「早速か。いいだろう」 いろいろ考えるのはやめだ。 今はやれることをやって気分を転換しよう。 旅に出るのはその後でいい。このままじゃ気分が滅入る。 ───そう意識した俺は早速花見場所から離れたところへ転移し、黄昏を解放。 彰利、リアナ、リオナとともに修行を開始するのだった。 【ケース70:晦悠介(超再)/平穏無事だけが正しいとは限らないけど腹の底から愛叫ぶ】 ───……そうして、鍛錬に打ち込むこと数時間。 ザッ…… リアナ「はっ……はぁっ!!か、はっ……!!」 疲労がピークに達したのか、リアナは両手両膝を付いて立ち上がれなくなっていた。 リオナはリオナで魔術行使のしすぎで魔力が枯渇し、倒れて目を回している。 彰利は───ゴォオオオッ!!パキィンッ!!! 彰利 『……俺は。まだまだ強くなる』 黒化をし、まだまだ平気な顔で自己鍛錬を努めていた。 先ほどまで組み手をしてたんだが、ほんと力の枯渇ってものを知らないヤツだった。 もう平気でダークネスキャリバー撃ちまくってくる撃ちまくってくる。 困ったもんだからセルシウスの力を上乗せして開いた “氷が拠代たる絶氷の霧(クイティナルラインゲート)”をラグにエンチャントさせ、 セルシウスキャリバーで氷付けにしたんだが……自力で復活しやがった。 ……まああいつはほっといても大丈夫だろう。 悠介 「リオナ、お前はまず、     黄昏中に存在してる魔力を自分の魔力に変換できるように努めたほうがいい」 リオナ「うぅ……」 悠介 「リアナは初手はいいんだけど、それが弾かれると焦りすぎる。     戦いっていうのは思う通りにはいかないものなんだから、     あまり自分のイメージする敵に惑わされるな」 リアナ「はっ……はぁっ……は、はい……師匠っ……!!」 悠介 「よし。それじゃあ体力を回復したら自分の影との実戦鍛錬だ。     自分との戦いだ、よく見て自分の癖を直していけ。     相手が人間で、よく戦ったりする相手ならその癖を囮にも出来るようになる」 助言をしながら癒しの魔法をリアナに流し、 体内に溜まった疲労物質を逆に栄養に変換してやる。 リアナ「あ……体が軽くなりました」 悠介 「すぐ構えろ。それが合図になってお前の影が創造される」 リアナ「───はい!」 リアナが立ち上がって剣を構えると、すぐ目の前にリアナの姿が創造される。 俺がよくやる自分との鍛錬だが、武器は一応斬れないものにしてある。 ただし剣であることには変わりは無い。 斬れはしないものの、当たれば相当に痛いのは揺るがぬ事実だ。 そんな条件の中を気にも留めずに疾駆し、自分との戦いを始めるリアナ。 そんな彼女を横目に、今度はリオナに癒しの魔法を流してゆく。 リオナ「う……っ……つ……」 悠介 「リオナ、お前は他を頼ろうとしなさすぎだ。     だから大気中にある力を自分の力に変換出来ないし、     ここぞって時に意地になって無茶をする」 リオナ「わ、解ってる……!性分なんだから仕方ないだろっ……!」 悠介 「性分の所為にするな。変えようと思えば変えられることだろ?」 リオナ「うぐ……───じゃ、じゃあどうしたらいい。     わたしだって自分の魔力だけじゃあすぐに限界が来ることくらい知ってる。     どうしたらマナを魔力に変換出来るんだ……」 悠介 「んーーー……───リオナを俺のイメージと連結させる糸が出ます。弾けろ」 リオナ「なにっ!?ちょっと待て!なにをする気だ!!」 悠介 「なにって……」 がばーっ!と起き出すリオナに向けてとりあえず糸を投げ、繋げる。 悠介 「お前の意識に俺の意識を叩き込む。それで魔力変換の仕方を覚えてくれ。     ていうかアカデミーのマナ基礎力学でまず覚えることってこれだろ?     なんで知らないんだよお前は……」 リオナ「う、うるさいっ、その頃は学費を間に合わすために頑張ってたんだっ。     取れない時間だってあったんだ、仕方ないだろっ……!」 悠介 「……ふむ。じゃ、これが終わったら勉強でもしてみるか?     ああ心配するな、教科書や教授の言葉、     俺が独学で学んだことや精霊たちが教えてくれた知識は全部頭の中に入ってる」 リオナ「………」 それは、とても嫌そうな顔だったそうだ。 そんな彼女を操り、魔力変換と吸収の仕方のイメージを叩き込むと、すぐに解放する。 リオナ「……、これが……魔力変換……?」 するとリオナは自分の体に湧き上がってくる魔力に驚きを隠せず、 自分の手を見て震えている。 リオナ「驚いた……こんなにも力が満ちてゆくのを感じられるものなのか……」 そもそも今まで魔力変換の仕方を知らなかったのがどうかしてたと思うが。 ともあえ体に魔力を満たしたリオナは軽く魔術を唱え、それが成功すると再び驚いた。 リオナ「きちんと自分の魔力として放てる……すごいな。     しかも放った先から魔力が変換される……」 悠介 「とすると、もうコツは押さえてくれたんだな。覚えるのが早くて助かるよ」 リオナ「な、なぁ。こんなにも魔力が溢れてるということは、     わたしは無限に魔術を行使できたりするのか?」 悠介 「この世界でなら。魔力の場が精製されてるから、     コツさえ掴んでれば魔術を何発でも行使出来るぞ。     ただし注意。ここでの鍛錬に慣れすぎて、     魔術を連発するなんて癖は絶対につけないこと」 リオナ「解っている、そんな馬鹿じゃないぞわたしは」 悠介 「そか。それじゃあ落ち着いたところで次の魔術を───」 リオナに魔術の基礎から上級魔術の在り方を教えてゆく。 ただし魔術回路がまだそこまで大きいわけではないので、 中級よりやや+の魔術までしか行使出来ないようだ。 今はそこを引き伸ばしていけば、もっと上を目指せると思う。 リオナ「……なぁ晦。わたしはヤムベリングさまくらいの魔術師になれるだろうか」 悠介 「諦めなけりゃなれるだろ」 リオナ「……そうだな、そうだといい。せめて不自由なく暮らせるくらいの力は得たい。     悪戯に人を傷つける力じゃなく、妹を守ってやれるくらいの力を……」 魔術行使をしながら呟くリオナは、どこまでも真っ直ぐだった。 けど後ろを振り向かないなんてことは無い。 今も形見の剣の片割れを探すことは諦めていないようだし、 今まで生きてきたなかで後悔していることもあるのだそうだ。 そんな話を聞いたから、というわけでもないが─── 俺は小さく苦笑するとその場を離れ、自分の鍛錬を開始した。 ───そう、目的を履き違えちゃいけない。 俺の力は、悪戯に人を傷つけるものじゃなく……守りたいものを守るための力。 ようは、生きた世界こそ違ったが、俺とリオナはなんとなく似てるんだ。 そう感じた時、なにが面白かったのかは解らないけど俺は笑っていた。 こんな日があってもいいなって思えたのはそんな時で─── やがて一通りの修行を終えた時、その場はもう真っ暗だった。 猛者どもや空界のみんなは呆れた顔で俺達を向かえ、それでもやっぱり笑ってくれる。 そんな状況に俺と彰利も笑って、そうして……みんなと別れた。 もうすっかり夜だけど、やることは別にある。 だから体の疲れを癒すと、俺と彰利は遥か昔の空界へと時空転移した。 最後になるであろう、空界自体を震わせた後悔を断ち切るために。 Next Menu back