───そうして、たくさんの時間が過ぎた。

後ろを振り返ってみても景色しか見えない世界の下で、

景色の先にある自分の過去を振り返る。

苦笑と笑みが繰り返される日常と、涙と辛さが繰り返された日常。

人生っていうのは本当に不思議なもので、

どんなに辛いことが起きようが、それが無ければ今の自分が無いと思える。

けれど『それが無ければ』と思うことだっていつでもある。

それでもいつか思って欲しい。

今の自分は嫌いじゃないと思えた時、その全てが過去からの贈り物だということに。

未来から贈られるものは無い。

人生を旅だと言うのなら、過去は荷物で現在は自分、そして未来が目指すべき最果てだと。

それを理解した先で笑えているのなら───きっと自分は幸せなんだと思う。

















───小さな王様と小さな子供の物語───
【ケースEND:弦月彰利/─日常─(DayByDay)
】 ───……何気なく立ち止まって空を見上げてみた。 仰いだ空には秋の空があって、蒼と呼ぶには少し濁った姿をみせている。 彰利 「はぁ」 吐き出した息はもう白い。 冬まであと少しという秋の季節、静かに歩く景色を見て微笑んだ。 いつまでも変わらないその景色を、自分はいつか『懐かしい』と唱えるだろうか。 そんなことを小さく考えて苦笑した。 みずき「おとうさーん!俺ちょっと深冬と遊んでくるー!」 彰利 「あー行け行け、行ってこーい」 時の流れを感じている。 走ってゆくその姿は、かつて自分がひとりの教師に救われた頃の姿。 小学に通う自分の子供の後姿を見て、やっぱり小さく苦笑する。 彰利 「教師か……キリュっち、どうしてるかな」 周りの歳に合わせるように体を作りかえるのは、俺と親友とで出した提案だった。 他の人が呆れるくらいに生きる存在は、寿命を受け取った姿のままの時間が大半だ。 普通の死神よりも色の濃い自分だって、親友と同じく長い時を生きる。 自分で姿を変えない限り、ずっとこの姿だろう。 そんな、昔よりもよっぽどバケモノな自分達。 それなのに昔よりも周りの心が温かいと感じられた。 彰利 「………」 もう一度見る景色。 夕焼けが草原を染める黄昏の頃、 俺はその草原にある大木の傍に立ち、今までのことを考えた。 彰利 「……なぁ。俺は今、幸せか?」 自問自答は小さな疑問。 だけど、そんな疑問は時を待たずに解決する。 なにせ、そもそもが愚問だって心の中が笑ってる。 彰利 「……よしっ。先回りして深冬ちゃんでも攫うかぁ。     みずきの悔しがる顔が思い浮かぶわ」 クックッと笑いながら転移をする。 もう使い慣れたこれも、元は誰かの犠牲の上で身に着けたもの。 いつだって過去に悩まされてきた自分は、気づいてみれば過去にこそ救われていた。 そんな仕方の無いことを思うと、やっぱり笑わずにはいられない。 矛盾から物事が始まるというのなら、自分が描く絵画は矛盾だらけだろう。 それでもまだ笑っていられる。 だったらそれでいいと思った時、やがて景色は変わった。 親友が住むその場所、蒼空院邸に。 彰利 「………」 その場に流れる空気を胸いっぱいに吸い込むと、体がマナと癒しで満たされるのを感じた。 広すぎるくらいの庭に立つ癒しとマナの象徴である大樹は、あの日からずっと変わらない。 見上げることで思い出すのは、 一年中緑を見せる樹として一度はマスコミたちに取り上げられそうになったあの頃。 懐かしいと思うより、 そういう野次馬根性が嫌いな親友がマスコミどもを蹴散らしたことが可笑しかった。 そして─── 彰利 「やっ、深冬ちゃん」 そんなマナの樹の下で、 ゲッペタンを持ちながらうとうととしている深冬ちゃんを見つけた。 深冬 「……おじちゃん」 彰利 「おじちゃんじゃなくてお兄さん。いい加減覚えようね……」 深冬 「んに……」 出る溜め息は苦笑めいたものだった。 マナの樹を見上げながら親友の娘に近づいて、その小さな頭を撫でる。 俺が降り立ったことに反応した召喚獣どもがギロォと俺を睨むが、 相手が俺だと知るとすぐに殺気を消した。 ……なぁ親友、番犬……とは言わないだろうけど、 それの代わりに小さな状態で召喚した召喚獣を庭に放っておくのはどうかと思うぞ。 確かに小さなベヒーモスなら犬に見えなくもないが……。 目に見えるだけじゃないんだろうな、ここに居るの。 絶対にインビシブル使って相当数の召喚獣を放ってる。 ……いいや、気にしないでおこう。気にしたら負けな気がする。 彰利 「悠介は?どうしてる?」 深冬 「竹とんぼの飛ばし方、研究するって……」 彰利 「研究するって……?」 深冬 「さっき来たみずきくんに『たけこぷたー』付けて、     空の彼方に飛ばして……それ追っていった……」 彰利 「……なぁにやっとんだあいつは……───ぷっ、あっはっはっはっはっは」 以前ならば自分が言われていたような言葉を溜め息とともに吐き出すと、 なんだかそれが可笑しくて笑った。 彰利 「はぁ……なんだろね。今すごい心の中が穏やかだ。     悠介も、呆れるように振る舞ってても楽しくて仕方なかったのかな……」 少し考えてみて、あれは本気の呆れだったなって思いながら寝転がる。 そんな俺を見て、親友の娘がその小さな目で俺を見下ろした。 深冬 「……ねぇ、お兄さん」 彰利 「んー……?」 深冬 「お父さんって……わたしのこと苦手なのかな」 彰利 「ん……どうしてそう思う?」 深冬 「だって……お母さんとは普通に話すのに、     わたしと話す時は真っ赤になってガチガチで……」 彰利 「親友よ……恋する思春期男ですかキミは……」 呆れる俺を見て、深冬ちゃんが返事を待つ。 嫌われていたらどうしよう、っていう顔だった。 俺はそんな彼女の頭をくしゃりと撫でると、自然な笑みを贈った。 彰利 「大丈夫。あいつはね、自分の娘を邪険にするようなヤツじゃないよ。     むしろね、深冬ちゃんのことが大事すぎて、どう接したらいいか解らないんだ」 深冬 「そう……なのかな……」 彰利 「はははは、あいつはアレで恥ずかしがり屋さんだからなぁ。     でも……うん、いつか解るよ。     あいつはね、『守ろうと思ったもの』は意地でも守るから」 深冬 「わたしも……守ってくれるかな……」 彰利 「当たり前だろ?なんたって、あいつは家族を嫌うような外道じゃない」 深冬 「………」 彰利 「………」 ……あの日───深冬ちゃんが生まれた日。 悠介の希望もあって、 セルシウスに取り上げられた深冬ちゃんは、やっぱり体の弱い子供だった。 でもここにはマナの樹も癒しの樹もある。 苦しむようなことなく育つだろうと。 だから俺は案外安心していた。 なんだかんだでやっぱり、娘が苦しみながら生きるのは辛いんだろうと。 けど───悠介がとった行動は、深冬ちゃんと癒しの波動との乖離。 結果、深冬ちゃんの体は癒しの大樹によって癒されることはなく、 時折体を壊して倒れるような子供のままに育ってしまった。 でも─── 彰利 「……なぁ深冬ちゃん。深冬ちゃんはさ、自分の体が弱いことをどう思う?」 深冬 「……?知らない」 彰利 「知らないって……辛いとか思わないか?」 深冬 「辛くないよ。だって……あ───そう、だね……そうなんだ」 彰利 「?」 深冬 「ねえ、おじちゃん」 彰利 「お兄さん」 深冬 「お兄さん、わたしね、お父さんのこと大好きだよ?     だってね、いつでも傍に居てくれるから」 彰利 「………」 深冬 「これって……守ってくれてることになるのかな」 彰利 「当たり前」 もう一度くしゃりと頭を撫でて、俺は星となった自分の息子を思った。 ……あの日からそう間も無いうちに、俺の息子───みずきは産まれた。 けれど深冬ちゃんはそれから約一年後に生まれることになる。 死神の母胎の構造なんて知らないけど、やっぱり普通の人とは違うのだと実感した。 でも……それだけの時間をかけて産まれたというのに体は弱く、 なにをするにも人の倍以上に努力しなければいけなかった。 けど、努力を諦めたことなど一度もない。 体は弱いけれど、確かにあの日に親友が言った通りに彼女は心の強い子供だった。 彰利 「深冬ちゃん、どっか遊びに行こうか。みずきが戻ってくる前に」 深冬 「やだ……ここでお父さんを待ってるよ……」 彰利 「……みずきは?」 深冬 「知らない」 彰利 「……ぶふっ!!だぁっはっはっはっはっは!!くははははははは!!!」 深冬 「……?」 俺は、息子の思いの行き着く先を考えて爆笑した。 だってしょうがない。 自分の息子は深冬ちゃんが好きで、だけど全然相手にされていないのだから。 彰利 「オ、オフッ……!オッケオッケ……!!     や、そこまできっぱり言えるなら大丈夫だ。     その調子で、思いっきり悠介に甘えてみろ。     努力をすること以外なら甘えさせてくれる筈だから。     顔を真っ赤にして───ブフゥ!!くっ……くふふふふ……!!」 深冬 「……楽しそうだね……」 彰利 「そりゃもブフッ!!オフッ……!オブフッ……!!」 子供が産まれたことで、案外見る視点ってのが変わった気がする。 ガキすぎたあの頃よりももっとしっかりした意思を以って、前を向いていられる。 それが錯覚だろうが気の所為だろうがどうでもいい。 こうして笑いながら幸せに浸っていられるなら、こんなのも悪くない。 彰利 「そういやさ、深冬ちゃん。悠介って突然居なくなることって無い?」 深冬 「……毎朝、気づくと居なくなってる。     お母さんは『一日に一回はやらなきゃ気がすまないらしいから』って言ってるけど     なんなんだろう……」 彰利 「そかそか、自己鍛錬も休まずやってるってことか」 もちろん俺も休んでいない。 死神に卍解を説く中で、自己鍛錬をして常に引き離されないように頑張っている。 いつか、あの黄昏の景色で満足のいく喧嘩をするために。 ……まあ、これから産まれてくる子供や今子供なこいつらに、 戦うための技術を教え込むつもりはない。 これは自分たちへの戒めだ。 どれだけ忙しかろうが辛かろうが、絶対に子供を蔑ろにはしないという。 地界で戦いと呼べるものは無いだろうけど、 それでも子供たちが危険になればいつだって守ろうと。 そういう約束を、俺達はした。 俺と悠介と春菜と粉雪と夜華、そして聖とみさお。 あれから怠けることのないようにとそう決めたのだ。 彰利 「話は変わるけど、小学校は楽しいかね?」 深冬 「……解らない」 彰利 「そうかえ。まあ気長にやってきんさい。     つまらなくても最強の友達さえ居れば、退屈はせぇへんから」 深冬 「………」 彰利 「もしかして友達居ない?」 深冬 「蒼空院は体が弱いから、っていっつも仲間外れにされる……」 彰利 「なんと!?おぉンのれぇええ……!!     誰じゃい俺の可愛い深冬ちゃんにそったらことぬかす馬鹿は……!!」 深冬 「いいよ、本当のことだもん。     それにそんなこと言う人と遊びたいなんて思わないし……」 彰利 「む……そりゃ確かに」 驚いた……子供っていうのは見てるものだ。 そんな、いつか感じたことをもう一度感じた。 俺は体を起こすと、ひょいと深冬ちゃんを抱き上げ、足の間にストンと座らせた。 そしてなでなでと頭を撫でると、ムフゥと息を吐いた。 子供ってのは見てるものだ、じゃない。子供だからこそ見てるんだ。 彰利 「深冬ちんは偉いなぁ。深冬ちん、ふぁいとっ」 深冬 「『深冬ちん』は、やめて……」 彰利 「ミフぽん」 深冬 「やだ……」 彰利 「毒ミッフィー」 深冬 「……?」 彰利 「ミクトラン様」 深冬 「『み』しか合ってないよ……」 彰利 「ミルハザード=フルウノングン=ユグドラシル、略して深冬」 深冬 「……なんか凄く不吉な気がするからやだ」 彰利 「おおう……」 ミルハザードもフルウノングンも嫌なイメージを感じて当然だ。 ミルハザードは黒竜王だし、 フルウノングンはロディエルが持っていた退魔・銀の銃の名前だ。 ユグドラシルは別としても、その両方が不吉なのは解る。 彰利 「まあ、言われてた通りキミに悠介の力が遺伝してなくてよかった」 深冬 「……力?」 彰利 「力。受け継がれたのが月操力だけで良かったって話さね」 深冬 「………」 深冬ちゃんは『よく解らない』って顔で俯いた。 俺はそれを見て苦笑する。 ……まったく、親友の苦笑癖が伝染ったかな。 最近は苦笑が増えた気がする。 彰利 「よし。じゃあ俺はこれで。深冬ちゃん、またな」 深冬 「……うん、おじちゃん」 彰利 「お兄さん」 深冬 「お兄さん」 自然に出る笑みに嬉しさを覚えなくなってからどれくらい経つだろうか。 それが自然になると、代わりに笑むことのできる喜びを忘れていった。 でも───うん。 それって自分の感情が完全に馴染んだってことなんだろうから。 嫌な顔ひとつせず笑える理由はそこにあるのかもしれない。 俺はもう一度その場に苦笑を残すと立ち上がり、 俺を見上げる深冬ちゃんに軽く手を振ってから転移した。 ……なにか、後ろ髪を引かれるような思いの残しながら。
【───Interlude】 ───……彰利が去ってから数十分後の蒼空院邸。 そこを、柵の外からジロジロと見る影があった。 男1 「……ヒ、ヒヒヒヒ……ここだ……!蒼空院邸……!     ババアとジジイがふたりで暮らしてるって穴場中の穴場だぜ……!」 男2 「フヒヒヒヒ……老人バラすのは初めてだぜ……!     ど、ど、どんな感触なんだろうな……!」 彼らこそが未来の地界において、蒼空院邸の老人夫婦を殺した強盗たちだった。 ひとりはナイフをカチャカチャと手の中で遊ばせ、 もうひとりはやはりジロジロと蒼空院邸の庭を偵察していた。 男1 「ヒヒッ……?テメェは殺すことばっかりだなぁ……クヒヒヒ……!     俺ャア金さえあればそれでいいや……これだけデケェ豪邸なんだ……     ヤクをたんまり買えるくらいの金はあるだろうよ……」 彼らの目は既に普通ではなかった。 腕には注射の痕跡が幾つもあり、 目の下は青黒くくすみ、誰が見ても健康体とは言えない表情ではあった。 が、ここに来る前に既に打った彼らにとって、 今の状態よりも気分が晴れている状態など無いと言えるのだろう。 男2 「コロ、コロコロ……アア……早くヤリタイ……!」 男1 「まぁ待てよ……ヒヒヒ、ホレ、あそこにガキが眠ってやがるぜ……?     アイツ人質にして金巻き上げた後、ジジイもババアも殺すってのはどうだ?」 マナの木の隙間から漏れる陽が心地良かったのだろう。 深冬は樹の幹に身体を預け、穏やかな寝息をたてながら眠っていた。 それを見たナイフを持った男は顔を歪ませ、ガタガタと震え出した。 ……もちろんそこに恐怖など存在しない。 あるのはただ─── 男2 「ガ、ガ、ガキも殺そう!ガキにナイフ突き立てる時の感触、たまんねぇ!!」 その柔らかい肉を突き刺す感触への期待のみだ。 男1 「ヒヒヒ……ききキマリだぁあ……!フヒヒヒヒ……興奮してきやがった……!」 もうひとりの男もニヤリと笑うと、ゆっくりと柵を越えた。 そうして急ぐこともせず庭を歩くと、深冬へと手を───ズンッ……!! 男1 「アン……?」 庭が大きく揺れた。 ただの揺れではない───人が地震だと思うよりも大きな地震が、 まるで自分に向かってくるように大きくなってくるのだ。 そして彼が振り向いた時───その地震の正体が目の前に存在していた。 キングベヒーモス『グォゥルルルルル……!!』 否。 目の前、ではない。 遥かに見上げなければそれが何かを認識することもできないほどの巨大な生物が居た。 男1 「はっ……は、ひ───!?な、ななななんだこいつどっから───」 広い庭が狭く思えるほどの巨大なその存在。 名を、キングベヒーモス。 幻獣の中でほぼ最強の位置に立つ超獣である。 普段は身を小さくした状態で庭の何処かで猫に扮して見張っているが、 こうして侵入者が現れれば別なのだ。 召喚主の理力により好きな時に伸縮と巨大化が出来るようになった彼らは、 己たちの領域を侵そうとする相手を見過ごすほど暇をしてはいない。 ───いや、それすら否である。 “自分の領域”ではなく、彼らが守るのは大切だと思うもののみだ。 男2      「お、おいぃ!こ、こっちにもぉお!!」 グランベヒーモス『ウォルルルルルルゥウウ……!!!!』 震えるナイフが向けられる。 だが───当然、地界の技術ごときで傷つけられる相手ではない。 刺したところで体毛すら切ることが出来ないだろう。 そればかりか毛一本にすら負け、刃こぼれするか折れたりもするだろう。 ベヒーモス『……主の言っていた通りだな。見張っておいて正解だ。       さて貴様ら。あまり騒いでくれるなよ?せっかく深冬が寝ているんだ。       ……フン、いや……そうだったな。地界人に我らの声は理解出来ぬか』 男1&男2『ヒ、ヒ───』 恐怖は当然だろう。 かつてのみさおや聖、悠介が初めてミルハザードを見た時と同じだ。 相手が初めて見る存在であろうと、本能として恐怖を感じ取ってしまったのだ。 ……だが、本能というその二文字が彼らの命取りとなった。  ───ガボォンッ!! 感じたことのない恐怖が最大となった時、 無意識に声帯を支配した叫びが庭に響こうとする刹那─── その姿は叫びを口するより先に、ベヒーモスの顎によって絶命に導かれていたのだ。 一撃で的確に頭を潰し、血が飛び散らぬように即座に口を閉じたため、 彼らがそこに居たという痕跡はなにひとつ残らなかった。 ……いや。 彼らが家や家族を捨てて堕落していたという意味では、 もう何処にだろうと彼らの存在を知る者など居ないのだろう。 ベヒーモス『騒ぐなと忠告したぞ。……チッ、やはり不味い。       根の腐った人間などより【ふりすきーもんぷち】を食いたいな……』 ……超獣が漏らした言葉が虚空へ消える。 とはいえ、どこにフリスキーモンプチを語る超獣が居るだろうか。 だがこの庭に居るベヒーモス族は、既に蒼空院櫻子によって餌付けされていた。 その原因がフリスキーモンプチという名の“猫缶”であり、 最大限まで圧縮されて召喚された彼らを猫と勘違いした櫻子が餌を与えたのがそもそも。 その味に惚れ込んでしまった彼らは、悠介以外に櫻子、深冬にのみ心を許しているのだ。 ベヒーモス『……さて、すぐに消化するだろうが、こいつらが主の言う強盗だとは限らん。       引き続き門番を続けるか。深冬は……寝たままだな。安心だ』 邪気の無い子供はささくれ立った心を穏やかにする───俗に言う“ピッコロ症候群”。 彼らは恐らく、深冬の無邪気さとモンプチの味にこそ心を奪われたのだろう。 なにはともあれ─── 櫻子      「猫ちゃ〜ん?美味しいご飯ですよ〜」 キングベヒーモス『───!!いかん!すぐに身体を小さくしろ!!』 グランベヒーモス『言われるまでもない!!』 ベヒーモス   『か、感じるぞ!このかぐわしい香りは───フリスキーモンプチ!!          く、口直しには贅沢すぎるほどだ!』 ……彼らや彼らの主、そしてその知り合い達が住む町は、今日も平和であった。 【Interlude───End】
───……。 ……。 ……そう、時間は随分経った。 他人が成長する過程を眺めることなんて慣れていた筈の俺だったけど、 幸せの渦中にあって、その速度は時を彷徨っていた頃とは比べ物にならない。 子供が生まれ、成長し、自分も歳を取る。 そんな当然のことが、今はこんなにも『時の流れ』を感じさせる。 そんな時の中で、あれからいろんな人がどうなったのかといえば─── 凍弥 「ああもう話にならん!!     言いたいことがあるならハッキリ───だぁっ!切りやがった!!」 浩介 「ブラザー!同志!大変だ!カーペンフィールド社が寝返りやがった!!」 浩之 「なんだとブラザー!」 凍弥 「ああ、カーペンフィールドなら無視していいぞ。     金に目が眩んで別口に寝返っただけだから。それに───」 メイ 「凍弥様、お電話です」 凍弥 「メイさん、様はやめてって何度も───っと、はいはい?……了解」 浩介 「同志?」 凍弥 「カーペンフィールドが逃げ道無くなって潰れたとさ」 浩之 「む?何故だ?」 凍弥 「だってその『別口』っていうの、詐欺で有名な場所だし」 志摩 『……欲を広げると身を滅ぼす、と……』 ───未来のやつらは相変わらずらしい。 相も変わらず忙しい毎日の中で、ギャースカと騒ぎ合ってるようだ。 小僧───凍弥は相変わらず志摩兄弟とレイヴナスカンパニーの仕事を続けている。 つい最近、ひとりひとりの動きがカフェイン=レイヴナスに至ったとかで、 仕事を捌く時間が減ったそうだ。 けれどそれを良しと見たオチットさんが仕事を増やしたため、 結局は自由な時間が無くて志摩兄弟とともに心の苦虫を噛み締めたそうだ。 佐古田「ムナミー!!今月分のアチキの給料納得いかねぇッス!!なにッスこれ!!」 凍弥 「ばか、お前この間壷と絵画破壊しただろうが。     大体給料問題は俺じゃなくてオチットさんに言え」 佐古田「それにしたって少なすぎッス!!」 葉香 「ああそれか。倍にして返そうと思ったんだが失敗した。悪く思うな」 佐古田「激思うッス!!犯人あんたッス!?人の給料なんだと思ってるッス!?」 葉香 「知らん。とりあえずこれで許せ」 佐古田「チョコボール!?……ま、まさかこれがアチキの労働の結晶の末路……」 葉香 「へえ、察しがいいじゃないか」 佐古田「オガァアアアアアアアアッ!!!!!」 浩介 「おおっ!佐古田好恵がキレた!!」 風間 「佐古田センパイここに居ますか───って居た!     佐古田センパイ!天鶏の世話ちゃんとやってくださいよ!!」 佐古田「激うるせーッス!今激それどころじゃねーッス!!激黙れッス!!」 周りの人々も相変わらず。 椛もラチェット殿も菜苗さんも、 夫の代わりに自由な時間を利用して子供の成長を生暖かく見守っている。 久しぶりに会いに行った紅花は結構大きくなっていて、 俺の顔を見るなり襲い掛かってきた。 訳が解らないままに抱きとめ、タワーブリッジをしながら理由を訊けば─── 小僧が忙しくて遊べないから遊んで欲しかったと泣きながら言われた。 ……当然俺は、子供を泣かせたという事実に激怒した椛にボコボコにされたが。 アル    「……で。お前はまだそんな格好してるのか」 レイル   「お届け30分以内は当たり前!!」 レイン   「はいはい、それはもう聞き飽きたよ兄さん」 サクラ   「あの……佐古田さんと風間さん、見ませんでした?        天鶏の世話をほっぽらかしにして蒸発しちゃったんですけど」 アル&レイル『知らん』 天界人の皆様ももう既に慣れたようで、カンパニーでずっと仕事をしている。 時々天界の仕事はいいのかとか思うけど、それはそれで適当にこなしているらしい。 ああそうそう、天界といえば───久しぶりに天界に行った時にミントとリーフに会った。 俺の姿を発見するや否や飛びついてきて、 結構大人っぽくなってると思ったのにわんわん泣かれた。 今何をやってるかと訊いてみれば、 託児所のような場所を構えてふたりで頑張っているのだとか。 地界が仕事で溢れているように天界にだって仕事があって、 もちろん仕事のために子供が残される家庭もあるのだろう。 そんな子供を引き受けて、一緒に遊んでやるんだとか。 なんだかんだで楽しくやっているらしく、俺は心底安心した。 ───……。 ……。 ───現代の人々も案外気楽なものである。 というより、以前と大して変わっていない気もする。 中村 「ほへ〜……すっげぇなぁ、これが殊戸瀬の実家……?」 丘野 「俺も最初はたまげたクチだけどな。ほら、入ってくれ」 田辺 「待ってるのはご馳走か?」 蒲田 「いや俺に訊かれても」 灯村 「俺も知らんし」 島田 「やきいも───ハッ!?で、出入り口が閉ざされた!?」 中村 「オ、オイオイ丘野!?」 丘野 「───ようこそ殊戸瀬エレクトロニクスカンパニーへ。     そして今日から貴様らは我らの仲間だ!!」 中村 「なっ───謀ったなブッチャー!!」 蒲田 「なに考えてんだテメーワ!!」 丘野 「……睦月」 殊戸瀬「……はい、あなた」 総員 『アナターーーッ!!?』 島田 「って殊戸瀬……?お前、腹膨らんで……」 丘野 「……まあその、そんなわけなんだ。     頼むっ!子供が産まれるまで仕事手伝ってくれないか!?     ちなみに断るというのなら一生ここから逃がさん」 中村 「交渉に入った途端に脅迫かよ!!」 島田 「あ、俺べつに構わないぞ?給料ちゃんともらえるのか?」 丘野 「あ、ああ。なんだったらそのまま働いてもらっても構わない。安定は約束する」 島田 「よっしゃ、丁度良かった。俺今働いてるとこやめようって思ってたし」 灯村 「あ、んじゃ俺も。島田とツルんでた方が面白いし」 中村 「………どうするよ蒲田」 蒲田 「………ま、いいんじゃないか?」 丘野 「た、助かるっ!じゃあ初任給はコレコレこういうことで……」 総員 『俄然やる気が出てきました!!』 丘野 「……なんで敬語なんだ?」 中村 「つーかもうこうなったら原中全員を巻き込もう!!     なに、やつらのことだ、一秒経たずに了承だ!」 殊戸瀬「……お願いだから、内側から乗っ取ろうとか思わないでよ?」 総員 『………』 丘野 「どうしてそこで黙るんだよ!!」 総員 『冗談だ』 あとから聞いた話だけど、 原中の猛者どもは全員、殊戸瀬の家で働くことになったそうだ。 家と言ってもきちんと事務的なものから労働系の仕事まで揃っている。 原中の猛者どもはその二号店───月詠街にある大きな場所で全員が働いている。 それまでそこで働いていた者たちは別の場所へ異動となったわけだが、 案外それは簡単に受け入れられたとか。 その理由が『霊が出る』とかだったらしいが、それはあっさりと悠介が成仏させた。 お陰で今も、原中の猛者どもは全員一緒で騒がしい毎日を送っているんだとか。 時々我が家にも訪問販売がどうたらでモノを売りに来たりする。 その顔が楽しそうで安心したのは内緒の話だ。 前の仕事はどうしたって訊いてみたら、満場一致で『辞めてきた』だった。 ───そうそう、仕事といえば─── 由未絵「凍弥くん、天婦羅そばとざるそばと天重お願い〜」 閏璃 「あいよっ!……ていうかさ、由未絵?いい加減『凍弥くん』はやめないか?」 来流美「あなたぁ〜ん♪」 閏璃 「紗弥香、俺が許す。あのタコ刺せ」 紗弥香「やだよ、そんなこと」 閏璃 「そもそも来流美、お前なんでここに居るんだよ。柾樹はどうした?」 来流美「アイツならさっき紗弥香ちゃんに死国(ベアハッグ)
されて気絶中。     悠季美ちゃんが診てくれてるわよ」 閏璃 「紗弥香……」 紗弥香「だ、だって柾樹ちゃんカワイイんだよ?わたしのことお姉ちゃんお姉ちゃんって。     あんな顔であんな呼ばれ方したら、あぅうう〜〜んって抱きしめたくなるよ?」 柿崎 「うぉ〜い、もりそばはまだかな〜?」 閏璃 「ああ、仕事終わるまで待ってろ」 柿崎 「今昼だって!!昼注文したものがなんで夜まで待たされるんだよ!!」 来流美「あ、やっほ、柿崎くん。聞いたわよ〜?教師目指してるんだって?」 柿崎 「あ、ああ。この調子ならなんとかなると思う」 閏璃 「教える教科がキッチョムってのは流石に無いよな?」 柿崎 「………」 閏璃 「考えるな、頼むから」 閏璃凍弥方面も変わらずだ。 閏璃凍弥は正式に鈴訊庵を任されたらしく、冗談を吐き散らしながら仕事に没頭。 紗弥香ちゃんも随分大きくはなっているが、 子供っぽいところもどうにも残っているようだ。 その反動が霧波川サン家の柾樹クンに向かっているようだが、まあなるようになる。 鷹志 「うーっす、凍弥居るかー?」 真由美「お邪魔しまーす」 閏璃 「よし柿崎、邪魔だから帰れだと」 柿崎 「お邪魔しますって言っただけだろが……」 来流美「や、橘くん」 鷹志 「や、壮健そうじゃん。───で、凍弥。あの件だけど」 閏璃 「あの件?……ああ、『友の里』だな?こっちは随分金溜まったからいけそうだ。     というよりそもそも消費する金が晦に払う分しかないから溜まる一方だ」 鷹志 「こっちもだ。それに義父さんのところの喫茶店も。     そろそろいいんじゃないかって思ってさ、それの報告」 閏璃 「なるほど」 来流美「……?なんの話?」 閏璃 「俺と鷹志と郭鷺の金を合わせて、大きな旅館を作ろうって話になったんだ。     旅館の中に鈴訊庵と喫茶店を設置するカタチで」 来流美「ちょっと、じゃあここどうなるの?」 閏璃 「旅館と一体化させちまおうかと思ってる。晦が居るなら案外簡単だと思う」 鷹志 「……その前に、無料でやっちまいそうで怖い」 真由美「あ、あはは……そうだね」 閏璃 「もしかしたら本当にここと鷹志の旅館と郭鷺の喫茶店を融合しちまったりしてな」 由未絵「もしそうなったら楽しそうだね」 来流美「あっはっはっは、まさかぁ。さすがの晦くんでもそんな簡単に受理しないわよ」 鷹志 「だよなぁ。あははははは」 ───その後、何気なく持ち出したその話はあっさりと受け入れられることとなる。 止める暇も無く三つの店を融合されて出来た店は『友の里』と名付けられ、 今では昂風街の名物旅館として知られている。 普通にそばを食いに来る人はもちろん、 旅館に泊まる人や喫茶店に来る人で賑わい、それなりに成功を収めているそうだ。 それだけのことがあったにも関わらず無償で融合してもらったことに、 時々クロマティ高校の前田くんのように頭を抱えて悩む閏璃くんと鷹志くんを見かけた。 遥一郎「うーわー……こりゃまた見事な……」 サクラ「圧巻です……」 ノア 「売り上げのバランスは大丈夫なんでしょうか……。     旅館といっても、それほどこの町に観光名所があるわけでもないのに……」 鷹志 「普段は普通に料亭やってるから問題ないって。     泊まる人だって、ただ部屋を貸すだけって感じにしたし。     一泊千円で風呂にも入れる。ただしメシは出さないから有料」 ノア 「なるほど……料亭の値段自体もそんなに高くないわけですね」 鷹志 「だってなぁ……風呂なんて掃除しなくても自動で綺麗になっちまうし、     布団も人が触れると『陽気の中に干した布団』に一気に変わるんだ。     部屋の掃除もなにも要らないんじゃ、金取るほうが申し訳なくなってくる」 澄音 「お風呂の効能とかはあるのかな」 鷹志 「……なんでも治る」 遥一郎「うぁ……」 鷹志 「ま、まぁさすがにいきなり治るわけじゃなくて少しずつだけどさ。     それでも大体のものは一週間で治るらしい……」 雪音 「ほえぇ、スゴイんだねぇ」 遥一郎「こいつの頭も治るか?」 鷹志 「すまん、そりゃ無理だ」 真由美「わ……即答……」 閏璃 「……強く生きろ。お前の頭は治らんらしい」 雪音 「ガッ……ガッデムーーーッ!!」 ホギッちゃん率いる皆様も変わってないらしい。 変わったとすれば外見だけだろう。 面影を残したままに成長したその姿は、何処かに憂いを残したままだけど楽しそうだった。 ───……。 ……。 んで……晦家の連中があれからどうなったかといえば─── ゼノ      「王手だ」 シュバルドライン「ぬぐっ!?ぐ、ぐぐ……!!」 やっぱりそう変わったことはない。 ただ、悠介が忙しい時には相手をゼノにしてのシュバルドラインの出張将棋が始まる。 ゼノはすっかり地界に染まり、今では日本古来の物事を悠介の如く追っている。 ……ああそうそう、これもまた驚きの話だけど……ゼノと水穂ちゃんが結ばれた。 驚く者や、やっぱりと頷く者も居たけど─── まあ、さすがに身元を証明するものがないゼノが相手では『結婚』は出来ず、 届けは出していない結婚ということになっている。 相手が死神のためにやっぱり子供は出来ないけど、水穂ちゃんはそれでいいと笑っている。 言わせてみれば、子供が欲しいから結婚したわけじゃないんだそうだ。 ゼノ      「これが我の盆栽だ」 シュバルドライン「ぬぅ……手入れが行き届いているな。では次は我が盆栽を見せよう」 今ではすっかり和服が似合う死神となったゼノは、 同じく趣味の合ったシュバルドラインとともに、時々こうして盆栽を見せ合っている。 シュバルドラインが地界に来たのは悠介と将棋をするためだったんだが、 悠介が多忙なため、急遽紹介されたゼノと将棋を始めた。 それがきっかけで、あとはズルズルと日本文化に染まっていった。 時々蒼空院邸で久義さんのチェスの相手もしているが、そっちの方も楽しんでいるらしい。 前に『負けたままでは済まさん』とか言っていたから、久義さんもあれで結構やるらしい。 若葉 「しかし……なんでしょうね、この疎外感」 木葉 「姉さん、それは言わない約束」 セレス「あなたがたは結婚を考えていないんですか?」 若葉 「おにいさまとしたかった……」 木葉 「一日千秋の想いというやつです、そっとしてあげてください」 セレス「はあ……」 水穂 「ゼノさーん、お茶入りましたよー」 ゼノ 「む、むぅ……すまん」 セレス「……ゼノの照れた顔にも慣れましたねぇ」 若葉 「幸せ者には取り残された者の気持ちなんて解らないんですよ……」 木葉 「姉さん、行き遅れ」 若葉 「黙りなさい」 セレス「ふふ……」 彼女たちは彼女たちで、今も晦の母屋に住んでいる。 その姿もやはり面影だけを残して変わってゆく。 けれどその中で、最後の吸血鬼である彼女と死神であるゼノは変わらない。 以前俺はセレっちに『吸血鬼を現世させようか?』と言ったが、やんわりと断られた。 仲間が欲しいんじゃないかと思っての提案だったのだけど、 彼女は自分が最後でいいと断言した。 そこにどんな思いが詰まっているのかは解らないけど─── 彼女は自分が吸血鬼だということだけで相当苦労してきたに違いない。 その苦しみを、エドガーだった時に知っていたからこそ、 自分だけでいいと願ったのかもしれない。 ───この神社、そして母屋にはたくさんの嫌な思い出と楽しい思い出が詰まっている。 いつまでもここにあって欲しいと願うし、壊れてなどほしくない。 初めてゼノがここに現れ、暴れまわった時はどうしようかと思ったものだ。 でもそんなゼノも、今ではここを故郷のように思ってくれている。 縁側に座りながら盆栽を眩しそうに見る顔は、 もうかつての冷たさしか知らない彼のものではなかった。 この家の雰囲気もそうだし、 長く付き合う意味ではきっと、盆栽も彼の硬い心を少しずつ溶かしていったのだろう。 けど─── ゼノ 「ふむ……いいものだ、盆栽……」 その盆栽が数年後───みずきと友達になり、 ここに遊びに来た霧波川さん家の柾樹くんの手によって粉砕されることになろうとは、 誰も夢にも思うまい。 ───……。 ……。 それはそうと、空界ではそれなりに面白いことが起きた。 麻衣香「えーとその。な、なんだろ」 中井出「?どうしたんだよ、急に空界に来たりして」 麻衣香「う、うん……」 しばらく音信不通になっていた綾瀬が、ふらっと空界に訪れて中井出を訪ねたのだ。 麻衣香「けっ───結婚しよっ!?」 中井出「ぶはっ!?な、ななななななんだそりゃあ!!なんでいきなり───!!」 麻衣香「や、それがね?お父さんリストラされちゃって。     そんな時にお母さんが知り合いの保証人になって、     しかもその知り合いが借金して逃げちゃって。それの返済やったらもう無一文。     両親ともにお爺ちゃんとお婆ちゃんの家を頼ってそこで仕事を探し始めたの。     でもね、それじゃあさすがにお金がすぐ無くなるっていうんで、     わたしその〜……晦くんに頼んで、ちょっとした卑劣技使っちゃってさ」 中井出「ひ、卑劣技って……?」 麻衣香「えーっと……コホン。     わたくし、綾瀬麻衣香は、地界では事故死したことになってます」 中井出「保険金かよ!!おまっ……それ晦に手伝わせたのか!?」 麻衣香「ん……その、悪いとは思ったんだけどさ。     でも『家族のためなら』って頷いてくれた。     他の原中生にもちゃんと話してきたから、一応は大丈夫。     だからね?どうせならってわたし、年齢をあの頃にまで戻してもらった。     で、ここで千年の寿命もらって生きるの」 中井出「や……そんなこと言われたってよ……」 麻衣香「なにモゴモゴしてるのよ。     今までが腐れ縁だったんだから、それがちょっと色濃くなるって考えればいいの。     ……べつに、博光のことが嫌いってわけじゃないし」 中井出「うぐ……」 麻衣香「返事は?……ほーら、男の子でしょ?」 中井出「〜〜〜〜……ああもう!解ったよ!勝手にしろっ!!     ちょ、丁度そのっ……じょ、助手が欲しいとか思ってたところだし!」 麻衣香「へぇ〜?助手がね〜。     あははっ、まあいいや。わたしもようやく言えてスッキリした」 中井出「へっ?そ、それって───」 麻衣香「じゃ、これからよろしくね。博ちゃんっ♪」 原中生、綾瀬麻衣香が空界に仲間入りした。 中井出は戸惑いながらもそれを受け入れ、今では熱い夜を過ごしているそうだ。 中井出「あ、ちょっと待った。お前……肉じゃが得意か?」 麻衣香「え?う、ううん?両親とも仕事ばっかりだったから、     料理もなにも教えてもらえなかったし───あ、でも安心して?     肉じゃがとか家庭的なものは出来ないけど、他は結構自信が───」 中井出「結婚してください」 麻衣香「───……ほえ?」 それとは別に、料理にも満足しながら幸せに暮らしているらしい。 涼香さんはそれを知ると中井出を襲うのをやめ─── 今は空界の何処かで独身の男を狙っているらしい。 相も変わらずマウントポジションで肉じゃがを食わせてくる彼女は、 今では空界でちょっとして有名人だ。(人かどうかは別として) ───っと、有名人といえば─── リヴァ 「だから。あれはお前が比率を間違えたからであって───」 ルーゼン「あぁらリヴァイアさん?自分の罪を人に擦り付けるなんて最低ですわよ」 バルグ 「どっちも同じじゃ、まったく……」 ちょっと前、空界で爆発事故が起きた。 起こしたのは三国のオウサマ。 三人で新しい技術の開発に取り組んでいたらしいのだが、どうやら失敗したらしい。 広い草原をクレーターに変えたオウサマたちとして、各国では有名だ。 それでも民達には嫌われてないっていうんだから不思議だ。 信頼されてるってこういうことなんだろうか───いや、違うか。 というよりは『まただよあの三人は……』といった感じで、 半ば諦めたような生暖かい目で見られていた。 それとは別に注目を浴びたのが、エルフとドワーフと人間の完全和平。 長く続いた諍いも終わり、みんながみんなお互いを認めた末、 種族の壁を越えて手を取り合うようになった。 それを最初に踏み切ったのが鍛冶屋を営むドワーフのおっちゃんと、ロッタとレラだった。 三人はそうなるようにずっとエルフやドワーフ、 人間たちに働きかけ、そしてそれは───その活動の始まりより数年後に果たされた。 さすがにまだ竜族とは完璧に打ち解けることは出来ていないが、 それもきっといつかは叶うと信じている。 ……まあもちろん、要らない繋がりもあるわけだが。 蒼竜王『近頃、メルヘンどもに襲われる竜族が増えている。     赤竜族───レッドドラゴンはここ最近で何度か襲われたらしい。     いいか、メルヘンを見つけたら迷うことなく始末しろ』 青竜 「解っています。それでは」 赤竜王『……ふむ。貴様のところにも被害が出始めて来たか』 蒼竜王『ドラグネイルか。聞いての通りだが、赤竜族はもっと酷いらしいじゃないか。     案外貴様も襲われたりしたんじゃないか?』 赤竜王『馬鹿を言え、メルヘンごときに遅れをとるか。     襲われたのは全て赤竜だ。私ではない』 蒼竜王『どの道メルヘンどもは始末せねばならん。     近いうちに王に助力を願い、一気に殲滅にかかろう』 赤竜王『……そもそも、今まで王がそうしなかったのが不思議だったのだ』 蒼竜王『大人しくなったからといって見逃しておくなど、つくづく甘い』 赤竜王『たわけが、口を慎め。甘くなかったなら真っ先にツブされているのは貴様だぞ』 蒼竜王『うぐ……それは、あの日の映像を見ただけで十分だ……』 悠介が地界に居る時間が長くなってから、 今まで行動を控えていたメルヘンが再び動き始めたのだ。 より強い者と交わり、強い者を産んでゆく。 もちろん幻獣も竜族も並々ならぬ生命力の持ち主だ、襲われたところで死にはしない。 が、それよりもあんな醜いものを産むことの片棒を担ぐことになるとなると話は別だ。 今や幻獣と竜族は手を合わせ、メルヘン撲滅運動を始めている。 だがこれがまた厄介なことで───幻獣との間に生まれたメルヘンが成長し、 竜族などと交わってまた子を産むと……それがまたとんでもなく強いわけで。 さすがの竜族も幻獣も、相当に頭を痛めている。 ……本当に、咲桜氏はとんでもないものを空界に送ってくれたものだと、 みんながみんな頭を痛めていた。 ベリー 「つまりマナの存在は、一般的原理によって推論されるものなんかじゃなく。      詳しく言えばその一般的原理こそが推論で崩すべきであり、      マナの可能性の眠る場所なの。解る?      つまり一般的見解に囚われすぎてちゃあ新しいなにかは生まれないってこと」 イセリア「適当言ってるだけだから聞き流してねー」 院生  『はーい』 ベリー 「うわっ、集団イジメ」 ヤムヤムとイセリッ子はクグリューゲルスで院長と講師をやっている。 院長というのはあれで暇らしく、ヤムヤムはイセリッ子の授業に乱入しては 自分の知識を適当なものと混ぜ合わせて、授業の邪魔をしているんだとか。 ……とりあえず、ふたりとも未だ独身。 仲が悪そうで、案外上手くやってるようだ。 ……ああ、仲といえばあの姉妹。 リアナ嬢とリオナ嬢は、今では空界屈指の騎士と魔術師として知られている。 リアナ嬢は最強の騎士とまで言われ、 リオナ嬢は宮廷至高魔術師として憧れと羨望の眼差しの中に居るらしい。 リアナ「はぁ……誰か強い人は居ないかな……」 リオナ「贅沢を言うな。剣術大会の全てを総なめにしているお前の言葉じゃない」 リアナ「だからなんだけど……はぁ、師匠戻ってきてくれないかなぁ……」 リアナ嬢にしてみれば悠介との鍛錬が出来ない分、 随分と周りが弱く見えて退屈らしいけど……うん、リオナ嬢と上手くやっているらしい。 ふたりとも剣術が恋人、魔術が恋人っていうような人だから当然恋人無し。 姉妹仲良く一人身街道まっしぐらだそうだ。 リオナ「なんだったら巨人族に戦いを挑んでみるか?」 リアナ「アレは師匠じゃなければ無理だよ」 ───巨人族。 そう、巨人族といえば…… 巨人の里の総意でゼプシオンが指導者、つまり王になることになった。 最初は拒んでいたゼプシオンだったが、巨人の里の皆の頼みとあらばと折れた。 そうして空界の巨人の里に住むことになるに至り……心配したのは召喚の魔力だが、 そこのところは悠介がどうとでもした。 大気に溢れるマナを魔力に変換させ、ゼプシオンに流れるようにしたのだ。 だから異なる世界に居てもゼプシオンは活動が出来て、 今もデカい体で剣術の鍛錬をしているだろう。 ……ああ、召喚といえば───フェンリルも元気にやってるらしい。 セルシウスとともにイーディンジルド氷河に渡ったが、 思いのほか住み易い場所なんだとか。 セルシウスはもちろん、他の精霊もそれは同じだ。 それぞれの聖堂に戻ってから随分と経つけど、変わらないままにやってるらしい。 時々一箇所に集まって、世界の在り方なんかを話してはいるらしいが…… ノート   『世界が平和になってなによりだ。───が』 オリジン  『……あのメルヘンはどうにかしなければならないな』 サラマンダー『いや、残しておくべきだ。アレは人間へのいい刺激になる』 ニーディア 『確かに。負けぬようにと己を高める人間どもをよく見るようになった』 イド    『だったら交わろうとするメルヘンのみを殺せばいい』 セルシウス 『イド、やめなさい。なんでも殺せばいいというわけではないでしょう』 イド    『……フン』 ウンディーネ『ですがその……メルヘンにも発情期というものがあるらしくて……』 シルフ   『だったらのその周期が来たときにメルヘンを押さえつければいいわけか』 ドリアード 『周期に関係なくお盛んのような気もしますけど……?』 精霊    『まったくだ』 その大半がメルヘンのことばかり。 やっぱりその存在に悩まされているらしい。 居たら居たで人間たちが強くなることへの刺激になるのだけれど、 やっぱりその増殖力はハンパじゃなく、困っているそうだ。 さて……そんな話題からは離れた場所。 ここでも、やっぱり困りごとは存在していた。 村長 「ウホホッホ〜〜、今度は金じゃ!黄金のモミアゲさまじゃああ〜〜〜っ!!!」 男  「だぁあこのクソジジイ!!都市の金をまた無駄遣いしやがって!!」 村長 「うっとりするようなモミアゲじゃあ〜〜っ……!!     また訪れるヤツらから見物料や参拝料を奪えるぞい!!」 男  「……俺、あの人が来る前にこの都市から逃げようかな……」 あのジジイである。 銅像だけでは飽き足らず、今度は金像を作ったのだ。 しかもモミアゲの長さは地面に届くほど。 このジジイのやりたいことはよく解らない。 というかまだ天に召されてなかったらしい。 けど復興都市ユウ───じゃなかった、レブロウドはもう完全な都市になっていた。 人々も増え、豊かになり、鉱山発掘が盛んな鉱山都市になっている。 さて、そんなレブロウドの比較的傍にあるチャイルドエデンでは─── カルナ「ああもうっ!こら逃げるなっ!風邪引くぞっ!」 ヤト 「やーっ♪」 みさお「聖、そっち!」 聖  「解ってる!」 ヤト 「あうっ!やー!やー!タオルごしごししないでー!!」 みさお「まったくいけない子だ……。カルナさん、タオルを」 カルナ「ああ。はぁ……最近の子供はすばしっこくて困る」 聖  「動きが鈍くなったんじゃないですか?」 みさお「ああ、そうかもしれない。いけませんよカルナさん。日々是鍛錬也。     現状で満足していては、いつか誰かに追い抜かされます」 カルナ「……だな」 相変わらずカルナくんが子供たちの楽園を守っていて、聖がその手伝いをしている。 みさおは夜華との修行の日々のためか、 すっかり武士っぽい言葉が板につき、前までの子供っぽさを見せなくなっていた。 聖  「今日は暇なの?」 みさお「いや、様子を見に来ただけだ。     すぐに夜華さんと手合わせがあるから帰らなければいけない」 聖  「あまり無理しないでね。最初にその口調で遊びに来た時、何事かと思ったよ」 みさお「む……いや、別にこんな口調になるつもりは無かった。     子供っぽさを抜くにはまず口調からだと夜華さんに言われて……」 聖  「ママも相変わらずなんだ。パパはどうしてる?」 みさお「彰衛門さんは相変わらず。死神に指導したり、みずきで遊んだり」 聖  「みずき“で”遊んでるんだ……本当に相変わらずだね」 みさお「それじゃあ戻る。また遊びにくるから、その時はゆっくり昔話でもしようか」 聖  「そうだね。それじゃ」 ……みさおの口調が変わった時は、さすがに夜華が増殖したように思えたものだ。 けど、みさおはもっと性質が悪い。 時々手合わせをするんだが、 自分が危うくなるとすぐに人の力を抑制して襲い掛かってくる。 まあそのお陰で、生身でも随分と体さばきが良くなったのは確かだが。 ……まあそれでも、今も今まで通り楽しく生きている。 これまで出会ってきた人たちがそうであるように、 孤独の辛さばかりを知っていた俺と、その親友も。 小さい頃から無意識に渇望していたであろう『幸せ』。 その中を、きっと俺達は歩いている─── ───……。 ……。 幾月、幾年が流れ、遠くの空が煌いた。 黄昏時は既に終わり、最後の瞬きが消える頃───その世界は黒に包まれる。 けれどやがて朝は来て、光が草原を暖める頃…… 彰利 「フ〜〜ア〜〜ムア〜〜〜〜〜イ!!!!」 その叫びとともに、我らの朝は始まる。 弦月屋敷の先の草原で高らかに叫ぶと、その声に目を覚ます我が家族。 夜華と春菜は普段は空界に居て、この屋敷には居ない。 屋敷に居るのは粉雪とみずきだけだ。 みずき「うう……朝……?」 彰利 「朝なり!というわけで朝食食い行ってくる」 みずき「朝食って……?」 彰利 「友の里の料亭。朝っぱらから米栂(こめつが)松茸御膳でも食いに行こうかと」 みずき「松茸!?そ、そんな金あんのか!?」 彰利 「我が家族と悠介の家族は無料でいいって言われとるからさ。     だから好きなだけ食っていいってことなのさ」 みずき「マジ!?って……米栂松茸ってなに?」 彰利 「富士山に生えてる、国産松茸の中でも5%ほどしか採れない松茸中の松茸のこと。     5年に一度しか生えないとも言われててね、究極にレアな松茸だ」 みずき「……なんでそんなのが料亭にあるんだ?」 彰利 「それは秘密だ」 真実を言ってみれば、俺が採ってきて悠介が複製した。それだけだ。 もちろん日本で採れる最高級食材を探し当て、 それを複製しまくってるからどこぞの料亭なんかよりよっぽど美味い。 それなのに元手がゼロなんだから笑ってしまう。 どんな旬の食材でも一番新鮮なうちに食べられる友の里。 ここ最近では予約を取らなければまず食べれやしない。 もちろんその全ては人伝で伝わっていっただけだ。 何故ならマスコミが来ようがなにしようが、厨房の紹介だのなんだのを全て断ったから。 だから雑誌にも載らなかったし、テレビで取り上げられることもない。 というか『友の里を映そうとすると』、 カメラだのなんだのは停止するように“場”が作られている。 もちろん最初は気味悪がられたものだが、みんな一度味を知ってしまえば止まれなかった。 あとはもう連日予約の雨で、 メシを食った人はとっとと帰るという暗黙の了解まで出来ているほど。 煙草で一服しようものなら客の皆様から罵倒の嵐。 繰り返すが『食い終わったらとっとと帰れ』が客の間のルールだ。 時折、鷹志くんや凍弥くんが『こんな急ぎ足の店を構えたつもりは……』とか言ってる。 喫茶店も世界中の意見を参考にしてブレンドされたものや、 選りすぐりの素材を極限まで美味しく利用したケーキなどが好評で、 毎日おなごやカップルで賑わっている。 けどそれも仕事が始まった時の話。 仕事が始まる前は彼らも普通にメシを食っているわけだから、 時々それに便乗して食ってるわけだ。 俺も、悠介も。 彰利 「んじゃなー、メシはもう作ってあるから粉雪と一緒に食べんさい」 みずき「ずりぃぞ親父!!俺にも松茸ー!」 彰利 「千年早いッッ!!」 みずき「な、なんだよぉっ!親父だって俺より数十年早く産まれたってだけじゃんか!!」 彰利 「……若いっていいなぁ」 みずき「……?なんだよそれ」 彰利 「キミ、俺が千十五歳近くだって言ったら信じる?」 みずき「信じるわけねぇじゃん」 彰利 「……若いっていいなぁ」 そう、結局は俺達は自分の子供たちに詳しいことは話していない。 ただ『月の家系』のことを教えた程度で、 俺が死神王だということも悠介が大賢者アルマデルキング様だということも教えてない。 いや、そもそも知らなくていいことだ。 そういった事実なんて、知る必要が来た時に知ればいい───そう思っているから。 だから地界に居る死神達には“卍解”は見せるなと言ってある。 彰利 「………」 みずき「親父?」 時の流れは早い。 気がつけば冥界の死神たちの大半は卍解を修め、 地界に居る俺の知り合いの死神や月の家系の者も卍解を修めた。 その度に俺はそれをコピーして、以前よりも随分強くなった。 けどその強さがみずきに遺伝した、なんてことはない。 普通に月の家系として産まれてきたし、特別力が強いわけでもない。 俺は案外そのことに安堵した。 悠介で言う深冬ちゃんも同じで、やっぱり月の家系として産まれてきただけだった。 深冬ちゃんの場合は体が弱いってハンデがあるけど、 それ以外は特に変わったことなどなかった。 みずき「親父〜?おい親父〜、俺も連れてけって」 ただ以前、スッピーが地界にやってきて、あることを深冬ちゃんに対して行った。 彼が言うにはマナと癒し、諸力と魔力があまりに空界に満ちたため、 それが破裂しないために消費させることにしたとのこと。 スッピーは手に持ったよく解らない種を寝ている深冬ちゃんに飲ませ、 『未来が楽しみだ』と可笑しそうに笑った。 これはのちに悠介がそれを分析することで解ったことだけど、 スッピーが深冬ちゃんに飲ませたものの正体は、 空界の様々な力を利用し、全精霊が協力して圧縮精製した“創造の理力”なんだそうだ。 当然そんな無茶なものを精製したために空界の諸力、魔力、マナ、癒しは激減。 しかしこれで力が溢れかえることは千年以上は無いだろうと安心していた。 みずき「……無視?」 そんなこんなで今、深冬ちゃんの中には創造の理力の種が眠っている。 それが発芽する可能性は極めて低いらしく、 植えつけたはいいけど深冬ちゃんが開花させるとは限らないらしい。 悠介の理力とは違って親から子へ流れる力なんだそうで、 深冬ちゃんがダメでも深冬ちゃんの子孫が開花させるかもしれないんだそうだ。 みずき「親父〜?」 彰利 「なんぞね!!」 みずき「うわっと……!い、いきなり大声出すなよ!!」 彰利 「知らん!貴様はジークンとモーニング麦茶でも飲んでなさい!!」 ああ……言い忘れた。 ミル・ラットンの暴走以来、 集落を崩壊させられた棒人間たちは弦月屋敷の裏の畑の隣に住処を作って住んでいる。 口が悪いのは相変わらずだが、それも慣れれば案外楽しかった。 みずき「……なぁ。結局あの棒人間ってなんなんだ?     俺、親父の息子としてここに産まれたけどさ……アレの存在が一番解らねぇよ」 彰利 「気にしたら終わりだ」 みずき「…………なぁ親父?本当に自分だけで松茸食うのか?」 彰利 「正直松茸なんて香りのいい椎茸ぞ?高いからって目が眩むと後悔しきり大決定。     だから食うならレタスかポリット。これは譲れないな。     でも今日は悠介と会う約束してっから友の里には行くけど」 みずき「俺も連れてけって!」 彰利 「いやだぁ」 みずき(健に似てる……!) 人物特性、『誰にでも遠慮がない』は相変わらずだ。 それは自分の息子だろうが同じだ。 でもなぁ、俺やっぱり娘が欲しかったよ。 そう思うともう深冬ちゃん可愛くて可愛くて。 だから深冬ちゃんに惚れてるみずきとはしょっちゅう衝突しとります。 彰利 「じゃーな。かーさんには上手く言っといてくれ」 みずき「じょっ……じょじょじょ冗談だろ!?朝親父が居ないと母さん怖いんだぞ!?     どう説明しろっていうんだよ!!     あ!こら!転移で逃げるなよ!友の里って何処!?お、俺も連れてってくれよ!」 彰利 「いやだぁ」 みずき(健に似てる……!) 今日はどうしても外せない用事があった。 それが、親友との待ち合わせ。 ただ近況を話し合うだけの、なんでもない待ち合わせだ。 それでも俺は楽しみにしていた。 なにせ、俺だけでは開けなかったであろう未来を一緒に開いてくれた、 親友との口約束なのだから。 それがどんな口約束だろうが必死になるってもんだ。 ───……。 ……。 ズガラララ……。 鷹志 「っと、開店はまだ───ってなんだ、弦月か」 彰利 「オウヨ。悠介来てる?」 鷹志 「ああ。厨房の方でまた創造してくれてる」 彰利 「あー……」 ついっ……と厨房の方を見る。 と、みさおと一緒に厨房から出る悠介が。 彰利 「よっ、親友」 悠介 「お───よぅ久しぶり」 スッと軽く手を上げ合う俺達。 こんなものが久しぶりの対面の挨拶かって思うけど、これくらいが気安い。 今さら出会ってギャースカ肩を叩き合うような相手じゃない。 みさお「彰衛門さん……背、伸ばしました?」 彰利 「ようみさお。そこんところは普通、ウソでも『伸びました?』って訊くもんだぞ」 みさお「常識の通じないわたしたちが何を言っても無駄でしょう」 彰利 「……ほんと夜華に似てきたよねキミ」 みさお「刀術の師匠ですから。それより彰衛門さんはどうなのですか?     しっかり自己鍛錬はしているのでしょうね」 彰利 「あたんみゃーくさ、オメ、ここで怠けたりしたらそらもう親友にボコボコよ?     まあなんにせよ、悠介には大分近づいた自信はあるね」 鷹志 「店ン中で喧嘩はよしてくれよ?仕込みの途中なんだから」 彰利 「あー、ダイジョブダイジョブ。あ、俺味噌汁と豚丼ね」 悠介 「俺は味噌汁と漬物と焼き魚を頼む」 みさお「わたしは父さまと同じものを───っと、やはりやめておきます」 悠介 「父さまはやめろというのに……」 みさお「何故ですか。わたしは既に父さまの正式な娘です。     娘が父を父と呼んでなにが悪いと───……     まさか、悠介さま……あなたまでわたしを捨てると……」 悠介 「たわけっ!冗談でも捨てるなんて言うな!!     だ、だからっ!つまりだなっ!     家に居る時は父さまでいいが、人が居る時は極力以前のようにだなっ……!!」 彰利 「変わんないねぇそっちも」 悠介 「やかましい!!」 なんだか安心した。 ずっと会ってなかったからどうしてるかって心配だったけど、 少なくとも外見を変えた以外は全然変わってないようだ。 鷹志 「しかし、随分時間が経ったもんだよな。あれからもう14年だ。     お互い……って言えないが、歳を取ったもんだ」 彰利 「そ、14年だ。14年なのになぁ……     ウチのみずきの野郎はま〜だガキっぽいことぬかして……」 鷹志 「14か。来年で中学卒業くらいか?」 彰利 「そういうことになるねぇ」 鷹志 「高校は何処に行かせるんだ?やっぱ息子任せか?」 彰利 「無難なところで漣高校かな。まだ及川が居るなら面白いだろうし。     まあみずきの意見尊重するなら鈴問───じゃなかった、如月になるね。     こっちに邪魔することになる」 鷹志 「そか。じゃあ俺の娘と霧波川のところの柾樹と同級だな。     クラスが同じかは解らんが」 悠介 「深冬は一コ下だから、それには追いつけないな」 みさお「追い付かない方が身のためですよ父さま。     深冬は儚げな印象がある所為で下衆どもに絡まれやすい」 彰利 「下衆って……まあ下衆か。     けどまあそこまで下衆なヤツが居りゃあみずきが黙殺せんだろ。     もっともみずき自身が下衆になる可能性もあるけど……まさかねぇ」 ……などと言ったがこののち、みずきは漣高等学校に入学。 二年になり、深冬ちゃんとともにスクールライフを送ることになるが、 深冬ちゃんに熱をあげた番長グループと1対100の喧嘩をすることとなる。 もちろんみずきは家系の力にモノを言わせて圧勝。 が、このままでは深冬ちゃんに危険が及ぶと察知したみずきは 深冬ちゃんを連れ出して失踪……というか如月高校へ転校することとなる。 バイトでコツコツ溜めた金でアパートを借り、 さらに粉雪に援助してもらって学校へ通うことにしたらしい。 そこで霧波川柾樹と知り合い、友人関係になる。 彰利 「で……やっぱ深冬ちゃん自身には真実は伝えてないの?」 悠介 「体の弱さのことか?ああ。     死神の血が濃い分、人間の体がついてこれないってことを言ってある。     まあ、ウソじゃないからな」 彰利 「じゃあ『本当は治せる』ってことを伝えてないわけだ」 悠介 「そうなるな。でもまあそれなりに健気に成長していってるぞ?」 みさお「ええまったく。父さまの子とは思えないほどの臆病っぷりです」 悠介 「み〜さ〜お〜……それは言うなと言ってるのに……」 みさお「確かに心……芯の方は意外にしっかりしてはいます。ええ、それは認めましょう。     ですが父さま、あれはいささか臆病すぎると思います」 悠介 「あぁ……頃合かと思って、     庭に放ってた召喚獣全てを一気に見せたのがまずかった。     あいつ、召喚獣のこと『幽霊だ』と思って怖がりになっちまった……」 彰利 「なぁにやっとんのよキミ……」 悠介 「言うな……。深冬は自然に任せて成長させるって決めた時点で、     あの召喚獣事件はあいつの中で夢と化させるって決めたんだ。     事実あいつも夢だって思ってくれてる」 彰利 「でも恐怖は拭い去れなかったと」 悠介 「……その通りだよ」 鷹志 「いろいろあるんだなぁ。で……深冬ちゃん、今はどの中学に通ってんだ?」 悠介 「原中。小学校のほうも敢えて月詠街にした。あっちは家系の輩が多いからな。     最初はそういう場所で成長したほうがいいだろうって考えだ」 鷹志 「原中か……と、ほい。おまっとさんっと」 コトリと、目の前に味噌汁と豚丼が置かれる。 悠介の前には味噌汁、漬物、焼き魚などが。 相変わらず日本食が好きらしい。 彰利 「みさおは?いいのか?」 みさお「無用。精神を尖らせるために断食中です」 彰利 「ボクサーみたいなことしてんのね……まあいいや、いただきます」 悠介 「いただきます」 それぞれがまず味噌汁を飲むと、小さく口の中で泳がせたのちに飲み込む。 塩分と水分で味覚を引き上げるためだ。 そうしてから改めて、親友との会話に戻る。 メシを食べながら。 鷹志 「あれ……じゃあ深冬ちゃんって今何処に住んでんだ?」 悠介 「晦神社。どこで話を聞きつけたのか、     若葉と木葉を始めとするたわけどもが深冬を攫っていった」 鷹志 「……お前らの知り合いや家族って本当に思い切ったことを平然とするよな」 悠介 「だから苦労が絶えないんだよ……」 相変わらず苦労しているらしい。 妙に納得しちまうところは、彼の人物特性をよく知ってるからだろうか。 悠介 「まあ俺もいい機会だと思って修行に明け暮れる毎日だけど。     この前久しぶりにリアナの剣術稽古に付き合ってきた。     腕は鈍るどころか上がってたな。純粋に嬉しかったよ」 彰利 「俺が最後に様子見に空界に行ったのも随分前になるからなぁ……元気してた?」 悠介 「ああ。ていうかさ、中井出と綾瀬、いつの間にあんな関係になってたんだ?」 彰利 「ああアレね、俺も驚いた。今のことは知らんけど……どうしてた?」 悠介 「子供が居たぞ。物凄く気の利く子供だった」 みさお「あのふたりの遺伝子を継いでるとは思えないものでした。驚きですよ」 ひでぇ言われ様だな……。 まあ月詠街にこのクラスありと言われた原中の提督だったヤツだし。 悠介 「でもなぁ……それより驚いたのがメルヘンだった」 彰利 「メル───はぁ……まだ居るんだ……」 悠介 「まあ腐るなって。メルヘンのお陰で竜族と幻獣が和平を組んでくれたんだ。     まあそうはいっても竜族以外には心をてんで許しちゃくれないが。     それよりも襲われた者の数が凄くてな……。     人間じゃなくて竜族や幻獣のみを狙ってくれたのは、ありがたかったんだが」 彰利 「へ?なんでさ」 悠介 「人間じゃあメルヘンに襲われて交配されたら確実に死ぬからだ。     けど竜族や幻獣なら心に大きな傷を負うものの、死にはしない」 彰利 「あ……なるほど」 悠介 「ただな……産まれてくる子供メルヘンが強くてな……」 彰利 「ちなみに今のメルヘンボスは?」 悠介 「パイロヒュドラキングベヒーモスドラゴンメルヘン」 彰利 「ごめん、訊いた俺が馬鹿だった」 悠介 「キングベヒーモスも南無が居なけりゃどうしてか大人しくてさ。     こっちから攻撃しないかぎりは襲ってきたりなんかしないんだけど、     それが仇となったみたいでお子さんが誕生した」 彰利 「キングベヒーモスって……悠介が召喚した?」 悠介 「いや、幻獣たちの均衡を整えようってことでノートが複製したヤツだ」 彰利 「で、複製したら襲われた、と……」 聞きたくない情報だったね、ほんと。 彰利 「ま、まぁメルヘンは置いておくとして。     ていうか話戻したくないから捨てておこう」 鷹志 「メルヘンってあの阿修羅面(怒)のヤツだよな?     今のメルヘンどういう姿なんだ?」 悠介 「体がキングベヒーモスで首から先は百本の阿修羅面(怒)が伸びて、     竜の飛翼と強靭な尾、紫電も極光レーザーも使い放題の悪夢の塊的なメルヘン」 鷹志 「……そんなヤツが居て空界大丈夫なのか?」 悠介 「あいつら死に掛けると自爆するから手に負えないんだよ……。     今のボスメルヘンが自爆したら、空界の地図が間違い無く変わる」 鷹志 「うあ……」 彰利 「なぁ……マジでメルヘンの話やめない?」 みさお「同意見です」 悠介 「まぁ、なんとかなると思う。     半コロがしにしてから自爆する隙を狙ってブラックホールででも消すさ。     それとも時空魔法で別の世界に飛ばすか」 彰利 「また神界にでも飛ばす?」 悠介 「いや、一応向こうの神様から苦情が来たから。それはやらないでおこう。     なんでも神界の男全員がグランベヒーモスメルヘンとドラゴンメルヘンに     襲われて、全てその……子種を搾り取られたのちに食われたらしい。     神界の男は全滅したって聞く。けどその代わり、     送ったメルヘンもなんとか始末されたそうだ。そこのところは喜ぼう」 彰利 「うわぁ……ってまたメルヘンの話になってるって!     やめようもう!!メシが不味くなるっつーかもう不味い!!」 頭の中に阿修羅面(怒)が渦巻く……うおお気持ち悪ぃ……。 彰利 「とにかく適当な話題を───あぁそうだ、     悠介は深冬ちゃんをどの高校に入れるっつーたっけ?」 悠介 「そういうのは深冬に任せてるけど、まぁ無難で漣だろうな。     ともかく俺は深冬の意見を尊重するよ。     でも相談に来たら思いっきり相談に乗ってやる。      俺達が子供の頃に足りなかったのは、多分そういうことだろうから」 彰利 「親ねぇ……あぁんなたわけでボケでクズな親持つと、     自分の『親』としての方向性が解らなくなるから困る。     親の愛情知らんのも考えものだな、ほんと。鷹ちんはどうだったん?」 鷹志 「鷹ちん言うな。……俺の家は普通だよ。本当に何処にでも居るような両親。     真由美の両親と仲が良くて、よくゴルフの話とかしてたっけ。     まあ実際こういう旅館とかやってたわけだけどさ、     お前らみたいに重い話題ってのは探しても出てこないな」 仕込みをし終えたのか、鷹志くんが手を洗いながら言う。 ……まあ、普通の家庭ってのはそうなんだろうな。 彰利 「ホイごっつぉおさん。料理上手くなったのう」 鷹志 「豚丼で褒められても嬉しくないな……」 悠介 「この味噌汁、出汁の味がよく感じられた。比率変えたか?」 鷹志 「あ、やっぱり気づいたか。今日はちょっと味薄めにしてみたんだ。     いやぁ、やっぱ晦は味覚が鋭いな」 彰利 「日本料理に関してだけね」 悠介 「いちいち上げ足とるようなこと言うなって……」 朝食を食し終えた俺達は鷹志くんに食器を渡すと、座っていた椅子を元に戻して歩き出す。 腹も膨れたことだし、これからどうするか─── ───……。 ……。 オガー…… 蒲田 「いらっしゃいま───うお!?」 なんだかんだで訪れたのは原中の猛者が蔓延る殊戸瀬家電店だった。 迎えてくれた店員が心底驚いていたが、ここ数年ご無沙汰だったから仕方ない。 蒲田 「原中生各員に緊急通達!店内入り口にて緊急事態発生!     総員、ただちに現場に来られたし!ウェルカァァーーーム!!」 彰利 「いやべつに通達せんでも───つーかなんでホーンテッドじゃんくしょん?」 ズシャァッ!! 総員 『天海さまの命により、我ら原沢南中学校卒業生───降臨しました』 彰利 「……ほんとに来てるし」 悠介 「何度も言うようだけどなんで天海さまなんだ?」 みさお「ポリシーというものでは?」 そんなポリシーは要らんと思う。 ともあれ集まった従業員は、どれも久しぶりに見る顔だった。 中村 「よー、久しぶりだなお前ら〜。ってあれ?提督はどうした?」 彰利 「まだ提督って呼ぶのね。提督なら空界で綾瀬と愛に走ったぞ」 中村 「綾瀬とか!?おぉお……あのふたり怪しいと思ってたが、よもや……。     綾瀬が事故死したって聞いた時はたまげたもんだけど、     そっか、しっかりと向こうで家庭築いてたんだ」 悠介 「まあ。で、そっちはどうなんだ?上手くいってるか?」 蒲田 「順調ってとこかね。まあ退屈はしてない」 灯村 「つーか退屈のしようがない」 島田 「やきいも」 清水 「ただ欲を言えば、提督の掛け声が無いと気が引き締まらないんだよな。     サー・イェッサーって返事もここ数年やってない」 蒲田 「俺も」 増田 「わたしも」 灯村 「ミーも」 島田 「やきいも」 それでも反応や行動が全く変わってないと思うのは俺だけだろうか。 人のことは言えないわけだけど。 藍田 「へー、キミみさおちゃん?大きくなったなぁ」 みさお「ありがとうございます」 藍田 「……つーか雰囲気が思いっきり篠瀬さんに……」 みさお「夜華さんはわたしの刀術の師ですから」 総員 『あぁ納得……』 モフシャアと息を吐く総員。 本当に変わってなさそうだった。 ……そりゃ、外見は随分と変わってしまったようだけど。 悠介 「藍田、木村……というか奥さんはどうしてる?」 藍田 「夏子か?今は専業主婦やってくれてる。俺にも子供が出来たからさ。     まかせっきりになって悪いけど、嫌な顔ひとつせずやってくれてるよ」 悠介 「そっか」 彰利 「平和にやってるってことですな?」 藍田 「刺激が無いのは否めないけどなぁ。     ……今でも思うよ。俺達の中学時代は本当に輝いてたって。     ははっ、最初は胡散臭いやつらだなぁって思ってたお前らが、     こんなにも人生への価値観を変えてくれるやつらだったなんてさ」 彰利 「懐かしいよな。木村夏子のことをいつでもチラチラ見てて、     ストーキングアイーダの称号を密かに持ってたお前が木村夏子と結婚だなんて」 藍田 「懐かしがりながら妙なこと捏造すんなよ!!」 総員 『………』 藍田 「いやちょ───なんでみんな目ェ逸らすの!?     え!?俺マジでそんな称号持たされてたの!?」 彰利 「……知らない方が良かったことだってあるんだ……。これで解ったろ?」 藍田 「今さら暴露したお前に言われたくねぇよ!!」 そりゃそうだった。 あぁ……いいな、この感覚。 当時の懐かしさが記憶の中から滲み出てくるような気分だ。 隣に立つ親友も、その隣のみさおも小さく笑ってる。 多分、今の俺と同じ気分なんだろう。 丘野 「おーい!お客さん待ってるぞー!なーにやっとんじゃー!」 中村 「おお!シャチョ〜だ!シャチョ〜!」 丘野 「ブルンさんみたいに言うな!!     それよりレジ───って、弦月!?それに晦も……そしてキミ誰?」 みさお「失礼な社長さんですね」 店の奥から現れたのは丘野。 なんかヒゲが生えてるけど、この顔は丘野に間違いないだろう。 丘野 「おいおいどうしたんだよ、ここ数年音信不通だったから心配してたんだぞ?」 彰利 「すまん、勧誘電話が鬱陶しいから電話回線抜いてた」 丘野 「十数年も抜いたままにすんなよ!!」 悠介 「俺はあちこち飛び回ってたから電話に出る暇なんて無かったな……悪い」 丘野 「ああ、いやいい。無事だって解っただけで十分だ。空界のこと知ってりゃ、     いつ死んでもいいような状況で生きてるやつらだから心配だったんだ」 みさお「殺そうとしても死なない人たちと思われますが」 総員 『ああ確かに』 久々に会ってみれば、再度バケモノだと認められました。 彰利 「まあいいコテ、様子見たかっただけだから。ほいじゃあね、元気でおやりよ」 丘野 「おう。……っと、そういやそろそろか?みんな集まって騒ごうって約束」 彰利 「あと3、4年後くらい。もうちょい地面を均そうや。     ガキどもに『常識』が芽生えたあたりで、     その常識を根底からブチ壊してゆく……クォックォックォッ、たまりませんなぁ」 藍田 「なんつーか……弦月だなぁ」 彰利 「大丈夫!みんなが若返る中、キミだけはキチンとオリバだ!」 藍田 「満面の笑顔で親指立てられて言われたって嬉しくねぇもんは嬉しくねぇよ!!」 彰利 「ィヤッハッハッハ!!そんじゃ今度こそさいなら。また数年後に会いましょう。     こういう場所だから長い休みを取るのは大変かもしれんけど、     訪れてさえくれればいつでも若返らせてやるけぇ」 丘野 「場所とかはどうなるんだ?」 彰利 「招待状書くからさ?それに記すさー。世界レベ〜ルの説明を書かせてもらうさ」 それだけ言うと、身を翻して歩き出す。 みなさま壮健そうでなにより。 これならばあと数年なんて余裕で健康でしょう。 俺は一度振り向くと両手を広げて叫んだ。 彰利 「魅惑的なパラダァィス!!」 総員 『海は素晴らしィーーーッ!!!!』 すると即座に片手を天に掲げて叫んでくれる猛者ども。 この気軽さとノリの良さも相変わらずで、本当に嬉しかった。 みさお「どういう別れ文句ですか」 悠介 「原中ってのはこういうもんだよ。     ノリがあれば理屈は要らない。だから重くないんだ」 みさお「はあ……」 そうして、俺たちは店をあとにした。 『またな』とか『元気でやれよ』とかありきたりな言葉じゃなく、 『相変わらずのツンツン頭だったぞ』とか 『モミアゲの美しさにも磨きがかかってたぞ』とかという言葉が背中に届く。 彰利 「……キミへの認識はやっぱりまずモミアゲなわけね」 悠介 「頭痛いぞ俺……」 みさお「気を確かに、父さま。父さまのモミアゲが美しすぎるのが悪いのです」 悠介 「……喧嘩売ってるか?」 みさお「め、滅相もありません!!」 悠介 「べつに手入れがどうとか意識してるわけでもないのに     周りのヤツらがモミアゲモミアゲと……俺にどうしろっていうんだ……」 彰利 「美しさが天然のモミアゲってことっしょ?希少じゃん」 マゴロシャアアアーーーーーーン!!!! 彰利 「ぶるぅえぁああああああああっ!!!!」 久しぶりに殴られた。 褒めたつもりだったが、どうやら逆鱗に直撃しちまったらしい。 とうとうヤツもイカレちまった。 つーか相変わらずバケモンだこの親友!! こっちだって生身の状態で随分鍛えたっつーのに、 いとも簡単に人が吹き飛ぶほどのパンチ力を……!! さ、さすが空界の長……ハンパじゃねぇやい……!! 彰利 「だ、だがなー!俺とて冥界の長!地位的には貴様に負けておらんたい!!」 悠介 「寝言は寝て言え。     仕事全部シェイドに押し付けてるお前がなーに言ってんだたわけ」 彰利 「グ、グムーーーッ!!!」 それ言われるとオラ辛ェ……言い返せやしねぇやい。 でもね、正直面倒なんだよ冥界の仕事……。 知ってる?一日に死ぬ人って世界で考えりゃ相当数なんだよ? そんなやつらの面倒をみんな見ろっつーんだよ? 善行を行ったとかなんとか調べたあとに天国地獄を決定せにゃならんの。 人が死んで喜ぶのなんてホネスティアの骨どもくらいだよ。 ……ちなみにホネスティアってのは骨の集まる世界。 住民が全て骨という恐ろしい場所だ。 死神王になったあと、初めて存在を知った場所。 まあ骨死神だって居るわけだから、 骨住民だって存在するんだろうと楽観視することにした。 彰利 「久しぶりに会った親友に、相変わらずの言葉をありがとう……」 でもまさか『寝言は寝て言え』と『たわけ』を言われるとは思わなかったです。 いや、気にしたら負けだな、強く生きよう。 彰利 「……で?これからどうする?」 悠介 「ん───この時間じゃあもう深冬もみずきも学校だな。あそこに行こうか」 彰利 「……?ああ」 みさお「そうですか。それではわたしはこれで。     あの場所に行くのならわたしは邪魔というものでしょう」 彰利 「うん邪魔♪」 みさお「……口が減らないのも相変わらずのようですね。それでは父さま、失礼します」 悠介 「悪いな、みさお」 みさお「いえ」 小さく笑むと、みさおは転移でその場から消えた。 別に妙な気ィ使わなくても良かったのにな。 彰利 「……行く?」 悠介 「行こうか」 ニヤリと笑い合った。 いつだって競争のようなものをする時はやっていた笑み。 それが合図となって、俺と悠介は駆け出した。 能力なんて使わない、身ひとつの疾駆。 向かう場所は相当に遠い。 でも───ああ……こんな感覚の全てが懐かしい。 そして懐かしいからこそ思った。 親友の居ない日常では、こんなにも笑みをこぼすことは出来なかったと─── ───……。 ……。 ───……サァァッ……!! そこに辿り着くと、強いけれどやさしい風が頬と草原を撫でた。 辿り着いた場所は約束の木が立つ草原。 前世の頃からずっと眺め続けた、俺達の約束の場所だった。 悠介 「……いい風が吹いてるな、今日は」 彰利 「そうだね、浩平くん」 悠介 「だれが浩平くんだ」 彰利 「折原さん家の浩平くんだ」 訳の解らない言葉を吐くのが日常の中での癖になっていたあの頃。 いつだって駆け回って、いつだって騒いでいた。 そんな日常が訪れるまでの俺はとても冷たいヤツで、 正直───自分のことが好きでも嫌いでもないなんていう空虚な存在だった。 それでも─── 彰利 「はぁ〜あ……」 悠介 「………ふぅ」 それでも。 今、約束の木の下に一緒に寝転がって思い出すのは、 やっぱりそんな空虚だった自分の思い出。 今では遠く霞みすぎた思い出なのに、この場所に寝転がるとあの日のことを思い出す。 どんな思い出よりも鮮明に、懐かしむことが出来る。 それはきっと───その時に、俺がこいつと出会えることが出来たから。 彰利 「喧嘩の予行練習でもしよっか?」 悠介 「たわけ」 見上げる木は枯れ葉を纏って揺れていた。 この木とも随分と長い付き合いになる。 子供の頃からここは俺のお気に入りの場所で、 そこに訪れたひとりの異端者───それが悠介だった。 親から邪魔者扱いされていた俺は、 子供心に自分の縄張りなんてものを持っていたんだろう。 だからこそ、自分の唯一の自由な場所に訪れる誰かが許せなかった。 まして、相手は同じ背格好ほどの男だ。 その後のことなんて、思い出しただけで笑える。 彰利 「……いろいろあったよな」 悠介 「……ああ」 感謝してもしきれない、と続ける親友。 けど、そんなものはこちらのセリフというやつだった。 俺が今まで頑張ってこれたのは家族でもなんでもない、 たったひとりの親友のお陰だったんだから。 彰利 「なぁ。俺達……いつまでも馬鹿やってような。     俺達のことを理解してくれるヤツなんてそうそう居ないけど、     俺は……原中のやつらが理解してくれただけでも嬉しいからさ」 悠介 「ああ……そうだな。嬉しかった。     受け入れてもらえる喜びが、他の物事に比べて格段に違ってた。     俺達にとっての中学時代は、本当に輝いてたから───」 きっと自分がそうだと思うよりもいろんなことの上に、この時間軸はあるんだと思う。 嫌なことはそりゃあたくさんあった。 投げ出したくなることなんてそれの倍だっただろう。 でもやっぱり感謝せずには居られなかった。 産んでくれてありがとうって言えばいいのかなんて解らない。 それでも以前より、俺は産まれてきたことを喜べるようにはなったんだと思う。 やっぱり宗次のヤツは許せる対象じゃない。 ないけれど……───……ダメだな、俺ってやっぱりまだまだ子供らしい。 彰利 「まあいいか……あいつを許すなんて、人生の汚点だ」 悠介 「……考えてることが丸解りな独り言だな」 彰利 「たはは、こりゃ失礼」 ゆっくりと目を閉じて息を吸った。 途端に訪れるまどろみはとても心地良い。 声  「覚えてるか?初めて俺がここに来た時のこと」 声が聞こえる。 まどろみに包まれながら聞く親友の声は可笑しそうで、 夢物語に出会った瞬間を語るかのように……だけど、とてもやさしい声を俺の耳に届けた。 声  「あの頃のお前、動くもの全てが敵みたいな目つきしててさ───」 全てが敵だった頃───そんな時間が確かにあった。 母以外の全てが敵で、そんな時に縄張りに誰かが侵入すれば警戒は全開だった。 声  「お前さ、俺を見るなり物凄く睨んできて───」 声が、段々と遠のいてゆく。 声が小さくなるわけじゃなく、ただ俺が深みへと落ちてゆく感覚。 そんな時に思い出したのは遠い遠い昔のこと。 喩えるなら……幼いあの日に母に抱かれ、いつも聞いていた歌を懐かしむ感触。 想像してみて笑えてしまったけれど、 そんな笑いにもめげずに俺の意識は混濁に飲まれてゆく。 声  「……ありがとな。俺なんかと親友になってくれて」 最後に聞こえた声に、こちらこそと返してやりたかった。 それでももう声が出ないところまでまどろみは辿り着いていて─── 気づけば俺は、深い眠りへと落ちていた。 それを言いたいのは俺の方だ、とか…… 相手がお前なら親友にもなるさ、とか…… きっと思考の中にたくさんあったであろう言葉を置き去りにしたままに。 ───……幼い頃、草原は大きなお城だった。 ぼくは小さな体を精一杯に振って、そこを何度だって駆け回っていた。 べつに何か目的があったわけじゃない。 ただ、これ以上の楽しいことを知らなかった。 家に居れば父さんがぼくを殴るし、それを庇おうとする母さんまでぶたれる。 だからぼくはひとりで遊んでいた。 朝も、昼も、夜も。 そんなぼくの考えを知ってた、母さんもぼくの遊びになにかを言ってくることはなかった。 それでも。ぼくを見る申し訳なさそうな目は、いつまでもぼくの記憶に焼きついていた。 彰利 「………」 幼い頃、草原は大きなお城だった。 広い草原はぼくの居場所、大きな木はぼくの玉座。 ぼくはここでは王様で、ぼくになにかを言う人なんて誰も居なかった。 ひとりきりの王様ごっこがぼくの一番の楽しみで、 ここはぼくが一番自由になれる空間だった。 だからご飯を抜きにされようが、眠るために家に戻った時に殴られようが、 いつしかこの場所だけを心の拠り所にすることで全てに無関心になることが出来た。 殴られたって痛くない、役立たずだって言われたって辛くない。 だからぼくは草原の王様。 草は引き抜かれたって潰されたって痛いって言わないし、文句も言わない。 だからぼくは草原の王様。 王様だから泣いちゃいけないってずっと頑張ってきた。 笑うこともしなかったし泣くこともしなかった。 けど、ただ草原を走り回るなんてことが、 廃れた心に少しでも『楽しい』を与えてくれたのをいつだって覚えてる。 ───眩しい黄昏だった。 草原は夕日に照らされて金色に輝き、 ただの草だったそれが黄金色の稲穂のように見えたあの頃。 ぼくの城に、ひとりの男がやってきた。 子供 「………」 子供の目は死んだ魚のように覇気がなかった。 その喩えを、ぼくはぼくの父親自身に言われたのだから忘れる筈も無い。 ただ目の前に立っていたそいつがぼくと同じ目をしていることがとても許せなかった。 ここはぼくの城。 ぼくはこの草原の王様。 だから、ぼくと似たヤツが来ればそいつが王様になってしまうかもしれない。 そんな理由で、ぼくはそいつを殴った。 そいつはまるで、そうされることに慣れているみたいに簡単に倒れた。 ……人を殴ったのはこれが初めてだった。 簡単に相手が倒れて、抵抗もしないままに転がる。 殴った手はじんじんと痛んで、だけど心のほうがよっぽど痛かったのを覚えてる。 解らなかった。 解ろうとも思わなかった。 父さんはどうして、こんな辛いことを平気でやってのけるんだろう。 抵抗もしない相手を殴ることが、そんなに楽しいのか。 ……気づけばぼくは泣いていた。 泣きながら、自分と同じ目をした子供を殴っていた。 なにが悲しいとかじゃない。 ただ、自分に似た子供を殴るという事実がとても辛かった。 けど……その涙が子供の頬に落ちた時……子供は豹変した。 子供にのしかかって殴ってたぼくを横殴りに吹き飛ばした。 ……とても痛かった。 父さんに殴られるより、よっぽど痛かった。 だけど───ああきっと、ぼくを殴った子供の手は、心は、この頬なんかよりもきっと…… 彰利 「うあぁああああっ!!!」 子供 「……!!」 子供は無口だった。 だけど喧嘩はとても強かった。 初めての喧嘩だったけど、ぼくはべつに自分が弱いだなんて思ったことはなかった。 逆に大人に殴られ慣れてるから、 子供のパンチなんて痛くも無いって思ってたくらいだった。 それなのに目の前の子供のパンチは、今までのどんなものよりも痛くて。 彰利 「やったな───!!この……!!」 子供 「っ……!!」 ただぼくはこの子供を、ただ彼はぼくを殴り続けた。 血が出ても辛くても、まるで自分自身を殴るように何度も殴った。 ……弱いだなんて思ったことはないなんてウソだ。 ぼくは弱かったからこそ、自分によく似た彼を殴ることで自分を強くしたかった。 きっとそれは彼も同じだったんだ。 だから泣いた。 泣いてくれた。 ぼくも、彼も、彼のために、ぼくのために。 痛いのは自分の心で、救ってあげたかったのはきっと相手の心だった。 そうして初めて気づいた。 ぼくを気遣って泣いてくれた人が居たことに。 初めて出会った子供は誰よりもぼくのことを思って泣いてくれて、 ぼくは初めて出会った子供のために誰よりも深く泣くことが出来たんだと思う。 彰利 「っく……ひっく……!このっ……!!」 子供 「っ……、っ……!」 子供は相変わらず喋られなかったけど、 嗚咽に苦しみながらもぼくを殴ることを決して自分からやめようとはしなかった。 ……その目が言ってくれた気がした。 自分が、キミの悲しみを全部受け止める、って。 もちろん子供だった自分たちがそんなことを言える筈もない。 それでもぼくは、きっとその瞳にこそ……初めて救われることが出来たんだと思う。 彰利&子供『あ……』 体が動かなくなった時、ようやくその喧嘩は終わった。 大の字に倒れて、黄昏に染められる大きな木の葉を見て泣いた。 べつに喧嘩で勝てなかったから泣いたわけじゃない。 ただ、そう。 初めて自分を解ってくれる人が現れたことが嬉しかった。 子供のほうも泣いていて、 もう何がなんだか解らないままに互いに触発されるように泣いた。 ……そんな景色を、ぼくの城だけが見守っていた。 彰利 「………」 子供 「………」 やがて涙が乾いた頃、ぼくらはすっきりした顔でお互いのヘコんだ顔を見た。 お世辞にもいい顔とは言えないものだったけど、 元々殴られてばかりだったんだから今さら顔がどうのなんて言わないでおいた。 彰利 「……おまえ、つよいんだな」 子供 「……つよくなんかない。まけたくなかっただけ」 彰利 「……ヘンなやつ」 子供 「まけちゃだめだっておもったんだ。だってキミ、ぼくとおなじめをしてた」 彰利 「………」 結局……考えてることが、感じていることが同じだったと気づいたのがこの瞬間だった。 ぼくはそのことを彼に打ち明け、そうしてみて初めて大声で笑った。 傷が痛むとかそんなことは関係なしに、今までの辛さを吐き出すかのように笑った。 そんなぼくにきょとんとした顔を見せた彼も、やがては大声で笑った。 ……そうした景色の中。 きっとぼくらは、互いがそうだと言うこともなく。 申し合わせることもなく。 そう……友達になっていたんだと思う。 ───名前も知らない友達。 だけど、きっと誰よりも大切な友達に─── ───……。 彰利 「……ん」 ふと、目を開けた。 見える景色はいつかの黄昏のように黄金色で、 その穏やかな光を浴びた約束の木と枯れ葉が綺麗に揺れていた。 隣を見てみれば親友の寝顔がそこにあって、俺は自分がひどく安心したことを自覚した。  ───もし本当に夢でしかなかったら。 そう思ったら、本当に怖かったから。 でも今、こうして静かな時節の中で生きている。 そんななんでもないことが、ずっと昔から嬉しかった。 彰利 「……ああ。本当にいろいろあった」 見ていた夢は過去のこと。 だけど、その過去がこの時間軸を作ってくれた。 これが嬉しさじゃないのならなんと喩えよう。 この自然の笑みが喜びじゃないのならなんと喩えよう。 そう思ってみて、ひどく自然に思考が返してきた答えに笑った。 それは、探し求めていた幸せが、ようやく自分の手へと舞い降りてきた瞬間だった。  「……うん。俺は───ぼくは、幸せだ───」 吹いた風に乗せるように放った言葉が、黄昏の空へと消えてゆく。 見送ることも出来ないカタチの無い思いは何処へ辿り着くのか。 ただ俺は、遠く眺めた黄昏の空を思った。 もうじき陽が完全に沈む。 その前に、と───俺は小さく瞳を閉じて唱えた。 かつての自分の城で、ぼくがぼくで居られた場所で。 風に乗せた思いが、これから進む未来へとずっと流れ…… そしていつか、俺が辿り着く最果てまで届いてくれますように、と。 そうしたら、いつまでも自分は胸を張って幸せだって言っていられる気がするから。 いつまでも、笑いながら生きていけると思うから。 初めての友達であり、永遠の親友と一緒に。 ───ずっと夢見てきた穏やかな人の輪に囲まれながら、自分は何度だって微笑むだろう。 子供の頃に浮かべた人形みたいな笑顔じゃない、心からの笑顔を。 そんなことが自然に出来た時、いつか自分が幸せだったってことに気づいて─── いつかみんなを置いて孤独になってしまったとしても、 きっと傍には親友が居ると信じてる。 人生ってキャンバスは無限で、俺達はそれを彩ってゆく絵の具。 その言葉を思い出すと、こんなにも人の輪に包まれた今の自分なら、 きっと綺麗な絵が描けるんだろうと……親友と笑い合った。 ───そんな、過去現在未来が紡いでゆく日常の物語を。 今も、そしてこれからも───ずっと思い、生きている───                                〜F i n〜 Menu back