───赤裸々撲殺乙女───
じゃんじゃがじゃじゃん・じゃんじゃんじゃじゃんじゃん、 じゃんじゃがじゃじゃんじゃん♪ 浩介 「オウイェーイ!!」 じゃんじゃがじゃじゃん・じゃんじゃんじゃじゃんじゃん、 じゃんじゃがじゃじゃんじゃん♪ 浩之 「オウイェーイ!!」 じゃじゃっちゃっちゃっちゃちゃらっちゃっちゃちゃ、 じゃんじゃがじゃじゃんじゃんじゃんじゃじゃんじゃん、 じゃじゃじゃじゃじゃんじゃじゃんっ! 志摩 『イエアーッ!!』 どがしゃーんっ!! 凍弥 「だぁぁああうっせぇーっ!!」 とある日に訪れた休日。 俺は鈴訊庵二階の自室でアンニュイしていた。 そんな誰にも邪魔されたくない春の日に、ひとつの電話。 出てしまった自分を呪うが、電話を掛けてきたのは志摩兄弟だった。 『新作のメロディ〜が出来たから聞いてくれ』とのこと。 暇だったことは確かだからって、俺はどうかしてた。 どこに居る?と訊ねた途端に自室のドアが開き、 そこからラジカセを持った志摩兄弟がズカズカと上がり込んできて……現在に至る。 浩介 「おお、見ろブラザー。盟友も猛っておるぞ」 浩之 「授業も無視して作詞作曲に明け暮れた昨今も報われよう。やったなブラザー」 どこに耳つけてやがりますかこいつら。 浩介 「それは貴様と同じ場所だよ盟友」 凍弥 「心を読むな」 浩之 「つれないなぁ盟友。我らは同じ志を共有した同志ではないか。     遠慮せずにホレ、貴様もハジケて混ざれ。我が許す」 凍弥 「お前の許可なんかいらねぇ……」 浩介 「そうかそうか、ならば我が許可しよう。喜べ同志」 凍弥 「……言い方が悪かった。お前らの許可はいらねぇ……」 浩介 「ぬ、そうなのか。それならば許可などいらぬか。     元より貴様は我らが同胞。許可など不要だったか。無粋なことを訊いたな」 凍弥 「………」 人の話を聞いてないな。 志摩兄弟の悪いクセだ。 人の話を自分の都合のいいように捻じ曲げて解釈するのはとことん変わらない。 浩介 「……?どうしたというのだ盟友よ。貴様らしくもない」 凍弥 「んー?うん、ちょっとお前らと会った時のこと思い出してた」 浩之 「おお……あの時か。美しき蒼の頃だな」 凍弥 「お前がそれを言うか?」 浩介 「そうだな。あの頃は我らは態度が太かったっからな」 凍弥 「だから……お前がそれを今も言うか?」 浩介 「む?今の我のどこを見て態度が太いと?」 凍弥 「………」 自覚が無いってステキだよな。 遥一郎「どんな出会いだったんだ?」 凍弥 「どぅわっ!?」 浩介 「よーおっさん。邪魔しているぞ」 浩之 「相変わらず神出鬼没だなおっさん。邪魔しているぞ」 遥一郎「おっさんと呼ぶな。───それで?」 凍弥 「な、なんだよ」 遥一郎「出会いだ。興味がある」 浩介 「そうだな、おっさんにならば話してもよかろう」 浩之 「そうだな、おっさんにならば五千で手を打とう」 遥一郎「呪い殺すぞおのれら」 浩介 「やってみろ、クローン風情が」 浩介が自信満々に与一を睨む。 ……意味解らんが。 浩之 「意味が解らんな、ブラザー」 浩介 「そうか、これは失態だったな」 浩之 「修正ィイイイイイッ!!」 ボグシャアア!! 浩介 「ラブリィイイイッ!!!」 ごしゃあっ。 浩之に殴られた浩介が奇声を発しながら空を飛んだ。 しかし真上に飛んだ彼はただでは修正されなかった。 ───ドカッ。 浩之 「なにぃ!?」 浩介 「イィイヤァアアッ!!」 落下してきた拍子に浩之の首を極め、 やがてフランケンシュタイナーの要領でゴシャアアアン!! 浩之 「ごほぁっ……!」 浩介 「ゲフッ……!」 しかし自らも思いきり頭を打ち付け、双方気絶。 遥一郎「……なあ凍弥」 凍弥 「いや、言わなくてもなんとなく解る……。毎回疲れてるから」 遥一郎「……望んだ通りの答えだ」 与一は思いっきり溜め息を吐いた。 当然俺もである。 遥一郎「ところで凍弥」 凍弥 「んー……?」 与一が俺を見た。 目を逸らさずに真っ直ぐに話し掛けてくるヤツは嫌いじゃない。 だから俺も聞く体勢をとった。 やがて与一が言葉を─── 浩介 「フッハァーッ!どうだ我が盟友凍弥!見事に話題を逸らしたぞ!」 凍弥 「言っちまったら意味がねぇだろうがぁーーーっ!!!!」 めごきゃああああっ!! 浩介 「ペサァーーーッ!!」 俺の拳を頬に受けて、彼は飛んだ。 しかし体勢を立て直して俺を見る。 浩介 「はっはっは、ひどいな盟友。いきなり殴りかかるとは」 凍弥 「ちっ……自分から飛んだか」 志摩兄弟は殴られそうになると本能的に後ろに飛ぶクセがある。 何故かは不明であるが、出会った時からそれは変わらない。 遥一郎「ほう。それで?どんな出会いだったんだ?」 凍弥 「いや……おっさん……。平然と心を読んで話題を生まないでくれないか……?」 遥一郎「だめだ」 即答だった。 凍弥 「……浩介?」 浩介 「そうか聞きたいか聞きたいのかならば仕方あるまい話してきかせよう!」 凍弥 「うわー!話す気満々だー!」 浩之 「あれはそう正に聞くも涙、語るも涙、踊ると嘔吐の感動巨編!」 遥一郎「は、吐くのか……?」 凍弥 「俺に聞くなよ……」 桜が飛び散る春の季節。 当時中学2年だった俺は、新入生入学の朝礼を全く無視して屋上で寝ていた。 だがのんびりと寝ていた時、視界に影が差し、俺は起きた。 そこには男が居た。 ふたりの、同じ顔をした男。 そいつらはムシャクシャしていたのか、寝ていた俺に喧嘩を売ってきた。 浩介 「よう、アンタ。俺達と遊ばねぇか?」 凍弥 「他をあたってくれ、興味ない」 浩之 「なんだと?」 凍弥 「他を、当たってくれ、興味、ない」 浩之 「誰が言い直せって言ったよ」 凍弥 「あ?違うのか?だったら『なんだと』なんて聞き返すな馬鹿」 浩之 「ちっ……!」 男は苛立っていた。 だけどもうひとりの男に声をかけられると、自らを落ち着かせた。 浩介 「面倒な言い回しは抜きだ。俺達と殴り合わないか?」 凍弥 「理由による」 浩之 「お前っ!」 浩介 「よせ浩之……。───両親がクズだから苛立ってる。     お前、暇なんだろ?もちろん俺達のことも殴って構わない。     ……本気で殴り合える状況が欲しいだけだ」 凍弥 「……へえ、親が嫌いなのか」 浩介 「ああ。あいつらはクズだ。俺達をなんかの材料としてしか見ていない。。     そんな親に育てられるのが嫌で、     俺達は年齢を偽ってバイトまでして自分達で生きてきた。     だが、最近それもやつらに見つかって止めさせられたよ。     ……俺と浩之があいつらにどんな迷惑をかけた?     生きたいから生きようとしただけだ。     あいつらに都合よく育てられようとしていた人生が嫌になった」 凍弥 「……そっか。───よし!」 俺は勢いよく起きあがった。 そしてふたりを真っ直ぐに見て言う。 凍弥 「一応自己紹介しておく。俺は霧波川凍弥」 浩介 「各務浩介」 浩之 「各務浩之」 凍弥 「各務(かがみ)、か。……遠慮はしなくていいからな」 浩介 「───本気か?」 凍弥 「誘ってきたのはお前らだからな。後悔するなよ」 ─── ドボォッ! 浩介 「っはぁっ───!!」 浩之 「やろぉっ!」 凍弥 「───甘いんだよ、のろま」 ゴンッ!! 浩之 「───!!」 ……ドッ。 ふたりが倒れるのを見て、構えを解く。 凍弥 「……悪いけど、誰かの気晴らしになってやれるほど弱く生きてないんだよ俺は」 浩之 「くっ……!」 浩介 「…………はっ……はははははははは!!」 ……? 浩介 「……そうだな、俺達は弱い」 浩之 「兄貴……?」 浩介 「浩之、俺達に足りなかったもの、なんだか解ったか?」 浩之 「………」 浩介 「解らないか。……あのな、俺達……人を恨んでばっかりで、     ちゃんとした講義をしなかっただろ。     影でコソコソバイトしてるだけじゃだめなんだよ」 浩之 「兄貴……」 浩介 「……悪いな、霧波川。     実際、浩之はどうか解らないけど俺は殴って欲しかったんだ。     ……巻き込んで悪かった」 凍弥 「……てゆうかさ、ほとんど自爆じゃないかお前ら」 浩之 「う、うるせぇ!ほっとけ!」 実際、俺が殴ろうとしたら大抵が自ら後ろに飛んで威力を無くしていた。 最初は驚いていたがそれがクセだと解ると、俺は追い詰めてから拳を振るった。 ───結果は、まあ……石屋根からダイヴを果たした。 それまでは散々俺の攻撃を避けていた彼らだったが、 それからは動きが悲しいほど遅くなっていた。 それがなかったら俺がボコられてただろう。 浩介 「でも……な。これからどうすればいいのかが問題だ」 浩之 「……そうだな」 凍弥 「……ふーむ」 考える。 ……まあ、どうせ困ってるヤツが居るならべつに、なあ。 凍弥 「お前らさ、自立したいのか?」 浩之 「当たり前だ」 浩介 「あんな親からはさっさと離れたい」 凍弥 「じゃあ、家賃無料でメシも出るい〜い場所があるんだが」 浩之 「ま、まじかっ!?」 浩介 「───そんな都合のいい場所が……!?」 凍弥 「俺の親が買い取った鈴訊庵って場所がある。そこにひとつ部屋が余っててな。     ふたり一緒でよかったら、そこを使ってくれ」 浩介 「……いいのか?」 凍弥 「退屈しのぎにゃあ……まあ、いい暇潰しだったからな。そのお礼だ」 浩之 「………」 凍弥 「ところでさ。どうせ家出るんだ。苗字も自分で作っちまったらどうだ?」 浩之 「───……いいな、それ」 今まで悪態をついていた弟の方が、俺を見て笑った。 浩之 「……うん、いい、いいよそれ。───っし!兄貴、厄介になろうぜ!     俺、こいつ気に入った!」 浩介 「………」 凍弥 「他人の同情はいらないか?」 浩介 「……同情か?」 凍弥 「同情だよ。気持ち、解るし。     情けってわけじゃない。気持ちが解るって方の同情だ」 浩介 「………」 凍弥 「嫌か?」 浩介 「……提案がある」 凍弥 「うん?」 浩介 「友達にならないか?そしたら遠慮する必要が無い」 凍弥 「友達?……ははっ、堪えられるかな」 浩介 「堪える───?」 凍弥 「まあ、鈴訊庵に住むことになったら嫌でも解ると思うけど、     一緒に住んでるヤツらがかなりの変わり者だぞ?」 浩介 「……構わない。俺も、お前のことが気に入った」 凍弥 「……ま、俺も似たようなもんだし。構わないんだったら友達に───あ、いや。     一応、そいつらに会ってからにしてくれ。がっかりさせるのは虚しいからな」 浩介 「……必要無いと言っているんだがな……」 凍弥 「頼むよ。友達になる前の他人の戯言だと思って」 浩之 「退く気は無いんだろ?だったら……兄貴」 浩介 「……解った」 凍弥 「じゃ、決まりだな。今日はサボって鈴訊庵に集合だ。一緒に来てくれ」 浩介 「OK」 浩之 「了解だ」 ─── 浩介 「……ここか?」 凍弥 「ま、挨拶回りということで。あ、ノックはいらないぞ?」 浩介 「……その笑い顔はなんなんだ」 凍弥 「なんでもない」 浩之 「そうか?そんじゃ───」 ───ばたんっ! 浩之 「たのもーっ」 浩之がサクラの部屋を開け放った。 その先には─── サクラ「───!!」 浩介 「ぶっ───!」 浩之 「おほっ───!」 着替え中のサクラが。 サクラ「きっ───きゃぁあああああああああああっ!!!!」 浩介 「おわーっ!!」 浩之 「ウヒョオオオッ!?」 悲鳴を上げたサクラがストレインを手に持ち、 呂布のような強さを発揮して彼らを殴り払った。 浩介 「ギャアアアアアアアア!!!」 浩之 「ぐわぁああああっ!!」 サクラ「うわぁああああん!!!!!」 ドガグシャベキゴキガンガンガン!! めきゃあ!ごしゃあ! べきっ!ごきっ! 凄まじい音がサクラの部屋から響き渡る中、俺は 凍弥 「とんずらーっ!!」 ───友達候補を見捨てて逃げ出した。 ああ、キミたちのことは忘れないよ。 友達になれなくても俺を恨むなよ〜っ。 どかーんっ! 凍弥 「なにぃ!?」 突然の轟音。 振り向けば、自室から滑り込みのように出てきたサクラが。 しかも阿修羅面『怒り』にも似た形相だ。 その上、恐ろしい早さで俺に向かって走ってきた。 凍弥 「キャーッ!?」 サクラ「悔い改めなさぁああああああああああいっ!!!!!」 凍弥 「お、おわーっ!!」 その時俺は恐怖したっ……! これが───これが畏怖っ……! 既に自我を失って、目に付く者ならば全てを撲殺しかねない勢いを誇っている。 やがてストレインが彼女の頭上で回転され、振り回された斬馬刀のようにしなり─── 凍弥 「いやぁああああああ!待った!サクラ待った!!待ってぇえええっ!!」 サクラ「天誅ぅうううううううううっ!!!!!!」 俺に向かって振り落とさごばきゃぁああっ!!! ……………… ……さて。 サクラ「いいですか。女人の肌というのは───」 浩介 「………」 凍弥 「………」 あれから日付が変わるまで、俺と双子はありがたい説教を受けていた。 腹が鳴ったり尿意に襲われたりしたが、その全てを却下された。 それについて我先にと講義をした弟が撲殺……もとい、殴り倒されて現在気絶中。 サクラ「聞いているんですかっ!!」 浩介 「は、はいっ!」 凍弥 「聞いてないからさっさと終わらせろよ……」 サクラ「凍弥さんっ!あなたって人は……!人の柔肌を見て言うことがそれですか!」 凍弥 「ったく……だぁ〜れがそんな貧相な体見て説教受けたいって思うかよ」 サクラ「貧っ……!?と、凍弥さんっ!?」 浩介 「うんうん……」 サクラ「……なんか言いましたか?ことと次第によってはブチ殺しますよ……!」 浩介 「い、いえ……なんでもありません」 俺の言葉に頷いていた双子兄が、目をギシャアと光らせたサクラに竦みあがった。 凍弥 「とにかく、まず説明させてくれ」 サクラ「うー、うーっ……」 渋るサクラの頭をぐいっと抑え、双子弟を起こすように兄に促す。 双子兄は軽く指を鳴らすと、弟は目を覚ました。 ……便利なヤツだな。 凍弥 「この赤裸々撲殺乙女はサイファー=クレイ=ランティス。     髪の色で解る通り、日本人じゃない」 浩之 「へえ、日本語ペラペラだなぁ」 浩介 「俺は各務……───」 浩之 「兄貴?」 浩介 「………浩之、ちょっと」 ────── 浩介 「俺は……志摩浩介。見ての通り双子だ。俺が兄な」 浩之 「俺は……志摩浩之。俺が弟だ」 凍弥 「志摩?」 確か……各務っていうんじゃなかったっけ? 浩介 「お前、苗字も決めてしまえって言っただろ?だから、決めてみた」 浩之 「そゆこと」 凍弥 「ふーん……」 サクラ「わたしはサイファー───」 浩之 「さっき聞いた。えーと、赤裸々撲殺乙女さん、だったよな?」 サクラ「───」 ギリ───! ストレインが固く握りしめられた。 浩之 「な、なんか怒ってるんだけど……なんで?」 浩介 「俺が知るかっ……!」 浩之 「だ、だよな。俺の気の所為だよな。あ、そんでさぁ赤裸々撲殺乙女さん。     さっき見せてもらったボディですが、なかなかのロリラインでしたぞ」 ブチッ───!! 浩之 「ややっ?いずこから何かが強引に引き千切られる音がっ……!?」 浩介 「気の所為だろう。まあそうだな、あの『幼児体型』は素晴らしい」 ブチブチィッ!! 浩介 「……ん?なんだ?」 浩之 「さあ……ん?霧波川、何処に行くんだ?」 凍弥 「へ?あ、いや〜……死の無い世界へ」 サクラ「───」 ズシンッ。 浩介 「!」 浩之 「!?」 ただならぬ殺気を感じたのか、双子兄弟……いや、志摩兄弟がバッと振り返った。 そしてそこにおわすは─── サクラ「………」 口からロトンブレスを吐かん勢いの殺気を撒き散らしているサクラさん。 サクラ「懺悔ぇええええええええっ!!!!!!」 浩介 「ひゃーっ!?」 浩之 「おわぁーっ!!」 再び目を輝かせたサクラがストレインを振りかざした。 そして浩介と浩之の撲殺を謀る。 俺はそれを見て 凍弥 「とんずらーっ!!」 再び逃げ出した。 で、逃げ出した部屋からは例の如く撲殺音。 ぁああああいやいや!そんなこと気にしてる暇あったら逃げろ!逃げるんだ!! 凍弥 「───はう!」 部屋からの撲殺音が止んだ。 く、来るッ!ヤツが来る!! どがしゃああああああああああん!!!! 凍弥 「キャーッ!!?」 後ろから轟音。 恐らく閉めておいたドアが蹴破られたのだろう。 イヤァアアア!振り向きたくねぇえええっ!! とか考えている内にズドドドドド……!という音。 相当な早さで近づいているその音は、間違い無くサクラの足音に違い無かった。 ───やがて首筋に何かの息吹を寒気とともに感じた時、 俺はついに恐ろしくなって振り向い 凍弥 「う、うわっ……うわぁああああああああああっ!!!!!!!」 すぐ背後に血塗られたストレインを振りかざしたサクラが居た。 その時俺は、生まれて初めて心の底から恐怖の叫びをあげボグシャアアッ!!! ……………… 目覚めると、そこにはカタカタと振るえる志摩兄弟が居た。 サクラ「……ああ、目、醒めましたか」 そして、感情のこもってない声が俺を迎えてくれました。 ……幼児体型ってゆうの、気にしてるんかなぁ……。 以後、気をつけよう。 サクラ「この人達から聞きましたけど……     ここに住ませるというのは本当ですか?」 浩之 「そ、そんな……あれは拷問っていうんじゃ……」 サクラ「───」(ギロリ) 浩之 「ヒィッ!」 浩之は怯えている。 一体俺が眠っている間に、どんな面白劇場が繰り広げられたのだろうか。 凍弥 「住ませるってゆうことに関しては本当だ」 サクラ「そんなっ!こんな特殊嗜好な人と一緒に住んでいたら───!」 凍弥 「サクラ、己の道徳は?     どのような存在でも放り出すことは出来ない、じゃなかったっけ?」 サクラ「………」 ……はぁ。 凍弥 「───」 浩介 「……!」 俺はアイコンタクトで後押しをするように促した。 浩介 「先ほどは本当に失礼した。我ら志摩兄弟、髻に掛けても他言せぬことを誓おう」 凍弥 「だとさ。……って、浩介?なんか言葉遣いが……」 浩介 「凍弥、今日から貴様と我らは同じ秘密を共有した盟友だ。     我はそれを守ることを条件にここに住むことにしよう」 凍弥 「………」 打ち所が悪かったのか? 見れば、サクラも何か気まずそうにしている。 凍弥 「……お前、ホントに加減無しに殴ったろ……」 サクラ「あぅ……」 サクラはあっさりと目を逸らした。 凍弥 「あーあ……あんなに誠実そうなヤツだったのに」 サクラ「うぐっ……」 凍弥 「こりゃ、お前も無下に断れないんじゃないか?」 サクラ「うー、うー……」 ……しばらくねばっていたサクラだったが、そのしばらくのあとにがっくりと頷いた。 ………… ───。 凍弥 「とまあ、そんなわけだけど」 遥一郎「……あのミニが、なぁ」 与一は恐ろしい一面を知った面持ちで首を捻っていた。 気持ちは解る。 殴られた俺でさえ驚いたし。 凍弥 「まあその後はおっさんも知っての通り、     高校に入ってバイトが出来るようになってから、     鈴訊庵を出てアパート借りてるってわけだ」 遥一郎「まあな、そこは知ってる」 浩介 「……我はあれ以来、サクラ殿にだけは逆らえぬ」 浩之 「同じく……」 志摩兄弟は震えあがっている。 気持ちは解る。 俺も逆鱗に触れない程度にからかうことしかしない。 浩介 「ところで盟友よ。あれ以来、ここには誰も入ってないのか?」 凍弥 「ああ。まあ誰も誘ってないしな」 浩之 「そうなのか」 誰かが誘わない限りは誰もここが入居者募集だということに気づかないだろう。 凍弥 「ところでおっさん、サクラは?朝から見ないなんて珍しいじゃないか」 遥一郎「だからおっさんと呼ぶなと……!     まあ、ミニならお前さんのオフクロさんと話があるって言ってた」 凍弥 「そっか」 浩介 「フッ、そうか。やつめ、我らに恐れをなしたか」 浩之 「ザマァないな、赤裸々撲殺乙女め」 凍弥 「……なぁ、傍から見ても凄まじく情けないんだが」 浩介 「何も言えないよりはマシというものだぞ盟友。なぁブラザー」 浩之 「おう、その通りだブラザー」 遥一郎「本人達がそれでいいってゆうならそれでいいんじゃないか?……情けないが」 凍弥 「……そうだなぁ……情けないが」 浩之 「うおう、随分だな盟友」 浩介 「まあそう思われても仕方があるまい。我らは現にヤツが恐ろしい」 凍弥 「……気持ちは解るが」 俺と志摩兄弟はほぼ同じに息をついた。 まったく、何故あんな恐ろしいヤツに育ってしまったのやら。 浩介 「そこで提案なんだが」 凍弥 「いきなりだな」 浩之 「全ての物事は突然と相場が決まっているのだ」 浩介 「うむ、それでな、盟友。空き部屋に椛を招いてはどうだろうか」 凍弥 「朧月を?」 ……って言っても、俺はまだ彼女が朧月椛かを確定出来てないんだが。 浩之 「うむ、賛成だ。元より我も推薦しようと思っていたわけであるし」 浩介 「して、どうなのだ盟友」 凍弥 「本人の意思無しに勝手に決められるか。     ……それに、俺は彼女の領域には深く入らないようにしてるんだ」 浩介 「ほう?なんでまた」 凍弥 「んー……なんてゆうのかな。俺さ、昔っから誰かが嫌うことって解るんだ。     彼女は人との接触を嫌ってる。だから、俺はその領域を汚すことはしないんだ」 浩之 「ほう。では赤裸々撲殺乙女の嫌がることは解らなかったのか?」 凍弥 「感じてはいたけどな、お前らと居ると馬鹿に走る方が優先されるみたいだ」 浩介 「ぬう、人の所為にするとは」 凍弥 「まあまあ。でも事実なんだよ。お前らと居るの、そう嫌いじゃないし」 浩介 「はぁーっはっはっは、当然だ。なにせ我らは盟友なのだからな。     ……同じ恐ろしさを共有する、な……」 浩之 「……その言い方は流石に虚しいぞブラザー」 浩介 「たわけ。虚しい以前に我らが情けなすぎるのだ」 遥一郎「それを言ったらおしまいな気もするが」 浩介 「我らは自覚を持って畏怖を体感している。     それを恐れと認めぬことこそ愚行の極みであろう」 遥一郎「愚ってゆうか……何かがまず間違っている気がするんだが」 同感だ。 浩介 「しかし、椛の話に戻るのだが」 浩之 「うむ、そうなのだが」 凍弥 「うん?」 志摩兄弟がどこか目を伏せた感じに喋る。 浩介 「最近、椛が教室に見当たらんのだ。何か知らぬか?」 凍弥 「なにか、って言われてもな。     俺が会ったのは屋上で会ったのが最後だ。     それからは俺が屋上に行ってないからさ。どうなったかは知らん」 浩之 「何故行かなくなったのだ?」 凍弥 「さっきも言っただろ?領域の問題だよ。     領域を持っている人には近づかない───いや、違うか。     その領域を汚すようなことをしたくないんだ。     それって早く言えば他人の事情に首を突っ込むってことだろ?     プライベートがあってこその人間なんだから。     その人が領域を開放してくれるまでは領域に従うよ」 浩介 「フーム……」 志摩兄弟は微妙な顔をして俯いた。 いや、考えてるのか? 何やら顎に手を当てて『う〜んマンダム』って言ってる。 どうやら真剣にふざけているらしい。 しっかし…… 凍弥 「朧月、ねぇ……」 浩介 「盟友よ。椛は苗字で呼ばれるのを極端に嫌っているぞ」 浩之 「うむ。その通り」 凍弥 「んー、そうだったよな。でも俺、彼女がその本人かを確認できてないんだよ」 浩介 「そうなのか?ならば我が絵に描いてみせてみよう」 頷いた浩介がサラサラと走り書きをする。 そして 浩介 「どうだ!」 浩之 「似てない」 びりゃあっ! 浩介 「ハオッ!?」 描かれた絵は速攻で破かれた。 遥一郎「速攻だな」 凍弥 「まったくだ」 浩介 「感心するところではないだろうここは」 凍弥 「ピカソ描いといてよく言えるな……」 浩介 「あれは我のユーモアセンスだ。こっちが本物ぞ?」 ペラリと見せてきた絵。 そこには、あの悲しそうな顔の少女が居た。 凍弥 「てゆうかこれ写真じゃないか」 浩介 「フフフ、そうとも言うな」 浩之 「おお、素晴らしい激写だな。これは我が頂こう」 バッ。 浩之が写真を奪っ 浩介 「修正ィイイイイッ!!」 ボグシャア!! 浩之 「ラブリィイイッ!!」 どしゃあ。 浩之は倒れた。 ……ところで、どうしてラブリィなんだ? そこんところがよく解らん。 遥一郎「───っと、そうだ。目的を忘れていた」 浩介 「んお?大丈夫かおっさーん」 浩之 「ついにボケたかおっさん」 遥一郎「あ、あのなぁ……まあいいさ。えーと、凍弥」 凍弥 「ん?」 名前を呼ばれて反応する。 反応といっても、もう嫌悪感なんてない。 どうして今更そんなことを気にしたのかも解らないけど、俺はおっさんに向き直った。 遥一郎「お前の親父さんがな、おつかい頼むだって」 凍弥 「おつかい?おいおい……」 遥一郎「駄賃500でどうだ?だと」 凍弥 「喜んで」 輝かしい笑顔で答えた。 浩介 「情けないな、盟友」 浩之 「我は悲しいぞ、盟友」 凍弥 「ふっ、なんとでも言うがいい。俺は金欠なんだ」 浩介 「凍弥のボケェーッ!タコーッ!金の亡者ーッ!明け方ーッ!樫の木ーッ!!」 浩之 「凍弥のボケェーッ!イモーッ!にっころがしー!にくじゃがー!タロイモーッ!」 凍弥 「なんだとこの野郎ォーーッ!!!」 浩介 「なにぃ!?なんとでも言えと言ったのはお前」 凍弥 「だまぁーっぷ!!」 がちゃあっ!ばたんっ! …………。 浩介 「……逃げた、な」 浩之 「盟友として悲しいぞ……」 遥一郎「なに、照れてるんだろ」 ………… ───。 凍弥 「えーと?飲み物とレタスに……あとは適当?おいおい……馬鹿にしてるのか?」 こんなもの人に任せるなよな……。 まあ、なんにしても金が必要ってのも悲しいな。 先立つものが無いんだから贅沢は言えないが。 ……しかし、平和だな。 こういう日の蒼空は嫌いじゃない。 ……うん、今日はいいことがありそうだ───なんてな。 いつも通りのことに笑いがこぼれ───トンッ。 凍弥 「んお?」 いつかのような軽い衝撃。 見てみれば、ふらついている少女。 俺は反射的に手を伸ばしてその手をばしぃっ! 凍弥 「アウチ!」 そして例の如く払われる手。 ……反射的にとはいえ、領域に入るとは───不覚。 凍弥 「相変わらずみたいだな」 椛  「………」 挨拶をするように声をかけた。 気安く声をかけられるのは嫌だと知っているが、朝の挨拶は忘れたくない。 凍弥&椛『触らないでください』 椛  「っ!」 凍弥 「悪い、キミって俺には同じことしか言わないみたいだからさ。     もちろんからかってるわけじゃないから、そう気にしないでくれな。     あ、それじゃあ俺、買い物があるから」 チャッ、と軽く手を挙げて少女から離れる。 名前訊くのもいいかな、とか思ったけど……まあ、いきなり訊ねるのも変だしな。 ───ブモォーッ!! 凍弥 「ん?───っ危ない!」 音に引かれるように、俺は振り向いて少女を引き寄せた。 払われそうになったけどどうにかしてそれを抑えた。 そして次の瞬間。 ゴォッ、という音とともにバイクが少女のすぐ後ろを走っていった。 凍弥 「───……悪かったな、いきなり引っ張ったりして……。     でも、悪気があってやったことじゃないって信じてほ───」 ……ほ? ……あの、なんですか? この、なんともいえない感触……ブチリ。 凍弥 「はぁあ!なんか以前どっかで聞いたようで二度と聞きたくなかった音が!」 椛  「───」 少女が俺を深紅の目で見据える。 いや、そう見えるだけで、ただ激怒してるだけってのはよーく解ります! 凍弥 「で、でもまず落ち着いて話し合おう!これは俺が一方的に悪かった!」 少女の胸に当てられていた自分の手を慌てて離して一気に喋る。 しかしそれとともにドッ───バォオンッ!! 凍弥 「ごぉはっ!」 俺の体はアスファルトに叩きつけられていた。 ぐっは……なんてパワフルな……! 死神の子って話も伊達じゃないな……! あ〜……意識が遠退く……。 だがしかし、オチるわけにはいきません。 なにせ500円がかかってる! 凍弥 「ぐ、ぐぅ……!あ───てぇ〜……!     いや、悪かった。まさかこんなことになるなんて思わなかった」 椛  「───ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいごめんなさい!!」 凍弥 「へ───?」 な、何故にこの子が謝るんだ? ───。 不思議だった。 気づけばわたしはいつかしたように男の人を殴り倒していた。 それで、またバケモノって呼ばれるのかなって思った。 そう思ったら───この人に嫌われるって思ったら───! 椛  「───ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいごめんなさい!!」 そう、謝っていた。 凍弥 「あ、いや……どうしてキミが謝るんだ?     結果的にヒドイことをしたのは俺だろ?」 椛  「ご、ごめんなさっ───……!」 凍弥 「……はぁ」 男の人は溜め息を吐いた。 呆れられているのかもしれない。 自分だって不思議でしょうがない。 変に思われても仕方ないって思ってる。 でも、彼は変とは思わずに、わたしの目を見ていた。 そして言う。 凍弥 「落ち着いて」 と。 凍弥 「考えが纏まってないならゆっくりでいいよ。     いくらでも待つから……って、受け売りの言葉だけどな」 椛  「───……」 なんてやさしい目だろう。 でも、やっぱり……だからこそ近寄りたくない。 もしまた消してしまったら、わたしはもう立ち直れないだろうから。 ───。 少女が俯いていた。 その顔には困惑と悲しみが溢れている。 凍弥 「落ち着いて。考えが纏まってないならゆっくりでいいよ。     いくらでも待つから……って、受け売りの言葉だけどな」 頭の中で与一の顔が思い返された。 その顔には……どうしようもないほどの笑いが込められていた。 ……わ、笑うなよ畜生……ッ!! 椛  「………」 凍弥 「?」 少女は喋らない。 ただ俯いたままで、やがて少し顔を上げると、 しっかりと俺の目を見て、そのあとに頭を下げた。 ごめんなさい、失礼しますと言い残して走っていった。 ───…… 凍弥 「……なんなんだ?」 ……まあ、知ろうとすれば、それこそ領域を汚す行為ではありませんか? これでは追っていくだけで何も出来ん。 ───ま、いいか。 気になるけど、人に関わりすぎるのが人生じゃない。 凍弥 「……買い物いくかぁ」 そう呟いて、俺は欠伸をしながら目的地を目指した。 決して急ごうとはせず、自分のペースでのんびりと。 よっぽどの時じゃない限り、自分のペースを崩す気なんて起きない。 ───買い物を終えて部屋に戻ると、突然自分の足が崩れた。 どうやら殴られ所が悪かったらしい。 まあ普通に考えて、自分がバウンドしたような感覚を覚えるほどの一発を貰えば、 ここまで歩けたのが奇跡だ。 ……心配するサクラの声と呆れる与一の声。 そして、笑い転げる志摩兄弟の声を聞きながら、俺の意識は埋もれていった。 ───その日見た夢の中で、少女が屋上の石屋根に座りながら何かを待っていた。 風に揺られながら、どこかわくわくとした感じで。 だけどいつまで待っても、彼女が望んでいるようなものが訪れなかったのか、 少女は悲しそうな顔をして空を見上げた。 やがてそのまま寝転がって、風に揺られながら目を瞑り───眠りについた。 そんな夢の景色を眺めながら、俺はその夢の中でベンチに座って空を見上げた。 その時に気づいたが、その世界はどこか変わっていた。 春だというのに降る何故か暖かい雪と、穏やかに流れる風。 その世界に揺られながら、何もせずに空を見上げる。 ……風に揺られて聞こえた声があった。 人の名前だろうか。 その声が涙混じりの声だったから、それはやけに印象に残った。 次の瞬間、その穏やかな世界は脆い硝子のように崩れた。 彼女が崩れゆく世界で泣いている気がして、俺はたまらずに手を伸ばす。 だけどやっぱりその手は払われて。 彼女は崩れゆく世界に飲み込まれて、闇の中に消えていった。 やがて再び世界が元通りになった時、彼女は再び屋上で誰かを待っていた。 俺には彼女が誰を待っているのか─── きっと、一生かかっても自分では理解出来ないのだろうと思った。 Next Menu back