……夢を見る。 空は相変わらずいい天気だった。 だけど崩れる世界の中、わたしはいつでも不安だった。 でもふと気づくとわたしは屋上で誰かを待っていた。 それがどうしてかは解らないけど……どうしてか、心が暖かかった。 だけどその夢は決まって、最後に闇が訪れる。 待っても待っても、待っているものは訪れない。 そして悲しい気持ちを抱くと、周りの景色は闇に蝕まれて消えてゆく。 そんな中で、誰かがわたしに手を差し伸べてくれる。 わたしはそれを払ってしまい、そのまま闇に飲まれてゆく。 だけどふと気づくと……その景色はいっつも元通りになっている。 わたしはわたしに手を差し伸べてくれた人が誰なのかと思いながら…… ただその景色の中で、また誰かを待つだけだった。 その誰かが誰なのか。 待っているのに解らない自分がどうしようもなく馬鹿らしかった。 ───嘔吐でムキムキブレインマッチョ───
不覚だった。 珍しくサクラに掴まった。 サクラ「凍弥さん!襟が曲がってますよ!歯を磨いてください!     顔は洗いましたか!?───ああ!寝癖が!」 ……平穏な時間が潰された。 朝露に揺れる俺のマイモーニングが台無しだ。 ……ったく。 サクラ「聞いているんですか凍弥さん!そんなことではいざという時に」 凍弥 「てい」 ずびしっ! サクラ「あうっ!───う……っ……!」 凍弥 「朝っぱらからギャーギャー喚くな鬱陶しい……」 大体降りてきたばっかで顔洗ったり歯ァ磨いたり出来てるわけないだろうが……。 俺は小さく悪態をつきながらパンを取り出した。 サクラ「あっ、朝餉ならわたしが作ったものが」 凍弥 「いらない。俺は朝はパン派なんだよ」 サクラ「うぐっ……そ、そんなの初耳……」 凍弥 「じゃあ今からそういうことだ。     大体朝っぱらからお前の料理食ったら倒れるだろうが。     ただでさえ朝ってのは食事の吸収率が高いってのに」 サクラ「……凍弥さんひどいです……」 凍弥 「いいからお前もメシ食ってやることやれよ。     俺は自己管理くらい出来てるんだから自分の時間を有意義にしろ」 サクラ「凍弥さんはわたしに幸せの手伝いをさせたくないって言うんですね!?」 凍弥 「……どうしてそうなるんだよ」 サクラ「いいですいいですっ!もう凍弥さんなんか知りませんからっ!」 言いたいこと言ったサクラがパタパタと走っていった。 ……どうやら外に出たらしい。 遥一郎「……ふむ。どうやらニミは自分のやりたいことを否定されると、     人の話を聞かんようだな。     せっかく珍しく心配してくれてたのになぁ?」 凍弥 「うるさいよ」 遥一郎「しかしどういう風の吹き回しだ?自分の時間を有意義にしろだなんて」 凍弥 「……別に。上からの命令で、     仕方なく俺の世話なんかしてても疲れるだろって、そういうことだと思う」 遥一郎「まあ、選ばれた相手が悪かったとしか言いようがないか?」 凍弥 「解ってるじゃん」 遥一郎「……ヒネクレ者だな、お前は」 凍弥 「幸せの手伝いとか言って、ただ面倒ごとを押しつけられただけだろ?     それも何年もつきっきりなんて、あんまりだと思わないか?」 チーン。 凍弥 「っと、メシメシっと」 鳴ったトースターからパンを取り出す。 それを手早く牛乳で流し込む。 遥一郎「前から気になってたんだが……     流し食いなら別に焼かなくてもいいんじゃないか?」 凍弥 「この触感がいいんだと思うが」 何も塗らないで食うのがミソだ。 遥一郎「話、戻すけどな」 凍弥 「ああ」 遥一郎「つきっきりであんまりだと思うなら、     お前がやさしくしてあげたらいいんじゃないか?」 凍弥 「ガラじゃない」 遥一郎「……ひとことだな」 凍弥 「あのなぁ与一。     俺がサクラの頭撫でたり感謝したり激励したりしてる場面、思い浮かべてみろよ」 遥一郎「似合わん」(キッパリ) 凍弥 「なんか腹が立つけど……そういうことだよ。ガラじゃない」 遥一郎「お前の場合だとガラとかで生きることの方が、     それこそガラじゃない気がするんだけどな」 凍弥 「考え方の問題だろ。っと、じゃ、俺行くから」 遥一郎「サクラはもう引っ込んだんだし、ゆっくりしていけばいいじゃないか」 凍弥 「お生憎、朝の静かな風景も好きなんでね。そんじゃ」 言葉を放って鞄を引っ掴んでのんびりと鈴訊庵を出た。 まったく、天界ってのは何を考えてるんだかとか、そんなことを考えながら。 のんびりと吹く風に揺られながら、俺は徒歩っていた。 自分用の自転車とかも実はあったりするが、朝はやはり歩く方が気持ちいい。 大体にしてこの朝を十分に受け止められる状況を削減するのは愚かしい。 凍弥 「それに、眠気も醒めるしな」 いい天気だった。 空を見上げれば、蒼空とは呼べないものの、中々綺麗なみずいろの空。 時折聞こえる朝の喧噪や、どこかから聞こえるニュースの声。 だけどうるさいとは感じず、風景のひとつとして受け入れられる。 朝ってゆうのは不思議なものだ。 凍弥 「───……あ」 心地良い朝に抱かれていた時、ふと気づけば前方にちょこんとした体型の銀色の髪。 黒一色に近い制服を着たその子は間違いなく朧月椛だろう。 その手には白い傘が握られている。 対照的な色だが、どこか似合っていた。 って、そういや今日雨降るとか言ってたっけ。 ……まあ、なんとかなるな。 それより……どうしよう。 1:声をかける 2:領域に従う 3:なんか後を尾行(つけ)ている気分なので追い抜く 4:レッツストーキング 5:隙だらけの後頭部にポセイドンウェーブ 結論:当然2。てゆうか4と5消えろ。 凍弥 「まあ、考えるまでもないよな」 昨日の一件もあって気まずいし。 ここは、少し嫌な気分だけどゆっくりと歩こう。 ……どうしてひとりで歩く女の子とかの後ろを歩くのって気分悪くなるんだろうな。 これで時々チラチラ見られたらハッキリ言ってむかつくんだよなぁ。 自意識過剰だっての。 大体だな、俺は女と居るより男友達と馬鹿やって騒ぐ方がゴチンッ!! 凍弥 「ぐあっ!」 ってぇ〜……!! 電柱にクリーンヒットしちまった……! ったく、朝っぱらから嫌な気分だぞくそ……! 椛  「………」 凍弥 「………」 気づかれてるし。 厄日か? 椛  「───」 朧月は俺を睨むと、そのまま踵を返して歩いていってしまった。 まあそれはそれでいいんだが…… 凍弥 「なんで俺、睨まれたわけ?」 相当嫌な睨みだった……よな? なんか苛立ってたみたいだし。 んー……って、昨日─── 凍弥 「…………当然か」 何考えてんだ俺は。 いくら忘れたいことだったからって。 凍弥 「あの場にサクラが居なくてよかったよ。     そしたらまた女人の肌がどーのこーのと」 サクラ「わたしが、なんですか……」 凍弥 「どわっ!?サ、サクラ!?」 サクラ「……どうぞ。遥一郎さんが作ったサンドイッチです……」 凍弥 「へ?い、いいよ俺は。学食で食いたいし」 サクラ「心配しなくても3人分くらい平気であります。     どうぞ、ご学友と一緒に食されたらいかがですか?」 ……なにトゲトゲしてんだ?こいつ。 凍弥 「……わかったよ、いただいてく」 サクラ「お礼は?」 凍弥 「ん?」 サクラ「作ってくれた人へのお礼と、届けてくれた人へのお礼」 凍弥 「頼んでない」 サクラ「う……」 凍弥 「お礼を強制するなんて、お前らしくないな」 サクラ「〜〜〜〜っ!!」 サクラはなにやら悔しそうな顔をして走り去っていった。 ……まあ大方俺に『ありがとう』のひとつでも言わせて、 自分が優位であることを自覚したかったんだろう。 昔っから負けん気が強かったしな。 凍弥 「ま、頑張れ」 既に姿の見えないサクラにそう言って歩き始めた。 それと同じく既に姿の見えない朧月の行動には、なんか安心した。 ゆさゆさゆさ。 凍弥 「……んあ?もうメシ?」 声を搾った。 まだたっぷりと残っている眠気を気合で吹き飛ばし、俺は前を見た。 佐古田「チス」 凍弥 「……なんだ、佐古田か」 佐古田「なぁなぁ凍弥どん。お前の近くからかぐわしい香りが激するッスが?」 凍弥 「寝惚けてんじゃねぇ、寝てろ」 佐古田「多分この鞄の脇あたりに……」 凍弥 「勝手に漁るなっ!」 佐古田「なにッスー?     今日持ち合わせも弁当も激無いから、     ただ激恵んでもらおうとしてるだけじゃないッスかー」 凍弥 「うるさい。お前に恵むものなんて駄菓子の粉ほどにも無い」 佐古田「うう……ひどいッス……。     こうして凍弥どんは激修羅へと激変貌するッスね……?」 凍弥 「ああ、俺修羅でいいから近寄るな」 佐古田「激ショックッス!!凍弥どん!?いつからそんな激冷たい性格に!?」 凍弥 「うるせぇ、飢え死んでろ」 佐古田「うあ、激ひどい……激ヒドすぎるッス……!     それが女の子に言う言葉ッス……?」 凍弥 「言葉だ。いいから俺に構うな」 佐古田「激一口でけでいいッスよ?」 凍弥 「お前なら一口で2人前は軽く食べそうだ」 佐古田「さすがにそこまで激バケモノじゃないッスよ。なぁなぁ凍弥ど〜ん……」 凍弥 「……あのさ、その喋り方、やめない?」 佐古田「へ?なんで?やめたら凍弥が激嫌がらないっしょ」 凍弥 「佐古田、テメェ……」 佐古田「オホホホホ、凍弥の嫌がる顔って激情けなくて激好きよ」 凍弥 「……ひとつくれてやるから失せろ」 佐古田「あぁ〜ら激残念。そんなものくれなくたってお弁当あるもの」 凍弥 「………いい性格してるよ、お前」 佐古田「そう?激最高の誉め言葉だわ」 凍弥 「激ブス」 佐古田「あっ……あぁんですってぇっ!?」 凍弥 「なんだよまだ居たのか?さっさと失せろよ激最高の激ブス」 佐古田「くっは……!激ムカツクッス!!」 凍弥 「……佐古田」 佐古田「な、なによ!」 凍弥 「その『ッス』っての、やっぱり地だろ」 佐古田「!!」 おお、真っ赤だ。 凍弥 「黙っててやるからとっとと失せろ」 佐古田「や、約束ッス!?」 凍弥 「確認とるくらい信用してないなら今ここで公言してもいいんだが」 佐古田「や、やめるッス!」 凍弥 「いーから去れ。俺は昼メシを食いたい」 佐古田「くっ……!今日はこれくらいにしといたるわーっ!!」 佐古田が走り去った。 凍弥 「フッ……案外あっけない幕ギレだったな」 浩介 「やあ盟友。先ほどの会話、教室中に筒抜けであったぞ」 凍弥 「あ、やっぱり?」 浩之 「まあな。あれほど佐古田好恵の大声で叫べば、な」 前から自爆するのが上手いヤツだったからな、佐古田は。 浩介 「佐古田好恵も不憫なヤツよ。ところで盟友。     佐古田好恵ではないが、確かに貴様の近くからかぐわしい香りがするぞ」 浩之 「しかもひとつやふたつではないな?」 凍弥 「ああ、今日はおっさんがサンドイッチ作ってくれたらしくてさ」 俺は自分の傍らに鞄と一緒に置いておいたバカデカイ物体を持ち上げた。 それを広げてみせると、志摩兄弟がほう、と感嘆の声を漏らした。 浩介 「美味そうではないか。早速いただこう」 凍弥 「ああ待て、待った」 浩之 「ぬ?どうしたのだ盟友」 凍弥 「せっかくだし屋上で食べないか?今ならまだ晴れてるし」 浩介 「屋上───おお、そういえば椛と屋上で会ったらしいではないか。     ならば案外そこに居るかもしれんな」 ……その口振りから察するに、どうやら既に一年の教室へ降り立ったらしい。 浩介 「よし、ではこれは我が持とう。さあ頂を目指して!」 浩之 「頂を目指して!」 志摩兄弟がハワーッ!と手を万歳させた。 それからバカデカイ物体を持ち上げてさっさと走っていってしまう。 凍弥 「……やれやれ、元気だな」 俺は溜め息を吐きながらそれを追った。 ───屋上は静かだった。 立入禁止の割に鍵をつけていないそこは、まさに俺の寝床であった。 ついこの間、偶然にも朧月椛と遭遇して以来訪れていなかったこの場所は、 なんだかとっても……うん、最強だった。 浩介 「おお、なんとも良い天気よ。雨が降るなど、にわかに信じられんな」 浩之 「しかし盟友よ。ここにこのまま座って食すのか?」 凍弥 「んにゃ、その入れ物の脇の……そう、それだ。     多分それレジャーシートだから、それ広げて座ろう」 浩介 「おお、了解だ盟友」 浩介がレジャーシートを広げ、俺達はそこに腰を降ろした。 浩之 「しかし……椛はおらなんだか……」 浩介 「なに、すれ違いがあればこその燃ゆる魂よ」 浩之 「うむ、当然だな」 浩介 「うむ、違いない」 浩之 「うむ」 ……なにを頷き合っとるんだこいつらは。 俺はそんな志摩兄弟を横目に、石屋根の部分を見てみた。 ───予想通り、そこには朧月の姿はなかった。 昼にもなれば学食行くだろうと思ったからだ。 浩之 「お、う、うむっ、この食感がまたなんとも……!」 って 凍弥 「こらこらっ!いきなり食うヤツがあるかっ!」 浩介 「修正ィイイイイッ!!」 浩之 「フッ、甘いわ!」 ブンッ! 浩介 「なにぃ!?」 浩之 「ブラザー、貴様の攻撃はこの数日間の内に見切った!     どうして今まで見切れなかったのかが不思議なくらいの充実感!     この感動を貴方に!」 ボゴリ。 どしゃあ。 横から放った拳が浩之の顎を的確に貫いた。 浩介 「ナイスアシストだ盟友」 凍弥 「どうでもいいから食おうぜ……」 浩之 「マテ、ならば何故我を殴った?」 凍弥 「……いただきます」 浩介 「いただきます」 浩之 「……そういうことか」 やがて3人でサンドイッチを摘み始める。 おっさんはああ見えて料理が究極に上手い。 どこの精霊さんですかってツッコミを入れたら、 これは人間だった時の特技だと言われた。 頭もきれて料理が出来て───何者だったんだろうなぁ、おっさん。 浩介 「おうっおうっ!これはまたなんとも……!」 浩之 「うおうブラザー!その唐揚げサンドは我が狙っていたものぞ!修正ィイイッ!!」 ボグシャア! 浩介 「ラブリィイッ!!」 どしゃあ! 浩之 「ふふふ、食い物の恨みは凄まじいのだ。では掌握」 ガブリ。 浩之 「グッ!?し、しまった……毒……!?」 どしゃあ。 浩介 「フフフ、我がただで食い物を渡すと思うたか。まだまだ甘いなブラザー」 浩之 「甘いわぁっ!修正ィイイイッ!!」 浩介 「な、なに!?馬鹿なっ!あれを食ってラブリィイッ!!」 どしゃあ。 浩之 「フフフ、こんなこともあろうかと我は体内に日々毒素を取り込むことで、     免疫力を高めていたのだよ!     詰めを見誤ったなブラザー!唐揚げサンド、ごちそうさまでした!」 浩介 「お、おのれブッチャー……!!」 凍弥 「……お前らさ、静かに食えないのか?」 浩介 「ふふふははははははは!何を世迷言!食卓は騒いでなんぼ!賑やか最強!」 浩之 「そう!これぞ暖かな食卓!飛び交う拳に飛び散る血飛沫!!     これで料理のスパイスも万全ぞ!」 凍弥 「食いたくねぇよ……血の付いたサンドイッチなんて」 浩之 「今のは言葉のアヤだ。忘れろ」 浩介 「しかし、おっさんの腕も落ちないな。     あの頃は食べ物もタダで食せるなどと言われて驚いたが、     この食材もサクラ殿のポシェットから出したものか?」 凍弥 「だろうな。鈴訊庵方面の食材はサクラが管理してるからな。     必要な時に必要な分だけ出せるってのもいいもんだ」 浩介 「その割に、親父さんとお袋さんは普通に買っているのだな」 凍弥 「親父もお袋も自分で稼いだ金で生きたいって言ってたから。     そこから子供の分の食費が消えたんだ、喜ぶことじゃないか?」 浩之 「ふむ。確かに経済的だ」 浩介 「羨ましいものだな。んむ、モグモグ」 凍弥 「自分でモグモグとか言うなよ……」 浩介 「細かいことは気にするな同志。しかし美味。     これだけの特技があって、おっさんには恋仲のひとりも居なかったのか?」 ……ふむ。 それなら一度茶化す感じで訊いてみたんだけどな。 ……なんでかサクラに殴られたんだよな。 どうしてだろ。 凍弥 「居なかったんじゃないか?訊いたけど答えてくえなかった」 浩介 「むう、キナ臭いな」 浩之 「事件の香りがする。フローラルミントだ」 いや……わけわからんよそれ。 浩之 「い、いやこれは……馬鹿な!死臭だとぅ!?」 浩介 「食事中に死臭などとっ!歯ァ食い縛れブラザー!!」 浩之 「させるかぁあああっ!!」 浩介 「なにぃ!?」 ───ブォグシャアッ!! 浩介 「───」 浩之 「───」 おお……っ!クロスカウンター!! 浩介 「ふ、ふふ……腕をあげたなブラザ……ぐふっ」 浩之 「ぐふっ……か、紙一重だった……が、やはり互角か……っ」 どしゃどしゃっ。 志摩兄弟が崩れ落ちた。 遠慮なしにピクピクと痙攣している彼を余所に、俺はサンドイッチを頬張った。 ……それにしても多すぎだろこれ……。 浩介 「う、ぐぐ……満腹……」 浩之 「うっぷ……!」 志摩兄弟がついに音をあげた。 吐きそうなくらいに詰め込んだのか、志摩兄弟は双方ともに苦しそうだ。 心なし、浩之の方の顔が青紫に変色してきている。 浩介 「ぐぶっ……!ナ、ナイスカラーリングセンスだブラザー……!」 浩之 「………ゔ」(ゴポリ) 凍弥 「!?」 嫌な音を聞いた。 浩之 「ふぶっ……!おぐぅっ……!」(ゴプッ!ぶぽっ……!) どんどんと変色してゆく浩之。 赤になったり黄色になったり虹色になったりとカラフルなヤツだ。 浩之 「ふべぇおばっ!」 そして突然の奇声。 やがてフェンスをがしゃがしゃと登り、その頂きから 浩之 「オゥィェーイッ!!」 妙に気合の入った声をあげて咀嚼物を嘔吐した。 勢いよく吐いたのか、結構飛び散っている。 その中には何故かナルトが入っていた。 古典的だ。 声  「ぐわぁあああああああっ!!!!」 そして聞こえる声。 ……下の方から、だな。 浩介 「それではな、盟友。我は逃げる」 凍弥 「って、おいっ!まだサンド残ってるぞ!?」 浩介 「───盟友。お前は我の最強の友だ。……あとは任せた!」 輝かしい笑顔を俺にプレゼントして、彼はドアを開けて逃走した。 凍弥 「うわっ!ちょっ───待てって!」 浩之 「……ふう、スッキリ……♪」 凍弥 「スッキリ♪じゃねぇーっ!!いいから片付け手伝え!」 浩之 「盟友。しばらくしたらゲロまみれの佐藤が来るからな。───達者で暮らせ!」 輝かしい笑顔を俺にプレゼントして、彼は開け放たれたドアから逃走した。 凍弥 「はっ……白状者がぁーっ!!」 くそっ!なんてやつらだ! えーとレジャーシートとバスケットと……! ああくそっ!あいつら好き勝手に食い散らかしやがって! 汚れてて片付けも捗らねぇ! 凍弥 「とにかくさっさと〜───ってアレ?」 なんか、出入り口の裏ッ側に……銀色の髪!? あ、あんな狭い場所で何寝転がってんだ!? いや……寝てるのか? 凍弥 「いやいや!とにかく逃げないとっ!───あぁああでもでもっ!」 気になる!てゆうか嫌な予感がする! もし俺がここから逃げて、彼女を無視していったとしたら─── 疑われるのは朧月……!? 凍弥 「………」 彼女は領域を守ってるだけだ。 教師に睨まれでもしたら、それこそ身動きがとれなくなってしまう。 凍弥 「───ああもうっ!」 なんだかんだいって甘いな俺……。 でも俺もマークされるのは嫌なので、やり過ごすか。 凍弥 「朧月、起きろ。朧月?おぼ……うおっ!?」 見れば、朧月の額にはタンコブ。 目を渦状にして半笑いのような顔ではぅはぅと唸っている。 ……予測するに、寝返り打ったら石屋根から落下したんだろう。 よくこの程度で済んだものだ。 額から落ちたなら死んでもおかしくないかもしれないと思うが……。 凍弥 「……石頭?」 朧月の意外な一面を知った。 声  「ぐぉうるぁあああああっ!!誰だ屋上からゲロ吐きやがったんわぁああっ!!」 ……うお。 センセが来たようだ。 声からして体育教師の佐藤だな。 凍弥 「……悪い、朧月」 朧月の体を抱き上げて、出入り口の裏に隠れた。 ……ってゆうか……ちっちゃいなぁ。 しかも相当軽い。 これなら高い確率で中学校低学年に思われるぞ。 って、そんなこと考えてる場合じゃない。 ───どかどかどかっ! 声  「どこじゃぁああっ!隠れとっても無駄じゃぞこらぁっ!!」 雄々しい走り込みと怒号。 居ないぞー、屋上には誰も居ないからとっとと失せろー……。 声  「居ない……逃げおったか?     ……いんや、裏に隠れとるっちゅうこともあるからのぅ」 スルドイ! いつもの脳内筋肉っぷりはどうしたんだ佐藤! ……足音がざりざり、と近づいてくる。 俺はその逆方向へ歩いた。 声  「……おらんな」 居ないっつってんでしょうが! 声  「……アテが外れたか。まあ屋上の鍵掛け忘れたのが悪かったか。     今度からぁ閉めとかんとなぁ」 ……っし!帰れ帰れブレインマッチョめが! 椛  「……ん……いた……っ」 凍弥 「!!」 声  「あぁん?なんじゃあ今の声……」 いやっ!何も聞こえなかったぞ!?だから失せろ! 椛  「………」 凍弥 「………」 やばい、目が合った。 しかも俺、朧月抱きかかえてるし……! 椛  「っ───!!」 凍弥  <しぃーーっ!!> 足の方を下ろし、その口を塞いだ。 凍弥  <い、今大変ヤバイ状況にあるんだ!頼むから騒がないでくれっ!> 椛  「───」 がぶり。 凍弥 「───ッッッ!!!」(ほォオーーーーーーーッ!!!!) 朧月が、口を塞いだ俺の手に噛みついた。 俺はつい手を離し、朧月は体勢を立て直してパァンッ!! 凍弥 「つっ───!?」 椛  「───!」 憎しみにも似た顔で俺を睨むその顔。 俺はなんだか呆気にとられて、その場から動けなかった。 声  「なんじゃあ今の音はぁっ!!」 だが、その声で目が醒めた。 凍弥  <悪いっ!嫌ってくれてもいいから今は黙っててくれっ!> 椛  「………」 がぶっ! 伸ばした手が噛まれた。 凍弥 「ごっ……!」 声  「あぁーっ!?やっぱ誰かおるなぁーっ!?」 凍弥 「くっ……!」 だが俺は無視して彼女を抱きかかえた。 そして走る。 裏を回ってくるならこれほど都合のいいことはない。 俺はその隙に開け放たれたドアをくぐり、ドアを閉めて錠前を閉めた。 声  「くぉらぁーっ!逃げられると思っとんのかーっ!!」 ───がちゃっ!がちゃがちゃっ!! 声  「───あ?」 がちゃっ!ヂャコッ!ヂャココッ!! 声  「な、なんじゃぁっ!?鍵が掛かっちょおっ!?」 佐藤が驚愕の声を漏らした。 そこで臭ってろ馬鹿が! 俺は朧月を抱きかかえ直して、そこから逃走した。 ───ゴリッ。 凍弥 「ぐぅおっ!?」 しばらく走ったのち、腕に痛みを覚えて立ち止った。 ……てゆうか抱きかかえてるの忘れてたぞ? あんまり軽いもんで。 凍弥 「わ、悪」 パァンッ!! 凍弥 「たっ───!?」 また叩かれた。 椛  「何度言えば解るんですかっ……!わたしに構うなと言っているでしょう……!」 しかも相当ご立腹。 凍弥 「今のは事情があって……」 椛  「わたしのことは放っておいてください……迷惑です」 凍弥 「……はぁ」 まいったな。 男とばっかり馬鹿騒ぎしてるから女とはどう話していいか解らん。 案外知らぬ間に失礼なこと言ったりしたのかもしれない。 凍弥 「あのさ。領域のことは解るけどさ。俺、叩かれるほどヒドイことしたか?」 椛  「触らないでください。構わないでください。     ……そのふたつとも聞いてくれません」 凍弥 「いやっ……だから今のは不可抗力でっ!」 椛  「あなたの不可抗力にわたしを巻き込まないでください……。     先生に見つかってもわたしは構わなかったんです……」 凍弥 「む」 俺は俺なりに気を使ったってのに……いやいや、もういいか。 凍弥 「……そっか、悪かった。これからは気をつけるよ」 椛  「………」 凍弥 「……それじゃあな。見つからないように気をつけろよ」 俺はなんだか気分的に疲れて、軽く手を振ってその場をきゅくー。 凍弥 「……きゅくー?」 なんだ? 椛  「っ……!!」 振り向いて見ると、顔を真っ赤にしてお腹のあたりを押さえる朧月。 椛  「な、なんですかっ……」 凍弥 「いや……可愛い音だなって」 椛  「〜〜っ!!」 一層赤くなる朧月。 凍弥 「なんだ、メシ食ってなかったのか?」 椛  「───」 うお、無視された。 凍弥 「……それじゃ、これは俺の独り言。腹減ってるならこれ食え。     余り物で悪いんだが、味は保証する。バスケットは捨ててくれてもいいぞ」 椛  「え?」 朧月が何かを言う前に、バスケットを押しつけた。 凍弥 「そんじゃな」 今度こそ軽く手を振って、俺はその場を去った。 Next Menu back