───久しぶりの笑顔───
浩介 「珍しいな、盟友が午後の授業に出ているなど」 凍弥 「寝てるだけだ」 浩之 「いやいや、珍しい。屋上ではないにしろ、必ずサボっていると思ったが」 凍弥 「お前は人をなんだと思ってるんだ……。俺はバランスよく出席しとるわ」 浩介 「そうであったか?」 凍弥 「そうであったんだよ。まったく……大変だったんだぞ?     佐藤に追われるわ引っ叩かれるわ」 浩之 「うむ?引っ叩かれる?佐藤にか」 凍弥 「……んにゃ。どちらにしろさっさと逃げた貴様らには教えん」 浩介 「なにぃ、それは盟義に反するぞ」 凍弥 「盟友を置いてさっさと逃げるのは盟義に反さないのか」 浩介 「そういうことだ」 凍弥 「………」 時折本気で盟友やめたくなるんだよなぁ。 それでもやめないのはこいつらと居ると楽しいってことが事実だからだ。 凍弥 「とにかく俺は寝るから。ガッコ終わったら起こしてくれ」 浩介 「ふふ、任せておけ。びっくりするくらい爽やかな起床を我が盟友に捧げよう」 凍弥 「……いや、やっぱいいわ……」 浩介 「なにぃ何故だ!?」 センセ「こらそこー!静かにしろー!」 浩之 「だまらっしゃぁな!いてまうぞコラァッ!」 センセ「廊下に立ってなさい」 浩之 「ウィー……」 浩之がとぼとぼと廊下に出ていった。 そして 声  「とんずらーっ!!」 センセ「なっ!?」 エスケープした。 教室中がざわっ……!とどよめく中、俺と浩介は感心していた。 センセ「あ───こ、こらぁああっ!!」 で、ようやく事態を飲み込んだセンセが廊下に駆け出してゆく。 それとともに浩介も立ち上がり、浩之の鞄と自分の鞄を持って 浩介 「それではな、盟友」 と言い残して反対側の廊下から駆け出していった。 凍弥 「…………元気だねぇ」 そんな景色を見ながら妙に笑い、俺は机に突っ伏して寝るのでした。 まったく、いい世界だよホントに……。 もしこれが俺の領域なんだとしたら、なるべく大差ないように変わって欲しい。 この世に変わらないものなんてないから。 だからせめて、もし大きく変わるのだとしたら、 それはゆっくりと時間をかけて大きく変わってほしい。 もっともっと楽しくなるように─── ───キーンコーンカーンコー…… 凍弥 「んぐ……?」 チャイムの音に目を開ける。 そして教室中を見渡して一言。 凍弥 「……みんなは何処!?」 ……うん。 教室の中には誰も居なかった。 不思議だなー、どうして外が暗いのかなー。 そして時計がとんでもない時間を差してるのはどうしてかなー。 …………。 凍弥 「うわっ!?もしかして俺、完全に見捨てられた!?」 誰か起こしてくれてもいいじゃないか! くそっ、我がクラスメイツがここまで白状だったとは! 凍弥 「くそ、時間の無駄した───って、あれ……?」 ザァアーーーー……─── 凍弥 「……雨、か」 外は雨がざんざかと降っていた。 暗いのはそれの所為か。 凍弥 「……あながち、その所為だけってわけでもないんだが」 寝すぎてた俺が悪い。 時間は確実に夜に近かったし、体の節々が痛んでいる。 授業聞いてると眠たくなるから寝るには最高なんだが、欲を言えばベッドが欲しいものだ。 ……無茶な話ですが。 凍弥 「ま、それより帰るか。傘は───先人が忘れたボロ傘くらい残ってるだろ」 うむ、と頷いて行動。 鞄を掴んで欠伸をしながら教室を出た。 そのまま階段を降りて下駄箱へ。 靴を履き替えてもう一度欠伸。 そして傘の物色のために……って 椛  「………」 昇降口の前で雨を眺める朧月が居た。 なんとまあ、タイミングの悪い───ん?どうしてこんな時間にまだ学校に? 凍弥 「……む」 ふと気づいた。 あの娘……靴、履いてない───? しかも何か探して───って、傘? 傘立ての所を見てるし……───まさか。 凍弥 「………」 やっぱり、どうやら傘が無いらしい。 ……確か今朝、持ってた筈なのに……。 ───もしかしてイジメってやつか? 凍弥 「………」 お節介かもしれんが、仕方ない。 凍弥 「よう」 椛  「っ」 凍弥 「え───」 泣いて───? 椛  「な……なん、ですか……」 凍弥 「……傘、どうしたんだ?真っ白な傘持ってただろ。それに靴も……」 椛  「あなたには……関係っ……」 ……。 涙を流しながら、傘を捜している朧月。 その姿は……なんか、イジメられたから泣いているようには見えなかった。 凍弥 「傘……そんなに大事なものだったのか?」 椛  「やめてっ!」 っと……! 椛  「やめて……!だった、なんて……過去形で話さないで……!」 凍弥 「……悪い」 ……やれやれ。 凍弥 「わかった、俺も探すよ」 椛  「関わらないで……ください……」 凍弥 「じゃあ俺は勝手にうろついてるだけだ。     もしかしたら偶然傘を見つけるかもしれないけどな」 椛  「………」 朧月は言葉を返さずに、その小さな肩を震わせながら傘捜しを再開した。 …………。 ……ふーむ。 馬鹿どもがモノを隠すっていったら……そうだなぁ。 下駄箱の上とか…… 凍弥 「よっ、と……んあ?」 なんにも無いわ。 くそ、ダメか。 仕方ないな、次の候補は───屋上とか? って、まさかな。 ここは軽く考えて、職員下駄箱の方とか─── ………… ───……さて、職員玄関だ。 ここにもしかしたら───ん? 小さな靴発見。 ……これか? まあ一応持っていこう。 あとは傘だが……はぁ。 溜め息が出た。 イジメなんてダサイことを実際自分の目で見るとはなぁ。 軽くからかうくらいにしときゃあいいのに。 って、そう考えると……俺も結構サクラにキツイ言い方してるよな。 ……少し、改めようか。 それにしても……あーあ、同じ学校にそんなヤツが居るなんてなぁ……。 天上を見上げて溜め息を吐いた。 呆れるばかりだ。 ───ん? 凍弥 「………」 あれって……なんだ? なんか黒い景色には似合わず白いってゆうか───まさか!? 凍弥 「ひでぇ……!あそこまでするかよっ……!」 真っ白い傘は天上近くの横支柱に引っ掛かっていた。 馬鹿どもが放り投げたんだろう。 凍弥 「くそっ……!」 どうにかして登る方法は─── 凍弥 「………!」 辺りを見渡す。 支柱は手が届くほど低い所にあるわけじゃない。 梯子でもあれば届くんだが、生憎そんな都合のいいものはない。 凍弥 「どうしたもんか……ん?」 ……支柱の傍に窓。 多分通風用に取り付けたけど、手が届かなくて使ってないってオチだな。 窓……窓か。 凍弥 「───ちと危険だが───やってみるかっ!」 俺は踵を返して階段へと向かった。 ───風が吹いている。 二階から見下ろすその風景は、恐ろしいまでに高かく見えた。 暗さも手伝って、俺は少々恐怖していた。 雨が足場を滑らす度に緊張が走る。 ……こ、こりゃ怖ぇ……! でも下からじゃああの窓まで届かんし……やっぱここからだよな。 凍弥 「よっ……くっ……!と……!」 ずりゃあっ! 凍弥 「おほうっ!?」 落ちる!?落ちますか!? だぁあっ!雨で滑る!手が、手がぁあああっ!! 声  「誰か居るのかっ!?」 凍弥 「居ませんっ!居ませんぞぉっ!」 声  「あ、そうか……居ないのか……ってこらぁっ!?」 凍弥 「キャーッ!?」 何馬鹿正直にお話してますか俺様っ!! やばいやばい!見つかったら停学も夢じゃねぇ! 凍弥 「ファイッッ……トォオオオ……!!」 グギギギ……!! 片手で掴まりながら、窓を開けた。 凍弥 「イッパァーツッ!!」 それを確認してから反動をつけて中に侵入した。 やがて静かに窓をパタムと閉めて、一息。 その後に外の方に男が駆け込んでくる。 ……あぶねぇ……危機一髪ってやつだ……。 さて傘は……お、あったあった。 凍弥 「……うん、外傷などは無し、と……よかったよかった」 それにしても、こんなことするヤツにゃあいつか天誅食らわせないとな。 それで食中毒にでもなってもらおう。 声  「……逃げたのか……?まあ、わざわざ注意する暇も省けたし……」 ……外の教師がぶつくさ言いながら引っ込んでいった。 うむ。 凍弥 「───よっと!」 タンッ! 凍弥 「……よし、あとはこの傘を朧月に……」 声  「誰か居るのかっ!?」 凍弥 「居ねぇって!しつこいぞアンタ!」 声  「ああ、そうだよな……てこらぁっ!!」 凍弥 「キャーッ!?」 またやっちまったい! もしかして俺ってすっごい馬鹿!? ……思考の片隅で『もしかしなくてもお前は馬鹿だ』と与一が溜め息を吐いていた。 ───……今回ばかりは頷くしかなかった。 声  「こらぁあっ!さっきの声───お前霧波川かっ!?」 凍弥 「おほほほほ!人違いですわよっ!!」 微妙に声を変えて逃走した。 オホホホホ!ア、アタイあなたの知らない人ですわよ!? 声  「なら誰だっ!学年と名前を言いなさいっ!」 凍弥 「誰って───」 訊ねられました。 それに俺はどう答えたらいいんでしょう。 そんなことを考えた時。 『馬鹿野郎、そんなこと考えるまでもないだろ?』 凍弥 「っ!?」 その声───浩之かっ!? 浩之 『憶えておけ盟友。我はいつでもお前を見守っているぞ……!』 浩之が思考の片隅で親指立てて微笑んだ。 ───ありがとう浩之。 俺、お前が盟友でよかったぜ! 凍弥 「我輩こそが2年で最強を誇る男、志摩浩之であるっ!」 浩之 『キャーッ!?』 思考の片隅で浩之が驚愕の顔を贈ってくれた。 ありがとう浩之……!お前の死は無駄にしないっ……! 声  「志摩───志摩かっ!!とまれ貴様!」 凍弥 「ふむふはははははは!貴様なぞに我は止められぬわ!はははははははは!!」 精一杯浩之っぷりを披露しながらの逃走。 そしてある一角に辿り着いた時、用具入れの中に身を潜めた。 ───その先を、教師の足音らしきものが走ってゆく。 うむ、これでOK。 凍弥 「さて、あとは朧月に……っと。下駄箱だったよな」 …………。 ───……下駄箱に来ると、そこには魂の抜けたような朧月が居た。 俯きながら、どこか生気の無い顔で、ただ立っている。 凍弥 「………」 だめだな、話し掛けられる雰囲気じゃない。 喜ぶと思うけど……うん。 ─── ……どうしよう。 傘、見つからない……。 あれは……浅美ちゃんから貰った大切な傘なのに……。 どうして……どうしてこんな……! ───カタッ。 椛  「っ!」 物音がして、わたしは振り向いた。 そこには一瞬動いて見えなくなった影と、廊下に置いてある─── 椛  「あ───あぁあっ……!」 わたしの靴に───真っ白な傘。 よかった……! 椛  「浅美ちゃんっ……!」 わたしは傘に駆け寄ってそれを抱き締めた。 よかった……本当によかった……! 椛  「───……?」 でも、誰が……あ。 『じゃあ俺は勝手にうろついてるだけだ。  もしかしたら偶然傘を見つけるかもしれないけどな』 ……あの人? でもどうして隠れるように……? 椛  「……あ」 ───もしかして、わたしに関わらないように……? 椛  「………」 ……なんか、かっこわるいな、わたし……。 …………じゃりりりりりんっ。 がしょん。 凍弥 「……ゔー……」 朝である。 本日もお日柄がよく、なんとも清々しい朝よ……。 凍弥 「……でも眠いな」 どうしたもんだろう。 ……いや、起きないとまたサクラが五月蝿いからな。 凍弥 「……うー」 モゾモゾと起き出てパパッと着替える。 今日はいつもより早いからもっとゆっくり出来るが……うん、それでも掴まるのは癪だ。 凍弥 「さっさと食って行くか」 部屋を出て階下へ。 厨房に入ってトーストを焼き、牛乳で押し込んで一息。 顔を洗って歯を磨いて寝癖を直して外へ出た。 凍弥 「ふむ、今日もいい天気ぞ」 鈴訊庵から出ると、俺は大きく息を吸い込んだ。 昨日の雨の所為かは知らないが、うっすらと張った霧がなんだか新鮮だった。 太陽に当てられた霧が乱反射してるように眩しい。 どかっ。 凍弥 「む」 足に衝撃。 下を向いてみれば、そこには─── 凍弥 「よう、シュウ。早いな」 シュウ「ようとーや」 朝村 秋(あさむら しゅう)。 俺はシュウと呼んでいる、近所のガキだ。 どうしてか俺に突っ掛かってくる。 まあそういう年頃なんだろう。 凍弥 「ミキは?どうしてる?」 シュウ「ねーちゃんなられんらくもよこさないで、     むこーでよろしくやってるってかーさんがいってたぞ」 凍弥 「そかそか。ねーちゃん居なくて寂しくないかー?」 シュウ「ばかにすんなっ、さびしくなんかねーぞ」 凍弥 「そりゃよかった。そんじゃあひとりで精々楽しんでろ」 シュウ「うっ……」 凍弥 「俺ゃこれからガッコー行かなきゃいけないんだ。じゃあな」 シュウ「ま、まてよっ、なにもそんなにいそぐことないだろとーや」 凍弥 「急がなきゃいけないんだよ」 シュウ「……こんなあさっぱらからどこいくんだよ」 凍弥 「ガッコだって言ったろ?」 シュウ「そんなことしてないでおれとあそべよー」 凍弥 「……なんだ、そんなにロメロスペシャルやられたいのか?」 シュウ「あんなのもういいよっ!」 ……ロメロをあんなの呼ばわりとは失礼な……。 凍弥 「お前が人の部屋に不法侵入したりするから遊んでやってるのに」 シュウ「いたいのはヤだ」 凍弥 「ロメロスペシャルは関節痛に利くんだぞ。より一層痛くなる」 シュウ「いたいのはヤだっていったろっ!」 凍弥 「チィ、面白いのに」 シュウ「おれはおもしろくないっ」 凍弥 「安心しろ、俺は究極に面白い」 シュウ「ぶっとばすぞ!」 凍弥 「その心意気、ロメロスペシャルで返そう」 シュウ「ぐ、うぐぐぐぐ……!」 凍弥 「ほら、いい加減行かせろ。のんびりしてたらサクラに見つかるだろが」 シュウ「こ、こんどはまけないからなっ!」 凍弥 「おーおー、吠えてろ吠えてろ」 シュウ「ぐるるるるる……!」 唸るシュウを余所に、俺は苦笑して手を振った。 ミキってのは俺が中学卒業するまで一緒に居たクサレ縁ってやつで、 ずっと同じ学年だった。 朝村美紀。 元気娘で、思いついたら即行動。 人と話すのが好きで、俺も散々と巻き込まれた。 だけど高校に上がる時に進学先が分かれ、あいつは遠くの学校へ。 それまでは志摩兄弟との仲も良くて、よく騒いでたんだけどな。 あんなヤツでも居なくなったら寂しくなるんだって、その時に思った。 当然が無くなるってゆうのはそれだけで大変なことなんだなって。 学校が分かれて以来、俺はなんだかボ〜ッとして気合が入らなかった。 朝っぱらにあいつの声聞くと目が醒めたもんだ。 やかましくて、でも面白くて。 ほんとによく志摩兄弟と混ざって馬鹿やってたもんだ。 凍弥 「………」 今、どうしてるんかなぁ。 そんなことを考えながら、いつもの通りを歩いた。 そこでなんとなく───……ふむ。 凍弥 「今日は朧月とは会わないか。まあ、これが普通か」 大体にして今日はいつもより相当早い。 それもこれも、昨日の夜の所為だ。 あれから鈴訊庵に帰ると、いきなりサクラに掴まってありがたい説教を唱えられたし。 しかももう遅いからって言ったら、 『では明日の朝、またお話があります!』って言われたからなぁ……。 ……早起きして逃げたくなるのも当然だろう。 あいつの説教ほどうざったいものはないからな。 道徳押し付けられるのは趣味じゃない。 凍弥 「んっ……ん〜う……っと」 大きく伸びをして空を見上げた。 なんだかんだ言ってもこの空はいつもと変わり無い。 どこか暖かく、吹く風さえもその空を感じさせる。 なんて穏やかな朝だろうか……。 凍弥 「………」 ……行くか。 教室に入って自席に座る。 教室には当然のごとく誰も居なかった。 鍵も無かったので通風口からの侵入を果たした。 凍弥 「………」 ……特にすることもなかったので、机に突っ伏して眠ることにした。 まあ昼になれば志摩兄弟が起こしてくれるだろ。 ───……ぐー。 ───……。 ついつい。 凍弥 「…………?」 ついついつい。 凍弥 「う……」 ついついつい……ぼかっ! 凍弥 「おごっ!」 頭に強い衝撃を受けて、俺の意識は覚醒した。 凍弥 「って、誰だっ!」 浩介 「我だ」 凍弥 「浩介?……ってことはもう昼か」 浩介 「なにを寝惚けているのだ同志。まだHR前だ」 凍弥 「……はい?じゃあどうしたんだよ」 浩介 「貴様に用があってな」 凍弥 「……ほう。昼まで待てぬその用とは?」 浩介 「……後ろを向け」 凍弥 「……後ろ?」 すいっと後ろを見る。 と─── 凍弥 「……って、キミは……」 椛  「………」 ペコリと、俺にお辞儀をする少女。 凍弥 「えと、俺になにか用かな」 椛  「……あ、あの……その……」 ……ふむ。 下級生が2年のクラスに居ると視線がキツイだろうな。 凍弥 「あ、ちょっといいかな」 椛  「え……?」 凍弥 「廊下」 他のみんなに見えないように指差す。 そして立ち上がり、彼女の横を通る時に呟いた。 凍弥  <視線、気になるだろ?> 椛  「あ……」 俺の言葉に小さく頷いた少女。 俺はそれを気にしないで廊下に出た。 ─── 廊下に出て向き合った。 視線は目に。 人の目を見て話すのは既に癖みたいになっている。 凍弥 「それで、なにかな」 俺は彼女が少し苦手だったから、少し距離を取っておいた。 椛  「あの……傘……」 凍弥 「傘?」 傘って……ああ、昨日の。 凍弥 「───なんのことだ?」 椛  「えっ……?」 凍弥 「俺はあの後さっさと帰ったよ。傘のことは知らないよ」 椛  「でも……」 凍弥 「ああでも、見つかったんだな。良かった」 椛  「………」 凍弥 「それじゃ、俺はこれで」 椛  「───待ってください……」 朧月が俺を呼びとめた。 俺は少し苦笑気味に振り向いた。 凍弥 「なにかな」 椛  「……ありがとうございました」 凍弥 「───お礼を言われる憶えはないけどな」 椛  「わたしがお礼を言いたいだけです……。ありがとうございました」 凍弥 「………」 ……わぁ……。 椛  「あ、あの……わたしの顔に……なにか?」 凍弥 「……あ、いや、可愛い顔で笑うんだな、って……」 椛  「っ!!」 ズッパァアアアアンッ!!! …………。 凍弥 「どうして殴るんだよぉ……」 頬に紅葉を作った俺は机に突っ伏して理不尽な頬の痛みに悲しんでいた。 浩介 「なにかハレンチなことでもしようとしたのだろう。このスケベめ」 凍弥 「するかっ」 浩之 「フッ……その虚しい言い訳もその頬の紅葉が全てを物語っている」 凍弥 「いや……俺もどうして叩かれたか解らないんだよ……。     ただ朧月の笑った顔って始めて見たからさ、     つい言っちゃったんだよ……『可愛い顔で笑うんだな』って。     そしたら顔真っ赤にしてさ、ばちーん」 浩之 「無様だな」 凍弥 「うるせーって」 浩介 「して?その後、椛は?」 凍弥 「『ごめんなさいごめんなさい』って謝りながら走り去ってったぞ」 浩介 「フラレたか。無様だな」 凍弥 「だーかーらー。そんなんじゃないんだって」 浩之 「言い訳は見苦しいぞ盟友。認めることはしっかりと」 ピンポンパンポーン。 浩介 「む?」 『2年の志摩浩之。至急生徒指導室まで来なさい』 浩之 「んお?なんだ?」 浩介 「どうしたんだブラザー。ご指名とは珍しい」 浩之 「……ふっ、教師どもがとうとう我の魅力に気づいたんだろう……」 凍弥 「ははっ、そんなわけあるかよ……って」 …………生徒指導室? で、浩之って…… 凍弥 「あ゙」 瞬時に昨日の出来事が思い返された。 その中にはもちろん 『我輩こそが2年で最強を誇る男、志摩浩之であるっ!』 という言葉も思い返された。 ───……いやん。 凍弥 「……………」 浩介 「ぬ?どうした盟友。滝のように汗を流して」 凍弥 「あ、い、いや……っ!」 浩之 「……ふむ、盟友?」 凍弥 「……強く生きろよ、浩之……」 浩之 「む?お、おお……よく解らんが、我は行ってくるぞ」 やがて彼が教室から消えて、しばらく経ってからどこからともなく聞こえた絶叫。 そして泣き叫びながら戻ってきた彼が口にした言葉は『三日間の停学』。 俺はその時、本気の本気で心の中で浩之に謝った。 ───さて、その後、この学校で変な話を聞いた。 なんでもいつの間にか鍵が閉められていた屋上を不信に思った教師がそこを開けると、 その先からは異様な異臭を放つ佐藤が泣きながら現れたとか。 ……うん、聞くまでずっと忘れてましたよあたしゃあ。 でも謝る気は毛頭無かったり。 とまあそんなこんなで、今日も一日が始まりましたとさ─── Next Menu back