───昔からよく見る世界。 虚ろな姿の人間が目に映る度に、ぼくは不安になった。 だけどいつかそれがぼくにしか見えないものだと知ると、どこか不思議な気分だった。 ……ぼくにしか見えないその人達にはやっぱりいろいろな人が居た。 怖い人も居ればやさしい人も居て、ただ泣いている人も居た。 そんな時に思う。 そんな人達の相談に乗れるのは自分だけだと。 話も出来たし、笑い合うことも出来た。 そうした時間の中。 ぼくはいつからか人と話すよりも、その存在と話すことの方が多くなっていた。 害がないから、というより……真剣に『ぼく』と向き合ってくれたから。 『凍弥』という存在じゃなく、ぼくをぼくとして。 それが嬉しかったんだと思う。 だけどいつかそんなことも気にしなくなった頃。 ぼくは───誰かのために何かをしてやれる、そんな人を目指すようになっていた。 それが主に、その『特別な人』が大半だったということに。 大人に近づいた───でも少年のぼくは、小さく苦笑した。 ───彼女の闇───
空が蒼かった。 朝露を吸い込むようにして深呼吸。 その拍子に見えた空の蒼は、自分の気持ちを穏やかにしてくれた。 凍弥 「ん、今日もいい天気だな」 朝飯も食った、歯も磨いた、顔も洗ったし便所にも行った。 相変わらずの早起きだったが、やっぱりこの程よい寒さが好きだった。 凍弥 「今日もまったりと頑張りますか」 いや、まったりとじゃなくて『まったりなるように』頑張ろう。 問題は志摩兄弟なんだがな。 ま、なんとかなるだろ。 サボる場所は屋上だけじゃないんだし。 凍弥 「よし、行くか」 鞄を肩に引っ掛けるように手に持ち、歩き出した。 凍弥 「………」 しっかし、ほんといい天気。 こんな日は散歩するのもいいよな。 ……ちょっと……回り道してみるか? 1:回り道してみる 2:いやいや、さっさと行って寝よう 3:シュウと少し遊んでくか? 結論:……1? よし、1だ。 凍弥 「そうと決まればいつもの道は避けて、と……どこ行こうか」 公園方面もいいよな。 朝の公園は静かで気持ちいいんだよなぁ……。 ……ハッ!なにトリップしてるんだ俺は! 凍弥 「でもサクラと与一が来てからのんびり出来る時間って無かった気がするし……」 その後は特に、浩介と浩之と知り合って、 賑やかで楽しくはあるが……穏やかってのはこの朝か寝てる時だけなんだよな。 俺は静かな世界も好きだし……。 凍弥 「……うん、行くか」 俺はそう決めるともう一度伸びをして公園に向かった。 ……公園は綺麗な世界を見せていた。 子供の頃、まだ名前に抵抗が出る前……父さんに連れていってもらった途切れた丘。 あの頃からしばらくして、俺は俺を『凍弥』と呼ぶ人が嫌いになった。 そうなると『閏璃凍弥』という人がとっておきだと言っていたらしいこの場所も、 自然と嫌いになっていた。 だけど俺は与一と会って、くだらない考えが薄れていった頃。 その思いから完全に立ち上がるために、ここに来た。 そこで俺を迎えてくれたのは暖かい景色だった。 空から降る雪。 暖かい風に、心に染みるような景色。 その場所では誰かが俺に微笑んでくれている気がして、 なんだかとても気持ちが穏やかになった。 その時になって思った。 ここに来て良かった、と。 凍弥 「───」 ザァ、と風が吹いた。 その景色を眺めて、やがて空を見る。 この場所は変わらないなと思いながら、その場に寝転がった。 少しだけ寒さを感じるものの、空から差す太陽がそれを払拭してくれる。 気持ちよかったからスッと目を閉じてみると、穏やかなまどろみに包まれた。 ……ちょっとだけ、このまどろみを堪能しようか─── ───…… 凍弥 「おとうさん、ここ、なに?」 柾樹 「ん?ここか?ここはな……俺のとっておきの場所だ」 凍弥 「とっておき?」 柾樹 「ああ、とっておきだ」 凍弥 「おとうさん、ばかー」 柾樹 「ばっ……ばか?どうしてだ?」 凍弥 「とっておきはおしえちゃいけないんだよ」 柾樹 「へ?……くっ……はっはっはっは……!」 凍弥 「おとうさん?」 柾樹 「ああ、そうだな、その通りだ。     ……だから、これからはお前のとっておきの場所にしてくれないか?」 凍弥 「どうして?」 柾樹 「俺はもう、幸せだから」 凍弥 「………」 柾樹 「ん?どうした?」 凍弥 「おとうさん、わらってる?」 柾樹 「……ああ。幸せだとな、なんにもなくても笑えるんだよ」 凍弥 「そうなんだ……」 柾樹 「ああ、お前にもいつか解るよ。友達が出来て、そいつと馬鹿やって……。     その時その時がなによりも大切だなって思えたら、きっとその時幸せなんだよ」 凍弥 「……よくわかんないや」 柾樹 「そうか。まあいつか解る。だから───人は大切にしろ。     誰かが困ってたらカドが立たない程度に助けてやれ。     ……俺はお前に聖人になれだなんて言わない。     だけど、たとえ不良になっても、小さなことでも人を助けられる大人になれ」 凍弥 「わかんないよ……」 柾樹 「……そうだな。でも、いつか俺の言葉を思い出した時があったら……うん。     その時お前が思った通りの生き方をしてみろ。     ああ、生き方を変えろっていうんじゃなくてな?」 凍弥 「………」 柾樹 「って、聞いてないな。……まあ、こんなこと話してもつまらないか。     ───よーし凍弥!母さんにコロネ買って帰るかっ!」 凍弥 「ぼく、れいきゃくすいがほしい」 柾樹 「ははっ、凍弥は冷却水が好きだなぁ」 凍弥 「あのキィイイーンがすき」 柾樹 「そっか。アイスとかはダメなのか?」 凍弥 「のみものじゃないとやだ」 柾樹 「……類は友を呼ぶ、か。妙な嗜好は遺伝なんだろうか」 凍弥 「?」 柾樹 「なんでもないよ。行こうか」 凍弥 「うんっ───?」 柾樹 「どうした?」 凍弥 「ねぇおとうさん」 柾樹 「うん?」 凍弥 「えっとね、そこにおとこのひととおんなのひとがいるよね?」 柾樹 「男と女?……いや?」 凍弥 「いるよぅ、ほら、そこ」 柾樹 「……居ない……あ、いや、居る、かな?はは……。それで、どうした?」 凍弥 「おとこのひと、どうしておとうさんにおやゆびたててるの?」 柾樹 「親指?」 凍弥 「うん、つよくいきろ、だって」 柾樹 「……───」 凍弥 「おとうさん?」 柾樹 「いや、なんでもないよ。じゃ、行くか」 凍弥 「うん……」 柾樹 「………」 凍弥 「………」 柾樹 「───ありがとう、叔父さん」 ───…… ……。 とんとん。 凍弥 「……んう?」 肩を突つかれた感触を憶えて、俺は目を開けた。 すぐに見えた景色は空。 とても眩しくて、体に残っていた眠気が刈り取られた。 凍弥 「───ん」 ぐぅっ、と伸びをすると、俺は体を起こした。 そして……『誰か』を探す。 俺を起こしてくれた人が居る筈だから。 だけど─── 凍弥 「………」 そこには誰も居なかった。 ただ、覚醒する瞬間に『こんなところで寝てたら風邪引くよ』って、 そんな穏やかな声が聞こえた。 女の人の声。 どこか母さんみたいな声に、そんな風に起こされるのは久しぶりだなって思った。 凍弥 「───っ」 突然眩しくなった世界に、すっと目を細めた。 その時、俺の近くに座る女の子の姿が見えた。 眩い光の中。 少女は俺を見るとにっこりと微笑んだ。 その隣には男の人。 昔、この丘で見た穏やかな人。 その幸せな顔を見ていると、どうしてだか涙が出た。 俺は戸惑って、どうしてって思ったけど…… それこそどうしてか涙を拭う気にはならなかった。 やがていつか父さんにしたように俺に手を振ると、男と女は光に包まれて消えた。 凍弥 「………」 そうなって初めて涙を拭った。 オバケがどうとか、そんなことは考えない。 ただあの人が父さんが尊敬してた人なんだなってなんとなく感じて、なるほどって思った。 でもやっぱり俺とは違うなって……そう思う。 俺にはあんな幸せそうな顔は出来そうにないから。 凍弥 「幸せになるって、ああゆうことなのかな」 父さんは言った。 幸せな人は何もなくても笑ってられるんだって。 凍弥 「………」 いつか友達が出来て、そいつらと馬鹿やって……。 その瞬間その瞬間が大切だと思えたら……─── 凍弥 「───よし、行くか」 ───俺はきっと、幸せなんだと思う。 父さんの言葉だから納得するんじゃなくて、俺は俺としてその幸せを噛み締めたいと思う。 ……ふと見上げた空には眩しく輝く陽光。 その太陽を手で影を作るように仰いで、目を細めた。 ……ほんと、いい天気だ……。 頭上の真上に輝くその光は、なんだか───真上? 凍弥 「……ま、真上?」 ……………………ま、真上……。 凍弥 「昼ですかっ!?」 ウヒョオ!?学校サボっちまった!? ヤバいんでないのかい!? 凍弥 「…………べつにいいか」 一日くらい休んだってどうってことないよな。 さてはて。 ……では、でっかい休日が出来たってことで……学校行こう。 凍弥 「こんな時間に家に戻ってもサクラがやかましいだろうし」 うん、学食にまぎれて昼飯食うか。 おーけーおーけー。 凍弥 「……そんじゃ、また来るよ」 …………。 声は返ってこなかったけど、その景色の先でふたりが微笑んだ気がした。 俺はそんな景色に微笑んで、やがてその途切れた丘から立ち去った。 ───……。 浩介 「む?おう盟友ではないか」 学食でとんかつ定食のキャベツをシャクシャクモシャモシャと食っていると、 俺に話し掛けてくる浩介。 凍弥 「ん?お、よう浩介」 浩介 「朝は居なかったな。どうしたのだ?」 凍弥 「いやー、朝露に誘われて公園で寝てたらいつの間にか昼でな。まいったよ」 浩介 「そうか」 凍弥 「んー……」 キョロキョロと辺りを見渡す。 そして質問。 凍弥 「浩介───浩之は?」 浩介 「昨日、停学を食らったであろう」 凍弥 「……あ、あーあーあー!そういやそうだった!」 本気で忘れてましたよ!? 浩介 「朝から我も教師どもに掴まって大変だったのだぞ?     『志摩!貴様停学中だろう!』とか言われてな……。     確かに我は志摩だが、停学をくらったのはブラザーなのだぞ。     双子というのもこれはこれで厄介なものだ」 浩之 「うむ、我もそう思う」 凍弥 「ああ……って何やってんだよお前は!」 浩之 「む?どうしたのだ同志」 凍弥 「どうしたのだじゃないだろっ!お前停学中だろが!」 浩之 「なに、気にするな。教師の目を盗まずに堂々と入ってきた。     訊ねられれば『我は兄の方だ』と言えば逃げられたぞ」 浩介 「なっ───それでは我のところに来た教師どもの言葉は貴様が原因か!?」 凍弥 「言葉って?」 浩介 「貴様はなにか!?瞬間移動が出来るのか!?と言われたのだ……っ!     妙だ妙だと思っていたが……!     おのれブラザー!我を侮辱した罪、万死に値する!」 浩之 「バンシー!?」 凍弥 「いや、万死。万死ね」 浩之 「おのれブラザー……!我を巧みな話術で丸め込もうとしおって……!許さん!」 凍弥 「それくらいすぐ解れよ……」 呆れた。 でもなんか妙な雰囲気だな。 志摩 『………』 ふたりの間にギシャアアン!と雷鳴が轟く。 ……なんかヤな予感。 浩介 「ふっ……ふふふははははははは……!     とうとうどちらが最強かを確かめる時が来たようだな」 浩之 「ふふふ……!ならばこれで勝てた者が凍弥の席を頂こうではないか……!」 凍弥 「って、こらこらこらっ!人の席を勝手に景品にするなよっ!」 浩介 「ぬ……ならばどうしろというのだ!」 凍弥 「そりゃ……うー……って、いいや。そうしてくれ」 浩之 「うむ!それでは参るぞ!修正ィイイイッ!!」 浩介 「修正されるべきは貴様だブラザー!修正ィイイイッ!!」 ボッゴォオッ!!! 志摩 『……ゲフッ』 どしゃあ。 志摩兄弟が気絶した。 どうしてこうまで後先考えないんだこいつらは。 互角すぎるんだからどう考えたって相打ちになるのは目に見えてるのに。 思考回路も行動も似てるし直球だからどっちもストレートナックルでいくし。 俺は双方ともに当たり所が悪かったのか盛大に痙攣している志摩兄弟を見下ろした。 ……そして溜め息。 やがてすっかり冷めたとんかつ定食をもっちゃもっちゃと食したのでした。 ───。 チャイムの音を聞いて、午後の授業が始まったことに気づいた。 で、やっぱり溜め息。 先ほどの騒ぎを思い出して呆れていた、   ───回想─── 浩介 「うぐ、いたた……くう、我もまだまだ未熟か……!」 浩之 「ブラザーとは相打ちは出来ても勝てぬな……」 凍弥 「馬鹿だよな、お前ら……」 きっぱりと言えるのが、どこか虚しいかも。 ───とんかつ定食を食し終えた俺は、志摩兄弟と廊下を歩いていた。 午後の授業くらい出るかなぁとか、欠伸を噛み締めながら考えていた。 ……もちろん真面目に受けないが。 寝るか?……寝るな。 ───やがて見えてきた教室へまったりと入り、机に座って突っ伏す。 浩介 「しかし、こうステキな陽光を浴びると眠りたくなるな」 浩之 「そうだなブラザー」 浩介 「よしブラザー、そげな怠慢を払拭すべく、眠気を吹き飛ばす何かをするのだ」 浩之 「フッ、任せろブラザー。なんならこの場で一曲歌ってみせようか」 凍弥 「お、いいなー。なにか賑やかな曲頼むよ」 浩之 「任せろ。ではいくぞ!ブラザー、新曲だ!」 浩介 「うむ!ミュージックゥッ───ストァートゥウッ!!」 かちっ。 どっから出したのか解らないラジカセのスイッチを押して、志摩兄弟は構えた。 やがてあの曲が流れる。 じゃんじゃがじゃじゃん・じゃんじゃんじゃじゃんじゃん、 じゃんじゃがじゃじゃんじゃん♪ 浩介 「オウィェーイ!!」 じゃんじゃがじゃじゃん・じゃんじゃんじゃじゃんじゃん、 じゃんじゃがじゃじゃんじゃん♪ 浩之 「オウィェーイ!!」 ガラバターンッ!! 佐藤 「なぁに騒いどっちょぉおっ!!アァーッ!?」 げっ!シャンポリオン!?  ◆シャンポリオン  異臭を放ちながら屋上に居た彼は、カラスに襲われていたりした。  その証言をもとに、停学を食らった腹いせに浩之が付けたあだ名がシャンポリオン。  ……ちなみにシャンポリオンというのは、  過去の文献において黒鴉魔操術を操る者が使った奥義、  『シャンポリオンの嘆き』から来ている。  その時に使われていた幾羽もの鳥がカラスで、  襲われていた様を連想したら思いついたらしい。  *神冥書房刊『セティ焼身絵巻』より 浩之 「ゲェーッ!?シャンポリオン!?」 佐藤 「ぁあ!?なんじゃあそりゃあ!     ……あん?おい志摩?貴様停学中じゃなかったか?」 浩之 「停学なのは弟の方である」 ……平然とウソつく姿が凛々しかった。 佐藤 「じゃあ貴様の方が弟か」 浩介 「どこを見ている。我こそが兄だ」 佐藤 「……あぁ?じゃあ」 浩之 「いや、違うな。我が兄だ」 浩介 「いや、我こそが」 浩之 「いやいや、順番は守ってもらわんと」 なんの順番だよ。 佐藤 「めんどくせぇ!ハッキリしやがれ!」 志摩 『我こそが兄だと言っている!』 佐藤 「……殴るぞ」 志摩 『やってみろ、クローン風情が』 佐藤 「いい度胸じゃあっ!」 シャンポリオンが怒った。 浩之 「ふははははは!!シャンポリオンが怒りおったぞ!」 佐藤 「なんなんじゃあそのシャンなんたらってのは!あぁ!?」 浩之 「……貴様の名前じゃなかったのか?佐藤シャンポリオン」 凍弥 「ブッ……!」 や、やべっ……!くだらねぇのにツボにハマった……! 佐藤 「おい霧波川……?なに笑ってやがるんじゃ?あぁ?」 凍弥 「い、いや……気の所為ですよ……!」 くひっ……!くひひははははは……!! あ、あー、えと、一応佐藤の名前は佐藤蕩児(さとうとうじ)って言うんだけどね? 前から砂糖児(さとうじ)って言われてからかわれてたんだけどな……。 まさか今度はシャンポリオンとはっ……! 砂糖児ってのは佐藤と蕩児を混ぜて、字も変換して例えた名前だ。 砂糖みたいな子供ということで。 それがまた、いかつい顔した佐藤にはミスマッチが炸裂で、似合わなさがウケた。 佐藤 「貴様らいい加減にしろ!」 浩之 「信じろシャンポリオン。我が兄の浩介だ」 浩介 「聞くのだシャンポリオン。我が兄の浩介だ」 浩之 「我だ!停学すべきはこやつぞ!!」 浩介 「兄の名を騙ってまで人を堕とすかブラザー!修正ィイイッ!!」 浩之 「甘い!修正ィイイッ!!」 浩介 「甘い!」 浩之 「甘い!」 ブンッ!ブブンッ!バッババッ!バッバッバッ!! 浩介 「我だ!」 浩之 「我だ!!」 浩介 「我!」 浩之 「我!!」 ふたりが修正し合う。 しかしことごとく避けまくり、修正されることはない。 佐藤 「〜〜〜っ……!いいかげんにしくされぇーーーっ!!」 志摩 『ならば信じたのだな!?』 佐藤 「面倒だ!貴様らふたりとも停学だっ!」 浩介 「な、なななにっ!?」 ……うあ。 浩介 「ま、待て!待ってくれ!我は無実だ!     何故我が!?そげなことをされては椛に会えぬではないか!」 佐藤 「黙れ。もう決まったことだ」 浩介 「そ、そげな!」 ……ひでぇ。 浩介は完璧にとばっちりだぞ? ……って、浩之も俺のとばっちりだったな……。 あの夜、思考の中に現れたのが不運の始まりだったな……。 浩介 「ぬ、ぬおお……何故……何故我がこのような目に……!?」 教室を出ていった佐藤を無視して、膝から崩れ落ちる浩介。 その肩にポムスと手を乗せて 浩之 「ひとりだけ停学じゃないなんて水虫臭いじゃないかブラザー」 と言う浩之。 凍弥 「浩之、それを言うなら水臭いだ」 浩之 「似たようなものだろう」 凍弥 「盛大に似とらん」 浩介 「…………盟友よ……我は悲しいぞ」 凍弥 「そりゃ悲しいだろ」 浩之 「それもこれも元は我に罪をなすりつけた者の所為なのだ」 ぎくっ。 浩之 「いつかその者を見つけて修正してくれるわ」 ぎくぎくっ。 浩介 「うむ……その時は我も手伝おうぞ」 ぎくぎくぎくっ。 浩介 「……どうしたのだ同志?顔色が優れないようだが」 凍弥 「い、いや……なんでもない」 危ないな……俺って顔に出やすいのか? 佐古田「んあ?あー、それって夜のガッコに忍び込んだって噂ッス?」 凍弥 「うあ……佐古田」 佐古田「挨拶ッスねぇ。とにかくその噂なら知ってるッスよ。     なにやら一年に転入してきた人が居たらしいッス」 浩介 「ム。椛か?」 佐古田「そういえばそういう名前だったッスねー。朧月さんっていったッスね?」 浩之 「ま、まさか……何か止むに止まれぬ事情があって、     咄嗟に浮かんだ我の名前を呟いて、それを勘違いした教師が───!?」 浩介 「よし、停学になるのは我だ。椛の苦労は我が受け取ろうではないか!」 浩之 「なにぃ!?そのようなことはさせぬ!停学になったのはこの我、志摩浩之ぞ!」 浩介 「なにを言っているのだ。志摩浩之は我だぞ」 浩之 「なにを言うか貴様!浩之は我だ!」 浩介 「いいや我だ!」 ……馬鹿だこいつら。 佐藤 「……よぅ解った」 ポムス。 志摩 『はうっ!?』 佐藤 「ガッコにおったんは一年の朧月で、     貴様らはとばっちりだってわけなんじゃな?」 浩介 「違うわっ!」 浩之 「そうだ違う!全ての現況はブラザーの所為だ!     体罰でもなんでも許すから椛には構うな!」 浩介 「ウヒョオ!?」 何気になすりつけられた浩介が相当に驚いた。 佐藤 「……まあ停学は明日一日でいい」 志摩 『なにぃ正気か!?』 佐藤 「……なんじゃ?なんなら一生でもええんじゃぞ?」 志摩 『滅相もない、やるならブラザーだけにするのだ』 相変わらず足引っ張りながらの話。 ……虚しいな。 佐藤 「とにかくじゃ。明日一日の猶予をくれたる」 凍弥 「猶予?……なんの?」 佐藤 「明後日に控える反省テストの……じゃ」 志摩 『反省テストォッ!?』 佐藤 「そうじゃ。貴様ら反省の色がないからのぅ。     じゃから明後日、貴様ら兄弟には特別にテスト受けさせたる」 志摩 『……嬉しすぎて涙が止まらぬな……』 佐藤 「そうじゃろそうじゃろ。ワシに感謝せぇよ気様ら」 志摩 『皮肉で言っているのも解らんのかこのシャンポリオンは』 佐藤 「あんじゃとぉっ!?」 ……こんな時だけ息ぴったりだし……。 佐藤 「とにかくじゃ!せいぜい足掻くんじゃのぅっ!がぁーっははははは!!」 ……再び去ってゆく佐藤。 そして残される馬鹿ふたり。 ……南無。   ───回想終了─── とまあそんなわけで志摩兄弟は反省テストに向けて無駄な足掻きをしている。 俺はそこから逃げ出して屋上で寝てるわけだ。 ……ふと石屋根を見上げてみれば、そこには眠っているらしき朧月。 凍弥 「……いい天気だ」 領域を汚さない程度に離れていれば問題はない。 それに昨日、引っ叩かれたしなぁ……。 とても会話する気分じゃないよ……。 ま、会話出来るとは思ってないけど。 凍弥 「さてと。……寝よう」 呼吸を整えて寝る準備をする。 今日はよく寝るな、とか思いながら……それでも眠気が現れる自分が時々怖い。 ………………ぐー。 ─── ……とん。 凍弥 「……む?」 耳の近く……いや、頭の近くか? とにかくベンチに何かが置かれた気がした。 だけど何か目を開けちゃいけないと感じた。 声  「…………遅くなりましたけど、ごちそうさまでした」 その声を聞いたら、ますます目を開けちゃいけないと思った。 朧月だ。 多分バスケットを返したかったんだろう。 ……まあ普通に返しちゃ変な噂が立つかもしれないから、 屋上に来た時を狙ったってことか。 声  「……眠っているんですか?」 …………眠ってますよー。 声  「………」 ……眠ってるって。 声  「……美味しかったです。おじいさまの料理みたいで懐かしかったです」 ……ああ。 声  「……ひとつ、訊きたいことがあったんです。     どうして頼んでもいないのに……わたしに構うんですか?」 困った人を見過ごすほど、堕ちた人間してないんだよ。 相手に避けられても嫌われてもさ、助けられる人は助けるべきだと思うんだよ。 出来るのにやらないのってつまらない生き方だろ? だから……かな。 声  「───眠っているんだから答えられるわけありませんよね……失礼します」 ……ベンチから離れてゆく足音。 一体、あの小さい体にどれほどの感情を押し込めているんだろう。 声を聞いているだけで彼女の不安を聞かされている気がして、放っておけなくなる。 もちろん彼女にその気は無いだろう。 だけど彼女の言葉ひとつひとつには、 なんだか悲しみが込められているように感じられる。 無意識下の悲しみ。 そのつもりもないのだろうけど、いつも泣きながら話し掛けられている気がするんだ。 ……構うなって言われても……それを放っておけるほど非道じゃない。 凍弥 「………」 このまま寝てしまおう。 起きていたことを知ると、朧月は良く思わないだろう。 変な意味じゃなくて、俺は朧月にはもう泣いてほしくなかった。 ただでさえ頼りない小さな彼女が泣いていると、不安でしょうがない。 そうなるともう、俺は領域がどうとか考えてる余裕なんてなくなるだろう。 昔っから困っているヤツを見ると放って置けない性格なのだ。 志摩兄弟と初めて会った時もそのお節介が発動した所為でいろいろあったし。 でも、な。 それが悪いことだとは思わない。 父さんが言ってたことが全部正解みたいでちょっと癪だけどな。 ───……どたたたたたっ!ばんっ! 声  「盟友ーっ!盟友凍弥は居るかーっ!?」 ……うお。 あの声は志摩兄弟のどっちかか。 声も同じだから顔と仕草を見極めなきゃ解らないんだよな。 でも素人にはオススメできない。 多分からかわれて終わるだろうから。 声  「盟友!解らぬ個所が多すぎて困っておるのだ!     貴様、授業に出ぬ割に頭がいいだろう!我に知恵と勇気と栄えをもたらせ!」 無茶言うな! 声  「ッ〜チィ!寝ているのか!?起きろ!     こんな時に立たずに居てなんのための盟友だ!」 知るか!困った人は助けたいが私利私欲のために動くのはなんか嫌だぞ!? 声  「ええい起きろと言っている!!」 べしべしべしべしべしべしっ!! いでっ!いでっ!こ、このやろっ……!普通寝てるヤツに往復ビンタするか!? 声  「ええい起きろと言───」 ───ぞくっ! 凍弥 「………」 な、なんだ……!?なんか今すごい冷たい視線が……!? 声  「な、なにごと……!?何故体が動かぬ……!?」 視線は志摩のものではない。 証拠に、今俺の胸倉を掴んでる志摩(どっちか解らんから)も竦みあがっているようだ。 この視線は……どっかで感じたことがあるような───って! さっきまでここに居た存在って言ったら朧月……だよな? ああ、崩れていたパズルが音を立てて合わさってゆく! これが……これが答えなのか……っ! って馬鹿やってる場合じゃなく。 どうしてこんなに睨まれておりますか? ……ああ、静かに寝たかったとか? それなのにここまで五月蝿くされちゃあ……うん、俺でも怒る。 声  「後ろに誰かが居る……!射抜くような視線……!只者ではない……!」 志摩がガタガタと震えている。 確かにこの殺気にも似た視線は尋常じゃない。 今までの悲しみの全てを裏返すような怒りの視線だ。 ……今度から怒らせないように勤めよう。 声  「わ、我が……この我が……!?う、動けない……だとぉ……!」 志摩がやはり畏怖している。 サクラの時の比ではない。 声  「くっ……くおおおおお!起きるのだ盟友!この屋上には何かが居る!!     早く、早く起きるのだ!ぬぅううううおおおおお!     震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!刻むぞ血液のビート!!」 グッ! 凍弥  <お?> ググググ……!! 凍弥  <お、おおお……!?> 固まっていた浩介の体が動いてべしぃっ!! 凍弥  <いでっ!?> 声  「お、起きるのだ……!お、おき───起きろぉおおおおおっ!!!!」 ボカドカベシベシ!! いでっ!いでででっ!! 凍弥 「ゔ……ゔゔ……!!」 ぼごっ!! 凍弥 「でっ……!って、なにすんだよ!!」 浩介 「おっ……おおお盟友!よくぞ起きた!一刻も早くこの場から逃げるぞ!!」 凍弥 「な、なにごとだよ一体……って、お、おいっ!?」 浩介 「なにごとでもよいわっ!!とにかく逃げるのだ!」 凍弥 「ちょ、ちょっと……落ち着けって!!」 胸倉を掴んでいる浩介の手を払った。 そして安全のために距離を 凍弥 「おぉわっ!?」 とろうとした時、足になにかが引っ掛かった。 俺はそれとともに屋上の石畳にドシャアと落下した。 凍弥 「ってぇ〜……!って、なんだ?あ……」 引っ掛かったものを見てみると、それは大きなバスケットだった。 ……ふむ。 やっぱり朧月だったか。 ってことはさっきの視線もうおぉおっ!? 椛  「………」 石屋根の上を見てみると、何故か深紅に近い赤い瞳で浩介を睨んでいる朧月。 お、俺を睨んでたわけじゃなかったのか……? ……いや、普通に考えたらやかましくしてたのはこいつなわけだし。 浩介 「が、がが……が……!」 そして蛇に睨まれたカエルになっている浩介。 なんか相当殺気立ち込めてますけど……!? 浩介 「……と、とんずらーーっ!!」 どたどたっ!がちゃっ!ばたんっ! ……あ、逃げた。 椛  「………───」 その途端、朧月の深紅の目が薄っすらとした目に戻る。 椛  「───ッ!」 ───いや。 戻りかけた目は、次の瞬間真紅に変わる。 途端に苦しそうに体を折る。 凍弥 「朧月っ!?」 俺は思わず彼女に駆け寄った。 しかしその途端に周りが嫌な空気に包まれる。 そして─── 凍弥 「朧月!?おぼ───なぁっ!?」 彼女は浮いていた。 空を、浮遊していた。 虚ろな、だけどしっかりとした真紅の目。 それが俺を見据えると、彼女は何かを呟いた。 ───風が唸る。 その次の瞬間にはその風が彼女の手の平に集う。 椛  「具現せよ───我が鎌よ」 ギキィンッ!! 凍弥 「なっ───!」 風で遮られていた視界が開けると、そこには大鎌を手にした朧月。 その目が、今度はハッキリと俺を見る。 椛  「───」 チキ、という音。 それを鎌が鳴らしたと気づいた時。 凍弥 「っ!?」 朧月は目の前に居た。 見えなかったってゆうより、瞬間移動のように感じた。 ……そう感じた時には既に、鎌が俺の喉に当てられていた。 凍弥 「………」 だけど俺は焦りを無理矢理押し込めて、ただその目を見た。 椛  「…………貴様、何故抗ワヌ」 凍弥 「抗ってるよ。『あんた』がそう感じないだけだ」 椛  「……戯言ヲ」 ……ふむ。 鎌に力が込められましたね。 ……てゆうかどうしてこんな状況ですか? 椛  「貴様ハ死ガ怖クハナイノカ?」 凍弥 「あんたは怖いか?」 椛  「………」 凍弥 「だろうな。俺も怖い」 椛  「デハ───」 凍弥 「どうして怯えないのか。どうして目を逸らさないのか、だろ?     ……あのさ、あんたが知ってるかどうか解らないけど、     朧月ってずっと悲しそうな顔してるんだ。     原因があんたにあるかどうなのかなんて知らない。     でもさ、俺は決めてあるんだ。合わせた目は絶対に逸らさない。     たとえそれがあんたでもな」 椛  「………」 凍弥 「訊いていいか?あんた……何者だ?」 椛  「……我、闇……」 凍弥 「闇?」 椛  「血ニ宿ル『死神』ナリ……」 ……血? 凍弥 「……血ってのはなんなんだ?」 椛  「己ノ置カレテイル状況ヲ解ッテイルノカ?     コノママ喉ヲ掻ッ切ッテモイイノダゾ?」 凍弥 「………いいや。多分あんたはそれをしないよ」 椛  「……試シテミルカ?」 凍弥 「ああ。面白そうだな」 椛  「面白イ?」 凍弥 「やれないのに試すって、変だろ?」 椛  「───」 ピッ、と。 喉から血が出た。 椛  「コノママ斬ッテヤロウカ?」 凍弥 「………」 椛  「……ナニヲ笑ウ」 凍弥 「俺さ、子供の頃から人には見えないものってのが見えたんだ。     霊感って言うのかは解らないけどな。     ……解るんだよ。お前だけならやるだろうけど、それを止めてる人が居る」 椛  「……見エルカ」 凍弥 「ああ。必死になってお前を止めてる。よっぽど朧月のことが好きなんだろうな」 椛  「……アア、ソイツカ。ソイツガ何故抑エテイルカ知ッテイルカ?」 凍弥 「聞いてないな」 椛  「……我ガ食ッタ」 凍弥 「……なに?」 椛  「食ッタノダ。血ニ眠ル能力デナ」 凍弥 「食った……!?」 椛  「宿主モ泣イテ喜ンデオッタワ。確カ……浅美トカ言ッタカ?」 凍弥 「浅美……?」 『浅美ちゃん……っ!!』 ……彼女はそう言っていた。 あの夜、傘を見つけた時に。 まさか。 そんなことって─── 凍弥 「その力ってどんなものなんだ」 椛  「答エル義務ナドナイ。……トハイエ、退屈ナモノダ。     ワザワザ他ノ男ヲ退ケテカラ貴様ト対面シタノダ」 凍弥 「他の男?……浩介のことか」 椛  「名前ナド知ラヌ」 凍弥 「……どうして俺だったんだ?」 椛  「簡単ナコトダ。イマ、宿主ガ最モ信頼ヲ置イテイルノガ貴様ダカラダ」 凍弥 「え───」 椛  「ダカラ我ガ出タ。貴様ガ宿主ニ近ヅイタカラダ。     ……近ヅク者ハ我ノ意識ヲ崩ス。ダカラ、浅美トユウ者モ食ッタ。     貴様ハ家系ノ者デハナイカラナ、鎌デ殺ソウトシタガ。     マサカ食ッタ者ニ邪魔サレルトハ思ワナカッタゾ」 凍弥 「………」 『関わらないでください……』 ……その言葉の重みが今になって解った。 馬鹿か俺……。 領域だのなんだのの次元じゃねぇじゃねぇか……っ! 凍弥 「───でも」 ……でも。 俺まで彼女を拒絶したら、それこそ朧月はずっと人を避けて通るんじゃないだろうか。 幸せも知らず、日常の穏やかさも友達との騒ぎも知らず。 そんなのは寂しすぎるだろ……。 凍弥 「……生憎だけど、どれだけ脅しても俺は消えてやらないよ。     決めたことは曲げない。領域は守るし目も逸らさない。     脅しは通用しないよ。……浅美ちゃんとやらも、そのつもりらしいけど?」 椛  「………」 死神は舌打ちをして俺を睨みつけた。 椛  「……邪魔者ノ意識ヲ飲ミ込ンダ時ガ貴様ノ最後ト知レ。今ハ見逃シテクレル」 …………。 死神は目を閉じると、鎌を消した。 そして目を開き、真紅の目を深紅に、やがて薄っすらとした赤に変えた。 椛  「───はっ……はぁっ……!はぁっ……!」 ……ふう。 どうやら引っ込んでくれたみたいだな。 椛  「……っ……は……ぁ」 汗を出しながら息を整える朧月。 ……しばらくそれは続き、ようやく落ち着いた頃に俺を見た。 ───いや、正確には俺の首を。 椛  「……その傷……」 真っ青になりながら俺を見る。 凍弥 「へ?……あっ」 首ってゆうと───鎌で斬られた傷がっ! しまった!朧月が気にしないわけがない!……と、思う! ───よし誤魔化そう。 凍弥 「これか?これは超常現象で言う鎌鼬で出来た傷でな」 椛  「……うそ、つかないでください」 凍弥 「嘘じゃないぞ。先ほどステキな突風が吹いてな。そしたらズバァと」 椛  「うそっ!」 凍弥 「嘘じゃないぞ。オラ嘘つかねぇだ」 椛  「…………」 うぐ……涙目だ。 凍弥 「嘘じゃないぞ」 椛  「……鎌鼬の傷にしては大きすぎます……」 凍弥 「強烈な鎌鼬だったんだ」 椛  「血……流れてます……」 凍弥 「生きてる証拠だ。なんなら一曲歌ってみせようか?     ぼーくらーはみんなー、いーきているー」 椛  「歌なんて聞きたくありません……」 凍弥 「歌いたかったんだ」 椛  「い……いい加減にしてくださいっ……。わたしが、やったんでしょう……?」 凍弥 「違うぞ。鎌鼬だ」 椛  「………」 凍弥 「気にしすぎだ」 椛  「うそつかないでください……」 凍弥 「嘘じゃないぞ」 椛  「全部、解ったんでしょう……?」 凍弥 「解ってないぞ」 椛  「……口、引きつってます」 凍弥 「気の所為だ」 椛  「視線、頼りないです……」 凍弥 「他人の空似だ」 椛  「………」 凍弥 「夢だ」 椛  「………」 凍弥 「夢遊病だ」 椛  「……なにも言ってないです……」 凍弥 「それは迂闊だったな」 椛  「───真面目に答えてくださいっ!」 父さんの真似をしたら怒られた。 ぬう、やはりコレはどう考えたって相手を怒らせるだけだよな。 俺も馬鹿にされた気がしてよく怒ったもんだ。 でも、ここで折れるわけにはいかない。 凍弥 「俺はいつだって真面目だと、ご町内の皆様にも有名だぞ」 椛  「……聞いたことありません」 凍弥 「なにぃ馬鹿な。回覧版にも書いてあるほど有名なんだぞ」 椛  「……真面目に、答えてくれないんですか……?」 凍弥 「真面目なんだが」 椛  「……人をからかう人じゃないと思ったのに……」 凍弥 「からかってるわけじゃない」 椛  「じゃあどうしてっ!」 泣き顔で俺に向かって叫ぶ朧月。 ……本当に、死神の血ってゆうのを嫌ってるんだな。 凍弥 「……あのさ。俺は何も見てないし知らないよ。     だから朧月が無く理由も知らないし、怒る理由も知らない。     この首だって、鎌鼬にやられただけだぞ」 椛  「…………もういいです」 凍弥 「そか。……落ち着けよ?」 椛  「え───?」 凍弥 「なんか、いつもの朧月っぽくないからさ」 椛  「……あなたが意地悪だからです」 凍弥 「そうか?……そうかもな。サクラにもよく言われる」 椛  「………」 凍弥 「そんな顔するなって。いつもみたいに石屋根に登ってなさい」 椛  「……───」 凍弥 「安心しろ、領域には踏み込まないから。     あ、それと……美味かったか?サンドイッチ」 椛  「え?あ……」 凍弥 「……ま、いいか。そんじゃな、俺は馬鹿な盟友を救わなきゃならんから。     ───……それと、そっちの娘にもよろしく」 椛  「え?」 朧月が俺が指差した方向を見る。 そこでは女の子───浅美ちゃん、っていったか? その娘が微笑んで手を小さく振っていた。 俺はその娘に笑いかけてから、小さく手を振り返して屋上を去った。 Next Menu back