闇は近く。 その息吹はやがて膨らみ、あらゆるものを蝕む。 友達を消してしまったこの能力がいつだって憎らしい。 どうしてこんな思いをしなければならなかったんだろう。 わたしはずっと、平穏以外のなにものも望んでいなかった筈なのに。 なにがいけなかったんだろう。 なにが間違っていたんだろう。 そして───どこで間違ってしまったのだろう。 今となってはその答えも闇の中に埋もれて。 わたしはただ、闇に包まれながら泣くことしか出来なかった。 ───類は友を呼ぶ───
───じゃりりりりりりりんっ。 がしょんっ。 凍弥 「ゔ……」 すっげぇダルイ……。 どうやらマジで風邪引いたらしい。 あ゙ー……不覚……。 遥一郎「凍弥、朝だぞ。そろそろ出ないとサクラにまた説教……って……凍弥?」 凍弥 「……あー、今出る……」 遥一郎「……風邪だな?」 凍弥 「違うぞ」 遥一郎「じゃあなんだ?」 凍弥 「これは……いわゆる寝不足というものだ。ガッコ行って寝るから十分だよ」 遥一郎「どうしても行くのか?休んだ方がいいと思うが」 凍弥 「………」 無理して行くような場所じゃないけどな。 寝て治るんだったら昼から行くって手もあるし。 ……そうするか。 凍弥 「悪い、鍵閉めてくれ。サクラに来られちゃ厄介だ」 遥一郎「そうか?看病くらいしてくれると思うが」 凍弥 「勘弁してくれ、殺される。     お粥と見せかけて作られた物体で毒殺される姿がありありと思い浮かぶぞ……」 遥一郎「……俺も簡単に思い浮かべられた。じゃ、閉めておくぞ」 凍弥 「ああ、瞬間移動でも使って出てくれ。じゃ……おやすみ……」 遥一郎「ああ。ゆっくりとな」 ……かちゃん。 鍵が掛けられた音とを聞いた。 それから部屋の中から人の気配が消える。 ……あー、気分悪ぃ……。 ─── …………だんだんだんっ!! 凍弥 「ぐ……」 だんだんだんっ! 声  「凍弥さんっ!学校遅刻しますよ!?凍弥さんっ!?と」 ぼかっ! 声  「あうっ!」 声  「凍弥は風邪引いていると言っただろうが。馬鹿かお前は」 声  「うぐぐ……だってこうでもしてくれないと開けてくれそうにありませんし」 声  「自覚はあるんだな」 声  「どういう意味ですかっ!!」 声  「そのまんまだろう。ほら、いいから寝かせておいてやれよ」 声  「だったらわたしが看病を」 声  「馬鹿者。そんなことしたら逆に悪化するだろう」 声  「どういう意味ですかっ!!」 声  「だからそのまんまの意味だと言っただろう」 ……どうでもいいから部屋の前で騒ぐのはやめてくれよ……。 …………。 ……ん? 凍弥 「……ん、あれ……もうこんな時間か」 枕元の時計を見ると、時刻は昼近く。 ……んむ、起きるか。 凍弥 「よっ……ぐおっ!?」 ズキリと頭が軋んだ。 うぐ……気持ち悪ぃ……! 凍弥 「……でも学校には行くか?なんとなく朧月のことも気になるし……」 ……うん。 そうと決まればちゃちゃっと着替えて───ムゥ、完璧じゃ! 凍弥 「うっし、あとはサクラに会わないように出るだけだ」 腹は……生憎と減ってないな。 風邪ってすげぇ。 凍弥 「鞄なんてホントは必要無いんだけど、     持ってなけりゃ持ってないで教師どもに目をつけられるし」 というわけで鞄を手に、と。 よーし準備完了。 凍弥 「………」 ドックン……ドックン……ドックン……ドックン……! 緊張が走る中、ゆっくりとドアを捻る。 右良し……良くねぇ! 凍弥 「ど、どうして浩介と浩之が部屋の前で気絶してるんだ!?」 しかもなにやら何かで殴られたらしき痕跡。 ……また懲りずにからかってサクラにストレインで赤裸々撲殺されたな……? ほんとに『撲殺』ってわけじゃないが、条件がそれに近すぎる。 凍弥 「……頭から血が出てるな」 ってことは、からかったんじゃなくて……うむ、さては着替えを覗いたな? 加減無しに殴打っていったら幼児体型と言われるか着替えを覗かれるかのどっちかだ。 だが、今になってはこいつらがサクラをからかえるとは思えない。 凍弥 「……で、俺の部屋に逃げ込もうとしたら鍵が閉まってて撲殺、と」 事件が解決した。 凍弥 「お前らさぁ、停学中くらい静かに出来ないのかよ……」 倒れている志摩兄弟の屍に十字を切りつつ、俺はそろりそろりと廊下へ出た。 凍弥 「……誰も居ない、な?」 抜き足差し足し伸び足〜っと。 ───おお。 凍弥 「奇跡だ。誰にも会わずに学校に辿り着けるなど」 例えば予想していた物事はシュウに見つかって騒がれて、 そんでもってサクラに気づかれてゲームオーバーってパターンだったんだが。 どうやらそれも無く、まんまと侵入出来た。 凍弥 「……馬鹿正直に教室に行く気にはならんし。     ここは屋上にでも行って陽光を受けるか」 それがいい。 そうと決まればさっさと入ろう。 校門前でうろうろしてても不信人物以外の何者にも思われないだろう。 ─── で、屋上ですが。 凍弥 「………」 沈黙。 どうしてさっきまで穏やかだったのに、こんなに風が吹いてんデショ。 納得いかん。 凍弥 「……睡眠妨害だ」 風は嫌いじゃないが、風邪である俺にはちとキツイ。 そもそも寝てられない。 凍弥 「………」 やはり沈黙。 世の中どうかしてる。 凍弥 「……じゃ、空き教室にでも行くか……」 あそこなら誰にも邪魔されずに寝れるだろう。 ……元々朧月が気になって来たけど、屋上には居ないみたいだし。 凍弥 「っと、一応裏の方とか調べとかないとな。また落ちてるってことも……」 ───居ないな。 出入り口の裏は日陰になっていてひんやりとしていた。 こんなところで寝てたらそれこそ風邪引くよな。 凍弥 「個人的に狭い場所は好きだが」 っと、それよりもさっさと退散しよう。 風邪が悪化する。 体を庇うようにして屋上をあとにした。 強風の所為で静かにドアを閉めるのも一苦労だった。 ───。 さて、空き教室です。 かつてこの学校で『開かずの間』と言われた場所らしい。 今ではその噂が嘘だったかのようにすんなり開くし、これといった怪しさもない。 強いて言うなら他の教室より古いんだよな、この教室だけ。 凍弥 「寝るには支障がないことが救いか」 どの道寝るけどな。 今では物置のように扱われているその教室に置いてある幾つかの机。 そのひとつの椅子をズガガガと引いて、そこに座った。 凍弥 「だはぁ……」 やっぱ辛い。 頭痛いわ……。 自然と机に突っ伏す体勢になった俺は、そのまま寝ることに─── 凍弥 「───あれ?」 朧月、屋上に居ないとしたら何処に居るんだ? 言っちゃ悪いけど、いまさら授業に出るとは思えないし。 ……それはそれで問題だな。 出席日数大丈夫か? 凍弥 「……気になるな」 ああ、気になったものは仕方ない。 浅美にも頼まれてたし、一応姿の確認だけでもしてみるか。 凍弥 「……小さな親切、大きなお世話……。俺のお節介も相当だな」 俺はぼやきながら空き教室を出た。 さて、まずは一年の教室だな─── ───さて、一年の教室です。 現在既に授業が始まっています故、そっと覗いてみようと思います。 こう、教師が黒板を見た隙とかに。 凍弥 「………」 …………よし今ァ!! 俺は教師が黒板に何かを書いている隙をついて、その窓からその様子を覗き見た。 ……………………居ないな。 パッと見て空いてる席もないし……銀髪だから目立つだろうしなぁ。 男  「……………」 ム。 男子生徒が俺に気づいた。 如何わしそうな顔で睨んでますよ? 凍弥 「ここはひとつ、退屈なる授業という荒地に潤いを与えてやらればな」 俺は少年クンに軽く手を振って視線を釘付けにした。 そしてゴーダッツの三連ポージングをフン!ムッフン!ヌゥッフゥ〜ン!とキメた。 男  「バフゥッ!!」 見事に少年クンは噴出した。 教師 「ん?なんだ熊田」 男  「ぶはっ……くははははははっ!!」 教師 「熊田?なにがおかしい」 少年クンの突然の爆笑に、教室中がざわざわとどよめきだした。 俺はこの隙をついて次のクラスを目指した。 ─── さて、次のクラスです。 といってもすぐ隣だから数歩の距離ですが。 今でも先ほどの教室からは賑やかな笑い声が聞こえる。 うん、いいことをした。 凍弥 「さて、朧月は───っと……」 窓から中の様子を眺める。 しかし…… 凍弥 「あら?居ないぞ?」 空いてる机も無し。 何事? 男  「………」 ぬお、また退屈な授業に飽き飽きしているいたいけな少年が俺に救いの手を。 男  「………」 あ、近くの男にも知らせて……うお、連鎖的にその周囲の者どもの視線が俺に!? ……やらねばなるまい。 ここまで渇望されてはやるしかない。 しかし同じゴーダッツというのも芸が無いというか……うむ、ジョニーでいこう。 俺は者どもに手を振って視線を集めた。 そして 凍弥 「フンハァフンハァッ!!」 ビシビシバシビシィッ!と四連ポージングをキメた。 男  「ブッ!」 おお、ウケた。 教師 「こらそこ!何笑っとるか!」 男  「いや、だって廊下で霧波川センパイが変なポーズとるもんだから……くははっ!」 教師 「霧波川ぁっ!?」 ゲェエーーーッ!! あの馬鹿、教師に紹介するヤツがあるかっ!! とか思ってる内にずかずかとドアの前まで歩いてゆく教師。 こ、ここはとにかく 凍弥 「とんずらーーっ!!」 逃げ出そう。 教師 「霧波川、居るのか?───こ、こりゃあああっ!!霧波川ぁあっ!!」 凍弥 「人違いです人違いです!センセのヅラの事情なんて知りませんっ!」 教師 「なっ───こ、こらキサマァアアアアッ!!」 耳を塞ぎつつ逃走した。 その途端、教室からはドッと大きな笑い声。 一応荒地に潤いを与えることには成功したようだ。 ───……。 凍弥 「……ウウム、風間め……いつか仕返ししてやる」 ちなみにさっき俺の名前を述べた男は風間雄輝(かざまゆうき)。 ある程度は親しい後輩だ。 サボってた時に知り合った仲なのだが……まさかこんなことになろうとは。 凍弥 「……さて、次の教室へ……」 さて、ほとぼり冷めてから再び一年の階に来た俺ですが……うむ、もう静かになってるな。 さてと……おー、やってるやってる。 毎日お勤めご苦労さん。 凍弥 「じゃなくて朧月だ……えーと……?」 教室の中を見渡す。 ……ああ、空いてる机発見。 ついでに俺も発見された。 少女 「………」 ぼ〜っとした感じの女だ。 どこかボケ者チックです。 整った顔つきに真っ黒な髪。 ……うむ、やはり日本人はこうでなくては。 教師 「メルティア、余所見をするな」 少女 「は、はい、すいません……」 …………。 メルティアって……日本人じゃなかったのか!? ……ああ、ハーフってやつか。 凍弥 「…………ふむ」 メルティアって呼ばれた女の子は、その頼りない目つきで教科書を睨んだ。 だけどどうしても『睨む』というよりは見つめるといった感じだった。 ……見るからに対人が苦手そうなコだな。 ───それに 凍弥 「……人間じゃ、ないな」 朧月の中に居る死神みたいな気配がする。 だっけどこっちのは相当穏やかだ。 ……へー、人外でも学校には通うんだな。 少女 「………」 教科書で顔を隠すようにして、恐る恐る上目遣いで俺を見る少女。 恒例ですが、やってみますか? 1:レッツ・ゴーダッツ 2:ジョニー・ブラボー 3:降霊術 結論:……決められん。 大人しいコを笑わせるのって大変ですよ? 見るからに対人が苦手そうな彼女には生半可な笑いは通用しない。 ……なんかさっきから脳内で与一が、 『目的変わってるぞ』と言っている気がしたが……そんなことは知らん。 凍弥 「………」 グウム……ここはひとつ、オーソドックスににらめっこ形式でいこうか。 あのサクラを一撃の名の下に笑わせた我が究極の顔変形───耐えてみよ! 凍弥 「はぁっ!」 俺は顔をぐにぃっ!と歪ませてみた。 こういうのはバッとやった方がいい。 真顔から瞬間的にやるのがミソだ。 男  「ブハァッ!!」 しかし笑ったのは後ろの男子だった。 ……ぬう、覗き見とはいやらしいヤツめ。 ちなみに少女はというと、怯えた目で俺を見ていた。 凍弥 「………」 笑う人まで居るっていうのに、俺の顔って怖いですか? 凍弥 「仕方ない……鞄の中に隠された道具を披露する日が来たようだな」 俺はさっきから持ちっぱなしだった鞄をズシャリと漁った。 フフフ、笑ってられるのも今の内だぞ後ろの少年。 今に、前に居る少女を笑わせて度肝をぬいてやる。 凍弥 「えと、まずこれだな」 俺はまず紳士のヒゲを取り出してそっと人中に張りつけた。 そして水生ペンで額に『王』と書いて 男  「ぶはっ!」 ……おいおい、まだ笑うところじゃないだろう。 教師 「坂本〜?どうした」 男  「あ、いえっ……ちょっと咳が……!」 ……ふう、バラされずに済んだぞ。 しかし男塾ネタを知ってるとは……中々の昔本好きだな? まあ本当は紳士ヒゲじゃない方がいいんだが、用意出来なかったのだから仕方ない。 少女 「……?」 ……うあ、当然といえば当然だが少女の方はネタが解らないみたいで困惑していた。 ─── …………むう。 アレコレ手を尽くしてみたが、少女は一向に笑わない。 教室の中は肩を震わせながら腹を抑えている人ばかりだというのに。 教師 「どうしたんだお前ら。そろって具合でも悪いのか?」 事情を知らないセンセは困惑している。 少女 「………」 少女にはきょとんとした顔で見られてる。 ……くう、最初から笑ってた少年クンはもう涙まで流しているというのに。 俺にはまだ芸人魂が足らないというのか? 凍弥 「……いや、俺芸人じゃないし」 うん、考えてみれば恥ずかしいことをしてしまった。 ここはひとつ、諦めて次行くか。 溜め息ひとつ吐いて、俺はその教室を 教師 「……ん?廊下に誰か居るのか?」 ぐあっ、生徒どもの視線が俺に送られていることにセンセが気づきやがった! それから間も無くがらぁっという音が響いて 教師 「───ぶはっ!な、だ、誰だ貴様!い、今は授業中っ……!!」 ステキなアートが描かれた俺の顔を見た教師が痙攣する。 さらにそれを見た教室内の一年どもが爆笑。 ああ、俺って人気者。 凍弥 「って、そうじゃねぇだろっ!!」 教師 「こ、こらキミッ!学年と名前を」 凍弥 「とんずらーーっ!!」 教師 「あ、こら!待ちたまえ!」 最近逃げてばっかりだなぁとか思いながら、俺は全力疾走した。 ───。 さて、最後の一年教室です。 まったく、あの教師もしつこいったらない。 凍弥 「……はぁ」 俺は落ち込んでいた。 何故って、俺の顔にはまだステキなアートが施されているからだ。 なにせ、水生ペンだと思っていたものが油性ペンだったのだ。 ……泣けてくる。 凍弥 「しかしここまで来て引き下がるわけにもいかんし……」 仕方なく、最後の教室を覗こうとしているわけですよ。 こう、バレないように細心の注意を払って、窓の端からズゴゴゴゴ……と 女  「キャーッ!?」 ぐあっ!? 教師 「な、なんだ細井!どうした!?」 俺に気づいた女生徒が悲鳴をあげた。 どうやらゆっくり顔を覗かせたのが逆効果だったらしい。 教師側のドアの近くだから教師から俺の立っている部分は見えんが…… 逆を言えば生徒からは丸見えだ。 視線が俺に集中した途端、男子の大半が大笑いを始めた。 ……なんか俺、滅茶苦茶泣きたくなってきましたよ? 出会いがしらに大笑いされるのって結構傷つきますね。 ま、まあ調べるなら今だ。 何気に女子達も笑い始めてるが、そんなものは無視だ。 朧月は───あ、居た。 呆然とした顔で俺を見てます。 教師 「誰だぁっ!」 がらぁっ! 教室のドアが開け放たれた。 凍弥 「キャーッ!?」 教師 「ギャーッ!?」 そして同じに絶叫。 朧月を発見した微々たる喜びの隙をつかれて、心底驚いた。 教師の方は本気でただ驚いただけだろう。 凍弥 「とんずらーーっ!!」 教師 「逃すかーっ!!」 凍弥 「なにぃ!?」 教師がフットボールタックルを仕掛けてきた。 おお、最近の国語教師はこんなことまで体得しているのかっ……! って、だからそうじゃなくて! ───う。 凍弥 「へっ……へぇえっ……くしょおおぃっ!!」 教師 「ぐあああっ!!」 あ、教師にナメクジが。 いや、これこそ好機! 凍弥 「とんずらーっ!!」 教師 「こ、こらっ!待ちなさいっ!」 当然無視。 俺は一度朧月を見て、その傍に居た浅美に苦笑を送った。 すると浅美はクスクスと笑って、最後に手を振るのだった。 ───……それは、仕方なく屋上で休んでいる時だった。 ぴんぽんぱんぽーん。 『2年の霧波川凍弥。職員室まで来なさい』 凍弥 「思いっきりバレてるーっ!!」 連行の放送を耳にした俺は叫んでいた。 ……ま、まあ風間が思いっきりバラしてたし……仕方ないよな。 はーぁ……ここで逃げても目をつけられるだけだし……。 俺は監視の無い平穏生活が欲しいのよ。 だからそれは困る。 凍弥 「しゃーない、行くか」 ぶつくさ言いながら、俺は職員室を目指した。 ───で、職員室で申し渡された処罰は『翌日の反省テストを受けること』だった。 Next Menu back