不思議だと感じたのはいつだったか。 どうしてか自分に喪失感を感じた。 何を失ったのかは解らないのだけれど、その喪失感は確かにあった。 だけど不思議というのはそれだけではなく。 ひとりの時にあった死神の鼓動による発作が出なくなっていた。 ……でも。 わたしはそれを油断と受け取って、人に近づくことをやめた。 だって、いまさら傍に居る人なんて必要ない。 いままでだってこうやって生きてきたのだから。 だけど彼がわたしに言いたかったこと。 それが、いつまでも胸に焼き付いて消えてくれなかった。 ……いつまでも……いつまでも。 ───なにも知らない少女───
─── 佐藤 「よぅ来たなぁおどれら」 皆様が休みなのに学校に来るという理不尽な状況。 そんな学校の中で、ヤツが待っていた。 凍弥 「………」 志摩 『………』 俺と志摩兄弟は席へ座り、準備を万端にさせた。 佐藤 「さて、貴様らに言うことがある」 志摩 『御託はいい。我らはテストをしに来たのだ』 佐藤 「ぐ……」 佐藤がしぶしぶと用紙を配ってゆく。 ───いざ!……って 佐藤 「どうだ?難しいじゃろ。まあせいぜい無い頭を絞ってみるんやな」 …………。 ……。 ウハァ、簡単すぎ。 無い頭使いすぎて裏かきすぎたのか。 ……馬鹿だ。 まあこれならあいつらも 浩介 「ウオオオオーーッ!なんて難しいんだぁーーーっ!!」 浩之 「わ、解らぬわこんなもーーーん!!」 ……オイ。 佐藤 「ははははは!そうじゃろそうじゃろ!せいぜい苦しむがええわぁっ!」 凍弥 「───終わったけど」 佐藤 「なにぃ!?」 さっさと答えを並べた用紙を佐藤に突き出す。 佐藤 「は……ははーん?解らないから適当に埋めたんだろう。     待ってろ!今貴様の裏をあばいたるで!」 そう言って答案との照らし合わせをする佐藤。 言葉の割に、ひどく情けない。 ───さて、それから十数分後。 佐藤 「んな馬鹿な!ワシが苦労して作った問題が……満点じゃとぉっ!?」 ……はぁ。 ひとりの答え合わせに何分かかってんだよ。 凍弥 「そんじゃ、俺は帰らせてもらうよ。……いいよな?」 佐藤 「ぐっ……ええじゃろ……」 凍弥 「……はぁ」 俺は溜め息を吐いて教室を出た。 声  『我らも終わったぞーーっ!』 声  「嘘つけ!」 声  『なにぃ!?ならば活目せよ!』 声  「…………た、確かに埋まっている……!?」 声  『……せいぜい長い時間をかけて照らし合わせをするがいい。それではな』 ……がらららっ。 ドアを開けて、志摩兄弟が出てきた。 浩介 「む?なんだ、帰ってなかったのか盟友」 凍弥 「ああ。出た途端に『我らも終わったぞー』だろ?気になってな」 浩介 「そうかそうか。それでは」 声  「あぁーーーっ!?なんじゃあこりゃあ!全部間違えとるじゃねぇかぁっ!」 ───そして聞こえる声。 って、全部間違い 浩介 「しまったバレた!」 浩之 「どうするブラザー!」 浩介 「どうする!?決まっている!」 彼らは構えた。 そしてやがて教室のドアに向き合い─── 志摩 『とんずらーーーっ!!』 逃げ出した。 向き合う意味ねぇじゃん! とか思っていた途端、ぐわらぁっ!とドアが開いた。 佐藤 「待てや志摩ぁーーっ!!おどれらもう一度やり直しじゃーっ!!」 で、逃げる志摩兄弟を追う佐藤。 ガニマタに似た格好で走る佐藤は無様だった。 でも早い。 さすが体力バカ。 だが。 浩介 「まきびしっ!!」 じゃららっ!ドシュッ。 佐藤 「ぎゃあああーーーーーーっ!!!!」 凄まじい速さで志摩兄弟を追った佐藤が、浩介がバラ撒いたまきびしを見事に踏んだ。 校内なのにサンダルなんぞ履いてるからだ。 だがそこまでバカじゃないのか、サンダルを脱ぎ捨ててその一歩をズリャアッ!! 佐藤 「ハッ───!?」 ゴコォンッ! 佐藤 「ごっ!」 ……ガクリ。 あ、オチた。 浩之 「YEAHーーーーーッ!!バナナの皮最強ーーーッ!!」 ……そう、佐藤はバナナの皮で滑って後頭部を激打して気絶したのだ。 志摩兄弟はそれを見て歓喜乱舞している。 ……帰ろうか。 浩介 「こーのボケェ!カスイモサルタコトーヘンボク!!」 浩之 「貴様なんぞ筋肉がなけりゃただのアホだこのハゲ!」 浩介 「やーいタコタコタコタコ!馬鹿マッスル!シャイニングシャンポリオン!」 浩之 「心は醜いのにどうして頭はそんなに美しく輝いてるんでしょうねぇこのハゲは!     寺にでも行って心を清めて出直してこいこのハゲ!!」 凍弥 「……お前らさぁ……」 ……あ、いいや……。 相手してたら疲れる……。 佐藤が気絶しているのをいいことに、 好き勝手言いまくっているふたりを無視して歩きだした……。 ─── 浩介 「ふーむ、久しぶりにスッキリしたぞ。     やはり普段言えぬことを言うのは、すべからくいいものだ」 凍弥 「……そーかもなー……」 浩之 「さて、あとは椛の待つ鈴訊庵に戻るのみ!」 凍弥 「……そーかもなー……」 浩介 「どうしたというのだ同志。貴様からは覇気が感じられぬぞ」 凍弥 「……いや、疲れてるだけだから。それより……待ってるのか?」 浩介 「む?なにがだ?」 質問の意図が読めないのか、訊きかえしてくる浩介。 凍弥 「朧月だよ朧月。もう帰ったかもしれないだろ?」 浩介 「グ、グウム……!なにを夢の無いことをっ……!」 凍弥 「いや、グウムじゃなくてさ。一般論として」 浩之 「いいや、居るに決まっている。一般論などどうでもよいわ」 凍弥 「そ、そうか。でもさ、お前らも知ってるだろ?     朧月って人との係わり合い持つのが嫌みたいだし」 浩介 「ム……それは確かにそうだが」 浩之 「ならば同志よ。何故鈴訊庵に運んできたのだ?」 凍弥 「家が解らなかった」 浩介 「いや、そもそも昨夜、何があったというのだ」 凍弥 「言っても信じられないよ、きっと」 ……そう。 あんな出来事は無茶苦茶すぎる。 人に話したところで変に思われるか、認識が変わってしまうかのどちらかだ。 浩介 「───なにを馬鹿な。信じるに決まっているだろう」 凍弥 「え?」 浩之 「盟友にしては酷い愚問だな。     ふざける時はふざけるが、     真面目な時はとことん真面目が我らのモットーだろう」 凍弥 「………」 そっか。 こいつらってこういうヤツらだったっけ。 ……でも。 凍弥 「……悪い。話の流れを作るような言い方したけど、     これは朧月の問題だから俺がベラベラ喋るわけにはいかないんだ」 浩介 「…………そうか」 浩之 「それならば仕方あるまい。深い詮索はよすとしよう」 凍弥 「悪い」 浩介 「なに、気にするな。     考えてみれば人の物事にズカズカと首を突っ込むのは趣味ではない」 浩之 「そうだな。それよりも今は鈴訊庵に戻り、椛の存在を確認しようではないか」 浩介 「応ッ!そうと決まれば神よりも速くダッシュぞ!」 浩之 「オンユアマーク!!」 浩介 「ゲェエエエットセット!!」 浩之 「レディ……───」 浩介 「剛ォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」 バッ!ズドドドドドドドドドド───ドカァアアアンッ!! 志摩 『ぐおーーっ!!』 クラウヂングスタートをした志摩兄弟が道行く自転車青年に熱烈なタックルをした。 その勢いは凄まじく、搭乗者がバキベキゴロゴロズシャーと転がり滑っていくほどだ。 …………後、当然の如く放置。 彼らは走り去っていった。 ええ、もちろん俺も無視して逃げました。 ─── さて、鈴訊庵まで脱兎の如く逃げてきた俺達だが、 そこに待っていた者は───サクラだった。 サクラ「凍弥さんっ!」 凍弥 「うわっ!?ちょ、ちょっと待て……!     息切れ治ってから……聞いてやるから……!」 浩介 「グ、グム……ウ……わざわざここまで……激走する必要など……なかったか……」 浩之 「……ゔ」(ゴポリ) あの日と同じように顔を変色させる浩之。 凍弥 「わぁ馬鹿!吐くなよ!?」 浩之 「そうは言っても……我、もう限界……」 凍弥 「吐くなら便所で吐け!ほれ行け!」 浩之 「お、おう!───ゔ」(ゴポッ!) …………浩之が途中で何度も立ち止りながら鈴訊庵に消えていった。 俺達はハラハラしながらそれを見送り、ひとまずは安堵。 凍弥 「……ふう。で?どうしたんだ?」 サクラ「あのですね。まだあの娘が居るんですけど」 凍弥 「あの娘?」 浩介 「椛のことか?」 サクラ「名前までは知りませんよ。     とにかく凍弥さんが昨日連れてきた娘が居るんですけど、     ちょっと気になることがありまして」 凍弥 「気になること?」 浩介 「もったいつけてないでとっとと言うのだ赤裸々撲殺乙女」 サクラ「───」 ギリ、とストレインが音を鳴ら 浩介 「ゴメンナサイ」 浩介が即答で謝った。 サクラ「もったいつけてる気なんてありません。     貴方がたが好き勝手に言葉を割り込ませてるんじゃないですか」 凍弥 「解ったからさっさと話せ。それこそ話が進まないだろ」 サクラ「…………解りました」 俺の言葉に少し俯き気味に応えるサクラ。 だが顔をあげ、俺の目を見て言った。 サクラ「あの娘が今朝、目を覚ましてからのことを訊きたかったんです。     あの娘、わたしの部屋で寝かせていたんですけど……     目を覚ましたらキョロキョロと辺りを見渡してるんです。     わたしが『どうしかしたんですか』って訊いたらビクッ、て驚いて……     その後に言うんですよ?男の人、知りませんかって。     ───これ、どういう意味ですか?」 凍弥 「どういう意味って……寝惚けてたんじゃないか?」 サクラ「そんな風には見えませんでした。……男の人って凍弥さんですよね?     目覚めて一番に気にかけられるってどういうことでしょうか」 浩介 「……うむ。我も気になるぞ」 凍弥 「いや……」 ふたりの目が俺に向けられる。 でもなぁ、俺って朧月に嫌われてたし…… 凍弥 「待てって。その『男の人』ってのが俺だと決まったわけじゃないだろ?」 サクラ「それじゃあ昨日ここに戻ってくる前、他に男の人が居たんですか?」 凍弥 「───……居た」 ……うん、居た。 でもあの時は朧月は気を失ってて……だから知るわけがない。 ってことは俺なのか? サクラ「居たんですか……」 凍弥 「あ、ああ。でもとにかく朧月に会ってみよう。そうすれば解るだろ」 浩介 「そうだな」 話はひとまずのところ中断させ、俺達は鈴訊庵の中に入 声  「きゃーっ!!」 ───……? 凍弥 「悲鳴!?」 浩介 「発生源は!?」 サクラ「トイレからです!」 目的が急に変更。 俺達は共用トイレへ急行しドガシャアアアアン!! 浩之 「ラブリィイイイイッ!!」 ごしゃっ!ごしゃっ!ゴロゴロ……ドサ。 トイレへ向かおうとした途端、浩之がそこから吹っ飛んできた。 で、ピクピクと痙攣している。 よほどの一撃だったんだろう。 ───で、今この鈴訊庵に居る者でそこまでの拳を繰り出せるのは─── 浩介 「おのれ何奴……!我がブラザーに代わって成敗してくれるわ……!」 凍弥 「待て待て、やめろ浩介。そんなことしたらお前もこうなるぞ」 浩介 「なにを言うか同志!我が素手喧嘩に負けるとでもいうのか!?」 凍弥 「悪いことは言わん。やめとけ」 浩介 「何故だ!?今の我は準備運動も万全の状態だぞ!     よほどの者が相手ではない限り敗北はありえぬのだぞ!」 凍弥 「お前じゃ殴ることも出来ないって」 浩介 「馬鹿な!我の命中率は相当なのだぞ!?」 凍弥 「だ、だから……当たるとかじゃなくて『お前じゃ殴れない』って言ってんの」 浩介 「ぬ……?それはどういう」 ガチャッ。 浩介 「ム!?」 お手洗いのドアの開く音に浩介が反応する。 が、そこから出てきたのは─── 椛  「………」 顔を真っ赤にした、涙目の朧月だった。 浩介 「な───」 浩介、呆然。 凍弥 「だから言っただろ?お前じゃ殴れないって」 浩介 「……然り」 俺と浩介が溜め息を吐いたのはほぼ同時だった。 ───。 凍弥 「と、ゆうわけで。こちらが朧月椛さん」 サクラ「………」 遥一郎「ふむ」 それぞれが思い思いに客席に腰を降ろす中、俺はサクラと与一に朧月を紹介した。 サクラはじぃ〜っと朧月を睨むように見ていて、 与一はただ頷いただけで、これといったリアクションはなかった。 浩介 「そして我が志摩浩介ぞ」 浩之 「その弟の吐いて殴られ床を滑ったステキなナイスガイ、志摩浩之ぞ」 ムン、と胸を張る浩之。 威張るな、そんなもん。 サクラ「……どうして貴方がたが自己紹介するんですか」 志摩 『まったくのノリである!!』 サクラ「…………はぁ」 ……あ、サクラが呆れてる。 凍弥 「まあ折角だし改めて自己紹介してみるか。     俺は霧波川凍弥。人や霊の『気配』が読めたり見えたり出来るだけの不良男だ」 遥一郎「俺は穂岸遥一郎。とある場所にある桜の木の具現体だ」 サクラ「……わたしはサイファー=クレイ=ランティス。天上界の住人です」 …………。 凍弥 「朧月?」 椛  「………あ、あの……朧月、椛です……」 …………。 浩介 「ぬお?それだけ?」 椛  「え?あの……」 浩之 「ブラザー、あまり詮索するのは嫌われる要因となるぞ」 浩介 「解っているが……よし、この質問を最後にしよう」 凍弥 「最後もなにも、質問自体してねぇだろ」 浩介 「茶化すな同志」 茶化した憶えは微塵もない。 浩之 「で、何を訊くと?」 浩介 「う、うむ……スリーサイズは!?」 浩之 「修正ィイイイイイッ!!」 ボグシャア! 浩介 「ラブリィイイッ!!」 ───どしゃっ。 浩介が力尽きた。 凍弥 「……なに変態チックなこと訊いてんだよ馬鹿……」 浩介 「そこはそれ、好きな者の全てを知りたい欲というものだ」 復活早いって。 椛  「ごめんなさい、わたし……あなたがたのこと、苦手です……」 浩之 「あなた───がた!?」 浩之はそれはそれはショッキングな顔をしました。 浩介も相当ショックだったようで、床に体を預けるようにして撃沈している。 だがそんな志摩兄弟は置いておくとして。 凍弥 「なあ朧月。もう大丈夫なのか?」 俺は昨日のことを訊こうと思った。 椛  「なにが……ですか?」 朧月は相変わらず人嫌いフィールドを展開している。 まあ相変わらずってのは悪いことじゃないよな。 凍弥 「……死神のこと」 椛  「あ……はい。昨日はいつの間にか引っ込んでくれたみたいで……」 凍弥 「いつの……間にか?」 椛  「え?……なにか?」 凍弥 「………」 憶えてないのか? あ……いや、考えてみれば朧月はあの時、気を失っていたんだ。 憶えるなんて以前の問題だ。 凍弥 「……憶えてないのか」 椛  「……?それってどういう───あ……」 凍弥 「うん?」 朧月が何かを思い出したようにハッとした。 椛  「そう───そうだ……!わたし、貴方を鎌で───!」 凍弥 「……憶えてるのか?」 椛  「ごめんなさいっ!わたしっ……わたしっ……!」 朧月が立ち上がって俺に頭を下げた。 そんな様子を周りのみんなは何事かと見てきた。 凍弥 「い、いいって!死んだわけじゃないんだから!」 椛  「でも……傷つけたことには変わりはありませんっ……!」 凍弥 「……あぁもー……どう言えば解ってもらえるんだ……?」 思考を凝らす。 だが何も浮かばない。 ……どうしたものか。 浩介 「なんの話なのだ?椛が盟友をカマ?」 凍弥 「あ、いや……」 しまった。 こんなところでする話じゃなかった。 どうしよう。 浩之 「……ふむ、なるほど」 凍弥 「っ……!」 浩之 「つまり盟友はホモだったのか」 ドゴボギャアァアアアアッ!!! 浩之 「ラブリィイイッ!!」 問答無用で放った拳が浩之を大地に沈めた。 凍弥 「俺はノーマルだっ……!」 痙攣する浩之にそう吐き捨てると、俺は席に着いた。 浩介 「……どういうことなのだ同志。聞けば、椛が鎌でお前を襲ったようなことを」 凍弥 「あ、いや……それは……だからなっ?」 浩介 「なんだというのだ」 凍弥 「えっと……」 どう話せばいいんだ? 志摩兄弟は真剣な時は嘘を見破る特技みたいなものがあるし……って、 俺が顔に出やすいだけか? ……くうう、どうすりゃいいんだ……!? 椛  「───わたしが話します」 ……そう悩んでいた時、朧月がキリっとした表情で言った。 浩介 「椛?」 凍弥 「お、おい朧月っ!ちょっと……!」 椛  「……構いません。いつかは話さなければならないことです……。     それに、こうした方がみなさんも距離を取ってくれるでしょう……?」 凍弥 「そんな……あ、でもな、朧月。お前の中の死神はもう───」 消えたんだ。 そう言おうとした。 椛  「黙っててください……」 だが、その言葉に遮られると喋る気も消えた。 凍弥 「……わかったよ、勝手にしろ」 俺はぶっきらぼうにそう答えると、客席の椅子に腰を預けた。 ─── ───やがて朧月の話が終わる頃。 みんなは驚きを隠せない表情で朧月を見ていた。 浩介 「椛が……死神?」 椛  「いえ……正しく言えば『血』の中に死神が宿っているんです」 浩之 「その死神ってやつが昨日暴走して?」 遥一郎「凍弥を襲った、か……」 信じられない、といった感じのみんな。 浩介 「つまりその死神は、     椛と仲良くなりそうになると出てきてその人物を殺す、と。そういうことか?」 椛  「…………はい」 志摩 『そげなぁああーーーっ!!』 浩之が号泣しながら床を転げ回る。 志摩 『だ、だから椛は我らが話し掛けても素っ気無かったのかぁーーっ!!』 椛  「いえ……元々あなたがたはあまり好きではありませんでした」 志摩 『!!』 あ、今確かに『グサッ』て音が聞こえた。 ……哀れだ。 サクラ「……あの、それじゃあ今もあなたの中にはその死神が?」 志摩兄弟をまったく無視して話を進めるサクラ。 ……ひでぇ。 でも俺が同じ立場だったら絶対そうするだろうからこの場は賞賛。 椛  「……はい。だからみなさん、お願いです。わたしに……構わないでください」 朧月が俯きながらそう言った。 その言葉は酷く重くて、普通だったらきっと頷いてた。 でも─── 凍弥 「断る」 椛  「えっ!?」 サクラ「凍弥さんっ!?」 遥一郎「………」 志摩 『話を聞いていたのか同志!貴様殺されかけて尚、馬鹿をする気か!?     そんなことをされて悲しむのは椛なのだぞ!』 凍弥 「お前らこそ馬鹿言うな」 志摩 『なにぃ!?どこがおかしいというのだ!どこもおかしくないぞ!』 凍弥 「……だったら訊くぞ。確かに朧月に近寄らなければ死神は出てこない。     だけど、朧月が少しでも寂しいとか苦しいとか、     そんな『不』の感情を抱けば死神の自我が強くなって、     朧月の人格が乗っ取られるだけだぞ。     その間に受けた孤独の寂しさは相当なものだと思う。     ……お前らさ、朧月がひとりぼっちになってても見過ごせるか?」 志摩 『出来るわけなかろうが!!』 凍弥 「……はぁ。解ってるじゃないか」 志摩 『ぬ!?……なにぃ!?』 凍弥 「……あのさ。いくら朧月がなんて言おうと、     お前らが朧月をひとりにするだなんて思ってないよ。     だから、自分を抑えてものを言うのはやめろよ」 浩介 「……ぬ」 浩之 「グムウ……」 志摩兄弟は複雑そうな顔をして俯いた。 遥一郎「だけどさ、どうなんだ?お前が断るとか言った意味がよく解らないんだが。     孤独が原因で死神の自我が強くなるということは知っている。     だが、お前はあまり女が好きじゃないだろう」 凍弥 「ああ、そうだな。でも約束したからな。どんなことがあっても見捨てないよ」 遥一郎「……約束?」 凍弥 「秘密だ」 遥一郎「ふむ……」 与一も志摩兄弟のように複雑な表情で俯いた。 そんな中。 サクラ「あの……」 凍弥 「どした?」 サクラ「……なんかさっきの話を聞いている限りでは……     なにやら凍弥さんが朧月さんに告白しているように聞こえたんですが……」 椛  「っ!」 志摩 『なっ!!』 遥一郎「……おお」 ポム。 与一が手を合わせて頷いた。 凍弥 「って、アホかお前はっ!!そんなわけないだろが!!」 サクラ「で、ですが」 志摩 『どういうことだ同志!今すぐ説明しろ同志!!』 凍弥 「あ、だ、だからっ!俺は朧月に告白なんかしてないって言ってるんだ!!」 浩介 「ほう?ならばそれをどう説明する」 凍弥 「説明しただろ。馬鹿かお前は」 浩介 「うおう、言われてみれば」 解決した。 浩介 「考えてみれば将来『ひとりでまったりと暮らす』という夢をもっている同志が、     誰かに告白するなど有り得ぬことだったな」 浩之 「フッ、寂しい奴め」 凍弥 「理解してくれたのは嬉しいが……ハッ倒すぞこの野郎」 浩之 「いつもの冗談だ、気にするな」 凍弥 「……はぁ」 ったく、どうしてこんな話に…… 凍弥 「サクラ、言葉には気をつけてくれ……。こいつら説得するのって疲れる」 サクラ「すいません……」 遥一郎「まあまあ。誤解を招く言い方をして、しかも秘密にしたお前も悪いんだぞ?」 凍弥 「言えないんだから仕方ないだろ。どうすることも出来ない」 遥一郎「本当に言えないことなのか?」 凍弥 「……今は」 遥一郎「……そうか。だったら深い詮索はしないよ。言いたい時に言え」 凍弥 「与一……」 与一のこういうところって嫌いじゃないよな。 なんだか落ち着くし。 凍弥 「さて、それじゃあそろそろ」 ボーン……ボーン…… 凍弥 「お?」 声を出そうとしたら、突然の時計の音。 古い型なので、ボーンと鳴るステキなノッポの時計だ。 凍弥 「……丁度いいや。そろそろお開きにしようか」 遥一郎「そうだな。早朝から話してて腹が減っただろ」 志摩 『オイース!!』 凍弥 「俺はパン食って行ったからそれほどでもないけど」 遥一郎「お前はもうちょっと食った方がいいぞ。今作ってやるから」 サクラ「あ、それじゃあわたしもお手伝いしま」 志摩&凍弥『大人しくしとれボケ者ッ!!』 サクラ「な、なんでですか〜……」 俺と志摩兄弟から同時に咆哮を受けたサクラが怯んだ。 遥一郎「朧月さん、だったな。キミも食べていくといい」 椛  「なっ……なにを考えているんですか……?     さっきも言ったでしょう……わたしに構わないでください、と……」 凍弥 「あ、それのことなんだが……朧月、ちょっといいか?」 椛  「え?」 俺は朧月に声をかけて、外を指差した。 椛  「話すことなんて……ありません」 凍弥 「俺があるから。多分、聞いておかないと後悔することになる。     ちなみに……うん、これ一度きりしか言う気ないから。     来なかったらずっと言わない。与一の料理が出来る頃までは待つから」 椛  「え……?」 朧月は怪訝そうな顔をした。 俺はそんな朧月を見てから、そのまま外に向かって歩き出した。 聞きに来るかどうかは本人次第だ。 これで来なかったら……俺はもう、二度と彼の話はしない。 朧月が望んでも、だ。 さてと、待つとしてもどのくらいになるかな? おっさんの料理は手が込んでて時間かかるから……30分くらいか。 それ以降は知らん。 Next Menu back