───後悔先立たず───
───……。 何分経ったかは知らんが、朧月は来なかった。 ……まあ、人を避けてるんだからこれが彼女にとっての最善の方法なんだろう。 でも……ずっとああやって人を避ける気だろうか。 死神が消えたことも知らずに。 …………。 ─── ……ふむ。 凍弥 「来ないな」 佐古田「誰がッス?」 凍弥 「うおっ!?さ、佐古田……?」 何故こんなところに。 佐古田「ふっふっふ、何故こんなところにって激顔ッスね霧波川凍弥」 凍弥 「名指しで呼ぶな。何の用だ」 佐古田「いやいや、実際激フツーに通りかかっただけなんじゃよ。     ちょっとした散歩コースの激変更だったわけじゃよ。     それがどういうわけか激帰れなくなってのう。     そこの若いの、ワシを家まで激連れていってくれんじゃろうか」 凍弥 「断固拒否する」 佐古田「うわ、激冷たいッスねぇ。人が折角老人の真似ごとまでしてやったっていうのに」 凍弥 「うるせぇ、凍え死ね」 佐古田「おお、流石は『凍弥』。人に凍え死ねなんて激冷たいヤツッスねぇ」 凍弥 「名前は関係ないだろ。いいから帰れよ」 佐古田「……激解ったッス。って言いたいところッスが、     帰りの電車賃が激無いッス。霧波川凍弥、貸してくれないッス?」 凍弥 「……それで帰るんだろうな」 佐古田「激モチのロンッス。日本語が理解出来るならさっさとよこすッス」 凍弥 「お前こそ日本語理解出来るなら礼儀くらい憶えておけ」 佐古田「激口の減らないヤツッスね」 凍弥 「うるせぇ、その言葉そっくりお前に返してやる」 佐古田「ンなもん激要らないから激金よこすッス」 凍弥 「ゲキゲキ五月蠅いよ……ったく。500で足りるか?」 佐古田「激シケてやがるッスね……万券くらいバッと出せないッス?」 凍弥 「ブチのめすぞこの野郎」 佐古田「野郎じゃないッスよ。まあいいッス、それで激勘弁してやるッス」 凍弥 「……いーからとっとと視界から消えやがれ。目障りだ」 佐古田「うひゃー、お言葉ッスねー。でもいいッス。上機嫌だから勘弁してやるッス。     そんじゃアディオスッス〜!汝は今、とっても善人ッスよー。     今度お返しにステキなプレゼントあげるから覚悟しとくッスー!」 凍弥 「返さんでいいからとっとと行かんかーっ!」 佐古田「そんじゃアデューッスー!」 佐古田がニヤリと微笑んでダッシュで逃げた。 凍弥 「ったく、家はそう遠くないのにどうしてわざわざ……」 ん? 凍弥 「───って、そうじゃん!あいつの家って電車乗る必要もねぇじゃねぇか!」 しまった騙された! 凍弥 「こんガキャーーーーッ!!」 人の親切を利用しやがって!私刑決定!! ズドドドドドド…… 佐古田「ハッ!?な、なにッス!?何か忘れ物ッス!?」 凍弥 「いやー、500じゃ足りないだろうからプラスしようと思ってさー!」 佐古田「マ、マジッス!?」 佐古田が立ち止って、少女漫画のようにバックに花を咲かせながら駆け寄ってきた。 そこで俺は 1:ホントにお金を渡す 2:タイガースピン⇒スピニングトゥホールド⇒STF⇒変則ロメロスペシャル 3:さながらに、少女漫画チックに返す 4:気色悪かったので引く 5:ポセイドンウェーブ 結論:5 凍弥 「ポセイドンウェーィ!!」 佐古田「え」 ガボンッ! 佐古田「ふぎゃっ!」 綺麗な音が鳴った。 しかし構わず尋問。 凍弥 「500円返せ!お前の家ってそう遠くないだろうが!」 佐古田「ゲフッ……げ、激遠くなったッス……」 凍弥 「───そうかそうか。次はダイダロスアタックをくらいたいのか」 佐古田「じょ、冗談ッスよ冗談。金はこの通り激返すッス……」 凍弥 「……よし、お前ももう帰れ」 佐古田「うう……オンナノコにラリアットするヤツ初めて見たッス……」 凍弥 「嘘ついて自分の利益を増やすヤツには厳しいぞ俺は」 佐古田「身をもって激知ったッス……」 だろうな。 凍弥 「あんまり怒らせるようなことしないでくれよな。     俺、女に手をあげる趣味ないんだから」 佐古田「あー、そういえば霧波川凍弥が女の子に手をあげたのって初めて見たッス。     ワシが初めてッス?」 凍弥 「……いや、そういうわけでもない」 佐古田「専属の殴打相手が居るッス?」 凍弥 「そういう言いかたはやめぃ」 佐古田「ラジャーッス。でもさ、実際はどうなんッス?」 凍弥 「……答える義務は無い」 佐古田「あっ!あたたたぁ〜……!」 凍弥 「拳法の真似ごとか?似合わんからやめとけ」 佐古田「そうでなくて!凍弥にラリアットされた部分が激痛むなぁ〜って」 凍弥 「そうか。医者ならそう遠くないぞ」 佐古田「そうでなくて!」 凍弥 「言いたいことがあるならハッキリ言え。待っててやるから」 佐古田「…………妙なところで激気が利くヤツッス。でも違うッスよ。     ようするに、女の子にラリアットかましたんだから義務を作ってほしいッス」 ……む? 凍弥 「つまり話せってことか?」 佐古田「うむッス」 凍弥 「…………はぁ」 確かにな。 ノリとはいえ、女の子に手をあげたのは究極の失態だ。 凍弥 「……あのな。俺が鈴訊庵で暮らしてるのは知ってるな?」 佐古田「激モチのロンッス」 凍弥 「そこには俺の他に男女がひとりずつ居るんだ」 佐古田「ふむふむ」 凍弥 「その女ってのが凄まじいほどにお節介でな」 佐古田「霧波川凍弥よりもッス?」 凍弥 「ああ。間違い無く俺よりもだ。しかもうるせぇんだ、こいつが」 佐古田「ふむふむ」 凍弥 「で。軽くチョップで叩くと黙るわけだ。だから仕方なく」 佐古田「ははぁ……そうなんッスか」 凍弥 「実際苦労してるぞ?あれがどうしたこれがどうしたってやかましいんだから。     ……俺が朝早いの知ってるだろ?」 佐古田「周知ッス」 凍弥 「それもこれも、朝そいつと遭遇しないために無理に早起きしてるわけだよ」 佐古田「うあっ……霧波川凍弥が避けるなんて相当ッスね……」 凍弥 「解ってくれるか佐古田よ……」 佐古田「さっぱり解らないッス」 凍弥 「オイ」 手の平を返したようにすっとぼける佐古田にズビシと空ツッコミを入れた。 佐古田「激冗談ッス。霧波川凍弥が苦労してることはよく解ったッス」 凍弥 「へぇ、信じるのか」 佐古田「霧波川凍弥は嘘がヘタッスからね。今のは間違い無く本音ッス。文部省認定」 凍弥 「勝手に文部省引っ張るなよ」 呆れながらも苦笑する。 佐古田もニシシシと、およそ女らしくない笑みをこぼして手を振った。 佐古田「暇になったらまた来るッスー!激あでおーす!!」 凍弥 「余所見すんなー!コケるぞー!」 佐古田「宅の好恵はそんなに激ドジじゃないざますーっ!!」 佐古田がぶんぶんと手を振りながら走ってゆゴコォン!! 佐古田「はごっ!……ごぉおおおお……!!」 ……コケはしなかったが、見事に電柱に衝突していた。 それも頭から。 凍弥 「お大事になー!」 佐古田「激余計なお世話ッスー!!」 佐古田に軽く手を振りながらその場を去った。 まったく……相変わらずの激女だった。 どうしてわざわざ『激』をつけるんだかが解らん。 凍弥 「………」 ……で、その場から遠目に見える鈴訊庵を見てみたが、朧月は居ない。 凍弥 「……やれやれ」 俺は溜め息を吐きながら鈴訊庵の前に辿り着き、その場でぼ〜っとした。 ───…… …… ………………。 凍弥 「来ないな」 もう15分は経っただろうか。 しかしぼ〜っと立ってるだけってのも暇だな。 だけど佐古田は佐古田で疲れるし。 愉快なのは認めるが。 と、そんな時。 声  「センパ〜イ!!」 凍弥 「ん?」 どっからか聞こえる声。 ふとアスファルトを歩くアリを見ていた視線を持ち上げると、 その先にはこちらに走ってくる風間雄輝の姿が。 風間 「オス先輩!今日もいい天気ですね!」 凍弥 「……なんの用だ」 風間 「いえいえ、用ってほどのものじゃないッス!     ただ朝練の体力造りでご町内を走らされてるんですがね?     ルートにここがあったから挨拶に!」 凍弥 「へぇ……休んでていいのか?」 風間 「差、つけてきましたから」 凍弥 「………」 足の速さとスタミナは相変わらずか。 凍弥 「……んー……あ、そうだ。お前に訊きたいことがあるんだが」 風間 「え?センパイがッスカ!?な、なんです!?」 凍弥 「いや、簡単なことだからあんまり熱くなるな。     えっとさ。お前って彼女とか居るのか?」 風間 「……はい?か、彼女スカ?」 凍弥 「ああ」 風間 「いや……居ないスけど」 凍弥 「……ふむ。お前って顔もいいし元気だし気が利くし、     モテるタイプだと思うんだけどなぁ」 風間 「ははは、そんなことないスよ。俺なんてセンパイに比べれば」 凍弥 「センパイ?誰だそれ。そんないい男、ウチのガッコに居たっけ」 風間 「へ?またまたぁ〜、何言ってんスかセンパイ。センパイのことッスよ」 凍弥 「……俺?」 風間 「……自覚無いんスか?」 凍弥 「んー……お前にいい言葉を教えてやろう」 風間 「はいっ!なんスか!?」 ハウハウと犬のように目を輝かせる風間。 凍弥 「……寝言は寝て言え」 風間 「…………へ?」 凍弥 「あのなぁ。俺がそういう男だったら今頃こんな風に突っ立ってると思うか?」 風間 「……いや、マジで自覚無いんスカ?」 凍弥 「自覚もなにも、俺がいい男だってこと自体がマボロシだ」 風間 「ん〜……センパイ、結構誰かの相談とかに乗ってるじゃないッスか。     その時に異様に女子が多いとか無かったスカ?」 凍弥 「いや……どうだっただろうな。自己解決出来る相談事が多かったし、     そういうことを相談しに来るヤツは自分で出来るなら自分でしろって、     そう言って追い返してたし」 風間 「……ちなみにそれはどんな相談だったんスか?」 凍弥 「ん?なんか『好きな人が出来た』とか『好きな人、居ますか?』とか」 風間 「………」 凍弥 「どした?」 風間 「センパイ、それが自覚無いってことッスよ」 凍弥 「へ?何言ってんだ馬鹿。好きな人に『好きな人が出来た』とか言うわけないだろ」 風間 「センパイ……そりゃ近づくための口実ッスよぉ……」 凍弥 「そ、そうなのか?真面目に聞こうとした俺が馬鹿みたいじゃないか。     ったく、俺は真剣に悩みを聞こうとしてたのに……!」 風間 「……呆れるところが違うッス、センパイ」 凍弥 「違わないよ。俺は誰かに感謝されたいから親切してるわけじゃないけど、     そんな動機で『相談したいことが』とか言われて、     本気になった俺はどうなる」 風間 「でも追い返したんでしょ?」 凍弥 「当たり前だ。     人の目も見ずに視線をうろうろと逸らしてばっかのヤツの話なんて聞けるか」 風間 「センパイ……」 風間が心底呆れた顔をした。 ……なんなんだ? 風間 「OK、解りました。センパイには並大抵の女じゃ通用しないわけッスね」 凍弥 「あ、風間待った」 風間 「はい?なんスカ?」 凍弥 「自己解釈してるところ悪いけど、その解釈はいただけない。     俺は女を恋人とかには見れないって、そういう意味だからな。     とびきり美人だとかアイドルだとかいっても、     自分が好きにならなきゃ意味がないだろ?」 風間 「はぁ……つまり自分から好きにならない限りは恋人にはならないと」 凍弥 「普通そうじゃないか?告白されたからって好きになるとも限らないだろ?」 風間 「センパイの頭の中って豊かッスねぇ」 凍弥 「そりゃどういう意味だ」 風間 「あ、いえ、変な意味じゃなくて。……じゃ、女の友達とか居るんですか?」 凍弥 「ああ、一応居るぞ」 ……霊体だけど。 風間 「知り合いって程度の相手は?」 凍弥 「佐古田くらいかな」 風間 「あー、佐古田センパイッスか。あの人愉快ッスよねぇ」 凍弥 「……そうそう、お前のその『ッス』っての聞いてると佐古田を思い出すよ」 風間 「あ……そッスね。ところでセンパイ、話は変わるんスけど」 凍弥 「よく話題が出てくるな。なんだ?」 風間 「年下とかって好きッスか?」 凍弥 「年下?どういう意味だ?」 風間 「やだなー、そのまんまの意味ッスよ。年下の女は好きッスか?」 凍弥 「……ったく。ちゃんと人の話は聞いておけ。     自分が好きにならなきゃそれ以前のタイプだのなんだのは関係ないんだよ」 風間 「ごもっとも。それじゃあ質問の向きを変えますね。     年下でも好きになれると思いますか?」 凍弥 「そりゃそうだろ。好きって気持ちに年齢制限は無いと思うぞ」 ……もっとも、法とかがついて回るだろうけど。 風間 「そりゃ良かったッス!あ、俺の下に妹が居るンスけどね!?     そいつが───ああ、美奈っていうんスけどね。     センパイに会いたいっつぅんスよ!どうでしょうか!」 凍弥 「妹?……で?」 風間 「いや、会いたいって美奈が」 凍弥 「……俺、その娘のこと何も知らんぞ。そんな娘がどうして俺に会いたいって?」 風間 「あ……俺よく美奈にセンパイのこと話してたんスよ。     そしたらどう伝わったのか、会ってみたいって」 凍弥 「……お前、妙なこと吹聴してないだろうな」 風間 「いやっ!そこんとこは任せてください!     この風間雄輝、寸分の狂いもなくセンパイの情報を美奈に伝えましたから!     自然が好きなことから始まり、怖いと見せかけてやさしいところまで!」 凍弥 「始まりと終わりまでにどんな物語があるのかが怖いんだが……」 風間 「大丈夫ッスよ。俺よりサッカー上手いことだって伝えたし、     ゲームも上手くて勉強も出来て幽霊も見えて騒ぐのが好き!     もう完璧じゃないスか」 凍弥 「……マテ。俺、お前に幽霊が見えるって教えたか?」 風間 「いえいえ、なんか時々見かけると空中に話し掛けてましたから。     あ、俺の友達に霊感の強いヤツ居るんスけどね?     そいつに見てもらったらセンパイの前に女の人が居るって。     で、解っちゃったってわけッス」 凍弥 「………」 思わぬ伏兵だ。 風間 「あ、言っておきますけど血は繋がってないんスよ?     親父がどっかから拾ってきた娘でして。     雨ン中で震えてたから、ひとまずって連れてきたらしいんスけど、     その娘がまた家も知らないわ人見知り激しいわで大変なんスよ。     あ、でも何度かコンタクトしてたら少しだけ気を許してくれまして。     ああ、そのコンタクトってゆうのがセンパイの話だったわけでして」 凍弥 「……つまりなにか?お前は俺の情報を話のネタにしたってわけか?」 風間 「え?あ、や、やだなぁセンパイ……今のは聞き間違いッスよきっと。     お、俺がセンパイをダシに使うような行為をするわけないじゃないスか」 凍弥 「………」 風間 「ね?」 凍弥 「……はぁ。もういいよ。俺には関係ない」 風間 「うわっ、ツレないッスよセンパイ。     俺、もう妹に言っちゃったんスよ?OKだって」 凍弥 「お前が悪い」 風間 「うっ……そりゃそうッスけど……あ、ならバイト気分でどうスカ!?     一日500円のバイトみたいな感じで!」 凍弥 「こら。人の気持ちを金に変えるな」 風間 「あ……すんません。     ……でも俺、あいつが自分から望んだもの、与えてやりたくて」 凍弥 「………」 ……つまり? 凍弥 「なんだ。お前こそその娘が好きなんじゃないか」 風間 「え?あ、はは。これは違いますよ。     あいつに構ってたら情が移ったっていうんスかね。     純粋な兄心ってヤツッスよ。それに……」 凍弥 「それに?」 風間 「もしかしたらセンパイが……     俺の義弟になるかもしれないじゃないっスかぁあぁああっ!!!!」 凍弥 「………」 風間 「そしたらもうずっと一緒ッスよ!     サッカー教えてもらったり勉強教えてもらったりケンカ教えてもらったり、     そんで疲れたら一緒に風呂入って『背中、流させていただきます』とか言って、     その大きな背中を見てハァアッ!!」 俺の視線に気がついた風間が固まる。 凍弥 「………」 風間 「……えと」 凍弥 「人をダシに私利私欲に走るヤツが嫌いだと、俺は言ったな?」 風間 「い、今のはただ未来予想図ッス!私利私欲のためじゃないッス!     実際妹はセンパイに会いたがってるんスよ!お願いします!     引っ込み事案なヤツですけど、いいヤツなんです!     会うだけでもしてやってください!」 凍弥 「………」 …………はぁ。 凍弥 「解ったよ。……それで?会う約束ってのはいつなんだ?」 風間 「え……いいんスか!?」 凍弥 「目を見れば解るよ、お前は真剣だ。よっぽどその妹が大事なんだな」 風間 「……はい。センパイ以外の男には渡したくないほどッスよ」 凍弥 「……ん?そういえば拾ってきたって言ったよな」 風間 「え?ええ」 凍弥 「いつ頃だ?」 風間 「俺がまだ小学の時スかね。俺がセンパイの背中見てた頃ッス」 凍弥 「……え?ちょっと待て。     俺、お前のことなんてこの学年に上がるまで知らなかったぞ」 風間 「そりゃそうッスよ。俺、遠くから見てましたから。     センパイってあの頃から運動神経よくて、よくサッカーやってたでしょ。     俺、それ見て憧れてサッカーやり始めたんスよ」 凍弥 「……そうだったのか」 風間 「ほら、憶えてないスか?別の男がボール蹴って、それ見てた男に直撃したの」 凍弥 「……………………ああ!あの時の!」 風間 「あれは効きましたよ〜。     でもその男はそっぽ向いて知らん顔してるだけで、     センパイだけが俺を介抱してくれたんスよね。     あの日のこと、俺……忘れてません」 凍弥 「ああ……お前を背負って走りまわったんだよな。     放課後だったから保健の先生も帰ったあとで、     誰か手当て出来る人探したんだけど居なくて。     仕方ないから鍵の閉まった保健室のドアをブチ破って、     道具引っ張り出して俺が手当てしたんだったな」 風間 「あの後、散々起こられたって聞きました。……大丈夫だったスか?」 凍弥 「問題ないよ。ゲンコツと親呼び出しくらった程度だ」 風間 「うわ……」 風間は相当驚いた顔をしていた。 あの歳で親呼び出されたのは当時、俺くらいだっただろうから。 風間 「……うん、確かその日だったんスよ。親父が美奈連れてきたの。     お袋は警察に届けた方がいいんじゃないかって言ったんですけど、     親父は娘が欲しかったらしくて、     美奈が自分から『帰りたい』って言うまで置いてやろうって思ったらしいんス。     だけど結局、今になっても美奈は『帰りたい』だなんて言わないッスよ。     俺のことも一応『兄』として見てくれてるみたいだから」 凍弥 「そっか。……ところで、日時は?」 風間 「あー、そういや言ってなかったッスね。     ……て、なんだかんだ言っても気になるッスか?」 凍弥 「そりゃな。約束してるっていうのに、     場所も日時も知らないで待ちぼうけってのはかわいそうだろ」 風間 「………………センパイってやさしいんだけど、時々そのやさしさが残酷ッス」 凍弥 「ん?やさしさがなんだ?」 風間 「ああいえ、なんでもないッス。     それで日時ッスけど、明後日の日曜、午後1時に公園でどうスか?」 凍弥 「ああ、いいぞ」 風間 「え?そんな簡単に返事しちゃって……予定とか無いんスカ?」 凍弥 「ないぞ。俺、あまり人と約束はしない方だから。     ……だって約束ってゆうのはした時点で責任があるだろ。     簡単に破ったらそこに約束の意味はないだろ?     だから俺は約束ってゆうことは滅多にしないんだ。友達と遊ぶ約束でもな」 風間 「ふわ〜……そうなんスかぁ……。     あ、でもよかったッス。それじゃ……あいつのこと、お願いします」 凍弥 「ヘンな言い回しはよせ。その娘が俺に会ったら気が変わるかもしれないだろ」 風間 「そんなことないッス!俺の目に狂いはありません!     センパイはイイ男ッスよ!俺こそ交際申し込みたいくらいッス!!」 凍弥 「……危険なことは言うな。……っと、そろそろ30分経つな。     俺はそろそろメシだからこのヘンにしよう。     それと……ホレ。後続ランナーが来たぞ」 風間 「あ……遅かったッスね。じゃ、俺も行きますね」 凍弥 「ああ。頑張れよ」 風間 「っ……───!!お、おおおぉ押忍ッ!!」 風間が物凄い速さで走り抜けていった。 ゼェゼェと息を吐き散らしながら走ってきた後続ランナーも唖然としている。 ……俺はそんな風景を見ながら、ただ朧月を待つことにした。 ───。 凍弥 「……はぁ、来ないな」 …………もう、料理も出来るころだろうな。 だが朧月は現れない。 そして─── 声  「出来たぞーーっ!!」 という声。 ……タイムリミットだ。 仕方ないな……彼のことと死神のことは、俺の中に仕舞っておこう。 ……俺は出てきた時と同じように伸びをして、鈴訊庵の中に戻った。 ───……。 総員 『いただきます』 そんな言葉とともに、朝食は始まった。 浩介 「フウム、いつもながら見事な腕前だおっさん」 遥一郎「おっさんと呼ぶな」 浩之 「ウム、この野菜炒めもよく出来ているではないか」 遥一郎「そりゃどうも……」 静かに食う気がないのか、志摩兄弟は喋りながら食事をとっている。 そんな中、朧月がどこか気まずそうにして、時々に俺を見ていた。 別に気にすることじゃないし、 朧月がそっちを選んだんなら俺がどうこう言っても始まらない。 サクラ「んー……凍弥さん?」 凍弥 「なんだよ、どうかしたか?」 俺と朧月を交互に見てから言葉を出すサクラ。 サクラ「いえですね、さっきの『話がある』って、どんな話だったんですか?」 ……はぁ。 凍弥 「お前には関係ない」 サクラ「うぐっ……遥一郎さん、凍弥さんが苛めるんです」 遥一郎「凍弥が関係ないって言うんだ、よっぽど関係ないことなんだろ」 サクラ「そんなぁ……」 遥一郎「それにしても……確かに気にはなるな。言えないことなのか?」 凍弥 「ああ、もう言う気はないよ。俺の中に仕舞っておく」 遥一郎「ふむ……告白か?」 凍弥 「除霊するぞこの野郎」 遥一郎「はっはっはっは、冗談だ冗談。お前が女に告白するわけがないしな」 凍弥 「……解ってるなら茶化すなよおっさん……」 遥一郎「おっさんと呼ぶな」 凍弥 「ただの仕返しだ」 そう言ったあと、ふたりして笑った。 それに志摩兄弟も混ざって激しくふざけ合う。 サクラはどうしたらいいか解らずにおろおろして。 だけどそんな中、やっぱり朧月だけは複雑そうな表情をしていた。 Next Menu back