───眠れ真実───
総員 『ごちそうさまでしたー』 食事が終わってしばらく。 俺は客席に座ったまましばらく食休みをとっていた。 絡んでくる志摩兄弟を適当に流して溜め息をついた。 ……その正面に朧月。 俺に適当にあしらわれたのが悔しかったのか、今度は朧月に絡んでいる。 俺はそんな景色を見てから腰をあげる。 そのまま何も言わずに客席をあとにした。 ……ふむ。 凍弥 「どうしたものか」 一応鈴訊庵入り口に立っているわけだが。 自室で寝るのもいいし、散歩をするのも悪くない。 俺としては学校の屋上か途切れた丘が一番好きなんだが…… 凍弥 「……生憎の天気だな。さっきまでの晴れ具合はどこに行ったのやら」 空には雨雲が漂っていた。 これはあまり間もなく降るかな、と感じた。 凍弥 「でもまあ、散歩する程度なら十分だろ。うっし、途切れた丘へGO!」 俺はウムと頷くと、少し早歩きで公園を目指 凍弥 「うおっ!?」 ……そうとしたところ、凄まじい速さで雨雲が消滅した。 凍弥 「……世の中って解らねぇ」 だからといって困るわけでもないので、俺はそのまま公園を目指すことにした。 ……で、途切れた丘である。 凍弥 「フオオ……!なんともいい天気ぞ……!」 グミミミ……と伸びをしてから寝転がる。 相変わらずのその景色はなんとも穏やかだ。 このまま寝てしまいたいくらいだな。 ……いや、むしろ寝ようか? 声  『……あの』 凍弥 「うん?」 聞こえた声に反応して答えた。 確認するまでもない、どこかブレた声。 浅美 『ちょっと……いいですか?』 予想通り、浅美が俺の隣に腰掛けた。 凍弥 「構わないよ。それで?」 先を促す。 浅美はその意味を知ったのか、真剣な表情で俺を見た。 浅美 『どうして椛ちゃんに教えてあげないんですか?』 ……うん。 これも予想通りの言葉だ。 凍弥 「チャンスはあげたよ。でも来なかった。それでいいんじゃないか?」 浅美 『いいえ。そんなのただのイジワルです』 凍弥 「イジワルか。……あのな、浅美。朧月は与えられるだけでいいと思うか?」 浅美 『え?』 言葉の意味が解らない、という表情で返事をする浅美。 だが俺はそのまま続けることにした。 凍弥 「自分で死神の糧を知りながら人を避けてる朧月は、     誰かに何かを言われない限り自分で動こうとしないだろう。     でも、それってそのままでいいのか?     俺は、朧月はもっと自分から人に近づくべきだと思う。     あのままだとずっと誰かが近づかなけりゃ動かないヤツになるだろ?」 浅美 『あ……』 浅美は意味が解ったのか、俯いて黙った。 凍弥 「すぐには決められないだろうから、     与一の料理が出来るまでって時間を決めたんだけどな。     でも自分から動く気がないなら……俺が出来ることはこれまでだろ」 浅美 『そんな……いきなりだから驚いたんだって考えられないんですか?』 凍弥 「……あのさ、厳しいこと言うことになるけど。     いつだって心の準備が出来る状況が来るだなんて思うなよ。     朧月はその準備が出来る状況でさえそれを拒否した。     人との付き合いが苦手だなんてことは俺だって知ってるよ。     だけど、だからってずっとそれに甘んじてていいのか?     朧月には自分から人に近づくきっかけが必要なんだ。     ……だから、俺はあの人のことは話さない。     こんなんじゃなんのためにあの人が消えたのか……解らないじゃないか」 浅美 『凍弥さん……』 凍弥 「……───っ」 暗い考えを払拭するように頭を振った。 凍弥 「この話はもう終わりっ!暗くなるのは好きじゃないんだよ!」 浅美 『……はい』 浅美はクスクスと笑って俺を見下ろしていた。 凍弥 「?えっと……何がおかしいんだ?」 浅美 『いえ。初めて会った時からおかしな人だなぁって……』 凍弥 「まあ、そんなもんだよ……って、浅美?さっき俺のこと凍弥って……」 浅美 『え?ああ、朝食の前に自己紹介してたじゃないですか。それで』 凍弥 「ああ、そっか。納得」 ふたりで小さく笑った。 だけどその笑みも長くは続かず、不意に会話が途切れる。 凍弥 「……朧月の傍に居てやらなくていいのか?」 浅美 『思ったんですけどね。     死神が居なくなった以上、わたしって存在価値があるんでしょうか』 凍弥 「あるに決まってるだろ。人の存在価値なんて、存在してるだけで十分なんだよ」 浅美 『………』 凍弥 「ん?どうしたんだ?独眼鉄が背骨を折られた時みたいな顔して」 浅美 『それってすっごく失礼ですよ』 ……知ってたんですか。 凍弥 「いや、それはそれとして。どうしたんだ?」 浅美 『……いいえ。なんでもすぐに答えを見つけちゃうんだなって』 凍弥 「?」 よく解らん。 凍弥 「それで、朧月のところに戻る気になったか?」 浅美 『……いえ。多分わたしはもう消えるでしょうから』 凍弥 「消える?……って、ちょっと待て!どういうことだ!」 浅美 『元々、わたしは椛ちゃんの力で椛ちゃんに飲み込まれた存在です。     だけどその力は悠介さまが死神の存在ごと消してしまったんですよ。     椛ちゃんの月蝕力の力は既に死神の一部になってましたから……。     そうなれば、その力で取り込まれていたわたしはどうなると思います?』 凍弥 「そんな……」 浅美 『本当は……お別れを言いに来たんです。ありがとう、って』 凍弥 「……いや、待て。霊体なのにずっとこの世に残ってる人だって居るんだぞ!?     それなのにどうして浅美だけ……!」 浅美 『多分……その人達には拠り所……力の源みたいなものがあるからです。     例えばこの場所。どうしてか解らないけど、とても幸せに満ちてます。     そういうものを糧にして、ここに居る人は自分を繋ぎ止めてるんだと思います』 凍弥 「だったら!」 浅美 『……いいえ。椛ちゃんにはもうそういう霊力の場が無いんです。     だから、わたしは───』 凍弥 「───だったら俺を霊力の場にしろ!」 浅美 『え……?』 凍弥 「曲がりなりにも霊が見える存在だ!俺と一緒に居ればどうにかなるだろ!?」 浅美 『あ……確かに霊力の場は感じられますが……』 凍弥 「遠慮するな……。俺はもう……誰かが消えるのなんて見たくない……」 浅美 『凍弥さん……』 浅美は驚いた顔をした後……にっこり笑って俺の目を真っ直ぐに見た。 浅美 『本当に、霊に近しい人にはやさしいんですね』 凍弥 「そんなことはいいから……早くしろ」 浅美 『本当に……いいんですか?』 凍弥 「構わない。早く」 浅美 『……ありがとうございます……』 浅美は涙をこぼして、静かに俺に抱きついた。 ……それからゆっくりと、俺から何かが流れ出てゆく感覚に襲われる。 浅美 『……はい。霊力の波長を合わせました。     ……これでもう消えることはありません』 凍弥 「……そっか」 浅美 『でも、無茶はしないでくださいね。場を作るというのは相当疲れるんです。     わたしはあなたに無茶をしてほしくありませんから……。     辛いと感じたら、いつでも言ってくださいね』 凍弥 「ばか。そんなこと口が裂けても言ってやらないよ。     浅美が嫌がったって言うもんか。     ……言っただろ?誰かが消えるのはもう嫌なんだ」 浅美 『……勝手な人なんですね』 凍弥 「今頃気づいたのか?」 浅美 『ふっ……あはははははっ……!』 凍弥 「ははははははっ……!」 何かがおかしくて、ふたりして笑った。 正直、何がそんなにおかしかったのか……自分でも解らない。 だけど、消えゆく誰かを……こんな自分でも救えるという事実。 それが純粋に嬉しかった。 浅美 『でも、妙なんですよね』 凍弥 「うん?なにが」 浅美 『凍弥さんの場、霊力というよりは……もっと別のもののように感じるんです。     よく解らないんですけど、なんてゆうか……そう、ここと似たような感じです。     魔力とも霊力とも違う、……その、想いの力というんでしょうか』 凍弥 「……確かによく解らないな」 浅美 『はい……』 凍弥 「でも平気なんだろ?」 浅美 『はい。むしろ死神の気を糧にしていた時よりも凄く……穏やかです。     心が暖かい感じです』 凍弥 「そっか。そりゃ良かった」 浅美 『……真面目に聞いてくれてますか?』 凍弥 「聞いてるよ。馬鹿話以外は真面目に聞くのが俺の信条だ」 浅美 『そうですか』 凍弥 「ああそうだ」 そう答えてまた笑う。 今度は途切れることなく、つまらないことでも話し合って……。 気づけば、昼はもう近くにあった。 ───……。 カラーン……カラーン…… どっからか聞こえる鐘の音。 最近になって聞こえるようになったそれは、昼を知らせる音だった。 凍弥 「っと、もうこんな時間か」 浅美 『早いですね』 凍弥 「そうだな。……じゃ、帰るか」 浅美 『はい』 寝転がっていたことで生まれ始めていた眠気を払拭するように伸びた。 そして反動をつけて立ち上がり、その景色を眺めた。 途切れた丘。 そこから見える景色はやっぱり変わらない。 子供の頃に眺めたそれと変わらないそこは、 本当に人口が増えているのか怪しいものだった。 凍弥 「よし、与一もメシ作ってるだろうし、行こうか」 浅美 『はい……で、あの……凍弥さん?』 凍弥 「うん?どした?」 浅美 『訊きたいんですけど……あの、サクラって人が居ましたよね?』 凍弥 「ああ。あいつがどうかしたか?」 浅美 『恋人なんですか?』 凍弥 「恋人?……誰が?」 浅美 『サクラって人が、凍弥さんの』 凍弥 「……んー……すごく訊き返したいんだが、どうしてそう思った?」 浅美 『なんとなく、一緒の家に住んでいたので……』 凍弥 「……あのね。     言っておくけどサクラのことは知り合い程度にしか考えてないよ。     俺自身がお節介者とか言われてるけど、     私生活に首突っ込んで人の行動パターンを崩すヤツは苦手なんだ。     相当五月蝿いんだぜ?あいつ。『もしも』でも恋人なんかにしたくないよ」 浅美 『そ、そこまでですか』 凍弥 「当たり前だ。それに幼馴染って感じが強いからさ。     それこそ恋人だなんて関係になりたくないよ」 浅美 『そうですか。安心しました』 凍弥 「……安心?」 浅美 『あ、い、いえっ!なんでもありませんっ!』 凍弥 「……?」 なにが起きてるやら。 凍弥 「ま、いいか。いいから帰ろう」 浅美 『はい』 その返事を待ってから俺は歩き始めた。 森を抜けて、公園を出る。 そこで浅美が俺の前に出て、もう一度俺を見た。 凍弥 「どうした?」 浅美 『えっと、さっきの話の延長なんですけど……』 凍弥 「ああ」 浅美 『気になる人とかは居るんですか?』 凍弥 「気になる人って……ああ、それで延長か」 浅美 『はい』 凍弥 「ふむ……居ないな。俺は女の知り合いより男の知り合いが多いし、     男と遊んでた方が性に合うってゆうか遠慮なしってゆうか」 浅美 『あ、なんか解ります。そんな感じですから』 凍弥 「そうか?」 浅美 『はい。あのふたりと話してる時、本当に遠慮無しで楽しそうでした』 凍弥 「あのふたり?ああ、志摩兄弟か」 浅美 『はい』 確かにな。 あいつらとは遠慮なんてもの必要ないから気楽だ。 ……俺の中では女性がジョーカーだという考えはそう変わっていないから。 凍弥 「まあそんなわけで、やっぱり俺には気になる人ってのは居ないよ。     女性ってゆうのはさ、ドツキ漫才出来るほど気楽じゃないだろ?     もしなんかの手違いで泣かせたりしたら、穏やかどころじゃないんだ。     もちろん女性じゃなくても泣かれたりしたら困るけどな」 浅美 『だから泣いた人ほど苦手なものはないんですね』 凍弥 「そういうこと。特に女性には言葉にも気をつけなきゃいけないし、     友達になってもどこか浮く感じがするんだよ。     もちろんそんなのは俺が勝手に抱いてる先入観なんだろうけどさ」 浅美 『あのー……あなたはドツキ漫才が出来ないと、     友達として受け入れられないんですか?』 凍弥 「へ?ははははっ、まさか。ドツキ漫才は気を許し合ってからできるものだよ。     だけど、別にドツキ漫才できるからって友達ってわけでもない。     気を許すのと友達ってのは違うよ。少なくとも俺の中ではね」 浅美 『それじゃあ女の人が友達でもいいんですか?』 凍弥 「んー……それもちょっと違うんだけど。     知り合いにはなれるけど友達には出来ない気がする」 浅美 『どうして?』 凍弥 「俺、馬鹿だからさ。友達の関係が友達の所為で終わったりするのは嫌なんだ。     勘繰りしすぎだってことは解ってるんだけどさ。     ほら、志摩兄弟って朧月のこと好きだろ?だからさ。     それが原因で友達が友達じゃなくなるのは辛すぎるだろ。     好きだから好きって言いたいのに、     それの所為で終わる関係なんて嫌じゃないか。     俺の中で『友達』ってゆうのは美化されすぎててさ、ダメなんだ」 浅美 『……怖いんですか?』 凍弥 「ああ。怖いよ」 浅美 『………』 浅美は黙る。 俺は構わずに歩くことにした。 浅美 『あっ、待ってくださいよ凍弥さんっ!だったら恋人ならいいんですかっ!?』 凍弥 「それじゃあ変わらないどころか悪化するだろ」 浅美 『そ、そうですけど……その娘の気持ちはどうなるんですかっ?』 凍弥 「んー……まあ大丈夫だろ。俺を好いてくれるヤツなんて居るわけがない」 浅美 『……お節介者ってどうしてこうニブイんでしょう』 凍弥 「ん?なんか言った?」 浅美 『いえ何も』 ……? 浅美 『あのですね、ものは相談なんですが』 凍弥 「ん?ああ」 浅美 『霊体であるわたしなら友達になってもいいですか?』 凍弥 「友達って……うん、友達ってゆうか場じゃないか?」 浅美 『そういう意味じゃなくて……』 凍弥 「んー……てゆうか友達だって言わなかったか?」 浅美 『言われましたけど……話を聞いてたら不安になっちゃいまして』 凍弥 「……うおう」 むう、どうしたもんか。 別にそこまでの信条ってわけじゃないけど……って、 霊体なんだから他の人には見えないんだよな。 そんなんでいざこざがあるわけでもないし─── 凍弥 「でも俺は変わらないと思うから、このままでいいと思うぞ。     何が特別になるってわけでもないし」 浅美 『うー……』 なにやら悩んでいた浅美だったが、しばらくして頷いた。 浅美 『それじゃあ友達でいいんですね?』 凍弥 「ああ……てゆうか不安材料を出したのはお前だと思うんだけどな。     まあいいさ、行こうか」 浅美 『はいはい〜♪』 凍弥 「………」 最初会った頃から随分性格が変わった気がするのは気の所為か? ……まあ、これが元の性格だったんだろう。 彼女の言うことが本当なら、 俺を場にしたことで死神を場にしていた時より楽になったんだ。 それならその時より前の自分に近づくのは当然だろう。 凍弥 「そういえばさ。霊体でも腹減ったりするのか?」 浅美 『いえ。食べたいなとは思うものの、お腹が減ることはないんですよ。     場の空気の問題でしょうかね。満腹感みたいなものは常ですよ』 凍弥 「そうなのか」 浅美 『わたしはそうでも凍弥さんのお腹は減りますよね。もう帰りますか』 凍弥 「ははっ、浅美が呼び止めたんだろ?」 浅美 『あ、そうでしたね』 ……そうして、俺と浅美は笑いながら鈴訊庵に歩いていった。 ───。 遥一郎「今日の昼は丁字麩のからし和えと泥亀汁だぞー」 凍弥 「うおっ!?」 鈴訊庵に戻ると、見たこともない食事が並んでいた。 凍弥 「おっさん……これは?」 遥一郎「おっさんというな。……昔テレビで見てレシピ調べて憶えた料理だ。     なんて言ったっけ?『昼は円形・全力テレビ』だっけ」 凍弥 「昔のテレビ?」 遥一郎「ああ。結構健康のことやらなにやらでいいテレビだったぞ。     ストロー・レインコートという人が司会をしていた」 凍弥 「外国の人だったのか」 遥一郎「いや、芸名ってゆうかなんてゆうか、そんな感じだ」 凍弥 「ほう」 遥一郎「まあいいから昼食にしよう。サクラを呼んできてもらえるか?」 凍弥 「ほいよ。……あ、そういや志摩兄弟と朧月は?」 遥一郎「帰ったぞ。朧月って娘が帰ったら志摩どもも帰った」 凍弥 「そっか。んじゃ、サクラ呼んでくるよ」 遥一郎「ああ」 与一は皿を用意しながらそんな返事を返した。 ……そういえば与一ってどうして桜の精霊になんかなったんかな。 そこんとこ訊いてないよな、俺。 ───まあ、いいか。 今はとにかくサクラを呼んでメシ食うのが先だ。 誰かの過去に首突っ込みすぎると後が怖い。 実際殺されかけたしね。 もちろんあの時の自分の行動には後悔なんてしてないが。 凍弥 「くぁ……あ〜あ……」 俺は欠伸をしながら二階への階段をタントンタントンと上った。 うあー、眠い。 なんか知らんが異様に眠いぞ。 ……何故に? 凍弥 「………」 ボ〜っとしながらもサクラの部屋の前に立つ。 凍弥 「サクラ〜、メシだぞ〜」 そのままそう声をかけて、反応を待った。 …………。 サクラ「すぐ行きま〜す」 しばらくしての返事。 どうやら何かをしていたらしい。 ……まあ俺には関係ない。 さっさと下に……う……? 凍弥 「……眩暈……?……うあ……そういや俺の風邪、完治したわけじゃなかった……」 なんか腹も空いていた筈なのに食欲が全く無くなってしまった。 ……くそ、どうなってやがる。 凍弥 「おっさんには悪いが……このまま寝かせてもらおう……」 急激に襲ってきたダルさに、俺は自室に戻ることにした。 浅美 『大丈夫ですか?凍弥さん……』 凍弥 「大丈夫……すぐ良くなる。……寝れば」 浅美 『……もしかしてわたしの『場』になった所為で……』 凍弥 「いや、実はあれから風邪が完治したわけじゃなかったんだ。     それなのにあっち行ったりこっち行ったりしたから、それでだよ」 浅美 『本当ですか……?』 凍弥 「正直なんとも言えないんだけど、俺はそう思ってる。     感覚が風邪と同じだからな」 浅美 『そうですか……よかった』 凍弥 「いや、良くはないんだけどな」 浅美 『あっ……すいません』 凍弥 「いいよ。それより自室に戻ろう」 浅美 『はい。……って、わたし入ってもいいんですか?』 きょとんとした顔で訊いてくる浅美。 凍弥 「いいに決まってるだろ。     ……ああ、ところで『場』ってゆうのはどのくらいの範囲が保てるんだ?」 浅美 『その人や場所の霊的、または媒介の強さによって違ってきます。     凍弥さんの場合は───ちょっと解りませんね。試したわけじゃないですから』 凍弥 「そか。とにかく俺は寝たい」 体を引きずるようにして自室前まで歩いた。 そのドアを開け、ベッドまで歩き、そこに倒れるように寝転がる。 凍弥 「ぐ……頭痛ェ……」 浅美 『大丈夫ですか……?』 凍弥 「寝れば……なんとかなるから。ごめんな、退屈させるかもしれないけど」 浅美 『構いませんよ。わたし達霊体はいつでも好きなだけ眠れますから』 凍弥 「そうなのか?」 浅美 『ええ。だからわたしも眠っちゃいます』 凍弥 「そっか。じゃあ……おやすみ」 浅美 『おやすみなさい』 痛む頭を無視して目を閉じた。 寝るのはもう特技の中に入るほどに得意だ。 だから問題無い……と思う。 なんにせよ、いつもより苦労しながらも……俺は夢の世界へ旅立つのであった。 ───もちろん途中でサクラがやってきたが、正直に事情を話して退室してもらった。 ちなみにその所為で目が冴えてしまって寝むれなくなってしまったことに関しては、 完治したらサクラに仕返しすることを心に決めることで自身を納得させた。 ───……最後に、胸ポケットに入れていた古ぼけた写真を眺めた。 その中で笑い合っている少年たちはハタから見ても親友だと思えて。 ……俺はどこか羨ましくなって、だけど出るのは微笑みだけだった。 真実とともに渡すつもりだった写真は今も俺のもとにあって。 俺は朧月の悲しそうな顔を思い出して、意地っ張りが、と呟いた。 Next Menu back