───それは昔の物語。

わたしは死神に創られ、地界で生かされた。

だけど初めて見た世界は冥界。

目を開けた先にはひとりの死神。

死神の名は『シェイド=エリウルヒド』といった。

冥界に存在する絶対的な存在。

死神を統べる者、ウィルヴス=ブラッドリアをも越える存在。

闇に身を委ねる者では知らない者は居ない存在。

わたしはそんな人に創られた。

冥界はとても静かな場所なのに、

『感情がある』というだけで異端者扱いされるという妙な場所だった。

わたしは感情というものがよく解らなかったが、

シェイド様が笑うその顔こそが感情というものなのかとわたしは感じた。

シェイド様はとても穏やかな顔だった。

少年のような顔立ちに、大きな黒いマントを羽織ったような人。

誰かの顔をコピーしたらしいその顔は、

とても人の数百倍を生きている人には見えなかった。

彼にそのことを訊いてみても『澄音という人間のコピーだよ』と言うだけだった。

───わたしは冥界で育てられた。

『セレスウィル=シュトゥルムハーツ』という吸血鬼をベースに創られたわたしは、

『成長する死神』として産まれた。

その存在こそ異端であるわたしは当然、冥界では厄介者だった。

誰もわたしを同胞として見なければ、やさしい声をかけることさえなかった。

救いがあるとすれば死神に感情がなかったことだろうか。

人間のようにイジメに走ることもなかったし、暴力に走ることもなかった。

だが、ただひとこと言うならば。

それが逆に、わたしの感情というものの成長を許さなかった。


───いつの頃だろう。

確かわたしが少し成長した頃のことだったと思う。

シェイド様がわたしを地界に送ると言った。

わたしはその時までにサーフワールズと呼ばれる地界天界空界のことを教え込まれた。

天界:天界人という、人を超えた技術や魔法を持った者の存在する世界。

地界:機械的技術はあるが、それゆえに空気の汚れた世界

空界:天界地界冥界とは明らかに違った、御伽噺の国のような世界。

わたしは地界という場所に送られる。

そこは一体どういう世界なのだろうか。

綺麗な場所だといいなと考えながら、

わたしはその日が来るまで、日々を彷徨っていた。


───やがてその時が来て、

地界に連れられた世界で初めて出会った人はひとりの男の人だった。

シェイド様には地界に送られただけで、

その場所がどんなところなのかも教えられていないわたしは、

その人間がどんなことをするのかも解らなかった。

ただ道端で出会った人。

わたしに声をかけてきて、真剣な顔で何かを言っていた。

その意味が解らなかったわたしはただ震えるだけだったけど。

その人はわたしの手を取って微笑んでくれた。

行く宛てもなく、頼る宛てもないわたしに『大丈夫だ』と言ってくれた。

それがなんだか嬉しかった。


───その世界で蒼い空の下に立つようになって、わたしはなんだか高揚していた。

冥界とは違う、澄みきった蒼空。

冥界は黒ばかりであまり好きじゃなかった。

産まれた世界だというのに好きになれないのはどうしてかと思う。

考えて考えて、そうやってようやく出た答えは『感情があるから』かな、と。

そんな頼りない、自覚も特にないものだった。

だけどその蒼空が好きだった。

好きというものが感情だというのなら、わたしには確かに感情があった。

本来、死神は持ってはいけないものだと聞いたけれど、

わたしはそれを嬉しく思う。

地界に吹く風はやさしく、友達と呼べる人が居なかったわたしを包んでくれていた。

空にはやさしさ、風には想いを感じたわたしは、

そのふたつが普通じゃないことを知る。

だけどわたしも似たようなものだと思って、わたしは初めて微笑んだ。

だけどその空や風に宿るものがシェイド様に教えてもらった、

あの『奇跡の魔法』と波動が同じモノだということに気づいた時。

わたしの中の微笑みはどこかへ消えてしまった。


───刻の流れは続く。

それが当然であるように、ずっとずっと続いてゆく。

それはわたしが亡くなってもきっと変わらない。

見届けられないのに世界が続くという事実に、どこか矛盾を感じる。

だけど生きる者にとってはそれは当然でしかない。

……死神。

その名を持って産まれたわたしは、やっぱり死を司る者なのだろうか。

いつか自分の手で、誰かの魂を狩ることになるのだろうか。

もしそんなことになった時。

わたしは、わたし自らの手で……その世界を終わらせるつもりだ───









───場というもの───
───それは数分前の出来事だった。 浩之 「……待たせたな、佐古田好恵」 我はその名を口にして、校舎裏に降り立った。 佐古田「遅いッスよ志摩弟〜」 浩之 「ふっ、待ち侘びたか。そうかそうか」 佐古田「女待たすんなら銭よこすッス」 浩之 「馬鹿め、その金が無いから取り戻すのだ」 佐古田「じゃあ取り戻したらくれるッス?」 浩之 「冗談ではない、アレは我の生命ぞ。     銀行など信じられぬ我らがその肉体を駆使して守っていたのだぞ。     アレが無ければ我らに明日は無い。……解るな?」 佐古田「さっぱり解らないッス」 浩之 「それでもよいわ。とにかくアレは誰であろうと譲るわけにはいかぬのだ」 佐古田「半分よこすッス」 浩之 「やらぬと言っている」 佐古田「ケチッスねぇ……」 佐古田好恵がブツブツと呟きながらその場を離れた。 佐古田好恵が居た場所の先には黒毛の犬。 こちらを牽制するようにグルルル……と唸っている。 浩之 「フッ……いい度胸だ犬」 我は格闘の構えをとると、真剣にその動物と睨み合った。 そして確信する。 ……奴は強い。 浩之 「……犬よ。もし我の言葉を理解出来るのなら、そのサイフを置いて去れ。     そもそも何故我のサイフを貴様が……」 犬  「ハルルルルル……!!」 浩之 「…………そうか、腹が減っているのか。     だからレモン風味のサイフを噛んだのだな?     だがそれは我のものだ。大人しく返せ」 佐古田「犬語が解るッス?」 浩之 「まったくの勘だ」 佐古田「…………感心したアチキが馬鹿だったッス」 浩之 「フッ、今頃自覚したか、この馬鹿めが」 佐古田「……犬の逃走手伝うッスよ?」 浩之 「我が悪かった。     あのサイフが無ければ冗談抜きで生きてゆけぬのだ、勘弁してたもれ」 佐古田「む、よろしいッス」 くっ……この小娘が……! 貴様なぞサイフさえ手に入れたら毒霧の刑ぞ……!? こんなこともあろうかと毎日毎日口内に毒霧用のミニパックを詰めておいたのだ。 浩之 「さあ犬。我にそのサイフを渡すのだ。さもなくば……」 犬  「ワォウッ!」 浩之 「キャーッ!?」 犬が吠えた。 佐古田「……情けないッスねぇ」 浩之 「だ、黙れ!我は昔、ブラザーとともに野犬に襲われて以来、     ずっとトラウマ続きなのだ!この気持ち、誰が知る!」 佐古田「志摩兄なら解るッス」 浩之 「た、確かに!」 なんということだ、佐古田好恵に教えられるとは。 だが今頃ブラザーは佐藤にあげなことそげなことをされているに違いない。 …………やすらかに眠れブラザー。 浩之 「さあ来い鈍牛!」 佐古田「犬ッス」 浩之 「似たようなものだ」 佐古田「似てないッス」 浩之 「ええい!いちいちツッコミを入れるな佐古田好恵!」 佐古田「どうでもいいから行くッス。ホレ」 どんっ。 浩之 「おわっ!?おわーっ!」 犬  「ガオォ!」 浩之 「キャーッ!?」 佐古田好恵に背中を突き飛ばされた瞬間、犬が反応して襲い掛かってきた。 我は─── 1:たたかう 2:ぼうぎょ 3:まほう 4:にげる 5:ジャパニーズレッグロールクラッチ 結論:3! 浩之 「……魔法!?」 どうしろというのだ!? 1:毒霧 2:頭突き 3:虎口拳⇒足先蹴り⇒風摩殺⇒六波返し 4:タイガー魔法瓶 5:ジャパニーズレッグロールクラッチ 結論:どれも魔法ではないだろうが!! 浩之 「というか何故5に必ずジャパニーズレッグロールクラッチが!?     そもそもジャパニーズなのに何故横文字系なのだ馬鹿者!」 ガブリ。 浩之 「ギャーッ!!」 噛みつかれた。 恐ろしい力だ、余程に飢えているようだ。 浩之 「だが甘い。我は犬の食事になるほど弱ってはいないのだ!     さあ佐古田好恵!タイガー魔法瓶をよこせ!」 佐古田「そんなの無いッス」 浩之 「なにぃ!?───当然だ」 ゴリリッ。 浩之 「ぐわぁあああーーーーっ!!」 犬の牙が食い込む。 なんという痛みよ……! これは相当であるぞ……! 浩之 「くっ……本来ならば佐古田好恵用にとっておきたかったのだが……!     不本意ではあるが───仕方あるまいっ!!」 我は口の中にある小さな袋を噛んだ。 そして勢いよく噴出す。 ブシィッ! 犬  「ギャワォゥンッ!!」 毒霧が犬の目にかかる。 怯んで牙を離した犬を捕まえ、往復ビンタをかました。 浩之 「スッとす〜る〜♪」 ドパァーン!ゴパァーン! 浩之 「飲んでも〜食べても〜♪」 ビターン!ベタァーン!! 犬  「ギャワッ!キャイィンッ!」 犬は痛がっている。 それはそうだ。 歌は平凡ではあるが、一撃一撃に我の全力が込められている。 これで痛がらないのであれば最強の名をくれてやりたい気分ぞ? ───だが。 犬  「ウゥウウ……!ガウゥウッ!!」 犬も危険を感じたのか、今度こそ殺気を撒き散らしながら襲いかかってきた。 浩之 「サミング!」 ドチュッ。 犬  「ギャワァアアンッ!!」 襲いかかってきた犬に目潰しをかました。 嗚呼、キミの瞳に乾杯。 浩之 「さあ今だ佐古田好恵!我のサイフを拾ってくれ!」 我は佐古田好恵にその思いの旨を伝えた。 佐古田「……シケてやがるッスねぇ……これしかないッス?」 が、佐古田好恵は既にサイフを広い、あまつさえ金を漁っていたのだ。 浩之 「き、キッッッサマ何をしているかァーーーッ!!」 佐古田「金品強盗ッス」 浩之 「か、確信犯というヤツか!おのれ佐古田好恵!」 佐古田「あー、後ろ、危ないッスよ」 浩之 「なにぃ!?」 ガブリ。 浩之 「剛ォオオアァアアアアアッ!!」 指を噛まれた。 腕を噛まれるより相当痛い。 だが負けぬ!それでも負けるわけにはいかぬのだ! 浩之 「我は志摩!名は浩之!我に挑んだことこそ不運と知れ!     ───覚悟はよいか……ッ!」 ギリ、と力を込めた手に神経が集中する。 そんな我のことなどお構いないし、噛みつづける犬。 浩之 「愚か者めぇええええええいっ!!」 カッ───ゴゴシャアアッ!! 犬  「ギャッ───……」 我の振り下ろしの手刀を頭部に食らい、犬は地面に叩きつけられた。 一切の手加減をしなかったからだ。 浩之 「我に牙を立てたこと、誉めてやる……」 犬の唾液のついた指を拭い、我は 浩之 「なにぃ!?佐古田好恵が居ない!?」 驚愕した。 もちろんサイフも存在しない。 浩之 「や、ヤツめ……本気で金品強奪に走るとは───!」 活目せよ国民!そして振るい立て!佐古田好恵を処罰せん! 浩之 「待っていろサイフ……我が必ず救い出してみせる……」 こうして我の旅は始まったのであった……。 ───CAST─── 勇者  :我 魔王  :佐古田好恵 姫様  :サイフ 軍師  :盟友 愛人  :椛 四天王 :佐藤、女子A、ブラザー、男子B 友情出演:タイガー魔法瓶 ────── 浩之 「……愛人が居るあたりでかなり危険な勇者だな」 ひとり納得して、我はその場を離れ、佐古田好恵を探すのであっ 犬  「ガオォオオッ!!」 浩之 「な、なにっ!?馬鹿な!貴様……生きて……ッ!?」 犬  「グゥウッ!ガウゥッ!!」 浩之 「ぐ、ぐわぁああああああああああっ!!!!」 な、なんということだ……! トドメをささなかったばっかりに……───! ───……。 ……キーンコーンカーンコー…… 一日の終了を告げるチャイムが鳴っていた。 わたしは多分、気分良く終わりを迎えられなかったけれど、 周りに居る人達は笑いながら帰り仕度をして帰っていった。 今日は土曜日だったけれど、学校の方で特別授業があって、半日では終わらなかった。 だけどそれももう終わって、わたしもゆっくりと帰る準備をしている。 メル 「……はぁ」 無意識に考えていること。 あの男の人の笑顔。 やさしくて、心地良くて、おかしくて、楽しくて。 いろんな色を見せる彼の『場』は、とても穏やかだった。 だけどそんな彼もやっぱり人間だ。 その奥にある色の濃い『黒』は存在していた。 もちろん彼が持っている闇というわけじゃない。 彼は本当に純粋だ。 その『黒』は別の意思。 彼とはまた違った、別の誰かの闇。 いや……闇と言いきれない、どこか混沌としたものだ。 悲しみだったり幸せだったり、嬉しかったり不幸だったり。 例えるなら……小さなパンドラの箱。 箱に入っていれば希望なのに、出てしまえば絶望でしかない。 だけどその中には幸せも混ざっている。 だけどその中に幸せがあるからこそ、悲しみも増している。 まるで光と影の具現。 色だけで唱えるとしたなら『奇跡』。 地界では有り得ない、奇跡の魔法の痕跡、とでも言うのだろうか。 あの色はそれに似ている。 だけど変だ。 あれは天界にしか存在しないものだろう。 それとも、彼は天界と関係がある者なのだろうか。 ……もしかしたら、霊が見えるのもそれに関係しているのかもしれない。 メル 「………」 でも、まさか。 そんなことがあるわけがない。 あの人からは天界の気配も冥界の気配も空界の気配もしない。 純粋な地界の人間だ。 そんな人が奇跡の魔法を……? ……有り得ない。 でも───もし有り得たとしたら。 彼の存在はそれによって保たれていることになる。 奇跡の魔法の具現。 そんなものは有り得ないとは思うけれど、 『もしも』はいつだって否定できないから『もしも』なのだ。 ───だから。 もしあの人の中の奇跡の魔法の力が無くなったら───彼は消えるかもしれない。 メル 「……あ……はは、まさか……」 でも……でも。 もし誰かの場になったとしたら、なにかしらの異常があってもおかしくない。 メル 「…………うー」 心配だ。 ずごく心配だ。 気になるし……うー…… メル 「……うん」 探してみて、居なかったら諦めよう。 それがいい。 わたしは鞄を手にして教室を出た。 ───……。 一年から三年までの教室を調べてみても、彼は居なかった。 今は学食を調べ終えて出てきたところだ。 ……もちろんそこにも居なかった。 保健室には一番に行ってみたし、屋上にも行ったし……─── メル 「あぅ……」 解らない。 もう帰ったのだろうか。 ……あ。 メル 「そうだ、確か空き教室があった筈……」 居ないとは思うけど、それでも確認しないよりはマシだ。 うん。 ひとり頷くと、わたしは駆け出した。 ─── 空き教室のドアを開けてみると、そこはこがね色の世界だった。 探している内に結構時間が経っていたらしい。 ───だけどそんな綺麗な世界の中に、あの人が居た。 その横で浅美ちゃんが穏やかな顔でその寝顔を覗いていた。 メル 「浅美ちゃん……」 浅美 『……メルちゃん。どうかしたの?』 メル 「…………ちょっと、その人に訊きたいことがあって」 浅美 『そうなんだ』 メル 「はい……」 浅美 『でも、ダメだよ。凍弥さん、眠ってるから』 メル 「どうしても訊きたいことなの。だから」 浅美 『……ダメだよ。起きるまで待って。お願い』 メル 「………」 浅美ちゃんは彼の寝顔に目を移すと、どこか悲しげな顔をした。 メル 「……浅美ちゃん?」 浅美 『……誰かのために頑張ってるの。     その所為で自分が傷つくことになんの疑問も抱いてない……。     今だって……わたしの所為で眠ってる。     そんなの解ってる……解ってるよ。     それでも……わたしはこの世界に居たいって思うよ?     孤独は寂しいもの……悲しすぎるもの……』 メル 「知って……いたんですか」 浅美 『確信があったわけじゃないよ……。凍弥さんは風邪の後遺症だって言ってる。     でも本当は気づいてるんだと思う。     わたしの所為でこんな風になってるんだって。……凍弥さん、やさしいから』 メル 「………」 浅美 『だから……ね?お願いだよ……。眠らせてあげて……』 メル 「……うん」 ……浅美ちゃんは知っていた。 自分の所為で彼の存在が削られていることを。 削られるといっても分けているだけであって、このまま消えてしまうなんてことはない。 だけどもし、また誰かのために場になどなったりすれば─── いつか、きっと彼は消えてしまうだろう。 メル 「……浅美ちゃん。今から言うことをよく聞いて」 浅美 『……うん』 メル 「もしその人が、また誰かの『場』になろうとした時、止めてあげてください」 浅美 『え───どうして?』 メル 「今度はきっと、眠るだけじゃ済みませんから……」 浅美 『……?』 メル 「……その人は『奇跡の魔法』という天界の偶然的なもので象られています。     確かに人間である筈なのに、どうしてかそんな状態で産まれてしまった。     恐らく……親かその血族にその奇跡の魔法に関係した人が居たのでしょう。     それでもそんな力なんて持たずに産まれてこればよかったのに……」 浅美 『メルちゃん……?なに言ってるのか全然解らないよ……』 メル 「……聞いてください。     その人がもし、他の誰かのために自分を犠牲にするようなことを続ければ、     彼は……この世界から消えてしまうかもしれないんです」 浅美 『───消える?』 メル 「そう、です。誰の記憶からも、親でさえその存在を忘れてしまうんです……」 浅美 『そんな……うそ、だよね?』 メル 「………」 わたしは黙って首を横に振った。 浅美ちゃんは苦しそうな顔をして目を逸らした。 メル 「わたし、こんなに穏やかな人、初めてだから……。     どうしてこの人の傍はこんなに暖かいんだろうって思って……。     だけど、そういうことだったんですね……。     わたしはただ、この人の……ううん、     誰かのやさしさに触れたかっただけだったんです……。     それが偶然、この人だっただけ……」 浅美 『………』 メル 「でも、わたしはそれが嬉しい。この人で良かったって思えます。     だから、消えてほしくないんです。     だから……誰かのために自分を犠牲にしようとした時、     それを止めてほしいんです……」 浅美 『……うん』 浅美ちゃんはゆっくりだけど、しっかりと頷いてくれた。 浅美 『でも……わたしに凍弥さんを止められるかな』 メル 「…………頑張ってください」 浅美 『うう……勝手だよぅ……』 メル 「………」 わたしは困っている浅美ちゃんをよそに、凍弥と呼ばれた人を見た。 眠っているその穏やかな顔。 ……その傍はとても暖かかった。 気温ではなく、心が暖かくなる感じ。 ふとその髪に触れてみると、彼はくすぐったそうに寝返りをうった。 とはいっても、反対側を向くように首を動かしただけだ。 ……なんだかおかしいと感じたけれど、 わたしは笑みを浮かべることすら出来なかった。 メル 「……わたしはこれで失礼しますね」 浅美 『もう?』 メル 「わたしは人に関わってはいけない存在ですから。     あまり一緒に居て、災いを呼び寄せるのは好ましくないでしょう?」 浅美 『それは……』 メル 「───それでは。またいつか」 わたしは小さくお辞儀をして教室を出た。 最後に見えた浅美ちゃんの表情はとても複雑そうなものだった。 ───…… 風間 「へ?なに?」 俺は亮の声にそう反応して応えた。 亮  「へ?じゃなくてよ。なんか昨日、殺人事件が起こったらしいぜ?」 風間 「殺人ねぇ……」 ふーん……。 風間 「わざわざ言うってことは……このヘン?」 亮  「隣町だとよ。なんでもさ、ヒドイ殺し方らしいぞ?     およそ人とは思えない殺し方だとか」 風間 「うわ……想像したくないなぁそういうの」 亮  「ま、噂だしな。大っぴらに殺人事件が〜ってことは新聞には載ってないし。     でも行方不明者は結構居るらしいぜ」 風間 「怖いな……そういうの」 亮  「ああ、だからさ。お前も練習とかで遅くに帰ったりすんなよ?     殺人犯にしてみりゃ、男も女も大差ないんだろうから」 風間 「へ?どうして」 亮  「わざわざ正面から行って決闘申し込む殺人者が居ると思うか?」 風間 「……そりゃそうだ」 亮  「ま、気を付けろよ?今日も部活なんだろ?」 風間 「今日は無いよ。     土曜ってこともあって、顧問のセンセも部長もさっさと帰りやがった」 亮  「そっか。んじゃ一緒に帰るか?」 風間 「あー、悪い。俺ちょっと寄るとこあるから」 亮  「ん、そか。そんじゃな」 風間 「悪いな」 亮  「気にすんなよ」 亮が笑いながら手を振る。 やがてあいつが見えなくなる頃、俺はセンパイのことを考えていた。 もしまだ居るとしたら屋上か空き教室ってとこだよな。 風間 「……まぁ、まさかねぇ」 俺も苦笑しながら、コンビニにブツを買いに行くことにした。 友達と談笑して時間を潰すってのも悪くないかな。 すっかり夕方になっている世界を見て、俺はもう一度苦笑した。 Next Menu back