───撲殺大根ソード───
凍弥 「……ん」 うっすらと目を開けた。 そこに見えるのは空き教室の風景。 ゆっくりと体を起こして伸びをした。 体に活力が戻っていくような感覚に襲われ、どこか気持ちいい。 ふと見た自分の横では浅美がすやすやと眠っていた。 そういやいつでも好きなだけ寝れるんだっけ。 羨ましい裏技だ、是非俺も欲しい。 凍弥 「……でも死ぬのはまだ勘弁だな」 思いつくものはちっぽけだが、やりたいことはきっと溢れている。 思いつかないのが悲しいものだが、 ひとつひとつを終わらせてゆく内にそれは増えるものだ。 凍弥 「……さて、それで今俺がやりたいことは、と」 グルッと空き教室の中を見渡してみる。 当然、俺と浅美以外は誰も居ない。 凍弥 「……帰るか」 やりたいことなど特に無く、俺は席を立つと体をほぐした。 凍弥 「ぬ……くぁ〜ぁ……っと」 体がベキボキと音を醸し出す。 机で寝るのはやっぱり疲れるな。 お世辞にも安眠出来るとは言えないし。 せめてこう、横になれればなぁ。 そんなことを考えつつ、俺は浅美に声をかけた。 凍弥 「浅美ー?起きてるかー」 浅美 『んん……やぅん……』 寝てるみたいです。 幽霊でも寝言は言うらしい。 しかも寝起き悪そうだ。 凍弥 「浅美?置いてくぞ」 浅美 『…………くー』 ……ダメみたいだ。 仕方ないな、ひとりで歩いてみるか。 目に届く範囲ってことは、結構な範囲だろうからな。 凍弥 「問題は肉眼でこう、確認できる範囲なのか。     それとも直線状で米粒程度まで小さくなって見えなくなる程度なのか。     ……でも壁抜けして範囲のチェックとかしたみたいだしな。     だったら大丈夫か。     結論は人影が米粒以上に小さくなって目なくなるまでってことで」 俺はコクリと頷くと、歩くことにした。 まずはどこに行こうか─── ───……。 バガァン! 犬  「キャィイインッ!!」 ドボォッ! 犬  「ギャンッ!」 ……ばたたたた……。 犬が逃げ出した。 どうやら我を格上と判断したらしい。 浩之 「チッ……腕をやられたか。血が止まらぬ」 どこか筋をやってしまったのか、血がぼたぼたと地面を濡らす。 この時間では保健のセンセは保健室にはおらぬだろう。 ……くっ、どうする。 サイフを取り戻さねばならぬという時に……。 浩之 「……おのれ、佐古田好恵め……」 ……我は急に眩暈を感じ、その場に倒れた。 貧血か……野犬は加減を知らぬから嫌いだ……。 浩之 「………」 ───…… 意識が無くなる前、足音のようなものを聞いた。 その後、噛まれた腕に何か暖かいものが染み込んでゆくような感じがして。 我の意識は、暖かい光に包まれるようにゆったりと途切れた。 ───…… 浩介 「…………む?」 ふと気づく。 いつの間に屋上に?といった感じだが、詳しいことは覚えていない。 声  「キャィイインッ!!」 ぬ? なにやら犬の鳴き声が─── 浩介 「校舎裏か?」 我はフェンスによじ登り、その場所を見下ろした。 ……そこにはブラザーが犬を撃退する姿があった。 そして倒れる。 腕の赤いものは何かと思ったが、どうやら血のようだ。 浩介 「馬鹿な!野犬と戦うなど───!」 我は急いでフェンスから飛び降り───ぬ? 浩介 「なんだ?何者かが───……あれは……椛?」 椛がブラザーの傍らに屈む。 そしてその腕に触れ、何かをしたようだ。 服に染みついていた赤いものがみるみる内に消える。 浩介 「…………まさか。真に人間ではないと……」 話で聞くことと実際に見るのとでは明らかに違った。 ブラザーの回復を確認すると椛は立ちあがり、その場を去って行った。 …………我はしばらく動けなかった。 ───。 ……一部始終を見ていた。 俺は校舎の中に戻ってきた朧月に近づき、声をかける。 凍弥 「よ、朧月」 椛  「………」 凍弥 「やさしいんだな」 椛  「………」 だが朧月は完全に無視をキメ、その横を通りすぎてゆく。 凍弥 「待て待て、話くらいいいだろ?」 椛  「お断りします」 凍弥 「即答か……」 まいったな。 ……ただ、疑問を問いたかっただけなんだけどな。 凍弥 「あのさ。答えたくなかったらいいけど……どうやって治したんだ?」 椛  「───!……見て……いたんですか」 凍弥 「悪い。もし治せるならそうしてくれた方がよかったから何も言わなかった。     志摩兄弟って血液型が珍しいやつでさ。     輸血とか必要な場合、それが大変なんだ。……ありがとう」 椛  「あなたにお礼を言われる筋合いはありません。邪魔です、どいてください」 凍弥 「………」 キツイな。 悠介って人のことを話さなかったのがそこまで利いたか。 でもな…… 凍弥 「……なぁ。じいさんは元気か?」 椛  「あなたには関係」 凍弥 「あるから訊いてるんだ。……答えてくれ」 椛  「あなたにどんな関係があるっていうんですか。     いい加減なことを言うと許しませんよ……」 凍弥 「……元気か元気じゃないか。それだけでいいんだ」 椛  「自分は話さないのに、人のことには入り込んでくるんですね。     ムシがいいって思わないんですか?」 凍弥 「……すまない」 椛  「謝るくらいならそんなこと訊かないでください。……失礼します」 朧月が俺の横を歩こうとする。 だが俺はそれを遮って真っ直ぐに目を見た。 凍弥 「待った。……さっきの能力は家系ってものの能力じゃないな?」 椛  「話す気なんてありません」 凍弥 「話せないんじゃないのか?自分でも解らないって」 椛  「関係ありません」 凍弥 「あるって言ってるだろ。俺はただ、キミを孤独にしたくないだけで」 椛  「───ッ!」 パァンッ!! 凍弥 「つっ……」 椛  「勝手なこと言わないでください!     相手に隠し事をしている人が『孤独にしたくない』なんてよく言えますね!     近づけば離れるくせに、どうしてわたしの領域を汚すんですか!     もうやめてください!迷惑なんです!」 凍弥 「………」 椛  「…………失礼……します……っ」 涙目で俺を睨む少女。 その顔が憎しみから悲しみに変わるまで、そう時間は要らなかった。 ……俺は去ってゆく朧月を見ようともせず、ただ……痛む頬をさすった。 凍弥 「困ったな……泣かせてばっかりだ……」 そう呟いてみても、暗くなる心を払拭することが出来なかった。 話してしまっていいんだろうか。 最近、そんなことばかり考えてる。 もともとは彼女の家の事情なんだ。 彼女に黙っている方が本当はどうかしてる。 でも重すぎやしないだろうか。 どうして今更って。 凍弥 「…………でも」 これ以上黙ってて、もし後になって言おうとしたとしたら…… それこそ今更なんじゃないだろうか。 凍弥 「………」 よし。 一度決めたことを曲げるのは癪だ。 癪だけど……彼女のためになるなら、そして孤独を払拭できる可能性が出来るなら。 ……ピエロにだってなってやるさ。 あとは朧月が変わればいい。 それ以上はきっと泣かなくなってくれる筈だ。 もう、普通の人なんだから。 凍弥 「朧月!」 俺は振り返ってその後ろ姿に叫んだ。 朧月は肩をビクッと震わせ、だけど振り向きもしないで歩いてゆく。 凍弥 「───このっ」 俺はなんだかムカッと来て走り出した。 元を正せば俺も悪いんだが、待ってたのに来なかった朧月だってズルイだろう。 それを人のこと卑怯だのなんだのと……ああ!なんかムカツいてきた! 朧月 「っ……!」 俺の足音を聞いた朧月も走る。 だが無駄だ!俺はこう見えても(どう見えるんだ?)足には自信がある! すぐに追い付いてぱたたたたたたたた……!! 凍弥 「早エェーーーッ!!」 だが、朧月の方が早かった。 こ、これも家系とやらの為せる業なのか……! 凍弥 「だからって負けられるかよっ!」 俺はより一層足に力を込めて走り出した。 ─── 凍弥 「くっそ!どうしてそうまで逃げるんだあいつは!」 怒りのボルテージもMAX寸前ぞ!? 今なら誰彼構わずポセイドンウェーブする自信がありますよ!? 佐古田「あれ?霧波川凍弥ッス?」 凍弥 「ポセイドンウェーイ!!」 ガボッ……シャアアンッ!! 佐古田「むぎゃうっ!」 凍弥 「……ハッ!しまったやっちまった!」 俺は慌てて立ち止って、回転しながら倒れた佐古田のもとに駆け寄った。 凍弥 「佐古田!?佐古田!しっかりするんだ佐古田!」 佐古田「………」 佐古田はなにやらサイフを取り出して、それを俺に渡してきた。 そして口をパクパクさせたあと……ガクリとオチた。 凍弥 「さ、佐古田……?死ぬな……佐古田ぁあああああっ!!」 佐古田「ホンの冗談ッス」 凍弥 「オイ」 本気で心配しましたぞ!? 佐古田「それよりなんの騒ぎッス?     もうちょっと受身を取るのが遅れてたらオダブツだったッス」 凍弥 「あ、悪い。今ちょっと朧月を追ってるんだ」 佐古田「ついにラヴッス?でもここらに浜辺が無いからって、     校舎を駆け回って浮かれてポセイドンウェーブするのは感心しないッス」 凍弥 「そんなんじゃない」 佐古田「ん?だったら何ッス?ん?事細かに話してみるッス」 凍弥 「そんなヒマは無いと言っている」 佐古田「初耳ッスよ」 凍弥 「状況で察知しろ。     でもサンキュな、お前のおかげで飛んでた理性が戻ってきた」 佐古田「理性って……ア、アチキを襲う気だったッス!?」 凍弥 「ンなこと誰がするか」 佐古田「ぐわっ!……女として痛い言葉ッス……」 凍弥 「馬鹿なこと言うなよ。襲われていいわけがないだろ、オンナノコなんだから」 佐古田「……時代錯誤ッス?」 凍弥 「どの時代でも変わらないと思うけどな。もっと自重しろよ、な?」 佐古田「……やっぱり霧波川凍弥って変ッス」 凍弥 「悪かったな、ほっとけ。じゃあな」 サイフをポケットに仕舞って俺はもう一度走り出した。 その後ろで佐古田はまだ何かを言っていたが、無視して走った。 凍弥 「くそ、ロスタイムだっ!今の朧月なら100メートル7秒は軽いに違いない!     ってことは……」 ……無理じゃん! 追い付けないじゃん! 嗚呼父さん母さん、今俺は世界の壁に挑戦した歴戦の勇者達の気持ちが、 ほんのちょっぴりだけ解っちゃった気がしました。 凍弥 「───でも辿り着く場所さえ知ってりゃどうってことないよな」 うん、これはマラソンじゃないんだ。 じゃ、屋上にでも行きますか。 かくして俺は、息を整えられる程度の速度で屋上を目指すのだった。 ───ギ、ギィ……。 屋上への扉が開くと、そこには夕焼けが見えた。 凍弥 「……綺麗だな───って感心してる場合じゃないよな」 朧月は───居た。 石屋根の上に立って空見てる。 凍弥 「朧月、聞いてくれ。お前に話がある」 椛  「───わたしはありません」 息も乱れていないのか、キッパリとした口調で会話を切られた。 だが負けられない。 凍弥 「昨日話さなかったことだ。それでもか?」 椛  「……なにを今更……」 凍弥 「俺だけ悪いみたいな言い方はやめてもらうぞ。俺は待ってた」 椛  「だからそれは───!」 凍弥 「キミの性格の問題を俺が察知しなかったからか?違うね。     キミはただ逃げてただけじゃないか。     辛いことを抱えたままで爆発寸前の爆弾抱えて孤独の傍に居ただけだろう」 椛  「……あなたに何が───!」 凍弥 「解らないよ。だけどな、その言葉が会話の中でどれだけ卑怯か知ってるか?     何も解らないのは話されてないからに決まってるだろ。     確かに解ったところで誰にも本人の気持ちが解る筈が無い。     だって本人じゃないんだからな。     どんなに似せようと人は同じにはなれないんだからな」 椛  「………」 凍弥 「だけどさ……!一緒に悩んで、笑って……!     そして───一緒に泣いてくれる人が居ることにどうして気づかないんだよ!」」 椛  「っ!」 凍弥 「同じじゃないから別々のことで会話が出来るんだろうが!     同じじゃないから支え合えるんだろうが!どうして孤独を選ぶんだよ!」 椛  「………」 凍弥 「俺は全てを話に来たんだよ……!     だから……意地張らないで聞いて欲しい……頼む」 椛  「………」 朧月は親に叱られたような泣き顔で俺の目を見て、コクリと頷いた。 やがて俯いて、ただ俺の言葉に耳を傾けた。 ───……。 椛  「おじいさまが……?」 全てを話した俺が聞いたのは、朧月のそんな言葉だった。 凍弥 「ああ。さっきも言った通り、朧月の中にはもう死神なんて居ないんだよ。     居るのは悠介さんだけだ。今も朧月を支えてくれてるんだ」 椛  「………」 凍弥 「それより……ごめんな。     意地っ張りだったのは俺も同じだったのに、偉そうなこと言って……」 椛  「……!」 朧月は首を横に振って、それを否定した。 椛  「あなたの言う通り、わたしがあの時に自分で動こうとしなかったから……」 そして涙目でごめんなさいと頭を下げる朧月。 凍弥 「あ、や、やめてくれ。泣かれるのとお辞儀されるのは苦手なんだ」 椛  「…………ふふふっ……」 凍弥 「え?あ、こら、笑うなよ……」 椛  「……やさしいんですね」 凍弥 「俺のはただのお節介だ。本当にやさしいヤツは誰も泣かせたりなんかしないよ」 椛  「……そんなことないです。     泣かせた上で、それでもお節介してくれる人が一番やさしいんだと思います」 凍弥 「そんなヤツ居るのか?」 椛  「ええ、居ますよ」 凍弥 「……見てみたいもんだ、そんな馬鹿」 椛  「くっ……あははははっ……」 凍弥 「……?ど、どうしたんだよ朧月」 椛  「そ、そうですね……今度手鏡でも持ってきます……」 凍弥 「?」 ワケが解らなかった。 だけど朧月が笑うのってなんか新鮮で、 照れくささを感じた俺はポケットに手を突っ込んでうろうろした。 凍弥 「……ん?」 そこで気がついた。 なんか佐古田に渡されたサイフの他に、一枚の紙があることに。 で、思い出す。 凍弥 「そうだった。今日母さんに買い物頼まれてたんだっけ……」 小さく溜め息を吐いて朧月を見た。 凍弥 「もう大丈夫だよな?」 椛  「……?なにがですか?」 凍弥 「元気になれそうか?」 椛  「……難しいですね」 凍弥 「……頑張れ。お節介者で良ければ応援するから。     じゃ、俺ちょっと用事があること今更思い出したから。これで」 俺はスチャッと手を挙げて屋上のドアを───くいっ。 凍弥 「オウ?」 引っ張られる感触を憶え、俺は振り向いた。 するとそこには俺の制服の端を軽く摘んで俯く朧月が。 凍弥 「……どうした?」 俺はなんとなくやさしく声をかけた。 朧月が迷子の子供のように見えたからだ。 椛  「その……わたし……」 凍弥 「……ああ」 椛  「頼っても……いいんですよね?誰かに寄りかかっても……いいんですよね?」 不安を包んだような涙目で、朧月は俺を見上げていた。 俺は苦笑しながら完全に振り返ってその頭をポンポンと撫でた。 椛  「あ……」 凍弥 「当たり前だろ?人はひとりじゃ生きていけないんだよ。     だったら誰かに頼るのは当然だろ?     よく漫画とかで『俺はひとりでも生きていける』とか言ってるヤツが居るけど、     それだって結局、     食い物を売ってくれる人や金を作る人が居なきゃ生きていけないだろ?     極論も時には大事。とはいえ、説教は欲しくないのが人間のサガ。     だからこの話は終わり。朧月ももう帰りなさい。それと───」 椛  「……?」 凍弥 「……見つかるといいな、心を許し合える人」 椛  「え?あ───」 凍弥 「そんじゃな、元気出せよ」 椛  「わぷっ……!な、なにを……あ」 被っていた帽子ごとワシャワシャと頭を撫でて、今度こそ屋上をあとにした。 バタン、と閉まるドアの向こうで、朧月が俺を睨んでたような気がしたが、 俺はそれを苦笑で流して下駄箱へ駆けるのだった。 ───……。 スーパーの中を歩きながら、メモに書かれたものを手に取ってゆく。 浅美 『ヒドイですよぅ、凍弥さん……』 凍弥 「お前が寝てるからだろ?ちゃんと起こしに行ったんだからそう怒らないでくれ」 浅美 『怒ってなんかないですもん』 凍弥 「そりゃ良かった、だったらこの話は終わりだな」 浅美 『ひどい〜……』 情けない声を出す浅美をよそに、買い物カゴに積まれたモノを見る。 ……それを見るに、父さん達はおでんにするらしい。 凍弥 「ふむ、いいことだ」 俺はひとり頷いて歩いてゆく。 浅美 『ねぇ凍弥さん?もしかしてわたし、     友達じゃない時の方がかまわれてたんじゃないでしょうか』 凍弥 「起こしても起きないからだって。場になったんだから付き合いは長くなるだろ」 浅美 『……そんな、付き合いだなんて』 凍弥 「……どした?顔赤いぞ?」 浅美 『あ、いえいえなんでもありません』 凍弥 「?」 よく解らんが霊体って大して人間と変わらないんだな。 いいことだ。 死後ってのも案外悪くないのかもしれない。 もし霊体になったら悪霊にならないようにひっそりと楽しんで浮遊しよう。 うん、新たな楽しみが出来た。 浅美 『……どうしたんですか?笑ったりして?』 凍弥 「え?わ、笑ってたか?」 浅美 『はい、楽しそうに』 凍弥 「んー……まあアレだよ。もし臨終したらさ、     悪霊にならない程度にひっそりと楽しみながらいってみようって」 浅美 『臨終、ですか……』 凍弥 「ああ。そう思ってた方が、その時にも希望があるだろ?」 浅美 『………』 凍弥 「浅美?」 浅美 『……そ、そうですね。楽しみが増えますよね』 凍弥 「ああ。これで怖いものが少し減ったぞ」 俺が笑うと、スーパーの中に放送が響いた。 いつもながら五月蝿い。 浅美 『……臨終を迎えたら……消えてしまうのに……』 凍弥 「……ん?なんか言ったか?」 浅美 『………』 凍弥 「浅美?」 やがて放送が消える頃、浅美はいつになく暗い顔で俯いた。 凍弥 「浅美……」 浅美 『……ごめんなさい、なんでもありませんから』 凍弥 「それがなんでもないって顔か?……どうしたんだ?」 浅美 『………』 凍弥 「浅美」 浅美 『…………ごめんなさい、ちょっとメルちゃんに聞いたことがありまして……。     それを思い出してたら……』 凍弥 「…………そっか。俺はそれに相談に乗れるかな」 浅美 『……ごめんなさい、無理です』 凍弥 「こらこら、さっきから『ごめんなさい』ばっかだぞ?     でも……そっか。だったら気にしないでおくよ。お前もあまり暗くなるなよ」 浅美 『……はい』 凍弥 「うっし、そんじゃあ買うもの買って帰りますかぁ」 浅美 『おー』 浅美が拳を突き上げて笑う。 その笑顔にはやっぱり翳りがあって、俺は素直に笑えなかった。 オバン「ンマッ……なんざますのあのコ。ひとりではしゃいじゃってまあ」 オバン「きっとヤク中毒ざますよ三丁目の長井サン!」 オバン「やぁねぇ最近のクソガキャアは」 オバン×2『ンねぇ〜〜〜っ?』 ……頷き合うオバンども。 大きなお世話だ。 大体ちゃんとここに居るんだよ。 子供 「………」 凍弥 「ん?どした小僧」 子供 「小僧じゃないやいっ」 オバン「ンマァアーー!やすおちゃん!そんなコに近寄っちゃならないざます!     お馬鹿が伝染るざますよ!」 浅美 『伝染るのはこっちのセリフですよ。ねー?』 子供 「ねー?」 浅美 『え?』 子供 「……ん?どしたのおねーちゃん」 浅美 『…………うわ、どうしよ凍弥さん。このコ見えてるみたいです』 凍弥 「……このおねーちゃんが見えるのか?」 子供 「馬鹿にすんなー、俺、目なんか悪くないぞー」 凍弥 「………」 オバン「やすおちゃん!そんなクソガキャアの相手をしてると脳味噌が腐るさまず!     そんな独り言好きな男からは早く離れるザマス!」 ……うわー、言いたい放題だなあのオバン。 子供 「かーさん、なに言ってるの?ここにおねーちゃんが居るじゃん」 オバン「あん?なんざます?……居ないざまず」 子供 「ほらここ」 浅美を指差す子供。 保育園児くらいか? 子供は見えやすいってゆうからなぁ。 オバン「何も居ないざます!ボケたこと言ってっとハッ倒すざますよやすおちゃん!」 子供 「居るったら居るもーん。このろーがんババー」 オバン「ババッ───あんざますってぇーっ!?」 オバンが激怒した。 ずっかずっかと子供に詰め寄り、大根を振り上げる。 子供 「へへーん、当たらないよーだ」 しかしそれをあっさりとかわして逃げる子供。 鬼サンこちらーとか言って尻を叩いて挑発している子供を見て、 オバンのキューティクルヘアーが怒髪天をつく。 ヴァッシュ・ザ・スタンピードのような髪型になったオバンは、 逃げ惑う子供を追いながら、会計も済まさずに外の方まで走り─── 店員 「お客様!会計を済ませてください!」 オバン「あんざますかアータ!アタクシはPTA会長ざますよー!」 店員 「だったら尚更払ってくださいお客様!」 オバン「な、なにをするざます!離すざます!」 店員 「こ、困りますお客様!」 オバン「ええい、離せと言っているざますーっ!」 ボゴォッ! 店員 「ヘンリーッ!!」 大根(未払い)で殴られた店員さんが大地に崩れ落ちた。 しかも大根の方は硝子の剣みたいに破壊されたし。 オバン「やすおちゃーん!出てくるざますー!     てめぇPTA会長のアタクシに逆らってただで済むと思ってるざますーっ!?」 …………。 凍弥 「ああゆうのが絶対、自分が世界で一番偉いって思ってるんだろうなぁ」 浅美 『ですねー……』 俺と浅美は溜め息を吐いた。 最近のザマスババァもエキサイティングが常ですなぁ。 暴れまわって、ついには警察に連行されるザマスババァを見ないようにしながら、 俺は会計を済ませるのであった。 Next Menu back