───睡魔と財布と志摩兄弟───
凍弥 「はぁ。なんか疲れたなぁ」 浅美 『そうですねー……』 今もあのザマスババァの叫びが耳の奥にこびりついてる感じがする。 妙に疲れた。 さて、ところで。 凍弥 「父さん母さんの晩がおでんなのは解ったが……こっちはどうなるんかな」 浅美 『わたしは食べないからよく解りませんけど』 凍弥 「うーん、せめてそういうところは漫画チックにいってくれたらなぁ。     幽霊なのにモノが飲めて食べれて、     透けてる筈なのに胃の中のものが何故見えぬ、って」 浅美 『楽しんでません?』 凍弥 「どんなことでも楽しむことを忘れちゃならないぞ」 浅美 『楽しんでるんですね……』 凍弥 「まあまあそう腐るな。     俺はさ、何かあって暗いままで終わるってのが嫌いなんだよ。     例えば友達と喧嘩したとして、     仲直り出来るって単純なようでとんでもなく大切なことなんだぞ?     暗いままでずっと目を合わさずに避けるのって悲しいじゃないか」 浅美 『今の話と関係あります……?』 凍弥 「つまり、どんな状況でも楽しむようにしようってことだよ。     仲直りしようとして失敗しても悔やむんじゃなくて、     だったらまた新しい友達を!くらいにさ。プラス思考って言うんかな」 浅美 『……愉快な脳ですねー……』 凍弥 「ほっとけ」 そう言って笑い合った。 凍弥 「……あ、そうだ。なぁ浅美」 浅美 『はい?』 ……ふと思い立ってポケットからあるものを取り出した。 凍弥 「えっとさ、コレ、誰のサイフだと思う?」 佐古田に渡されたサイフを見せる。 浅美 『誰のって……勝手に持ち出したんですか?』 凍弥 「違う違う、佐古田のヤツに渡されたんだ。     急いでたから誰のかも聞いてなかったし」 浅美 『心当たりは?』 凍弥 「んー……な〜んか引っ掛かってるんだけどなぁ……」 浅美 『思い出せないんですか?』 凍弥 「えっと……なんていうんだろうな。愉快そうでいて真面目そうでいて……」 浅美 『なんですかそれ』 凍弥 「……解らん。思い出せないならきっと大したことじゃないんだよ」 浅美 『解ってませんね凍弥さん。人の頭って大切なことの方が忘れやすいんですよ?』 凍弥 「なに?そうなのか?」 浅美 『考えてもみてくださいよ。     どうでもいいことって案外憶えてるものじゃないですか?     それなのに大切なことって忘れてばかりで』 凍弥 「む、むう……確かに異様な説得力が」 そういえば俺も買い物のこと忘れてたしな。 ……なるほど。 凍弥 「じゃあ俺が忘れてるこのサイフのことも大切なものかもしれないと」 浅美 『ハイ、そういうことになりますね』 凍弥 「……グウム」 でも思い出せんものは思い出せんのだ。 凍弥 「脳って複雑だな」 浅美 『凍弥さんの場合、余計にですね』 凍弥 「オイ、そりゃ一体どういう意味だ」 浅美 『あははは、怒らないでくださいよ。     このくらいで怒るなんて凍弥さんらしくないです』 凍弥 「……じゃあ俺はどこで怒ればいいんだ?」 浅美 『そうですねー……誤って臨死体験させちゃったあたりですかね』 凍弥 「怒るどころじゃないだろそれは……」 浅美 『でも怒るでしょう?』 凍弥 「当然だ」 浅美 『くすっ……うふふふふふ……』 凍弥 「……笑うなよ」 だけど俺も穏やかに笑いながらそう言った。 凍弥 「あ、そうそう。今日さ、学食以降でメルティアに会わなかったか?」 浅美 『死神のメルちゃん?』 凍弥 「ああ、死神のメルちゃんだ」 浅美 『………』 凍弥 「浅美?」 浅美 『いえいえ、考え事を。ええ、会いましたよ。というより空き教室に来ました』 凍弥 「あれ、そうなのか?」 浅美 『ハイ、バッチリ』 なにがバッチリなのかは解らんが、どうやら来ていたらしい。 知らなかった。 凍弥 「ケガとかしてなかったか?」 浅美 『大丈夫でしたけど。何かあったんですか?』 凍弥 「コケたからさ。大丈夫だったかなと」 浅美 『コケたんですか。あ、そうでした』 凍弥 「うん?」 浅美 『……メルちゃんが言ってました。     わたしは死神で、災いを招くから───わたしには構わないでくださいって』 凍弥 「それを、メルティアが?」 浅美 『……はい』 凍弥 「……そっか」 ……そうまで言われちゃ……構わないわけにはいかないな。 浅美 『……なにか企んでません?』 凍弥 「企んでませんよ失礼な」 浅美 『………』 凍弥 「ところで浅美。災いを招くってどういうことなんだ?」 感じた疑問をそのままに訊いてみた。 浅美はちょっと俯いてから俺の目を見て口を開く。 浅美 『死神はその存在であるだけで『災い』を招くんです。     大きいものから小さいものを。普通それはランダムなんですけど、     メルちゃんに限っては小さな災いだけを呼ぶんです』 凍弥 「いいことじゃないか」 浅美 『いえ……その代わり、小さくても回数が多いんです。     連続的に災いが襲ってくるのを耐えられますか?』 凍弥 「……モノにもよるんじゃないのか?」 浅美 『そういうものでしょうかね……。     わたしは霊体だから災いに巻き込まれることはないんですけど』 凍弥 「いろいろ便利なんだな」 浅美 『場があってこそですよ』 凍弥 「そんなもんかな」 浅美 『そんなものですよ』 凍弥 「そっか」 浅美 『……でも、気をつけてくださいね本当に。     小さいながらも積もると強力ですから』 凍弥 「ああ。しっかし聞いといてなんだけど浅美の知り合いって霊寄りが多いよな」 浅美 『そうですね。純血の人間の人と友達になったのが死後だなんて変ですよね』 凍弥 「変とかじゃなくてだな……っと」 いつの間にか目の前にある鈴訊庵。 ……話に夢中になってた割に、道は覚えてるんだな。 器用なもんだ。 凍弥 「話はここまでだな。それじゃあ入るか」 浅美 『はいー』 浅美がにっこり笑って二階へ飛んでゆく。 壁抜けをしてダイレクトに俺の部屋へ消える浅美を見送ってから、 俺も中に入ることにした。 凍弥 「ただいま〜っと」 戸式の入り口を開けて中に入る。 鈴訊庵内部はひっそりとしていて、誰かが居るような感じではなかった。 凍弥 「父さん達のとこかな」 まあいいけど。 って、そういえば俺もこの買い物袋を家に届けなきゃいけなかったんだった。 凍弥 「仕方ない、パパッと行ってくるか」 俺は開けっぱなしだった戸から外に出て母屋(?)を目指した。 ……といってもすぐそこなんだが。 ───ピンポーン。 呼び鈴を鳴らして待つこと数秒。 柾樹 「はいはいっと。……ってなんだ、凍弥か」 凍弥 「なんだってことはないと思う。まあいいや、ホイ」 柾樹 「頼んでたヤツか。いつも悪いな」 凍弥 「健康のために自分で歩いていくのも悪くないと思うけど」 柾樹 「そんなことするまでもなく朝は散歩してる。     親の心配より、自分の体のことを考えるんだな」 凍弥 「へいへいっと。じゃあ俺戻るから」 柾樹 「ああ。与一やサクラに迷惑かけるなよ」 凍弥 「わ〜ってるよ。……って、こっちに与一とサクラ居ないのか?」 柾樹 「ん?来てないが」 凍弥 「……何処行ったんだあいつら。まあいいや、そんじゃ」 柾樹 「ああ」 父さんは親指を立てて俺を見送った。 柾樹 「早く孫の顔見せてくれな〜っ」 凍弥 「妙なこと言うなっ!」 柾樹 「父としてそう思うのは当然なんだが。     お前はなにか?父の楽しみにケチをつけるのか?」 凍弥 「人の意思を巻き込んだ遊びをするなって言ってんですよ父上殿……!」 柾樹 「安心しろ、お前が誰を選ぼうが父さん許すぞ」 凍弥 「トリップするなよ親父様……」 柾樹 「ちなみにだ。好みのタイプはどんなだ?」 凍弥 「無い」 柾樹 「好きなシチュエーションは」 凍弥 「存在しない」 柾樹 「……寂しいやっちゃなぁ……」 凍弥 「うるさいよ。結婚するしないは個人の勝手だろ?」 柾樹 「そうだな。だが子供まで作っておいて責任を恐れて結婚しないゲスにはなるな」 凍弥 「なるかっ!それ以前に結婚なんて考えとらんわ!」 柾樹 「安心しろ、俺が許す」 凍弥 「人の話を聞けって!」 柾樹 「父さんはお前の味方だぞー」 凍弥 「今まさにラスボスになり始めてるじゃないか!」 柾樹 「いやいや、そんなことはない。お前が誰を好きになろうが許すと言っているんだ」 凍弥 「好いた惚れたは個人の勝手なんだから当たり前だろ」 柾樹 「サクラなんてどうだ?昔っからの馴染みで取っ付きやすいだろ」 凍弥 「そんな感情抱いてない」 柾樹 「ほう?では昨日、食を囲んだという朧月という者か」 凍弥 「そんな感情抱いてない」 柾樹 「……あの佐古田という人物か?」 凍弥 「そんな感情抱いてない───てゆうかそもそも人の考えを無視して話すな」 柾樹 「まあ、いつか解ることだ。きっかけはいくらでもあるぞ。     まあ俺から見てお前は相手がお前を好きになるタイプだからな」 凍弥 「根拠は?」 柾樹 「お前が女を好きにならないからだ」 単純だ。 凍弥 「それでも俺がその人を好きになるとは限らないだろ?     父さんこそ未だに悠季美さんに睨まれてるじゃないか」 柾樹 「……あいつも物好きだからな。     俺はてっきり刹那とゴールインすると思ってたんだが」 凍弥 「そういう押しつけ的な思考、よくないよ」 柾樹 「解っとるわ。お前こそ、どこぞの誰かにそうやってるんじゃないか?」 凍弥 「そうかもな。いい加減帰るよ」 柾樹 「チィ、せっかくからかい相手が来たのに」 凍弥 「他を当たってくれ。俺ゃ知らん」 柾樹 「そかそか。そんじゃな」 今度こそ父さんは軽く手を挙げて家に戻っていった。 凍弥 「……俺も帰ろ」 与一達のことはどうでもいいや。 なんか眠いし。 凍弥 「ガッコであれだけ寝たのになぁ……くぅあ……ぁ〜ぁ……」 欠伸をしながら戸式入り口を通った。 冷蔵庫から麦茶を取り出して飲み、それを片付けて二階へ。 凍弥 「ちなみに春なのに何故麦茶かというと、     麦茶には血行をよくする働きがあるからだ。ちなみに与一の仕業だ」 遥一郎「……なにを独り言しているんだお前は」 凍弥 「あれ?なんだ居たのか」 声に反応して振り返ると与一。 遥一郎「ああ、ちょっと部屋でな。それより遅かったな、どうした?」 凍弥 「いろいろあったんだ。訊かないでくれ」 遥一郎「安心しろ、頼まれなきゃ訊かん」 凍弥 「……サッパリしてるなぁ」 遥一郎「まあどうでもいいだろう。これからどうする?」 凍弥 「寝る。メシの時間になったら起こしてくれ」 遥一郎「勝手なヤツだな……まあいいか。了解だ」 凍弥 「ああ、そんじゃ……」 向き直ってそのまま自室を目指した。 そういえばサクラは居るのかな〜とかそんなことを考えながら。 さすがにここ出る前に言ったことはキツかったかなって思ってたからな……。 凍弥 「……まあいいや」 自室のドアを開けて中に入った。 そこでは浅美がふよふよと漂っていた。 凍弥 「……どうしたんだ?」 浅美 『いえいえ、退屈だったもので漂ってただけですよ。ええ無害です』 凍弥 「……よく解らんが、まあいいか」 浅美 『そうそう、オールオッケーですよ』 凍弥 「………」 浅美 『それで、なにします?勉強ですか?     ゲームですか?読書ですか?テレビですか?』 凍弥 「寝る」 浅美 『寝っ……学校であれほど寝たじゃないですか!』 凍弥 「眠いものはどうしようもないでしょう。……というわけでおやすみ」 ばふっ、とベッドに倒れた。 制服のままだったが……なんかどうでもいい。 眠ろう、このまま…… 浅美 『凍弥さん?凍弥さーん……。     うー、やぱりわたしの所為なのかなぁ……』 ───。 凍弥さんが寝てから数時間後。 コンコンと、ふと聞こえたノックに気づく。 浅美 『はーい』 そして、つい返事。 あちゃ〜、とか思いつつ、どうせ聞こえるわけがないと安堵。 だが。 声  「───オウ?誰だ?」 浅美 『あ゙』 どうやら聞こえたらしかった。 声  「入るぞ」 浅美 『あ、わ、え、えと……!』 がちゃっ。 遥一郎「……うおう」 浅美 『あ、あわわ……』 男の人が部屋に入ってくる。 そしてわたしを見る。 遥一郎「……なるほど、他の女性に見向きもしないわけだ」 そして勝手に納得された。 浅美 『わ、わたしと凍弥さんはそんな関係じゃありませんよ!』 遥一郎「ほう?ならばどんな関係だ?」 浅美 『えっと……わたしが霊体なのは解りますね?』 遥一郎「初耳だ」 浅美 『あう……』 遥一郎「冗談だ」 浅美 『………』 変な人だ。 浅美 『と、とにかく。凍弥さんはわたしがこの世界に居られるための『場』なんです』 遥一郎「……ほほ〜う。なるほど、なら良し」 男の人はそのまま部屋を出て 浅美 『って、待ってください!それでいいんですか!?』 遥一郎「悪霊じゃないなら問題ないんじゃないか?」 浅美 『見ただけで解るんですか……』 遥一郎「凍弥が場になるって言ったんだろ?だったら俺の信用なんてどうでもいいのさ」 浅美 『………』 サッパリした人だ。 遥一郎「凍弥が起きたらメシが出来てると伝えてくれ。それと……無茶はするな、って」 浅美 『無茶……?』 遥一郎「場になるってのは相当大変なんだろう?     このまま無茶を続ければその内消えそうだからな」 浅美 『消えるって……知っているんですか!?』 遥一郎「当たり前だ。俺も消えた人間のひとりだからな」 浅美 『え───えぇえっ!?』 遥一郎「凍弥の中に奇跡の魔法の断片があることくらい感じてたよ。     俺は無茶しないように見守るためにこの場所に留まってるんだからな。     サクラの保護者気取りも、そのついでみたいなもんだ。     ……人が消えるってのは、忘れた方も忘れられた方も悲しいもんだからな」 浅美 『……あなたは……その悲しみを知っているんですね?』 遥一郎「……昔の話だよ。俺の友達がまず消えた。それを追うようにして俺も、な。     ───なぁ、風と空が暖かいって感じたことはあるか?」 浅美 『え……?季節によって変わるものじゃないですか』 遥一郎「……そっか。感じたことはないか」 ……なんのことなんだろうか。 この人の言っていることは少し解らない。 遥一郎「じゃ、凍弥をよろしくな。守護霊さん」 浅美 『え?わ、わたしそんなんじゃ』 バタン。 ドアが閉ざされた。 まだ言いたいことがあったにも関わらず、どうしてか彼を追う気にはならなかった。 浅美 『…………わたし、居ない方が凍弥さんのためでしょうか……』 その寝顔を見て呟いた。 そして触れるわけもないのにそのサラサラとした髪に手を伸ばし───さらっ。 浅美 『え?』 ……なでなで。 浅美 『……───触れる!?』 え?え?どうして……? 椛ちゃんには触れることなんて出来なかったのに……。 浅美 『……もしかして、凍弥さんの『場』ってとんでもなく特別なんじゃ……』 奇跡の魔法の具現としても見れる彼は、確かに矛盾の塊のようなものだ。 でもまさか、霊体であるわたしがまた何かに触れることが出来るなんて───! 浅美 『………』 もう一度髪に触れてみた。 すると凍弥さんはくすぐったそうにそれをゆっくりと払った。 浅美 『……子供みたい』 くすくすと笑った。 なんて穏やかな空気だろう。 この人の傍に居るだけでこんなにも落ち着ける。 椛ちゃんと居た時は、いつ死神が発動するのかって恐れてばっかりだったのに……。 浅美 『……寝顔、カワイイ……』 その頬に触れてみる。 まるで女の子みたいな感触。 息遣いが暖かくて、そんなものまで感じられる自分が嬉しかった。 浅美 『…………誰も居ないよね』 部屋を見渡して、今現在わたしだけが彼を見ていられることに喜ぶ。 この寝顔を知っているのはわたしだけ。 誰かのために一生懸命で、死にそうになっても誰かのことばかりを心配していた人。 やさしい人。 顔はかっこいいのに、眠るとこんなにかわいいなんて……。 浅美 『………』 胸がきゅん、という音を出した。 霊体なのにそんなことがあるのか、なんておかしくなったけど─── わたしはわたしを止められなかった。 どこかぽ〜っとしたまま、彼の顔を見て、そして─── 浅美 『………』 その唇に、唇で触れた。 ……なんて暖かいんだろう。 まるで、唇を伝ってぬくもりが伝わってくるようだ。 浅美 『………』 信じられない。 霊体になってから、人を好きになれるなんて。 人とキスすることが出来るなんて。 わ、わ……幸せすぎて死にそうです……! ……もう死んでるけど。 凍弥 「ん……」 浅美 『ッ!!』 バババッ!! 光を超えかねない速さで凍弥さんから離れた。 浅美 『あ……わ、わたし……何を……!?』 そして正気に戻る。 どっちが正気だか解ったものじゃないけど、とにかく驚いた。 人間の時の習慣だったからなのか、心臓が跳ね上がっている感じさえする。 でも……でも…… 浅美 『我が生涯に一片の悔い無し!!』 わたしは喜んでいた。 もう『生涯』終わってるけど。 やっぱりファーストキスは好きな人に贈りたいものです。 凍弥 「んん……ん?あれ……浅美?」 浅美 『あ、目が醒めましたか?』 凍弥 「ああ……なんか歓喜の叫びが聞こえてな……。なんて言ってたかな……」 浅美 『あ……あぁああそんなことは忘れましょう!     それより凍弥さん!晩御飯が出来てるそうですよっ!?』 凍弥 「ん……そか。じゃ、行かなきゃな……って、浅美?」 浅美 『は、はいーーーっ!』 凍弥 「うおっ!?あ、いや……どうした?顔赤いぞ?」 浅美 『へっ!?あ、な、なんでもないですからっ!     わたしのことは気にせずズズイッと階下へ!ね!?』 凍弥 「……?いいけど。もしなにか辛いことだったら言うんだぞ。いいな」 浅美 『はぅん……やっぱりやさしい……』 凍弥 「……浅美?」 浅美 「あ、ああああハイハイ!言いますから!」 凍弥 「…………?」 ぱたん。 困惑顔ながらも凍弥さんは部屋を出ていった。 浅美 『ああ……びっくりした……』 やっぱり霊体でも顔って赤くなるんですねー……。 嬉しいけどなんか恥ずかしいです……。 ───。 遥一郎「今日の晩はあっさりとしたサラダ仕立てだ。     ドレッシングは俺オリジナルのカロリー控え目ドレッシングだ」 凍弥 「与一って夜は大抵あっさり系作るよな。なんで?」 遥一郎「馬鹿、夜は消化器官の働きが悪いんだよ。     その点、朝は強いから重い物を食べてもOK。     いいか?朝は体が一日に必要な栄養を取るために活発になるんだ。     だからバランスの取れた食事を腹一杯食ってだな、     昼はそれより控え目なものを食べて、夜は締めくくりとして消化のいいものを」 凍弥 「いただきまーす」 遥一郎「あ、こらっ!話がまだ終わってないぞ!」 俺は先に摘むことにした。 サラダを頬張り、シャクシャクと咀嚼する。 凍弥 「そういやサクラは?」 遥一郎「おでんが食いたいって言ってな、あっちの方行ってる」 凍弥 「そか。あいつハンペン好きだからなぁ」 遥一郎「俺は玉子だな」 凍弥 「俺も玉子だな」 志摩 『我はこんにゃくぞ』 凍弥 「……ところでさ、どうしてお前らがここに居るんだ?」 さっきからシャクシャクと咀嚼しまくっている志摩兄弟を見る。 浩介 「それがな、ブラザーがサイフを佐古田好恵に強奪されたらしくてな」 浩之 「しかも佐古田好恵はとある男に奪われたと言うし。     食の宛てが無いのでここにやってきたわけだ」 奪われたって……おいおい、俺は押しつけられたんだが……。 って、それよりもあのサイフってこいつらのだったのか!? 凍弥 「えっと……そのサイフってこれか?」 スッとサイフを見せる。 浩介 「なに!?何故盟友が!?」 浩之 「も、もしや『とある男』というのは同志……貴様だったのか!?」 凍弥 「そんなわけあるか!」 浩之 「見下げたものだな同志……貴様がそんなヤツだとは」 凍弥 「人の話を聞け」 浩介 「そうか、全ては佐古田好恵の策略だったのか」 凍弥 「……そういうことだろ。食うなら黙って食ってくれ」 浩之 「了解だ」 志摩兄弟は再び野菜を頬張る。 浩介 「ふーむ、しかしこうシャクシャクと食っていると肉類も欲しくなるな」 浩之 「そのセリフ、我も賛同ぞ。一味脂が欲しい」 遥一郎「そうか。だったら───」 与一が立ち上がり、厨房に消えてゆく。 しかしすぐに戻ってきた。 その手には皿。 皿の上にあるのは─── 遥一郎「ほれ、ハンバーグだ」 浩介 「おお!これぞ!」 浩之 「ぬおお!」 浩介と浩之がハンバーグに箸を伸ばした。 しかし、勢いよく箸を伸ばしたわりにはゆっくりとした動作で口に運ぶ。 そしてゆっくりとモニュモニュ食す。 ……何故か白目だった。 浩介 「フオオ!肉汁のなんと美味なことよ!」 浩之 「肉最強!万歳ーッ!」 遥一郎「……大豆100%の豆腐ハンバーグだが」 志摩 『………』 志摩兄弟が固まった。 真実が辛かったようだ。 遥一郎「で?肉汁がなんだって?」 志摩 『……き、貴様……!我らをハメたというわけかっ……!』 遥一郎「誰も肉とは言ってないが」 志摩 『………』 凍弥 「肉と豆腐の区別もつかないのかお前ら……」 浩介 「なにを言う盟友!食してみれば全てはキミの手の中に!」 浩之 「全てを知るために食らうがいい!」 志摩兄弟が食を促す。 ……俺はハンバーグに箸を伸ばして食した。 凍弥 「………」 モグ……。 凍弥 「……肉汁こそ無いものの、味は大して変わらんな」 遥一郎「コレの場合、味を左右するのは肉ではなくてタレだからな」 志摩 『そうであろうそうであろう!我らの舌が変なのではないのだ!』 遥一郎「頭の中は変だがな」 志摩 『なにぃ!?それはどういう意味だ!』 遥一郎「ようするに馬鹿ってことだ」 浩介 「ゲェーッ!ハッキリと!」 浩之 「どうするブラザー!馬鹿にされたぞ!てゆうか馬鹿って言われたぞ!」 浩介 「グ、グムーーッ!」 浩之 「グムーではないだろう!どうする!」 浩介 「メシを食そう」 浩之 「ナイスアイディア」 カチャカチャ……モシャ、モグモニュ……。 勝手に自己解決した志摩兄弟は食事を再開した。 ……愉快な脳ってのはこういうヤツのことを言うんだと思うぞ浅美。 凍弥 「おかわり」 遥一郎「ああ。……今日はよく食うな。どうかしたか?」 凍弥 「なんだろ。よく解らないけど腹が減るんだよね」 遥一郎「太るぞ」 凍弥 「んー……それもなんでだろな。太る気がまったくしないよ」 遥一郎「……そうかもな。なんか痩せたか?」 凍弥 「どうだろうな」 遥一郎「ま、あまり食いすぎるなよ。夜に食いすぎるのは胃を悪くする」 凍弥 「ああ、解ってる」 俺はご飯を受け取って箸を動かした。 あまり満たされる感じがしないのはどうしてかな、とか考えながら。 ───結局、3杯食べて夕食を終えた。 ───……。 自室へ戻ると、そこでは浅美がポケ〜っと上の空を演出していた。 凍弥 「浅美?」 話し掛けても返事は無し。 ……俺は小さく息を吐いてベッドに座った。 凍弥 「明日、昼からだっけ。風間の妹と会うのは」 そう呟いて寝転がる。 そして出る溜め息。 どんな人なのかも知らないのに、なんだって承諾したんだか。 ……はぁ。 凍弥 「退屈だな……」 志摩兄弟はバイトだって言って帰ったし…………寝ようか? 凍弥 「そうだな、寝るか」 今ならいつまででも寝れる気がする。 電気を消して目を閉じた。 やがて眠気が俺の意識を支配して、俺は一日の終わりを迎えた。 寝ても寝ても眠気が出るのは変だな、と感じながら。 Next Menu back