───アレルギッシュメルティア───
───それは数十分前に遡る。 俺と志摩兄弟は気持ちを新たに学食を目指した。 階段を降りて廊下をのんびり歩いて。 やがて見えてきた学食で注文を取って席を探していた時。 ぽつんと、ひとりぼっちで寂しそうにテーブルに座る女が居た。 凍弥 「………」 俺は志摩兄弟にひと声かけてから息を吐き、あくまで自然にその娘に近づいた。 メル 「あ……」 凍弥 「………」 トレーの上にある食事に手もつけず、ただ俯いていたメル。 俺はその目の前の席にトレーを置いて座った。 メル 「………」 メルは気まずそうにして俺と目を合わそうとはしなかった。 実際、俺もまだ平然と話せるほどの余裕はなかったけれど。 彼女だけを悪者にして自分だけ立ち直ろうって思うほど外道はしてない。 凍弥 「……美紀の葬儀、もう済んだよ」 メル 「………」 メルはやっぱり喋らない。 それでも俺は続けることにした。 凍弥 「美紀さ、事件に巻き込まれて死んだのにさ……棺の中で笑ってるんだよ。     目の錯覚なのかもしれないけどさ。俺は……少し嬉しかった」 メル 「………」 凍弥 「───……ありがとうな」 メル 「え───?」 凍弥 「あいつの魂を救ってやってくれて、ありがとう」 メル 「………」 凍弥 「死神の鎌で切られた魂がどうなるのかはあまり考えたくないけど……     それでも、お前は恨まれてでもあいつの魂を救ってくれたんだよな。     ……それを……俺は……」 情けない。 あの時もこのくらいの思考は回っていた筈だったのに。 どうして気づいてやれなかったのか。 メル 「……やめてください。     わたしは……仕事を遂行するためにあなたの幼馴染を消したんです……。     お礼言われるなんて……お門違いです……」 凍弥 「───……」 俺の言葉に彼女がとった行動は拒絶だった。 彼女の中で美紀を切ったことは相当辛かったのかもしれない。 凍弥 「……あのさ」 ゴインッ! 凍弥 「ぐあっ!?」 喋ろうとした途端、タライが降ってきた。 メル 「……っ……もうやめてください……!     わたしにはもう……構わないでください……!     わたしにはそんな資格、無いんです……!」 メルが涙目になって席を立った。 俺はそれを見て─── 1:その手を掴み、振り向かせた 2:馬鹿野郎と怒鳴る 3:隙だらけの後頭部にポセイドンウェーブ 結論:1……てゆうか……こういう時にどうして3があるんだよ……。 俺は走り去ろうとするメルの手を取って振り向かせた。 メル 「あっ」 凍弥 「お前な、ずっとそうやって人を避けていく気か?」 メル 「でもわたしはあなたの幼馴染を……」 凍弥 「もういいって言ってるんだよ。あいつは幸せを探しに行ったんだ。     確かに辛くないって言ったら当然ウソだ。     だけど俺だってあいつのことでいつまでも暗くなってるわけにはいかないんだ。     悲しいけど、悲しみだっていつかは薄れるものなんだよ……。     それがたまたま今日になっただけだ。だから───」 俺は一度言葉を区切ってメルの目を……真っ直ぐに見た。 決して逸らさずに。 凍弥 「お前ももうそれを気にするな。     笑いたい時に笑えばいいし、好きなだけ人の傍に居ればいい。     タライが降ってくるくらいの災いなんて、こっちの方こそ望むところだ。     だから……もう泣くなよ」 そう。 俺が変わる日がたまたま今日になっただけ。 気持ちの切り替えが出来るようになったのなら、そこからゆっくり変わればいい。 そして以前通りの俺に戻ろう。 もちろんぴったり同じの自分になんてなれないけど、それは当然なんだから。 だって俺達は変わり続けている。 変わらないものなんて無い。 人が変わることにケチつけることはしない。 だけど手伝うことならいくらでもあると思う。 それを、俺は忘れちゃいけなかった。 凍弥 「……ほら」 俺はメルの目に浮かぶ涙を拭って、微笑んでみせた。 でもメルはどこか頼りなさを感じる目で俺をじぃっと見ていた。 例えるなら雨の中でずぶ濡れになりながら鳴く子犬と言ったところだろうか。 ……俺はメルの頭を撫でてから両の頬に触れて言った。 凍弥 「……もう、怒ってないよ」 そして今度こそ俺自身も心が晴れるのを感じた。 おそらく今までで一番の笑顔を贈れたと思う。 メルは俺の目を見て、なんでか真っ赤になって、俯こうとした。 だけど俺が頬に触れてる所為で俯くことも出来ず、ただ目を潤ませている。 そんな時。 男子A「おぉおおーーっ!!」 女子A「感動だわーっ!」 学食中から拍手喝采が起こった。 ……しまった、ここが学食ってことすら途中から忘れてた。 こんな風に茶化されたらメルは……あちゃあ。 ───見れば、メルは耳まで真っ赤にして、 目を潤ませるどころか恥ずかしさのあまりに俺に助けを求めるように泣いていた。 凍弥 「………」 俺はそれを和らげようとしてわざとメルの頭をわしゃわしゃと撫でた。 凍弥 「よし、メシ食うか」 メル 「………」 今度こそ俯いたメル。 そんな彼女の肩をポンポンと叩き、おずおずと顔を上げる彼女に目配せをする。 メルはそれに気づいて、ゆっくりとだけど頷いて席についた。 浩介 「……盟友よ。お前は一体なにしに学食に来たのだ?」 メルが席に着いて、俺も席に着いた時。 志摩兄弟が俺の傍に寄ってきてそう呟く。 凍弥 「メシ食いに来た。それは間違いない」 浩之 「ほ〜う……?我には昼メロ奥様劇場を上映するためにしか見えなかったが」 凍弥 「……断じて違う」 メル 「……あの」 メルが心配そうに俺を見る。 凍弥 「あ、気にせず食べちゃってくれていいぞ。     俺はちょっとこの馬鹿どもと話があるから」 メル 「…………はい」 メルはゆっくりと、ちょっとぎこちなく頷いて見せて食事に取りかかった。 俺は志摩兄弟に向き直って話を続行─── 凍弥 「………」 ………… 浩介 「どうした?盟友」 突然真っ青になって、ギ、ギギギ、ギィイ……と首を動かしてゆく。 そんな俺に浩介が疑問をぶつけた。 が。 それどころじゃなかった俺が見た、メルの食事は…… 凍弥 「………」 メルが今まさに口に運んで咀嚼しようとしているそれは……! 凍弥 「……───だぁああメル待ったぁああっ!」 メル 「え?」 しゃくっ。 凍弥 「あ」 た、食べちゃったーっ! 凍弥 「それじゃ、俺はこれで」 がしぃっ! 凍弥 「なにぃ!?」 突如俺の腕を掴む存在。 それは浩之だった。 浩之 「どこへ行く。まだ食事は済んではおらぞ。お百姓さまに謝れ」 凍弥 「それどころじゃないんだ」 俺は手短に説得を試みた。 浩之 「それどころだ。食事を残すことは死にも等しい」 意味が解らんが、そうこうしている内に彼女の咀嚼は続く。 ……そう。 『レタス』がどんどんと咀嚼されてゆく。 男子B「……っ!」 俺の様子に気づいた男子Bがガタタッ!と席を立った。 それに気づいた他の生徒もだ。 そんな折。 メル 「…………うっく」 それは始まった。 凍弥 「いや、ヤバいんだって!俺は泣き顔なんて御免なんですよ!?」 浩介 「なにをわけの解らんことを」 凍弥 「解らないんだったら離せ!いいから!」 騒ぎながらも前進しようとする。 が。 メル 「……にう〜……」 アレルギッシュ・メルティアさん発動。 そして逃げ出す男子生徒に向かって走り、飛びついた。 男子C「キャーッ!いやーっ!」 メル 「にうー!」 男子Cは倒され、それでももがくが逃げられない。 浩介 「うおう、なんと大胆な」 浩介はどこか感心したような顔をするが…… 男子C「いやー!いやーっ!オリーブオイルはいやーっ!」 メル 「にうぅ〜……!」 男子C「ギャッ、ギャーーーーーッ!!」 ……やがてオリーブオイルまみれになってぐったりと動かなくなる男子を見て驚愕。 浩介 「……盟友よ。これはどういうことだ」 凍弥 「……メルはレタス食うと酔っ払って、     本人でも知らないアレルギーを引き起こすものや、     本人が嫌がることを実行するんだよ……」 浩之 「な、なに!?何故それを早く言わぬ!」 志摩兄弟は慌て始めた。 どうやら苦手なものに心当たりがあるようだ。 でも メル 「にぅ〜……!」 メルの据わった目が俺達を映した。 時、既に遅し。 いやいや、出来る限り逃げれば─── 浩介 「とんずらーーっ!!」 凍弥 「あっ、て、てめぇっ!」 浩介が真っ先に逃げ出した。 その際、俺をメルへ押し飛ばして。 しかしメルは逃げ出した者を先に狙う習性があるようで、浩介を追った。 浩介 「ふはははははーっ!この音速の貴公子浩介さまに付いてこれるかなーっ!?」 ゴインッ! 浩介 「ギャア!?」 逃げ惑う浩介の脳天にタライがヒットした。 それとともに転倒する浩之。 浩介 「ば、馬鹿な……何故タライが……ハッ!?」 メル 「にう〜っ!」 がばぁっ! 浩介 「キャーッ!?」 メル 「にうにう〜〜っ!」 メルが手にしているものを見てみる。 てゆうか毎度毎度、どっから出してるんだ? とか思ってたら……それはスパゲティだった。 浩介 「ギャアアやめろぉおおっ!そんな西洋くさいもの食えるかぁああっ!!     日本人ならうどんだろうが馬鹿者ぉおおっ!」 メル 「にうっ!」 がぼっ! 浩介 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」 悶え苦しむ浩介。 凍弥 「……なに?浩介ってスパゲティ嫌いなの?」 浩之 「うむ……日本人ならうどんだろう、とな。     掻き揚げうどんばかり食うブラザーにとって、スパゲティはタブーなのだ」 凍弥 「………」 泣き叫ぶ浩介は未だにメルと格闘している。 浩介 「なんてもの食わせるのだ貴様!不味いわ!でもつるつるシコシコ!」 既に言ってることが支離滅裂だ。 メル 「にうぅ〜……!」 ぐりぐりぐり……! 浩介 「や、やめろーっ!やめるのだぁーっ!     いやーっ!いやーっ!凡此が!凡此が音も無く走ってくるーっ!!」 口にスパゲティを捻り込まされてマジ泣きする浩介。 てゆうか凡此(ボンゴレ)って誰? 浩介 「ギャアアーーーッ……あ」 がくっ。 志摩浩介、死亡。 気絶しただけだが。 ……で、次の瞬間メルさんがゆ〜っくりとこちらを向く。 浩之 「ど、どうするのだ同志……っ!」 凍弥 「どうするって……逃げるしかないだろ……!」 浩之 「しかし今のブラザーを見たであろう……!これでは……!」 確かにそうだ。 このままではふたりとも……ん? 男子D「………」 逃げ遅れたらしき男子Dがソロソロとこちらを見ながら静かに歩いてゆく。 このまま逃げようってハラか。 ───ぐにぃっ! 男子D「ブフゥッ!」 瞬間的に顔を変形させると、男子D見事に噴出した。 その途端、メルに見つかった。 男子D「あ、あわわ……」 メル 「にうーっ!!」 男子D「きゃーっ!いやーっ!!」 その隙に俺と浩之は頷き合った。 凍弥&浩之『とんずらーーっ!!』 そしてふたりして駆け出した。 ああ、男子Dよ……貴様の死は無駄にはせん……。 ───で、現在に至る。 公園近くを駆け抜ける。 生徒の抜け道とも言われている場所から逃げ出した俺と浩之は、 全速力でアスファルトを蹴っていた。 浩之 「ど、どこに行くのだ同志ィーッ!」 凍弥 「知らんっ!逃げられるだけ逃げるだけだぁっ!」 走る。 さらに走る。 浩之 「し、しかしここまで来れば大丈夫なのではないか……!?」 凍弥 「それはそうかもしれんが……!」 走りながら後ろを見てみた。 すると小さいながらもこちらに走ってきている人影がひとつ。 凍弥 「だぁああっ!来た来た来た来たぁああああああっ!!!」 浩之 「な、なにっ!?───ウヒョォオオオオオオオッ!!!???」 俺と浩之は全力以上の速さで走った。 火事場のクソ力というものだ。 途中、誰か見知った人と擦れ違った気もするが、気にしてる余裕など無かった。 ───……。 悠介 「……元気そうだが」 椛  「……ですね」 彰利 「おー、そうそう、あいつあいつ」 ステキな速さで駆け抜けていったふたりを見送った。 その少しあとにオナゴが駆けてゆく。 ……こっちの方が相当速かった。 悠介 「……追っていった娘、死神だな」 椛  「え……?」 彰利 「なにぃそうなのか?……んだってけしぇ、別に悪意は感じなかったザマスよ?」 悠介 「んだってけしぇ、ってなんだよ。     ……別に死神全部が悪意を持ってるわけじゃないだろ」 彰利 「……あー、そかそか。ダーリンてばルナっちと愛を育んだんですものね」 悠介 「ばっ……!お前もっと言い方ってものをだなっ!」 彰利 「キャア!耳まで真っ赤ぞ!ダーリンたらもう仕方ねぇんだかるぁ〜ん。     ほれ、ロート子供ソフト」 チャラ、と目薬を手渡した。 悠介 「……これでどうしろと」 彰利 「え?だってドラゴソボーノレのCMで、     お目々が真っ赤だーって時にこれ使ってたじゃん。     ドラゴソケースに入れてね♪って」 なにを言っているのだダーリンてば。 ハッ、まさか本体が年老いた所為でそげなことも思い出せなくなってしまったの? 悠介 「……とにかく要らん」 突き返される目薬。 彰利 「チィ、結論出す前に返すとは。……まあいいコテ。     とにかくダーリンがルナっちとナイトランデヴーをしたおかげで、     ここにこうしてべっぴんなお孫さんが居るわけなのね?」 悠介 「……殴るぞ」 彰利 「やってみろ。その隙に俺はお孫さんの唇を奪ってみせる」 椛  「……冗談じゃありません」 ぐさっ。 彰利 「……恐ろしい娘……。なんか若葉ちゃんと木葉ちゃん思い出すよ……って。     そうそう、そうYO。     この前ルナっちに会ってボコボコにされてきたんだけどさ。     あ、例のごとく思い出してくれてたみたいだからそれはそれでいいんだが。     アタイの存在がこの歴史に確定されたってことだからね?     でも他の誰もが居なかったザマス。みなさん、どぎゃんしたのかね?」 悠介 「全員嫁いだぞ?」 彰利 「うそっ!……マジすか?」 悠介 「大マジ」 ……し、信じられんっ……!あの兄ッコどもが……!? 彰利 「しっかし大変だったっしょ、ルナっちと愛を育んだ時は。     みなさま悠介にべったりだったからねィェ〜、俺も含めて」 悠介 「……まあ、な。全員力ずくでルナを排除しようとしたぞ」 彰利 「うおう、そこまで行きますか」 末恐ろしい娘ッ子どもじゃ……。 椛  「あの……」 悠介 「うん?どうした椛」 椛  「先ほどから気になっていたのですが……この方は何者なのですか?」 丁寧な口調でダーリンに語りかけるお孫さん。 ……アタイの時とは雲泥の差を感じた瞬間だった。 キャア!アタイってば女性みんなにこんな態度取られてる気がするYO! 彰利 「……むなし〜……」 悠介 「こいつは……えーと……変態オカマホモコンだ」 彰利 「ダァーーッハハリィーーンッ!!まだその名で呼びますか!?」 悠介 「それ以上でもそれ以下でもない」 彰利 「人の話を聞いてダーリン!あなたいつもアタイにそう言ってたじゃない!」 悠介 「そんな昔のことは忘れた」 彰利 「だったら訂正して?」 悠介 「だめだ」 彰利 「憶えてるじゃん!バッチリ憶えてるじゃん!!」 悠介 「ええい知らん。……ったく、勝手に居なくなりやがって」 彰利 「そんなん既に時効でしょ?アタイの知ったこっちゃねィェ〜」 悠介 「お前の勝手に振り回された身にもなってみろ。     俺はな、憶えていたかったんだぞ?それを自分の存在まで消しやがって……」 彰利 「……ダーリンてば、そんなにアタイのことを愛していたのね……?」 悠介 「椛、手伝え。今すぐこいつを除霊するぞ」 椛  「はい、おじいさま」 彰利 「ええっ!?あ、やっ……やめて!     アタイはひとりしか居ないの!ふたりなんて相手出来ないワブボッ!!」 ダーリンの拳がアタイの頬を捉えた。 な、なんて熱烈なアタック……!アタイ、目覚めちゃいそう……! 彰利 「なんて言ってる場合じゃねィェーッ!!待ってダーリン!おまけにお孫さん!     アタイってば生身ですよ!?除霊されたら殺人ですよ!?     やめて!やめギャアアアアアアアアアアッ!!!!」 ああ……アタイ、今思いっきり生きてるよ……。 やっぱダーリンの傍は最強ね……。 ………………ゲフゥッ。 ───……。 凍弥 「ひーは!ひーはぁっ!」 浩之 「はぁっ!はぁっ!     あぁーっと100M7秒フラットくらい平気で越せそうな勢いだぁーっ!!」 俺と浩之は町内マラソンよろしくなくらいに走ってた。 何かが違うとしたら、俺と浩之も全力以上の速度で走っているということだ。 そしてメルはもう随分近くに来ている。 当然だ。 曲がり角を使ってショートカットしようにも、壁抜けしてきて対処できないのだ。 浩之 「どうしてあのオナゴも死神だと言わなかった同志!」 凍弥 「言ってる暇なんてなかっただろうがぁーっ!!」 学校への道を引き返すように走る。 結局町内一周グルリ旅をしたようなものだ。 凍弥 「はぁっ!はぁっ……む?」 走っている最中、倒れている人影を見た気がした。 だが気にしている余裕も無かったので走った。 どっかで見たような気もしたがそれどころじゃないのだ。 メル 「にう〜!」 浩之 「ヒ、ヒィイイイイッ!!」 いつの間にか紅ショウガを手に持ったメルが浩之に迫っていた。 そうか、浩之は紅ショウガがダメなのか。 浩之 「い、いやじゃああああああああっ!!     とんこつラーメンに勝手に紅ショウガ入れるのは邪道だろうがぁーっ!     こっちは金払ってるんだぞぉーっ!?」 浩之、根性の激走。 浩之は俺を抜き、さらに走った。 俺もそれに続くように死ぬくらいの勢いで走った。 ああ、心臓が痛いくらいに鼓動してるよ……! ……でも考えてみれば俺の場合は泣かれるだけなんだよね。 なにもここまで走らんでも……いやいやいや! それって結局俺が泣かせてるのと同じじゃねぇか! そんなの俺は嫌だぞ!? 浩之 「ぬおおおおっ!」 凍弥 「根性じゃぁああああああっ!!」 俺と浩之は男塾に入塾するような勢いで気合を入れた。 その頃にはもう目の前に学校があった。 浩之 「どっ……どうす……だ、同志……!」 凍弥 「がくしょ……がくしょくに……っ!!」 既に声も満足に出ない。 だが閃いた俺は学食へ急いだ。 ───……。 椛  「……何をしているんでしょうか……」 悠介 「マラソンじゃないか?」 椛  「………」 あの人が走っていった道を眺めて息を吐いた。 悠介 「ところで椛はどこに行くつもりだったんだ?」 椛  「どこでもよかったんです。勉強は今更ですから」 悠介 「……なるほど」 椛  「それよりおじいさま。先ほどからこの人が動かないのですが……」 悠介 「いつものことだ。気にするな」 椛  「………」 どういう青春時代だったのだろう。 わたしは少しこのふたりに関して考え込んだ。 ───……。 凍弥 「あ……明日奈さん……!キャ、キャベツ……!」 明日奈「はいよー」 学食のおねーさん、明日奈さんが注文を承ってキャベツをくれる。 浩之 「同志よ……!な、なにをする気だ……!」 凍弥 「はー、はー……んぐっ……!く、はぁー!はぁーっ……!     レ、レタスに対抗するには……キャベツしかないだろ……!」 浩之 「はぁ……はぅあ……!そ、そんなものでいいのか……!?」 凍弥 「やるしかないんだ……!まず狙われるのはお前だ……!これを受け取れ……!」 浩之にキャベツの欠片を渡した。 一口サイズで食べごろだ。 凍弥 「襲われたらそれをメルの口に放れ……!上手くいけば助かる……!」 浩之 「う、うむ……!」 メル 「にうーっ!」 浩之 「なっ!?ギャッ……ギャーッ!!」 凍弥 「浩之っ!?」 ああ、なんてことだ! メルは浩之が背もたれして休んでた壁から現れた! そして浩之ごと壁抜けをしてどんどんと消えてゆく! 凍弥 「浩之!浩之ィーーッ!!」 浩之 「同志ぃっ!ど、どう───助けっ……!紅ショウガは───ギャアアア!!」 ……やがて、浩之は壁へと消えていった。 凍弥 「浩之……」 そして浩之が立っていた場所にはキャベツの欠片が落ちていた。 ……なんてこった……。 凍弥 「……壁は、ダメだ」 俺は壁から離れて構えた。 神経を全域に配る。 死神の気配はどこから来る……!? そしていつから俺はこんな戦場の真っ只中に居るような状況に立つ男になったんだ……? そんな考えを今まさにしている時だった。 ゴインッ! 凍弥 「ぐあっ!?」 タライが降ってきた。 ってことは近く───! 感じろ、ヤツの気配を───!! 凍弥 「…………!!」 下───いや、上ッ!! 凍弥 「はァーッ!!」 俺はキャベツを空中へと放った。 千切ってあるから食べごろです。 そしてその先から現れるメルがそれをパクッと食べた。 メル 「!」 ……あ、なんか空中で痙攣してる。 メル 「……───あ……わ、わたし……何を……?」 凍弥 「………」 わぁ、ほんとにキャベツで正気に戻っちゃった。 メル 「……凍弥さん?」 きょとんとした顔で俺を見下ろすメルさん。 凍弥 「……とにかく。その格好じゃあいろいろアレだから降りなさい」 メル 「え……?」 メルが自分の格好を確認した。 それは……まあ、逆さの状態で居るわけだから、スカートなんかもアレなわけで。 メル 「ッ……!!」 瞬間的に真っ赤になったメルは音速をも超えかねない勢いでスカートを抑えた。 そしてひらりと華麗に着地すると、俺を睨んだ。 メル 「……見ました?」 凍弥 「見てない。てゆうか興味無い。そういうことは志摩兄弟に言え」 メル 「……それはそれで悔しいです……。ところで……あ、あの……」 キョロキョロと周りを見渡したメルは呟く。 メル 「もしかして、わたし……また……?」 凍弥 「ん」 で、俺は思いっきり頷いた。 メル 「ご、ごめんなさいっ……」 凍弥 「ていっ」 ずびしっ。 メル 「あっ……?」 メルの頭にチョップをキメた。 とは言っても、ほんの軽いものだが。 凍弥 「謝るのは無しだ。人に謝られるのは好きじゃない」 メル 「で、ですが……」 凍弥 「ダメなものはダメ。OK?」 メル 「………」 凍弥 「確かにいろいろあったけど、俺はもう段階をつけることにしたんだ。     気持ちの整理をつけるのは俺次第なんだから、俺はこれでいいと思ってる」 メル 「凍弥さん……」 凍弥 「だからさ、メルももうそんなに気にしないでくれ。     確かにこの惨状はヒドイが……うん、深く考えることでもないだろ?     だから、ほら。スマイルスマイル」 メルの頬に触れ、笑顔を作ろうとする。 が、思うほど上手くはいかなかった。 メル 「……凍弥さんは……不思議な方なんですね」 凍弥 「霊が見えるだけで十分だろ」 メル 「そういう意味ではなくて……」 凍弥 「ま、いいさ。不思議でも俺は俺だろ?」 メル 「……そうですね」 メルはそう言って、ぎこちなくだけど……微笑んでみせた。 凍弥 「………」 メル 「……凍弥さん?」 凍弥 「え?あ、いや……いい笑顔するんだなって思って」 メル 「え───?笑顔……ですか?」 メルは信じられない、といった感じに驚いている。 ……なんだ?笑顔なんて誰でも出来るだろうに。 凍弥 「どうかしたのか?」 メル 「……いえ……。わたしも……まだ微笑むことが……出来たんですね……」 凍弥 「……───」 囁くような小さな声を出して、メルは……結局泣いた。 凍弥 「あ、いやっ!だからどうして泣くんだ!?泣く人ほど苦手なもの無いんだってば!     も、もしかしてまだ酔ってるのか!?なぁあっ!」 メルは何を言っても泣き止まなかった。 結局俺はメルが泣き終えるまで動けずに、その場に立っていた。 ……だってさ、袖掴まれてるんですもの……。 小さく溜め息を吐きながら、それでも苦笑して……泣いているメルの頭を撫でてやった。 ……───日常はいつも通りに動いていた。 街は普通に動いていたし、天気だっていつものような真っ青な蒼空を見せていた。 それでも同じ日が来ることは無く、俺達はいつでも違う日常の中に居た。 子供の頃からずっと続いて、今も、そしてこれからもずっと傍にある日常というもの。 空や風に抱かれながら、俺達は今を生きている。 退屈な時間に欠伸をすることも、夢中になって時間を忘れることも大事な日常だ。 そして……ふと思うことは周りに友達と呼べる人が居て良かったと思うこと。 支え合えるってゆうのはいいものだ。 ……さて。 そんな日常の風に揺られながら、人ってのはいろいろなことを考える。 未来のこと、過去のこと、そして現在のこと。 やがてようやくメルが泣き終わり、俺も解放されて帰路を歩んでいた時、俺はふと考えた。 日常のこと、空のこと、風のこと、桜のこと……そして、幼馴染のこと。 時折流れそうになる涙をぐしぐしと拭って、俺は空を見上げた。 夕焼けを迎えたその空はとても綺麗で、俺は立ち止まってその空を眺めていた。 そして……明日はどんな日になるかな、とか思いながら。 久しぶりに今日は何かいいことがありそうな気がするとか言ってみて、足を踏み出した。 やがて歩く。 だけどまた思考が何かを訴えたとき、俺は立ち止まって考えた。 そして『あぁっ!』と叫んだ。 ……いろいろな思考回路が巡りゆく中、俺は─── ただ、メルに連れ去られた浩之の行方が気になったのであった。 ……どうしてオチを作るかねぇ、あいつは……。 Next Menu back