暦の上で夏が来る頃、その空は新しい蒼空を見せてくれた。 いつまでもクヨクヨしている気分じゃないと思っていても、 その気分というものは中々思い通りには動いてくれなくて。 だけどそんな時に見上げた空は、いつだって蒼かった。 いつだって、チャンスというものはくるものだけど、 それを逃すと泣くしかないのだろうか。 わたしは俯きながらそれを考えた。 なんのためにここに居るのか。 なんのためにわたしは杖を手にしていたのか。 それが解らなくなった頃、わたしは自分への憎しみに、その涙を流した。 ───魔術師と馬鹿───
薄暗い部屋の中、女と男が向かい合っている。 色気の無い部屋に、色気のない思考のふたりが。 自身を『魔術師』と呼ぶその女は、いつからか引っ付いてきた男を見て微動だにしない。 ……いや、息くらいは流石にする。 男  「さて、リヴァイアさん」 魔術師「その呼び方はやめろと何度言ったら解るんだ。好きじゃないからやめろ」 男  「しかしですね。名の云々などは魔術師の気に留めるものではないでしょう。     元より名称など己を象るだけの───」 魔術師「やめろランス。お前の説明口調は聞き飽きた」 ランス「我が儘な方だ。     私の方こそあなたのその怠慢な態度は飽き飽きですよ」 魔術師「へえ」 魔術師はここでようやく笑った。 いつも笑うことのない、無表情とも言える表情は、 相手への反発を覚える時くらいにしか変わらない。 魔術師「じゃあ訊くけど。ランス、なんでお前はわたしに付き纏う?     わたしはお前なんて従えた憶えはないけど」 ランス「私事です。話す必要性を考えれば、そんなものは元より皆無ですね」 『元より』という言葉を口癖にしているランスという男は、おかしそうに笑った。 彼にとって彼女に付き纏う理由は、 『ただ単に面白いから』ということに、彼女は気づいていない。 魔術師「じゃあ飽き飽きするのも私事か?」 ランス「それは違いますよ。言うことが毎度毎度変わらないから飽きているのであって、     元よりリヴァイアさんの傍で退屈はありませんよ」 魔術師「よせって言ってるだろ。リヴァイアでいい」 ランス「そうはいきませんね。私としてもこの呼び方は好きなので」 魔術師「……フン、勝手にしろ」 ランス「その言葉、今まで何度口にしたかを憶えていらっしゃいますか?」 魔術師「過去の記憶なんて然程大事じゃない。いちいち五月蝿いんだ、お前は」 ランス「すいませんね、元より性分なもので」 ランスはペコリと綺麗なお辞儀を見せて微笑んだ。 幼さの残る顔立ちに神父の服。 魔術師との関連性が伺えないその立ち居振る舞いと、 故意に敵を作らない性格は、彼女にとって嫌いなものではなかった。 問題点があるとしたら……自分のことを『さん』付けで呼ぶことだ。 リヴァイアサンと呼ばれているようで嫌なのだ。 魔術師「いいかランス。わたしはお前に付き纏われるのは正直うんざりだ。     いい加減、故郷のアントエンハンスに帰れ」 ランス「ああ、よくわたしの故郷を憶えていましたね。     過去を気にしないあなたにしては珍しい」 魔術師「人の話を聞け。お前の悪い癖だ」 ランス「そうでしょうか?元より癖などという概念は頭の中にはありませんので」 魔術師「……もういい。一言言ってからにしようと思ったが、それも馬鹿な話だ。     部屋を出ろ、わたしはもう寝る」 ランス「そうですか。よい旅を」 魔術師「………」 彼女は先を見透かされて苛立った。 どうしてこいつはこう、人の先を見るのが上手いのか。 ランス「止めはしませんよ。私は私で自己の研究を高めましょう。     地界では世界の回転が違うそうですから、     空界と同じなどと考えないようにしてください」 魔術師「お前は……誰に向かってものを言ってる」 ランス「……そうですね。魔術師であるあなたにはこんな話は無粋ですね。     では、次に会う日がいつになるかは解りませんが、時が来れば会えるでしょう。     それまでごきげんよう、マイマスター」 彼はふざけ半分でそう言った。 彼女はそれを鼻で笑ってやると、魔術でひとつのゲートを作った。 研究の果てに完成した空間を移動する魔術だ。 向かう先は近い。 シェイドという冥界の死神が面白い存在が居るというので行くことにした。 ……というのは建前で、ランスから離れたかっただけだ。 さて、地界とやらはどのような場所なのか。 向かう今から……まあ、楽しみといえば楽しみか。 ───じゃりりりりりりんっ。 がしょん。 凍弥 「うー……」 のそりと起き上がってベッドから降りた。 時間を確認すると、目覚ましをつけた時とは少しズレた時間でございました。 ……時計、少し狂ってるな。 凍弥 「新しいの買わないとダメかな……」 まだ少しぼ〜っとする頭を叩いて、手早く着替えを済ませた。 凍弥 「よしっ」 ビシッと制服に身を包んだ上で部屋を出る。 今日は少し肌寒く、目が醒めるのは早かった。 ああ、べつに起きるとかのことじゃなくて、寝惚けた頭が醒めるって意味で。 凍弥 「くあ……ぁ〜ぁ……」 それでも欠伸は出るようだ。 やれやれ、最近ナマってるな……と、階段を降りながら考えてた。 トントン……トン。 階段を降りきる頃には思考も切り替わり、 今日見た夢はどんなものだったかなというものになっていた。 そんな思考も適当に振り払い、開いているドアをくぐってカウンター側に降りた。 靴を履いて厨房に入ると、パンを用意してトースターに放り込む。 目盛りをジ〜ッ、と一度大幅に回し、適当な部分で折り返して止める。 あとは出来あがるまで待つだけだ。 っと、その前に牛乳だな。 カウンター側に戻り、冷蔵庫を開けて牛乳を探る。 が、牛乳は無かった。 凍弥 「あー……そういや昨日サクラがぶちまけて無くなったんだっけ……」 なんてこった、朝の気分が台無しだ。 凍弥 「……はーあ、家の方にあったっけ……」 溜め息を吐いてそのまま外に出た。 真っ直ぐに歩いて少し逸れ、霧波川家に辿り着く。 別に親に用があるわけでもないからそのまま入り、家の中に上がった。 中に進んで行くと、ダイニングルームに母さんを確認した。 夕  「あ……凍弥?どうしたの?」 凍弥 「牛乳あるかな。こっちの方無くなっててさ」 夕  「残念だけど、低温殺菌牛乳はないわよ」 凍弥 「………」 ……母さんってこういうところで鋭いんだよなぁ。 夕  「んー……図星?」 ほら。 凍弥 「俺は低温殺菌牛乳しか飲まない」 見事に図星を突かれた俺は、ぶっきらぼうに答える。 が、母さんはおかしそうに笑った。 夕  「あははっ、ワガママねぇ」 凍弥 「ほっといてくれ」 夕  「どうする?どこかで買っていく?」 凍弥 「いや、ヘブントゥエルブには低温殺菌売ってないからいいよ。     今の時間で開いてるスーパーも無いし」 夕  「そう?」 凍弥 「ん、別に飲まなかったら死ぬわけでもないし。もう行くよ」 夕  「そう。行ってらっしゃい凍弥」 凍弥 「行ってきます、母さん」 母さんに軽く手を上げてみせて玄関に向かった。 で、ふと気になって声をあげてみた。 凍弥 「そういや父さんはっ?」 声  「刹那くんの所に泊まってるの〜っ」 すると、どこか間延びしたような声が聞こえてきた。 ……そっか、今日は母さんひとりだったんだ。 ふぅっ、と息を吐いて靴を吐き、玄関を開けて外へ出る。 凍弥 「…………ちょっと空が濁ってるな」 外に立って見上げてみれば、水色の空が広がっていた。 その空の下の空気はいつもより寒いのは俺が家に戻った程度じゃ変わらない。 大きく息を吸ってみると、体の中から冷やされる錯覚を憶える。 少し寒いけど……うん、天気が悪いわけでもない。 凍弥 「……こんな日はなんだかいいことがありそうだよな」 グミミミ……と伸びをしながら笑った。 うん、こんな日も悪くない。 牛乳ごときで暗くなってはそれこそ朝の気分が台無しだ。 凍弥 「さてと、そろそろパンも焼けた頃だろ。さっさと戻るか」 何故か顔がニヤケてしまう。 だが本当に悪い気がしない。 俺はそのままの顔で鈴訊庵に戻った。 ……が。 凍弥 「……なんだこの臭い」 何かが焦げたような香りと、なにやら厨房の方で鳴り響く轟音。 凍弥 「なんだぁっ!?」 嫌な予感を払拭出来ないままに俺は駆け出した。 滑り込むように厨房に入ると─── サクラ「あ、あぅ……」 サクラが何かをしていた。 俺に見つかった所為か、あたふたと慌て始める。 凍弥 「お前、まさかまた料理を……」 サクラ「これは、その……」 サクラを睨む。 サクラはビクッ、と肩を震わせて俺から距離をとった。 で、サクラが立っていた場所のまな板にはサクラの手によって無残に惨殺された魚が。 凍弥 「うわ、ひでぇ……朝っぱらからタタキでも作りたかったのかお前……」 何かの魚だ、今は見る影も無い。(バイオハザード風に) サクラ「う、うー……ヒラキにしたかっただけですけど……」 凍弥 「……それをどうすればこんな惨殺現場が出来あがるんだ?」 サクラ「どうすればって……」 サクラが、惨殺した魚と俺を見比べる。 ヒラキ、というからには多分サンマかアジあたりなのだろうが、 既に原型をとどめていない。 でも中途半端に原型があったりして、そこらへんが惨殺っぽい。 撲殺の次は惨殺なのかこいつは。 どこまで不器用なんだか……。 凍弥 「……ほら」 サクラ「え……?」 サクラに向かって手を伸ばした。 包丁をよこせ、という意味で。 しかしサクラは俺の目と手を交互に見て、何を思ったのかひょい、と手を乗せてきた。 凍弥 「誰がお手をしろって言ったぁっ!包丁だよ包丁ッ!」 サクラ「はうぅっ……!」 サクラは怯えた表情で俺に包丁を渡してくる。 俺はそれを溜め息の吹き出しとともに受け取り、まな板の上に別の魚を寝かせて構える。 凍弥 「ほら、こっち来いよ」 サクラ「え……?」 凍弥 「そっからじゃあ見れないだろ?魚の捌き方教えてやるって言ってるんだ」 サクラ「………」 凍弥 「お前は……なに怯えてるんだよ、別にどうこうしやしないって。     見るだけなら楽だろ?ほらっ」 サクラ「あっ……」 サクラを引っ張って横に立たせる。 凍弥 「いいか?まずはな───」 サクラ「………」 魚を手際良く切ってゆく。 サクラは魚を見てるのか俺を見てるのか解らない微妙な場所を見ていて、 俺は魚を切り終えてから溜め息を吐いた。 凍弥 「……ちゃんと見てたか?」 サクラ「え?あ……あの」 ……やっぱり見てなかったみたいだな。 凍弥 「…………はぁ」 俺はサクラに向かって手を伸ばした。 その手にビクッと反応して目を閉じるサクラ。 ……叩かれるとでも思ったんだろうか。 凍弥 「………」 ポンポン。 サクラ「…………?」 ただ頭を撫でて、俺はもう一度溜め息を吐いた。 凍弥 「料理の練習するならいつでも声かけろ。教えてやるから」 サクラ「え……?え……?」 俺の言葉に、サクラは首を傾げるだけだった。 考えてみると、最近はいろいろあってサクラと会ってなかったんだよな。 美紀と仲がよかったのはこいつも同じで、悲しんでいたのも確かだろうに。 凍弥 「んじゃな、俺はもう行くから。     それと……朝っぱらから落ち込んだ顔見せるなよな。     人に怒鳴る程度が十分だよお前は」 サクラ「なっ……どういう意味ですかそれは!」 凍弥 「そーそー、その調子」 ケタケタと笑って厨房を─── 凍弥 「……なぁサクラ。そういやこの焦げ臭いのってなんなんだ?」 サクラ「え?───あーーーっ!!」 なんか知らんが叫んだサクラがトースターをガチャァと開く。 そこからは黒煙がモファアと吐き出される。 サクラ「あうぅ……」 凍弥 「………」 ……で。 その中では俺の朝食が無残な姿で発見された。 ……撲殺、惨殺に続いて焼殺かよ……。 凍弥 「………」 サクラ「あ、あの……えっと……さっき見たら焦げ目もついてなくて……     その……だから……わたしが……」 凍弥 「………………」 サクラ「あ、あぅ……」 はぁ。 凍弥 「いいよ、気にするな。どっかで買って食うから」 サクラ「そんな、まだ時間はありますよ……?」 凍弥 「朝の空気は嫌いじゃないんだよ。牛乳も無いからどうでもいい」 サクラ「あ……」 牛乳、の言葉で酷くしゅんとするサクラ。 俺はそんなサクラにもう一度気にするなと言って、厨房を出た。 サクラ「凍弥さんっ」 凍弥 「いいって。そんじゃ、行ってくる」 ぶっきらぼうに声を発して鈴訊庵をあとにした。 まったくダルイ。 さっきまでの平穏はどこに逃げたんだよ……。 溜め息が止まらない。 凍弥 「………」 ……ほんと、止まらないよな。 世の中が平等だ、なんて言ったヤツは何処のどいつだよ……。 ───……。 ……最近、凍弥さんは変わったと思う。 それはもちろん美紀ちゃんの所為だと思う。 彼女の死が相当辛かったんだ。 わたしだって辛い。 地界での初めての女友達だったのだから。 でも、凍弥さんはきっとわたしより辛かった。 美紀ちゃんとの付き合いがわたしより長かったのはもちろんだけど、 彼女の魂が消えるところを見たというのだ。 それも、悪霊に取り囲まれて消えたという場面を。 わたしより辛くないわけがない。 だってわたしには、そんなもの見えないから……。 サクラ「………」 まな板の上にある魚を見てみる。 ヒラキにされた魚と、惨殺された魚。 どうして教えてくれる気になったんだろう。 どうして見てろだなんて言ってくれる気になったんだろう。 わたしにはそれさえ解らない。 これだけ一緒に居て、どうして彼の考えることがこうも解らないんだろう。 教えようとしてくれたのは、悲しさを紛らわせたかったから? それともいつものようにわたしをからかいたかったから? ……わたしは凍弥さんじゃないから確信なんて得られないけど、 そのどれもは違う気がした。 もっと単純な、『ただ気が向いたから』くらいのものじゃないかって思った。 でも…… サクラ「……解らないことだらけだ……」 溜め息が止まらなかった。 どうして友達が死ななければならなかったのか。 どうして凍弥さんはああやって普通で居られるようになったのか。 そのどれもが解らないままで、わたしは厨房に立ちながら俯いた。 ───そんな時、わたしの頭を撫でる存在があった。 遥一郎「……なにしょぼくれてるんだ?」 遥一郎さんだ。 酷く穏やかな声で話し掛けてくれる存在。 わたしはこの人が嫌いではなかった。 おばあさまが好きだった人ということもあるのだろうけど、 それ以上に話しやすいし落ち着ける。 わたしが本当にいけないことをしない限りは怒ったりはしない。 ……そう、パンを焦がした程度じゃあ怒ったりしない人。 でも好きというほどでもなかった。 あえて言うなら親のような存在だから。 そういう意味で言えば、親のような存在としては好きだ。 遥一郎「ミニ?」 サクラ「思うんです。もしわたしが悪霊に襲われていた美紀ちゃんの傍に居れたら、     ストレインで災いを消せたんじゃないかって。     ……本当に吸収出来るかどうかなんて解りません。     悪霊は災いでしょうけど、元は人間なんです……。     魔器がそれを吸収出来るかなんて……わたしには……」 遥一郎「……過ぎたことをいつまでも悔やむな。     試しようがなかったものは仕方が無いだろう」 サクラ「……遥一郎さんはそう思わないんですか?     わたしは救える可能性があるのに救えなかったのは悲しいです……」 遥一郎「滅多なことを言うな。俺だって出来ることなら誰だって助けたい。     それでも現実って言葉は最悪の悪魔なんだよ。     神って存在より、よっぽどのジョーカーだ。     辛いことだけど、残酷だろうけど、諦めなきゃいけないことってのはあるんだ。     ……希望ばっかり持って甘ったれるな。     世の中は決して個人の思い通りには動いちゃくれないんだよ」 サクラ「───!」 初めてだ……ここまで言う遥一郎さんは。 怒ってる……? サクラ「……」 ううん……悲しんでる……。 遥一郎「……もうこの話はお終いだ。     人が消えるなんていうのはもう御免なんだ、話するだけでも苛立ってしまう」 サクラ「……ごめんなさい」 遥一郎「謝る必要はないよ。     俺が勝手に話したこともあるし───それに、人に謝られるのは好きじゃない」 サクラ「………」 遥一郎「ところで……」 ふと、遥一郎さんが魚を見下ろす。 遥一郎「料理か?」 サクラ「えと……はい」 遥一郎「……こっちの惨殺現場がお前で、こっちのヒラキが凍弥か」 あう……見切られてる……。 遥一郎「珍しいな、凍弥が料理を誰かに見せるなんて」 サクラ「……ですよね」 遥一郎「んー……なぁミニ?」 サクラ「はい?」 遥一郎「お前が手本を見せてくれとでも言ったのか?」 サクラ「いえ……凍弥さんが勝手に」 遥一郎「フムゥ……どんな心境の変化なのやら。     まあ、原因は間違いなく美紀だろうな」 ……わたしもそう思う。 いや、それ以外考えられないのだ。 学校でなにかあったとしても、わたしはそんなことは知らないのだから。 遥一郎「まあいい、俺が教えてやろう。このまま下手だと材料の無駄だ」 サクラ「むっ……よ、遥一郎さんっ!?     材料はわたしのポシェットからいくらでも出るんですよっ!?」 遥一郎「無駄は無駄だろ?」 サクラ「あう……うー……」 言い返せないのが虚しかった。 遥一郎「じゃあまずこのヒラキをだな───」 遥一郎さんは凍弥さんが捌いた魚と格闘を始める。 だけどわたしはまたぼ〜っとした状態でそれを見送っていた。 さっきなにをしたのかさえ憶えてない。 話をしてないと意識をハッキリ保ってられない気分だ。 ……だめだなぁ。 わたしも早く立ち直らないと……。 ───……。 SO、俺様は困っていた。 これで困らなきゃ……ウソだぜ!? 彰利 「………」 今の俺はまさにゾンビと幽鬼と浮遊霊を合わせたような存在YO!? その原因はまあ、昨日にまで遡るんだが─── …………。 彰利 「グ、グムー……ふたり掛かりで人を苛めるだなんて、貴様俺様をなめとんのか」 悠介 「お前なんかなめたら病気になるわ」 彰利 「そういう意味じゃねぇよメェーン!」 男どもがガッコに向かって走っていった後、 アタイはダーリンとお孫さんに向かって唾を飛ばしていた。 彰利 「まあそげな些細なことはどうだっていいんじゃい。     それよかダーリン、言いたいことってなに?も、もしかして告白!?」 悠介 「寝言は寝て言え」 彰利 「………」 また言われてしまった。 彰利 「あの……ダーリン?     前々から思ってたんですけど、俺って寝言ばっか言ってますか?     そんなにドリーミンっぽさを醸し出してますか?」 悠介 「いや、常人では考えられんほどの思考回路してるからな。     ボケてるとしか思えないだろう」 彰利 「……昔の純粋なダーリンがふと懐かしく感じる」 悠介 「お前と違って娘も孫も居るんでな」 彰利 「なっ……!貴様そりゃ余裕ですか!?     アタイを!アタイを見下しておるとですか!?」 悠介 「うむ」 彰利 「頷いちゃったァーーッ!!俺様ショック!超ショック!!」 悠介 「冗談だ」 彰利 「……ダーリン!もうダーリン!どうしてウソなんて言うの!」 悠介 「やかましい、仕返ししたいことが山ほどあるんだよ。     再会喜ぶより山のようにな」 彰利 「そんな……アタイとしては感動の涙で溺れてしまうほどの再会を望んでたのに」 悠介 「サミングでいいか?涙が止まらんぞ」 彰利 「それ違う!感動違う!もうなんなの!?ダーリンたら明らかに変よ!?     まるで絶好調のアタイみたいじゃない!いや、違うか」 悠介 「どっちだ」 彰利 「まぁよ、まぁあああよ。いいから用件言ってみれ。ほれ、どうした?ン?ン〜?」 ボギャア! 彰利 「オリバ!」 ダーリンが殴った!目にも留まらぬ早業で殴った! 彰利 「お、おのれハットリくんみたいなことしやがって……!     ダーリンてばなにか……?アタイにストライク決めたかったか……!?」 悠介 「意味が解らんが」 彰利 「ンなこたいーのよダーリン!さぁ!悩みがあるならアタイに!」 悠介 「……つまりだ。自分の都合で勝手に俺の記憶から消えたようなヤツに、     俺は一言でも二言でもいくらでも、文句を言いたかったんだよ。     ……でも、なんだろうな。会ってからというもの、そんなもん消えちまった」 彰利 「悠介……」 悠介 「ああもうっ、どうして俺がお前にこんなこと説明しなけりゃならないんだっ!     忘れろ!今俺が言ったことは忘れちまえ!」 彰利 「…………ははっ」 ……ああ、やっぱこいつに会いに来て良かった……。 俺の居場所はやっぱりこいつの近くしか無いんだ……。 ───頑張らないとな。 椛  「あの……おじいさま。わたし、もう行きたいのですが」 悠介 「ん?ああ、悪いな。じゃあ帰るか」 椛  「はい」 お孫さんがダーリンに声をかけ、ダーリンとともに歩いてゆく。 ふむ、続きはお孫さんとこの家か。 彰利 「いやー、お孫さんの家ってどんなとこなんだ?」 悠介 「はい?」 椛  「え……?」 彰利 「オウ?」 ……な、なに? この意外な視線はなんなの? 彰利 「あれ……?アタイ、なんか変なこと言った?」 悠介 「……いや、別に。それよりどこまで付いてくるつもりだお前」 ───え? 彰利 「え……?あ、えと……え?     ど、どこまでって……話の続き、お孫さんの家でするんじゃなかったの?」 悠介 「誰がそんなこと言った。     大事な孫の家にお前みたいな変態を入れるわけないだろう」 彰利 「!!」 そ、そげな! 彰利 「そ、そんなっ……!待ってくれダーリン!     それが……それが久しぶりに会った親友に対する言葉なのか!?」 悠介 「言葉だ」 彰利 「!!」 …………ああ……アタイの留まる場所が崩れてゆく……。 彰利 「ダーリンの馬鹿ァーッ!!ハゲェーッ!!」 悠介 「あっ、おい彰利!?」 くそうくそう!ダーリンがそんな冷たいヤツだったなんて思わなかった! あなたを……信じてたのに……! もう恋なんてしないわ!いつかあなたを刺してやる!……長ネギで。 声  「おい彰利!?彰利ーッ!!」 ふんだ!もういいわよ!何言ったって振り向いてあげないんだから! 後悔するがいいのよ!そしてひざまずけ!!命乞いをしろ!!小僧から石を取り戻せ!! ああもう何がなんだか解らドバァアアアアアアンッ!! 彰利 「ほぎゃあああああぁぁぁぁぁっ!!!!」 突然、アタイの体を謎の衝撃が襲った。 その衝撃で空へと飛ぶアタイが見たものはスローモーションの世界だった。 ……え?今アタイ、死の境地に居るの? おお……これが死の境地。 まあまずは月生力だ。 彰利 「ぬーん……」 俺様は月生力を解放した。 俺様の体力が完全回復した。 ───と同時に世界は元に戻った。 彰利 「アァレェエエエエエエッ!!」 突然早くなった世界にドキドキ冒険の俺様ティックハートはやっぱりドキドキだ。 しかし慌てず騒がず、見事に着地して見せドバァアアアアンッ!! 彰利 「ほぎゃああああああああああっ!!!」 しかしまた飛ばされる。 今度こそと見たそれは車だった。 彰利 「てゆうか止まれよ!なにアータ!轢き逃げするつもりだったの!?」 カチンときたのでその車の上に乗ることにした。 体を捻って、止まることを知らない車の上に着地する。 ───ああ、ダーリンがどんどん遠ざかってゆく。 この時代でのラスボスはあなたなの?ダーリン……。 彰利 「というわけで制裁の一撃!唸れ月壊力!     我が拳に怒りよ宿れ!奥義!バァークゥーレェーツゥーッ!! キキィイイッ!! 彰利 「ウィ?」 騒音にハッとして前を見れば崖っぷち。 え?なに?いつの間にこんなヘンピな場所に来たのアタイったら。 それはそうとそうにかならないでしょうか、 急カーブの反動によって吹き飛ばされたアタイの体。 彰利 「キャーッ!!」 やがてアタイは崖へと落ちていった。 こんな時、空でも飛べたらなぁとか思いながら。 ……今度、月空力でなんとかならないかやってみドグシャア!! 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