───馬鹿の墓穴───
SO、俺様は困っていた。 これで困らなきゃ……ウソだぜ!? 彰利 「………」 今の俺はまさにゾンビと幽鬼と浮遊霊を合わせたような存在YO!? 彰利 「うう……ここはどこ……?アタイは彰利サマYO……?」 見知らぬ場所でのひとりきりはとっても心細いものです。 嗚呼願わくば、アタイのこの狂おしいほどの欲求を満たして。 彰利 「誰でもいい……!アタイの欲求を満たしてくれ……!」 ギュゴーッ。 ……腹が鳴っていた。 そう、つまりハラペコなんです。 こんな時は─── 彰利 「………」 ひとつのアパートが目に入った。 少しボロっちいが、住むには苦労しそうにない場所だ。 事実上、真のホームレスになってしまったアタイには暖かい場所が必要なのYO。 というわけで。 彰利 「適当な部屋の鍵を破壊して住み付きますか。うむ最強」 適当なドアの前に立って、そのドアノブを捻ってみる。 ……ヌウ、やはり鍵がかかってるか。 彰利 「だが安心!     空き巣のエキスパーターさんオススメのこの用具があれば開かないドアなど!」 俺は空き巣スターターキットから適当なものを取り出して……開かん。 彰利 「ダメじゃん」 仕方ない、こうなったら…… 彰利 「よし、握力にものを言わせて開けるとしよう。フンッ!」 ベキャッ!ゴキャキャキャッ! 彰利 「キャア、まるで鍵なんかかかってなかったみたいな開き方♪」 壊れたドアを引っ張ってドアを開けた。 だが中には一応だが生活感があった。 ……誰か住んでるのか、マズった。 仕方ない、せめて何かを摘ませてもらおう。 冷蔵庫は……っと。 男  「………」 彰利 「………」 そしていきなり見つかった。 しかも冷蔵庫に手を伸ばしている状態で。 男  「貴様……我らの部屋に潜り込むとはいい度胸だ……!」 彰利 「んむ?んん、まぁよ、……そう、誉めてくれるなよ」 男  「ぬあっ!?貴様!」 彰利 「んむんむ……このソーセージ美味ぇぞ?お前も食うか?」 男  「それは我らの食料だ!」 彰利 「カタイこと言うなよ〜、キミと俺の仲じゃないか」 男  「今日会ったばかりの貴様にそのようなことを言われる筋合いなどない!」 彰利 「そうか……ならば……」 ズシャアと立ちあがる。 旧式冷蔵庫開ける時ってどうしても屈んじゃうよね。 彰利 「フェイスフラッシュ!」 ギシャア! 男  「ぐわっ!?」 彰利 「ふははは!アディオース!!」 男  「あぁ〜……!目がぁ〜……目がぁ〜……!」 おお、こんなところにもムスカファンが……! この時代も侮れん……! …………。 彰利 「さて、ソーセージとレタスをかっぱらってきたわけですが……」 大いなる実りが俺の手に! 彰利 「うーむ、美味」 それを早速交互に食す。 こりゃ美味ぇ。 現役ホームレスには感激なほどの美味さぞ? なんて思ってる時でござった。 突然、空中が歪みを作ったでござる。 彰利 「な、なにごと!?もしや四魔貴族が俺と戦うために!?」 歪みはやがて大きく広がっていき、ひとつの穴となった。 そこから……人が出てくる。 女  「………」 しかも女ぞ。 中々のべっぴんさんじゃあ。 彰利 「誰だ貴様は」 女  「お前こそ誰だ」 彰利 「だめだ、貴様が先に名乗れ」 女  「なに?」 オナゴは俺サマをキッと睨んだ。 俺も負けじとキキッと猿の真似をした。 女  「………」 思いっきり呆れられてしまったようだ。 彰利 「まあそげなことはどうでもよかギン。     それよかぬしゃあ、さっきのは空間移動じゃな?」 女  「……地界ごときのレベルでこれを知っているのか」 彰利 「しかも能力とかの類じゃない。……あんた……魔術師だな?」 女  「───そんなことまで解るのか」 彰利 「いや、たんなる当てずっぽ」 どしゃあっ。 目の前のオナゴがズッコケた。 女  「お前、わたしを馬鹿にしてるだろ」 彰利 「いやいや、それどころかお願いがある」 女  「お願い?わたしにか」 彰利 「うむ。聞いてくれるかい?」 女  「知るか。聞く必要性が皆無だ」 彰利 「いいから聞けこの野郎」 女  「………」 彰利 「えーと……スリーサイズ教えて?」 女  「すり……?なんだそれは」 彰利 「なにぃ!?」 全世界のオナゴさん!ここにスリーサイズの意味も知らんオナゴがおりますよ!? 彰利 「致し方あるまいて、これ、そこな娘。耳を貸しなさい」 女  「なぜだ」 彰利 「世界機密だからさ」 女  「そうなのか……地界もよくよく解らない場所だな」 オナゴが耳を近寄せてくる。 キャア、バッチポジション。 ……ムチュリ。 女  「………」 彰利 「ムチュウ?」 女  「どうした?話さないのか?」 彰利 「………」 やべぇよこの人。 どっかのお嬢サマですか? いや、どっちかって言うまでもなく相当にヤバイのはアタイの行為なんですが。 だって耳を近寄せてきたオナゴの頬にキスってのもねぇ。 でも驚き。 アタイ驚き。 女  「そしてこれはなんの真似なんだ?意味はあるのか?」 彰利 「うむ、これは相手が約束を破らないと信じる上で行う行為なのだ」 女  「……わたしを信じるってゆうのか。馬鹿だな、なんの足しにもならない」 彰利 「間違って受け取ってもらっちゃ困るな。     この世界にはこんな大馬鹿野郎がわんさか居るのですよ?」 女  「そうなのか。地界の人間はよくよく馬鹿なんだな」 彰利 「そういうことだ。で、スリーサイズのお話ですが」 女  「ああ、そういえばそんな話もいていたな。世界機密だったよな?」 彰利 「はいはい」 アタイは真顔で話を聞こうとするオナゴに……うーむ。 彰利 「真面目に聞いてくれるんだな」 女  「信じると決めてくれたならわざわざそれを破る理由もないだろ。     ただそれだけだ、他の理由なんてない」 彰利 「オウオウ、いい娘ッコじゃて」 では話すとしましょうか。 ───しばらくお待ちください。 ……。 女  「……それでは『すりぃさいず』というのは人物のパーソナルデータなのか」 彰利 「そう、この世界に来た者は、     アタイみたいな検察官にデータを報告しなければいけないのですよ」 女  「……通行許可証のようなものか。それなら仕方ないな」 彰利 「え?」 あの……アタイ的には慌ててもらいたかったんですけど? これじゃあいたいけなおぜうさんを騙してる変態さんじゃないか。(自覚は無いらしい) 女  「わたしはリヴァイア=ゼロ=フォルグリム。ゼロと呼んでくれ。     年齢は今年で2894歳になる。さっきお前が言ってたように魔術師だ。     空界では自己の研究素体を探しながら日々研究に没頭していた。     わたしが行う研究は魔術と魔導。     魔導ってゆうのはこの世界で言う機械技術のことだ。     違うものっていったらそこに魔力が付加されているかどうかの問題だ。     周りの連中は錬金術とも言ったが、わたしには俗称なんてどうだっていい。     ただ、研究にはこれだけの年月を費やしたんだ。     それを曲げられることは御免だがな。……それで、体格の値だが」 彰利 「キャーッ!?こ、これ!年頃のオナゴが……年頃?まあいいや年頃だ!     そげなコがスリーサイズなどを言っては!」 ゼロ 「なんだ?言わなければ入界できないんだろ?いいから聞け」 彰利 「ハッ……ハワァーッ!!」 ───……。 ………………。 ああ、神この野郎……。 アタイ、とっても懺悔したい気分です……。 でも黒マントの下はそんなボディなんですね。 おいさんなんだか悲しくなってきました。 いや、自己嫌悪って意味で。 いつもの冗談が通じない相手に出会うとこうなるわけだ……。 これから気をつけよう……てゆうか本気で反省したのってこれが初めてでは? ゼロ 「以上だ。どうだ?わたしは入界出来るか?」 彰利 「ウェッヘッヘ、そりゃもう……ハッ!?」 やべぇYO!なんか本人すら知らない本性が滲み出てた!? ……それこそやべぇ、今俺本気で後悔したよ。 ゼロ 「ところで訊きたい。この世界で人の集まる場所はあるか?」 彰利 「………」 ゼロ 「おい?」 彰利 「話し掛けないでください……今懺悔───     いやもといあなたのデータを報告してるんです」 ゼロ 「そうか、それは悪かった」 彰利 「………」 天国の母さんごめんなさい……。 彰利は……彰利は汚れてしまいました……。(自業自得) 彰利 「それで、なんでしょう」 ゼロ 「……口調が変わってるぞ。どうかしたのか?」 彰利 「検察官は入界者には冷たくしろと言われているんですよ。     怒りやすい危険な人物を入れないように。     決して後悔しまくったから悔い改めてるわけじゃあありませんよ?」 ゼロ 「そうか。で、さっきの質問だが」 彰利 「はいはい、人の集まる場所ですね?学校なんてどうでしょう。     きっと望む知識が得られると思いますよ」 ゼロ 「学校……ああそうだな。それでその学校はどこにある」 彰利 「はい、あちらに見えます大きな建物が如月高等学校になります。     ホームレスになってから一度金庫を襲おうとして近寄って調べたので、     一字一句の文字間違えもありませんよ」 ゼロ 「ほーむれす?」 彰利 「この世界では検察官をそう呼ぶのです。     それと、わたしに報告したのですから、     他の輩にスリーサイズは報告しなくてもよろしいですよ」 ゼロ 「そうか。お前は中々、位の高いヤツだったんだな」 彰利 「お褒めに預かり光栄です。     解らないことがありましたらいつでも訊きに来てください。     ああ、申し遅れました、私、弦月彰利というものです。以後、お見知り置きを」 ゼロ 「助かる。それじゃあな」 彰利 「はい、わたしは後悔の念をしばらく忘れられないでしょう。     それでも強く生きます。だってナマモノですもの」 ゼロ 「…………?」 オナゴさんが歩いてゆく。 アタイはというと彼女のスリーサイズを思い出しては後悔の念に駈られるのでした。 うう、ちくしょう……。 ホームレスって問題も解決してないこの時に、どうしてこんなことに……。 ───……。 ゼロ 「……確かにな。人の気配が散々とする」 わたしはマントを風に揺らせながらその佇まいを眺めた。 しかし、確かにこの地界という世界……空界とは随分違うな、建物が多過ぎる。 それともここはどこかの国の中なのだろうか。 空界はもっと野が多いけど。 ゼロ 「……この世界に居る面白い存在ってゆうのは誰のことなんだ?」 思考がズレたことを持ち直し、わたしは周りをグルリと見渡した。 先ほどの検察官とやらも異様な気配を出していたが、 あれはそれくらいの力が無ければ危険な入界者とやらを捻じ伏せられないからだろう。 ともなれば、普通に力のあるヤツを探さなければならない。 ……まったく、レイルとレインはどこに行ったんだ。 あいつらはまだまだ研究のし甲斐があったというのに。 ゼロ 「……うん?」 人の気配だ。 それと、霊の気配。 この世界にも人にあらざる者が居るのか。 ───わたしはゆっくりと後ろを振り向いて、 その先から歩いてくるひとりの男に目を当てた。 男  「………」 男は何も言わないまま学校に入ろうとする。 なるほど、人と人との接触が少ないの世界なんだな。 ゼロ 「おい、お前」 男  「……うん?」 男は呼びかけられたことで立ち止り、こちらを向いた。 ……その気配は───地界のものと天界のものを混ぜたような気配だった。 そして隣の女の霊から漂う気配は冥界のそれに近い。 ……面白い。 ───……。 突然、マントのようなモノを着ている女に話し掛けられた。 俺は立ち止って振り向いてみたが…… 凍弥 「……うん?」 女  「………」 女はジロジロと俺を下から上へじぃ〜っと見る。 そして何やら笑みを浮かべた。 凍弥 「何か用なのか?」 女  「お前、ただの人間ではないな?」 凍弥 「へ?」 ……なにを言い出すんだこの娘は。 女  「人外のものが見えるだろう」 凍弥 「───」 ビンゴだ。 どうして俺の周りに現れるヤツってゆうのはこういう人ばっかりなんだろう。 女  「それにそっちの女の霊。冥界……いや、死神に近いなにかを感じる」 浅美 『え……うわ、どうしよ凍弥さん。わたし見えてるみたいです』 凍弥 「……はぁ。キミ、何者なのかな。あ、俺は霧波川凍弥。見ての通りの人間だ」 女  「自分から名乗ってくれると手間が省けるよ。     わたしはリヴァイア=ゼロ=フォルグリム。     空界という世界で魔術師をやっている。ゼロと呼ぶといい」 浅美 『空界?』 ゼロ 「どこの空間にも存在する狭間から辿り着ける空間の世界だ。     なんだ、地界のヤツはそんなことも知らないのか」 凍弥 「サーフワールズについてならサクラに聞いたことがある。     ……そっか、天界も冥界もあれば、空間に世界があっても不思議じゃない」 ゼロ 「飲み込みが早いんだな」 凍弥 「慣れてるだけだ、買い被りはよしてくれ」 そもそも、無駄に知識を披露してくれる人が多いんだからしょうがないだろ? 凍弥 「ところで、本題がまだだぞ。俺になんの用なんだ?」 ゼロ 「サンプルとして血液を貰えないか」 うお、直球だ。 凍弥 「研究素材か?」 ゼロ 「正直、地界と天界の気配を混ぜた存在には興味がある。頼まれてくれないか」 凍弥 「いいよ」 浅美 『と、凍弥さんっ!?そんなあっさり!』 凍弥 「目を見れば解るよ。彼女、本気で研究したいだけみたいだ。     悪用するとは思えないし、悪用するその動機がそもそも無いよ」 ゼロ 「…………なるほど、馬鹿野郎がわんさかと、か」 凍弥 「え?なんか言ったか?」 ゼロ 「なんでもない。それよりお前、凍弥とか言ったか。……わたしを信じるのか?」 凍弥 「信じるよ。これでも人を見る目はあるつもりだ」 ゼロ 「………」 ゼロはハッとして俺の目から逃げるように少し視線を逸らした。 ゼロ 「なんの真似だ」 凍弥 「なにが?」 ゼロ 「その目だ。なんでわたしの目を見る」 凍弥 「ああ、これか。これは俺の癖だよ。     人と話す時は相手の目を見なきゃ気が済まないんだ。     逸らしてるとなんか嫌じゃないか、やましいことでもあるみたいで」 ゼロ 「………」 ゼロは呆れているのか、ただ俺をじぃ〜っと見た。 ゼロ 「正論だ。お前、知人は選ぶ方だろ」 凍弥 「当たり前だ」 ゼロ 「……ああ、そうだな、当然だ」 ククク、と声を殺すように笑う。 なんてゆうか変わった娘だなぁとか存分に思っている俺は間違ってはいないと思う。 ゼロ 「解った、わたしもお前を信用する。     お前は無防備すぎる。構える必要なんてなさそうだ」 凍弥 「?」 なんなんだ? ゼロ 「おい、凍弥」 凍弥 「いきなり呼び捨てか?ま、いいけど。なんだ?」 ゼロ 「屈め。届かないだろ」 凍弥 「?」 届かないって何が? ……って、まあいいんだけど。 自分を信じてくれるってヤツを疑うには、彼女の目は純粋すぎる。 ───とか思って、屈んだ時だった。 チュッ、てゆう聞きなれない音と感触が頬を襲った。 浅美 『なぁっ───!!』 凍弥 「───……」 俺は何がなんだか解らず、その状態のままで居た。 ……しばらくしてゼロがゆっくりと離れ、やがて言う。 ゼロ 「凍弥、お前の素直な強力に感謝を」 小さな笑みを浮かべたその顔に羞恥など感じられない。 浅美 『なっ───なにやってるんですかあなたっ!     と、ととと凍弥さんにキ、キキキ……!!』 ゼロ 「……凍弥?こいつなに怒ってるんだ?」 浅美 『呼び捨て!しかも呼び捨て!うぅぅううう〜っ!!』 凍弥 「……あ、いや……え……っと……」 俺はただただ混乱するしかなかった。 浅美 『初対面の人になんてことしてるんですか!』 ゼロ 「お前こそ何言ってるんだ。     信じたやつには敬意を込めてさっきみたいな行為をするんだろ?」 浅美 『誰ですかそんなこと言ったの!』 ゼロ 「うるさいな、弦月彰利って検察官が言ってたんだ、間違いない」 ───ユミハリアキトシ。 その言葉が頭に響いてゆく。 ……ヤツか。 しかも思いっきり騙されてるよゼロ……。 凍弥 「……えーと、ゼロ。     今後、その行為は自分が好きになった人にしかやっちゃいけない」 ゼロ 「すき?相手の隙がどうした?」 凍弥 「……あのさ。キミ今まで何を研究してきたの」 ゼロ 「自己の魔術と魔導だ。さっきも言っただろ、もう忘れたのか」 綺麗な顔立ちの割にぶっきらぼうな喋り方。 そのアンバランスさが妙に合っている彼女は、どうにも魔術以外の知識には弱いらしい。 声も悪くないし、こういう娘が大人しくして口調も気をつけたら化けるんだろうなぁ。 ああ、別に乱暴な口調ってわけじゃない。 乱暴と丁寧の間に一線を引いた喋りってゆうのか、不快になるようなものじゃない。 凍弥 「いいかゼロ。好きってゆうのはな……どんな気持ちなんだ浅美」 浅美 『……知らないんですか』 凍弥 「知るわけがないだろ。元々興味が無いんだから」 浅美 『凍弥さ〜ん……それってあんまりですよぅ……』 凍弥 「なんでだ?」 浅美 『え?あ……それは、その……』 なにやらモジモジと指をこねる浅美。 まったく不理解である。 凍弥 「……悪い、言い出しておいてなんだけど、俺にも好きって感情は解らん」 ゼロ 「変なヤツだな凍弥は」 凍弥 「そうかもしれないな」 諦めるような息を吐いて、俺はふと学校を見た。 凍弥 「っと、のんびりもしてられないな。ゼロ、血の採血はまた今度でいいかな」 ゼロ 「今がいい。待つのは好きじゃない」 凍弥 「いや、しかしな」 ゼロ 「なにか不都合でもあるのか?」 凍弥 「学校がな。放課後でいいならそれが一番なんだけど」 ゼロ 「時間は取らせない。腕を出してくれ」 凍弥 「腕?ま、いいけど」 言われた通りに腕を出し、制服の袖を軽く引いて見せる。 ゼロ 「………」 ゼロは無言で手首辺りに何かを当てる。 次の瞬間プシュッ、という音がなって、その何かの中には血が入っていた。 ゼロ 「採血は完了した。協力を感謝する」 凍弥 「あれ?もう?」 ゼロ 「わたしは時間は取らせないと言ったぞ」 凍弥 「そりゃそうだけど。ああ、とにかく終わったならいいか。     それじゃあ俺はそろそろ」 キーンコーンカー…… 凍弥 「あ」 浅美 『予鈴ですね』 凍弥 「……いい、走るのダルイ」 浅美 『諦めるの早いですよぅ……』 凍弥 「退屈なことのために疲れるのは徒労ってもんだよ。     俺はそんな無駄はしたくない」 ゼロ 「行かないのか」 凍弥 「ああ行かない」 ゼロ 「凍弥は真面目なのか不真面目なのかが微妙なんだな」 凍弥 「俺ならこの学校じゃあ不真面目にランクされてるぞ」 ゼロ 「そうなのか。あまりそうは見えない」 ゼロは訝しげな顔でジロジロと人を見る。 本当に自分の研究以外には無知らしい。 ───ズドドドドド……! 凍弥 「ん?」 遠くから聞こえる足音があった。 そちらを向いてみると、遠くから走ってくるふたりの男。 ……間違い無く志摩兄弟だ。 浩介 「おっ、盟友ーッ!」 浩之 「今朝は随分ゆっくりだなーっ!!」 ふたりは俺を見るなりスピードを上げ、傍に来て立ち止った。 浩介 「聞いてくれ同志。今朝、我らのアパートに泥棒が入ったのだ」 凍弥 「泥棒?」 浩之 「うむ。しかもブラザーの話では『顔が光る泥棒』らしい」 凍弥 「顔が光る……想像出来ないな」 浩之 「だろう?だから我も言ったのだ。     『夢でも見ていたんだろう、寝惚けるのも大概にしろボケが』と」 凍弥 「明らかに言い過ぎだろそれは」 浩之 「うむ、我も反省はしている。見よ、この問答無用で殴られた痕を」 見れば、浩之の頬には殴痕がくっきりと存在していた。 うん、これは痛い。 浩介 「で、こちらのお嬢サンは?」 凍弥 「ん?ああ、知り合いだ」 ゼロ 「……知り合い?」 ちょっと引っ掛かったような言い方で訊き返してくるゼロ。 凍弥 「知り合ったんだから知り合いだろ?友達未満だけどな」 ゼロ 「…………そうか。確かにそうだ。知り合いはしたんだからな、知り合いだ」 ……やっぱりゼロって少しズレてる気がする。 無知がどうのこうのより、どっかが。 浩介 「そうか、我は志摩浩介。いずれこの学校の校長になる男だ」 浩之 「そして、我が志摩浩之。いずれこの学校の教頭になる男だ」 ゼロ 「へえ、双子なのか。解り辛い顔をしている」 志摩 『同志凍弥はどのような時でも間違えんがな。というかツッコミは無しか?』 ゼロ 「そうなのか?」 凍弥 「目を見れば大体は」 ゼロ 「……なるほど。どうやら凍弥には天界の力とは別に、     人を見る目という意味での能力があるようだな」 凍弥 「能力って言えるのかな」 ゼロ 「誰かに出来ないことをする、というのは立派な能力だ。     お前がまだそれに気づいていないだけだろ」 ……そんなもんかね。 浩介 「なんで校長やねーん!」 浩之 「なんでー!?なんで教頭やねーん!     しかもツッコミだからってなんで関西弁やねーん!     IWGPタッグ王者チャンピオンやねーん!!」 志摩兄弟は無視されたツッコミを自分でやっていた。 しかもかなり暴走している。 ……ああ、悲しみが溢れてくるのは何故だろう。 浅美 『きっと虚しいからですよ……』 凍弥 「……だな」 ……俺の心中を察して言葉を放つ浅美の存在がちょっとありがたかった。 ゼロ 「凍弥、お前の周りはいつもこんなに賑やかなのか?」 凍弥 「ああ、こいつらと居る限りは。だってさ、生きてる限りは楽しまなきゃ損だろ?     死んだら何も出来ないんだからさ。     浅美みたいにこの世に残れる保証なんてどこにも無いんだし」 浅美 『………』 俺の言葉にゼロはうん、と頷いて俺の目を真っ直ぐに見た。 紫色のその目は、見ているだけでなんだか落ち着く感じがする。 肩までで切られた短髪もどこか口調に合っていて、 全体的にバランスが取れている気さえする。 凍弥 「そういえばゼロ、その髪は元からなのか?」 ゼロ 「ああこれか。うん、まあそういうところだ。     わたしはなんでも素のままがいいと思ってる。わざわざ染めることもないだろ。     遺伝子操作で変えることも出来るけどな、やっぱり素が一番だ」 そう言って、蒼色の髪を手で揺らした。 凍弥 「その目も?」 ゼロ 「質問が好きなんだな、凍弥は。趣味なのか?知りたがりは長生きしないぞ」 凍弥 「………」 どの世界でもその言葉は共通なんですか?それとも偶然ですか? 志摩 『やねーん!やねーん!やねやねやねーん!』 凍弥 「……お前らちょっと黙っててくれ」 志摩 『だったらツッコミプリーズ!』 凍弥 「何にツッコミを入れろと……」 志摩 『………』 あ、地面に『の』の字を書き始めた。 ゼロ 「言っておくけど、わたしは自分の体を変えたことなんてないぞ。     爪はさすがに切るけどな」 凍弥 「そっか。そりゃ良かった」 ゼロ 「なんだそれ。地界にはそんなことするヤツが居るのか」 凍弥 「居るぞ」 そりゃもうわんさかと。 志摩 『ようよう同志よぅ〜……立ち話もなんだし、鈴訊庵に行きませぬか?』 凍弥 「今日はよくハモるな」 志摩 『フッ、我達が本気を出せばこのくらい……造作もないことよッツ!!』 ッツじゃねぇ。 凍弥 「でもまあ……そうだな。それじゃあ行くか。ゼロも都合はいいかな」 ゼロ 「初めて来た場所でそうそうやることがあるわけないだろう」 凍弥 「そりゃそうだ。じゃ、行くか───って、浅美?どうした?」 少し離れたところの物陰から浅美がこちらを見ている。 なんか演出だろうか。 浅美 『凍弥さん、なんだか最近女の人にだらしなくないですか?』 凍弥 「だらしないって?」 浅美 『その、女の人なら誰でも構うんですか?』 凍弥 「ああ、そういうことか。なぁ浩介、俺が女にだらしないそうだけど、どう思う?」 浩介 「いや、盟友は中学時代からただのお節介で、     ずっとこんなことを延々と繰り返していたぞ。     今更それを女にだらしないなどと。片腹どころか頭蓋骨が痛いわ」 浩之 「ブラザー、それはマズイぞ」 俺もそう思う。 凍弥 「まあ、一応そういうことらしいけど」 浅美 『……さぞかし女の人に恨まれてるでしょうね……』 凍弥 「え?……なぁ浩介、浩之。俺って女の人に恨まれてるのか?」 浩介 「今更だな同志。嫌われてはいないが、少なからず恨みは持たれていただろう」 凍弥 「そうなのか?知らなかった……」 浩之 「まあ同志は鈍感の上をゆく者だからな。     いや、そもそも興味が無いのだから仕方が無い」 凍弥 「……??? なんのことだ?」 浩之 「いやいい。同志はそのままの純粋無垢で居ろ。貴重だ」 ……訳解らん。 ゼロ 「よく解らないな。とにかく付いていけばいいんだろ?」 凍弥 「そゆこと。いい加減に行こう」 浅美 『……苦労しそうです』 なにがか解らんが、浅美は不服そうだった。 が、何故か小さくガッツポーズを取ると、ふよふよと付いてきた。 凍弥 「よく解らないけど。思考は解決したか?」 俺はそんな浅美が横に並ぶのを見ると、なでなでと頭を撫でた。 こんな時に実感する。 俺も『閏璃凍弥』って人と大差無いんだろう、と。 浅美 『…………解決というより、凍弥さんが興味を記さない限りは解決しませんけど』 凍弥 「?」 浅美 『なんでもないです』 言葉の割にはどこか拗ねているような顔だった。 Next Menu back