───志摩兄弟のわくわく大作戦───
さて、鈴訊庵です。 凍弥 「ただいまー」 心にもない挨拶をして内部へ侵入……もとい、帰宅した。 遥一郎「サボリか」 で、俺を迎えてくれた第一声はそんなものだった。 凍弥 「いきなりそれかよ」 遥一郎「違うのか?」 凍弥 「いや、何も違わないけど」 真正面から言われるとこたえるんだよ。 浩介 「ようおっさん、来たぞ」 浩之 「ようおっさん、来てやったぞ」 遥一郎「……こいつらは相変わらずか」 相変わらず与一は志摩兄弟にはおっさんと呼ばれている。 そんな中。 ゼロ 「そうか、こいつは『おっさん』という名前なのか」 ゼロは真顔でそう言った。 遥一郎「……凍弥。この心の底から果てしなく純粋に失礼な女性は誰だ」 当然、与一は凄まじく嫌そうな顔をした。 だけどゼロ自身を嫌っているという顔ではなく、 その睨みはどちらかというと志摩兄弟に注がれている。 まあそうだよな。 あいつらは『おっさん』って呼ばなけりゃ平気だったわけだし。 ……さて。 凍弥 「さっき知り合った空界の魔術師さんで、リヴァイア=ゼロ=フォルグリムさん」 ゼロ 「ゼロと呼んでくれ」 俺が簡単な紹介をすると、ゼロは自分でそう言った。 一方与一は少なからずムッと来たのか─── 遥一郎「是非リヴァイアさんと呼びたいんだが」 そう言った。 が、その言葉に対してのゼロの反応は ゼロ 「全力で除霊される覚悟があるなら構わないぞ」 ……なんだかどっかで聞いたことのあるような言葉だった。 遥一郎「……へえ、俺が霊体だって解るのか」 ゼロ 「地界の気配よりも天界の気配の方が強いよお前は。     わたしはシェイドとの協力でいろいろ研究してるからな。     『奇跡の魔法』か、お前からはその気配が強すぎる」 遥一郎「……まいったな。ここまで見切られたのは初めてだ。     魔術師って言ったっけ?どんな魔術が使えるんだ?」 ゼロ 「───……お前はわたしを信じるのか?」 遥一郎「どうかな」 与一は意地悪くそう言った。 恐らく頭の中で『おっさん』がリフレイン中なのだろう。 ゼロ 「だったら諦めろ。信用の出来ないヤツに教えることなんてないよ、わたしは」 遥一郎「だろうな、俺も同意見だ。お前には凍弥の性格が丁度良さそうだ」 ここに来て、初めて与一は笑った。 どうやら答えなんてどうでもよかったらしい。 ……いつまで経ってもこの男の心理は読めない。 ゼロ 「変わった男なんだな。謎が残るのにどうして笑えるんだ?」 遥一郎「俺は日常の流れを見守る以外に深い執着はないんだよ。     だから、せめて人との小さな笑いを大事にしてるんだ。     誰が何を使えようが出来ようが、そいつはそいつなんだから俺には関係ないの」 ゼロ 「………」 ゼロはポカンとした顔で与一を見た。 そりゃそうだろう。 俺も与一のこの性格はとんでもないと思う。 ゼロ 「……なるほど、面白い存在は確かに多いみたいだ」 ゼロはどこか満足そうに笑った。 だけどそれはすぐに真面目な顔に戻り、俺を見た。 ゼロ 「凍弥。どこで話の続きをするんだ」 凍弥 「ああ、そうだな……どこがいいだろう」 適当に考えてみる。 別にここでもいいんだけど───どがらがしゃあああああんっ!! 声  「きゃああっ!?よ、遥一郎さぁああん!!」 ……その声を聞いて、ここはやめようと思った。 すぐさまに与一が厨房へ走ってゆく中、 俺は志摩兄弟とゼロを促して二階に上がることにした。 ゼロ 「大丈夫なのか?なにか叫んでいたが」 凍弥 「いつものことだから」 ゼロ 「そうなのか。賑やかだな」 素直に頷いて、あとをついてくる。 ゼロって疑うことを知らないのかな。 そんなことを思いながら階段を登りきり、やがては俺の部屋に着く。 志摩 『うーむ、やはり同志の部屋は何故か和む……』 志摩兄弟は同じことを同時に言って顔を見合わせていた。 今回は意志とは別のシンクロだったらしい。 ゼロ 「ここにも奇跡の魔法の残留を感じるな。……凍弥、もしかしてお前」 浅美 『───!』 ゼロ 「………」 凍弥 「うん?」 浅美がゼロを睨んだ。 その瞬間それを察知したゼロが言葉を放つことをやめる。 なんだかよく解らないけど、ふたりは視線を交差させていた。 浅美  <そのことは言わないでください> ゼロ  <なんでだ?知り合いとしては黙っておけない事実だ> 浅美  <凍弥さんは今までを普通の人として生きてきたんです!     わたしたちのような生き方なんて知っちゃいけないんです!> ゼロ  <そうか。妙だと思ったら……     お前、シェイドの言っていた『月の家系』とやらの末裔か> 浅美  <だからどうしたと───> ゼロ  <どうもしない。知った知識を口にしただけだ> 浅美 『───!!』 ゼロ 「それと言っておく。言う必要がある場面が来たらすぐ言うぞ」 浅美 『くっ───!』 ふたりの間に何やら殺気が含まれてゆく。 凍弥 「お、おい……ふたりとも?」 浅美 『凍弥さんっ!わたしこの人キライです!』 凍弥 「え?」 ゼロ 「同意見だ。わたしもこの女とはソリが合わない」 凍弥 「え……え?」 な、なんだってんだ? 見詰め合ってただけなのにどうしてこういう答えが出てくるんだ? 浅美 『不愉快です!わたし、眠らせてもらいますっ!』 凍弥 「あ、おいちょっと!?」 浅美が俺の中に消えてゆく。 話し掛けてみても返事は無かった。 凍弥 「……なんなんだ?」 ゼロ 「さっきの女がわたしのことを拒絶した。それだけだろう」 凍弥 「俺はその過程が気になるんだけど」 ゼロ 「さあな。さっきの女にでも訊いてみたらどうだ?」 凍弥 「ゼロ、その言い方は意地悪だよ」 俺はちょっとだけムッとしてそう言った。 だがゼロは気にするほどでもなく、やっぱり俺の目を見た。 そんな中、浩介が待ったをかけるように割って入った。 浩介 「我らのことを忘れてもらっては困るのだが」 ゼロ 「黙っていろ、お前らと話すことはわたしには存在すらしていないんだから」 浩之 「わぁ、ヒドイ」 浩介 「我らが同行する意味が尽く無かった気がするな」 浩之 「むしろ絶無?」 凍弥 「あ、いや、あのな……?」 浩介 「すまんな盟友、我らはしばしおっさんと談話でもしていよう。     終わったら呼んでくれ」 凍弥 「お、おい浩介?」 浩之 「それではな。達者で暮らすのだぞ」 凍弥 「いや……ここでどうしてそんな言葉が出るんだ?って、待てって!おーい!」 そんなことを言ってる間にパタムと閉められるドア。 ───はぁ、行っちゃったよ……。 ゼロ 「どうしたんだあいつら」 凍弥 「……さあ」 ふたりして訳が解らなかった。 ただ単に話すことがないだけだったからならいいんだけど。 ───……。 浩介 「さて……と。同志め、我らが素直に下に行くと思うたか」 浩之 「まだまだ底の浅いヤツよ」 我らは部屋を出てから作戦を閃かせていた。 そしていきなり決行。 浩介 「ブラザー、我らが取る行動はひとつだ。     盟友の部屋の隣へ行き、彼奴らの会話を盗聴するのだ」 浩之 「おお、人の道を外れたなブラザー」 浩介 「なにを言う、インドの某偉い人も読唇術を使える者を使って、     人のプライバシーを侵害するような行為をしたのだぞ」 浩之 「なにぃそうなのか」 浩介 「真偽など忘れたが」 浩之 「さすがだブラザー。では……」 ブラザーが一歩前進する。 が。 浩介 「まあ待てブラザー。いきなり隣の部屋に行けばバレるだろう。     貴様は外から周りこむのだ。まず階段を降りなければ怪しまれるだろう」 浩之 「ふざけんなテメこのブラザー、我に死ねというのか」 浩介 「死ね」 浩之 「言いきったァーッ!!ウダラてめぇこそいっぺん死んでみっかうぉらーっ!!」 浩介 「ば、馬鹿者叫ぶな!!バレたら水の泡であろうが!」 浩之 「貴様がそれほどまでに我を消したがっているとが思わなんだぞ!」 浩介 「今のは冗談だ。リラックスさせようと思ったのだが、無駄だったようだな」 浩之 「当たり前だブラザー」 浩介 「仕方ない、外からの侵入は我がやろう」 浩之 「そうか。では我は……?」 浩介 「静かに隣の部屋へと侵入してくれ。我は下に降りてから行く。     いいな、窓も静かに開けるのだぞ」 浩之 「うむ、了解した」 ───……。 ブラザーが降りてゆくのを確認した上で、我は静かにドアに近づいた。 既に盟友とあの女の会話は始まっている。 男と女がふたりきりで部屋に!何も起きぬ筈が無い! ならばこそ、このミッションは何がなんでも成功させねばならぬのだ。 ……そう、男……否!漢の意地にかけて!! じっちゃんの名にも勝るとも劣らぬこの意地、見事見せてくれる!! というわけでス〜ッ、っと。 障子は少しの悲鳴も出さずに開いた。 スッと中に侵入すると、それを静かに閉ざす。 浩之 「……うーむ、しかし何故盟友の部屋だけドア式なのだろうか」 どうせなら襖か障子にすればいいものを。 ……まあ今はそんなことよりブラザーを招き入れねば。 我は静かに窓を開けると、その下の景色を眺めた。 そこにはブラザーが居て、窓や窪みに足をかけて登ってきていた。 浩之  <ブラザー、貴様何者だ> 浩介  <我の前世はロッククライマーだったのだ> バリバリのウソをつきながらも登ってくるブラザー。 だが。 浩介  <むお!?> 途中、鳥に襲われた。 注意深く見てみれば、ブラザーが居る場所の近くには鳥の巣があった。 あれは親鳥か。 親鳥はピーチクパーチク鳴きながらブラザーを突ついている。 浩介  <や、やめぬかコラ!やめ───やめろというのに!!> 10秒と持たずにいきなりキレたブラザーが両手で鳥に掴みにかかる。 ……両手で。 ───両手? 浩介 「───ハッ!!」 やがて重力情報に身を委ね─── ───……。 凍弥 「えーとなんの話だったかな」 俺はゼロに話を振られて頭を捻った。 ここに来る前、どんな話をしていたんだっけ? ………………ああ、そういえば。 凍弥 「確か髪の色とかの話だったよな。元からかどうかとか」 ドグシャア! 凍弥 「うわっ!?」 なにかの落下音を確かに聞いた。 俺とゼロは顔を見合わせて窓に駆け寄る。 その窓を開けて見下ろしてみたが───下にはなにも無かった。 凍弥 「…………?」 ゼロ 「なにもないならそれでいいじゃないか。     話の続きだ凍弥、話がこんなに楽しいものだとは知らなかった」 凍弥 「あ、ああ……」 …………。 ───……。 浩介 「───ッ!───……ッ!!」 モロに背中を強打した。 正直な話をしよう、呼吸困難だ。 だが困難であって、無呼吸というわけではない。 ……しかし、危なかった。 もう少し隠れるのが遅れれば見つかっていたな。 浩介 「グ、グーヴ……これしきのことで止まってはいられぬのだ……漢として……」 衝撃のためか、先ほど激しく吐き出した唾液を拭う。 どこかおかしな所を打ったのではないかと心配だが、そうも言っておれぬ。 フフフ……鳥よ、次に襲ってきた時が貴様の最後だ……! カツ、と窓に足をかけた。 そこから器用に登り、一階と二階の境目にある枠に手をかける。 そこから懸垂の要領で体を起こし、さらに上を目指す。 ───が、その時! 鳥  「ピギィーッ!」 鳥、再来。 だが我はそれを待っていた。 口の奥に隠しておいたそれを勢いよく噛み潰すと、我はそれを吹き出した。 ブシィッ!! 鳥  「ピギャッ!?」 そう、志摩一族(?)に伝わる伝統奥義、毒霧である。  ◆毒霧───どくぎり  口に隠しておいた袋状のものを噛み潰し、  中に詰めておいた粉、または水状のものを噴出す技。  目くらましに最適だが、これを会得するには肺活量と材料費が必要である。  *神冥書房刊:『志摩、その奥義』より 鳥  「ピギィーッ!!」 浩介 「なにぃ!?そのまま突貫だとぅ!?馬鹿よせ!」 顔面に飛んでくる鳥に対して、我は両手で防御を───両手!? 浩介 「お、おわーっ!!」 慌てて手を伸ばすが、丁度そこに鳥がぶつかってきた。 マイガーッ!! 浩介 「キャーッ!?」 やがて我は大いなる滞空の刹那へと─── ───……。 凍弥 「へー、じゃあやっぱり全部が素のままなのか」 ゼロ 「そうだって言っただろ、信じてくれてるんじゃなかったのか?」 凍弥 「そういう意味じゃないよ、なんか素のままっていいなって意味で言ったんだ」 ゼロ 「ああ、そのままで居ることに悪いことなんてない。     まあ人は変わってゆくものだから、     人そのものがそのままなんてことは有り得ないけど」 凍弥 「………」 ほんと、考えることが似ているらしいと実感する。 訊いてみたが、男との恋愛などという存在には特に興味が無いらしいし。 それが可笑しくて、少し笑みをこぼした。 ゼロ 「なにを笑う?」 凍弥 「いや、ちょっと。ゼロってなんとなく俺に似てるんだなって思ってさ」 ゼロ 「……わたしは男みたいに見えるか?」 凍弥 「顔とかの話じゃなくて性格の話。     人は変わるものだって思考と、素のままが一番だってとことか特にね」 ゼロ 「へえ、凍弥もそう考えてるのか。だとしたら確かに似てる部分はあるな」 凍弥 「だろ?」 俺とゼロお互い軽く笑みをこぼしてドグシャア! 声  「……おごっ!……」 …………何か聞こえた。 俺はもう一度ゼロと顔を見合わせると、一気に窓を開いた。 窓の下をバッと見ると、そこではもんどりを打って暴れている浩介が居た。 凍弥 「………」 ゼロ 「なにやってるんだあいつ」 凍弥 「新手のダンスじゃないか?」 俺にも何をしてるんだか謎だった。 しばらく痙攣していた浩介だったが、時間とともに動かなくなっていった。 その姿はまるで洗剤をかけられたゴキブリのような生き様でした。 ……ところで、浩介の隣で暴れてる奇妙に緑色の鳥は何かなぁ。 そんなことを思っている間に、浩介は与一に引きずられていった。 なんだったんだろうか。 ───……。 浩介 「……危うく死ぬところだったわ」 浩之 「ナイスファイトだブラザー」 浩介 「これならばやはりブラザーを行かせるべきだった」 遥一郎「馬鹿なこと言ってないで寝てろ。     背中ってのは強打していい部分じゃないんだぞ」 浩介 「グ、グムー……」 やれやれ。 遊びに徹すると見境がなくなるところは変わらないんだなぁ。 こいつらともどのくらいの付き合いになるんだっけ? 3、4年くらいだろうか。 まあ、とにかく。 遥一郎「今日はここに泊まっていけ。     朝っぱらから言うことじゃないが、無理に動かない方がいい」 浩介 「ゲッ……!マ、マジでござる!?」 遥一郎「奇声あげるな。響くぞ」 浩介 「ッ……!只今実感しております……!」 背骨に異常がなければいいが。 まあ、見たところそこまでヒドイものじゃなさそうだし。 遥一郎「それにしてもあんなところで何をしてたんだ?」 浩介 「青春を謳歌していたのだよ」 浩之 「うむ、それは間違いではない」 遥一郎「どう謳歌したら背中を強打するんだよ……」 浩介 「我も訊きたい」 浩之 「同じく」 ダメだこいつら、観咲に近いほどの馬鹿だ。 目的のためなら手段を選ばないくせに、失敗したらその意味さえも解らない馬鹿だ。 浩介 「ところでおっさん。なにやら体中が熱いのだが?」 遥一郎「塗り薬が効き始めてるんだろ。じきに馴れるよ」 浩介 「なんかほんとに熱いのだが?」 遥一郎「大丈夫だ」 浩介 「むう……」 浩之 「安心しろブラザー、     先ほど貴様が気絶している最中に我がそこの瓶のものを飲ませたのだ。     害は無い筈だ」 遥一郎「そこの瓶って……それか?」 浩之 「うむ。なんの薬なのかは知らんが『元気になる薬』と書いてあったのでな」 遥一郎「……あのな。     これは柾樹の親の知り合いの男が時折いたずらで送ってくるものなんだ。     ほれ、ここに同封されてた手紙がある」 浩之 「む?」 浩之は手紙を受け取ると、それを流すように読んだ。 浩之 「……つまるところ、     この瓶の中身は赤マムシと某薬をブレンドしたようなものなのか」 浩介 「なにいぃ!?」 そう叫んだ途端、浩介は鼻血を吹き出した。 浩介 「……嗚呼……世界が薔薇色だよ……」 ドシャア。 そして昏倒。 浩之 「ところでおっさん、この『柿崎』という者は?」 手紙を指差しながら問う浩之に、俺はさっき言った通りだと答えた。 やがて泣きながらうなされ始める浩介を見て、俺は溜め息を吐くのであった。 Next Menu back