夢の消えた世界。 時間の中で変わりゆく世界で、時折に見る夢を思う。 夢は見えるけれどその夢はいつも虚ろで、 自分の望んだものを夢に見ることは無かった。 それでも夢を見られる内はまだいいんだろうと思った。 辛い思いをしても、それが夢ならきっと笑っていられるだろうから。 だけど……現実はそうじゃない。 この世界は夢のようには上手くいかないし、辛いことがあれば泣いてしまう。 だから───自分が無力だと気づいた時、わたしは涙を流した。 友達を助けるために立つことさえ出来なかったことが辛くて。 それが立ち直るきっかけになる筈もなく、わたしはただ自分を憎んだ。 だけど悪いことばかりじゃないって解ってる。 問題なのは───わたしの弱さだから。 ───悪霊退散───
昼に近づいたその時間の中、俺は未だにゼロと話をしていた。 凍弥 「それじゃあこの世界にはただのデータ採集のために?」 ゼロ 「いや、それは間違いだ凍弥。わたしはシェイドって死神に、     この世界に面白いヤツらが居ると聞いて来ただけだ」 凍弥 「面白いヤツって?」 ゼロ 「今わたしの目の前に居るじゃないか」 凍弥 「……俺?」 ゼロ 「お前だけってわけじゃないが、そういうことだ」 凍弥 「でも俺の血は採取したんだから別にいいんじゃないか?」 ゼロ 「言動、性格、行動を血で判断できると思うか?     クローンを作ってでも研究しろってゆうならそれでもいいが」 凍弥 「あ、そりゃ勘弁。自分がもうひとり居るだなんて考えたくない」 ゼロ 「そうだろう?だからわたしも頼まれなきゃやらない。     クローン技術を使ったのも随分前のことだし、     あの時のわたしはどうかしていた」 どこか遠い目をしたゼロ。 俺はなんとなく声を掛け辛くなってしまって黙った。 ゼロ 「まあそんなことはどうでもいい。     それより凍弥、そこらへんにある本を読ませてもらうぞ。     地界のものには興味があった」 凍弥 「え?あ、ああ、別に構わないけど」 俺が言うより早く、ゼロは本を手にする。 それをパラパラとめくっていって、パタンと閉じた。 ゼロ 「なるほど、これが『まんが』ってやつか」 凍弥 「え?あの早さで読んだのか?」 ゼロ 「魔術師になると時間が惜しくてな。     脳の回転も常人の数倍……いや、数十倍はあるかもしれない。     だから脳を使う行為は常人よりもよっぽど早い。     理解力で言うなら、もっと早くページをめくっても全て読めるくらいだ」 凍弥 「へー……」 そりゃ羨ましい。 時間短縮が出来るじゃないか。 ゼロ 「問題はやることがなくなるととても暇すぎることだが」 ……そりゃ嫌だな。 凍弥 「でも便利じゃないか。どっちかって言うと羨ましいよ」 他の本に手を伸ばすゼロにそう言った。 ゼロは素っ気無く『そうか』と言うだけで、会話を伸ばそうとはしなかった。 ゼロ 「───ん?」 凍弥 「どした?」 とある本を見ていたゼロが動きを止める。 覗いてみると、それは昔のゲームの本だった。 ゼロ 「この男もゼロという名なのか」 凍弥 「ああそいつね。父さんの憧れてた人がやってたゲームのキャラらしいけど。     髭ゼロって呼ばれてたらしいよ」 ゼロ 「髭……ゼロ……」 ……?なんかゼロの肩が揺れてる……てゆうか震えてる。 ゼロ 「……凍弥」 凍弥 「うん?」 ゼロ 「わたしのことはリヴァイアって呼べ」 凍弥 「へ?ど、どうしたんだよいきなり」 ゼロ 「構うな。嫌なら『お前』でも『貴様』でもいい」 凍弥 「それは嫌だな……って、そうじゃなくて」 ゼロ 「うるさいな、いいからゼロとは呼ぶな」 凍弥 「……?」 ゼロ 「リヴァでもリヴァイアでもフォルでもグリムでも好きに呼べ。     ただし、『さん』付けとゼロは却下だ」 凍弥 「……いいけど。じゃ、リヴァかリヴァイアって呼ばせてもらうよ」 リヴァ「ああ、頼むぞ」 頼まれてしまった。 なにが嫌だったんだろうか。 凍弥 「………」 何気なくその本に目を通してみた。 で、なんとなく方程式が完成した。 『黒い服+ゼロ=髭』。 凍弥 「……まさかな」 馬鹿馬鹿しい、そんなわけないじゃないか。 ハハハと笑って落ち着いた。 凍弥 「……はぁ」 リヴァ「どうした?溜め息なんて吐いて」 凍弥 「えっと、すごく無粋なこと訊くかもしれないけど、     聞くだけ聞いてくれると嬉しい」 リヴァ「気にするな、言え」 凍弥 「ああ。ゼロ……いや、リヴァイアって冥界に知り合いが居るのか?」 リヴァ「居るぞ。なんだ、それが訊きたいことか?」 凍弥 「続きがあるんだ。冥界に知り合いが居るなら少しからず知識はあるよな?     聞かせてほしいんだ、死神の鎌で切られた魂がどうなるのかを」 リヴァ「……特殊なことを訊くんだな」 凍弥 「言っただろ、無粋なことって」 リヴァ「………」 リヴァイアはただ黙った。 が、少し間を置いてから息をつくと口を開く。 リヴァ「強制的に冥界へ堕とされる。審判を受けることもなくだ。     地界にだって天と地の分かれ道の話くらいあるだろ?」 凍弥 「天国と地獄だろ?」 リヴァ「そうだ。本来なら悪行や善意の積み重ねで分けられるが、     鎌で切られたものはその審判を受ける以前に冥界に堕とされるんだ。     凍弥、お前が言ったように地獄へな」 凍弥 「………」 リヴァ「死神の鎌というものはよっぽどのことが無い限り、魂には振るわれないんだ。     生身の体に降ろしても傷がつくだけだが、魂では別なんだ。     鎌で魂を切るってことは、相手が悪霊の類で手の施し様が無い時だけだからな」 手の施し様が無い……か。 確かにそうだな。 あれは仕方が無かったと思う。 でも、最近思うんだ。 もしあの場所にサクラが居て、ストレインを使っていたなら、って。 魔器の意味なんて知らないけど、 ストレインがそういうものなんだってことはサクラから聞いたことがある。 だから─── 凍弥 「リヴァイア。その堕ちた魂をこの世に戻すことは出来ないのか?」 リヴァ「凍弥、何を考えてる?     手の施し様が無かったから堕とされた魂に救い手なんて無いぞ」 凍弥 「それでも試したいことがあるんだ。     俺は……できることならなんでもやっておきたい」 リヴァ「…………確かにな。お前はわたしに似ているよ、凍弥」 凍弥 「リヴァイア……」 リヴァ「出来るかどうかは知らないけど、足掻いてはみたいからな。     定義に逆らってこその人の命だ。     世の理を破壊することになってもそこに何かがあるから人は足掻く。     猫を抱きたいと思うことと岩を砕きたいと思うことは、     結局『欲求』でしかないのだからな、欲求を殺す時は意志が死ぬ時だ。     言ってみればわたしはそこまで腐ってない。     ───シェイド、聞いているだろう。出て来い」 リヴァイアが何もない虚空に向かって言う。 するとその途端に空間が歪み、そこに人が現れた。 ルヒド「うん、聞いていたよ。僕はキミと違っていつでも退屈しているからね」 リヴァ「戯言はいい。それよりどうなんだ?冥界の魂をここに持ってこれるか?」 ルヒド「キミにしては酷く無粋な質問だねリヴァイア。     僕が冥界からここに来れることを考えれば予想はつくと思うけど」 リヴァ「……いちいち一言多いのは変わらないんだな」 ルヒド「ハハハ、僕は人じゃないからね、そうそう変わらないんだよ」 出てきた男はクスクスと女のように笑った。 その顔は酷く穏やかで、とても『冥界』という言葉が合う顔ではなかった。 ルヒド「キミは霧波川凍弥くんだったね。僕はキミの意思を尊重するよ」 凍弥 「あ、ああ……」 リヴァ「騙されるなよ凍弥。そいつはただ暇潰しがしたいだけだ」 凍弥 「………」 ルヒド「あはは、ヒドイなぁリヴァイア」 リヴァ「凍弥。やりたいことがあるなら早く言っておけ。     そいつは酷く気紛れだ、知らせておかないと逃げるぞ」 ルヒド「逃げないよ、逃げても退屈だしね」 男の言葉にリヴァイアは心底苦手そうな顔をした。 どうやら彼のことが分かり辛いのは俺だけじゃないらしい。 凍弥 「ちょっと待っててくれ。呼んできたい人が居る」 ルヒド「ああ、待ってるよ」 にっこりと笑う彼。 ……その笑顔が、この状況には不釣合いな気がした。 ───……。 凍弥 「サクラッ!ちょっと来てくれ!」 俺は階下に下りると、その名前を呼んだ。 が、そこに居るのは悶絶する浩介とそれに抱き締められて絶叫している浩之だけだった。 凍弥 「浩之、サクラは!?」 浩之 「ヒィイ!それより助けてくれ!ブラザーが寝惚けて……我の貞操がぁあっ!」 凍弥 「どこだっ!答えてくれ!」 ドゴォッ! 浩介 「ベムッ!」 ガクリ。 浩介の頭に拳を落とし、俺は浩之に詰め寄った。 浩之 「あ、ああ……助かった……っと、ヤツなら外に……おお、来たぞ」 凍弥 「───!サクラ」 サクラ「え……?」 与一と一緒に中に入ってきたサクラを呼ぶ。 いや、待ってられなくて自分から近寄ってその手を引いた。 サクラ「あっ、ど、どうしたんですかっ!?」 凍弥 「来てくれ!───美紀を救ってやれるかもしれないんだ!」 サクラ「え───?」 遥一郎「どういう意味だそれは」 後ろから付いてきていた与一が言う。 俺は来てくれれば解るとだけ言って階段を駆け登った。 開けっ放しのドアから自室に入ると、まず与一が声をあげた。 遥一郎「───蒼木……!?」 それは男に向かっての言葉だった。 だが男は『ああ』と言って与一の目を真っ直ぐに見て ルヒド「残念だけど僕は蒼木澄音じゃないよ。     彼の言動と表情をコピーさせてもらっただけの、     シェイド=エリウルヒドという名の死神だ」 遥一郎「死……神……!?」 ルヒド「そう。凍弥くんに少し頼まれたことがあってね。     それで凍弥くん?準備はいいのかな?」 凍弥 「───サクラ、ストレインの用意を頼む」 サクラ「え……どうして」 凍弥 「ここに美紀の魂を呼んでもらう。だけど確実にあの悪霊どもも引っ付いてる。     だからお前の魔器でその災いを消してほしいんだ」 サクラ「───!」 サクラは驚愕の顔をとる。 だが躊躇している場面じゃないんだ。 凍弥 「サクラ、言ってたよな?それは災いを吸収する魔器だって。     なぁ、出来るだろ?なぁ……」 サクラ「凍弥さん……」 凍弥 「頼むよ……あいつを救ってやってくれ……!     話を聞いてて思ったんだ……この世界からは解き放たれたとしても、     冥界って場所で悪霊に取りつかれたままなら変わらないんじゃないかって……!     だから……頼む。出来なくてもいい、失敗したって構わない。     ただ諦めるだけなら全部やってから諦めたいんだよ……!」 サクラ「………」 俺の言葉にサクラは黙った。 黙ったまま俯いて、……だけどやがてイマンシペイトに触れて、ストレインを取り出す。 サクラ「───凍弥さん。わたしも……美紀ちゃんを救ってあげたいです。だから……」 凍弥 「……ッ……サクラァッ!!」 俺はなんだか嬉しくてサクラを抱き締めた。 それでもそれをすぐに離して死神に向き直り、頷いてみせる。 ルヒド「……うん。それじゃあゲートを開くよ?」 凍弥 「ああ……」 死神は微笑みながら虚空に手を掲げ、目を閉じた。 リヴァ「……それにしてもおかしなものだな。     こんな狭い空間に天界地界空界冥界の全ての存在が揃うなど」 リヴァイアはおかしそうにして笑うと、静かに構えた。 凍弥 「リヴァイア……?」 リヴァ「冥界から引きずり出すなら悪霊の数も増えてるかもしれない。     わたしも力を貸そう。こんな面白い状況で手を出さないのはつまらないからな」 凍弥 「……ありがとう」 リヴァ「礼なんて要らない。それより気を抜くな───来るぞ」 凍弥 「───!」 死神がゲートを開く。 その、吐き気のするくらいにおぞましい闇の渦が唸り、 やがてズルズルと何かが出てくる。 彰利 「ややっ!?ここは何処ぞ!?」 ───……そして、みんな呆れた。 リヴァ「お前は検察官の───何故冥界のゲートから?」 彰利 「いやぁさっきのオナゴさん。     それが聞いてくださいよ、月空力の練習してたら急に空間が歪みだしましてね?     気づいたらここに転移させられてたんですよ」 凍弥 「───」 遥一郎「───」 サクラ「───」 ガシッ。 彰利 「あ、あら?なに?なんで三人一緒にアタイを担ぐの?もしかして神輿(みこし)!?     キャア!ワッショーイ!ワァーッショーイ!!ひとりじゃないぜィェーッ!!     ……あら?でもなんで窓開けるの?しかもどうして無言?ねぇ答えてぷりぃず。     あ、あの?どうして反動つけるんですか!?     あ、いやっ!やめて!初めてなの!やさしくギャアァアアアアアアアッ!!」 そして彼は窓から空を飛んだ。 それはもうステキなステキな滞空時間を見せつけ、 落下していく過程で通りすがりの車にドグシャアと撥ねられていた。 流石に焦ったが、彼は平然と立ち上がって運転手に決闘を挑み、 マッチョな運転手にボコボコにされてギャアアと叫んでいる。 凍弥 「……続けてくれ」 ルヒド「そうだね」 死神はクスクスと笑ってゲートを広げてゆく。 ……そのために闇はどんどんと広がり、俺はその中に何かの蠢きを見た気がした。 ルヒド「用意はいいかな?来るよ」 リヴァ「わたしに準備なんて必要無いことくらい知ってるだろ、シェイド」 ルヒド「そうだね。でも、天界人の方はいいのかな?」 サクラ「───やれますっ」 ルヒド「うん、いい返事だ。それじゃあ最終防御壁、崩すよ」 死神は焦ることも動じることもせずガラスのような膜に手を伸ばした。 ルヒド「ああ、ところで───キミ達は残るのかい?」 凍弥 「………」 遥一郎「………」 死神が俺と与一に顔を向ける。 確かに俺達は何かを出来るわけじゃない。 でも行く末は見届けたいって思う。 リヴァ「無理するな。わたし達に任せておけ」 遥一郎「───凍弥」 凍弥 「………解った」 でもそれで邪魔になるのは良策なんかじゃない。 だから俺は頷いた。 与一が先にドアに手を掛け、俺を促す。 しかし俺はリヴァイアに引き止められた。 リヴァ「待て。これを持ってけ」 凍弥 「リヴァイア?」 リヴァイアは手を虚空に掲げると、その手に何かを作り上げた。 驚いたが、それは妙な玉のようなものだった。 凍弥 「これは?」 それを渡された俺は当然というように戸惑いを見せる。 よく解らないことも確かだし、これがなんの意味を為すのかも解らない。 リヴァ「わたしの視界がそこに映る。階下ででも見ていろ。     行く末を見届けたいだろう?」 凍弥 「……ったく」 まいった。 どうやら自分の思考も俺に似ていると感じているらしい。 凍弥 「サンキュ、リヴァイア」 掲げられた手を軽く叩き合わせると、俺は部屋を出る。 リヴァイアはそんな俺を見送るように、『お前が助手だったら楽だろうな』と言った。 ───やがて 声  「じゃあ、解放するよ」 という声を聞きながら、その部屋は閉ざされる。 与一はサクラに頑張れと言い、サクラはそれに応えるように頷いた。 ───……。 ───。 俺と与一は階下へ降り 声  「いやーっ!いやーっ!!」 ……ると、そんな声を聞いた。 凍弥 「浩之……?」 客席方面を眺めてみると、座敷の方で浩之が襲われていた。 浩之 「わなばばばばばばズバばばばばばば……!!」 既に言語中枢がおかしくなっているらしく、 その神経全てが抵抗に向けられているのが解る。 浩之 「盟友ーッ!た、助けてくれーッ!!なんかいきなり暴れ出したンだーッ!!」 凍弥 「……!?」 俺はまさかと思い、慌てて浩介に駆け寄った。 その顔を覗き見ると、まるで憎しみでもあるかのような形相だった。 浩介 「ぐ、う……ルルルうぅうう……!!?」 凍弥 「浩介!?おい浩介!!」 浩介 「グ……!ど、……うし……!?あぁ……うぅぁあああ……!!」 ───やっぱり二階で開いた冥界のゲートの影響か!? 遥一郎「どけ、凍弥」 凍弥 「与一……」 遥一郎「───男の霊だな。気配は死神に近い。……恐らく、殺人鬼に殺された者だ」 凍弥 「解るのか!?」 遥一郎「あまり甘くみるな。こんなでも奇跡の精霊だぞ俺は」 凍弥 「……そういえば精霊だったな。それで、どうする気だ?」 遥一郎「こうする」 与一は浩介の背中に手を置くと、その状態から瞬間的に力を込めるように一瞬だけ押した。 浩介 「うぐっ───う、……あ、あら?」 浩之 「ブラザー?」 浩介 「……ぬお!?ブ、ブラザー貴様我の下で何をしている!」 浩之 「フッ……力が抜けたな?馬鹿めが───修正ィイイイッ!!」 浩介 「なっ!?」 ボグシャア!! 浩介 「ラブリィイイイイッ!!」 ───……ドシャア。 浩介が空を飛んだ。 これは確実に浩之自体に腕力によるものだろう。 遥一郎「凍弥、そいつらのことはほっとけ。玉に何か映り始めた」 凍弥 「え?あ、ああ」 浩之 「なんぞ?玉……占い玉か!?おお、我と椛の恋愛運を占ってくれ!」 遥一郎&凍弥『修正ィイイイイイイッ!!!』 浩之 「なにぃ!?」 ボグシャァアアアアアアアアアアアアンッ!!!! 浩之 「ごぉっはぁあああああああああああっ!!!!???」 ラブリィとも言えずに宙を舞う浩之。 しかしやはり自ら飛んだようで、ひらりと体勢を立て直して 遥一郎「寝てろッ!」 ドボォッ! 浩之 「おごぅ!」 降りてきた浩之の腹に鋭い回し蹴りを極め、吹き飛ばす。 そのまま浩之は客席のひとつに倒れ、動かなくなった。 遥一郎「邪魔するな馬鹿が」 ……どうやら、あの場に居られなかったのが悔しいのは俺だけじゃないらしい。 確実に苛立ってる。 ゆっくりと戻ってきて、真剣な顔で玉を見下ろす。 ───その玉の中の世界は…… ───……。 ルヒド「───開け魔の扉よ。我が名は……ウィルヴス=ブラッドリア」 リヴァ「ウィル───?」 シェイドは冥界の主の名を口にし、その壁に手を当てた。 ……確かに冥界と地界を繋ぐ壁…… 詳しく言えば、どの世界を繋ぐ壁を越えることは大変だ。 それを容易く開くシェイドは───……確かにな。 ルヒド「さあ、来るぞ。耐えてみせろ。我は手出しはせんがな」 リヴァ「フッ……望むところだ」 次の瞬間だ。 闇の中からそれが飛び出した。 サクラ「───っ……う」 それは凶々しいもので、天界のサクラとか呼ばれていた女は口を抑えた。 その物体は人のカタチを取ることもなく、塊のまま部屋の中に出現する。 リヴァ「……どこを見ている。お前の相手はわたしがする」 悪霊 『うぁああぅうう……!!』 何重にも重なっているようなうめき声。 これは確かに相当だ。 冥界の魂のカスがそろって纏わりついたか。 リヴァ「女、準備は出来ているな。これから悪霊の力を弱める。     あとはお前の仕事だ、出来るな?」 サクラ「ぐ……っ……」 女は口を押さえ、涙目になりながら首を振った。 リヴァ「チッ……おいシェイド」 ルヒド「なんだ。力は貸さんと言ったが?」 リヴァ「お前の力では滅ぼすだけだろう。その女をどうにかしろ」 ルヒド「……女子供には悪感が強過ぎたか。だが知ったことか。勝手に足掻け」 リヴァ「───忌々しいな。だが、わたしも安請け合いをしたんだ、     安請け合いらしく解決してみせるさ」 唸る霊に向かって魔術の式を組み合わせる。 邪魔なものは消すに限る。 人間味のある存在だけを残せばいいだろう。 リヴァ「───消えろ」 目で認識するその霊を手で鷲掴みするように虚空を握る。 それと同時に霊の存在が潰れ、消えてゆく。 ルヒド「ほう、空間把握能力か。     だがそれは疲れるだろう。そう何度も使えるものではないぞ」 リヴァ「口出しは要らん。黙って見ていろ」 式を組み合わせ、霊の周りを魔力で囲む。 それを収縮していき、潰しにかかる。 リヴァ「光よ、唸れ」 魔力の壁からブラストを発射する。 一体一体を確実に潰してゆく。 だがやはり悪霊だ、増殖も半端ではない。 憎悪とはここまでのものか。 リヴァ「チッ……!」 ルヒド「その女が邪魔で本来の力が出せないようだな」 リヴァ「黙れ、と言ったぞ」 ルヒド「なに、暇なのでな。少々楽しもうと考えたまでだ」 リヴァ「───……!貴様、シェイドじゃないな……」 ルヒド「名乗った筈だが?我が名はウィルヴス=ブラッドリア。     我とシェイドは闇と影よ。ふたりでひとりだが、それもまた虚ろなものだ。     普段はシェイドに任せているがな。あいつはお調子者で困る。     好き好んで人に関わるなど、愚の極みだろう」 リヴァ「………!」 ルヒド「そう睨むな。あいつが受けたことは我が受けたも同義。     だからこうしてゲートは開いてやっただろう」 リヴァ「そうだな、それだけで十分だ。もう喋るな」 ルヒド「フフフ……せいぜい足掻け」 リヴァ「チィ……おい女!いつまでそうしているつもりだ!」 サクラ「…………!」 女は吐きかけたものを抑えて杖を構えた。 だが震えている。 このような実戦経験が無かったと見える。 リヴァ「発動させろ!貴様がそれを発動させない限り、     わたしは抑えつけることしか出来ない!」 サクラ「はっ……はぁっ……!ス、ストレイ……ぐっ!」 ……そしてとうとう、女は吐いた。 天界のお子様には冥界の闇は重過ぎたようだ。 リヴァ「こ……のっ……!吐いてる場合か貴様!     救いたくて残ったんじゃないのかお前は!!」 サクラ「っ……っ……」 女は泣き出すだけだった。 だが役立たずとは思わない。 土台無理な話だったんだ。 天界のやつらは闇というものを知らなすぎる。 リヴァ「貸せ!わたしが使う!」 女から魔器を奪う。 それは本人にしか使えないものだと言われているが、 だとしたらひとりが二つの魔器を持っていることに矛盾がある。 リヴァ「どう使うかなんて───波長を合わせればいいだけだ!」 ルヒド「いい考えだ。だが、それまで悪霊が大人しくしているかな?」 声  「───させるさ」 ルヒド「なに?」 波長を合わせた途端、声が聞こえた。 そして目の前まで迫っていた悪霊が吹き飛ばされる。 彰利 「手ェ貸すぜ、お嬢さん」 リヴァ「検察官……」 彰利 「オゥラかかってこいやぁ!     ピーピー泣きたかったら俺の胸に飛び込んできやがれ!     別の意味で泣かせてやらぁ!」 リヴァ「………」 わたしはついポカンとしてしまった。 世界に居る衛兵まがいのヤツは人を平気で見捨てるものだと思っていたが─── 彰利 「ん?おいおい、やることあるんだろ?抑えとくから早くしろよ」 リヴァ「───……」 ……そうか。 こういう馬鹿も居るんだな─── リヴァ「誰に向かって口を利いている!     わたしはゼロ=クロフィックスの盟友、     リヴァイア=ゼロ=フォルグリムだぞ!」 うだうだ言ってる暇はない。 やることをやるだけだ。 リヴァ「発動せよ魔器!その名、我に示せ!!───ストレイン!」 ガカァッ!! ストレインが大きく弾けるように発動する。 『災いを吸収する』力を内に秘めたそれは、霊の存在を欠片にしながら吸い込んでゆく。 だが─── ルヒド「それではダメだな。魔器が耐えられんぞ」 そう。 魔器が悲鳴を上げている。 悪霊の数が多過ぎる。 彰利 「なに?こいつら消しちゃっていいの?」 リヴァ「災いとなる者だけだ!」 彰利 「そかそか、それ早く言いなさいよね、もう」 リヴァ「───待て検察官。なにをする気だ」 彰利 「決まってんデショ、悪霊をカスにするのさ」 リヴァ「なに───?」 言うや否や、検察官は上着を脱いで拳に力を溜めた。 彰利 「イメージしろ……コントール、コントロール……!     ───よし!我が両手よ!     未来を築く希望の光となりて、悪しき者をブチノメしたまえ!     オベリスクの巨神兵、技を借りるぜ!!     我が左手に月聖力……我が右手に月醒力……!ソウルエナジーMAX!!     唸れ双拳!!ゴッドハンドインパクトォオオオオッ!!!」 検察官の両腕が光り輝いた次の瞬間、その拳が勢い良く振られ───霊を破壊してゆく。 ───そしてドッガァアアアアアアアアアアンッ!!! リヴァ「ッ……!!」 少し遅れて鳴る轟音。 家に損傷は無かったが、悪霊の数は相当減っていた。 彰利 「おーらどうしたぁ?かかってこいよ、ホレェ」 悪霊 『あぁあ……ぅううぁああぅうう……!』 彰利 「ンーフン?ンーフン?」 検察官は霊を挑発している。 あれだけ大きかった悪霊は、人よりまだ結構大きいというくらいまで消されていた。 ……感じる。 あの中心に、人の心が存在してる。 それが凍弥の言う霊だろう。 彰利 「ホントは悠介みたいに創造の理力が使えれば楽なんだけどなぁ。     悪霊を吸い込むブラックホールが出ます、って」 悪霊 『あぁあああああぅううっ……!!』 彰利 「お?なんじゃいまだ抵抗するってゆうのかい。     ───いいだろう、霊ども……存分に───かかってこい!!」 悪霊 『ぁああっ!!』 彰利 「ぉおおおおおおおおーーっ!!     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオ     ラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアアッ!!!」 ドボボボボベボバドボゴバボフボファアアア!!! 検察官はあろうことか手に能力を込めて素手で殴っている。 凄まじい速さだ。 ……アレには逆らわないようにしよう。 彰利 「フォオオオオゥゥルァアアアアアアアアアアッ!!!!!!」 ドッパァアアアアアアアアンッ!!! 悪霊 『ぎゃああぁあぁぁぁぅうう……ぅうぁあああぅうう……』 悪霊の数も激減し、既に人間の魂が見えている。 彰利 「おいてめぇ、消されたくなかったら出ていけ」 悪霊 『うぁあああ……』 彰利 「言葉くらい解るだろ?解らないなら輪廻転生して赤子からやり直せ」 悪霊 『ぁあああぅう……』 彰利 「………」 悪霊 『うぁあああぅぅ……』 彰利 「ハッキリ喋らんかァーッ!!」 ドパァアアンッ!!! 悪霊 『ぎゃぁああぅう……!!』 リヴァ「なっ……」 検察官は悪霊にビンタをした。 彰利 「ええいなんなのさっきから聞いてりゃ『うああ』だの『ああう』だの!!     てめぇは赤子か!?それとも生前は喋れない人だったのか!?ア゙ーッ!?     お言いなさい!ほれ!喋ってみろこの!!」 悪霊 『あぁああぅうう……』 彰利 「あうじゃねえっつってんだろがぁーっ!!」 ドパァーン!! 悪霊 『ぐあぁあぅう……!!』 彰利 「こういう場合はギャアでしょうがギャア!なに考えて霊やってるのこの子は!」 ドパァーン!ドパァーン!! 悪霊 『あぅう……!ひぁああ……!!』 彰利 「ええいママンは悲しいわ!喋って詫びろこのタコ!」 ドパァーン!ドパァーン!! 悪霊 『ぁあああうう……!』 ビンタは続く。 もはや霊は弱りきっていて、抵抗する力も無いらしい。 彰利 「ほら喋れ!『愛』だ!ほれ!」 悪霊 『あううぅ……』 彰利 「愛だっつってんだろが!」 悪霊 『ぅうあぁああ……』 彰利 「ええいまったくこの子はァーッ!悪霊退散毒霧!!」 ブシィッ!! 悪霊 『ぎゃあああーーーっ!!』 彰利 「お?ほっほっほ、いい声出せるじゃねぇの。さあ言え、『愛』と唱えろ」 悪霊 『ぐぁあああぅう……』 彰利 「お馬鹿ーッ!!」 ドパァーンッ! 悪霊 『ぎゃあぁあ……ぅぅ』 彰利 「お前もう馬鹿!腐ったみかん!腐敗柑橘類!!ハゲ!タコ!」 悪霊 『ぁあああ……!!』 彰利 「お?怒っとる?怒っとるばい?悔しかったら言ってみいホレ」 悪霊 『あぅうう……!うぅぁあああ……!!』 彰利 「悪霊退散ラリアットォッ!!」 ドパァンッ!! 悪霊 『ぎゃああぅう……!!』 彰利 「お立ちなさい!まだ講義は済んでませんことよ!!」 ……この検察官は危険だ、強すぎる。 まともにやり合えば勝てると断言出来るが、 その前にヤツの行動に翻弄されそうな気がする。 ……本当に、こいつには気をつけた方がよさそうだ。 Next Menu back