───凍弥改造計画───
遥一郎「……なにをやってるんだあいつは……」 与一が呆れていた。 当然俺も呆れている。 悪霊にビンタや毒霧やラリアットした人なんて初めて見た。 いや、それより協力する気があるのかどうか。 遥一郎「ミニはまあ予想の範疇にはあったが、あいつは予想なんて覆しまくってるな」 凍弥 「……あいつは人の黒い部分を知らなすぎるし、霊なんて見えなかったから」 遥一郎「そうだな。辛過ぎただろう、初めて見えた霊があれではな……」 でもその悪霊も弱っている。 救い出すなら今だろうけど─── 凍弥 「……信じるって決めたしな」 俺はここに居ることにした。 ……がんばれ。 遥一郎「ん───?」 凍弥 「与一?どうかしたのか?」 遥一郎「ヤバイぞ凍弥!悪霊が部屋から抜け出した!」 凍弥 「ええ!?」 与一がそう言った途端、二階からリヴァイアの声が聞こえた。 声  「逃げろ凍弥!悪霊が下に行ったぞ!!」 突然の事態だ。 どうするか─── 遥一郎「考えてる暇は無いようだぞ、見ろ」 凍弥 「───!」 悪霊はうねりをあげながらこちらへ飛んできた。 現物は相当凶々しい。 こりゃサクラじゃなくても吐き気を促される。 悪霊 『うぅうぁあああぅうう……!』 悪霊が上から下へ落ちるように襲い掛かる。 ヤバイと感じたが、足が動かない。 凍弥 「なん───!?」 見下ろしてみれば、足にはさっきの男の霊がしがみついていた。 『あぁあぁぁ……』とか悲しげな声を出しながら、必死に生に執着しようとしている。 遥一郎「凍弥!」 与一が男の霊に拳を落とそうとする。 だが、それより速く悪霊が降りてくる。 これは……避けようがない。 ───だが、そんな時に思った。 ここに居るのは悪霊だけだ。 ということは結果的には目的は達成出来たんじゃないかって。 それなら……少しはプラス思考が持てるかなって───そう思った。 声  「お待たせしましたゾロォーリィー♪ほぁたぁ!」 凍弥 「え───?」 ドパァン! 悪霊 『うぁあああっ……!』 悪霊が吹き飛ぶ。 目の前にいきなり現れた彰利にフライングニールキックをされて。 彰利 「スリル満点だったかい?メェ〜ン」 凍弥 「え……?い、いきなり現れた……?」 リヴァ「異空転移の応用だ。組み立てた式を検察官に預けた」 彰利 「いやぁ〜んァ、これいいわねー。     こういう媒介があると月空力も完成させやすくなるよ。     ところで……これって貰いっぱなしでいいんかい?」 リヴァ「ああ、式なんていくらでも組み立てられる。お前には世話になったからな」 彰利 「オウオウ、こればっかりは素直に恩にきるよ。     馴れるには時間がかかるだろうけど、月空力に派生型として埋め込めると思う。     で───さっきの悪霊は何処?」 リヴァ「なに?消したわけじゃないのか?」 彰利 「んーん、ぼくフライングニールキックしたかっただけだもの」 凍弥 「………」 辺りを見渡してみても居ない。 だけど気配は近い。 遥一郎「一応、足に付いてた霊はおっぱらったぞ」 凍弥 「サンキュ」 だが───あの悪霊は? 浩介 「グ……ゥウウゥ……」 あ、なんか解った。 浩介 『うぅうぁぁぁぁぅうう……!!』 浩介が憑依されたらしい。 彰利 「……なんつーか迫力に欠けるな」 凍弥 「俺もそう思ってたところだけど」 リヴァ「気をつけろ。悪霊が消滅を責められて、人間に憑依して取る行動はひとつだ」 凍弥 「それって?」 リヴァ「その人間の願望を増幅させるんだ。性質が悪い」 凍弥 「浩介の願望を───!?」 ……なんか大したことなさそうだ。 浩介 『ウ、ウォオオ……!ウ……!』 遥一郎「ウ……?」 与一がゴクリと息を飲んだ。 浩介 『うどん!うどん!モミジ!モミジ!!』 ……やっぱり。 遥一郎「よし殴らせろ」 与一が腕まくりをして浩介に近づ 凍弥 「ちょ、ちょっと待った!いくらなんでもそりゃカワイソウだろ!     好きで言ってるわけじゃないだろ!?」 遥一郎「止めてくれるな凍弥!俺が殴る!誰にも迷惑はかけん!」 凍弥 「浩介にはでっかい迷惑だろ!?」 遥一郎「やかましい!それとも他に解決策でもあるのか!?」 うおお、与一が怒っている! 凍弥 「ある!あるから落ち着いてくれ!あんたらしくないぞ!」 遥一郎「…………」 ……長い溜め息を吐いて、与一は落ち着いた。 俺はそこでようやく息を吐き、口を開いた。 凍弥 「えっと……スパゲティ用意してもらえるか?」 遥一郎「なに?そんなものどうするって」 凍弥 「作り置きがあったろ?頼むよ」 遥一郎「あ、ああ……」 ───…… 浩介 『ギャアアアアアアアア!!凡此が!凡此が音も無く走ギャアアアアア!!』 ドサ。 志摩浩介───死亡。 遥一郎「……こんなものでいいのか」 彰利 「お、俺達は忘れない……き、貴様のような男がい、居たことを───」 凍弥 「それどもり過ぎ」 彰利 「男塾は常にこんなもんだが」 知ってる。 凍弥 「まあとにかくこれで終わったわけだよな?」 リヴァ「まだだ、終わってない」 凍弥 「え?」 リヴァイアがそう呟いた途端、俺の中に何かが入る感覚があった。 凍弥 「ぐっ───うぅっ……!?」 リヴァ「凍弥!?」 彰利 「しぶといやっちゃなぁ〜……!     どれアタイがマッスルリベンジャーで叩き潰してやろう」 凍弥 『…………───』 彰利 「……おろ?」 遥一郎「待て、様子が変だ」 彰利 「変なのは貴様のその存在だと思うが」 遥一郎「妙な逆ツッコミを入れるな。そんな場合じゃないだろう」 リヴァ「───待て。悪霊の気配が消えていく」 彰利 「ほえ?何故に?」 凍弥 「……はぁ」 俺は息を吐いた。 自分の中から悪霊の気配が無くなったことを感じると、体も自由に動く。 凍弥 「憑依されるのってあんな感じなんだな」 リヴァ「凍弥、お前どうして……」 浩之 「フッ、それに関しては我が説明しよう」 凍弥 「……起きてたのか浩之」 浩之 「うむ」 自信満々に頷く浩之が立ち上がり、ニヤリと笑った。 彰利 「何が可笑しいんじゃこのタコォーッ!!」 浩之 「なにぃ!?」 ドゴォッ! 浩之 「ほごぉっ!」 ……ガクッ。 志摩浩之───死亡。 彰利 「……キャア!やっちまった!」 遥一郎「お前さ、何がやりたいんだ?」 彰利 「俺より偉そうにするヤツぁ許さん」 遥一郎「………」 与一が呆れている。 そんな景色は無視して、俺は口を開いた。 凍弥 「ただ単に、俺に願望が無かったんじゃないか?」 リヴァ「それこそ有り得ない。人には必ず願望があるものだ」 凍弥 「んー……浅美?」 浅美 『わたしは知りませんよぅ……』 凍弥 「そっか……大丈夫だったか?」 浅美 『消されるかと思いました……そんなの嫌です』 凍弥 「そうだな、俺の注意力が足りなかった。悪い」 浅美 『あ、い、いえ、べつに責めてるわけじゃ』 リヴァ「…………なぁ凍弥?お前ってもしかして、     霊が幸せになれますように、とかしか思ってないんじゃないだろうな」 凍弥 「え?そりゃ思うだろ。好きで死んだわけじゃ───って、まさか?」 リヴァ「……馬鹿らしい。お前の脳はそこまで穏やかなのか?」 馬鹿らしいってアータ……。 リヴァ「だが、そうだな。間違い無くお前の願望を増幅させて自分らで昇天したのさ。     やつらにとっては予想外のことだろ。     まったく、最初からお前に任せれば良かった」 凍弥 「だ、だけどさ。弱らせないと願望倍化はしなかったんだろ?     最初から俺が居たところで邪魔になってただけだって」 リヴァ「そう思わないとやってられないってことだ」 リヴァイアは溜め息を吐いてその場を離れようとした。 凍弥 「あ、リヴァイア」 リヴァ「なんだ」 凍弥 「……美紀は……上に居るのか?」 リヴァ「美紀?……ああ、あの霊か、居るぞ。     場が無いから自然に昇天するだろうがな」 凍弥 「───!」 リヴァ「待て。お前、自分を場にするつもりか?」 凍弥 「当たり前じゃないか!」 リヴァ「やめておけ。お前が消滅するぞ」 凍弥 「なに……?」 俺が消滅……? なんだよそれ……。 リヴァ「やっぱりその霊からは何も聞いてないか。     お前はな、奇跡の魔法で象られた存在だ。     場を広げようとすればその消費の回復のために眠り、食べることを増やす。     その霊を場に招いてからのことで心当たりがないとは言わせないぞ」 凍弥 「………」 心当たりがある。 だけど…… 凍弥 「それでも助ける方法がある以上、それを捨てるのは嫌だ」 リヴァ「……言うと思ったよ、わたしだってそうする。     いいだろう、ちょっとこっち来い」 リヴァが俺を招く。 俺は素直にそれに従い、彼女に近づいた。 リヴァ「要するにお前が強くなればいい。奇跡の魔法の力を増幅させてみよう」 凍弥 「そんなことまで出来るのか?」 リヴァ「伊達に長生きを研究に費やしちゃいない。動くなよ、動くと手元が狂うぞ」 凍弥 「狂うとどうなるんだ?」 リヴァ「脳の回線が切れる可能性があるな。……ああ、何か希望はあるか?     どうせなら脳の回線を幾つか開いてやってもいいが」 凍弥 「か……回線を開くとどうなるんだ?」 リヴァ「強化人間を知ってるか?脳の回線を開くわけじゃないが、     薬や魔術、または魔法や魔導で体から痛覚と恐怖を無くすんだ。     するとどうだ、兵器よりも恐ろしいキリングマシーンの誕生だ」 凍弥 「……それ、まさか」 リヴァ「脳の回線を開くだけで簡単になれるが」 凍弥 「……他に何か無いかな」 流石にキリングマシーンになりたくはない。 リヴァ「……そうだ、なぁ凍弥。魔術師になりたくないか?お前には素質がありそうだ」 凍弥 「………」 リヴァ「わたしの助手になれって言ってるんじゃない。     天界には魔術師が居ないからな、     奇跡の魔法を宿した魔術師というのも面白いだろう」 凍弥 「面白さで選択しないでくれ」 リヴァ「わたしは自力で回線開いて今の状態に至ったんだけど」 凍弥 「うお……」 リヴァ「それからは研究していく内に不老不死だとか魔導だとか式魔術だとか、     いろいろと開眼していったんだ。楽じゃなかったのは確かだ。     ああ、もちろん不老不死を解除する回線もある。     てゆうか開いた回線を閉じてやればいい。どうだ?」 凍弥 「……それをやった方が俺は場に馴れやすいのか?」 リヴァ「当たり前だ。回線は元々ある可能性を開くんだからな。     それは無理をしてるわけじゃない、ただ出来ることを出来るようにするだけだ」 凍弥 「魔術もそうなのか?」 リヴァ「それはわたしが空界人だからということもあるけどな。     お前の場合は魔術より魔法だろうな。     空界は魔術、天界は魔法、冥界は盟約における法、地界は……とくにない」 凍弥 「寂しいなぁ地界」 リヴァ「そんなものだ。地界にはマナが少な過ぎる。     まあこれだけ建物ばかりを立てれば当然だろうな。     媒介にするものが何ひとつとしてない」 ……そこまでですか。 確かに酷いものかもしれないけど。 リヴァ「空気も汚いし人間も自ら汚れている。     これではマナが体に精製されることすらない」 凍弥 「それって体の中にも出来るのか?」 リヴァ「ああ。天界と空界の存在はそれを媒介にして魔術や魔法を完成させる。     マナは自然の中にあるが、人は自然を壊している。     それじゃあマナが地界の人間を避けるのも当然だろ?」 凍弥 「そりゃそうだ」 リヴァ「だが、お前の中には奇跡の魔法がある。     お前はそれを媒介にして天界のマナを使用することが出来る。     それにわたしがお前の中に空界のマナの結晶を欠片でも入れれば、     お前には空界のマナの力を使用出来るわけだ。どうする?」 凍弥 「いやいやいや、魔法なんていいんだ。ただ救える人を人として助けたい。     それだけで十分なんだ。だから俺は───」 リヴァ「…………つまらない思考だな。わたしに似すぎて鏡を見てるみたいだ」 凍弥 「はは……ところで、その回線を開くってゆうのはすぐ済むか?」 リヴァ「済むぞ。ということは───……いいんだな?」 凍弥 「後で閉じられるんだろ?」 リヴァ「ああ、任せておけ」 凍弥 「じゃあ───頼む」 俺は目を閉じて回線の解放を待った。 恐怖が無いわけじゃないが、それで今よりも誰かを助けられるならそうするべきだ。 リヴァ「───……」 目を閉じていても感じる。 リヴァイアが俺の目の前に手を掲げている。 リヴァ「……驚いた。回線が多いな。しかもこれは───」 これは? なんだろ…… リヴァ「───じゃあ、いくぞ。痛みはないから力を抜け」 凍弥 「ああ」 リヴァ「………」 頭の中が熱くなるのを感じる。 気の所為と言われたらそれだけだが、なにかが熱くなってゆく。 リヴァ「解放───……解放───……解放───……」 どんどんと熱くなってくる。 リヴァ「───……よし、終わったぞ」 凍弥 「………」 ゆっくりと目を開く。 いや、その前だ。 目の前───いや、全ての気配を感じた。 風の気配、誰かの息遣い、どこかが軋む音。 凍弥 「………」 自分の感覚が鋭くなっているのが解る。 神経伝達までがどんな仕組みなのかも解りそうな自分が怖い。 凍弥 「……サンキュ!」 俺はリヴァイアに礼を言うと二階へ駆けた。 ───……。 部屋へ駆け込むと、姿が薄れた美紀が居た。 悔しそうに俯いているサクラを見下ろしている。 サクラはやっぱり見えていないようだ。 凍弥 「───美紀」 美紀 『あ……凍弥くん』 美紀は振り向いた。 その体が薄れていることに少なからず恐怖した。 だからこそグズグズしてなんかいられない。 凍弥 「……美紀。俺を場にしろ」 美紀 『え?場って……?』 凍弥 「この世界に留まるための場所にしろって言ってるんだ。     俺はお前を消したくない」 美紀 『ど、どうやって……?』 凍弥 「───浅美、教えられるか?」 浅美 『霊体になったばっかりだとちょっと難しいです。     わたしは波長を合わせることは出来ますから───凍弥さん。     凍弥さんが美紀さん、でしたよね?その人の波長に合わせてください』 凍弥 「俺が……?」 浅美 『リヴァイアという人は魔器というものに波長を合わせてました。     それが出来ないとこの人は救えません』 凍弥 「……俺には美紀の波長なんて……解らない」 波長というもの自体が解らない。 何を波長と言うのか。 俺には─── 浅美 『わたしからは頑張ってとしか言えません……けど、     よく見てあげてください。人には誰にだって波長というものがあります。     それを見れれば……きっと大丈夫ですから』 凍弥 「───……」 よく見る……? 凍弥 「美紀……」 美紀を見る。 その薄れている姿を。 そんな痛々しい姿の何を見てやれっていうんだ。 声  『……フフフ、本当は解ってるんだろう?』 凍弥 「え……?その声は───」 浩之 『お前なら出来る。出来ることを出来るようにしてもらえたんだ、     誰かに出来ることがお前に出来ないわけがないだろ?』 ……浩之……お前性懲りも無く思考に現れたのか。 浩之 『出てきてやったのにそれってヒドイのではないか!?』 凍弥 「でもサンキュ、焦るのはご法度だよな。───よし」 浩之 『目で見るのではない、心で感じるのだ……』 凍弥 「おう……」 美紀を見る。 その姿が薄れているが、それだけを見ているだけじゃダメだ。 浩之 『ええい、なまじっか目が見えるからダメなのだ!目を潰せ!』 凍弥 「お前が潰してろよ!」 浩之 『なにぃ貴様……!いいから探れ!』 凍弥 「───……」 目を閉じて感じる。 と、その途端に感じることが出来た。 凍弥 「…………あっけないのな」 浩之 『出来ることが出来るのだからやろうと思えば出来るのは当たり前だろう。     何を考えているのだ盟友』 やかましい。 凍弥 「でも波長合わせるって?」 浩之 『そんなこと我が知るわけがなかろう。馬鹿か貴様は』 やろっ……! 凍弥 「……じゃあ───俺の波長よ、美紀の波長に変われ」 キヒィン。 浅美 『あ、変わりました』 凍弥 「ぉぉおおい!いいのか!?それでいいのか!?」 浩之 『ハッハッハ、結果オーライだろう』 凍弥 「お前もう消えろ」 浩之 『ひどいな同志。まあいいだろう』 ───……。 浩之の気配が消えた。 凍弥 「で?これからどうすればいいんだ?」 浅美 『さっきから独り言が多かったようですけど、大丈夫ですか?』 凍弥 「……さっきのは浩之と電波通信してただけだから気にするな。     それで?どうしたらいいんだ」 浅美 『美紀さんを受け入れる、って思いながら力を送るように触れてみてください』 凍弥 「……こうか?」 思考を働かせ、美紀に触れようとしてみる。 そして触れた途端、彼女の姿がハッキリと浮かび上がった。 浅美 『はい、それで結構です』 凍弥 「……これだけでいいのか」 浅美 『回線を開いたからですよ。ただし気をつけてくださいね。     この状態で回線を閉じたら多分、凍弥さん消えてしまいますよ』 凍弥 「……怖いこと言うなよ……」 もう回線閉じられないじゃないか。 ……なんてこった。 浅美 『いいんじゃないですか?いくらでもお節介できるようになったじゃないですか』 凍弥 「……浅美?なんか怒ってないか?」 浅美 『知りませんっ』 凍弥 「………」 怖いッス。 はっきり言えますよ、怖いです。 美紀 『……わたし、また凍弥くんの傍に居られるのかな』 凍弥 「そうなるな。またよろしくな」 美紀 『……うんっ』 美紀は微笑みながら頷いた。 ルヒド「もう済んだのかい?」 凍弥 「うおっ!?い、居たのか!?」 ルヒド「あはは、ヒドイなぁ。まあいいけど。     ゲートはもう閉じたし、僕ももう用はないね。     でもひとつ聞いていいかい?回線を開いたのかい?」 有無も言わさぬ言葉並べをする死神。 それが終わってからようやく俺は口を開いた。 凍弥 「……開いたよ。必要なことだったからな」 ルヒド「ああ、別に責めているわけじゃないんだよ。でも楽しみだね」 凍弥 「楽しみ?なにが」 ルヒド「なんでもないよ。それじゃあ僕はもう帰るね。じゃ」 キヒィンッ。 死神は言いたいことを言ってさっさと消えた。 凍弥 「………」 そして俺は自分が変わってしまったことを思った。 今日一日で変わりすぎだろ俺……。 とか思っている内、サクラが俺を見ていることに気づいた。 サクラ「………」 凍弥 「サクラ?」 サクラ「ごめんなさい……わたし、何の役にも……」 凍弥 「気にするな。結果オーライだ」 サクラ「でもわたし……」 凍弥 「気にするなって言ってるだろ?ほら」 サクラに手を貸して立ち上がらせた。 サクラ「……美紀ちゃん、そこに居るんですか?」 凍弥 「ああ。えーと……」 もしかしたらと考えて、俺はそれをやってみようと思った。 サクラの頭に手を置いて、ポンと叩いてみる。 サクラ「あ、な、なにを……?」 凍弥 「どうだ?」 サクラ「どうだって……なにがですか?」 凍弥 「んー……やっぱダメか」 全部が思い通りになれば苦労はしないか。 あ、じゃあこれはどうだろうか。 俺はイメージして美紀に力を送るように願ってみた。 サクラ「あっ」 その途端、サクラは驚く。 そして美紀の傍までゆっくりと歩き─── サクラ「美紀……ちゃん!?」 美紀 「え───!?」 見える……よし、見える! サクラと美紀は何かを弾けさせるように喋り合い始めた。 凍弥 「………」 だが俺は別のことに気づいた。 そう。 人間にこんなことが出来るのだろうかと。 回線を開いたところで、霊の姿を現すだなんて─── 凍弥 「俺は……」 俺は、何者だ───? 凍弥 「………」 俺はこの時になって『でも楽しみだね』という死神の言葉の真意が解った気がした。 そして自覚する。 俺は地界人というよりは天界人なのだと。 浅美 『……凍弥さん?』 凍弥 「………」 奇跡の魔法ってなんだろう。 それはどうやって俺の中に根付いたんだろう。 親から?それとも─── 凍弥 「………」 いや、父さんと母さんは間違い無く地界人じゃないか。 それじゃあ俺は───? 俺は……天界人、なのか? 父さんと母さんの子じゃないって? 凍弥 「……ははっ、馬鹿な」 そうだ、そんなことある筈がない。 父さんも母さんも言ってたじゃないか、奇跡の下に実った恋だったって。 その奇跡の中に俺がそれを受け継ぐ引き金になった何かがあったんだ。 凍弥 「……ほんと、馬鹿らしい」 そうだ、馬鹿らしい。 何を考えている。 俺が何者であって、これから何をしようとする者であっても─── この世界で生きてきたこれまでの俺は変わらない。 それなら俺が俺である事実なんて曲がりようがないんだ。 だったらそれでいいじゃないか。 ……本当に馬鹿らしい。 悩むだけ無駄だっていうのに。 凍弥 「じゃ、俺は下行ってるから」 美紀 『うん』 サクラ「はい」 浅美 『あ、ご一緒します』 吹っ切れた俺は、部屋を出て階下を目指した。 その後ろから付いて来る浅美の頭をわしゃわしゃと撫でくり回して、 困った顔をした浅美に笑いかけた。 ……その時。 凍弥 「───……」 浅美 『?』 何かが聞こえた。 何か。 それはあまり聞きたくないものだ。 凍弥 「………」 浅美は口を開いたわけじゃない。 きょとん、ともしている。 だけど俺は確かに聞いた。 明らかに感じる『心の声』。 凍弥 「……だめだ」 回線を閉じてもらわなきゃいけない。 こんな力、要らない。 人の心なんて見えない方がいいに決まってる。 浅美 『凍弥さん?どうかしたんですか?』 凍弥 「っ───!だ、大丈夫だから少し離れてくれ!」 浅美 『え───……』 凍弥 「あっ、いやっ!別に変な意味じゃない!誤解しないでくれ!事情があるんだ!」 浅美 『?』 凍弥 「と、とにかく少し放っておいてくれ!頼む!」 浅美 『あ、───』 何かを言いかけた浅美をそのままに、俺は残りの階段を駆け下りた。 そしてリヴァイアを探して───居た! 凍弥 「リヴァイア!回線を閉じてくれ!」 リヴァ「それは無理だ。一度開いた回線は一日は待たなければ死に繋がるぞ」 凍弥 「───!そんな!」 即答で地獄に突き落とされた。 なんてこったい、少しはもったいつけて欲しかったと思うのは卑怯ですか? でもそう思ってます、マジで。 リヴァ「どうしたんだ?いきなり」 凍弥 「……えっと、さ」 俺はリヴァイアの耳に口を寄せて『心の声』が聞こえることを伝えた。 リヴァ「凍弥、悪いことは言わない。魔術師になれ。確実に素質がある」 凍弥 「全力で遠慮します」 リヴァ「残念だな。無理強いはしないつもりだが、残念でしょうがない。     しかしな、魔術師の中でも『心の声』を聞くのは中位ランクからだぞ。     悪いことは言わん、言うつもりもない。だから魔術師にだな」 凍弥 「いいと言うのに」 リヴァ「……ざ……残念だ……っ!」 そんな思いっきり残念がられても。 リヴァ「まあとにかくだ。回線をいじくるのは一日一度だ。     ただし、回線を初めて開いた時は二日は待て」 凍弥 「ふつ───二日ぁっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!そんなの待ってられるか!」 リヴァ「死にたいなら止めないが」 凍弥 「待ちます!待ちますともチクショーイ!!」 リヴァ「泣くな」 凍弥 「泣かずにいられるかよ……うう」 未来を放棄することと怠惰で居ること以上の愚行はないだろ。 俺はそんな存在は御免だ。 だけど……嗚呼、この状態で二日待てってぇ!? ……嫌ぁあっ!! 凍弥 「………」 寝よう。 極力人を避ければいいんだ。 リヴァ「ちなみにその力もコントロール出来るようになれば、     勝手に心の声を聞くこともなくなるぞ」 凍弥 「それを早く言いなさい。で、どうすればいいんだ?」 リヴァ「コントロール出来るようになりたいか?」 凍弥 「当たり前だ」 即答で語った。 それに対してリヴァイアはフッと笑った。 リヴァ「解った。それじゃあ今日は付き合ってもらうぞ」 凍弥 「……了解」 俺がガックリと頷いた時、昼を告げる鐘が鳴った。 それがやっぱりオチを知らせるような音に聞こえて悲しくなった。 あーあ……もしかして俺ってつくづくツイてない? いやいや、志摩兄弟よりはマシだよな?きっと……うん。 俺はそう思うことにして、その二日を生き抜くことを決意した。 ……というより、するしかなかった。 Next Menu back