───お別れしたい人───
───…………きーんこーんかーんこーん。 彰利 「来ねぇーっ!!」 悠介 「お前さ、ほんとにマスターしたのか?」 彰利 「………」 悠介 「どうしてそこで目を逸らす」 彰利 「い、いえ?べつにどうもしまセンよ?ええ、マスターしましたよ?しました。     決して一か八かじゃないですよ?ええ。そらァもう」 悠介 「だったら俺の目を見ろ」 彰利 「とか言って洗脳する気でしょ!アタイったら騙されないんだから!」 悠介 「騙してるのはお前だろうが!」 彰利 「騙してなんかないわ!ここに来る前にホントに完成したんだい!ホントだって!     いやマジで!俺がこういう時にウソつくかよ!マジだって!」 悠介 「お前はこういう時だからウソつくんだろうが!」 彰利 「ば、ばかな……ば、ばかな……」 悠介 「二回言うなよ!」 彰利 「怒鳴るな!」 悠介 「お前やっぱりマスターしたなんてウソだったんだろ!」 彰利 「そんなことねぇって!く、くそ!ホントに成功したんだって!     来いこの……!来いっつぅのーっ!!」 彼が力を込める。 その次の瞬間穴が変調を見せると、そこから何かが出てきます。 彰利 「キャア見て!成功よ成功!ホレみたことか!」 彼は喜びハシャイでその存在の登場を待ちました。 が、出てきたのは─── 悪霊 『あぁああああぁうううう……』 どう見ても悪霊でした。 彰利 「………」 悠介 「……おい。あのどう見ても凶々しい物体はなんだよ」 彰利 「や、やぁねぇアタイったら。眼鏡が曇ったのかしら」 そう言うわりに、眼鏡なんてしてません。 彰利 「コンタクトなのよ!悪かったわね!」 心にツッコミを入れつつ目に指を当ててズボリと取り出 椛  「きゃーっ!?」 彰利 「なんじゃいいきなり!ビックリするじゃないの!」 悠介 「ビックリしたのはこっちだ!!なに眼球取り出してんだよ!」 彰利 「いやーそれがねー、     イアン・マクレガーとの対戦のあとに目が飛び出しやすくなっちゃって。     こうして手入れをしないと『死神13』のように目が落ちちゃうんですよ。     花京院典昭もびっくりです」 悠介 「それは既に人間じゃねぇ」 彰利 「ホーレお孫さん、半径20メートル!目玉スプラーッシュ!」 ゴポポポポポポポ!! 椛  「きゃあああっ!」 悠介 「平然と目玉飛ばしまくってんじゃねぇーっ!!」 ボギャアア!! 彰利 「キタローッ!?」 おじいさまに殴られたおかげで、目玉が飛んでこなくなりました。 一安心です。 彰利 「うう、ただエメラルドスプラッシュに対抗したかっただけなのに……」 悠介 「それはいいからあの悪霊なんとかしろよ」 彰利 「……やっぱ、どっからどう見ても悪霊よね。     うう……リヴァイアさんも不憫な体に……」 悠介 「つまらん悪足掻きはいいから片付けろ」 彰利 「わーたわーた。やりゃーいいんでしょうがまったく。おいそこの悪霊!」 悪霊 『うう……?』 彰利 「そー!お前だ!とっとと消えろ!」 悪霊 『───うぁあああああううう!』 彰利 「ギャア襲いかかってきた!?」 いきなり消えろは傷つくと思います。 うん。 彰利 「あうあうしか言えないヤツがしゃしゃり出てんじゃねぇーっ!!     外道焼身霊波光線!!」 ギシャア!! 悪霊 『ぎゃあああーーー……───』 ……すごい、光だけで消滅させました……。 悠介 「あうあう以外にも言ってたな」 彰利 「……こういう時だけ都合よくああゆう言葉を使うヤツって嫌いYO……」 悠介 「それってお前だと思うけどな」 椛  「……あの。いい加減にしてもらえませんか?     協力する気が無いのなら消え失せてください」 彰利 「……だとよ」 慈悲に満ち溢れたやさしくもキモチワルイ笑顔でおじいさまの肩に手を置き、 彼はささやくような穏やかで重みのある声で言いました。 悠介 「どうして俺に振るんだよ」 彰利 「え?だって俺様がオナゴにこげなこと言われるわけがなぎゃあも」 悠介 「なぎゃあもじゃねぇ」 彰利 「ま、ええわ。こいつさ鈴訊庵てとこに連れてきゃよかギン?     したらおやすい御用だぁ。オラにドンと任しぃ、連れてったるけん」 悠介 「どうやって」 彰利 「んー……飛んで」 悠介 「飛ぶのか!」 彰利 「オウヨ!」 またウソをつく気でしょうか。 この人には付き合いきれない部分があります。 彰利 「オウヨ?オウヨ〜」 椛  「………」 彰利 「オウヨ……?」 悠介 「………」 彰利 「オウヨ!」 悠介 「……いや、だからさ、出来るもんなら飛んでみせろよ」 彰利 「オウヨ!オウヨ〜!!」 悠介 「クネクネ動くな。いいから飛べ」 彰利 「オウヨ!……オウヨ〜……!」 グググググ……! 彰利 「オウヨ〜!」 ドシュウウウウウン!! 悠介 「うわ!ホントに飛びやがった!」 彰利 「オウヨー!」 彼は空で器用に飛んでみせました。 ですが、どうしてか鳥に襲われて集中力を欠き、落下していきます。 彰利 「オウヨー!?」 ……当然助ける人が居るわけもなく、彼は屋上に叩きつけられました。 彰利 「オヨォウッ!?」 べきゃあっ、って、何か堅いものが折れるような音を出して彼は着地します。 というよりは落ちてきました。 彰利 「あ……痛……痛……痛……痛いっ……!」 悠介 「賭博黙示禄カイジの真似出来るならまだ大丈夫だろ」 彰利 「ひでぇ!それが友人に言う言葉か!?」 悠介 「お前が騒ぐと時間が無駄になるんだよ、いいから早くしろ」 彰利 「す、すまねぇ、飛ぶのは無理だ。     何故だかアタイ鳥に人気があるみたいで、そっとしておいてくれねぇ」 悠介 「だったら他の方法を考えろ」 彰利 「……じゃ、俺が背負っていくとかゆうのはどうだろうか」 ……最初からその方が良かったのではないのでしょうか。 彰利 「あ、お孫さん今、その方が良かったんじゃ……とか思ったね?」 椛  「思いました」 彰利 「うお……ハッキリと。まあいいコテ、背負えばいいのね?」 悠介 「そうなるな」 彰利 「よし、それでは───ハァッ!背負い投げぇええぃっ!!」 ブワッ───ドカァッ!! 背負い投げをされた先輩が屋上の石畳に叩きつけられボグシャア! 彰利 「ギャウッ!な、なにをなさるの!?」 悠介 「ちっとも話が進まん!お前もう帰れ!」 彰利 「なんで!?どうして!?アタイを捨てるの!?ちゃんと背負ったじゃない!」 悠介 「なんでもかんでも略して言うな馬鹿!そういう意味じゃないだろ普通!」 彰利 「グ、グムーッ!そこまで言いわれちゃ仕方がねぇ!     責任持ってアタイが空界のウーメェンを連れてこようじゃねぇの!     憶えてろくそーっ!!」 彼はフェンスを飛び越えて外界へと 彰利 「ギャアアアアアアアアッ!!」 ───……ゴシャアッ! 何かが破裂するような音を聞きました。 ややあって、自殺だとか事故だとか悲鳴だとか聞こえましたが、 彼の声で『特撮じゃよー!』とかゆう声が聞こえてそれは治まりました。 ……人っていい加減です。 悠介 「平和だなぁ、この世界って」 椛  「悪い方に考えることばかりが人間じゃないということだと思います」 悠介 「……ま、人それぞれだろ。あの馬鹿が帰ってくるまでゆっくり待とうや」 椛  「……おじいさま、口が下品です」 悠介 「青春時代の俺はずっとこういう口調だったんだ。気にするな」 ───……。 彰利 「ダーッシュダーッシュダッダッダダ〜♪」 AH!俺様光速!思わず衣服が燃えつきそうなこの速さ、まさに国宝級である! YES!OHYES! さてさて、もう鈴訊庵に着いてしまったがよ!この勢い、どうしてくれようか! 1:ガラスをブチ破って格好よく侵入 2:出入り口から黙って侵入 3:インターホンを押して侵入 4:……風呂場を覗く 結論:4 悔いは無いかね? 彰利 「───YES!」 だって二階の窓から湯気が漏れてるんですもの! こりゃあ覗かなきゃ……ウソだぜ!? そーと決まりゃあ早速じゃい! いやー、昨日風呂場の場所を調べておいて良かったわぁ。 でもまずは壁を登らんとね。 彰利 「………」 いいや、浮こう。 でも加減せんと場所を転移しちまうから気をつけんと。 ……ゆっくりと、ゆっくりと……。 遥一郎「……なにしとんのだおのれは」 彰利 「ギャア!だ、誰!?」 遥一郎「この家の者だが」 彰利 「ああ居候ね?」 遥一郎「……まあ、そうだが。お前は?」 彰利 「覗き───じゃない、えーと、リヴァイアさん居るかね?     ちとボーイが大変なことになっとってのう」 遥一郎「ボーイ?……凍弥か!?」 彰利 「名前までは知らんよ。アタイはダーリンの名前だけ覚えてりゃいいんだし」 遥一郎「……リヴァイアを呼べばいいんだな?」 彰利 「フフフ、そういうことだ」 遥一郎「どうして偉そうなんだ……」 男は妙な顔をしてドタバタと姿を消した。 そこでアタイは覗きを再開しようと、二階を眺めた。 その途端、リヴァイアさんが現れた。 ……チィ、二階の窓から滲み出ている湯気が気になるところだったのに。 ああ、でもリヴァイアさんとさっきの男が居るということは、 確実にあの天界の娘サンが風呂に入ってるのか。 チィイ、惜しい。 実に惜しい。 リヴァ「凍弥が大変だそうだな。何処へ行けばいい?」 彰利 「───……」 リヴァ「検察官?」 彰利 「───……」 リヴァ「?」 嗚呼、二階の湯気が出ている場所から聞こえる風呂桶の跳ねる音がたまらねぇ……! リヴァ「───覗きか?」 彰利 「違うぞ。火事かと思ったんだ」 リヴァ「そうか。心配性なんだな」 彰利 「まぁな」 リヴァ「───まあいい、ちょっと失礼するぞ」 彰利 「なにするか知らんが勝手にするがよか」 リヴァ「ああ、思考を読み取るだけだ」 ───……。 リヴァ「そうか、あの学校の屋上に行けばいいんだな?容易い」 彰利 「そうか」 リヴァ「じゃあわたしは行くぞ。お前はどうする」 彰利 「そうか」 リヴァ「検察官?」 彰利 「そうか」 リヴァ「聞いてないのか。まあいいさ、それじゃあな」 キヒィンッ! 妙な音に気づいたら、もうリヴァイアさんは居なかった。 ……今こそチャンスぞ! アタイは壁をよじ登って二階の風呂場の窓を目指した。 ───……。 キヒィン! リヴァ「ふむ」 浅美 『ひゃあっ!?』 突然現れた人影に驚いた。 でもなんのことはない、リヴァイアって人だ。 リヴァ「転移は先が解らないと少し怖いな。     いや、今はそんなことを言っている場合じゃないか。凍弥、意識はあるか?」 椛  「……なんですか、あなたは」 リヴァ「リヴァイア=ゼロ=フォルグリム。魔術師だ」 椛  「───……」 悠介 「空界人か。見るのは初めてだ」 リヴァ「───へえ、童心か。初めて見るな」 悠介 「霊体みたいなもんだ、そう珍しくはないだろ。     それよりこいつを診てやってくれ。彰利に呼ばれて来たんだろ?」 リヴァ「ああ、検察官のことだな?まあそういうことだ。     診るだけなら時間は要らない、離れていろ」 悠介 「解った。……椛」 椛  「でも……」 悠介 「専門事は専門家に任せるのが一番なんだよ。適材適所って言葉は真実に近い」 椛  「……解りました」 椛ちゃんがゆっくりと凍弥さんから離れる。 その場所にリヴァイアさんが屈んで凍弥さんの手を取った。 リヴァ「───力の使い過ぎだな。あれほど注意してやったのに、この馬鹿は」 すごい言い方だ。 リヴァ「お節介もここまで来るとただの馬鹿だろうな。サーフワールズの中でも稀だ。     界宝級だぞ、こいつのお節介は。ああ、馬鹿だ。筋金入りだ。     死んだところで治る可能性もない。いや、治るもんか」 すごい例え方だ。 でもそう思われても仕方ないほどにお節介だ。 誰かのために命を惜しまないなんてどうかしてる。 たとえ無自覚であってもだ。 リヴァ「腕まで消えかけてるか。手なんてもう透けすぎてる。     ───おい、そこのふたり」 浅美 『え?』 美紀 『わたしたち、ですか?』 リヴァ「そうだ。お前ら凍弥の中に入ってろ。     お前らが外に出てるだけで消費はするもんだ」 浅美 『そうなんですか?───って、そうでした……』 美紀 『それは大変だね』 浅美 『それじゃ、あとを頼みますね』 リヴァ「任せておけ。知り合いを見捨てるほど冷徹じゃない」 浅美 『いい返事です。ではでは〜』 きゅぽん。 ───……。 ふたりが凍弥の中に入ったのを確認して息を吐いた。 手の消滅は治まり、指が透けて見える程度に安定している。 悪化は無いだろうが、面倒であることには変わりはない。 リヴァ「同じ回線パターンの者との接触が必要だな。     この世界で天界人は───……ひとりくらいだな」 まあ、見知った者の中に居るというのだから話が早い。 リヴァ「おい、お前」 悠介 「どうした?」 リヴァ「お前は理解力がありそうだから言っておく。     凍弥は助かる。だから、いつまでもこんな場所に居ないで散れ。     ここは嫌な空気が漂ってる」 悠介 「嫌な空気って……あれか?」 リヴァ「うん?」 男が指差した先を見てみる。 と、そこには冥界への扉が存在していた。 リヴァ「……何故、あんな場所に冥界への出入り口が存在してるんだ?」 悠介 「彰利がな……」 リヴァ「検察官が?信じられん……」 いくらあの男でも冥界の扉を開けるなんて───……。 確かにあいつの気配は死神に色濃く近いものがあった。 だが───仮にも人間にそんなことが出来るのか? ……断言しよう、あの検察官は『月の家系』の云々を差し引いても普通じゃない。 他の何かがあいつにはある気がする。 ───ん? リヴァ「おい、お前」 悠介 「……なんだよ。言いたいことはまとめて言え。思考には自信がある」 リヴァ「検察官───弦月彰利とは親しいか?」 悠介 「……まあな。親友だって断言出来る存在だ」 リヴァ「そうか、じゃあ訊くぞ。あいつは月の家系だが、他に何か秘密がないか?」 悠介 「秘密?……って、それよりも月の家系を知ってるのか?」 リヴァ「知っている。わたしにしてみればそれこそ『それより』だ。     実際のところ、どうなんだ?検察官の過去を知らないか?」 悠介 「……知らん」 ……ウソだな。 どうやらこいつはウソが苦手な性分らしい。 だが、言いたくないのならそれでいい。 どうしても知りたいわけじゃない。 リヴァ「邪魔したな。それじゃあ凍弥は預からせてもらうぞ」 悠介 「ああ。彰利が居たらよろしく言っといてくれ」 リヴァ「わたしの知ったことじゃない。次会った時にでもお前が言え」 悠介 「……だな」 キヒィンッ! ───……。 女と男が消えてから、俺は少し考えてみた。 悠介 「……彰利の秘密、ねぇ」 でも考えてみるまでもなかった。 あいつが家系の中でも恐ろしいまでに強いことや、頑丈なこと。 血の濃さだけじゃない。 あいつは俺が『創った』ことで、少しずつ強くなっている。 しかも歴史を繰り返すごとにその創造も繰り返され、 俺が望んだ『簡単に死なない彰利』が創られ続けている。 車に轢かれたのに死なない人間なんて想像出来ないだろう。 だけど現に、あいつは車に轢かれた程度じゃ死なない。 子供の頃の俺が想像出来る程度の衝撃じゃああいつは死んだりしないんだ。 俺がそういう風に創造したのだから。 だけどあいつは間違い無く弦月彰利で、ニセモノでも心の無い作り物でもない。 あいつはあいつだ。 だからこそ思う。 いつかあいつの未来が開けた時、 その時代での俺がいつまでもあいつの友達でいてくれるように、と。 自分に願うなんて馬鹿らしいとは思ったが、そう願わずにはいられなかった。 ……ちなみに。 空中にある穴のことは忘れることにした。 ───……。 リヴァ「実に馬鹿なことをしたな」 帰ってきたリヴァイアが放った言葉はそんなものだった。 遥一郎「随分いきなりじゃないか」 リヴァ「奇跡の魔法を媒介に存在してるっていうのに酷使しすぎだ。     存在が消えかかっても文句は言えない」 遥一郎「文句は言ってもバチは当たらないだろ。     自分の存在が消えるなんて、自分じゃ納得できないんだ」 リヴァ「そうか、じゃあ言い換えるよ。ヤケになって人に当り散らすことは愚だ」 遥一郎「それは納得出来る。……まったく、どうせ早速お節介やったんだろ。     人を救える能力を手に入れたからって無茶して自分が消えてどうするんだ」 まったく呆れる。 確かに凍弥の良いところはそういうところなんだろうが、これじゃあ馬鹿だ。 リヴァ「それより、天界の娘はどうした」 遥一郎「ミニか?あー……今ちょっと」 ドガシャーン! 遥一郎「うお!?」 リヴァ「騒がしいな。なんだっていうんだ、一体」 妙な音とともに悲鳴が聞こえた。 それは紛れもないミニの悲鳴だった。 現在風呂に入っている筈のミニが悲鳴をあげるってことは───あれしかないな。 遥一郎「ったく、どこの馬鹿だ───」 ぼやくように言い放ち、二階に飛ぶ。 こういう時、精霊体は便利だ。 遥一郎「さてと……どうしたもんか」 二階は静かなものだった。 唯一、風呂場を除いては。 遥一郎「ここで俺が慌てて入っていこうものなら、お約束が待ってるんだろうな……」 そんなてつを踏むわけにはいかない。 ……放っておくのは意に反するけど、まぁあいつなら大丈夫だろ。 遥一郎「……なんのために上に来たんだか」 まあいい、退散退散と。 溜め息を吐きつつ、一階へ降りた。 遥一郎「うん?」 そこにはひとりの男が居た。 昨日今日とチラホラと見かけた男だ。 彰利 「ヨゥメェ〜ン、お邪魔してるぜ?」 男は気軽に言い放つ。 遥一郎「ああ、構わない」 俺も構える必要はないと判断してその言葉を受け取った。 彰利 「ところでさ、そいつの様子どうなのよ」 リヴァ「危険な状態だな。さっさと天界の娘が来ないと手遅れになるぞ」 彰利 「来させてなにするつもりばい?」 リヴァ「同調させて凌ぐ。あの娘はランティスの血族だろう?     だったら奇跡の魔法も宿しているわけだ。なんの問題も無い」 遥一郎「待て。それでミニの体に何かが起こる可能性はあるか?」 リヴァ「多少眠くなるだけだ」 遥一郎「……そうか」 ひとまずは安心だ。 ……とはいえ、何をやってるんだあいつは。 普通、覗かれたりしたらさっさと出てくるものだと思うが───ドタドタドタ! ああ、来た来た。 サクラ「遥一郎さん!あのっ、あのっ!の、覗きがっ!」 ……うむ、一応お約束は無かったようだ。 バスタオル一枚来たりしたらゲンコツの一撃でもくらわせてるところだった。 きちんと服を着て来たミニは、息を荒げながら俺の傍に駆け寄ってきた。 遥一郎「顔は見たか?」 サクラ「いえ……気づいたら凄い速さで逃げて……」 遥一郎「そっか。まあそう気にするな。……それより」 サクラ「?」 遥一郎「ミニ、凍弥の力になってやってくれ」 ミニを促して、リヴァイアの隣に向かわせた。 座敷側の客席に寝かされている凍弥を見ると、ミニは少し驚いたようだ。 サクラ「……どうか、したんですか?」 リヴァ「能力の使いすぎで消滅しかけている」 サクラ「能力……?」 リヴァ「奇跡の魔法のことだ。     お前も天界人なら奇跡の魔法を使った者がどうなるか、知ってるだろう」 サクラ「………でも、凍弥さんは地界人です。奇跡の魔法が使えるわけがない」 自分の中に生まれたであろう思考を掻き消すように、サクラは言った。 リヴァ「今問題なのはそこじゃないだろ。こいつを救うかどうかだ」 サクラ「………」 リヴァ「言いたいことを言うぞ。お前の奇跡の魔法の力を凍弥の力を同調させる。     文句があるなら言え」 サクラ「………」 ミニはずっと黙ったままだった。 ただ凍弥を見下ろして、何かを考えているようだった。 だけどそれもしばらくのもので、リヴァイアの目を真っ直ぐに見て言った。 サクラ「お断りします」 ……と。 リヴァ「そうか。参考までに理由を聞きたい」 サクラ「……天界から帰還命令が下されました。     もう、この人の傍に居る理由がありません」 リヴァ「───なるほど?天界が凍弥の傍に居させることを無意味と受け取ったか」 サクラ「───……」 リヴァ「そうか、同調のことを知っていればそれで断るのも当たり前だな。     納得がいった。もういい」 サクラ「………」 ミニが冷めた目でリヴァイアの傍を離れ、二階へ行こうとする。 俺はそれを止めようとはせず、そのあとを追った。 ───……。 部屋に辿り着くとミニはゆっくりと振り向いた。 その様子を見て、俺は口を開くことにした。 遥一郎「どうして言わなかったんだ?」 サクラ「質問されるのが嫌だったからです」 遥一郎「……そっか。で、本当に帰るのか?」 サクラ「帰りますよ。元々こんなにまで滞在する理由を訊きたかったくらいです」 遥一郎「凍弥はあのまま無視か?」 サクラ「同調はその人の傍に居ないと効果が無いんです。     ……わたしは帰るんですよ?そんなの意味が無いじゃないですか。     天界と地界がどれだけ離れてると思ってるんですか?そんなの徒労です」 遥一郎「…………お前はそれでいいのか?」 サクラ「あははっ……何が不都合だって言うんですか?     わたしは天界に帰れてめでたしじゃないですか。     散々馬鹿にされたり苛められたり叩かれたり怒られたり……     もう、そんなことされることがなくなるんじゃないですか。     ……わたしが何に対して悔いを残すっていうんですか?」 遥一郎「………」 サクラ「もういいでしょう?     わたしがここに送られてきたこと自体が天界の手違いだったんですよ。     凍弥さんはわたしが居なくても十分幸せになれる人じゃないですか。     ……だったら、ほら……     わたしがここにこうやって立ってる理由なんて無いんですよ。     これじゃあわたし、無意味にここに立ってるだけの馬鹿じゃないですか。     だから……だから帰るんです」 ミニは自虐するように苦笑した。 そんなミニを見ながら俺は思った。 あの日、あの桜の木の下にミニが現れたとして、 凍弥以外の人間が来たとしたら……ミニはここに居なかったんじゃないだろうかと。 天界はどんな考えがあって、俺のもとにサクラを送ったようにしなかったのか。 ……まあ、普通ダンボールに詰めて宅配で家まで送ること自体が妙ではあるが。 遥一郎「……それでいいんだな?」 サクラ「いいですよ」 ミニはキッパリと言い放つと、やがて自室のドアを開けて中に入っていった。 俺自身、もうミニと話すのは無駄だと悟り、階下を降りる。 遥一郎「……問題は凍弥か」 どうしたものか。 あのままじゃああいつは消える。 それを黙って見ているなんてのはもう御免だ。 遥一郎「蒼木……」 お前ならこういう時、どうする? 抗えないからって諦めるか? それとも───…… Next Menu back