別れは辛いものだって聞いていた。 だからその単語がつくものは必ず辛いものなんだって思ってた。 実際、美紀ちゃんが死んだって聞いた時は辛かった。 子供みたいに泣いたし、どうしたらいいか解らないくらいに悔しかった。 ───だけど不思議だった。 今まで住んでいた場所を離れ、 幸せにしなきゃいけなかった人と離れることになっても……わたしは悲しくなかった。 それどころかやっと帰れるって思って。 わたしはどこかウキウキしていた。 だけど、遥一郎さんに凍弥さんのしてきたことの真実を聞いた時…… ───わたしは小さく涙した。 ───エビヤン───
リヴァ「……とまあ、そうゆことで」 遥一郎「………」 階下へ戻ると、リヴァイアがさっさと話を進めてしまっていた。 話ってゆうのはこうだ。 ───サバエが現れた! サバエはマスオの浮気現場に遭遇して怒り狂っている! マスオ「ヒィイ!許してくれサバエ〜!ほんの出来心だったんだ〜!」 マスオの口から言い訳が迸る! サバエ「いいや許さん!当然の如く死ね!」 しかしサバエは聞く耳を持たなかった! サバエのこうげき! サバエは大きく振りかぶり、いっきに拳を振り下ろした! ───パグシャアッ!! 痛恨の一撃!マスオに379のダメージ! マスオ「ギャアアアアアアアア…………!!」 マスオはちからつきた……。 彰利 「おおマスオ、死んでしまうとはなにごとじゃ!」 遥一郎「って、真面目な話してる横でサバエさん見てるんじゃない!!」 彰利 「オウヨ?オウヨオウヨ、でもさぁ、退屈なんですもの。     ここの人ってば客人に茶も出さんと……まったくなっちょらん」 遥一郎「だからってテレビ引っ張り出してきて茶ァすすることが許されると思ってるのか」 彰利 「オウヨ〜!」 ……無駄だ、無視しよう。 で、話だが───  ───回想VTR─── 美紀 『あの……』 リヴァ「なんだ、引っ込んでないと凍弥に負担がかかるぞ」 美紀 『思ったんです。サクラちゃんがわたしの場になってくれたら、     凍弥くんの負担も今まで通りになって安定するんじゃないかって……』 リヴァ「……確かに負担は無くなるな。けど、お前も天界に行くことになるぞ」 美紀 『構いませんよ、友達ですから』 リヴァ「………やれやれ。     本当に誰かのために馬鹿になれるヤツばっかりなんだな、地界ってところは。     ───帰れなくなる可能性が高いぞ。いいのか?」 美紀 『構いません』 リヴァ「……はぁ、まったく面白いな、この世界の人間は」  ───回想終了─── 遥一郎「それで?」 リヴァ「ようするにだ。その女が天界の娘についていくなら凍弥の負担は減る。     だが、負担は減るといっても、凍弥が倒れたのは能力の使い過ぎの所為だ。     それに上乗せするように場の影響が出てる。それを治すには……」 遥一郎「治すには?」 リヴァ「月の家系の女をひとりで保てるくらいの別の場を繋げばいい」 遥一郎「……そんなの知らないぞ?」 リヴァ「いや。幸い凍弥には家系の知り合いや死神の知り合いが居るようだ。     凍弥から死神の香りがしたから間違い無い」 浅美 『それってメルちゃんのことですか?』 リヴァ「名前までは知らない。けど、その様子だと心当たりがあるみたいだな」 浅美 『一応ですけど。メルちゃんに家系の人を支えてもら……って、     もしかして……支えられるのってわたしですか?』 リヴァ「他に誰がいるっていうんだ」 浅美 『うー……』 リヴァ「魂結糸を知ってるか?」 彰利 「うむ、当然だ」 リヴァ「話が早いな」 彰利 「だろ?付け足して言えば魂結糸で魂のバックアップしようってことだろ?     魂がある限りは消えはしないからな。でもひとつ気になる。     どうしてボーイじゃなくてこの娘ッコに結ぶんだ?」 リヴァ「凍弥だけ回復しても、どうせまた使うだろう。     それなら少しでも負担が掛からないようにこの女を強くしてやればいい。     ついでに言えばこの女は凍弥を場にしてるからな、     当然凍弥も回復するわけだ。一石二鳥じゃないか」 彰利 「……フフフ、そちもなかなかのキレものよ」 リヴァ「伊達で魔術師を名乗ってるわけじゃない。知識の無い魔術師なんて居るもんか」 彰利 「そらそうだ」 妙な語らいを始めたふたりはカラカラと笑い合う。 妙な語らいは妙な信頼かなんかから来るものなのか、ふたりにはトゲが感じられない。 しかしながら、意識不明の状態の人物を前に、どうしてここまで普段通りで居られるのか。 ……まあ俺も人のことを言えた義理じゃないんだけど。 そこまで考えると、俺は小さく息を吐いて思考を打ち切った。 くだらない。 自分が自分で、あいつらはあいつらだという思考がどんどんと消えてゆく。 本当にくだらない。 人間であった頃の俺なら、わざわざこんなことは考えなかったに違いない。 考えたとしてもそれは、こんなに無意味に感じるようなものじゃなかったはずだ。 遥一郎「どうでもいいから策があるなら実行しないか?     じっとしてるのはなんか嫌だ」 リヴァ「……へえ。お前の口からそんな言葉が出るとは思わなかったな。     いっつも飄々としてるから、物事に首を突っ込まないヤツだと思ってたのに」 リヴァイアは自分の見解で俺を語った。 俺だって自分はそういうヤツだとは思ってたつもりだ。 たった今までは。 だがそれは『たった今』までのことだ。 過ぎてしまえば、俺はもう変わってるってこと。 自分のことなのに『俺らしくもない』とか思ってる時点で矛盾は止まらない。 遥一郎「治せるならさっさと治した方がいいだろ。     後遺症が無いって言い切れるなら別だけど」 リヴァ「言い切れはしないよ。わたしも奇跡の魔法に関しては詳しいことを知らない。     厄介というよりはブラックホールみたいなデータなんでね、     なんの媒介もサンプルも無しに調べるのは愚行でしかなかったんだ。     一歩さきすら見えない研究なんてつまらないぞ。     『きっとこれは』とか『これはこうなる』とかの予想すら出来ない。     ただイライラしながら来るはずも無い反応を待つことは無意味じゃないか」 遥一郎「………」 だろうな。 漠然としたものは類を持たない。 持つとすれば、それは『類を持たないことに類を持つ』。 まったく矛盾だらけだ。 確かに考えるだけ無駄だ、つまらない。 遥一郎「言い切れないんだったらやろうって気にはならないのか?」 リヴァ「本人の同意無しでするわけにはいかない。     わたしにも魔術師である以前に人としてのプライドがある」 遥一郎「魔術師としてのプライドはどうなんだ?」 リヴァ「意地の塊みたいなもんだ。     負けず嫌いなだけで、あったってなんの役にもたちゃしない」 リヴァイアは肩を竦めて言った。 心底つまらなそうな反応だ。 およそ、自身が魔術師とは思えないくらいに。 ……無自覚なんだよな? 遥一郎「それってさ、魔術師としての自分があまり好きじゃないってことか?」 リヴァ「そうかもな」 呆れたような男口調で投げ遣りをしたリヴァイアは俺の視界から外れた。 俺はそれを目で追って『あまり長生きはするもんじゃないのかもな』と思った。 もちろん俺が勝手にそう思っただけの見解ではあるが。 リヴァ「片方の了承は得てるんだ、あとは天界娘と死神の承諾だな」 遥一郎「死神の方は任せておけ、顔は知らんが呼んでくる。     気配くらいは解るつもりだからな」 リヴァ「………」 遥一郎「うん?」 リヴァイアが俺を見て何かを考えるように俯いた。 しかし少しの間ののちに顔をあげ、軽い口調を放つ。 リヴァ「精霊になる前は人間だったんだよな?」 遥一郎「ああ」 リヴァ「……存在の元素が変わっただけでいろいろ開花するものなんだな」 遥一郎「───」 ああ、気配の察知とかのことだな? 遥一郎「まあな。でもお前だってそうだろ?     人間から魔術師になったことで得たものも無くしたものもあるだろう」 リヴァ「……そうだな。うん、そうだ。単純なことじゃないか。     やれやれ、わたしもまだまだ研究不足か」 ただ単に小さなことに意識が回らないだけなんじゃないだろうか。 俺がそう思っている内にリヴァイアは小さな溜め息を振り払うように歩き出した。 遥一郎「ミニか?」 リヴァ「ミニ?……ああ、あの天界娘か。そういうことだな」 遥一郎「そっか。意地でも説得してくれ、死神の方は俺がなんとかする」 リヴァ「やけに張りきってるんだな。どうかしたのか?」 遥一郎「もう誰にも消えてほしくないからだよ。他意は無い」 リヴァ「………」 リヴァイアは返事をせずに俺の目を見た。 そして頷き、階段を登ってゆく。 それを見届けてから口を開いた。 遥一郎「凍弥のこと、頼むな」 美紀 『ラジャーです』 浅美 『了解です』 ……何気に気が合ってるようだ。 俺はそんなふたりに笑いかけて、鈴訊庵をあとにした。 ───……。 佐古田「これは忌々しき自体ッス」 浩介 「どうでもいいが何故お前が保健室に居るのだ」 浩之 「ブラザー、それは我らにも言えることぞ」 我らは確か、屋上に居た筈では……? そしてなにやら恐ろしい目に合って、気がついたら保健室のベッドに寝かされていた。 付け加えるなら、その保健室には何故か佐古田好恵が居て、我らを見下ろしていた。 謎は深まるばかりだ。 佐古田「どうして志摩兄弟が揃ってここで寝てるッス?何ッス?ランデヴーッス?     激邪魔だからとっとと失せるッス。そこはわたしの激特等席ッス」 ……なるほど、つまりこういうことか。 佐古田好恵は時折授業に出ないことがあったが、その間はここで寝ていたということか。 恐らく保健教師も共犯に違いない。 チィ、それこそコヤツの逢引現場のようなものではないか。 浩介 「佐古田好恵、貴様、保健教師と逢引していたのだな?」 佐古田「えーと、確かこのへんに塩酸が激あったッスねぇ……」 浩介 「なにぃ!?馬鹿な真似はやめろ佐古───なにぃ!?     体がベッドに固定されているだと!?さ、佐古田好恵!貴様!?」 佐古田「それなら寝返りが激ヒドイからって保健教師が張りつけていったッス」 浩之 「なんだそうなのか、ならばとっとと解放しろ佐古田好恵。     我らは学び舎で寝る趣味は無い」 佐古田「まぁ激待つッスよ。今塩酸の用意をするッス」 浩介 「それでどうするつもりだ?」 佐古田「縄にかけて激溶かすッス。生憎とハサミが無いッス」 浩介 「素手で解け馬鹿者!」 浩之 「そうだ!そんなことをされたら我らまで溶けるであろうが!」 まったくなんと恐ろしいことを考える女ぞ! おちおち寝ていられぬわ! 佐古田「縄が固結びで還付無きまでに締められてるッスよ。     こうなったら……溶かすしかないッス?」 志摩 『!』 カタッ、と透明の液体入りの小瓶を取り出す佐古田好恵に恐怖した。 ま、まさか……本気か!? 浩介 「ぬ……ヌゥォオオオオオオオオオオオオッ!!」 死ぬわけにはいかぬ! 我は椛と添い遂げるまでは───! 浩之 「ぬがぁああああああああっ!!!」 ゴコッ……!ゴココッ!!ゴッ!!メキメキ……! 佐古田「さぁ、大人しくする……なっ!?」 我は必死の思いで体を揺らした。 それによりベッドが勢いよく跳ねて、地に足がつく。 ……当然背中にベッドを背負う形になっている。 我の隣ではブラザーも起き上がり、メキメキと血管を浮きあがらせている。 佐古田「し、志摩兄弟……あんたらホントに人間ッス……?     もしや謎の地球外生命体だってことは無いッス……?」 浩介 「グ、フッ……!人は危機的状態になればなんでも出来るものぞ……!     さ、さらばだ佐古田好恵!     我は貴様のような輩に左右される人生など持ち合わせておらぬのだ!」 浩之 「チャオー!」 佐古田「あー……」 ドココーン!ドココーン! 浩之 「チィ、ブラザー!一歩進むたびにベッドが大地に落ちてやかましい!」 浩介 「馬鹿者!命と騒音を天秤にかけられるか!ぬおおおお!!」 ドコンドコンドコンドコン!!ゴンゴンゴンゴン!! 浩介 「ぐああ!足に衝撃が走る!だが負けぬぞ!」 浩之 「おうともブラザー!」 我とブラザーはミイラ男……というかマミーのような姿(棺桶付属)で廊下へ飛び出した。 死ぬわけにはいかぬのだ! ふぉおおおおおっ!! ドコーン!ドコーン!ドコーン!ドコーン! ……………………─── 佐古田「……青いッスねぇ、これはただの炭酸なのに」 学校に来た俺が見たものは、 教師に追われつつ棺桶付属のマミーのような姿で廊下を駆けめぐる謎の物体だった。 遥一郎「なにをやっとるんだあいつらは……」 いや、そもそもあの状態であの早さで走れること自体がどうかしてる。 後ろの教師が追いついてない。 普通にバケモノだな。 遥一郎「まあいい、それより死神だ。たしかメル……とかいったな───って待て」 ………………アホか俺。 訊いてないから正式名称が解らん。 長年の朴念仁生活で頭が老化したかもな。 遥一郎「ま、失礼だろうけど外人系の名前の人を訊ねてみれば見つかるだろ。     なんとかなる……いや、なんとかするさ」 どこか肩に重みを感じながら校舎の中に足を踏み入れた。 許可無く立入が〜とかどうたらこうたら書き連ねてあるが、 生徒どもだって許可を得ているわけじゃない。 こういう時は屁理屈の存在も馬鹿には出来ない。 遥一郎「さて……まずは一年だな」 学年さえも知らないとなると厄介なものだが。 片っ端から調べてみるしかないだろ。 さすがに職員室は暴かないが。 男  「……お前、そこで何をしている?」 ……再びアホか。 いきなり見つかった。 遥一郎「探し人です、関さないでください」 男  「そういうわけにはいくか!」 教師らしき男がガッシと肩を掴んでくる。 遥一郎「いえ、おかまいなく」 男  「お前、この学校の生徒じゃないな?こっちへ来なさい!」 遥一郎「………はぁ」 どうしたもんかな。 と、途方に暮れた時。 声  「待ちなさい」 という声を聞いた。 どっかで聞いたことのある声に振り向いてみると─── 柿崎 「その男は私の客人だ。離しなさい」 男  「あっ……これは……柿崎先生……」 柿崎 「さ、その男はわたしに任せてキミも戻りなさい。     テストの答え合わせの途中だっただろう?」 男  「え?あ……っと!そうだった!途中でトイレ行って───」 柿崎 「余計なことまで話さんでよろしい」 男  「あ……ははっ、し、失礼しましたー!」 ばたたたたた……! 悪は去った。 柿崎 「それで。この学校になんの用かな?穂岸遥一郎くん」 ところどころ白くなり始めている髪の男はシワを寄せて微笑んだ。 名を、柿崎稔という。 遥一郎「人探し───と、     ついでに変なモン送りつけてきたお礼参り……ってのはどうだ?」 柿崎 「そうかそうか。だが、俺もまだまだ現役だぞ?」 遥一郎「一応は同年代だしな」 柿崎 「引っ掛かる言い方だな。     ……しかし、最後に会ったのは凍弥二世が少女を連れてきた時だったかな?     全然姿が変わらないんだな」 柿崎のおっさんは俺を見て言った。 まあ、さっきも言ったように同年代なんだからおっさんって呼ぶのは間違いなんだけど。 遥一郎「消え方の解らない精霊なもんでね。     多分、消滅の時が来るまで俺は生きるんだろうよ」 柿崎 「……あの男と俺とじゃあ口調が随分違うな」 遥一郎「同年代のヤツに口調の遠慮を憶えるほど優等生じゃなかったんだよ俺は」 科崎 「そうか。そりゃ結構」 柿崎は笑った。 彼自身はもう随分歳を取ってるように見えるのに、 その顔は俺や凍弥がするような笑顔とまるで変わらなかった。 ……いつまでも幼い自分を忘れないってゆうのは、こういうことなんだろうなって思う。 柿崎 「…………凍弥が逝っちまってから……もうこんなに経つんだな」 遥一郎「………」 柿崎 「時間は残酷だなぁ……。     葬式の時に馬鹿みたいに泣いてたってのに……     今は楽しい思い出ばっかり浮かんできて泣けもしねぇ……」 心ばっかり落ちるのにな……と、目の前の男は呟いた。 シワが増えたであろうその手を見て、時間の経過を感じていたんだろう。 柿崎 「悪いな、年寄りの愚痴に付きあわせちまって。     探し人がいるって言ったな。誰だ?俺が教師としての力を見せつけてやる」 遥一郎「……あんまり心強そうに聞こえないぞ、それ」 柿崎 「任せろ」 遥一郎「………」 そこで胸張ってどうすんだよ……。 遥一郎「ま、いいや。外人みたいな名前の人、居ないか?     メル……なんたらか、なんたらメルって言うんだろうけど」 柿崎 「ゴランドリ・メルドントエビヤンというヤツが居るが。そいつでいいのか?」 遥一郎「……だと、いいけどな」 トコトコと歩いてゆく柿崎のあとにつき、俺も歩くことにした。 ───……。 ゴラン「ナニヨ?」 遥一郎「………」 で、俺の目の前にはゴランドリ・メルドントエビヤンが。 遥一郎「あんたがゴランドリ・メルドントエビヤンさん……?」 ゴラン「ソウヨー。巷じゃゴランって呼ばれてるネ」 遥一郎「………」 柿崎 「………」 横に居る柿崎が呆れてる。 柿崎 「……ホントにこいつで良かったのか?」 遥一郎「俺に訊くな……」 ゴラン「ナニヨ?ボクは授業中の身ヨ?ニポンの勉強ムツカシイネ。     だからモット勉強しなきゃ斬首ヨー」 遥一郎「…………あの、さ。あんた死神?」 ゴラン「だっ……だ、誰が死神ヨー!?     アンタ失礼ネ!ナニ真正面からヒト死神扱いシヤガリマスカー!?     イッペン死んでこいこのオクトパス!!ワタシとっても怒ったヨー!     不愉快ネ!このハラキリセップク!脳内イカレポンチ!!」 遥一郎「………」 ゴラン「ゲッタウ!ゲッタウ!失せるネ!顔も見たくナイネ!この死神マニア!」 柿崎 「……お、おい穂岸……?」 …………。 遥一郎「なぁ、ゴランドリ・メルドントエビヤンさん?ちょ〜っとそっちまで……」 ゴラン「ナニヨ!?ワタシもう話すことなどありゃしまセーン!」 遥一郎「いいから来いこの野郎」 ガシィ! ゴラン「ナ、ナニヨ!?や、やめれー!暴力はヨクナイネ!     ワ、ワタシ、ニポンジンと仲良くするために来たヨー!?」 抵抗するゴランドリ・メルドントエビヤンをネックロックしたまま便所に引きずり込む。 遥一郎「うるせぇ!ヒトが真剣に人探ししてるってのに勝手にキレやがって!     普段のストレス晴らさせてもらうぞ海老野郎!」 ゴラン「エビ野郎!?……ワ、ワタシハラワタ煮えくりかえったネーッ!!     ファッキューヨファッキュー!!アナタイッペン死んでこいでゴワス!!」 柿崎 「お、おいお前ら……わっ、馬鹿やめろっ!!」 ドカグシャベキゴキガンガンガン!! ゴシャ!ドゴベキメキメキャ 声  「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」 如月校は 男子便所に エビヤンの 悲鳴が木霊した 遥一郎「ふはー、スッキリした」 まあなんてゆうの? ……あー、あれだ。 精霊と人間の格の違いを思い知らせてやりましたよ。 現在、ゴランドリ・メルドントエビヤンは便所でノビてる。 ……俺も吹っ切れたもんだな。 しかも悪い気分じゃない。 遥一郎「お待たせ。じゃあ次行こうか」 柿崎 「……お前さ、普段どういう人生送ってるんだ?」 遥一郎「思考回路が子供なヤツらの面倒だ。神経使うぞ」 柿崎 「そ、そうか」 少しどもりながらも、柿崎は歩く。 遥一郎「次は?」 柿崎 「ゴリモルジェフ・メルドントエビヤンというヤツが二年に」 遥一郎「………………」 またエビヤンかよ……。 ジェフ「誰が死神ヨー!?アンタスッゴク無礼者ネーッ!!いっぺん」 遥一郎「カァアーーーッ!!」 ぱぐしゃあっ!! ジェフ「……───」 ドシャア。 遥一郎「……次だ」 柿崎 「右のストレートか……瞬殺だったな」 遥一郎「いいから、次」 柿崎 「……はぁ。実は三年にサムチャイ・メルドントエビヤンが」 遥一郎「エビヤンはもういい!!他のヤツにしろ!」 柿崎 「他のヤツって言ってもな……特徴とかないのか?」 特徴……─── 遥一郎「不思議な力があるとか、そういう噂のあるヤツは居ないか?」 柿崎 「不思議な……ふむ。エビヤン長男はなんかあるって聞いたが」 遥一郎「………」 結局行くハメになるのかよ……。 で。 サム 「オウ、不思議な力なら持ってるヨー。     ワタシの手、ヨーク見てるヨ?ムムム……ハーイ!ハンドパワー!」 エビヤン(長男)の指の間で、鉛筆がフニフニと動ゴボシャアッ!! サム 「ハバァオ!?いきなりナニ!?     なにをボハ!ヤメルね!ワタシを殴ってもナニボフ!     無言で殴るのはイタダケグボ!!早急に拳を下ろすことを要求……!!」 ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃ……………… ───……がくっ。 遥一郎「………」 柿崎 「……あの」 柿崎が血塗られた俺を見る。 遥一郎「次だ……」 柿崎 「あ、ああ……えと……英語教師にボサノビット・メルドントエビヤンが」 遥一郎「勘弁してくれ……本気でもうエビヤンはいい……」 このままじゃあエビヤン一族を根絶やしにしてしまいそうだ。 柿崎 「しかし他にメル……メルねぇ……」 柿崎は『おもいだす』を唱えた。 しかし何も心に刻みこんでいなかった。 柿崎 「知らん」 遥一郎「お前ほんとに教師か?」 柿崎 「冗談だ。メルティア=ルウェインフォードって娘が居る。     その娘でよさそうか?」 遥一郎「知らん」 柿崎 「ま、いいさ。付いてこい」 遥一郎「………」 ほんと、年齢を感じさせないヤツだ。 確かに年齢差なんて無いんだが、姿はには差がある。 それでも普通に話せる人ってのはそうそう居ないだろう。 柿崎 「どうした?急に黙って」 遥一郎「いや。それで、どこに居るんだ?」 柿崎 「一年だ。すぐ着くさ」 遥一郎「………」 ふーむ。 ……あれ?ちょっと待てよ? 柿崎がこの学校に居るのに、志摩(弟)のヤツ、なんだって柿崎のこと聞いてきたんだ? んー……ああ、知り合いだなんて思わなかったってことか。 そりゃそうだ。 むしろ同じ苗字を疑問に思って訊く方が先か。 ……いかんなぁ、思考回路鈍ったな。 柿崎 「着いたぞ」 遥一郎「ああ」 柿崎が廊下側の窓越しに、ひとりの少女の存在を顎で促す。 ……あの娘か。 確かに人じゃない気配を感じる……けど、随分と穏やかだ。 柿崎 「どうだ?あの娘か?」 遥一郎「ああ、間違い無い」 柿崎 「女だから正解ってことはないよな?」 遥一郎「屋上からヒモ無しバンジーさせますよ?」 柿崎 「それは世間一般で言う殺人行為というものだ」 遥一郎「いいから呼んでくれ。事情を説明したら解ってもらえる筈だ」 柿崎 「そかそか。それじゃあちょっと待ってろ」 柿崎は笑い顔を引き締めてドアを開けた。 「ああ、これは柿崎先生、どうかしましたか?」 「いやなに、ちょっと人が訪ねてきていてね。生徒のひとりを呼びに来たのだよ」 「そうですか、ご苦労さまです。……でも先生?校内放送で呼べば良かったのでは?」 「なんでもモノに頼るのはよくないだろう。  それじゃあ、メルティアくん、付いてきてくれ」 「え?わ、わたし……ですか?」 「ああ。キミの知り合いの方が訪ねてきている」 「知り合い……誰だろう……」 「じゃ、失礼したね。授業を続けてくれ」 「はい、ご苦労さまです」 ───トン。 柿崎 「とまあ、こんなものだよ穂岸クン」 あえて『ふおっふおっふおっ』と笑う柿崎。 なかなかの愉快者だ。 その後ろではメルさんが不思議そうに俺を見ていた。 メル 「あなた……幽体ですか?」 遥一郎「まあ、似たようなもんだ。     ちょっとウチの凍弥が馬鹿やらかして危機的状況なんだ。協力を頼めるか?」 メル 「凍弥さんが?」 柿崎 「……もう一年に手を出していたのか。モテるのは一世譲りか?」 遥一郎「そいつの子供じゃないだろ───ん?」 柿崎 「ん?どうかしたか?」 凍弥……凍弥……? 遥一郎「あ……あーっ!!アホか俺!」 柿崎 「ど、どうしたんだ急に」 そうだよ、凍弥ってあの……俺が高校生だった頃、鈴訊庵で会った男じゃないか! うわぁ、今更だァ……。 ……で、真由美さんはあの時一緒に居た鷹志と結婚して……うわ馬鹿だ俺! 今まで気づかなかったのが相当だ! 遥一郎「……気づいたからどうだってことはないが……」 しかし自分の思考回路に自信が持てなくなってきた。 そうかそうかー、そういや凍弥の親の柾樹の親とも……あの時会ってたんだよなぁ。 ……桜の木の中で眠ったままで、相当に頭がボケたか。 柿崎 「ボケてるところをすまんが、いい加減シャッキリしろ。     メルティアが困ってるぞ」 遥一郎「あ、悪い。まず自己紹介といこうか。俺は穂岸遥一郎。     気配が解るかは解らんが、桜の木の精霊だ。元人間のな」 メル 「……メルティア=ルウェインフォードです。あの……」 柿崎 「うん?ああ、俺は事情知ってるからどうってことないぞ。     精霊が居れば死神も居るさ。どうってことない。     むしろ俺はそういう存在より凍弥の存在が脅威だった。面白くはあったが」 メル 「凍弥さんが?」 柿崎 「……いや、キミが言ってる凍弥とは違う凍弥だ。     凍弥二世は一世に比べたら真面目だと思うぞ。     そりゃ授業をサボるわ屋上には勝手に行くはで困ったものだが。     ま、誰かのために馬鹿になるところとかは似てるって言えば似てる」 遥一郎「あれで真面目……」 確かに鈴訊庵で会った時に、凍弥という人物は特殊な人間だったが……。 そこまでか、凍弥一世。 柿崎 「その分、居なくなった時の衝撃はハンパじゃなかったけどな。     ……知り合いの中のムードメーカーが居なくなるってのは、     時として意外なことに、身内が居なくなるよりキツイもんだ。     比喩だけどな。俺の両親、まだピンピンしてるし」 何者……? 柿崎 「じゃ、俺はもう職員室戻るけど。もう用は無いんだよな?」 遥一郎「ああ、感謝する」 柿崎 「かまわんよ。久しぶりに楽しい時間だった。     ……っと、そうだ。俺が送った元気になる薬、どうした?」 遥一郎「浩介が飲んだ」 柿崎 「……くっ……ふ、ふわっはっはっはっはっは!そうか!志摩の兄が!     ははははははは!そうかそうか!わははははははははは!!!!」 笑いながら去ってゆく柿崎を見送り、俺は苦笑した。 俺も普通に生きてたらあのくらいの体になってたんだろうな、って。 そんな苦笑を拭い去り、メルティアに向き合って促した。 遥一郎「鈴訊庵に来てくれ。そこに凍弥も居る」 メル 「はい」 了承を得たのち、俺は彼女と一緒に学校をあとにした。 Next Menu back