───過去現在を駆ける想い───
声  「ねぇ凍弥ちゃん」 懐かしい声が聞こえた。 間違える筈が無い、透き通っている俺の大好きな声。 飛鳥 「…………えへへ〜」 凍弥 「どうしたの?おねえちゃん」 飛鳥 「もう、おねえちゃん、じゃなくて『飛鳥』!     わたし達は恋人同士なんだから名前で呼び合わなきゃだめなの!」 凍弥 「う、うん……」 これは……いつの頃だろう。 たしか…… 飛鳥 「っ……!」 凍弥 「おね……飛鳥!?」 思い出した。 これは……! 飛鳥 「だ、だいじょ……ぶ……。すぐ治まるから……」 凍弥 「でも、でも……!」 飛鳥 「はっ、はぁっ……!はぁ……!」 凍弥 「うぐっ……う、うう……!」 飛鳥 「泣かないの……男のコでしょ……?わ、わたしなら大丈夫だから……」 凍弥 「だって……ぼく、おねえちゃんが苦しんでるのに……な、なにもっ……!」 飛鳥 「…………」 飛鳥は大きく息を吸って、ようやく落ち着いた。 飛鳥 「いい?凍弥ちゃん。     わたしは凍弥ちゃんに何かしてもらいたくて傍に居るんじゃないの。     わたしは凍弥ちゃんの傍に居られるだけで幸せなんだから。     だから……ね。そんなに泣かないで」 凍弥 「……ぼく、おねえちゃんが好きだよ……」 飛鳥 「……うん」 凍弥 「ずっと一緒に居たいよ……」 飛鳥 「……うん」 凍弥 「でも……ぼくにはおねえちゃんの病気、治せないんだよぅ……。     一緒に居たいのに、おねえちゃんの病気を治せないなんて……。     ぼくもう、おねえちゃんが苦しむの、見たくないんだよぅ……」 子供の俺は泣き虫だった。 何かある度にピーピー泣いて、よく父さんや母さんを困らせてたっけ。 それでも困るような素振りもしないで、飛鳥は俺の傍に居てくれた。 出会った時だってそうだ。 会った途端に俺のことが好きだって言ってきた。 わけが解らなかったけど、俺は飛鳥を見た瞬間にどうしてか涙が出た。 そして、その涙を拭った時に感じた感情。 それは子供の頃でも解るくらいにハッキリとした……恋という感情だった。 飛鳥 「大丈夫だってば。わたしだってそう何度も倒れてるわけじゃないんだから。     でも……ああ、凍弥ちゃんカワイ〜」 凍弥 「わっ、お、おねえちゃん……」 飛鳥 「……忘れないでね、凍弥ちゃん。     わたしも……わたしもね、わたしとして生まれるずっと前から……     凍弥ちゃんのことが好きだったから」 凍弥 「生まれるまえ……?」 飛鳥 「わたしはね、魔法使いなの」 凍弥 「知ってるよ。おねえちゃん、ぼくの傷治してくれるし」 飛鳥 「……ねぇ、凍弥ちゃん。楓巫女って……知ってる?」 凍弥 「かえでのみこ?なにそれ」 飛鳥 「……うん。昔ね……ずぅっと昔にね。     神の子ってゆう、争い以外何でもできちゃう女の人が居たの。その人が楓巫女」 凍弥 「かえでのみこ……」 飛鳥 「楓巫女はね、本当は生まれてきちゃいけない存在だったの。     言ってみれば、本当に『神の子』だったんだよ?     自然から生まれ、やがて自然に帰ってゆく存在だったの。     ある時、ある村で神を祭る舞いをしてた時に、     光とともにそれは舞子の中に宿ったの」 凍弥 「やどったって?」 飛鳥 「うーん……早く言えばね、赤ちゃんが出来たの。舞いをしていた人に」 凍弥 「へー……」 楓巫女の話。 飛鳥はこの話をよく俺にしてくれた。 その時は決まって、飛鳥は悲しい顔をしてたっけ。 飛鳥 「楓巫女は大事に育てられたの。神の子だ、って。     いろいろな力を持っていたし、人間には出来ないことが出来たの」 凍弥 「すごいねー」 飛鳥 「……ううん、すごくなんてなかったの。     そんな力が無ければ、その村は死に絶えることは無かったんだから」 凍弥 「……村、なくなっちゃったの?」 飛鳥 「うん……神の子の能力を狙った人達がね、その村を焼き払ったの。     楓巫女はその人達に連れ去られて、ずっと狭い部屋に押し込められてた」 凍弥 「……うん」 飛鳥 「そんな状態が何年も続いたの。     そして楓巫女が成人を迎える頃……それは起こった」 凍弥 「それって?」 俺も覚えてる。 確か……楓巫女が14、15になった時、ひとりの男が楓巫女を助けた。 その男の名前が確か…… 飛鳥 「禊隆正(みそぎ たかまさ)という人が、楓巫女を助けたの」 凍弥 「たかまさ?」 飛鳥 「そう。同じ村に居た男の子だったの。一緒に育って、一緒に笑った人。     楓巫女が初めて心を許して、初めて笑顔を贈った人よ」 凍弥 「あれ?でも村って焼けたんじゃなかったっけ」 飛鳥 「隆正様はね、村が燃える前に用事で村から出ていたおかげで助かったの。     でも……うん。用事を終えて戻ってきた隆正様が見たものは、     喩えることの出来ない地獄だった……」 ふと違和感を感じる。 どうしてだろう、なんだか釈然としない何かが…… 飛鳥 「それでもね、風の噂で楓巫女が無事だって知ると、     ずっと探し続けてくれたんだって。そして……楓巫女は救われた」 凍弥 「たかまさって人は、どうして楓巫女のためにそこまでできたの?」 飛鳥 「隆正様はね、家族が居なかったの。     生まれた時から孤独で、たったひとりで生きてきた。     たぶん……隆正様は、神の子とはいえ、     親の居ない楓巫女を自分のことのように大切にしてくれたんだと思うの」 凍弥 「んー……よくわかんないや。楓巫女は舞子さんから生まれたんじゃないの?」 飛鳥 「うん、でもね?     神の子として生まれた楓巫女は、神の子としてしか見られなかったの。     生みの親である舞子……亜小枝さんでさえ、楓巫女を娘として見なかった」 凍弥 「……なんか、ひどいよそれ」 飛鳥 「……ふふ、凍弥ちゃんはやさしいね」 隆正は楓巫女に恋をしていた。 身寄りの無い隆正にとって、 楓巫女は神の子などではなく、たったひとりの女性だったのだ。 守るべき存在。 それを守れなかった隆正は、 楓巫女を攫った櫂埜上喜兵衛(かいのうえ きへい)の屋敷に忍び込み、それを救出。 しかし…… 飛鳥 「……それでね、楓巫女を救ったあと、隆正様は罪人として付け狙われた。     やがて……喜兵衛の放った矢から楓巫女を庇って……隆正様は亡くなられたの」 凍弥 「……楓巫女はどうなったの?」 飛鳥 「隆正様の傷を治そうとしたんだよ。だけど……ね。隆正様は助からなかった。     そして楓巫女はそれを追うように……自害した」 凍弥 「……じがい?」 飛鳥 「自分で死ぬことだよ。楓巫女はね、隆正様のことが本当に好きだったんだよ。     神の子としてじゃなくて、ひとりの女の子として守ってくれた隆正様が」 凍弥 「ふーん……」 なんだ……? 俺、何か忘れてる。 何かが…… キイィンッ! ぐぅっ!?な、なんだ……!? 頭の中が……! ?? 「……お前、家系の者だな」 飛鳥 「……まさか!」 景色が変わった……? この景色は…… ?? 「家系の者は死ぬべきだ。お前にも死んでもらおう」 飛鳥 「よくも……よくも……!」 飛鳥は男を見上げると、その顔を憎悪の眼差しで見据えた。 ?? 「しかし……なんだ?お前を見ていると頭の中がざわめく。     ……まあどうでもいい。死ね」 ドンッ! 飛鳥 「あうっ!……ぐ、か、かはっ……!?」 男のつま先が飛鳥の腹にめり込んだ。 その途端、それは始まった。 飛鳥 「あ、……うあ……かはっ……!あぁあ……!」 心臓発作だ。 心臓病である飛鳥には……体への衝撃が一番危険だ。 ?? 「……へえ、病か。なんだ、俺が手を下すまでもないじゃないか。     まあいい、その様子からしてお前は長くないようだ。     俺も長くは居られないんでね。……だがっ」 ドンッ! 飛鳥 「あっ……うぁああああああああああっ!!!!」 ?? 「万が一もある。家系の存在は全て消してやるさ。     今はまだ少ししか存在できないが……いずれ、全てを滅ぼしてやる。     これは復讐なんだからな。はははははははっ!」 男は飛鳥の心臓部分を蹴り上げ、笑いながら去って行った。 飛鳥は……血を吐きながら気を失った。 やがて……その景色は訪れてしまった。 凍弥 「おねえちゃん!おねえちゃん!」 子供の俺が、泣き叫びながら飛鳥を揺すっている。 飛鳥は苦しそうに息をしながら、ゆっくりと笑った。 飛鳥 「おねえちゃん、じゃなくて飛鳥……。だめだよ、凍弥ちゃん」 凍弥 「うぐっ……う、うぅう……!」 飛鳥 「ねぇ、凍弥ちゃん……。わたしが死ぬ前に……渡したいものが……あるの……」 凍弥 「やだぁっ!死ぬなんて言わないでよ!そんなのおねえちゃんらしくないよ!」 飛鳥 「お願いだから……たか……凍弥ちゃん……」 凍弥 「うっ……うぅうう……おねえちゃん……」 飛鳥 「お願い……わたしが死ぬ前に……どうしても渡したいの……だから……」 凍弥 「………」 子供の俺は、小さく持ち上げられた飛鳥の手を力無く握った。 やがて飛鳥はにっこりと微笑むと…… 飛鳥 「……凍弥ちゃんの中にはね、奇跡の魔法ってゆうものがあるの。     でも、それはとっても小さい……。     いつか強い風が吹いたら、その灯火は消えちゃうだろうから……だから、ね?     わたしがずっと持っていたものをあげる……」 凍弥 「おねえちゃん……?」 飛鳥 「……いい?凍弥ちゃん。わたしが言えたことじゃないと思うけど……     いつか『月の家系』ってゆう人達の子孫に会ったら……     その人達を救ってあげて……」 凍弥 「つきの、かけい……?」 飛鳥 「わたしは……自分の幸せを願うあまりに……大罪を犯してしまった……。     だから……だか、ら……かはっ!うっ……げほっ!げほっ!う、あ……」 凍弥 「おねえちゃん!」 飛鳥 「は、はぁっ……だ、だから……ね?この力で……出会う人達を救ってあげて……」 凍弥 「……うぐ……っ……う、うう……そ、そんなの……無理だよ……」 飛鳥 「……大丈夫ですから……もっと、自分に自信を……持ってください……。     わたしは……あなたを…………隆正様を……ずっと…………───」 …………っ! 凍弥 「───……おねえちゃん?」 飛鳥 「………」 凍弥 「おねえちゃん?……ね、ねえ……おねえちゃん!?おねえちゃん!!」 やめてくれ……! もうこんな景色、見せないでくれ! 凍弥 「あっ……ぁあああ……!!あ───あああああああああああああっ!!!!」 柾樹 「凍弥!?」 一馬 「飛鳥っ!」 ……俺の泣き声を聞いて、父さんと一馬さん───飛鳥の父さんが病室に駆け込んできた。 だけど……そこに居たのは、もの言わぬ少女と……狂ったように泣き叫ぶ俺だけだった。 ───目を覚ますと、その景色は赤く染まっていた。 自分が眠っていたことに今頃気づいて、 そして……泣いていたことに気づいて、起き上がった。 いや、起き上がろうとした。 けど……目の前には朧月の顔があって、俺は膝枕をしてもらっていたことに気づいた。 凍弥 「朧月……?」 椛  「………」 朧月は複雑そうな顔をしていた。 『どうしたらいいのか解らない』……そんな顔だ。 椛  「あの……訊いてもいいですか?」 凍弥 「……なにを?」 椛  「……飛鳥さん、って……誰ですか?」 凍弥 「………」 俺は小さく息を吸った。 あんな夢を見てたんだ、声に出さない方がおかしい。 凍弥 「……俺の初恋の人」 椛  「………!」 朧月はハッとして、視線を泳がせた。 凍弥 「子供の頃……俺はその人が大好きだった。     本当に大切に思って、本当に生涯、守っていこうって思った。     でもさ、彼女……飛鳥は心臓病だったんだ。……幸せはそう長く続かなかったよ。     それでも飛鳥は俺に命を与えてくれたから……俺は今まで生きてきた。     それに───……俺は飛鳥が死ぬきっかけになった男に会うまでは……!」 夢の中で笑った男。 俺の中に、あいつと出会った記憶は無いけど、あの顔は忘れない。 おそらくこれは飛鳥の中の記憶だろう。 そしてなにより……あいつの顔を思い出すだけで心臓がえぐられるくらいに苦しい。 これは考えるまでもなく、おぞましいくらいの憎悪だ。 『家系の者は死ぬべきだ』。 そう言った男は、どう見ても高校生くらいの男だった。 そして俺は確信する。 月詠街での殺人事件も、美紀を殺したヤツもこいつがやったことなのだと。 絶対に許せない。 必ず見つけて、あいつを……! 椛  「───凍弥先輩っ!」 凍弥 「……っ!」 ……俺……今、何を……? 椛  「どうしたんですか一体……。すごく怖い顔してましたよ……?」 凍弥 「………」 『わたしは……あなたを…………隆正様を……ずっと…………───』 凍弥 「ぐっ……!」 な、なんだよ……頭が……痛…… 『だから、ね?わたしがずっと持っていたものをあげる……』 凍弥 「うあぁああああっ!!!」 頭の中と心の中が暴走している。 それだけは感じ取れた。 やがて…… 凍弥 「………」 頭痛が引いたとき、自分の体にあった違和感は無くなっていた。 凍弥 「っ!」 俺は徐に腕を振り上げ、ベンチの角に思いきりぶつけた。 椛  「きゃっ……!」 予想通り、その部分はざっくりと切れ、血が出てきた。 だが焦ることをせず、意識を集中すると……それは跡形も無く消えた。 つまり……癒した。 凍弥 「………」 飛鳥が俺に渡してくれたもの。 それは飛鳥が『元から持っていたもの』と、 普通に生きられるようにと、能力についての俺の記憶を封印すること。 だけど思い出せた。 そして……飛鳥の言う『大罪』のことも。 これは思い出したというよりは、飛鳥の記憶が物語る真相だ。 それを通じて……俺の記憶も。 凍弥 「禊、隆正……そして……開祖、簾翁楓(すおう かえで)か……」 なんてこった。 道理で飛鳥に惹かれたわけだ……。 ようするに、飛鳥は楓巫女の生まれ変わりだったわけだ。 しかも記憶を鮮明に持ったままの。 まとめればこうだ。 楓巫女は来世に望みを託し、その来世でこそ隆正と結ばれるよう願い、自害した。 転生の法ってゆう、神の子の能力のひとつを使って。 そして転生した先で楓巫女は簾翁楓だった。 だがその世界でも隆正の転生体、 霞吹鮠鷹(かすみぶき はやたか)とは戦の中で離れ離れになった。 争いのための能力のない神の子にしてみれば、自分に無力のひとつも感じたのだろう。 そして行なってしまった『大罪』が……死神との融合。 ようするに、『争いのための能力』を手に入れるための手段だ。 この行為のために『月の家系』は生まれた。 しかし、いつまた襲われるとも限らないと思った楓は、神の子の能力で子供を作った。 ひとりは家系の戒めを伝えていき、ひとりは産まれて間も無く消えたという。 そして最後にその子が現れた時、名乗った名は……シェイド=エリウルヒド。 あの死神だ。 神の子の力で生まれた存在が死神になるなんて、信じられない事実だ。 シェイドを作ったあたりから、楓の体には異常が起きていた。 恐らく神の子が死神との融合をしたためだろう。 相反するものは反発しかしない。 その反動が来たのだ。 それから数分しない内に楓は倒れ、帰らぬ人となった。 ……そして現代。 楓は千歳飛鳥として転生。 鮠鷹は霧波川凍弥として転生する。 飛鳥には記憶が継承されたが、俺にはそれがなかった。 そして死神との融合は因果にでもなっているのか、 飛鳥は生まれながらにして心臓病を患っていた。 凍弥 「……なんてことを」 私と結ばれたかったがためにそのようなことを……。 楓……私がもっと早くに記憶を取り戻していれば……。 椛  「凍弥先輩っ!」 凍弥 「───あ……」 隆正の悲しみが胸を打っていた。 ……ようやく理解したよ。 どうして飛鳥と初めて会った時、あんなにも胸がしめつけられたのか。 忘れていたわけじゃなかったんだ。 ただ、俺の中で眠っていただけだったんだ。 そして…… 凍弥 「櫂埜上喜兵衛……あいつまでもが転生してるなんて……」 飛鳥を蹴り飛ばした男。 あいつは……若かったが、間違い無く喜兵衛だった。 飛鳥もきっとそれに気づいたんだろう。 椛  「櫂埜上喜兵衛って……どうして凍弥先輩がその人のことを知ってるんですか?」 凍弥 「え……!?いや、朧月こそどうして」 椛  「晦神社にあった書物にいろいろ書いてあったんですけどね。     あ、神社に鍵が無くて開けられない扉があったんですよ。     しかも何か戒めがかかってたみたいで壊すこともできなかったんですけど。     だけどなんだか開いてて、中を覗いてみたんですけど……     そこは巻物と本とでぎっしりだったんです。     それを少し見たら面白くなってきてしまって、全部見たんです」 凍弥 「ぜ、全部か……」 椛  「そうしたら驚いたことに……全部ひとりの人が書いたものだったんです。     楓、って書いてありました」 凍弥 「楓……」 楓巫女か。 椛  「そこに書いてあるのは日記みたいなものだったんです。     神の子として生まれたことから始まって、     初めて心を許せたとか初めて人を好きになったとか……。     読んでてとても恥ずかしかったんですが」 凍弥 「はは……」 椛  「でも、幸せは必ず『櫂埜上喜兵衛』って人に潰されてるんです。     楓になった時も、その喜兵衛って人が転生した人が居て、     裏から手を回していた、って……」 凍弥 「………」 椛  「楓の話によると、     なんらかのことで喜兵衛が楓巫女の血を飲んだからかもしれないって……」 凍弥 「血を……?」 椛  「神の子は生涯にひとりしか愛さないんだそうです。     それは転生したって同じで、     その人を愛しつづけるために自分の血を飲ませるそうで……。     血を飲ませた人は、神の子と同じ時代に転生して、     巡り会った時にまた恋をするんだそうです。     あ……もちろん失敗もあるようで、どちらかの記憶が無い場合もあって……」 凍弥 「………」 この時代の俺みたいなもんか。 椛  「教えてください凍弥先輩。どうして貴方が喜兵衛を知っているんですか?」 凍弥 「………」 はぁ。 今更だけど……わたしに構わないでくださいって言ってた朧月の気持ちが解るな。 凍弥 「……俺は禊隆正の生まれ変わりだ」 椛  「!!」 凍弥 「そして……飛鳥は楓巫女の生まれ変わりだった」 椛  「………」 朧月は何も言わず、体を震わせている。 凍弥 「俺は……俺は確かに霧波川凍弥だ。だけど……俺は櫂埜上喜兵衛を……許せない。     殺してやりたいとさえ思った。楓巫女を……楓を、     死神と融合をしなきゃならない状況まで追い詰めたあいつを!     心臓病だった飛鳥を笑いながら蹴り上げたあいつを!!     憎い!ああそうだ憎い!俺は、俺はあいつを……!!」 椛  「凍弥先輩っ!落ち着いてください!」 凍弥 「あ……───っ」 なにをしているんだ俺は……。 朧月の言う通りだ……落ち着かないと。 椛  「あの……さっきから言おうと思っていたんですけど……」 凍弥 「うん……?」 朧月は少しバツが悪そうに俯いた。 その様子からして、深刻なことだということが理解出来る。 椛  「あの……女の子の格好で暴走されると、こちらも対処に困るんですけど……」 凍弥 「………」 椛  「………」 凍弥 「……───キャーッ!?そうでしたー!俺って今、女じゃん!     うわぁ!かつてないほどに虚しいシリアスシーンだ!     すまない楓!私は!私はぁああああああああっ!!!!」 椛  「お、落ち着いてください!」 ───ハッ! 凍弥 「そうだ……ここで暴走しては、ただ繰り返すだけだ……」 うーむ、本当に落ち着かなくては。 凍弥 「……よし、ひとまずは男に戻ろう」 椛  「戻れるんですか?」 凍弥 「ああ。楓の……神の子としての能力は本当になんでもありに近いらしい。     ただ……死神と神の子との融合の所為で起きた異常は、     融合をやめる以外に治す方法は無かったんだろうな」 椛  「そうですか……」 凍弥 「それじゃあ早速……」 椛  「わっ!待ってください!その格好のまま戻る気ですか!?」 凍弥 「その格好って……うおう」 想像してみたら、なんともオカマチックだ。 てゆうか変態。 凍弥 「えと……朧月、付いてきてくれ」 椛  「え?あの」 凍弥 「───転移」 俺は朧月の手を握り、そう唱えた。 すると景色は変わり、あっと言う間に家の前。 椛  「な……あ、え……?」 凍弥 「神の子の能力のひとつだ。多用はしたくないけど、場合が場合なんでな……」 溜め息を吐きつつ、俺は実家の方のドアを開けた。 凍弥 「ああ、朧月は鈴訊庵の方で待っててくれ。与一が居ると思うから話でもしながら」 椛  「え?あ、あのっ!?」 ……バタン。 椛  「……いっちゃいました……」 ……えーと。 遥一郎「いらっしゃい」 椛  「はぁ……あの……」 困った。 話すことがない。 遥一郎「今日はどうしたんだ?凍弥か?」 椛  「えーと……はい。凍弥先輩に連れてこられて……その」 それに、凍弥先輩以外の人とはまだ上手く話せない。 どうしてかな……凍弥先輩となら笑えもするんだけど……。 うう……。 遥一郎「凍弥のこと、気になるか?」 椛  「はい───あ、いえっ!?ええと、その……!」 遥一郎「……即答だったなぁ……」 目の前の人は呆れている。 当然だ、わたしもわたし自身を呆れている。 遥一郎「……単刀直入に訊こうか。凍弥のこと、好きかい?」 椛  「………」 どうしてこの人はわたしにこんなことを訊くんだろう。 凍弥先輩の保護者だから?ううん、それは違う。 遥一郎「……答えたくないならいい。ただひとつだけ言っておこう。     凍弥はな、昔好きだった人の死の所為で、     人を好きになることが出来ないらしいんだ。     だから、もしあいつのことが好きなら……気をつけてくれ。     聞いた話じゃあフラレる確率は100%だ」 椛  「………」 なんて夢のない話だろう。 しかもこの人がウソを言っているようには見えない。 遥一郎「まあそんなわけだ。     どちらにしろ、あまり深い感情は抱かないほうがいい」 椛  「……そうでしょうか」 遥一郎「……俺もそうは思いたくない。     けどな、傷つく奴なんて少ないにこしたことはないんだよ」 椛  「………」 この人の言うことはいちいち的を射てる。 それが悔しかった。 凍弥 「待たせた」 服を着替え、男に戻った俺は鈴訊庵に戻った。 遥一郎「ああ、凍弥……ん?お前……凍弥だよな?」 凍弥 「………」 まあ、そうだろうな。 今の俺は禊隆正であり、霞吹鮠鷹であり……霧波川凍弥だ。 精霊である与一は、それを感じ取れるんだろう。 凍弥 「拙者、禊隆正と申す」 遥一郎「寝惚けてんじゃない」 いきなりツッコまれた。 凍弥 「なにを申される。拙者、紛うこと無き隆正でありますぞ」 遥一郎「寝惚けてるなら顔洗ってこい」 凍弥 「拙者」 遥一郎「洗ってこい!」 凍弥 「わ〜、怒った怒ったオ〜コッタ〜♪小さい小さい人間小さ〜い♪」 遥一郎「このっ……!」 凍弥 「話を聞く気になられたか?されば、今一度。拙者、禊」 遥一郎「ガァアーーーッ!!」 凍弥 「キャーッ!?」 何が気に入らなかったのか、与一がキレごしゃあっ!! 凍弥 「……あの、言葉遊びでマジギレするの、みっともないですよ?」 遥一郎「やかましい」 一蹴されてしまいました。 遥一郎「それで?なんなんだよその隆正ってのは」 凍弥 「これ!なんですかそのハシタナイ口調は!直しなさい!」 ごしゃあっ!! 凍弥 「……あの。なんか俺に恨みでもあるんですか……?」 遥一郎「わかった、もういい。お前は隆正だ。それで?」 凍弥 「それで、って……なんですかその口調は!それが人にものを訊く態度」 ぱぐしゃあっ!! 凍弥 「……あの。いい加減に話進めたいんですけど……」 遥一郎「進める気あるのかお前は!」 凍弥 「やかましいのぅ。     俺だってね、過去の記憶ふたつと俺の記憶との整理で大変なんだよ。     俺は俺なんだから、過去の記憶に縛られすぎるわけにゃあいかんのよ。     でも現代風にふざけることで記憶を繋ぎとめられることが解ったから、     こうしてやってるんじゃないか。     しかもそのフザケの代表的な存在が彰利だったんだから性質が悪いんだよ。     俺だって恥ずかしいわい」 遥一郎「なんのことだかさっぱりだが」 凍弥 「つまり、今の俺には前世と前々世の記憶があるの。解る?」 遥一郎「よし解った。それで、お前はどうしたいんだ」 凍弥 「どうもしませんよ。     ただ与一が凍弥だよな?なんて訊くから名乗ったんじゃないか。     それを寝惚けだの顔洗えだの、難癖つけてボコリおってからに」 遥一郎「やめろ凍弥。お前にその口調は合わない」 凍弥 「解ってますよあたしゃあ!     でも前世の記憶が濃すぎてこうでもしないと『俺』が保ってられんのですよ!」 こっちだって滅茶苦茶恥ずかしいんじゃい! 椛  「……確かにちょっと嫌な人を思い出します」 うわぁ、言われてるよ彰利。 遥一郎「で?あるのは記憶だけなのか?」 凍弥 「いや、能力もいろいろと。     神の子の能力と、月の家系の月操力の全てってゆう、     ちょっとシャレにならん状態です」 椛  「ええっ!?どうして月操力を!?」 凍弥 「そ、それが……話すととても長くなって……」 椛  「構いません。話してください」 凍弥 「わぁ……」 人の都合考えてくれてませんねこりゃあ。 凍弥 「実はですね。楓が月の家系の開祖で、     その生まれ変わりである飛鳥は自分の能力を俺にくれたとですよ」 椛  「そ、それで……?」 凍弥 「え?終わりとですよ?」 椛  「………」 凍弥 「な、なにとですよ?」 椛  「全然長くないじゃないですかっ!!」 凍弥 「ゲェーッ!?とっても長かったとですよ!?」 椛  「───」 凍弥 「あ、あれ?」 なんか『ゲェーッ!?』って言った途端、朧月の目が赤く変色しましたよ? 椛  「わたしですね。彰利さんの言う『ゲェーッ』って言葉、大嫌いなんです」 凍弥 「ゲゲェーッ!!あ、しまった!」 椛  「───!」 目を赤く染め上げ、大きく振りかぶる朧月サン。 凍弥 「キャーッ!」 どごぼしゃあっ!! 凍弥 「………」 個人的に死活問題の最中、何故にここまで殴られなきゃならんのでしょう。 俺はただ、意識を保っていたいだけなのに。 凍弥 「それにしても……朧月も随分と攻撃的になって……。     じいはうれしゅうございますぞ……」 椛  「そう思うんだったらその口調、やめてください」 凍弥 「解らんオナゴったいねぇ〜。何度も言っておるでしょう。     これは意識を保つための行為であって、他意はないとですよ。     何度言ったら解るとよ、この紅眼の銀髪娘(レッドアイズシルバームスメ)」 椛  「っ……!」 凍弥 「え?あ、ちょっとまった朧月!今のは俺じゃあ」 ドッッッッゴォオオオオオオオンッ!!!!!! 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