───そして時は流れ───
がしゃんっ! 彰衛門「ギャア!」 突然の落下とともに、アタイは驚いた。 彰衛門「キャア!?金銀財宝!?てゆうか小判がいっぱい!!」 男  「なにやつ!?」 彰衛門「俺だーっ!!」 男  「なにぃ!?」 彰衛門「……えーと、貴様こそ……誰?」 男  「くせものだ!出会え!出会えーっ!」 彰衛門「な、なにを言うか!これはアタイが見つけたんだからアタイの財宝ぞ!?」 男  「不届き者め!成敗!」 男がいきなり抜刀。 彰衛門「ゲェーーーッ!?どうしてこう行く先々で刀突き付けられなきゃならんのよ!     てゆうかここ何処!?また江戸!?」 サクッ。 彰衛門「キャーッ!?いきなり刺されたーッ!!」 男  「その首!もらったぁーっ!」 彰衛門「チミ、リストラね?」 ドシュッ。 彰衛門「ギャア!?クビにされたんだからとっとと家に戻りなさいよ!」 男  「ば、馬鹿な!貴様バケモノか!?」 彰衛門「わぁ!どこに行ってもバケモノ扱い!」 男  「ならば手加減はせん!」 ヒィンッ! 彰衛門「ウヒョオ!?」 シュパァンッ!! 彰衛門「ウヒョオッ!?」 せ、千両箱があっさり切れちゃった! それはもう豆腐の如く! 彰衛門「ぬう!ならばアタイにだって考えがあるわい!     さて!取り出(い)だしましたるはオヤツ用の豆腐です!     大樹の上で寝る前にムラビトンからかっぱらってきたものですじゃ!     これを───」 コパァーーーンッ!!! 男  「ギャアーーッ!!」 勢いよく男にぶつけた。 結果、男は気絶。 彰衛門「フッ……家系の腕力とアタイの才さえあれば、     いつだって豆腐の角に頭をぶつけて気絶することが可能なのだよ。     体験したい方は豆腐持参の上でアタイの家へいますぐ電話!」 男B 「いたぞ!宝物庫だ!捕らえろぉーっ!!」 彰衛門「うわぉおおーーーーっ!!!」 流石に刀とか物騒なものを持ってきた輩どもは性質が悪い。 ここはひとまず 彰衛門「とんずらぁぁーーーーっ!!!」 男B 「あっ!逃げたぞ!追えーーーっ!!」 男C 「いや!もしかしたら神の子が狙いかもしれん!注意を怠るな!」 彰衛門「なんと!貴様、今、神の子と言ったか!」 男C 「な、なに!?───い、いいや、言ってない!言ってないから死ね!」 ゾブシュッ! 男の刀がアタイの腹に突き刺さる。 彰衛門「言っただろ!エェーッ!?あたしにゃちゃーんと解るよ!」 男C 「だ、黙れ!死ね!」 グリグリッ! 男が刀を捻る。 彰衛門「ん〜……ふんっ!」 ブシィッ! 男C 「ぐわあぁああああああっ!!!!」 口に溜まった血を毒霧の要領で吹き出した。 キャア!これで視界が真っ赤よこのお馬鹿さん! 男C 「お、おのれ……!皆、こっちだ!こいつを殺せ!」 男衆 『おぉおおっ!!』 男衆がアタイに飛びかかってくる。 彰衛門「ウヒョオ!アタイってばこんなんばっかり!」 こうしてアタイは、馬鹿者どもに空手の奥義を教えることとなった。 ドシュシュッ!バオバオッ!ビッ!ブバッ! でげででげででげでで〜ん♪ 彰衛門「うむ!これで貴様らは空手の奥義を体感した!     二度とアタイに手だしするでないぞ!」 ボコボコにのされ、痙攣しか出来ない男山に向かって一喝。 さてと 彰衛門「貴様には用がある。答えてもらいますよ?」 男C 「な、なんのことだ……」 彰衛門「またまたとぼけちゃって。ここのどっかに神の子が居るんでしょ?」 男C 「知らんな……ぅっ!?」 彰衛門「ほぉっほっほっほ、ウソ言っちゃいかんな。     答えぬのであれば、拷問することになりますよ?」 男C 「フッ……好きにするがいい。     言っておくが、俺は今までどんな拷問にも耐えてきた。     貴様のような者が行なう拷問など……とるにたらん!」 彰衛門「あれ〜?いいのかな〜そんなこと言っちゃって。ウフフフフ」 アタイは懐を探って、アイテムを取り出した。 彰衛門「彰利七つ道具の弐、毛抜き〜♪」 取り出したそれを、男Cの前でケッチョケッチョと動かす。 男C 「……フン、なんだそれは。そんなものでこの俺が参るとでも思ったか!」 彰衛門「あの……そんなこと言ってられるの今の内ですよ?絶対」 男C 「そう言うなら試してみればよかろう!ふはははは!馬鹿めが!」 彰衛門「……かわいそうに」 アタイは男Cをネックロックして、毛抜きを構えましたとさ─── で、一分後。 ミリミリミリ……ブチッ。 男C 「ギャアーーーッ!!!」 ミリミリミリミリ……ブチッ。 男C 「ウギャアアアアアーーーッ!!!」 彰衛門「ン〜?ほれほれどうした〜?あ〜ん?痛いか?痛いか〜?」 ミリミリミリミリミリ……ブチッ。 男C 「いぎゃああああ!すんません俺生意気でした!やめてください痛いです!」 彰衛門「ダメじゃ」 男C 「そ、そんな!」 ミリミリミリ……ブチッ。 男C 「ギャアアーーーッ!!」 彰衛門「フオオ、やはりどれだけ体を鍛えても、鼻毛だけはどうにも出来んよなぁ〜」 ミリミリ……ブチッ。 男C 「痛い痛い!やめて!」 彰衛門「一枚〜、二枚〜……」 ブチッ、ブチッ。 男C 「いてっ!いででっ!」 彰衛門「三枚〜、四枚〜……」 ミリリ……ブチッ。 ブチチッ。 男C 「ギャアア!ぎゃああああ!」 彰衛門「五枚〜、六……一枚足りない……!あな口惜しやぁあああああっ!!!!」 ブチィッ!ブチブチィッ!!!! 男C 「ぎゃあああああああああああああああああっ!!!!!!」 彰衛門「……さあ、そんなわけだから神の子が居る場所を教えなさい」 男C 「は、はい……二階の……右側の突き当りを右に逸れた場所です……」 彰衛門「む!そうか!」 ブチィッ! 男C 「ぎゃあぁあああああああああっ!!!!1」 彰衛門「ややっ!?アイヤー!シマターッ!!」 毛を掴んだままだってこと忘れてた。 ま、それはそれとして……ひとまず今は引きますか。 ここが今、どのくらいの時代なのかも調べなけりゃならんし、 その上あれだし。 今行ったら楓巫女に迷惑がかかりそうだ。 アタイが守ってやりゃあいいけど、争いは好まんじゃろ、楓巫女は。 彰衛門「さてと、そうと決まれば……うむ、千両箱のひとつでもかっぱらいますか」 こうしてアタイはホクホクと満面の笑顔でその場を 男O 「き、貴様!そこで何をしている!」 彰衛門「ゲェエーーーーッ!!!!!」 大急ぎで逃げるハメになった。 ───……攫われてから8年目の秋。 この世界にもう一度、紅葉の舞う季節が訪れた頃。 わたしはひとり、その部屋の天井を見上げた。 楓巫女「……はあ、遅いな、隆正さま……」 必ず助けに来てくれると信じ、待つこと8年です。 もう、わたしおばあちゃんになっちゃいますよ? 楓巫女「隆正さまのばか……」 小さく呟いた。 だけどどうなるわけでもない。 と、思ったその時。 黒服 「人を馬鹿にするもんじゃない」 黒い着物を頭から被った人がそう言った。 わたしの見張りなんだそうだ。 楓巫女「またお説教ですか?もう聞き飽きましたよ」 黒服 「そうか。それはつまらないな」 黒服さんは本当につまらなそうにしてみせた。 面倒くさいなら見張りなんてやめてしまえばいいのに。 黒服 「いいか、くれぐれも逃げようだなんて気をおこすんじゃないぞ」 楓巫女「べ〜〜〜っだ!」 黒服 「………」 二の口は大体が『くれぐれも逃げようだなんて』だ。 この人は本当につまらない。 楓巫女「…………」 楽しい人が傍に居てくれたらな……。 そうしたら、どれだけ幸せなことだろう。 隆正さま……彰衛門……。 楓巫女「ぐすっ……う……ひっく……」 黒服 「……泣くな鬱陶しい」 楓巫女「うぅううう……」 黒服さんは本当に嫌そうに息を吐いた。 楓巫女「………」 わたしに争いのための力があれば、こんな人ごと格子を壊して逃げられるのに。 ───カチャッ。 楓巫女「?」 黒服 「なんだ、交代か?」 黒服 「いや……なんでも賊が旦那さまの屋敷の宝物庫を襲撃したらしい」 黒服 「なんだと……」 黒服 「お前も来い、人手が要る」 黒服 「解った。おい女、くれぐれも変な気をおこすなよ」 黒服さんはそう言うと、一緒に居た黒服さんと外に行ってしまった。 楓巫女「どうかしたくてもできませんよ〜だ……」 ……うん、でも……あの人、根は悪い人じゃないって感じ取れる。 こんな世の中じゃなかったら……きっと、お友達になれたんだと思う。 楓巫女「……退屈だなぁ」 櫂埜上喜兵衛は、特にわたしになにかをするようなことはしなかった。 なんでもわたしの存在がここにあるだけで、 お金が手に入ったり繁栄したりするから、 ヘタに痛めつけたら利益が無くなりそうで怖いのだそうだ。 楓巫女「……隆正さま、おそいな……」 わたしはもう一度そう言って、小さく息を吐いた。 そんなことをしている時、誰かの悲鳴が連続的に聞こえた。 その時、懐かしい波動を感じたのはどうしてだろう───…… ───時は熟した。 隆正 「宝物庫への襲撃は変な男がやってくれた。     やつらの注意は宝物庫に向かっている」 平良 「ああ、よく解らんが、上手くやってくれた」 平丸 「何者なんだろうな、あの男……あ、それより隆正、これからどうする?」 隆正 「ああ。特攻を考えている」 間吹 「と、特攻ですかい!?そんな……正気で!?」 隆正 「正気だ。間吹、怖かったら下りても構わんぞ。私は止めない」 私は真意を確かめるべく、間吹の目を見た。 間吹 「いえ!あっしは隆正の兄ィについていくって決めたんです!     恐怖がなんですかい!あっしは負けませんぜ!」 隆正 「ああ、感謝する。平良、平丸の火道兄弟はどうする?     抜けるならこれが最後の機会だ」 平良 「馬鹿を言うな、私とお前は盟友だ。お前の危機を助けるのは当然のことだ」 平丸 「その通りだ。隆正にしてはひどい愚問だ」 隆正 「……感謝する」 俺は3年前から苦楽を共にしてきた盟友に頭を下げた。 彰衛門が消えてから、たったひとりで生きてきた俺を、 互いに励まし合い、今まで共に戦ってきてくれたやつらに。 隆正 「……行動は今夜行なう!各自、準備と睡眠をおこたるな!」 3人 『おうっ!』 3人は掛け声とともに決意の目を俺に残し、部屋を出ていった。 俺はしばらくその場に残り、なにもない天上を見上げていたが……コトッ。 隆正 「誰だ!」 物音に気づき、俺は木刀に手を添えた。 男  「あ、怪しいものではありません……!隆正殿に願いがあって来たのです……!」 隆正 「願い……?なんだ、言ってみろ」 男  「は、は……あの……わ、私も混ぜては頂けないでしょうか……。     私も天涯孤独の身で、もう後が無いのです……。     それならば誰かの助けになってから死にたい……お願いします」 隆正 「………」 男  「なんでもいたします!ですから!」 男は情けない顔で懇願する。 よほどへりくだった人生を歩んできたのだろう。 隆正 「…………お前、名はなんと言う」 男  「は、はい!酉悟(ゆうご)と申します!」 隆正 「酉悟、か。苗字は無いのか」 酉悟 「わ、私は物心ついた時からひとり身でした。     だから親の顔も、家の名も知らないのです」 隆正 「………」 孤独の身……か。 間吹や火道兄弟といい……私はこういう輩と縁があるようだ。 隆正 「……わかった。だが私たちも孤独の身だ。あまりいい待遇にはならないぞ」 酉悟 「あ、ありがとうございます!」 満面の笑みで喜ぶ様を見て、俺は小さく笑みをもらすのだった。 ドコントドコトコ♪ 彰衛門「ルパンザサァ〜〜〜ド♪」 アタイはほっかむりをつけて、バカデカイ屋敷に潜入した。 昼の頃はヒドイ目にあったが、この夜こそ見事に神の子に出会えましょうぞ。 彰衛門「さてさて……突き当たりっつーと……?」 ……おお、ここか? 曲がり角からそっと覗いてみると、見張りの男が出てきたところだった。 彰衛門「ふむ、あれがこの屋敷での上等服か。顔も隠れてて面白そうじゃない……!」 やがて見張りの男が曲がり角に差し掛かった時───! がばぁっ! 見張り「むぐぅっ!?」 彰衛門「み、見張りさん!じ、自分は前からアナタのことが好きでした!     自分のものになってつかぁさい!」 見張り「むぐぅううううっ!?ぐもおおおおおおおおっ!!!!!」 わあ!本気で嫌がってる! まあね、声からして明らかに男だし。 彰衛門「さ、さあ!あそこの茂みで熱いナイトフィーバーを!」 わざわざ息を荒くして演出してみました。 見張り「ぐぐもがぁあああああっ!!!むぎゃああああああああっ!!!!」 すると本気で暴れる見張りの男。 おお、泣いてる。 これは面白い。 彰衛門「嫌よ嫌よも好きの内!さあ見張りさん!自分を愛してつかぁさい!!」 ズリズリと引きずってゆく。 茂みまで連れてったら本気で泣きそうだから、あえてそれを実行するつもりです。 これぞ最強の嫌がらせ。 見張り「もがぁあああああっ!!」 彰衛門「あ!これ!」 だが、見張りのダンディメンは本気で貞操の危機を感じたらしく、 スカウターが崩壊せんばかりの戦闘力を発揮した。 その拍子にガツッ。 彰衛門「ややっ!?」 見張り「もがっ!?」 バランスを崩したアタイと見張りさんは、二階から 彰衛門「キャーッ!?」 見張り「もごぉおおっ!!!!!」 ドグシャアアッ!!! 彰衛門「ほごぉっ!!」 見張り「ッ!!」 ……見事に落下した。 ちなみに屋敷とかって大体が柵があるくらいで、壁はないんですよね。 見事に落ちてしまいましたよ。 階段とかならまだ衝撃が少なかったろうに。 彰衛門「あ、あいたたた……むぅ!」 ふと見てみると、見張りさんは気絶していた。 彰衛門「えーと……ごめんなさい」 で、ひとまず身包みを剥いで、それを装着することにした。 ─── 彰衛門「キャア!似合いすぎ!」 茂みで着替えたアタイは、黒装束にも負けないその姿に感激した。 そしてふと、丸裸で茂みの影で気絶している見張りさんを見る。 彰衛門「…………誰かに見られたら誤解程度じゃ済まない状況ですな、これは」 特に変態オカマホモコンの『オカマホモ』が強調されてしま 男  「う、うわぁーーーっ!お、お前ら屋敷の中でなにをーーっ!!」 彰衛門「うわぉおーーーーーっ!!!!」 丁度、帯を締めていた時に見つかった。 こりゃヤバイ!かなりヤバイ! 男  「お、おい大変だぁ!屋敷の使用人の中に男色野郎どもが」 彰衛門「キャアーーッ!!それ以上は言っちゃダメェーーッ!!     お天道様の下、歩けなくなっちゃうぅーーーっ!!!」 俺は慌てて、男を気絶の道へと導くこととなった。 ───櫂埜上の屋敷─── 楓巫女「……退屈だな〜……」 ぼ〜っとしながら天上を見上げた。 やがて視線を下ろして部屋の中を見渡しても、そこはつまらない部屋だった。 楓巫女「……大樹の部屋に戻りたいな……」 あそこは退屈しなかった。 自然に囲まれて、時折木の間からやってくる小鳥たちと戯れることが楽しかった。 部屋から出れば隆正さまが居て、弱かったわたしを励ましてくれる。 そんな日常が大好きだった。 楓巫女「もし、わたしが神の子じゃあなかったら……」 きっと、今もあの村で隆正さまとご一緒に……カタッ。 楓巫女「?」 黒服 「なんだ、交代か?」 黒服 「そうだ」 黒服 「今日は随分早いな」 黒服 「気の所為だ」 黒服 「そうか」 黒服さんたちは言葉を交わして、入れ替わった。 やがてさっきまで居た人が外に出る頃、来た人が格子(こうし)の傍まで歩み寄った。 黒服 「お嬢さん、壮健かい?」 楓巫女「そうけん……?」 黒服 「スッキリ壮快なほどに元気か?という意味ですじゃ」 楓巫女「え……そうかい、とは?」 黒服 「……グウム。なんと説明したらよいやら」 楓巫女「………」 なんだろう。 心の中が暖かい。 楓巫女「どうしたんですか?今日はいつもよりやさしい心を持っているんですね」 『ヘンな気を起こすな』としか言わなかった人が、突然の変わり様。 わたしに付けていた見張りはふたりしか居なかった筈だからそれは間違いない。 なのに……この懐かしさはなんなのだろう。 楓巫女「あの……」 黒服 「なにかね」 楓巫女「どうして今日はわたしと話してくださるんですか?」 黒服 「え?いつも話し掛けてなかった?」 楓巫女「話し掛けられてません」 黒服 「ゲェーーッ!!こいつは大誤算!」 黒服さんは驚いていた。 けど…… 楓巫女「……やめてください」 黒服 「ぬ?」 楓巫女「その、『ゲェー』と言うのを、やめてください」 黒服 「何故かね?」 楓巫女「その口調は……わたしの大事な人が言っていた言葉です。     他の誰にも真似されたくはありません……。     他の誰かからその言葉が出るのは嫌です。     あの人の口から出なければ……その言葉は嫌いです」 黒服 「……わぁ」 黒服さんはどこか感激したような声を漏らした。 やがて格子から手を伸ばして、涙目になっていたわたしの頭を撫でてくれた。 楓巫女「───!」 その手は、とても暖かかった。 待ち続けることで溜まった涙が流れてしまうくらいに、とても暖かかった。 黒服 「嬉しいことを言ってくれおるの、楓巫女。じいやは嬉しゅうございますぞ」 楓巫女「!」 懐かしい言葉。 懐かしい口調。 その全てがわたしの中に溶け込んでゆく。 やがてわたしは驚きと嬉しさで震えが止まらない口から、 やっとの思いでその名を呟いた。 楓巫女「あ……あき、えもん……?」 黒服 「ザッツライト!ゆえに俺は美しい!」 黒服の頭の部分を脱ぎ、わたしに微笑みかけてくれたその人は、 紛れもない……あの日に消えてしまった彰衛門だった。 楓巫女「あ……あき……」 嬉しくて涙が止まらない。 何を考えていたのかさえも纏まってくれない。 楓巫女「いいたいこと……いっぱいあったの……!     してもらいたいこと、たくさんあったの……!     わ、わたし……がんばったんだよ……?     いっしょうけんめいがんばって、ことばもしゃべれるようになって……!     わたし……あきえもんに、また……あたまなでてもらいたくて……     でも……あきえもん、いなくて……う、ふぅう……っ……!!」 彰衛門「……すまぬの。辛い思いをさせたようじゃ……」 彰衛門が格子の鍵を開けて中に入ってきた。 そして、随分と久しぶりにわたしを抱き締め、頭を撫でてくれた。 楓巫女「う……うぐっ……う、うわぁあぁあああああああんっ!!!!!」 その掌が暖かくて。 そのぬくもりが懐かしくて。 わたしは今まで溜めていた涙を流すように、まるで子供のようにして泣いた。 ───……。 彰衛門「ほぉっほっほ、楓巫女、大きくなったのぅ」 楓巫女「う、うん……」 彰衛門「このままではじいやもすぐに抜かれてしまいますかの」 楓巫女「そこまで大きくならないよ……」 彰衛門「ほぉっほっほ、そうかそうか」 彰衛門はあの頃のままの笑顔で暖かく笑ってくれた。 それから懐かしむように頭を撫でてくれたり、マツタケを食べさせてくれたりもした。 わたしは……彰衛門の顔を見ることが出来ず、俯いたままだった。 彰衛門「おや、どうされた?具合でも悪いのかね?」 楓巫女「な、なんでもないよっ、うん!」 彰衛門「そうかえ?それにしては口調が丁寧ではなくなっておるがの」 楓巫女「え!?あ、わわわっ……!」 いつも気をつけて、今では普段の口調になっていた丁寧な言葉が、 彰衛門の前では崩れ去っていた。 そして気づく。 この人の前では、自分を作る必要は無いと心が訴えていることに。 ほんのちょっとの無理でさえすることもなく、 この人に任せておけばとても幸せなんだと。 だから…… 楓巫女「………!」 わたしは我慢できずに、彰衛門に抱きついた。 彰衛門「ややっ!?どうされた!?」 楓巫女「え、えへへ……えへへへへへ……♪」 顔がとても熱くなる。 だけどずっとこうしたかった。 いつまでも彰衛門に甘えて、いつだって頭を撫でてもらいたかった。 親も無く、甘えることさえ出来なかった神の子であるわたしを、 唯一甘えさせてくれた人。 わたしに笑みを教えてくれて、わたしに学ぶことの喜びを教えてくれた人。 一緒に居たのはたった一日だけだったのに、わたしはこの人がとても好きだった。 彰衛門「ほっほっほ、楓巫女は大きくなっても甘えんぼうだねぇ」 楓巫女「いいの。連れ攫われてからずっと、誰にも甘えられなかったんだもん……」 彰衛門「……なんと。それは辛かったじゃろうなぁ……」 彰衛門は抱き着いていたわたしを暖かく包んで、頭を撫でてくれる。 そのやさしさが、喩えようのないくらいに嬉しい。 彰衛門「……ところで楓巫女って攫われてここに来たのかね?」 そして、思わず『はい!?』と訊ね返しそうになってしまうことを言ってきた。 楓巫女「……彰衛門?わたしを助けに来てくれたんじゃ……」 彰衛門「えーと……実はじいやは迷子なのです」 楓巫女「───」 目の前が一瞬真っ白になった。 だけど…… 楓巫女「ぷっ……クフフフフ……」 彰衛門「ややっ!?なにを笑うのかね!」 楓巫女「あはっ……あははははははは!」 やがておかしくなって笑ってしまった。 この人は本当に変わっていない。 捉えようがなく、いつだってよく解らないことを言う人だ。 楓巫女「じゃあ……ここに来たのは……ククッ……ぐ、偶然なんだよね……?」 彰衛門「いえいえ、偶然って言葉は好きですがね。それは違うよ楓巫女」 楓巫女「え……?それじゃあ」 彰衛門「グウウムムウ……どこから話してよいやら……。     なんというか、財宝泥棒の話とか男色のレッテルの話とかいろいろあるが……     いや、まずはアレだな。楓巫女」 楓巫女「うん」 彰衛門「じいやは魔法使いなんだ」 楓巫女「クスッ……うん」 懐かしい言葉を聞いた。 誰に言うにも、自分は魔法使いなのだと言うこと。 それを、この人はしっかりと守っていた。 彰衛門「まずは謝らなければならんの。一緒に寝るという約束を守れなんだ」 楓巫女「あ……そう!そうだよ!わたし、楽しみにしてたのに!」 彰衛門「お、おうおう……そう怒らんどくれ。     じいやはあの日、キノコのスープを作ったあと、     魔法の暴走であの時代から消されてしまったのじゃよ」 楓巫女「時代……?」 彰衛門「つまり、じいやは今しがた、この時代に来たばかりなのじゃ」 楓巫女「彰衛門……よく解らないよ」 彰衛門「うむ、つまりですな?     じいやは楓巫女と一緒に寝ると約束した次の日のじいやなのじゃよ」 楓巫女「……じゃあ」 彰衛門「うむ。魔法が勝手に発動してしもうて、じいやはここに飛ばされたんじゃ」 楓巫女「そうだったんだ……」 彰衛門「すまなかったのう……じいやが付いておれんばっかりに、     楓巫女と小僧には辛い思いをさせてしまった……許しとくれ……」 彰衛門はもう一度わたしを抱き締めてくれる。 その声は本当に辛そうな声だったから、 この人が本当にわたしと隆正さまを心配してくれていたのだということが、 痛いくらいに感じられた。 楓巫女「許すも許さないもないよ……。     彰衛門、わたしのところに戻ってきてくれたから」 彰衛門「……ありがとうの、楓巫女。ほんに楓巫女はやさしいのぅ……」 そう言って、頭を撫でてくれる彰衛門。 くすぐったくて、だけどやめてほしくないくらいに心地良かった。 そんな時。 ドォオオオンッ!!!!! 楓巫女「きゃっ……!」 彰衛門「ややっ!?なにごと!」 屋敷全体が大きく揺れるような衝撃が起こった。 それに次いで聞こえる声は─── 声  「賊軍だーっ!!『光刀の隆正』が屋敷を襲撃したぞぉーっ!!」 楓巫女「!」 彰衛門「なんと!」 衝撃的な声だった。 彰衛門「あの馬鹿者め!早まったことを!」 彰衛門が立ち上がり、出入り口へと走ってゆく。 楓巫女「あ……彰衛門!わ、わたしも……」 彰衛門「すまぬ楓巫女!この場に残っておくれ!入れ違いに小僧が来るやもしれん!     それに……───」 楓巫女「それに……?」 彰衛門「───なんでもんござらん!しばし待たれよ!」 楓巫女「あっ……彰衛門っ!!」 彰衛門は急いで部屋を出ていってしまった。 ……わたしはどうすることも出来なくて、ただその場で待つことしか出来なかった。 そんな時に思う。 神の子だなんて言われたって、出来ないことの方がたくさんあるのだと。 Next Menu back