───彼が目指した未来の最果て───
彰衛門「小僧め!なんというたわけたことを……!」 楓巫女をあの場に残したのは正解だった。 こんな景色、楓巫女には見せられない。 隆正 「オォオオオァアアアアッ!!!!」 ズバァッ!! 衛兵 「ぐわぁあああっ!!!」 小僧が振るう木刀から、俺が宿した月壊の波動が放たれ、衛兵を吹き飛ばした。 楓巫女を救うためとはいえ、抵抗力を失った衛兵になんということを……! 彰衛門「……小僧。貴様は目先の目的のために、     過去の純粋な心を売ってしまったようだな……」 残念だった。 小僧が必死で楓巫女を守ろうとしていることくらい、痛いくらいに解る。 だが……だからといって抵抗の出来ない人を殺めていいわけがない。 隆正 「!そこにも居たか!ケェエエエイッ!!」 小僧が俺に向かって木刀を振るった。 どうやら黒服のフードを被っている所為で俺だとは気づかなかったらしい。 彰衛門「……ばかめが」 アタイはそれを軽く片手で受けとめ、掻き消した。 隆正 「なっ……」 彰衛門「力に溺れおって……貴様は破門だ!」 隆正 「なにを訳の解らぬことを!」 彰衛門「この……馬鹿者が!!」 ボグッ!! 隆正 「ぐはっ!?」 小僧を一撃殴り、その服の胸元を掴んで引っ張る。 彰衛門「俺の目を見ろ!!」 隆正 「ぐ……」 彰衛門「解ったらもう帰んな」 ブンッ!ドシャッ! 隆正 「ぐあっ!」 ジャスティス学園の外道高校番長の真似をして小僧を放った。 真面目に相手する気すら失せたわ。 隆正 「ま、待て!どこへ行く!」 彰衛門「……そこの突き当りを右に曲がれ。そこに楓巫女が居る」 隆正 「なに……?どういうことだ!敵である貴様がなぜそのようなことを!」 彰衛門「行けというのが解らんのかっ!!!」 隆正 「っ……!」 彰衛門「今の貴様のようなヤツでも待っている者が居るのだ!!     だから俺は道を教えた!だが───」 隆正 「…………?」 彰衛門「……失望したぞ、小僧……」 隆正 「なに……!?」 アタイはその場を離れた。 ただの一度でも振り返ることなく。 ……人々が争う世界。 そんな景色を見下ろしてみた。 彰衛門「………」 なんとも醜いことよ。 喧嘩なら素手でやればいい。 悪戯に人の未来を消して、なにがいいのだろう。 彰衛門「……む!」 ふと見ると、その争いの景色に見知った顔があった。 彰衛門「……なんと!あの双子馬鹿兄弟ではないか!」 未来において凍弥と一緒に居たあの男どもが戦っていた。 しかも敵さんに囲まれてる。 彰衛門「こいつはいかん!見知った顔を見捨てたとあっちゃあ夢見が悪いですよ!?」 アタイは慌ててその場から飛び降り、双子のもとへとズドォンッ!! 彰衛門「ギャアーーーッ!!!!!」 双子 『うおっ!?』 バランスを崩し、思いっきり背中から落下してしまった。 彰衛門「おほーっ!おほーっ!!ホゲェーッホゲッホ!!     フ、フフフ……ド、ドジこいちまったぜ」 双子どもに親指を立てて同意を求める。 だが 双子1「奇襲に失敗するとは馬鹿なヤツだ!」 双子1は1秒でも迷うことなく俺を敵と見なし、刀を振り下ろした。 彰衛門「キャーッ!?」 ザコンッ! が、それを華麗にかわす。 彰衛門「なにすんじゃいこのタコが!アタイは貴様らの味方ですよ!?」 双子2「味方?なにを根拠にそのようなことを!」 彰衛門「フッ……貴様らにいいことを教えてやろう。俺ぁな、魔法使いなんだ」 双子1「なにっ!?魔法使いだと!?」 双子2「それは真実か!?」 彰衛門「ウソじゃ」 双子 『………』 敵衆 『………』 わぁ、敵の皆様にまで白い目で見られちゃった 彰衛門「ともかく!ここはアタイがなんとかするからその刀を納めなさい!」 双子1「断る!我らは盟友のために、死ぬわけにはいかんのだ!」 双子2「せめて盟友が楓巫女を救うまで、我らがこやつらを引き付けねば───」 彰衛門「がぁああああああああっ!!!     いいから刀納めろってんだよ馬鹿どもっ!!!!!」 双子 『っ……!』 彰衛門「ったくふざけんじゃねぇよボケが!     誰かのためだからって人の未来奪っていいと思ってんのか!?     俺が守ってやるから刀納めろって言ってんだよ俺ゃあよ!     どいつもこいつも人殺しの波動ばっか出しやがって!     いいか、よく聞けよ!?お前ら全員腐ったみかんだ!」 敵衆 『………』 彰衛門「まったく不愉快だよ!キミたちの考えはまるで解らん!     解らんからその腐った性根を叩きなおしてみせよう!     さあ、かかってきなさい!」 敵A 「ふざけてんじゃあ───」 彰衛門「ポセイドンウェーイ!!」 ドッッッパァァアンッ!! 敵A 「ほぎゃああああああっ!!!」 敵Aが回転しながらゴロゴロズシャアアと吹っ飛んでゆく。 敵B 「こ、この」 がしっ。 敵B 「なっ!?は、離せコ───」 彰衛門「ジャスティスハリケェーーーーンッ!!!!」 敵B 「お、おわぁああああっ!!!」 ドゴッッッシャァアアアアンッ!!!!! 敵B、ジャスティスハリケーンにより気絶。 敵C 「このやろっ……」 彰衛門「ほんにぃい〜〜……美味そうじゃぁーーーいっ!」 ドゴンッ!ドゴンッ!! 敵C 「ゴエッ!ぐえっ!」 敵C、スーパー頭突きにより撃沈。 敵D 「お」 彰衛門「そぉおおおうりゃあああああああああっ!!!!」 ズパダタタタタタタタタタ!!!!!! 敵D 「ウギャアーーーッ!!!!!」 敵D、鬼無双の百裂張り手により海坊主化。 敵衆 『な、なんだこいつ……強ぇぞ……!?』 彰衛門「さあ……どこからでもかかってきなさい」 双子 『………』 双子どもが呆れる中、敵衆は一気に襲いかかってきた。 彰衛門「馬鹿め!その軍勢に頼る姿勢が隙を生むのだ!くらえぇい!     旋風ゥウウウウウウッ!!剛ォオオオオオオ拳!!!!!」 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴシャメシャドッパァアアアアアアンッ!!!!! 敵衆 『ぎゃあああああああ!!!!』 彰衛門「ふはははは!これで終わると思ったら大間違いぞ!     ギガティィッック!!!!」 ゴシャァアアアアア……!!!! 敵衆 『な、なんだ!?吸い込まれる!』 彰衛門「サイクロォオオオオオオンンッ!!!!!!」 敵衆 『ヒ、ヒィイイイイイイッ!!!!!!』 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴシャメシャドッパァアアアアアアンッ!!!!! 敵衆 『ぐわああーーーーーっ!!!!!!』 敵どもが竜巻の中で互いにぶつかり合い、吹き飛んでいった。 彰衛門「……フッ、美しい」 やがてその場に残ったのは俺だけだった。 彰衛門「……俺だけ!?」 ややっ!?双子どもはどうし───ギャア! 彰衛門「だ、大丈夫かね!しっかりしたまえ!」 アタイが見たものは、敵衆とともにピクピクと痙攣する双子どもの姿だった。 いやーん!一緒に吸い込んじゃった! 彰衛門「しっかりしろ!傷は浅いぞ!」 双子1「よ、よくもそのようなことが言えるなこの……ぐくっ!」 彰衛門「むう、これはいけません。……ベホイミ♪」 パァァァ…… 双子1「こ、これは……どうしたことだ、傷が塞がってゆく……」 彰衛門「言っただろ、アタイは魔法使いよ」 双子2「なんと面妖な……」 彰衛門「キミね、仮にも傷を治してやってる人に対して面妖はないんじゃない?」 双子 『いいや、面妖だ』 彰衛門「………」 ひどいや。 彰衛門「しかしキミらも相当だね、たった3人で来たのかね?」 双子1「いや……5人で来たのだが、間吹はもう……」 ……死んだ、か。 双子2「しかし酉悟はどうした?姿が見えぬが」 双子1「ああ、私も気にかかっていた。     それに今回のこの作戦、最初から敵に悟られていたような気がするのだ。     もしやとは思うが……」 ドドンッ! 双子 『かはっ!?』 彰衛門「!!」 それは突然の出来事だった。 どこからか放たれた矢が、ふたりの心臓を貫いた。 彰衛門「なっ……お、おいっ!」 双子1「………」 ダメだ、既に事切れてる……。 双子2「が、がはっ……あ……兄者……兄者ぁ……」 彰衛門「なんと!無事なのか!待っておれ、今回復を」 ドドンッ!ドンッ! 双子2「ぐふっ……!が、───……」 彰衛門「…………!」 再び矢が放たれた時、双子2は事切れた。 男  「ふ……くっふっふっふ……馬鹿なやつらだ。     騙されていたことにも気づかないとは」 彰衛門「……貴様何者じゃ!名を名乗られませい!」 男  「俺か?俺は櫂埜上酉悟。この屋敷の主の息子さ」 彰衛門「なんと!それではこの者らが言っておった酉悟とは……!」 酉悟 「ああ、俺のことさ。こいつら簡単に騙されてくれたぜ?」 彰衛門「おのれ……!あの頃は過去の者は芯が強いなどと謡ったが、     どうやらそれは間違いだったようだわ!貴様ら芯が腐ってやがる!!」 酉悟 「だからどうした。……おい、こいつを矢の雨で殺してやれ」 敵衆 『ハッ!』 彰衛門「───……」 矢が一斉に放たれる。 俺はチラリと双子達を見下ろした。 一瞬で絶命した兄と、死ぬ間際まで兄の傍に居ようとした弟を。 彰衛門「…………ガトリングブラスト」 俺は矢の数以上に光を精製し、目を深紅に染め上げた。 やがてそれを放ち、矢の全てを焼き払いながら─── 酉悟 「ヒッ!」 敵衆 『うわっ……うわぁああああああああああっ!!!!』 一歩ずつ、そいつらに歩み寄った。 酉悟 「な、なんなんだ貴様!あれだけの数の矢を……ど、どうやってぇ……!」 彰衛門「……俺は……魔法使いなんだ」 酉悟 「へ……?」 怯える男に言ってやる。 彰衛門「この力があれば、目に届くやつらくらいは救えると思ってた」 酉悟 「な、なにを言って……」 彰衛門「でもな、違ったんだ。救うだけじゃ……ダメなんだ」 酉悟 「……?」 彰衛門「お前らみたいなクズが居るから───!」 ドゴォッ!!! 酉悟 「あぎゃあっ!?」 彰衛門「……痛いか?」 酉悟 「あ、あ……ひ……」 彰衛門「痛いかと訊いているッ!!」 酉悟 「ひぃいっ!い、痛いです!もうやめてください!」 彰衛門「殴られただけでこれだけ痛いんだ!それをお前は!     人が死ぬ時、どれだけ苦しいかも知らないヤツが人の未来を奪いやがって!!」 酉悟 「ひぃいいっ!!!!」 彰衛門「……でもな!たとえおまえらみたいなクズでも生きてるんだ!     憎いけど……憎いけど殺せねぇんだよ!!」 敵D 「───!」 彰衛門「消えろ!俺がキレる前にとっとと視界から」 ドンッ! 彰衛門「ぐっ……!?」 男が、後ろから俺を刺した。 敵D 「ひ、ひはは……!こいつ馬鹿だ!敵を前にして『殺せねぇ』だとよ!     だったらてめぇが死ね!!ひははははははは!!」 敵E 「そ、そうだ……戦場じゃあ周りがみんな敵だ!なに甘いこと言ってやがる!」 敵F 「ひははははは!!」 酉悟 「よ、よくやったぞ!おい、今の内にこいつを殺せ!」 ……男達は笑いながら武器を構えた。 やがて俺に向かってくる。 彰衛門「……てめぇらみんな……ばかだよ……」 最後まで馬鹿だった男らに、俺はそう呟いた。 そして月操力を解放する。 彰衛門「月奏力……裏切りの旋律」 目に映る全てが敵に見える月の音色。 その能力を解放し、俺はその場から離れた。 ……やがて聞こえてくる断末魔。 その全てが治まる頃、その場に生きている者はひとりだけしか居なかった─── ───……。 隆正 「さあ楓巫女、こっちだ!」 楓巫女「は、はい……」 楓巫女の手を取り、走った。 心なし、楓巫女の元気がなかったが、今はそんなことを考えている場合ではない。 仲間と合流して逃げなければ。 隆正 「平良!平丸!間吹!酉悟!どこだーっ!!」 楓巫女「───うぶっ!」 隆正 「楓巫女!?」 楓巫女が口を押さえた。 そして震えながらある方角から目を逸らす。 隆正 「下……?うっ……」 そこには、夥しいほどの肉壊と血の海が広がっていた。 味方同士が切り合ったような痕跡と、その中で震えあがる影───酉悟。 俺はそれを見た時、生きていてくれていることが嬉しかった。 急いで下に下り、酉悟のもとへ─── 隆正 「な、に……?」 酉悟のもとへ行く途中。 建物の影になって見えなかった場所に、胸に矢を刺して動かぬ火道兄弟が居た。 隆正 「くっ……!」 俺はふたりに頭を下げ、酉悟のもとへ走った。 隆正 「酉悟っ!」 酉悟 「ひ、ひぃいっ!すまなかったぁああっ!殺さないで!殺さないで!」 隆正 「酉悟……?」 酉悟 「親父たすけて!親父!喜兵衛さまぁああっ!!」 隆正 「な───に……?」 親父……喜兵衛……!? 隆正 「どういうことだ酉悟!貴様まさか!」 楓巫女「……隆正さま。その方は櫂埜上喜兵衛の息子……櫂埜上酉悟です」 隆正 「なっ……!なんだと!?」 楓巫女「隆正さま……あなたはいったい、何をしたのですか……?     わたしを救うために、     どうしてこれだけの人が死ななければならなかったのですか……?」 隆正 「わ、私は楓巫女を救いたくて……」 楓巫女「それでは訊きます……その中に命乞いをする人は居ませんでしたか?     そして、そんな人を隆正さまはどうされましたか……?」 隆正 「───!」 楓巫女「こんな……こんな隆正さまを見たら、彰衛門はさぞ悔やみます……」 隆正 「ば、馬鹿な……っ!彰衛門でもないお前が何故そう言える!」 楓巫女「解ります……!今のあなたからは以前の純粋な気配が感じられません!     今のあなたからは感じるのは鬼……!鬼の心だけです……!」 隆正 「───……」 からん、と。 木刀が滑り落ちた。 あまりに心への衝撃が強すぎて、膝をついてしまった。 隆正 「私は……私はいったいなにを……」 楓巫女「……先ほどまで、わたしの傍に彰衛門が居てくださいました」 隆正 「なに!?彰衛門が!?」 楓巫女「……見張りと同じ姿をしていました。     恐らく、隆正さまもお会いになったのでは……」 隆正 「見張りの……?───っ!」 『力に溺れおって……貴様は破門だ!』 『……失望したぞ、小僧……』 隆正 「あ……あぁああ……!!」 あいつが……彰衛門……!? そんな……それでは私は……! 隆正 「───くぁあああっ!貴様が!貴様が我ら盟友を騙さなければ!!     盟友の名を怪我しおって!!」 酉悟 「ひぃいいいいっ!!!」 俺は酉悟の喉下へ木刀を構えた。 そして───! 声  「おやめなさい!」 隆正 「だ、誰だ!」 声のした方向。 そこから現れたのは…… 彰衛門「ふぁ〜ったくクソカスが……人の所為にするなど甚だしいわ」 隆正 「彰衛門……」 楓巫女「彰衛門!」 楓巫女が彰衛門へ駆け寄ろうとする。 だが俺はそれを許さなかった。 楓巫女「あっ……い、痛い!隆正さまっ、痛いですっ!」 楓巫女の手を強く握り、離さない。 彰衛門「その手を離しておあげなさい」 隆正 「断る……それより答えてくれ彰衛門……。私は間違っていないよな……」 彰衛門「……もはやそのようなことも自分で解らなくなりましたか」 隆正 「なにっ!?」 彰衛門「ふぁ〜ったくカスが……。あなたは間違っていますよ」 隆正 「何故だ!私は間違っていない!こいつが我らを裏切らなければ!」 彰衛門「たわけ!」 隆正 「なっ……」 彰衛門「まだ解らぬかこの馬鹿めが!ならば貴様は何故そいつ仲間に加えたのだ!」 隆正 「こ、こいつが孤独の身だと言ったから……きっとよい仲間になれると……」 彰衛門「だから盟友に加えたのか!?」 隆正 「あ、ああそうだ!なにがおかしい!」 彰衛門「おかしすぎるわこの馬鹿!」 隆正 「なにっ!?」 彰衛門「貴ッ様、ほんに人の話を全く聞いとらんちゃね!!     過去、アタイは貴様になんと申した!?     貴様はそいつと笑い合い、殴り合い、怒り合い、友情を築いたのか!?」 隆正 「そ、それは……はっ!」 彰衛門「それじゃあアタイは『盟友』とはどういうものだと言った!!     言ってみろこのクソ野郎!!」 隆正 「あ……あ……」 わ、私はまた……力に溺れ、彰衛門の言葉を忘れて……! 楓巫女「……っ」 手の力が緩むと、楓巫女は私のもとから彰衛門のもとへ走った。 これが私のしてきたことへの答えだ。 助けに来たというのに、楓巫女の元気が無かった理由がこれなのだ……。 隆正 「……すまない彰衛門……私は……っ!?」 ふと、屋敷の二階で何かが光った。 隆正 「楓巫女!」 楓巫女「えっ!?」 私は急いで走り、楓巫女を庇い───ドンッ! 隆正 「かはぁあっ!」 飛んできたその矢に討たれた。 彰衛門「なっ……馬鹿なことを!」 楓巫女「隆正さまっ!?」 矢はどうやら……心の臓に刺さってしまったらしい。 恐ろしい早さで意識が遠のいてゆく。 楓巫女……わ、私は…… 彰衛門「クッ……とにかく回復を」 ドンッ! 彰衛門「ぐはぁっ!」 回復しようとした矢先に、俺の背に矢が突き立った。 楓巫女「きゃあああっ!彰衛門!!」 彰衛門「ぐっ……だ、誰だコラ……!」 矢が放たれた方角を見ると、屋敷の二階に弓矢を構えている男が居た。 彰衛門「てめっ……げほっ!がはっ!」 くそっ!胃に刺さりやがったか……!あとからあとから血が出てきやがる……! 彰衛門「楓巫女!そいつの回復を頼む!」 楓巫女「は、はい!」 俺は屋敷の二階から俺達を見下ろしているヒゲを見据えた。 そいつの顔は─── 彰衛門「き、貴様!アタイがこの時代に来た時、いきなり斬りつけやがったマゲ野郎!」 男  「なに?……馬鹿な!貴様は確かに殺した筈!」 彰衛門「フッ……生憎このワシは……強ぇえのよ」 男  「おのれっ!」 男が矢を放ってきた。 アタイはそれを冷静に捉え───ピシッ! 彰衛門「北斗神拳奥義・ニ指真空把」 人差し指と中指の間で受けとめ、投げ返した。 ドンッ! 男  「ぐわぁっ!」 矢は男の胸に刺さり、男はよろめいて落下した。 彰衛門「アイヤーッ!?」 しまった!まさか落下するとは! いくら外道とはいえ、アタイが直接手を下したんじゃあ殺しじゃないですか! 男  「う、うぐぐ……」 彰衛門「驚かせるんでねぇ!生きてるでねが!」 まったく人騒がせな! ってそうだ!小僧! 彰衛門「小僧!」 隆正 「ぐ……がはっ……!あ、彰衛門……」 彰衛門「喋るでない!傷が深くなりますよ!」 隆正 「……私は……死ぬ、のか……」 彰衛門「知らぬ!」 隆正 「ははっ……相変わらず……私には厳しいな……彰衛門……」 彰衛門「馬鹿者!それだけ強い男に育ってほしかったのだ!」 隆正 「……すまない、彰衛門……私は汚れてしまったよ……」 彰衛門「ヌウウ……!さっきから黙って聞いておれば好き勝手に言いおって!     悲劇の男を気取ってりゃあ満足か!?罪悪感があるなら生きやがれ!」 隆正 「彰衛門……」 彰衛門「汚れたってんならアタイがお前の心を清めてやるわ!月清力!!」 アタイは手に清き光をもって、小僧に流し込んだ。 隆正 「こ、これは……なんだろう……なんだかとても懐かしい気持ちが……」 彰衛門「解るかね!それは子供の頃の貴様の心をベースにした清さぞ!     その差が解るかね!えぇーっ!?」 隆正 「…………ああ……」 小僧は涙を流した。 そして俺も覚悟はしていた。 ……小僧はもう、助からない。 もう、死んでいるのだから。 今、こうして話せるのは恐らく……楓巫女の神の子としての力のおかげだ。 隆正 「すまなかった……楓巫女……。私は、もうお前を守れそうもない……」 楓巫女「な、なにを……なにを仰るのですか!隆正さまはわたしの守衛者です!     なにがあろうとも守ってくださると仰ってくださったではないですか!」 隆正 「…………すまない」 楓巫女「そんなの嫌です!生きてください!生きて……!」 涙で楓巫女の力が弱まった時、小僧はにっこりと笑った。 隆正 「最後に……また……あの頃の自分に戻れてよかった……」 彰衛門「……うむ。今はもう眠りなさい。だが、忘れるでないぞ?     貴様は来世まで、     ロメロスペシャルとポセイドンウェーブを伝えなければならぬのだ。     ……いつか必ず、どこかで会おう。     だから今は風邪を引かぬよう、暖かくして寝ろよ……『隆正』」 隆正 「───っ……!は、初めて……名前、呼んでくれたな……。     嬉しいよ……ありがとう、彰衛門……ごめんな、楓巫女……」 最後に、あの無邪気だった頃の笑顔を残して、やがて…… 楓巫女「やっ……いやっ……!いやぁあああああっ!!!!」 ───隆正は、息を引き取った。 彰衛門「楓巫女……」 俺はせめて、丁重に葬ってやろうと、隆正に手を伸ばした。 だが───バチィッ! 彰衛門「ぐおっ……!?」 突然、隆正と楓巫女の周り壁が出来た。 しかもこれは……月鳴力……? 攻撃性はないが、これじゃあ近寄れん……! 彰衛門「楓巫女……か?この壁を作ってるのは」 楓巫女「……彰衛門、わたし……」 楓巫女は隆正の胸に突き刺さった矢をやさしく抜いて、自分の手に刺した。 彰衛門「なっ……なにをするのじゃ!     オナゴが無闇矢鱈に自分を傷つけるんじゃありません!」 楓巫女「……きっと……隆正さまだけでは寂しいだろうから……」 そして自分の手から流れる血を、隆正の口に含ませた。 彰衛門「なにをする気じゃ!おやめなさい!」 楓巫女「彰衛門……わたし、楽しかった……」 彰衛門「楽し……かった……?これ!過去形なんてやめなさい!じいやは怒りますぞ!」 楓巫女「きっと、彰衛門のおかげで昔のやさしい隆正さまに戻ったから……。     だから……生まれ変わった時、また一緒に……あの頃のように……」 彰衛門「おやめなさい!やっ……やめろ!」 楓巫女はやがて、矢を自分の胸に向け─── 楓巫女「さようなら……おとうさん」 にっこりと、俺に笑いかけ───ズプッ!! 楓巫女「───……」 微笑みのままに、隆正に覆い被さるようにして倒れた。 彰衛門「ばっ……ばか!なにやってんだよ!お前が死ぬことなんてなかったんだ!     こ、このばか娘……!俺をお父さんって呼ぶならもっと人の言うことを聞け!」 かしゃんっ、と壁が崩れた。 俺は急いで楓巫女に駆け寄り、癒しの力を───ヴンッ! 彰衛門「なにっ!?」 体が再び光に包み込まれた。 彰衛門「なっ……やめろ月空力!まだ助かるんだ!今ならまだ救ってやれるんだ!     邪魔すんじゃねぇ!これも……これも運命だとでも言うのか!!     だったらそんなものは俺が変えてやる!!     だから……だからぁあっ!!邪魔すんなぁあああああああっ!!!!」 俺は叫んだ。 涙を散らしながら、喉が枯れるほどに。 俺を慕ってくれた……俺をお父さんと呼んでくれた娘の体が動かなくなってゆく。 そんな景色を見ながら何も出来ないで……! 彰衛門「う……うおぉおおおおおおっ!!!楓巫女!楓巫女ぉおおおっ!!!!」 やがて大声で涙した頃。 景色は弾け、俺は月空力によって飛ばされた。 無力を噛み締めながら、力無く項垂れて─── ───…… 喜兵衛「ぐ……ひ、ひひひ……あの血だ……!あの血を飲めば……!」 神の子はあの男に自分の血を飲ませていた……! あれを飲めば……た、助かるかもしれん……! 喜兵衛「ま、まだ死ねんのだ……!この国を支配するまではぁ……!」 ずちゃっ……びちゃり……。 喜兵衛「ハラワタが落ちるのが……なんだ……!     ワタシは生きるぞ……!必ず生きて……───!」 ぴちゃっ……ぴちゃっ…… 喜兵衛「ふひひひひ……美味いなぁ……!神の子の血はこんなにも美味いのかぁ……!     もっと早くに……殺して……すすっておけば……よかっ……───」 ……───コトッ。 ───男は息を引き取った。 櫂埜上喜兵衛という男はハラワタを引きずりながらも神の子の血をすすり、 その姿を見た人々は彼のことを鬼と呼んだそうだ。 櫂埜上酉悟は恐怖のあまり錯乱し、自害。 この戦で生き延びた者は誰ひとりとして居なかった。 そう、ただひとり───光の中に消えた魔法使いを除いては。 Next Menu back