───巣立ったカワイイあんちくしょう───
───……しくしくしくしくしく……。 鬱陶しい泣き声が社の一角……つまり、わたしの部屋に響く。 彰衛門「それでね?それでね?じいやってものがありながら楓巫女ったら……!     お……おーいおいおい!おーいおいおいおい……!!」 夜華 「あ、ああ……?」 彰衛門「これが泣かずにいられます!?     じ、じいやはこれでもやさしく育てましたじゃ!     それをどこの馬の骨とも知らん……いや、知ってるけど。     と、とにかくそげな男に取られるなど……!!     うお……おーいおいおいおい!おーいおいおいおいおい!!」 彰衛門はわたしが用意した酒を一気に飲み、顔を赤くして泣いていた。 その話からするに、彰衛門は楓さまをよほど大切に思っていたらしかった。 彰衛門「聞いてる?ね、聞いてる夜華さん……!」 夜華 「え?あ、ああ……聞いているぞ」 彰衛門「じいやはね……じいやは……     楓巫女を目の中に入れたら痛みのあまりに絶叫するほど大切なのじゃよ……!     それが男なんぞに……!う、うおお……!おぉおおおお……!!」 夜華 「あ……」 なんと言ったらよいのだろう。 彰衛門はどうやら本当に泣いているらしい。 確かに楓さまに思い人が居ることはわたしも感じ取っていた。 だがそれは、てっきり彰衛門のことかと思っていたのだ。 だが、どうやら違うらしい。 彰衛門「聞いてる?ね、聞いてるの?」 夜華 「き、聞いてるとも。災難だったな……」 彰衛門「う、うう……ふぐっ……!うぉおお……おーいおいおい……!!」 夜華 「はぁ……」 だが、かれこれ一刻だ。 いい加減にしてもらえないだろうか。 彰衛門「飲んでる?ね、飲んでる?」 夜華 「え?いや……わ、わたしは下戸でな……」 彰衛門「な、なんだよ!俺と酒が飲めないってのか!?」 夜華 「いや、なにもそのようなことは」 彰衛門「じゃあ飲んでよ!俺ひとりじゃ寂しいじゃないか!」 夜華 「う、うう……」 彰衛門「う……そ、そうだよね……。     こんなメソメソ泣くようなやつとは飲めないよね……」 夜華 「や、そんなことは」 彰衛門「いやいいんだ解ってる。解ってたさ……。     所詮、夜華さんはぼくをよそ者扱いして邪魔だと思ってる。     ぼくなんか……もうこの場所に居ない方がいいんです……」 夜華 「だ、だからなにもそこまでは……」 彰衛門「じゃあ飲んでくれる!?」 夜華 「えっ!?あ、えと……あ、ああ……少しだけなら」 彰衛門「……チョロイぜ」 夜華 「うん?なにか言ったか?」 彰衛門「なにも」 言った通り、彰衛門が少しだけ注いでくれた酒を口に含んだ。 だがそれは、わたしが過去に飲んだものとは違い、水のような味だった。 いや、水よりも清らかだ。 夜華 「……美味い」 彰衛門「知ってますか?誰かと交わす杯は、どうしてか美味いものなのですよ」 夜華 「……そうか。あの時、わたしは孤独だったからな……」 残りの酒をくいっと飲み、息を吐いた。 なんだか心の中から暖かくなる気分だ。 彰衛門「……少し、付き合ってくれますか?」 彰衛門が穏やかな笑みを浮かべながら、酒を掲げる。 わたしは『ああ、こんなのも悪くないのかもしれない』と思い、 その酒を受け取ることにした。 夜華 「ぐすっ……うぐっ……ううう……!」 彰衛門「わかる……!わかるわぁ、夜華さん……!!」 夜華さんに酒を勧めて5分くらいのこと。 アタイが月清力で沈めた酒の味が気に入ったのか、夜華さんは飲みまくって酔っていた。 夜華 「だがわたしは女なのだ……!わたしでは楓さまを幸せには出来ぬ……!     何故わたしは女に生まれてきたのだ……!ああ、楓さま……!」 彰衛門「解る……!解るわぁ……!辛いのよね悲しいのよね!」 どうやら夜華さんは本気で楓のことを大切に思っているらしい。 楓のためなら『なんでもできる』というのはあながち冗談ではなさそうだ。 夜華 「……貴様……いいやつだな……!」 彰衛門「そういうお前はひどいヤツだな……!」 夜華 「悪かった……刀で切ったりして……!」 彰衛門「俺じゃなかったら本気で殺人だったからな……!」 夜華 「貴様っ……!」 彰衛門「夜華さん……っ!」 がっし! アタイたちは熱く抱き合った。 てゆうか意地でもアタイのことを『貴様』と呼ぶ夜華さん、なんとかならんかね。 夜華 「飲もう……!今日は倒れてしまうまで……!」 彰衛門「タダ酒万歳……!未成年飲酒だけで無視だ……!実年齢100以上だし……!」 ───こうしてアタイと夜華さんは、酔いつぶれるまで飲むことになりました。 やがてパタリと夜華さんが倒れた時、アタイは布団を出してやってそこに寝かせた。 彰衛門「……いろいろ気負ってて眠ってないのはお前も同じなんだろ?」 すぅすぅと寝息を立てる夜華さんの額にデコピンをしてやる。 だがもうそれくらいでは反応すらせず、俺は笑いながら月清力を流してやった。 彰衛門「二日酔いにでもなったら大変だからな」 しばらく流すと夜華さんの顔色は赤から通常の綺麗な肌色に戻り、寝息も安定した。 彰衛門「じゃあな。ゆっくり眠れよ」 もう一度笑い、俺は夜華さんの部屋をあとにした。 既に夜空になった空の下。 俺は涼しい風を浴びながら、ふと、この社の下にはなにがあるのだろうと思った。 そして階段から見下ろしてみれば─── 彰衛門「……うおう」 そこには、あの過去とは比べ物にならないくらいに長い階段があった。 い、いや、石で出来てるから石段か。 そしてあの場所にある大樹……ああ! 彰衛門「晦神社!」 そう!そうじゃないか! この石段見てハッキリ解った!! 彰衛門「あら?でも現代じゃああの大樹、もっと小さかったような……。     でも間違い無いな、ありゃあ晦神社にあったご神木だ」 声  「ご神木?」 彰衛門「ああ。セレっちが衝突してヘコんじまったが、間違いない。     ありゃあ……ギャア!?」 今更気づいて振り向くと、アタイを見上げる楓さん。 彰衛門「楓さん……いつからそこに?」 楓  「彰衛門が『神社にあったご神木』って言ったところから」 彰衛門「そ、そうか」 楓  「…………?」 彰衛門「む?どうされた」 楓  「彰衛門……お酒くさい」 彰衛門「うむ、飲んでましたからな」 楓  「うー……」 彰衛門「楓は酒、嫌いか?」 楓  「臭いが嫌い……」 彰衛門「そうかそうか。楓はまだまだ子供じゃのー」 ほぉっほっほと笑い、大樹に向かって歩き出した。 がしっ! 彰衛門「む?」 楓  「………」 楓に腕を掴まれた。 彰衛門「なんじゃね?」 楓  「わたし、もう子供じゃない」 彰衛門「ほほう」 楓  「子供じゃないの」 彰衛門「そうかね?ならば……飲む、というのかね?」 楓  「う、うん!」 彰衛門「そかそか」 アタイはちょろまかしておいた酒徳利を取り出した。 彰衛門「さ、飲みなさい」 それを小さなおちょこに注ぎ、楓に渡す。 楓  「う、うん……!」 ドキドキと緊張しているんだろう。 楓は震えながらちょこを口にもっていき、やがてチロッと舐めた。 楓  「────────────!!」 グボンッ!!!! 彰衛門「アイヤーッ!?」 一目で解るほど、爆発でもしたかのように一気に真っ赤になる楓の顔。 やがてトサ……と、アタイにもたれかかってきた 彰衛門「か、楓サン?」 楓  「あうあうあうあうあう……」 キャア、目ェ回してる。 どうやら酒には滅法弱いらしい。 彰衛門「子供決定」 ぴしっ。 楓の額にデコピンして、アタイは楓を背負った。 楓  「こどもひゃないもん……あきえもんのばか〜……」 彰衛門「呂律が回ってませんよ」 楓  「ひょんなほとないもん……」 彰衛門「………」 背中いっぱいに、小さな楓を感じている。 初めて会った時はほんとに子供で、時をめぐるにつれて成長していた楓巫女。 そして今……彼女は楓として、この世界を歩いている。 彰衛門「……なぁ、楓」 楓  「ひゃうふ……なに……?あきえもん……」 彰衛門「隆正のこと……好きか?」 楓  「………………うん」 彰衛門「……そっか」 小さく苦笑して、社に向かう。 楓  「隆正さまね……わたしを助けるために変わっちゃったから……。     でもね、その所為だけじゃなくて……     わたし、隆正さまが純粋に好きなんだって思うの……」 彰衛門「………」 楓  「ごめんね……あきえもん……」 彰衛門「……どうした?」 楓  「あきえもん、のこして……しんじゃったこと……」 彰衛門「……ああ」 楓  「ずっとあやまりたくて……あのひみたいに、いつかまたあえるかなって……     あのやしきであえたみたいに……また……あえるかなって……。     だから……わたし……がんばって……」 彰衛門「…………頑張りすぎなんだよ、お前は」 楓  「………」 彰衛門「楓?」 楓  「……すぅ……すぅ……」 彰衛門「………ったく」 眠ってしまった楓を背負い直して、俺は社の障子を開けた。 そして布団に楓を寝かせ、掛け布団をかけてやる。 彰衛門「………」 楓  「んぅ……おとうさぁん……」 額にかかった髪をどけてやり、俺はやっぱり苦笑した。 やがて部屋を出て障子を閉め───欄干を降りた。 彰衛門「………」 そして大きく息を吸い込み─── 彰衛門「うわぁあああああああああああああああっ!!!!!!」 泣きながら走った。 彰衛門「う、うぐっ……!ぐっ……ふぐぅっ……!!     おっ……ぉおおおおおおっ!!!!うぉぁあああああああっ!!!!」 大樹の傍まで走り、それを駆け上り、その頂上へ辿りついた頃─── 彰衛門「青春のっ……!青春のバッキャロォーーーーーーーッ!!!!!!」 俺は号泣しながら、娘が己の手から巣立ったことを実感した。 彰衛門「ふぐぅぉおお……!!おーいおいおいおい……おーいおいおいおい……!!」 『わたし、隆正さまが純粋に好きなんだって思うの……』 彰衛門「ひぎぃいいいいいいいいいっ!!!!」(みちみちみちみちみち……!!) 血管が激しい脈動を繰り返す。 ぞ、憎悪!?これは憎悪なの!? カワイイ娘を取られたパパンの気持ち!? 彰衛門「い、いやっ……!アタイだって隆正のことは認めてやってるさ!だが……」 『わたし、隆正さまが純粋に好きなんだって……』 彰衛門「ゲキャァーーーーッ!!!!」(ぶちっ!めちめちめちぃっ!!) 楓が!じいやのカワイイ楓巫女がじいや以外の人物を思いあんなやさしい声を!! 彰衛門「うぁああああああああっ!!!!全国のパパン!!俺、貴方方の味方だ!     狂おしいよこの気持ち!!     ゴッドハンドインパクトで相手を屠りてぇくらいじゃわぁああっ!!!     だってだって!楓巫女!楓巫女が!     アタイにあれだけ懐いてた楓巫女がぁああああああっ!!!!」 『わたし、隆正さまが純粋に好きなんだって思うの……』 彰衛門「イ、イヤァアアアーーーーーーーッ!!!!!!」 か、母さん……!アタイ……彼女が子供で、楓巫女だった世界が大好きでした……! 彰衛門「ばっきゃ……ばっきゃろ……!青春の……ふぐっ……!うぐぅう……!     うぇえええ……!ばっきゃろぉぉ……!!     ばっ……馬鹿ーッ!タコーッ!ドテカボチャーッ!!     青春なんか大ッ嫌いじゃボケェーーーッ!!!!     お前なんか嫌いだぁーーっ!!うわぁああああああああああっ!!!!!」 俺は泣いた……。 全国の娘大好きお父さんと大宴会が出来る自信を持ちながら、本気で泣いた……。 ───やがて朝日がその世界を照らす頃。 俺はこの時代で隆正を探し出し、一発殴って娘を任せることを決意した。 ……正直、殴り過ぎるかもしれん。 ───……。 彰衛門「……結局一睡もしなかったなぁ……」 小鳥が囀る朝の景色の中で、俺は溜め息を風に流した。 彰衛門「………」 『わたし、隆正さまが純粋に好きなんだって思うの……』 彰衛門「……フッ……楓巫女……。父さん、とっても楽しかったよ……」 俺はきっと、あの無邪気な笑顔を忘れないだろう。 あの、俺だけに向けられた笑顔を忘れないだろう。 彰衛門「でも父さんもいい加減、子離れしなきゃいけないんだよね……」 ぽたっ……。 彰衛門「あ……いけないなぁ……涙が……。あれだけ泣いたのに……」 『あきえもん、だ〜いすき♪』 彰衛門「っ……!ぐっ……ふぐぅっ……!」 ぽたっ……ぽたたっ……。 彰衛門「あの頃に帰りたい……あの頃に……」 早朝の陽射しを浴びるまで泣き明かしたアタイは、えらく後ろ向きだった。 彰衛門「というわけでさ」 夜華 「なんだ?」 朝本番。 アタイは起きてきた夜華さんに声をかけ、大樹のてっぺんまで連れてきた。 楓には聞かれたくないことだからだ。 彰衛門「楓が気に掛けてそうな男、この下の村に居ないか?」 夜華 「楓さまが気にかけておられる男……ふむ、居るぞ」 彰衛門「なんと!それは誰ぞね!!」 夜華 「ああ、確か霞吹鮠鷹(かすみぶき はやたか)という者だ」 彰衛門「そやつは下の村に居るのじゃね!?」 夜華 「あ、あ……ああ。剣術道場の師範をしているが───それがどうかしたのか?」 彰衛門「………」 ポム、と夜華さんの肩に手を置いた。 彰衛門「俺が殺っちまったら……あとは頼んだ」 夜華 「な、なに?おい、やるってなにを」 彰衛門「さらばじゃ!」 アタイは夜華さんにそう告げて、大樹から飛び降りた。 夜華 「わっ!ま、待ってくれぇーーーっ!     わたっ……わたしは高いところはダメなんだあーーーーっ!!」 ……最後にそんな声を聞いたが、立ち止まろうとは思えんかったので無視。 ───さて、道場はあっさり見つかりました。 そして隆正に激似の男も発見。 鮠鷹って呼ばれてたから間違いねぇ。 だけどここでいきなり入るのは気が引けますでしょう?奥さん。 そんな時こそこれ! 彰衛門「彰利七つ道具の四、変装道具〜♪」 フルフェイスのマスクに黒づくめのマント。 彰衛門「うむ、最強」 てゆうかこの時代の前の時代で見張りさんからかっぱらったヤツですが。 彰衛門「ぬ……でもこれじゃあ隆正にはバレるかもしれんな」 ではこれに工夫をこらして……適当な飾りもつけて……うむ! あとは、これを着て…… 子供 「おっかあ、あそこに変なヤツがいる〜」 母  「目を合わせるんじゃありません!」 ………… なんてゆうか……江戸に来てまでこの言葉を聞くとは思わなかったなぁ……。 彰衛門「さあ、もう変態だとか言われようがどうでもいい。     アタイにはもう失うものなどないのだっ……!!」 黒服に身を包み、意を決してアタイは道場の門をくぐった。 彰衛門「たのもぉーーーっ!!」 道場破り風ならやっぱこれでしょう。 門下生「なんだお前は」 彰衛門「道場破りじゃあーーっ!!」 門下生「なにっ!?」 彰衛門「わしの名は獄郷地文左衛門(ごくごうじ ぶんざえもん)!!     ここの看板を頂きにきたわぁーーっ!!」 門下生「貴様!正気か!?ここには剣聖・霞吹鮠鷹さまが居るのだぞ!」 彰衛門「正気じゃあーーーっ!!とっととかかってこぉーーーいっ!!」 わざわざ掠れた声で演出しています。 なるべくゴツく聞こえるように。 門下生「し、師範!どうしましょう!」 鮠鷹 「構わぬ。相手をしてやれ」 門下生「はいっ!」 門下生のひとりが木刀を持って目の前に立つ。 彰衛門「なんじゃあ〜?剣術とかぬかしながら木刀かぁ〜?」 鮠鷹 「うむ。真剣は人に怠慢をもたらす。     木刀や竹刀であればこそ、真に鍛錬できるというもの」 彰衛門「ほほぉ〜う?そんじゃあわしも木刀じゃあ!」 アタイは木刀を抜き取る際に月然力を流し込み、木刀を黒く染めた。 彰衛門「さあ!準備はええぞぉーーっ!!」 門下生「師範!開始の合図を!」 鮠鷹 「うむ。この戦、膝をつくか、降参するかの勝負とする!いざ!尋常に勝負!」 鮠鷹が開始の合図を言い放つ。 門下生「ケェエエイッ!!」 それとともに門下生は気合を入れるように雄叫び。 アタイは適当に構えるだけだ。 だってねぇ、鮠鷹以外に興味無いし。 門下生「なんだその構えは……まるで素人ではないか!」 彰衛門「俺はもともと無頼でね。流派になんか染まらなくても強ぇえのよ」 門下生「ほざけっ!チェェエエリァアアアッ!!!」 門下生、乾坤一擲の一撃! だが脇腹がガラ空きですじゃ! 彰衛門「ひとつッ!」 どぼっ! 門下生「ぐはっ!」 彰衛門「ふたつッ!!」 ドパァンッ! 門下生「がはぁっ!」 彰衛門「みぃっつッ!!」 ボゴォッ!! 門下生「ぎゃあっ!」 彰衛門「猪鹿蝶!!」 門下生、あっさりと転倒。 彰衛門「オラ……次だ」 アタイは挑発するように人差し指をチョイチョイと揺らした。 門下生「お、おのれ!東寺を破ったからといって図に乗るな!次は私だ!」 門下生2の登場。 鮠鷹 「いざ……」 彰衛門「あ〜、そこのお前」 鮠鷹 「なんだ?」 彰衛門「戦に開始の合図などありはしない。     立ち上がり、向き合った時が戦だ。……解るな?」 鮠鷹 「……ふふっ、面白い男だ。     ではこれより無差別方式に変更する!各自、好きなように戦え!」 彰衛門「フフフ、そうこなくちゃ」 アタイは木刀を肩に当て、トントンと数回弾ませた。 門下生「では参る!キェエエストォオオオッ!!」 彰衛門「ひょいとな」 ガツッ! 真上から振るわれた木刀を軽くよける。 そしてガラ空きの脇へと間合いを詰め─── 彰衛門「とぁあっ!!」 ドゴビスバキベキガスドシュゴスドボドパァアアンッ!!! 門下生「ぐあぁあああっ!!」 目にも留まらぬ剣舞をキメた。 彰衛門「ふう、ドラゴンマスターも夢じゃねぇ」 木刀を揺らしながら、座っている門下生を睨む。 彰衛門「どうした?もう終わりか?」 門下生どもはアタイの木刀さばきに怯えている。 だが。 門下生「い、戦に乱争はつきもの……師範!多勢での戦も許されますね!?」 鮠鷹 「なに!?馬鹿者!多勢での戦は油断を生むとあれほど───」 門下生「うおおおおおおおおっ!!!!」 ひとりの門下生に続き、他の門下生も襲ってくる。 彰衛門「アホゥが……」 どうやら鮠鷹の教えを真に受けとめているヤツは居ないようだな。 ここは喝を入れてやらねば。 彰衛門「交わらざりし生命に───」 アタイは倒した門下生の木刀を逆手に持ち、両手に木刀を構えた。 彰衛門「今もたらされん刹那の奇跡っ!」 四方から襲いかかる門下生の攻撃をいなし、軽く突ついて怒らせる。 彰衛門「時を経て───ここに融合せし未来への胎動!!」 それから大きく跳び、道場の角に降り立つ。 門下生「馬鹿め!そこでは逃げられまい!!」 予想通り、馬鹿な門下生達はその角を目掛けて走ってくる。 彰衛門「義聖剣!!」 その先頭に立つ男に木刀を振り下ろす。 その際、『月聖力・標的固定式モード:アタイが憎いヤツ』を床に流し込む。 ドカァンッ!! 門下生「くっ!おのれ!───な、なに!?足が動かん!」 彰衛門「───僕は……過去を断ち切る」 動けない馬鹿者どもを目の前に、木刀に眩いばかりの光を込める。 彰衛門「散れッ!真神煉獄刹!!」 下から振るう初撃で門下生どもを浮かし、 その隙に高速移動と突進力を応用した突きを食らわした。 ……結果、門下生どもは吹っ飛び、壁にブチ当たって気絶。 彰衛門「さーあ、最後はお前だ」 鮠鷹 「……馬鹿者どもめが。あれほど多勢を選ぶなと言ったのに……」 言いながらも道場の中心に立ち、アタイに向けて礼をした。 目の前で門下生がやられたってのに冷静だ。 ……気に入った、絶対殴る。 鮠鷹 「そなたの剣術、見せてもらった。     確かに無頼のようだが、無頼ゆえに現れる隙とやらもある」 彰衛門「そりゃそうだ。隙のねぇ流派なんてのはどこ探したってありゃしないよ」 鮠鷹 「違いない、同意見だ。このように───」 シュパァン! 彰衛門「ひゅう♪」 鮠鷹 「ふふ……っ」 アタイの頬が切れ、血が出た。 よほど鍛錬を積み重ねたらしい。 剣聖とやらの肩書きも伊達じゃないってか。 だが…… 鮠鷹 「なっ……」 彰衛門「気づいてたか?」 鮠鷹の頬からも血が流れる。 鮠鷹が『攻撃』に神経を研ぎ澄ませた瞬間、アタイが貫いたものだ。 鮠鷹 「ふふふ……久しぶりに楽しい戦いになりそうだ」 彰衛門「自惚れで負ける、なんてことが無いようにしてくれよ?」 鮠鷹 「委細承知。自惚れた状況で勝てる相手ではないことは今ので解った」 鮠鷹が、とっていた構えを変える。 おそらく、これが本気の構えなんだろう。 鮠鷹 「光技身刀流、霞吹鮠鷹───参る!」 彰衛門「轟天弦月流、髑髏村堂壱(どくろむら どういち)、参る!」 鮠鷹 「なにっ!?貴様獄郷地では」 彰衛門「隙ありゃぁあああああっ!!!!」 スパァンッ!! 鮠鷹 「かはっ……!」 彰衛門「キャアアお馬鹿さん!戦の最中に雑念を秘めるなんて!」 鮠鷹 「ぐっ……ふ、不覚……!!」 ガクッ、と膝を着く鮠鷹。 そんな彼に 彰衛門「おがませてやるぜ……極道モンの……喧嘩意地!!」 アタイは木刀を仕舞い、大きく振りかぶり───ドッパァアアアンッ!! 鮠鷹 「ぐはああああああああああっ!!!!!」 鮠鷹をアッパーカットで吹き飛ばした。 喧嘩意地(ゴロメンツ)万歳です。 鮠鷹 「ぐ、がはっ……!き、貴様……!既に勝負はついた筈……!」 彰衛門「………」 『わたし、隆正さまが純粋に好きなんだって思うの……』 彰衛門「ふ……」 ふは…… 彰衛門「ふはははははは!!」 鮠鷹 「くぅ……っ!?」 彰衛門「彰利パーーンチ!!」 ボグシャッ! 鮠鷹 「ぐはっ!?」 彰衛門「彰利パァーーンチ!!」 ぱぐしゃあっ! 鮠鷹 「ぶはっ!」 彰衛門「彰利パァァアアアンチ!!!」 ボゴシャアッ!! 鮠鷹 「ごふぁっ!」 彰衛門「パンチパァーンチ!!びんたパーンチ!しっぺパーンチ!!」 ドゴボシャア!バチィーン!ボゴシャア!!ベチィッ!ボゴォッ!! 鮠鷹 「げ……ふ……」 ドシャア。 鮠鷹が倒れた。 彰衛門「ふーっ……ふー……!ふっ……ふーーーっ!ふーーーっ!」 ……やべぇ、やりすぎたかも。 でも我慢が効きませんでした。 鮠鷹 「お、おのれ貴様……!なんの恨みがあって……!」 彰衛門「恨み……?恨みですと……!?」 鮠鷹 「勝負はついていたというのに……!武士の風上にも置けぬやつ……!」 彰衛門「恨み……───恨み!!」 『わたし、隆正さまが純粋に好きなんだって思うの……』 彰衛門「ヘキャアアーーーッ!!!」 鮠鷹 「なっ……!?」 彰衛門「彰利パーーンチ!!」 ボグシャッ! 鮠鷹 「ぐはっ!?」 彰衛門「彰利パァーーンチ!!」 ぱぐしゃあっ! 鮠鷹 「ぶはっ!」 彰衛門「彰利パァァアアアンチ!!!」 ボゴシャアッ!! 鮠鷹 「ごふぁっ!」 彰衛門「パンチパァーンチ!!びんたパーンチ!しっぺパーンチ!!」 ドゴボシャア!バチィーン!ボゴシャア!!ベチィッ!ボゴォッ!! 鮠鷹 「………」 ゴトッ。 鮠鷹が力無く沈み、動かなくなった。 彰衛門「……ややっ!?」 しまったやりすぎた! 間違い無くやりすぎた! 彰衛門「グウウ……!」 ここはひとつ、回復させてから適当に繕いますか。 アタイは耳からドス黒い汁を流している鮠鷹に触れ、月生力を流し込んだ。 鮠鷹 「き、貴様……おのれ……」 しばらくすると復活しました。 あとは自動的に回復するように、慈しみの調べでも植え込んでおきましょう。 彰衛門「娘を……任せたぞ。義息子よ……」 鮠鷹 「なに……!?どういう意味だ!」 彰衛門「さらばじゃあああーーーーっ!」 鮠鷹 「ま、待て貴様!貴様のような得体の知れぬ男の娘など任されるか!     ふざけるのも大概に───」 彰衛門「………」 鮠鷹 「……な、なに……?」 エタイノシレナイ……『娘ナド』……? 鮠鷹 「な、なんだ?」 彰衛門「………」(ニッコリ) 鮠鷹 「な……」 彰衛門「彰利パーーンチ!!」 ボグシャッ! 鮠鷹 「ごふっ!?」 彰衛門「彰利パァーーンチ!!」 ぱぐしゃあっ! 鮠鷹 「ぐああっ!」 彰衛門「彰利パァァアアアンチ!!!」 ボゴシャアッ!! 鮠鷹 「ごほっ……!!」 彰衛門「パンチパァーンチ!!びんたパーンチ!しっぺパーンチ!!」     キックびんたしっぺパンチしっぺしっぺパンチびんたパァーーーンチ!!」 ドゴボシャア!バチィーン!ボゴシャア!!ベチィッ!ボゴォッ!! ドゴベキボゴベゴガンゴシャベキボキゴシャアアアアアッ!!!! 彰衛門「びんたびんたパンチびんたしっぺパンチパンチしっぺパーンチ!!     パンチパァーンチ!!びんたパーンチ!しっぺパーンチ!しっぺー!!」 バァンパァンボゴシャバァンビシャアボゴドゴピシャアボゴシャア!! ボゴキャベゴキャズパァンボゴシャアベシィンボゴシャアピッシャアアアアン!! 彰衛門「びんたびんたびんたびんたびんたびんたびんたびんたァーーーッ!!!!」 ズパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパァアアアアアアン!!!!! 彰衛門「───ハッ!?」 で、気づけばピクリとも動かない鮠鷹さん。 彰衛門「アイヤーッ!?」 俺は本気で慌てて月生力を全力で流し込んだ。 すると、みるみる内に生気が戻ってゆく。 鮠鷹 「う……げほっ!げほっ!」 彰衛門「咳込むでない!」 鮠鷹 「なにを無茶なことを……!     き、貴様が散々殴った所為で口の中が切れて……ゲホッ!ゴハァッ!!」 彰衛門「とにかく命が惜しかったら余計なことは喋るでない!マジで!」 鮠鷹 「はぁっ……はぁっ……」 ───しばらくすると、完全に近いほど回復した。 俺はそんな鮠鷹の肩をポムと叩き、もう一度。 彰衛門「娘を頼んだぞ、義息子よ……」 鮠鷹 「またか……貴様、何が言いたい……」 彰衛門「やかましいわ!さらばじゃあああああーーーーっ!!!!!」 鮠鷹 「なっ……おい!」 鮠鷹が感づく前に逃走。 これでいいんだ……これで……。 彰衛門「うぐっ……ぐ、ぐおお……ぬわぁあああああーーーーーーーーっ!!!!」 でも……涙が出ちゃう。 大切な娘ですもの! ザカザカザカザカ……!!ズシャア! 彰衛門「はあ……はあ……」 夜華 「あ、きっ……貴様!今まで何処に居たんだ!わ、わたしは高いところは───」 彰衛門「夜華ちゃん!」 夜華 「なっ!?な、なんだ……?というか『ちゃん』はやめろ、なんだか恥ずかしい」 彰衛門「これで……これで良かったのよね……?」 夜華 「な、なにがだ?……お前、泣いてるのか?」 彰衛門「馬鹿とはなんだコノヤロウ!」 夜華 「馬鹿だなんて言ってないだろう!」 知らず知らずのうちに流れる涙。 わしゃあ……わしゃあ……いま、とっても悲しいとです……。 彰衛門「大切な人を……ある男に託してきたんじゃ……」 夜華 「なに?」 彰衛門「そのコはとてもいい子でのぅ……。     じゃが……所詮育ての親より男なのじゃよ……。     ワシはそれが悲しゅうて……。     じゃがの、ワシはその男に任せてみることにしたんじゃ……。     他の誰でもない、あのコが信じた男なんじゃけぇのぅ……」 夜華 「………」 彰衛門「ああ、ワシは幸せじゃった……。あげないいコ、他にはおらん……。     そんなコの育て親になれたんじゃ……男冥利につきるというものよのぅ……」 夜華 「貴様……」 彰衛門「じゃが……じゃがの……?     涙が止まらぬのじゃ……。止まってくれぬのじゃよ……」 夜華 「……っ」 ぐいっ。 彰衛門「……夜華さん?」 夜華 「泣け。今だけなら、わたしが胸を貸してやる」 彰衛門「ウェッヘッヘ、それではお言葉に甘えて……」 スリスリムニムニュ……。 夜華 「ぞわゎぁあああああああああっ!!!!」 ぱぐしゃあっ!! 彰衛門「ギャア!?な、なにをなさる!」 夜華 「そ、それはこちらの台詞だぁっ!!きき、貴様!わたしの胸を……!」 彰衛門「武士でしょう!我慢なさい!」 夜華 「出来るかぁっ!!貴様、やはり斬る!!」 彰衛門「キャーアアアアア!?」 例のごとく顔を真っ赤にした夜華さんが刀を振り回しザクザクドシュズバザシャア! ズルッ! 彰衛門「ややっ!?」 夜華 「あっ───?」 バランスを崩した夜華さん。 そりゃあ大樹の頂上だなんてところで暴れれば落ちるのも無理はない。 夜華 「わっ……うわぁあああああああっ!!!!」 彰衛門「夜華さぁーーんっ!!」 アタイはそれを追うようにして勢いをつけて飛び降りた。 そして夜華さんを抱き締め、衝撃に備える。 夜華 「お、お前……」 彰衛門「喋るな!舌を噛むぞ!」 夜華 「───!」 夜華さんが体を強張らせるのが解った。 だがアタイは冷静に月然力・風を───ズキッ! 彰衛門「ぐはっ!?……アイヤー!?シマターッ!!」 道場で月操力使いすぎた! 義憐精霊斬は無駄にいろいろな月操力消耗するうえに、 鮠鷹殴り過ぎて回復ばっかりしたもんだから───ギャアアアアア!!!! ドグシャアアアアッ!!!!ゴキッ─── 彰衛門「ぐっはっ……!い、ぐっ……!がぁああああああああっ!!!」 なんとか夜華さんは庇ったが、 月生力でダメージ軽減の出来ない今の俺に、この衝撃は……! 夜華 「き、貴様……大丈夫か!?おい───」 ズキィッ! 彰衛門「アウチーーッ!!」 夜華 「なっ……貴様、腕が折れて……!」 彰衛門「フフフ、ど、どうやら肋骨が折れて肺に刺さったようだ……」 夜華 「そんな!わたしを助けるために……!」 彰衛門「ウソですじゃ」 夜華 「っ……!こ、こんな時にまで冗談を言ってなにになるのだ!!     馬鹿だ貴様は!わたしは、わたしはお前を斬ったのだぞ!?     それなのに……何故わたしを庇った!答えろ!!」 彰衛門「あ、あとを……た、頼んだ……」 ……コトッ。 夜華 「お、おい……貴様?おい……!なんとか言え!おいぃっ!!」 彰衛門「俺を不老不死にしろーーーーっ!!!!」 ぱぐしゃあ! 彰衛門「ギャア!」 ……ゴトッ。 夜華 「へ?あ、し、しまった!つい条件反射が!!き、貴様!?おい貴様!!」 こうして、アタイの意識は夜華さんの血も涙も無い一撃で混沌の渦へと飲まれた。 それでもアタイを貴様と呼ぶ夜華さんに親指を立てながら。 ナイス……ナイスよ夜華さん……ぐふっ。 Next Menu back