───彰衛門保管計画───
彰衛門「もお我慢できねぇなぁ〜!」 ゴリゴリ……シャリ、シャリシャリ……。 身心ともにすっかり壮健なアタイは、とうとう我慢できずに食らった。 それというのも、夜華さんに殴られてから気絶し、それ以降が大変だったからだ。 時はまあまあ遡るんだが─── ───夜華さんの彰衛門保管計画─── 夜華 「楓さまぁっ!」 楓  「夜華……?どうしたの?」 夜華 「あいつ……いえ、彰衛門のやつがわたしを庇って骨を折ってしまって……!」 楓  「え───!?そんな!」 夜華 「無礼を承知でお願い致します!あいつを……彰衛門を癒してください!」 楓  「当たり前です!それで、彰衛門はどこに!?」 夜華 「あちらに───はっ!?」 わたしは大樹の方角へ振り向いた。 が、そこで倒れていた筈の彰衛門の姿は無く─── 夜華 「あ、あの馬鹿者め!あの体で何処へ!」 楓  「夜華、すぐに彰衛門を探して!手遅れにならないうちに───早く!」 夜華 「承知しています!では!」 わたしは楓さまの言葉を聞くまでもなく、社の外へと駆け出していた。 彰衛門「グ、ウウ……月明かり……月光浴さえできればこのような傷……!」 彰衛門は社の裏を壁伝いにして歩いていた。 その様子から、体がズタズタなのは確認を取るまでも無い。 夜華 「あ、彰衛門!」 彰衛門「むう!?」 夜華 「貴様なにをしているのだ!動くなとあれほど言っただろう!」 彰衛門「るぅうううぅうぇぇえううぅうぉおおぁあぇえええぅうう…………!!」 わたしが呼びかけると、彰衛門は突然うめき声をあげ、地面をバンバンと叩いた。 その途端! 夜華 「───!?な、か、体が動かない……!?」 彰衛門「だぁ〜……」 夜華 「彰衛門……!?」 彰衛門「だぁ〜っ!」 奇妙な、ひっくり返った声をあげると……彰衛門は転がりながら視界から消えた。 夜華 「おのれっ……!これしきでわたしを抑えられると思うかっ!!」 気合を込めると金縛りのような状態はすぐに解け、わたしは彰衛門を追うことが出来た。 夜華 「待て!彰衛門!」 彰衛門「だぁ〜……?」 夜華 「貴様は治療をしなければ助からん状態にあるのだぞ!それなのに何故逃げる!」 彰衛門「だぁ〜っ!」 夜華 「ふざけていないで答えろ!」 彰衛門「何を申されるか!     人がせっかく『妖怪・腐れ外道』の真似をしてやってるのに!     うっ……ゲホ!ゴホッ!」 よく解らない講義をした彰衛門は突然咳き込むと、血を吐いた。 夜華 「なっ……なにをしているのだ!来い!楓さまなら貴様を救えるのだ!」 彰衛門「だめだ!」 彰衛門は、彰衛門の手をとったわたしの手を払った。 夜華 「なっ……」 彰衛門「これはな……ケジメなんだよ……。     自身の高ぶりのために娘の好きなヤツを殴った俺に対する……!」 夜華 「なにを言っているのだ!お前の言うことはいちいち解らないのだ!」 彰衛門「解らなくていい……。ただ、俺を楓のもとには連れていくな……!」 夜華 「馬鹿な!死ぬ気か貴様!」 彰衛門「『死』って言葉……使うなって……言っただろ……ばかが」 ドサッ。 夜華 「彰衛門!?おい、彰衛門!」 彰衛門「やかぁしぃ……耳元で騒ぐな……」 夜華 「…………!お、おい彰衛門」 彰衛門「なんじゃい……」 夜華 「楓さまのもとへ連れなければいいのだな?」 彰衛門「だからって楓を連れてきたら……シメますよ?」 夜華 「そのようなことはせん!わたしがお前を診てやる!」 彰衛門「な、なんと!馬鹿を言っちゃいかん!     ワシはまだまだ貴様のような若いモンに世話になるほど老いては」 ギュウッ!! 彰衛門「アウチーーーッ!!」 夜華 「世話をさせてくれ……。せめてもの償いだ……」 彰衛門「だ、だったら折れた腕からその手をどけて……!それでチャラに」 ギュウウウッ!! 彰衛門「アウアウアウチィーーーーーッ!!!!」 夜華 「世話を!させてくれ!」 彰衛門「……ご、ごめんなさい……俺が悪かったです……手、どけて……」 夜華 「………」 泣きながら懇願する彰衛門の腕をゆっくりと離す。 どうやら解ってくれたらし 彰衛門「とんずらぁーーーーっ!!!」 がしぃっ!! 彰衛門「ウギャアアアアーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」 夜華 「はっ!?す、すまん!!急に逃げ出すからつい……!」 逃げ出した瞬間、折れた腕をとっさに強く掴んでしまった。 彰衛門は散々悶絶したのち、ピクピクと動かなくなっていった。 夜華 「くっ……!」 わたしはその様子を危険な状態と判断し、自分の部屋に彰衛門を運ぶことにした。 夜華 「……ひどいな」 自分の部屋に彰衛門を連れたわたしは、傷の治療のために衣服を脱がせた。 だが、そこにあるのは恐ろしい数の傷だった。 夜華 「……この男はいったい、どういう生き方をしてきたのだ……」 体の至るところに傷があり、つい目を逸らしてしまう。 だがいつまでもそうしているわけにもいかず、わたしは薬を傷に塗っていった。 彰衛門「かぐっ!ぐあぁあああああああっ!!!!!」 夜華 「彰衛門!?」 彰衛門「ぐっ……ぐううう……!!かっ……!な、なにやってんだよ……!」 夜華 「傷の手当てだ!騒ぐな!男だろう!」 彰衛門「くはっ……馬鹿……!これはどうやっても治らねぇ傷なんだよ……!ん……!」 彰衛門が目を閉じて何かを念じると、その傷が消えてゆく。 夜華 「なに……!?これは……」 彰衛門「普段は能力で見えなくしてるんだ……。     能力でも治らない傷が、薬で治るわけがないだろう……」 夜華 「馬鹿な……!どうすればこんな傷が……!」 彰衛門「……子供の頃、父親につけられたものだ。     悠介ほどじゃないが、俺も親に散々殴られた。     恨みってのは案外、心の奥底に眠るもんでね。     その恨みが消えないかぎり、雑念がある限り……この傷は消えやしないのさ。     そういう意味では……     悠介は記憶を封印してもらって正解だったのかもしれないな」 夜華 「なにを言っているのだ……さっぱり解らんぞ……」 彰衛門「気にするなってことだよ。もういいだろ?」 そう言って、彰衛門は布団から起き上がった。 夜華 「なっ……いいわけがあるか!折れた腕にも添え木くらいはつけねば治らんぞ!」 彰衛門「そげなこと言われても」 夜華 「いいから黙れ!……やらせてくれ、頼む……」 彰衛門「だめじゃ」 夜華 「〜〜〜〜っ……!!貴様は!どうしてそう話の腰を折るのだ!!」 彰衛門「知らん!自分で考え」 ギュムッ!! 彰衛門「アウチィーーーーッ!!!!!」 夜華 「腕に添え木をする!いいな!?」 彰衛門「は、はい!」 彰衛門の返事を聞くや否や、わたしは程よい添え木を探しに外へ出た。 そして戻ってきてみれば─── 夜華 「あ、あの馬鹿者ォオオオッ!!!」 彰衛門は再び姿を消していた。 夜華 「今度という今度は許さん!痛めつけてでも大人しくさせてくれる!」 そしてわたしは社の外へ飛び出し、───居た!! 夜華 「彰衛門!貴様!」 彰衛門「アイヤーッ!?シマターッ!!」 彰衛門は腕をだらしなく下ろし、ヒョコヒョコと逃げる。 あのような体でどうしようというのだ! 夜華 「彰衛門!貴様」 ガボォンッ!! 夜華 「きゃぁああっ!?」 突然視界が暗くなり、妙な落下感を感じ、やがてお尻に衝撃。 彰衛門「キャアアひっかかった!落とし穴ですよ馬鹿め!     逃げたアタイが未だにこんなところでモタついてるわけがないでしょう!」 夜華 「ぐっ……お、おのれぇええええええええっ!!!!!」 彰衛門「『きゃぁああ』ですよ『きゃぁああ』!!     いや〜、カワイイ声でした!ごっつぁんです!」 夜華 「貴様このっ……!!」 わたしは急いで穴から這い上がり、彰衛門を睨んだ。 彰衛門「キャア!立ち直り早ェ!」 夜華 「もはや逃げられまい!大人しくしろ!」 彰衛門「ぐっ……!くそう覚えてろよ!ママに言いつけてやる〜!」 それでも彰衛門は逃げ出した。 わたしはその、ヒョコヒョコと走る姿に怒りを覚え、急いで連れ戻すことにズルッ。 夜華 「うわぁっ!?」 彰衛門「ややっ!?」 走ろうとした瞬間、わたしは躓いてしまった。 だがこれで逃げられてしまうのは悔しくて、わたしは手を伸ばし───ズルルッ! 夜華 「はっ───!!」 彰衛門「キャッ……キャアアアーーーーッ!!!!」 手伸ばし……あ、彰衛門の衣服を…… 彰衛門「イヤァー!アタイのウェポンがぁーーッ!!」 夜華 「きっ……きゃあぁあああああああああああっ!!!!!!!」 視界が真っ白になるのと同時に、わたしの拳が何かを殴る感触。 それはおそらく彰衛門を殴ってしまったのだろうと確認しながら、 わたしは気を失ったのだった。 目を覚ましたわたしは、気絶している彰衛門を慌てて部屋の中へ連れ戻した。 そして腕に添え木を縛り、ただ様子を見る。 気絶している所為なのか、傷はやはり浮き出ていた。 痛々しいほどの傷。 診ているこちらまでもが痛みを感じてしまう。 彰衛門「う、むむ……む、むおお……」 彰衛門がわざとらしい声を出して目覚める。 夜華 「目が覚めたのか?」 彰衛門「う、うむ……。しかしなんだね?さっきの拳はいただけませんよ?」 夜華 「す、すまない……」 彰衛門「まったく男性経験豊富なくせになんですか、     人のウェポン勝手に見た上に人のテンプルを殴るなんて」 夜華 「うぇぽん?なんだそれは」 彰衛門「………」 夜華 「うん?」 彰衛門「…………」(ボソリ) 夜華 「くかっ……!うがが……!!」 彰衛門「……の、こと」 夜華 「き、貴様ぁあっ!!」 彰衛門「落ちつきなさ───ぐっ!?」 夜華 「!あ、だ、大丈夫か!?」 彰衛門「ん?ああ……まあ、なんとか。それよりさ、なんか無い?腹減ったよ」 夜華 「腹か。解った、なにかを見繕ってこよう」 その場を立ち、わたしは食事を用意することにする。 夜華 「あまり動くなよ。体に障る」 やがて障子を閉め、その場を離れた。 ─── 彰衛門「クォックォックォッ……ばかめ、動くなと言われて動かぬ者などおらぬよ……」 ……ズズッ。 彰衛門「あれ?」 ズ、ズズッ。 彰衛門「アレレーッ!?体が縛られてますよ!?どうしてーッ!?」 夜華 「さあ食事だ」 わたしは用意した粥を、彰衛門の口に運んでいた。 彰衛門「あのー、ほどいてくれたら食べれますよ?」 夜華 「だめだ。貴様は逃げる」 彰衛門「逃げませんから」 夜華 「だめだ」 彰衛門「う、うう……」 彰衛門は観念するか、という感じでおずおずと口を開けた。 失礼なヤツだ。 人がせっかく食べさせてやろうとしているというのに。 彰衛門「!」 が、ハッとした彰衛門はしきりに粥に息を吹き掛ける。 よく解らないが、 なんとなく食事から逃げているように感じたので無理矢理食べさせることにした。 がぼっ。 彰衛門「オギャアアアアアアアーーッ!!!!」 夜華 「うわっ!?」 しかし彰衛門は突然暴れ出した。 彰衛門「おあじゅっ!あじゅっ!あじゅじゅじゅっ!!」 そして粥を吐いてしまう。 夜華 「あ、き、貴様!わたしの粥が不味いとでも言うのか!」 彰衛門「やかましゃあああああ!殺す気ですかアータ!口内が火傷満載ですよ!?」 夜華 「なに?そんなことはない!粥はもうぬるいくらいだぞ!」 そう言ってわたしは粥を口に含んでみせた。 ……うん、全然ぬるい。 彰衛門「ゲェーッ!?口内江戸っ子症候群!?」 夜華 「なにをわけの解らぬことを!さあ食え!」 彰衛門「い、いやっ……イヤァアアーーーッ!!助けてダァーリィーーーンッ!!」 ……彰衛門は体調が悪いのか、粥を全く食べてはくれなかった。 彰衛門「いぐっ……ひっく……うぇええ……お粥コワイ……コワイよぅ……」 どういうわけか口周りを真っ赤に腫らし、彰衛門は泣いている。 夜華 「彰衛門……わたしの作った粥は口に合わないか……?」 彰衛門「そういう問題じゃねぇわい!もういいからコレ解いておくれ!」 夜華 「……それは出来ない。貴様がそんな体になったのもわたしの責任だ……」 彰衛門「うぐぐ……状況が状況なら大胆発言にも聞こえそうな言葉なのに、     全然喜べないのはなぜでしょうねぇ……」 彰衛門はゴニョゴニョと言葉を放ったかが、わたしにはよく聞こえなかった。 そこでふと思い立ち、彰衛門に何かわたしに出来ることがないかと聞くことにした。 夜華 「……な、なぁ彰衛門。なにかしてほしいことはあるか?」 彰衛門「縄、解いて」 夜華 「だめだ」 彰衛門「…………なんか俺、『だめだ』って言葉に縁でもあるんかねぇ……」 夜華 「なんのことだ?」 彰衛門「なんでもないよ。果物でいいから何かおくれでないかい?」 夜華 「果物か……だが、また食べてくれないのではないか?」 彰衛門「食いますよ!果物なら!」 夜華 「そ、そうか!待っていろ、すぐに作ってくる!」 わたしはその場に立ち、すぐに部屋を出ていった。 彰衛門「……作って……くる?」 彰衛門「イヤァアーッ!イヤッ!イヤァアアアアアッ!!」 夜華 「食べろ!貴様が果物なら食えるというから作ったのだぞ!」 わたしは果実を使った薬膳料理を彰衛門に奨めていた。 だが、彰衛門は一向に食べようとはしない。 夜華 「食べろというのに!」 がぼっ! 彰衛門「あじゅらぁあああああああああああっ!!!!げほっ!ギャアア!!」 夜華 「あっ……何故吐く!」 彰衛門「やかましゃあああああっ!!」 夜華 「くっ……わたしの料理は不味いのか……!?貴様の口には合わないのか……!」 彰衛門「そういう問題じゃねィェーッ!!     食わせたいならその灼熱地獄をなんとかしろ馬鹿!!」 夜華 「灼熱?なにを馬鹿な!この料理はもうぬるいくらいだ!」 彰衛門「アータの耐熱度量を基準にしないで!お願い!」 夜華 「黙れ!しのごの言わずに食わんかぁああっ!!」 彰衛門「ギャアアアア!!」 無理矢理食べさせようとしたが、やはり彰衛門は吐いてしまった。 彰衛門「うぐっ……ひっく……果物コワイ……果物コワイィ……」 どうやらわたしの料理の腕が悪いのかもしれない。 いや、わたしの味覚が彰衛門の味覚とは大きく違うのだろう。 夜華 「………!」 そう考えていたら、苛々してきた。 夜華 「……もういい」 彰衛門「なぬ?」 夜華 「もう知らん!お前が食いたいと言うから作ったのに!     そこで腹でも空かせていろ!」 彰衛門「放置プレイ!?」 わたしは叫ぶ彰衛門を無視し、部屋から出ていった。 彰衛門「………」 ぐきゅ〜…… 彰衛門「おっ腹っと背っ中が……くっつくぞ♪」 ぐぎゅううう〜 彰衛門「歌ってる場合じゃねぇーーーっ!!」 ───わたしは多分、馬鹿なのだろう。 あんなことを言っても結局は彰衛門の様子が気になる。 夜華 「………」 彰衛門「ぐおおおおおっ!月が!月が消えてしまうぅうーーーーっ!!!     月の光さえ浴びれば我らサイヤ人は大猿へと変身し、     このような怪我などーーーーーっ!!     誰か俺にブルーツ波を!月の光をよこせぇええええええええっ!!!!」 そして見てみれば、月夜の外を目指そうと、必死にもがく彰衛門。 しかし縄が柱に括り付けられているために全然進めない。 彰衛門「おのれぇえええっ!!     サイヤ人のエリートであるこのベジータさまが、     このような無様な姿をさらすなどぉおおっ!!」 べじーた? なんのことだろうか。 彰衛門「くそっ、使いたくはなかったが……!     業火のっ……クソ力ぁあああああっ!!」 ジャーンチャンチャーン・チャカーンチャチャチャチャチャチャチャッ♪ 夜華 (!?) よく解らない音楽が流れ始めたと思えば、彰衛門の体が炎に包まれ、縄が焼ける。 彰衛門「アタル兄さんありがとう!そして、ああ月よ!やっとキミに会える!」 彰衛門は障子に手をかけ、外に出ようとする。 が、外で彰衛門の様子を見ていたわたしがそれを許す筈もなかった。 夜華 「部屋に戻れ」 彰衛門「ゲェエーーーッ!?や、夜華さん!?」 夜華 「貴様は重体なんだぞ!死ぬ気か!?」 彰衛門「つ、月明かりを浴びれば我はサイヤ人は」 夜華 「ウソはもういい!」 彰衛門「ゲェーーッ!!こんなところで日頃の素行の成果がぁーーーっ!!」 わたしは彰衛門の折れていないほうの腕を引き、部屋へ連れ戻す。 彰衛門「お、おのれ……今一歩のところで……!     貴様なぞ、本調子ならばこのベジータさまの敵では……!」 ギュム。 彰衛門「アウチーーーッ!!」 夜華 「御託はいい!養生していろ!」 彰衛門「叫んでばっかで喉とか痛くなりません?」 夜華 「構うものか……!今は貴様がよくなることが先決だ……!」 彰衛門「むう、そう思うならアタイを月明かりに照らしてごらん?」 夜華 「だめだ。外は冷える。もう遅い、寝ろ」 彰衛門「グ、グムゥ……!あ、そうだ。楓には伝えたのか?」 夜華 「……心苦しいが、お前が言った通りのことを伝えた。     『楓さまの世話にはならない、楓さまの大切な人を殴った』と」 彰衛門「うわ直球!もうちょっと言い方ってものを考えましょうよ!」 夜華 「わたしは貴様ではない。そんなこと知るものか」 彰衛門「そりゃそうザンスが……で、楓は?」 夜華 「泣いてしまわれた。『世話にはならない』という言葉がショックだったらしい」 わたしは楓さまの涙を思い浮かべて胸を痛めた。 さすがに目の前で泣かれてしまっては心苦しい。 彰衛門「あの、それって俺が鮠鷹を殴ったからじゃないの?」 夜華 「───鮠鷹を殴ったのか貴様は!」 彰衛門「楓の大切な男を殴ったと言ったでしょうが!」 夜華 「いや……しかし……あの鮠鷹を……?」 彰衛門「ちなみに頬に一撃くらった程度ですよ?」 夜華 「そうなのか!?信じられん……」 彰衛門「……家系の者ってゆうか、     悠介の拳や人外さんの攻撃の速さにくらべりゃねぇ……。     頬の傷だって雰囲気出すためにわざと食らったわけだし」 夜華 「なに?なにか言ったか?」 彰衛門「んにゃ、なんも」 彰衛門は目を逸らして口笛を吹き出した。 夜華 「しかし、貴様本当に鮠鷹を殴ったのか?」 彰衛門「殴ったぞ。剣術で打ち負かしてからだけど」 夜華 「けっ……剣術で打ち負かしたぁっ!?あの鮠鷹をか!」 彰衛門「オウヨ〜。アタイにしてみればまだまだ未熟ぞ!?     故に最強!故に俺は美しい!!」 夜華 「……何者なのだお前は……」 彰衛門「魔法使い♪」 ニヤリと不気味な笑いをして、彰衛門は言う。 魔法使いだから、あの鮠鷹に勝てるとでもいうのか……? 彰衛門「まー、あれじゃよ。刀に頼らなくなったのはいいけど、どっかに雑念がある」 夜華 「雑念?……馬鹿な、あの鮠鷹に限って……」 彰衛門「いんや、あの鮠鷹さんだからこそだ。     そこで聞かせてもらいたいことがあるんだけど」 夜華 「なんだ?言ってみろ」 彰衛門「スリーサイズは?」 夜華 「すりぃさいず?なんだそれは」 彰衛門「いや……ゴメンナサイ」 よく解らないが謝られてしまった。 彰衛門「楓が鮠鷹を想ってるなら、一緒に居ないのはどうしてだ?」 夜華 「そのことか。楓さまはな、神降ろしの巫女として選ばれた。     神降ろしの巫女はその身の清さが問われ、誰かと結ばれることは叶わぬ」 彰衛門「……つまらん格式やのう」 夜華 「わたしもそう思うがな。だが選ばれてしまってはもうどうにもならんのだ。     楓さまとしては神を降ろし、巫女としての仕事から解放され、     鮠鷹と結ばれることを願っていることだろう。     ……そのために儀式をしたのだが……」 彰衛門「へ?もうしたの?」 夜華 「ああ。大きな儀式だった。     永きに渡る舞いを見せ、見事に最後まで舞いきったかと思えば……」 彰衛門「思えば?」 夜華 「………」 言うべきだろうか。 いや、言うべきだ。 彰衛門「なんぞね」 夜華 「その場は眩い光に包まれた。皆が皆、成功したと確信した。だが……」 彰衛門「……えーと、なんだかすごく嫌な予感がするんですが?」 夜華 「そのまさかだ。現れた光からは貴様が現れ、地面に衝突して気絶。     神の登場だと喜ぶ者も居れば、あれが神か?と疑う者も三者三様。     結局神降ろしの儀式は次に持ち越され、楓さまは解放されておらぬのだ」 彰衛門「………」 彰衛門は居心地が悪そうに汗を流していた。 だがやがて 彰衛門「そういうことならぼくに任せてよ!」 歯を輝かせて笑った。 夜華 「どうするというのだ?」 彰衛門「いやいやまあまあ、よーするに俺が神になりゃあいいんだろ?     だったら悪いことは言わない、俺を月の下に出してくれ」 夜華 「なにを言う……そんなことで何が」 彰衛門「……頼む」 夜華 「………」 彰衛門の目は真剣だった。 楓さまを大切に思えばこそ。 そんな気持ちが伝わってくる。 夜華 「……あまり永くは居させないぞ」 彰衛門「それでいい。感謝する」 そう言った彰衛門は自然な笑顔をわたしに見せた。 とても子供っぽい、なんて無邪気な笑顔か─── 彰衛門「よっ……と……!お、おろ?どぎゃんしたと?顔が赤いですよ?」 夜華 「な、なんでもないっ!手伝ってやるからとっとと出ろ!」 彰衛門「あーれー、そんな乱暴な!」 夜華 「いいからっ……出ろーーっ!!」 ドグシャア! 彰衛門「ズイホーッ!!」 どういうわけか照れくさかったわたしは、彰衛門を蹴飛ばして社の外へ放り出した。 彰衛門「な、なんてことするのかねキミは!ワタシは重体じゃなかったのかね!?     キミのすることは不理解だ!わけがわからんよ!」 夜華 「だ、黙れっ!」 顔が熱くて仕方が無い。 こんな男が、あんな無邪気な笑顔を見せるだなんて、とんだ不意打ちだ。 夜華 「だいたい彰衛門!貴様は───」 それを隠そうとして何かを言おうとしたその時、 わたしはいつの間にか自然に目の前の男のことを、 『彰衛門』と呼んでいることに気づいた。 夜華 「…………っ」 その途端、また顔が熱くなる。 どうすればいいのかさえ解らなくなる感情がわたしの中に渦巻く。 彰衛門「あのー、集中したいからさ、     人の横で顔真っ赤にしながらデンプシーロールしないでくれる?」 夜華 「で、でんぶ!?貴様この!」 彰衛門「でんぶじゃなくてデンプシーロール!勘違いするなボケ!     あ、ちなみに『でんぶ(臀部)』というのは尻のことで」 ぱぐしゃあっ!! 彰衛門「ギャアア!!」 夜華 「説明されなくても解っている!」 彰衛門「殴ることないでしょ殴ること!」 夜華 「うるさい!もういいだろう、部屋に戻るぞ!」 彰衛門「なにぃ!?回復するどころかダメージが増えただけですよ!?」 夜華 「黙れ!」 彰衛門「グ、グウウムムウ……!こんな時は───オウ!」 夜華 「なんだ!」 彰衛門「……フッ」 彰衛門は軽く髪を払い、にっこりと笑った。 彰衛門「夜華さん……ぼくとふたりきりで月見をしてくれないかい?」 夜華 「なっ……!」 顔が赤くなるのを感じた。 だがこれは違う、これは彰衛門の策略だ。 夜華 「だ、だめだ!わたしには楓さまが……!」 彰衛門「……あの、なんの話を?」 夜華 「とにかくだめだ!いいから来い!」 彰衛門「あらら……作戦失敗ですか。あ、そうだ、それじゃあさ」 夜華 「なんだ!」 彰衛門「俺の故郷の話をしてやろう。どうだ?」 夜華 「………」 気になる、と心が叫んでいる。 このような男を作った環境というのはいったいどういう場所なのか。 そればかりが頭の中を巡る。 彰衛門「あ、答えは急がんからじっくり考えてくれ」 夜華 「へ?あ、ああ……」 彰衛門は月に手を広げ、目を閉じながらそう言った。 わたしは言葉に甘えるように考え込み─── 彰衛門「ヌゥウウウオォオオウ……!月操力がみるみる回復しよるわ……!」 夜華 「う……む……」 彰衛門「むう……でもまずはアレを先に回復したほうがよさそうだな、集中集中」 どうしようか。 確かに気になるが、その所為で彰衛門の状態が悪化するのは困る。 ……いや、そうだ。 なにも外で聞くことはない、社の中で聞けばいいではないか。 夜華 「彰衛門、話は中で───」 彰衛門「ほい、ただいま回復させた月清力〜」 夜華 「んあっ!?」 彰衛門がわたしの額に触れる。 払いのけようとしたが、どうしたことか体の力が抜けてゆく。 彰衛門「悪いな、少しばかり眠っててくれ」 夜華 「ぐ……お、おのれ彰衛門……!」 彰衛門「グンナイ♪」 ───……彰衛門のよく解らない言葉を聞きながら、わたしは眠りについてしまった。 そして翌日。 わたしはハッとして起き上がると、彰衛門を探し─── 夜華 「…………な、な、なぁあああ……!!」 彰衛門「うぅん……ダーリンのばかぁん……」 あ、あ、あぁあ……彰衛門が、がが……わたしの、わたしと、同じの布団で……! 彰衛門「う、うむ……?なんだ……この尋常ならざる力の波動は……」 夜華 「く、くかかかかかか……!!」 彰衛門「ん?あれ?えーと……。ぅあちょッス!」 彰衛門が手を小さく挙げ、挨拶のようなものをする。 そして 彰衛門「寒かったんだ」 夜華 「死ねェーーーッ!!」 ぱぐしゃあ! 彰衛門「ギャアア!な、なにをするのかねいきなり!」 夜華 「き、ききき貴様!わたしを襲ったのか!?襲ったな!?襲ったんだな!?」 彰衛門「な、なにを言うか!わしゃあ寝込みを襲うほど落ちぶれちゃいませんよ!     ただ寒いから夜華さんのぬくもりを分けてもらおうと」 夜華 「ぐわわぁああああああっ!!!ぬくもりとか言うなぁあああああっ!!!」 彰衛門「それより夜華さん、オイラ腹が減ったよ。なにかおくれ?」 夜華 「貴様に食わせるものなどない!」 彰衛門「………」 夜華 「な、なんだ」 彰衛門「お世話をしてくれてありがとう姉ちゃん。でもオイラ、もう行かなきゃ」 そう言うと、彰衛門は社から出ていこうとする。 夜華 「待て貴様!こ、この責任、どう取ってくれる!」 彰衛門「大丈夫、オイラは姉ちゃんごときを襲ったりしないよ」 夜華 「ごとっ……!?き、貴様っ!わたしのどこに魅力がないと言うのだ!」 彰衛門「どうしろというのかねキミ!ほんとに襲ってほしかったとでもいうのかね!?」 夜華 「あ、いや……そ、それじゃあ襲ってないんだな?本当だな?」 彰衛門「今回ばかりは本当ですよ。俺はそんな外道な真似はしませんから」 夜華 「そ、そうか……神降ろしの巫女に仕える者が汚れてしまっては、     楓さまに申し訳が立たぬからな……よかった……」 彰衛門「……オイラ、姉ちゃんがオイラのことをどういう目で見てたか解ったよ」 夜華 「え……?」 彰衛門「さようなら、姉ちゃん」 夜華 「彰衛門!?ち、違うんだ!これはそういう意味では───」 彰衛門はわたしの話を聞こうとはせず、 重体だったとは思えない速さで視界から消えた。 ───夜華さんの彰衛門保管計画・完─── Next Menu back