───そして日常へ───
───じゃりりりりりりりんっ! がしょん! 凍弥 「うー……」 朝。 けたたましく鳴る、やかましい目覚ましに一喝を与えて目を覚ます。 そのままの体勢で目覚ましを見れば、いつもと同じ早朝。 凍弥 「くあ……あ〜あ……っと」 ベッドから体を起こしてパパッと着替え、伸びをしてから部屋を出た。 部屋を出てすぐ正面にある大きな窓から見える景色は快晴の空の下。 そんな景色を見るたびに思うのだ。 今日はなにかいいことがありそうだって。 凍弥 「さーてと」 清々しい気持ちを抱きながら階段を降りてゆく。 やがて階下に辿り着くと、そこには誰も居ないプライベート空間が広がっていた。 凍弥 「これこれ。これがないと早起きは三文の得って思えないんだよね」 座敷から降りて靴を履き、客席側にある洗面所に入る。 まず水の冷たさを確認して一気に顔を洗い、歯を磨いてうがいをする。 最後に顔を拭いて、鏡の前でニィッと笑ってみせた。 ───結論。 似合わないことはするもんじゃない。 凍弥 「さてさて」 洗面所から出て暖簾(のれん)をくぐり、厨房へ辿り着くと例の如くパンを取り出す。 一枚をトースターに放って、目盛りをジリジリと回して伸びをした。 凍弥 「……眠い」 最近だらけてるからな、と思いつつ厨房から出て冷蔵庫を開ける。 お目当てはもちろん低温殺菌牛乳だ。 冷やしておいたグラスと一緒にそれを取りだし、その場で注いでまずは一口飲んだ。 それでようやく一息ついた俺は、客席へ向かって腰を降ろす。 凍弥 「……静かだ」 窓際の客席から見える景色はとても穏やかだった。 まだいろいろな人が眠っている世界は静かで、 なんだか起きている自分が特別な存在のように思えてくる。 もちろんそんなことは気の所為でしかないんだけど、思えるものは仕方が無い。 チーン。 凍弥 「おっと」 外の景色を見ながらボ〜っとしていた俺は、トースターが出す音で現実に戻った。 そして、どうしてだか慌てながら厨房に行ってパンを取り出す。 人の心理って解らん。 凍弥 「お、焼けてる焼けてる」 買い換えたばかりのトースターは、信頼できるありがたい朝のパートナーだ。 そんなことを考えた所為か無意識に苦笑してしまって、 そのままの表情で客席まで戻って腰を降ろした。 凍弥 「いただきます」 誰に言うものでもなく呟いて、パンと牛乳を交互に口に含んだ。 ───やがて朝食を済ませると、もう一度歯を磨いてから鞄を持って外に出た。 凍弥 「んー……夏っていっても、まだ早朝は寒いな……」 体に残っていた眠気が滅ぼされてゆくのを感じながら、俺は学校へと───あ。 凍弥 「母さんおはよう」 鈴訊庵を出てすぐに目につく家の前で掃除をしている母さんを発見。 ご苦労さまです。 夕  「あ、凍弥。おはよう」 ニコニコ笑顔でザッザッと掃除をする母さんが俺に気づき、朝の挨拶をする。 我が母ながら、どこかポヤ〜っとしている人だ。 夕  「もう行くの?まだ学校開いてないんじゃない?」 凍弥 「開いてなかったら忍び込むよ。そして寝る」 夕  「たまには勉強もしなさいね……」 凍弥 「一応、うんとだけは言っておくよ。いってきます」 夕  「いってらっしゃい」 俺は母さんの苦笑に見送られながら学校を目指した。 ───で、母さんの言う通り学校はまだ開いてなかった。 忍び込むことも考えなかったわけじゃないけど、その途端に見つかるのは好ましくない。 ……とか考えてると、教師さんが門を開けてくれた。 教師 「相変わらず早いな、霧波川」 凍弥 「家に居ても暇ですから」 教師 「これで授業もキチンと受けてくれればなぁ」 凍弥 「勉強は家でやってますから勘弁してください」 教師 「まあ勉強は出来てるから教師として注意するのはそれくらいなんだがな。     教える側としては眠らずに聞いててもらった方が嬉しいぞ」 凍弥 「申し訳ない……」 与一に教わるのに馴れると、センセ達の授業って無駄な部分が多く感じてしまって。 凍弥 「あ、じゃあ俺、もう行きますね」 教師 「ああ。眠ってばっかりなのも健康に悪いから気をつけろよー」 凍弥 「了解って言うだけ言っときまーす」 教師さんに苦笑を贈られながら、俺は学び舎の中に入り、教室へ向かった。 ───で、教室に来たら来たで自分の机に座って寝る。 静かな朝を満喫するために早起きしても、結局学校に来てまで寝る俺は馬鹿なんだろう。 だけど静かな朝は嫌いじゃないし、寝るなと言われても眠いものは眠い。 そうなれば、することなんてふたつのうちひとつなのだ。 当然、俺は寝る。 …………ぐう。 ゆさゆさゆさ……! 凍弥 「うぐぐ……?」 ゆさゆさゆさゆさ……!! 凍弥 「グウウ……」 体を揺らされて、急激に眠気を消される。 起きた時のこの頭の重さからして、寝てからそう時間は経っていないと感じた。 周りを見てみれば教室に居る生徒もまばらだ。 凍弥 「風間……?どうしたんだよ……」 で、俺を揺り動かしていた風間雄輝を見やる。 なにやら落ち着かない雰囲気を醸し出している。 風間 「あ、あのですね、その……!」 凍弥 「………」 なにやら落ち着かない雰囲気を醸し出している彼は、実際に落ち着きが無かった。 凍弥 「急がないから落ち着いて話してくれ……見てるこっちが落ち着かない」 風間 「あ、は、はい!えーと、それがですね……!」 注意したばかりなのに余計に落ち着きを無くす風間。 どうにもならんようだ。 風間 「き、昨日、物凄い美人に会ったんスヨ!!」 凍弥 「…………はい?」 ビジンニアッタンスヨ。 その言葉が俺の中に飲み込まれる。 凍弥 「……なぁ風間?それと俺が起こされる理由と、どんな関係があるんだ?」 風間 「だ、だってこんなこと相談できるのセンパイしか居ないッスから……!     お、俺、どうすりゃいいんでしょう!!     あんな美人見たの初めてで、     俺……俺、なんか一目惚れしちゃったみたいなんスよ!!」 ヒトメボレシチャッタミタイナンスヨ。 その言葉が俺の中に飲み込まれる。 凍弥 「……へー」 風間 「いやっ……『へー』じゃなくて!真面目に聞いてくださいよセンパイ!!」 凍弥 「……あのさ、いきなり起こされていきなり『一目惚れ』とか言われて、     真面目に返答出来るヤツが居ると思うか?」 個人的に言わせてもらえば、少なくとも俺は無理だ。 風間 「で、でもですね!俺こういうの初めてで!」 凍弥 「そりゃ奇遇だな。俺も経験したことがないぞ」 風間 「あー……そ、そりゃそうッスけど!     ほら、こういう時って漫画とかドラマだとアレじゃないッスか!     『風間ァ……俺ャアお前を応援するぜ……当たって砕けろだ!』とか!」 凍弥 「……いったいいつの漫画やドラマだよ……」 最近でそんなものを見た覚えが皆無だ。 風間 「とにかく聞いてくださいよ!時間とらせませんから!」 凍弥 「解った解った、聞くから落ち着け」 朝っぱらからエライのに捕まっちまった。 佐古田「なにッス?朝っぱらから痴話喧嘩ッス?」 ……朝っぱらからババ抜きでジョーカー引いた気分だ……。 凍弥 「佐古田……男同士の会話に聞き耳立てて痴話とか言うなよ……」 佐古田「違うッス?」 凍弥 「断じて違う。風間が一目惚れしたらしくて、その話を聞いてるところだ」 佐古田「相手、男ッス?」 凍弥 「どうしてそうなる!」 佐古田「……風間っててっきり男色だと思ってたッス」 凍弥 「………」 恐ろしいこと言うなよ。 『俺のセンパイに』って言葉、思い出しちまったじゃないか。 風間 「それでセンパイ!俺、どうしたらいいッスか!?」 凍弥 「ようするに当たって砕けたいわけだよな?     パンツ一丁で抱き着いてみろ、警察に連行されて人生が砕けるぞ」 風間 「救いが無いッスよそれ!!」 凍弥 「ええいやかましい。だいたい俺に恋愛相談する方が間違ってるんだ。     自分の力でなんとかしろ。恋愛だのなんだの以外なら相談に乗るよ」 風間 「そ、そりゃあセンパイって鈍感だから好意の目とかに気づかないけど……」 ……なんの話をしてるんだこいつは。 風間 「でもセンパイ!センパイだって人を好きになったこととかあるでしょ!?」 凍弥 「あるよ」 風間 「ほら!だったら」 凍弥 「……子供の頃の話だ。それに、相手本人は死んでしまっている」 風間 「あ……」 風間が申し訳なさそうに俯く。 凍弥 「気にするな。一目惚れってのは解らなくもないし、     俺も出来る限り応援するから。あ……ところで相手ってどんな人なんだ?」 風間 「あ、はい……昨日、登校中に会った女の子なんスけどね」 凍弥 「諦めろ」 風間 「早ッ!?な、なんスかいきなり!」 凍弥 「いや、無理だ。すまない、応援できん」 風間 「なんでッスか!?おかしいじゃないッスか!」 凍弥 「あ、いや……えーと……」 昨日の登校中に会ったって……女になってた俺じゃねぇか。 応援できるかそんなもん! 風間 「その女の子見て、俺トキメイたんス!!もうこの人しか居ないって!!     俺、あんな気持ち初めてだったんス!!無理なんて言わないでください!」 凍弥 「頼むから諦めてくれ……そして顔を赤く染めながら涙目で俺を見るな……」 風間 「イヤッスよ!!」 佐古田「風間、参考までに訊くッスが、その女のどこが気に入ったッス?」 風間 「センパイにすっげぇ似た、だけど綺麗な女だったんだよ!!」 がたたぁっ!!がしっ!! 凍弥 「は、離せぇっ!!俺にそんな趣味はないっ!!」 風間 「待ってください逃げないでください!!     そういう意味じゃなくて俺、センパイに憧れてンスよ!!     もう一度生まれるならセンパイみたいにカッコイイ男になりたいンス!!     そんなセンパイの面影を持った、しかもバツグンに綺麗な女ッスよ!?     惚れないわけないじゃないッスか!!」 凍弥 「……それも、憧れからか?」 風間 「ラヴからッス!!」 がたたぁっ!!がしっ!! 凍弥 「ぐあああ!離せ!離せえぇええっ!!俺にそんな趣味はぁああっ!!」 風間 「センパイじゃなくてその女にラヴなんスよ!!逃げないでください!」 凍弥 「似てるヤツに惚れられりゃあ逃げたくもなるわぁあっ!!」 佐古田「今回ばかりは霧波川凍弥に激賛成ッス……」 佐古田が仲間に加わった! 佐古田「でも面白いから激放置ッス」 なんと佐古田が裏切った! 早ェ!! 佐古田「まあ大方、霧波川凍弥が激女装でもしてたんじゃないッス?」 凍弥 「するかっ!!」 あれは『させられた』んだ! 佐古田「じゃあどうしていきなり諦めろだなんて激言うッス?」 凍弥 「『激』言うな」 佐古田「誤魔化そうったってそうは激いかねぇッス。さあ言うッス」 性格悪ぃ……。 風間 「なにか……なにか知ってるんスかセンパイ!     なんでもいいッス!教えてください!」 凍弥 「ステレオで『ッス』って言わないでくれ……」 佐古田「ンなこたぁどうでもいいッス。激薄情するッス」 凍弥 「ぐ……!!」 言えるかよ。 言ったら俺の貞操が危ないじゃないか。 俺は生涯、楓巫女……楓、飛鳥、朧月を…… 凍弥 「あ……」 佐古田「なに赤くなってるッス?」 凍弥 「あ、や、違うっ!お、俺はべつに朧月なんて!」 椛  「わたしがどうかしましたか?」 凍弥 「キャーッ!?」 いつの間にか朧月が会話の輪の中に入っていた。 凍弥 「お、朧月……いつからそこに……」 椛  「『朧月なんて』からです」 凍弥 「………」 椛  「なんですか?」 凍弥 「あの……睨んでない?ど〜にもさっきからトゲトゲしい気配が」 椛  「睨んでません。べつに隆正さま……あ、えと……     凍弥先輩が誰に抱きつかれようがわたしには関係ありませんから」 凍弥 「へ?あ」 見れば、泣きながら俺の胴に抱き着いている風間。 凍弥 「は、離れろ間吹!じゃなかった風間!!」 風間 「いやッス!あの女の子の情報を聞かせてもらうまでは離さないッス!     センパイ!あの女の子とどういう関係なんスか!?     もしかして付き合ってんですか!?」 椛  「───……付き、合って……!?」 凍弥 「わぁ馬鹿ッ!!この状況で一番言っちゃマズイことを!!」 モシャアアアアア……!! 凍弥 「ひっ……!?け、景色が歪んで……!!」 朧月の周りの景色が歪む。 ようするにもの凄い殺気を出しているのだ。 だというのに朧月自身が笑顔だから物凄く怖い。 佐古田「あ、そういえばキミ、髪の色変わったッスね。染めたッス?」 椛  「───!」(ギンッ!!) 佐古田「ヒィッ!?」 あの佐古田が睨みだけで悲鳴を……。 佐古田「な、なにッス……!?一瞬で死を覚悟してしまったッス……!」 怖いこと言うなよ……泣けてくるじゃないか……。 椛  「……あの女の子って……誰のことですか?隆正さま……!!」 ギシ、ミシミシ……! 凍弥 「いや!落ち着いてくれ!お前が考えてるようなことじゃないんだよ!     てゆうかやめて!机とか椅子が悲鳴あげてる軋んでる!!」 佐古田「たかまさって誰ッス?」 凍弥 「こういう時まで冷静に疑問抱いてんじゃねぇぇえーーーっ!!」 ふと見れば、教室に居た筈のまばらな生徒達は殺気に耐えられずに廊下に逃走していた。 佐古田「薄情なやつらッスねぇ……なにやら居心地悪いのはこっちも同じッスのに」 凍弥 「だからどうしてお前ってそう冷静でいられるんだよ!     てゆうか離れろ風間!死ぬぞマジで!」 風間 「イヤッス!死ぬ時は一緒ッス!」 凍弥 「妙な覚悟決めてんじゃねぇーーっ!!」 ギシギシギシ……ミシッ!ズガガガガガ!! 佐古田「あ、ポルターガイスト現象ッス」 凍弥 「違うわ!」 朧月の力の波動が溢れてるのか、机や椅子が波動で動かされてゆく。 そしてゆ〜〜〜〜〜っくりと歩み寄ってくる笑顔の朧月サン。 ───怖ェ!超怖ェ!! 凍弥 「ほ、ほら!風間の言うあの女の子ってのはさ!     俺と朧月が昨日屋上で会ったアレのことなんだよ!」 椛  「───……」 少し、殺気が消えた。 凍弥 「な!?だ、だからそんなんじゃないんだって!」 椛  「………」 かなり消えた。 凍弥 「解ってくれたか……?」 椛  「それじゃあ、凍弥先輩は今でもわたしを───」 風間 「屋上で会ったアレってなんスか!?     もしや屋上であの女の子に告ったンすか!?     ひどいッスよセンパイ!俺、あの子と手まで繋いだのに!」 ミシャアッ!! 凍弥 「キャーッ!?」 窓が悲鳴をあげましたよ!? てゆうか溢れてる!殺気がめっさ溢れてる!! ああ眠気が!俺の眠気が裸足で逃げてゆく! せめて靴を履きなさい!小石が刺さって痛いですよ!? 椛  「へえ……あの時に男の人を誘惑してたんですか……!」 凍弥 「違う違う断じて違う誤解だ濡れ衣だホント違う違うから勘弁してマジで!」 俺はもうマジ泣きしながら首を横に振りまくった。 泣けないわけがない。 濡れ衣で死ぬなんて冗談じゃないのだ。 櫂埜上喜兵衛が消えた今、幸せになるだけだった筈がどうしてこんなことに……! 佐古田「誘惑ってなにッス?霧波川凍弥、やっぱり男色だったッス?」 凍弥 「適当なとこだけ話し合わせるなよ!」 椛  「……隆正さま」 凍弥 「は、はいぃっ!?」 佐古田「霧波川凍弥がたかまささまッス?」 凍弥 「黙れ!死にたいか!」 佐古田「黙らないッス。謎が謎のままなのは我慢できない性分ッス」 椛  「………」 うわ睨んでる!めっちゃ睨んでる! 相手が女だってことが相乗してる! 凍弥 「あ、あの……朧月?」 椛  「………」 ニッコリ。 椛  「女になって反省してください」 凍弥 「えぇっ!?あ、いやっ!待てっ!」 ボムンッ!! 冷子 「キャーッ!?」 うわ……わわわ……!また冷子に……! 風間 「あ……ああああ……!そうッス!この人ッス!センパイだったんスカ!     愛してますラブリィーッ!!」 凍弥 「うがぁーーっ!!」 ドゴォン! 風間 「もぎゃあ!?」 俺の拳をくらった風間が床に倒れる。 風間 「な、なにをするんスか!?昨日は手まで繋いでくれたのに!」 冷子 「やかましゃああ!!俺に男色の趣味は無いわ!俺が好きなのは楓巫女だけだ!」 佐古田「うわっ、霧波川凍弥の告白ッス!……で、誰ッス?そのかえでのみこって」 椛  「………」 ……うわ、勢いに任せて言ってしまった。 なんか朧月、すごい嬉しそうな顔してるし。 佐古田「あ〜ん?もったいぶらんと薄情するッス」 冷子 「どこにでも居るような悪役かお前は!」 佐古田「それならそれでかまわないッス。言うッス」 ズズイッ!と佐古田が詰め寄ってくる。 椛  「───」 キャーッ!?再び朧月の周りがモシャアと歪んでボムンッ! 凍弥 「うわっと!」 突然男に戻された。 風間 「あーっ!ちょっとなんで戻るンスかセンパイ!」 それを見て、とことんまでに残念な顔をする風間。 俺だって知らんわ! 椛  「はっきり言います。わたしは凍弥先輩が好きです」 風間 「!」 佐古田「ラヴッス?」 凍弥 「あ、な、なぁあ……!?」 ほんとにハッキリと、しかも面と向かって言われちゃいました。 凍弥 「ま、まて朧月!     お前は前世の記憶を引きずったからそう感じるだけじゃないのか!?」 椛  「もともとどうしてかあなたにだけは嫌われたくないって思ってましたし、     それにわたしが素直に話せる相手は凍弥先輩しか居ません。     そして───凍弥先輩が居なかったら今のわたしは居なかったという言葉、     わたしは今でも言えますよ」 凍弥 「な、な……!!」 佐古田「おお!顔が赤いッス!真っ赤ッス!熟したトマトッス!」 風間 「どうするんですかセンパイ!もちろん断りますよね!?     俺を愛してくれますよね!?」 凍弥 「愛すかっ!」 風間 「ゲェーッ!そんな!ひどいッスよ!センパイはボホッ!」 凍弥 「あ」 風間が見えない力で殴られた。 椛  「……おとうさん以外の人が『ゲーッ』って言わないで……!!」 凍弥 「………」 そういや俺も、ゲェーッて言葉嫌いですって言われたなぁ……。 あれって無意識だったのかなぁ……。 ちなみに風間は倒れたまま動かない。 佐古田「……なにやってるッス?風間」 風間 「………」 佐古田「ただの屍ッスね。放置ッス」 無慈悲だ。 椛  「それで……どうなんですか凍弥先輩……!     わ、わたしは告白しました……!返事をください!」 凍弥 「あ、いや……その……」 頭の中に飛鳥の笑顔が蘇る。 椛  「飛鳥さんのことですか……?」 凍弥 「……そうだ」 誤魔化しても仕方が無い。 俺はハッキリと返事を返した。 椛  「わたしには飛鳥さんの記憶もあります。     凍弥先輩とどんなことをしたのかだって覚えています。     ……わたしじゃダメなんですか?」 凍弥 「そんなわけあるか!そうじゃないんだよ、そうじゃないんだ……!     理屈じゃないんだよ、子供の頃に感じた思いってのは……!     俺は飛鳥のことが本当に好きだったし、     病気だって治せるのなら治してやりたかった。     飛鳥から病気を移されることで飛鳥が助かるならそれでもよかったんだ!     そこまで思えるくらいだったんだ!     それなのに……記憶を持っている人が現れたからハイそうですかなんて……     出来るわけないじゃないか……!」 椛  「………」 凍弥 「俺は楓巫女が好きだったし、楓を愛していた。     飛鳥はとても大事だったし、朧月のことだって確かに好きなんだ。     でもさ……それって本当に俺自身の気持ちなのかな……?     過去の記憶が混じったから、     朧月が楓巫女の生まれ変わりだからそう感じてるんじゃないかな……?     そう考えたら、俺に告白してくれた朧月に申し訳ないんだよ……!」 そう、俺はとても不安だった。 確かに朧月の傍はなんだか好きだった。 死神の一件が済んでからは少しずつ話すようになったし、話してたらとても嬉しかった。 一定以上、女性を避けてた俺が、朧月の場合だと特別な感情を抱いていた。 けど……もしそれが、楓巫女の魂のかけらに惹かれていたんだったら……? それだったら俺は、ちゃんと朧月を見ていないんじゃないかって…… 佐古田「あー、ちょっと待つッス」 凍弥 「………」 緊張が張り詰める空気の中、佐古田が割り込んでくる。 佐古田「霧波川凍弥、あんた何股してるッス?あの人が好きだとか愛してるだとか」 凍弥 「……あのな、お前とんでもないほど誤解してるぞ?」 佐古田「あー、まあ前座なんてどうでもいいッス。わたしが訊きたいのはひとつッス。     霧波川凍弥、あんたはこの娘のことが好き?嫌い?」 凍弥 「……好きだ。それは間違いない」 佐古田「だったら解決してるじゃないッス?」 凍弥 「いやっ!でもっ!」 佐古田「うだうだやかましいッス!不安があるなら一緒に居て、     もっと好きになって不安なんか埋めちまえばいいッス!     それともそこまで解らないくらいに鈍いッス!?」 凍弥 「………」 佐古田「ホレ、なんとか言ってみるッス」 凍弥 「ブス」 ボギャア!! 凍弥 「ふごおっ!」 殴られた。 当然だろう。 凍弥 「オーケー、殴ってほしかったんだ」 佐古田「それならそう言うッス!腹立たせてどうするッス!?」 凍弥 「知らん」 佐古田「ぐむっ……!!」 俺は佐古田を無視して朧月の前に立った。 そして─── 凍弥 「えーと……コホン。これから言うことをよーく聞いてくれ」 椛  「……はい」 凍弥 「お、俺は……朧月椛のことが、そ、その……す、好きですっ!!」 椛  「……───!」 言った……言ったぞ俺は……! ───とか思ってるのも束の間でした。 Next Menu back