───恋焦がれるもの荒れるもの───
一本道「……くそう、メイド服についても説教したほうがよかったな。     きっとそれが足りなかったから逃げられたんだ」 くそ、誤算だった。 アタイとしたことがメイド服について語らなかったなんて。 一本道「それよりこの磔状態、なんとかせんと……フンッ!」 ヴオンッ!! 彰利 「……むう、完璧じゃ!」 プレイスジャンプの応用で磔から逃走。 ついでに防具も脱げたようで万歳です。 さてさて、この刀を夜華さんに返さなければなりませんが…… 彰利 「………」 大丈夫かな。 いきなり襲われて接吻とかされませんかね。 もしそんなことが粉雪にバレたらもう地獄だ。 アタイの動きを完璧に読んでボコボコにするから、 その一撃一撃の全てがクリティカルヒットだ。 女の攻撃だからって甘くみちゃならねぇ。 家系の者はすべからく腕力が高いものだ。 そんなもんでクリティカル連発されてみなさい、死にますよ? 彰利 「───ありゃ?でも待てよ?」 そういやあの時代に存在する月操力の全ては冥月刀に封印したわけだし…… 月視力さえなければ粉雪だってアタイの内側を知ることもないわけで、 それを解放しない限り、粉雪にバレることはナシ? 彰利 「……おおう、グレイトだぜ」 アタイ、今まで通りでいいのね!? 彰利 「よし、おなごを襲おう。     そしてこの煮えたぎるほどの情熱をブルマとスクール水着に変えて、     言葉として放って愛を知ってもらおう」 アタイはうむと頷いて、その場から立ち去った。 夜華さんも刀が無いかぎりは滅多な行動はとるまい。 ……とらないよね? 彰利 「そうと決まればレッツハバナーウ!!」 アタイはまず、木の影に隠れながら学び舎へジリジリとバシュウ! 彰利 「ややっ!?」 アレレー!?なんかいきなり縄が足を襲ったんですけどーっ!? 彰利 「キャッ!?キャーッ!!」 そしてあっという間にアタイは逆さ吊り。 彰利 「だ、誰だコラ!アタイをアンコウのように吊るすやつぁ!!」 ガサ…… 彰利 「む───何奴!?」 声  「ふふふふふ……貴様なら絶対に物陰に隠れると思っていた……」 彰利 「な、なにーーっ!?お、お前はーーっ!!」 夜華 「いい眺めだぞ、彰衛門」 彰利 「ど、独眼鉄ーーっ!!」 夜華 「独眼鉄?なんだそれは」 彰利 「いい質問だ。ブルマをやろう、穿きたまえ」 夜華 「ぶるま?なんだそれは」 彰利 「そんなことはどうでもいいでしょ!話題を摩り替えるんじゃありません!     この縄を解きなさい!」 夜華 「ダメだ。わたしは悟ったのだ。     嫌われないようにするだけじゃあわたしは虚しいままだ。ならば……」 ……なんでしょう。 とっても嫌な予感が! 彰利 「な、ならば……?」 夜華 「力ずくでモノにしてしまえばいい」 彰利 「イヤァやっぱりーーーっ!!     ちょいと夜華さん!?そんなのアタイは認めませんことよ!?」 夜華 「この歴史に居る間だけでいいのだ!わたしのモノになってくれ!」 彰利 「いやじゃい!」 夜華 「何故だ!」 彰利 「アタイは普段はおちゃらけているが、     ことラヴに関しては本気で取り組む考えなのだ!!     二股なんて冗談じゃありません!」 夜華 「お、女のわたしが構わないと言っているのだぞ!」 彰利 「馬鹿者!自分の安売りはおやめなさい!」 夜華 「安売りなどではない!わたしは貴様だからこそ言っているのだ!」 彰利 「あぁもう解らんやっちゃね!アタイはもう売却済みなの!解る!?」 夜華 「解らん!好きという気持ちに偽りなどないのだ!     好きだから好きと言って何が悪い!傍に居たいと思って何が悪い!」 彰利 「少しはこっちの都合も考えて!お願い!     てゆうかアタイがこんな言葉使う日が来るなんて思わなかったわ!     夜華さん、あんたスゲェよ!」 夜華 「茶化すな!わたしは真剣なんだ!」 彰利 「真剣だろうがなんだろうが相手のことを少しは考えて!お願い!」 夜華 「貴様のことを考えないことなどない!!だからこうして」 彰利 「ターッ!意味がまず違うのよ!」 夜華 「くっ……───……ん?」 ……む? 夜華 「そういえば貴様、過去でわたしに脱げと言ったな」 彰利 「言ってませんよ?」 夜華 「ウソをつくな、構わん。今のわたしは貴様になら───」 シュル…… 彰利 「ゲェーーーーッ!!??     こ、これ!おなごがこんな場所で衣服を脱ぐなど───!!     イ、イヤァ!イヤァアアアアッ!!タスケテー!タスケテー!!     アタイ汚されちゃうーッ!!」 とか叫んでる間に、夜華サンはゆっくりとした動作で衣服を脱いでゆく。 昔の服はややこしいから脱ぐのに時間がかかるから助かってるが─── 彰利 「そ、そうだ。こんな時こそ彰利テレパス〜だ。シーじゃないのがポイントだ」 説明しよう! 彰利テレパス〜とは、どこか近くに居る人に救難信号を送ることにより、 助けを乞う伝説の奥義である! 彰利 「ンンンン〜〜〜〜〜……ハァアアアアーーーッ!!!」 マチューーーーン!! アタイは意識を飛ばした!! ───……『タスケテェエエエッ!!』 佐古田「……誰ッス?」 起きてみれば、そこはよく解らない場所だった。 佐古田「うぐ……?なんか誰かの助けを乞う声が聞こえた気がしたッス……」 まあそれより、さっさとこんな薄暗い場所からは出よう。 見る限り、ここは体育倉庫だ。 ───ガツッ。 佐古田「うん?」 ガツッ、ガツンッ! 佐古田「……開かないッス」 『タスケテー!タスケテー!!』 佐古田「あーもううっさいッス!こっちはそれどころじゃねぇッス!!」 ガツゥ!!ゴスンッ!! 『タ、タスケ……イヤァ!イヤァアアアアアアアッ!!!!』 佐古田「うるさいっつってるッス!!黙るッス!!」 ……ガツンッ。 佐古田「……やっぱり開かないッス」 無駄だと悟ったアチキは、マットで眠ることにした。 彰利 「来ねェエエーーーッ!!!」 テレパス〜はクソの役にもたたなかった。 そうこうしてる間に夜華さんはやがて透き通るような肌を───!! 彰利 「───ややっ!?」 夜華 「な、なんだ……!?体が動かない……!?」 服を脱ごうとした夜華さんは、何故だか突然動きを止めた。 彰利 「も、もしや本体が行動を止めた!?」 なんつったっけ?アサミチャンだっけ? ナイス!ナイスYO! 夜華 「わ……わたしの体で……!なにをしてるんですか……!!     な、なんだこれは……!意識が薄れ……!?」 支離滅裂な言葉を放ち、両の意識が体の取り合いをする。 夜華 「邪魔をするな……!わたしは彰衛門を……!     な……にがあきえもんですか……!わ、わたしは凍弥さんを……!!」 お、おおお……! 彰利 「ガンバレー!ガンバレ浅美チャーン!!」 夜華 「うぐっ……!き、気の抜けるような声援を送らないでくだ……か、あぁあ!!     お、のれ……彰衛門……!貴様、わたしよりこの女が……!?」 彰利 「そういうわけじゃないが今は浅美チャンの味方ぞ!?     眠りなさい!眠って!お願い!眠れこの野郎!」 夜華 「ぐ……あ……!彰衛門……なぜ……どうしてそんなことを……!あ……」 パキィンッ! 浅美 「はぁっ!……はぁっ、はぁっ……!!」 彰利 「……あの、浅美チャン?」 浅美 「……はぁ……はぁ……───そうですけど……誰、ですか?」 わぁ、忘れられてる。 少しは会ったりしたのに。 彰利 「あぁん浅美チャン、アタイ怖かったァーーッ!!」 アタイは吊るされた状態で反動をつけ、 浅美チャンに向かって両手を広げてガバァッと抱きついた。 浅美 「きゃあっ!?な、なにをするんですか!離してくだ───あっ」 パキィンッ!! 彰利 「ややっ!?」 夜華 「あ、彰衛門!やはりわたしのことを愛してくれるのか!?」 彰利 「キャアア!?や、夜華さんにチェンジしてる!?とんずらぁーーっ!!」 アタイは逃げ出した! 夜華 「あきえ───」 パキィンッ!! 浅美 「かはっ……!はぁっ……はぁ……!」 彰利 「ややっ!?浅美チャン!?」 浅美 「はぁっ……!あ、あの……お願いだから近寄らないでください……!     近寄られると体を奪われるみたいで……」 彰利 「………」 不憫な。 しかし、アレですか? つまりはアタイが傍に行くと夜華さんの煩悩が爆発して意識が浮上して、 逆に離れると根性で浅美チャンの意識が浮上する……と? 彰利 「むう……姿が夜華さんのままだから怖いといえば怖いが」 浅美 「夜華、っていうんですか、もうひとつの人格」 彰利 「うむ、篠瀬夜華という人物だ。アナタの前世よ?」 浅美 「前世、ですか」 アタイは半径2メートルの領域を守りながら話を続けることにした。 てゆうか縄に吊るされたままだし。 彰利 「ふむ、どうやら夜華さんが出てる時、貴様の意識も無いらしいな」 浅美 「それは夜華って人も同じだと思いますよ」 彰利 「あ、でも見ようと思えば記憶を探れると思うから注意するのよ?     キミが絶対に見ちゃいけない記憶があるから」 浅美 「……なんですか?それ」 彰利 「気にしちゃならねぇ」 浅美 「?んー……」 浅美チャンは目を閉じて唸りだした。 ───まさか!? 彰利 「こ、これ!よすのじゃ!そんなことをしたら」 浅美 「えっ───えぇえええええっ!?     ど、どうしてわたし、あなたなんかとキスしてるんですか!?」 彰利 「アイヤー!?だからよせというたのに!カスめ!カスめ!」 浅美 「カスカス言いたいのはこっちの方です!どういうことですかこれは!」 浅美チャンがズンズンと怒り顔で迫ってギャア!? 彰利 「こ、これ!近寄ってはならぬ!近寄ったら───」 浅美 「あ」 パキィンッ!! 夜華 「彰衛門!わたしは貴様がぁあああああっ!!!!」 彰利 「いやーん!!もうイヤァ!とんずらぁあーーーっ!!!」 アタイは縄を切って逃げ出ガシィッ!! 彰利 「ウギャアいきなり捕まったァーッ!!」 夜華 「さ、ささささあ!今こそ夫婦の誓いの接吻を!!」 彰利 「イヤァタスケテーーーッ!!」 ビクンッ!! 夜華 「あ、あきえ……ぐ、ぐがが……!ごあがががが……!!     キ、キスなんてさせません……!!」 彰利 「が、頑張ってくださいアサミチャン!ホントお願いします!」 夜華 「ぐぅうう……キェエエエエストォオオオオッ!!!」 バチィンッ!! 夜華 「きゃあっ!」 彰利 「むむっ!?どうされた!?」 夜華 「……ふ、ふふふふふふ……!!我、打ち勝ったり……!」 彰利 「キャーーーッ!?」 夜華 「さあ彰衛門!誓いの接吻を!!」 彰利 「キャアアーーッ!!」 ───!そ、そうだ!プレイスジャンプで! 彰利 「げ、月空───」 とか言ってる間に夜華さんの顔が目の前に! 彰利 「イヤァ集中できねぇええーーっ!!!」 『タスケテーーーッ!!』 佐古田「うるせぇッス!なんなんスさっきから!」 『タスケテー!タスケテーッ!!』 佐古田「……もしかして霊ッス?」 『……………』 佐古田「?」 『ミ〜ト〜!ミ〜ト〜!ドヘッ!ドヘッ!』 佐古田「本気でなにッス!?」 『ぎょよわえあよぉあおガアアアアアーーーーーーッ!!!!!』 佐古田「……やっぱりうるせぇッス」 しくしくしくしくしく…… 悲しげな泣き声と鬱陶しい泣き声が木霊する。 他の誰でもない、アタイと浅美チャンのものだ。 彰利 「うう……ひっく……汚されちゃった……!」 浅美 「それは……こっちのセリフ……うぐっ……ふぅうっく……!」 ようするに唇を奪われてしまったのだ。 これで二回目……さすがにダメージは大きかった。 彰利 「アタイたち……きっと出会っちゃいけなかったのよ……」 浅美 「同感です……二度と顔を見たくありません……」 彰利 「お別れしましょ……」 浅美 「賛成です……」 アタイたちは背を向け合い、やがて歩き出した。 彰利 「アタイ……あなたのこと忘れないわ……あと5秒だけ」 浅美 「出来ることなら今すぐ記憶から抹消したいです……」 ───……そして、アタイたちの関係は終わりを告げた。 彼女との思い出が思い返される度、アタイの頬には涙が伝う。 ……まあその、唇を奪われたことへの悔し涙ってゆうか悲し涙なわけだけど─── ───……。 キ〜ンコ〜ンカ〜ン…… 凍弥 「くあ……あ〜あ……ふぁひゅひゅ……」 ねみぃ……。 凍弥 「ん……?ああ……もう放課後か……」 思うんだけど、空き教室にある時計って凄い無駄だと思う。 そりゃああれば便利であることは確かではあるのだが。 こうして時間が解るのはありがたいが、見るのが俺だけってのは問題だと思うぞ。 それでも動いてるってことは……いつか使う予定でもあるんかな、この教室。 凍弥 「───」 ざっと見渡しても他の教室より古ぼけてるし、なんか曰くが付属されてそうだし…… 凍弥 「あ〜……」 でも嫌な感じは無いんだよなぁ。 ───嫌な感じ? 凍弥 「あれ?そういやなんで椛に力の全てを返したのに、     浅美が見えたり気配感じれたりするんだ?」 ……不思議だ。 なんかあるんかな。 凍弥 「……それに、場になったわけでもないのに眠いし……」 アレか?一度染みついたものは消えてくれないってやつか? 凍弥 「……どうでもいいけど」 その気になれば一日中寝れそうだよなぁ。 ま、いいか。 凍弥 「さーて、帰ろ帰ろ」 面倒だったからここに置いておいた鞄を手に取り、空き教室を出た。 既に外は夕暮れ時のようで、 俺はその色に染められた廊下をゆっくりと歩きながら伸びをした。 階段を降り、やがて下駄箱が見えてくる頃─── 椛  「………」 下駄箱に寄りかかりながら、ぽつんとひとりで立っている椛を見つけた。 ……もしかしてずっと待ってたのか? そういや朝も早くに空き教室行ったあとに屋上行ってアンパン食べて、 皆槻と話して佐古田を封印して風間と話して、 剣道やってうろついて空き教室行って寝て───うわ、一度も会ってないじゃないか。 凍弥 「………」 恋人同士……なんだよな。 そうだよ、なにやってんだ俺。 凍弥 「も───うあ!」 声をかけようとしたが、天上に張り付いてる彰衛門を発見して引いた。 彰利 「ぎゃらぎゃらぎゃらぎゃらぎゃら……ギャァッフェエーーイィッ!!」 謎の奇声をあげ、ドチャッ!と下駄箱に降り立った。 椛  「あ……お、とう……さん?」 彰利 「なんと!泣いておいでか!?」 椛  「どうして……?居なくなっちゃったんじゃ……なかったの……?」 彰利 「一度帰って、また来ただけじゃよ?」 椛  「っ……うっ……うぐっ……ふぁあああああん……!!」 彰利 「ゲゲッ……!?ど、どうしたのかね!?     わたしにも解るように事情を説明してみたまえ!」 椛  「凍弥先輩……どこにも居ないのっ……!     わ、わたし……嫌われちゃったのかなぁっ……!!」 彰利 「いきなりすぎてさっぱり解らん!わたしにも解るように説明したまえ!」 椛  「ふぐっ……ふぁあああん……!!」 彰利 「アイヤー!?ごめんなさい!謝るから泣き止んで!?」 椛  「今日……一度も凍弥先輩に会ってないの……。     だ、だから……嫌われちゃったのかなって……」 彰利 「なんとまあ……マジすか。でも一日会えないだけで泣くんじゃありません」 椛  「でもっ!会えないと不安なの!怖いの!」 彰利 「あやつなら空き教室で寝ておったぞ?」 椛  「行ってみたけど居なかったの……」 彰利 「……3時間目の近くじゃな?」 椛  「うん……」 彰利 「その時はあやつは剣道中じゃわい」 椛  「あうぅうう……!!や、やっぱり避けられて……!!」 彰利 「深読みするでない。志摩(兄)に連れ出されただけだ」 椛  「………」 どうして知ってるんだ? 彰利 「よいか椛!小僧はきっちり誓いおったぞ!貴様を幸せにすると!」 ……誓いはしなかった気がするが。 彰利 「そりゃあ恋人ほったらかして惰眠貪ってるカスでカスでカスなやつだが。     言ったからには守ってもらわんと!!しょうもないカスなヤツだが、     いくらカスでもそれくらいの甲斐性があのカスにはあるとじいやは信じておる!     救いようがないほどにカスなカスでもそれくらいは守るさ!     だからあのカスのことをカス程度でもいいから信じてやるのじゃ!」 うそつけ! 10回もカスって言ったぞ10回も! 彰利 「というわけで、まずは落ち着きなされ。よいな?」 椛  「………」 きゅむ。 彰利 「む?」 椛が彰衛門の服を小さく摘んで引っ張った。 椛  「おとうさんは……ずっとおとうさんなんだよね?」 彰利 「当たり前じゃ。どうしたのかの?突然」 椛  「うん……おとうさんの近くって落ち着くなぁって……」 彰利 「そうじゃろうなぁ。     楓巫女はじいやの癒しの力を吸収して生まれたんじゃからの。     じいやは名づけ親でもあるが、本当の父親でもあるわけですじゃ」 椛  「……ほんと?わたし、ひとりじゃない……?」 彰利 「これこれ……椛にはちゃんとした両親も、祖父母もあるじゃろう?」 椛  「……わたしの『おとうさん』は彰衛門だけだもん……」 椛はそう言って、彰衛門の胸に身を寄せた。 彰衛門はそんな椛の髪をやさしく撫でてやり、穏やかに微笑んだ。 彰利 「いつになっても楓巫女は甘えん坊で恥ずかしいねぇ」 椛  「……わたし、いろいろな人に甘えようとしたよ?     お父さんにもお母さんにもセレスさんにも、     おばあちゃんにもおじいちゃんにも。もちろん凍弥先輩にも甘えようとした。     でもね……なにか違うの。     きっとね、わたしが心から甘えることの出来る人は、     おとうさんだけなんだよ……」 彰利 「そうかそうか……」 彰衛門は穏やかに微笑んだまま、ただただやさしく椛を撫でた。 彰利 「しかしの、椛や。それもいつか思い出に変わるのじゃ。     今はそうでも、椛と小僧の仲が深まれば、必ず変わるものなのじゃよ」 椛  「でも、凍弥先輩はわたしを……」 彰利 「好きだと告白されたじゃろう?あやつはいい加減なことはしない筈じゃわ。     なぁに、椛を捨てるようなことをすれば……     アタイのビデオカメラが火を吹くぜ?そうなればヤツは破滅!オホホホホ!!」 そんなことされなくても捨てるわきゃないだろ! 彰利 「ヤツは所詮、皆が言うようにチキンぞ。     幼少の頃の隆正とは違うわ。あやつは勇ましかったぞえ?     今の小僧のようにローリングストーンみたいに影でコソコソ覗きなどせんわい」 バッ……バレてるーーっ!! 彰利 「椛の涙を見ておいて、アタイの存在に気づいたからって隠れるようでは……     クォックォックォッ……椛は任せておけませんなぁ」 ぐっ……! 凍弥 「任せる任せないの問題じゃないっ!」 椛  「凍弥先輩っ!?」 凍弥 「黙って聞いてりゃ好き勝手言ってくれるな!     いくら彰衛門だってそこまで言う権利が」 彰利 「たわけ!」 凍弥 「たわっ……!?」 彰利 「己の立場が危うくなったらすぐに権利権利と……!     貴様、そこまで時代に溺れたか!!     言い訳をする前に自分が椛のために何が出来たのか考えてみろ!」 凍弥 「ぐ……!」 彰利 「大体、『黙って聞いてる』意味がどこにあったのかね?     そんなことを言うよりも黙って聞いてなけりゃよかったんじゃないかね?     アタイの姿を見てから勝手に引っ込んでおいて、黙って聞いてりゃあ?     ふざけるのも大概にせい。恋人をないがしろにしてまで惰眠を貪る貴様が、     よくもまあ『任せる任せないの問題じゃない』などと言えたものだね!!     えぇーーっ!?悔しかったら言い返してみたまえ!!」 凍弥 「か……く、うう……!!」 悔しいけど言う通りだ。 立場が弱くなれば権利とか、自分で隠れておいて黙ってきいてればとか─── 彰利 「ムヒョヒョヒョヒョ!!このカスめ!カスめ!     所詮貴様はカスなのだよカスめ!カスめ!カスめ!」 凍弥 「カスカス言うな!流石にそこまで言われる筋合いはないだろ!」 彰利 「そうかね!?ホホホ!そうかね!ならば───」 凍弥 「───!」 彰衛門が俺のすぐ傍まで来て、 彰利 「楓の記憶と能力の移植を発案したの、誰だったかね……?」 と呟いた。 凍弥 「ぐ……く、くあああっ……!!」 彰利 「クォックォックォッ……筋合いが……なんじゃって?」 凍弥 「ウギィイイイイイイッ!!!!」 うおおムカツク!! こいつホントにムカツク! 彰利 「ほぉっほっほっほ!カスめ!カスめ!!」 凍弥 「こ、このやろ───」 彰利 「甘いわ!」 ブンッ! 凍弥 「んなっ!?」 彰利 「アタイにそんな一般的な不意打ちが効くわけがなかろうが!トアタァーッ!」 ガシィッ!! 凍弥 「うわっ!?」 彰衛門が後ろから俺の両手を掴み─── 彰利 「轟天弦月流奥義!ロメロスペシャル!」 瞬間的に足を固め、やがて───メキメキメキッ!! 凍弥 「うぁだいでででででで!!!」 彰利 「痛いか?ン?痛いかぁ〜?」 凍弥 「痛いわ!」 彰利 「ふはははは!これがただのロメロだけで終わると思ったら大間違いだぜーっ!」 彰衛門は締め上げた俺を廊下に降ろしたあと、大きく反動をつけて 彰利 「トタァーッ!ロメロスープレックスーーッ!!」 ジャンプしてからロメロスペシャルの状態でスープレックス───って! 凍弥 「まぁああああ待て待て待てぇえええっ!!死ぬ!死ぬだろこれはぁああっ!!」 彰利 「安心せい!廊下がキミを受けとめてくれる!     ボールでさえ友達なら廊下だって友達になれる筈だ!怖くない!」 凍弥 「怖いわ!怖いって!怖いだろぉっ!?こわ───キャーッ!?」 ごしゃあっ───!! 彰利 「やっちまったぜ……」 チェーンソーで神を斬殺してしまった心境です。 耳からドス黒い汁を出してるメェ〜ンはビクンビクンと痙攣してなさる。 だが挫けてる場合じゃねぇ。 彰利 「というわけで椛よ」 椛  「な、なに……?」 彰利 「小僧を癒してあげなさい!さすればラヴパワーが芽生えること請け合い!」 椛  「そうなの?」 彰利 「ザッツラァ〜イ!まぁアレだ、古来より傷ついた王子さまってのはね?     自分を癒してくれる人にめっさ弱いものなのYO」 椛  「そうなんだ……」 彰利 「それから、浅美チャンは小僧が好きらしいから気をつけなされ」 椛  「浅美ちゃんは友達です」 彰利 「夜華さんは?」 椛  「友達です」 彰利 「ぬう……」 そこんところの理屈、昨日の内に発動してくれりゃあいざこざなど……。 彰利 「まあいいコテ、アタイはちと晦神社に行きます故」 椛  「どうして?」 彰利 「んー……この時代の大樹をじっくり見たいというか、     元気無さそうならまた緑を成してあげましょうかとね」 椛  「そうなんだ……」 彰利 「オウヨ〜。というわけで椛。幸せになりなされ」 椛  「うんっ」 彰利 「よい返事ナリ!では!さ〜ら〜ば〜じゃ〜〜〜〜っ!!」 アタイは月空力を発動させてその場から消えた。 あとは若いモンに任せましょう。 うん最強。 風間 「あ……えっとさ、病院から出てきてよかったのか?」 学校から病院へ皆槻を送る途中、俺は彼女にそう言った。 不安だったのもあるけど、 病気だってゆうなら俺に告白するためだけにこんな無茶するのは申し訳ないと思った。 皆槻 「静香でいいですよ。わたしも雄輝くんって呼びたいです」 風間 「そ、そか。それじゃあ……静香」 静香 「わ……」 風間 「へ?」 名前で呼んだ途端、顔を真っ赤にする静香。 静香 「あ、あ、あの……すいません、     てっきり『さん』とか付けられると思ってましたから……」 風間 「あ、ご、ごめん!そうだよな、普通そうだよ」 静香 「あ、待ってください!」 風間 「え?」 静香 「そ、そのままでいいです……静香って呼んでください……」 風間 「そ、そっか」 やばい、カワイイ。 明らかに、俺自身が惹かれてる。 『友達から』って言ったのだって、実は見栄からだった。 こっちの方こそ告白したいくらいにカワイイ。 そ、そんな娘が俺を好きだって……! 風間 「く、くぅあぁああ……!!」 嬉しいじゃないか! お、俺っ……こんなにも嬉しいことって初めてだよ絶対! 風間 「………」 静香は顔を赤くして、チラチラとこちらを見ながら歩いている。 夕日の赤さも手伝って、その顔はやっぱり赤かった。 そしてふと目が合うと、パッと顔を逸らして照れ笑いをする。 ……そんな仕草が照れくさかったけど嬉しかった。 風間 「………」 て、手とか繋いだら……怒る、かな。 風間 「………」 ゆっくりと、夕日に照らされたシルエットが彼女に近づく。 やがて、俺は緊張の中で彼女の手をやさしく握った。 静香 「きゃっ!」 風間 「うわっ!」 だがその手にいきなり逃げられてしまった。 風間 「ご、ごめん!いきなり手なんか……!」 静香 「えっ?あ、あの、違うんです!び、びっくりして……!     でも……どうしたんですか?急に……」 風間 「いや、その……静香見てたら……手、繋ぎたくなって……」 静香 「………」 風間 「ご、ごめんな、なんか調子に乗っちゃったよな。ごめ……あ」 静香はにっこりと微笑むと、俺の手をやさしく包んだ。 その顔はやっぱり赤かったけど…… 静香 「嬉しいです。雄輝くんにそう言ってもらえて……」 風間 「………」 ───俺にはそれが、なによりも美しく見えた。 静香 「……雄輝くん?」 風間 「え?あっ、ごめん、なに?」 静香 「どうしかしたんですか?     急にぼ〜っとしたりして……あ、もしかして見惚れてました?」 風間 「へっ!?あ、いや!そんなことは!」 静香 「あ、あはは……そうですよね、そんなことあるわけないですよね。     ごめんなさい、わたしも調子に乗っちゃいました」 風間 「………」 ───ドクン。 風間 「えっ……?」 苦笑するように自分の頭を小突く静香を見ていたら、俺の胸が高鳴った。 風間 「………」 やばい。 やばいやばい……なんかやばい。 俺、なんか静香のこと……すごく意識してる。 静香 「……嬉しいな、こうやって雄輝くんと手を繋いで帰れるなんて」 ───ドクン。 静香 「これで、帰る場所が病院じゃなかったらステキだったんですけどね」 ───ドクン。 静香 「でも……やっぱり嬉しいです。     好きな人と歩くことがこんなに幸せだなんて知りませんでした」 ドックン……! 風間 「───っ!」 静香 「ねぇ、雄輝く───」 ガバァッ! 静香 「あっ……!」 そして気づけば───俺は静香を抱き締めていた。 そのまま滅茶苦茶にしたいくらいに心臓が高鳴って、どうにもならないほどに顔が熱い。 静香 「ど、どうしたんですか?雄輝くん……」 風間 「…………!」 静香 「雄輝くん……痛いよ……」 風間 「……っ」 俺はまるでそれを隠すように静香を抱き締めて、心臓を落ち着かせようとした。 だけど落ち着いてくれるわけもなく、 俺はただ……彼女をひとり占めしたいと考えていた。 俺だけを見てほしい。 俺だけを思ってほしい。 我侭で滅茶苦茶な考えだって解ってるのに、それが制御できないでいた。 そして理解する。 俺は静香のことが─── 風間 「あ、あのさっ」 静香 「え……?」 風間 「い、い……今更だってことは解ってる!     馬鹿なことを言うつもりだってことだって理解してる!     でもそれを承知の上で言うよ!」 静香 「雄輝くん……?」 風間 「そ、その……っ!お、俺と付き合ってくれ!」 静香 「……───!」 風間 「ムシの言い話だってことは解ってるけど!     なんかもう自分を抑えられないんだ!俺、俺……静香のことが好きだ!」 静香 「………や、え、ええ……!?」 風間 「さっきから俺だけを見てほしいとか俺だけを思ってほしいとか、     そんな考えばっかり浮かんで……!なんとかしてそれを伝えたくて……!     で、でも俺って不器用だからさ、どうしていいか解らなくて……!     だから、えっと……ああもう何言ってんだ俺……!」 もう自分が何を言いたいのかも解らない。 けど、彼女が好きだって気持ちは、 言葉にした途端に確信へと変わり、より大きなものになった。 風間 「と、とにかく……あっ……と、とにかくなんて言い方は失礼だよな……!     えぇっと……ああちくしょう解んねぇ……!!なんて言えばいいんだ……!?」 静香 「………」 きゅっ……。 風間 「うわっひゃあっ!?」 静香 「……わたしも……同じです。雄輝くんにわたしだけを見てもらいたいです。     雄輝くんにわたしだけのことを思ってもらいたいです……。     わたしは、雄輝くんが好きだから……     そんなこと言われたら断れるわけないじゃないですか……」 風間 「え?そ、それじゃあっ!」 静香 「………はい」 こくりと、彼女は頷いた。 その瞬間、俺の中に暴れ出したいくらい、叫び出したいくらいの衝動が駆け巡る。 でもそんなことをして驚かせたくなくて、俺はただ彼女を抱き締めた。 そんな中で考えることはキスしたいだとかもっとキツく抱きしめたいだとか、 そんなものばっかりだったのはちょっと申し訳無かったけど─── 夕暮れの帰り道……俺は確かに、彼女に恋をした。 Next Menu back