───仁義ある日常───
彰利 「で……椛?どうなんじゃ?」 アタイは椛に訊くことにした。 椛  「ひゃ、ひゃい……ま、まだです……」 彰利 「……嬉しさ余って呂律が回ってないな。顔真っ赤ですよ?」 椛  「はうう……だ、だってあんなふうに思ってくれてたなんて……」 彰利 「まったくよねぇ。小僧はもうちょっと行動で示すべきじゃよ」 フハァと息を吐く。 と、その時。 夜華 「おい貴様……!わたしを縛る意味はあったのか……!     言ってくれたら手伝いくらい」 彰利 「ダメ。夜華さんたら甘いから絶対ポカ起こすだろうし」 夜華 「な、なんだと!?」 彰利 「だってさぁ。バケモノの映像映した時、失神したじゃん。     椛でさえ『いやぁあああああっ!!』って叫んだだけなのに」 椛  「あぅ……恥ずかしいです……」 夜華 「わ、わたっ、わたしはっ、し、失神など!」 彰利 「まあお陰で邪魔されずに進められたげね。ご苦労さん」 夜華 「お、おのれぇえええ……!!大体他にもやり方というものがあっただろう!     なにもここまで大掛かりなことを」 彰利 「お馬鹿!あなた馬鹿よ馬鹿!」 夜華 「ば、馬鹿だとぉっ!?」 彰利 「そうだこの馬鹿!いいか馬鹿!つまりだな馬鹿!     ここまでやってこそだな馬鹿!追い詰められる状況ってのはできるんだ馬鹿!     そんなことも解らんのか馬鹿!この馬鹿!馬鹿!馬鹿め!馬鹿め!!」 夜華 「ご、ごごごがああああああああ!!!!!!」 ウヒョウ、やはり夜華さんはこうでなくっちゃ。 アタイを好きな夜華さんなんて夜華さんじゃないやい! 彰利 「というわけでシェイドさんや?縄を切ってあげてくださいな」 ルヒド「うん、解ってる」 死神さんは面倒くさがる風もなく、スパスパと縄を切っていった。 悠介 「はあ……。肩が凝るな」 ルナ 「わたしはそんなことないけど。悠介ももうオジサンだね」 悠介 「ほっとけ。……にしても、なんだって体が若返ってたんだろうな」 ルナ 「簡単よ。あの馬鹿逝屠が家系の人を月蝕する際に生気も吸収してたんでしょ。     それが少しずつ蓄えられて、若返ったままだったってことよ」 悠介 「……無駄に知識が広いのは変わらないなぁルナ」 ルナ 「えへへ〜、任せてくれたまえー」 彰利 「フンッ、家系のこと以外はてんで馬鹿なクセに」 ザクッ。 彰利 「ギャオオーーーーッ!!!」 ルナ 「どうしてホモっちは人の神経逆撫でするようなことしか言わないのよ!」 彰利 「どうしてルナっちは人の神経断ち切るようなことしか実行しないのよ!」 ルナ 「ホモっちが馬鹿だからよ!」 彰利 「ルナっちが馬鹿だからぞ!」 ルナ&彰利『なにさ!真似しないでよ!』 ルナ 「うがぁあああああっ!」 彰利 「きゃ〜、おばあさまが怒った〜ん♪アーレーたっけて〜♪」 ルナ 「おばあさまって言うなぁっ!」 彰利 「ババア!?」 ザクシュッ!! 彰利 「ギャオオーーーッ!!!」 …………。 凍弥 「ハッ」 ふと気づけば、ルナさんにザックザクに切り刻まれている彰衛門。 しきりにギャアギャア叫んでいるが、止める人は居なかった。 椛  「あ、あの……凍弥先輩」 凍弥 「えっ!?あ、や……っ!も、椛……!?」 椛  「あの……嬉しかったです、さっきの言葉……」 凍弥 「あ、はは……」 ヤバイ。 すごく照れくさい。 てゆうか恥ずかしい。 そして目を合わせられない。 椛  「凍弥先輩、こちらを向いてください」 凍弥 「………」 椛  「凍弥先輩」 凍弥 「や……その、なんか恥ずかしくて目を直視できないってゆうか……!」 椛  「……ふふっ。それでは、無理矢理でも向かせてしまいますよ?」 凍弥 「へ?」 きゅむ。 凍弥 「うひゃあっ!?」 椛が俺の頭を抱き、顔を振り向かせる。 椛  「わたしの目を、見てください」 凍弥 「う、うー、うー」 でも恥ずかしいものは恥ずかしいのである。 椛  「凍弥先輩っ」 凍弥 「い、いやっ、お前を見たくないとかじゃないんだ!     たださっきの言葉、みんなに聞かれてたと思うと恥ずかしくてさっ!」 椛  「むー……!えいっ!」 ゴキッ。 凍弥 「キャーッ!?」 首が、静かだけど凄まじい音を醸し出した。 椛  「わたしを見てくださいっ!」 凍弥 「解りましたごめんなさい!謝るから人体の形成を無視した捻り方しないで!」 椛  「え?あ……ご、ごめんなさいっ!」 パッと離される。 おお……死ぬかと思いましたぞ? 椛  「大丈夫……ですか?」 凍弥 「な、なんとか……」 椛  「……ごめんなさい」 凍弥 「え?あ……」 椛が俺の首に触れ、そこを癒してくれる。 暖かい光だ。 椛  「……こうして癒しの力を送るのも懐かしいですね」 凍弥 「そうだな。隆正や鮠鷹の頃はしょっちゅう世話になっていた」 椛  「隆正さまはやんちゃでしたから。傷を治すのも大変でした」 凍弥 「そう言ってくれるな。私はお前を守るため、強くなろうと必死だったのだ」 椛  「柿を盗み食いしようとして、木から落ちた時も……ですか?」 凍弥 「う……あ、あれはなぁ……」 椛  「ふふっ……あははははっ……」 凍弥 「ははは……いじめるなよ、楓巫女」 俺と椛はあの頃の景色を思い浮かべながら笑った。 記憶が一気に戻るってゆうことは、 その全てがもう一度頭の中で閃いて記憶に植え込まれるってことだ。 それはつまり、全ての経験が昨日のことのように蘇るってゆうこと。 だから隆正であった記憶も鮠鷹であった記憶も、まるで昨日のことのように思い出せる。 彰利 「フフフ、アタイは素で思い出せるぜ?」 ルナ 「あれっ!?」 いつの間にか俺の後ろに立っていた彰衛門が言う。 彰衛門を切り刻んでいたルナさんは心底驚いていた。 彰利 「クォックォックォッ、馬鹿め!     ルナっち、貴様が斬っていたのは等身大マスオぬいぐるみだ!」 ルナ 「どうしてそんなもの持ってるのよ!」 彰利 「フフ……いつかはこんな日が来ると思ってたからさ……」 悠介 「ウソだな」 彰利 「ウソじゃないやい!」 ルナ 「デマね」 彰利 「デマでもないやい!」 悠介 「ほっぱか?」 彰利 「ホッパでもないやい!」 ルナ 「狼少年ね」 彰利 「遠回しにウソって言ってるんだろてめぇルナっちこの野郎!!」 ドシュッ。 彰利 「キャーッ!!」 ルナ 「野郎じゃないわよ!」 せっかく助かったのに、彰衛門は再びルナさんを挑発して刻まれていた。 ……なんてゆうか、やっぱり何処に居ても彰衛門は変わらない。 椛  「ふふふ……」 凍弥 「ははははは……」 そんな彰衛門を見て、俺も椛も笑った。 人は変わるものだって誰かが言っていたけど、きっと根本は変わらない。 それを証明してくれる人が身近に居るということが、なんだか嬉しかった。 彰利 「うわぁっはっはっはっは!!」 彰衛門も負けじと笑った。 が、その笑い方がルナさんの怒りかったのか、やはり切り刻まれることになった。 彰利 「ぐおおおーーーっ!!どうしたことだ!     かれこれ一分以上は斬られているのに誰も助けにこねィェーーーッ!!」 悠介 「そこまで自業自得すぎると助ける気も起きん」 彰利 「なにぃ!?そんな裏が!?」 ルナ 「あはははは!ざまーみろホモっち!ひとりぼっちひとりぼっち〜っ!!」 彰利 「なんだとこのブス!!」 ズバババッ!! 彰利 「ぐおぉおおおおおーーーーっ!!!」 背中を裂かれた彰衛門が雄々しく叫んだ。 ルナ 「だからどうしてホモっちはそんなことばっかり言うのよ!」 彰利 「うるせぇーーっ!!もはや貴様などにわたしの行く道の邪魔はさせーーん!!」 そしてまた始る言い合い。 悠介さんは呆れる他、なかったみたいだ。 悠介 「お前らなぁ……子供の喧嘩じゃないんだから」 ルナ 「だってホモっちがぁっ!」 彰利 「だってこのブスがぁっ!」 ザクザクザクッ! 彰利 「ギャオォオオオーーーーッ!!!」 あ、また斬られた。 悠介 「お前さ、そこまで痛めつけられてるのによくそういうこと言えるよな」 彰利 「人で遊ぶのが人生の極みなのだよダーリン。     アタイはこうして、関係が崩壊せん程度の突つき合いで関係を深めているのだ」 悠介 「……今まさに関係が崩壊しようとしてるように見えるのは俺の気の所為か?」 彰利 「なぁに、ルナっちはあれで喜んでるのよ。     ごらん?あの生き生きとしたフェイス♪」 ……言われてから見てみれば、 ルナさんは般若すら裸足で逃げ出しそうな形相をしていた。 彰利 「ね?」 悠介 「……一度眼科医に目を見てもらったほうがいいぞ」 彰利 「いやだい!ぼく、お医者さんなんて大嫌いだ!」 ザクゥッ!! 彰利 「ぐぉおおおーーーーっ!!!!!」 子供チックな言葉から一変し、雄々しい声で叫ぶ彰衛門。 悠介 「っと、椛?そろそろ学校に向かった方がいいぞ。遅刻どころじゃなくなる」 椛  「そうですか?それじゃあ」 椛が俺の手を取り、目を閉じる。 彰利 「ぬお!?朝からぶっちゅのおねだりですか!?隅におけませんなぁ!」 椛  「!?」 凍弥 「うわっ!」 彰衛門の言葉に、瞬時に真っ赤になる椛。 椛  「ち、違うよっ!おとうさん、わたしそういうことをしようとしたわけじゃ」 彰利 「小僧!なにをモタモタしておるか!おなごに恥じをかかせるな!」 凍弥 「え?あ……えぇっ!?」 椛  「やっ……ち、違います!     わたしはそういうことをしようとしたわけではなくて!」 彰利 「なんと!小僧とはチスをしたくないとな!?」 椛  「ち、違うよぅ!いつだってお願いしたいくらいで───あ」 凍弥 「……なっ……!?」 椛  「あ、あ、う……う、〜〜〜〜〜っ!!!」 椛は顔を真っ赤にして走っていってしまった。 凍弥 「椛っ!」 俺は慌てて椛を追った。 彰利 「おのれ小僧!椛を辱めるたぁいい度胸じゃねぇか!」 悠介&ルナ『貴様の所為だろうがぁああああああああっ!!!!!!』 彰利 「キャーーーーァアアアアアアアアアアアアッ!!!!????」 屋根裏を降りたあたりで恐ろしい破壊音と絶叫が聞こえたけど、無視することにした。 凍弥 「椛っ!待てって、椛っ!」 神社へ昇ったあたりで椛の手を掴んだ。 椛  「やっ!は、離してくださいっ!」 凍弥 「落ちつけって!」 椛  「だ、だってわたし……!あんなに大勢の前で……!」 凍弥 「そ、それは俺も同じだから。     俺だって、その……椛がああゆうこと言ってくれて嬉しいし」 椛  「でもわたし、恥ずかしくて……!」 凍弥 「大丈夫だ。お、俺も恥ずかしかったから一緒だ!だから気にするな!」 椛  「うう……無茶苦茶です凍弥先輩……」 凍弥 「う、生まれつきだっ!」 でも恥ずかしいものは恥ずかしい。 それでも深呼吸してから口を開いた。 凍弥 「その……ありがとう。本当に嬉しかった」 椛  「……あぅ〜……」 凍弥 「あの……俺もさ、あんな風に思えるのは椛だけだから……さ。     あんまり泣かないでくれ、     泣いてる人ってどう対処したらいいか解らないから苦手なんだ……」 椛  「………」 凍弥 「な?頼むよ」 椛  「……だったらいじめないでください」 凍弥 「……苛めてるのは彰衛門じゃないか?」 椛  「おとうさんはそんなことしません」 凍弥 「………」 羨ましい。 あれだけ言っても信用されてるのか。 かなり羨ましい。 チクリ。 凍弥 「いてっ……?」 椛  「凍弥先輩?」 小さく胸が痛んだ。 ……もしかして、嫉妬の現れなのか? 凍弥 「……よくわからん」 椛  「?」 凍弥 「なんでもないよ。それじゃあそろそろガッコに行こうか。     ふたりで休みなんて、怪しまれちまう」 椛  「そうですね。それじゃあ───」 椛が俺の手を取り、目を閉じる。 恐らく転移するつもりなんだろう。 凍弥 「………」 間も無く、周りに光が浮いてくる。 そんな中に立つ椛は……なんてゆうかその、綺麗だった。 綺麗だったから、つい無意識に体が動いて───マチュリ。 椛  「!!」 キスをしてしまった。 そう、してしまった。 ギヒィイインッ!!!! 凍弥 「おわっ!?」 その途端に転移が始り、だがなにやら景色が妙に捻れた。 そして───ドシュンッ! 凍弥 「へ?」 椛  「〜〜〜っ!!!!」 景色は一瞬で変わり、俺の視線の先には───た、滝壷が!! 凍弥 「お、おわっ……おわぁああああああああああああああっ!!!!!!」 椛  「きゃぁあああああっ!!きゃあっ!きゃあっ!!きゃあああああっ!!!」 俺は椛の転移に賭けたが、 顔を真っ赤にしてうろたえている椛を見て───ああ、こりゃダメだな、と悟った。 不意打ちのキスは彼女に多大なダメージを与えたらしい。 転移の集中を妨害しただけでは飽き足らず、ここまで慌てさせるとは。 ああ、そんなことを考えてるうちに水面がドォッパァアアアアアアアアアン!!!!! …………。 悠介 「おのれらふたりしてなぁ〜〜〜にやっとるんだ!!」 凍弥&椛『あうぅ……』 で、びしょ濡れになって戻ってくると、俺と椛は悠介さんに捕まった。 それからはもう説教の嵐である。 悠介 「色ボケにかまけて滝壷に落ちれば満足なのか!?えぇっ!?」 椛  「え、えぇっ!?」 悠介 「危ないだろうが!なにかあってからじゃ遅いんだぞ!」 彰利 「そうだそうだ!ジャイアンの言う通りだ!」 悠介 「誰がジャイアンだこの野郎!!」 彰利 「剛田タケシ」 ボグシャア! 彰利 「ギャア!!」 悠介 「妙な横槍を刺すな!」 彰利 「まあまあ、ダーリン落ち着きなさいよぅ。     まずはふたりの衣服を乾かしてあげなければ」 悠介 「……ったく……!ふたりの体を乾かす風が出ます」 ブワァッ!! 凍弥 「ぶわっ!?」 椛  「っ……!」 悠介 「ほら、乾かしたぞ。文句ないな?」 彰利 「大ありだぁーーっ!!」 悠介 「わざわざ叫ぶな!……大体、どこに文句がある」 彰利 「ダーリンがルナっちとボディを重ねた回数」 ドゴボゴシャアッ!! 彰利 「フベェイッ!!?」 悠介&ルナ『関係ないっ!!』 彰利 「な、なに〜っ、気になることを訊いてなにが悪い〜っ」 悠介 「全てが悪いわ!」 ルナ 「悪いに決まってるじゃない!!」 彰利 「グ、グウウ……!!」 悠介&ルナ『グウウじゃないっ!!』 彰利 「ゲェーーッ!!なんて息の合った罵倒だぁーーーっ!!!     ま……まさか悠介武蔵、     ルナっち小次郎と称されるほどの犬猿の仲だったあのふたりが……     チームを結成するなんて!?」 悠介 「誰が武蔵だ!」 ルナ 「誰が小次郎よ!」 ドカバキベキゴキガンゴンガン!! 彰利 「アヘァアアーーーッ!!!」 奇妙な声をあげる彰衛門。 だけどその目がこちらに向き、ニッコリと微笑む。 凍弥 「あ……」 椛  「?」 凍弥 「……椛、今のうちに学校に行こう」 椛  「で?で、でも……」 凍弥 「彰衛門が行けって合図してくれた。だから、ほら」 椛  「……もう不意打ちはやめてくださいね……?」 凍弥 「わ、悪い」 椛  「それじゃあ……」 椛が俺の手を取り、目を閉じる。 やがて光が終結してきたと同時に、俺と椛は転移した。 彰利 「ゲゲェエーーーッ!!た、助けてくれって合図を出したのに見捨てられた!!」 悠介 「ちょっとこっち来い!性根叩き直したる!」 ルナ 「手加減なんてしないからね!」 彰利 「ウハァーーイ」 ボゴシャア!! 彰利 「つぶつぶーーーっ!!!」 悠介 「なんだよその妙な返事は!!」 彰利 「うきっ!うきっ!うきっ!」 頬を思いきり殴られたアタイは、顎が外れるのを体感した。 おかげで痛みのあまりに妙な声を出してのた打ち回ってます。 ただキン肉マン二世のボーン・コールドのセリフを真似ただけだったのに。 彰利 「ふぐごご……!」 ───ガコォッ! アタイは外れた顎を直してからダーリンに詰め寄った。 彰利 「なんてことすんのさ!ジョーが外れたじゃないの!」 悠介 「やかましい!!」 彰利 「ハァウィーーッ!!」 ボゴシャア!! 彰利 「つぶつぶーーっ!!」 大声に対抗して叫んだらまた殴られた。 ひでぇ、容赦ねぇ。 悠介 「今日という今日は意地でもその性根を叩き直してやるからな!」 ルナ 「そうだそうだ!」 彰利 「ゲゲッ!ルナっちがスネ夫チックだ!」 ザグシュウッ!! 彰利 「オギャワアァアーーーッ!!!」 ……その後、アタイはかつての親友にみっちりと説教され、 反論や奇声をあげる度に殴られたり蹴られたり斬られたり裂かれたりした。 かつての親友っていっても、今もなお親友ですが。 ……ちなみに夜華さんはシェイドにこの時代についてご教授してもらっていて、 アタイを救ってはくれませんでした。 ───キヒィンッ! 椛  「……はぁ」 凍弥 「うお……」 気づいたら学校の屋上に立っていた。 凍弥 「便利って言えば便利だけど……」 誰かに見つかったらコトだなこりゃあ。 椛  「それじゃあわたし、教室にいきますね。     ホームルームくらいは出ないと、進級できなさそうですので」 凍弥 「はは、そうかもな」 椛  「凍弥先輩は進級できなくても構いませんよ?来年から同じクラスになれます」 凍弥 「勘弁してくれ、留年なんてゴメンだ」 椛  「残念です」 ふふっと笑い、椛はドアを開けて校舎に消えていった。 凍弥 「………」 俺はいつも通りにボ〜っとしているつもりだったが、 椛の言葉に恐怖を感じて───教室に行くことにした。 まあその、やっぱり留年はゴメンだから。 ───そして教室に来てみれば。 男1 「オラァッ!!お嬢をどこにやったかって訊いとんのじゃあっ!!     喋れる内に言っとけや!オゥッ!?」 教師 「で、ですから……!私にもどこに行ったのか……!」 ヤクザな人が教師さんを締め上げていた。 浩介 「おお同志!なにやら大変なことになっているぞ!」 凍弥 「浩介、これ、なにごと?」 浩介 「うむ、お嬢という者を探して、ヤクザな人が乗り込んできたのだ。     クラスの中で『お嬢』などという名前のヤツはおらんのだが」 凍弥 「お嬢?」 ……なんか忘れてるような。 居たら居たでやかましく、居なかったら居なかったでヒドく平和なヤツが……。 男2 「おんどれらもじゃあ!級友なら知っとるじゃろう!!     お嬢は何処に居る!痛い目を見ンうちに言いやがれ!!」 女子 「ひっ……!」 男子 「し、知らないって言ってるだろっ!」 男2 「あァ……?あンだとゴラァッ!!」 男子 「うぅっ……!」 なんだったっけ。 うー……む……。 浩之 「とにかく盟友よ、まずはこの場をなんとかせねば」 浩介 「くそ、このような時に佐古田好恵が居れば、悪知恵で対処してくれるだろうに」 凍弥 「あ───」 魔王サコタヨーシェ。 封印……───体育倉庫!! 凍弥 「うわぁ忘れてた!!」 なんてこった!! 浩介 「ヌ?どうしたのだ同志」 凍弥 「スマン!急用を思い出した!!」 浩之 「な、なにぃ!?」 俺は志摩兄弟のもとから駆け、体育館へ走った。 イカン!イカンイカンイカンイカンぞ!! 佐古田のことだ、仕返しにどんなことをするか解ったもんじゃない!! てゆうか忘れてた。 あいつがヤクザ屋さんとこの娘だってこと。 ───ガタッ!ガタタッ!! つっかえ棒を取り、体育倉庫を開け放った。 そしてその先に、佐古田は居た。 ……呑気にマットの上で眠っている。 凍弥 「……いっそ、その余裕がありすぎる脳が羨ましいな」 呆れながら近寄り、起こそうとバサァッ!! 凍弥 「なにっ!?」 何故か突然、大きな網が降ってきた。 おそらく、バスケットボールを入れておく網だろう。 佐古田「ふははははは!!引っ掛かったッス!」 凍弥 「なに!?貴様起きてやがったのか!」 佐古田「甘い甘い!激甘ッス!アチキはこれしきで参る女じゃねえッス!!」 凍弥 「こ、このっ……おわっ!?」 ドシャア!! 網が足にからまり、思うように動けずに倒れてしまった。 佐古田「フッフッフッフ……よくも一日放置してくれたッス……。     昨日に限って体育が無かったのが激恨めしかったッスよ。     思い知るッス!!空腹と寂しさに耐えたアチキの痛み!」 げしげしっ!! 凍弥 「いでっ!いででっ!!」 魔王サコタヨーシェの恨みの具現はストンピングだった。 凍弥 「ば、馬鹿っ!いまはこんなことしてる場合じゃないんだよ!     お前ンとこのヤクザ屋さんが教室に殴り込みに来て───!」 佐古田「───マジッス!?ああもうなにやってるッス!」 凍弥 「お前こそ何してやがる!」 佐古田「霧波川凍弥が逃げないように、網を絡めてるッス。     コトが済んだらまた蹴りたいッスから。安心するッス、激蹴りまくりッス」 凍弥 「安心できる要素が皆無だぞ!?」 佐古田「やかましいッス!!     大体ムナミーがアチキをここに閉じ込めなければ、     こんなことには激ならなかったッス!!」 凍弥 「お前が風間の青春をネタに悪巧みしようとしなければ、     こんなことにはならなかったわい!!」 佐古田「フッ……ムナミー、いい訳は見苦しいッスよ?」 凍弥 「お、お前に言われたかないわぁっ!!」 ギュギュッ。 佐古田「ムフウ、これくらいにしといてやるッス。大人しくしてるッスよ?」 凍弥 「くそっ!解けコラ!!」 佐古田「激ダメッス。ムナミーの所為でアチキがヤクザ屋の娘だってバレたも同然ッス。     ……また、クラスから孤立ッス。それを考えればそれくらい当然ッス」 凍弥 「孤立じゃないだろがっ!まぁ〜た同じことで悩むのか!?」 佐古田「う……ううう……」 佐古田は震えだした。 悩んでいるのだろうか。 凍弥 「佐古田……?」 佐古田「ト……トトト……トイレッス!!」 凍弥 「なにぃ!?」 佐古田は慌てた風に走っていった。 凍弥 「……なんなんデショ」 さっぱりでした。 てゆうか動けん。 ガララァッ!! 浩介 「なにっ!?」 突如、ドアを開けて佐古田好恵が現れた。 そしてズカスカとヤクザへと歩み寄る。 佐古田「やめなさい!」 男1 「あん!?あ……お嬢!」 浩介 「なにぃ!?」 我は叫んだ。 なんと、佐古田好恵がお嬢だったのか……!? 佐古田「なにをしてるの!みんなに迷惑でしょう!出ていきなさい!」 男2 「いや……しかしお嬢。昨日は何処に行っていたんですか。     オジキが心配して……」 佐古田「そんなことは家に帰ってから説明します!出ていきなさい!」 男1 「は、はあ……すんませんっした」 佐古田好恵の罵倒に、ヤクザどもが去ってゆく。 我らはようやく安息を掴めたが─── 佐古田「………」 男子 「おい……佐古田ってヤクザの娘だったのか……?」 女子 「やだ……怖い……」 クラスの目は冷めたものだった。 佐古田「…………いつかこうなるって……解ってた」 佐古田は俯いたまま顔を上げず、走り去った。 我はどうすればいいかがよく解らず、 ただクラスメイツどもの囁きに耳を傾けることにした。 その話の内容は一年の頃の話で、我も聞き覚えのあるものだった。 男子 「そういや俺……佐古田がヤクザの娘だって話、一年の時に聞いた覚えがある」 女子 「あれ?でもそれってさ、     好恵をからかうために蕊宝大将軍が流したデタラメだったんじゃ……」 男子 「そうだったっけ?てーか……ズイホウ大将軍って誰よ」 ……うむ、やはりだ。 一年の頃、同志にそれとなく訊いたことがある。 佐古田好恵がヤクザの娘だというウソをついたのは本当か?と。 そうしたら同志は『ああ、俺が流したデマだ』と笑った。 ……もし、それが佐古田好恵を庇った同志のお節介だったら……? 浩介 「……いや」 事実、佐古田はヤクザの娘だったのだ。 同志が佐古田を庇ったのは疑いようが無いな。 ───……。 凍弥 「……悪い」 目の前に座っている佐古田は泣いていた。 肩を震わせ、顔を隠しながら。 佐古田「謝らないでよ……!いつかこうなるって解ってたんだから……!」 凍弥 「……ごめん」 佐古田「謝らないでったら!!」 ようするに、その涙の原因はクラスメイトの反応だったんだろう。 佐古田は今まで付き合ってきたクラスメイトを信じてたに違いない。 だけど返ってきた反応は……拒絶だった。 それが辛かったんだ。 佐古田「なにが友達よ……!     わたしの親を知っただけで急に態度が変わるのが友達……!?     わたしっ……そんなのいらないわよ……!!」 凍弥 「……あー、目の前で泣かないでくれるか?泣いてる女は苦手なんだ」 佐古田「うるさいなっ!それも計算してやってるんだから当たり前でしょ!?」 凍弥 「うお……」 流石だ佐古田。 泣いてても俺への当てつけは止まない。 凍弥 「ウーム。あのさぁ、友達ってのは適当に決めていいもんじゃないんだよ。     こんなことがあって、それでもお前と騒いでくれるヤツこそ、     本当の友達に出来るヤツなんじゃないか?」 佐古田「知った風に言わないでよ!」 凍弥 「いや、知ってるし」 佐古田「どうして知ってるの!」 凍弥 「昔、ちょっとね。それでも盟友で居てくれるやつが居る」 佐古田「……志摩兄弟……?」 凍弥 「そゆこと」 佐古田「………」 佐古田はそれっきり、体育座りのような姿勢で体を曲げ、 目から下を膝に乗せた腕にうずめながらこちらを睨んでいた。 凍弥 「……あのさ。その体勢、目のやり場に困るんだけど」 佐古田「いいわよ、別に減るものじゃないし」 凍弥 「俺が困るのっ!」 佐古田「じゃあこのままの体勢でいるわ」 凍弥 「野郎……!」 ちなみに俺の態勢は網で固定されている所為で変えられない。 自然に、佐古田を真正面に見ることになるわけだが……その。 女の体育座りっていったら……解るだろ? お願いします校長。 女子の制服のスカート部分、もっと長くしてください。 俺、こういうの嫌いです。 佐古田「……ねぇ」 凍弥 「なんじゃい」 佐古田「どうしてあの時……庇ってくれたの?」 凍弥 「……またその話か。いい加減忘れてくれたかと思ってたのに」 佐古田「こんなことがあれば嫌でも思い出すよ。     ……もっとも、わたしは忘れたことなんかなかったけど」 凍弥 「だろうな。俺に突っ掛かってくるのがいい証拠だ」 溜め息を吐いた。 そう、つまり佐古田が俺に突っ掛かってくることには理由がある。 それは俺達が一年の時に遡るんだが─── Next Menu back