───魔王とライバルと時空の覇者と開祖さま───
凍弥 「くぁ……あ〜あ……」 欠伸を噛み殺しながら廊下を歩く。 とくに行く宛てがあるわけでもなく、俺はブラついていた。 ようするに、高校になって初めて授業をサボったのだ。 でもやっぱり行く宛てがなく、 廊下を適当に歩いていると───階段側からひとりの女子が歩いてきた。 女子 「……なに?」 凍弥 「べつに。サボリか?」 女子 「保健室に行ってただけよ。あなたと一緒にしないで」 凍弥 「それもそうだな。養生しろよ」 女子 「え……?」 再び欠伸を噛み殺して、中学の時と同じく屋上を目指して階段を登った。 女子 「ちょ、ちょっと待って!」 凍弥 「んあ?なに」 女子 「……悔しくないわけ?」 凍弥 「だから、なにが」 女子 「ほら、あなたと一緒にしないで、とか」 凍弥 「あ〜……べつに。そんなの言われ馴れてる」 女子 「………」 凍弥 「それだけか?じゃあな」 俺は女子に手を振るでもなく、やっぱり欠伸を噛み殺して屋上へ向かった。 ……それが、佐古田好恵という人物との初めての顔合わせだった。 ───……。 凍弥 「立入禁止なのにベンチがあるのか」 俺は変わった屋上風景に苦笑していた。 だけどそこに寝転がり、空を見つめてから目を閉じた。 凍弥 「───って、あれ?」 ふと気づいたが、屋上の出入り口の上に誰かが寝転がっている。 よく見えないが、この高校の制服ではなく……どこか別の制服を着ている。 ……小柄な女の子みたいだ。 凍弥 「……だからどうしたってこともないけど」 欠伸をして目を閉じた。 その一瞬。 風が吹いたときに揺らされた少女の髪の色が銀色に見えたのは……多分気の所為だろう。 翌日、学食で浩介とうどんを啜っていると、昨日の女子に会った。 女子はサラダを手に、近くの席に座った。 そしてなにやらこちらをジロジロ見てくる。 浩介 「まいったな……もしかして我、惚れられたか?」 凍弥 「………」 いっそ、浩介の脳内が羨ましかった。 女子 「……ねえ」 浩介 「フッ……なにかね?」 女子 「あなたじゃなくて」 浩介 「『あなた』とは!気が早いお嬢さんだ!」 ドスッ。 浩介 「ゲウッ!」 ……どしゃあ。 浩介が仏骨(喉仏への鋭い攻撃)を受け、大地に沈んだ。 凍弥 「ヒドイな、なんのつもりだ?」 女子 「あなたに話があるの」 凍弥 「そうか。で?」 女子 「……ホントに怒らないのね。友達をこんな風にされて悔しくないの?」 凍弥 「悔しくはないな。だってこれくらい茶飯事だし」 女子 「………」 凍弥 「それだけか?だったらサラダ食えよ。しなびちまうぞ」 女子 「………」 しゃくしゃくしゃく……。 ───それからも、何故だか謎の女子は俺に付き纏った。 女子 「ちょっと!」 凍弥 「んあ?……またお前か。今度は何の用だ?」 女子 「あなた人としておかしいんじゃない!?どうしていろいろ耐えてられるのよ!」 凍弥 「耐えるって……なにが?」 女子 「なにが……!?教科書あんなにされて悔しくないの!?」 凍弥 「別に?あったって使わねぇし」 女子 「………」 ───その翌日。 女子 「佐古田好恵!」 凍弥 「いきなりだな。闇討ちの合図か?」 女子 「わたしの名前よ!合図なわけないでしょ!?」 凍弥 「そかそか。俺は霧波川凍弥だ。よろしく。そしてアディオス」 佐古田「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」 ───さらに翌日。 凍弥 「……あのさ、なんなんだ?俺、お前になにかした?」 佐古田「うるさい!絶対あんたを悔しがらせてやるんだから!」 凍弥 「……ふむ、それが目的ってわけか。……で、キミ、誰だっけ?」 佐古田「う、うがぁああっ!!!わ、わたしは佐古田好恵!昨日言ったでしょうが!」 凍弥 「うん。覚えてるし」 佐古田「なっ……!!こ、このぉおっ!!!」 凍弥 「悔しいか?悔しいだろう。     だったら俺にもそれを味わわせてみるがいい!魔王サコタヨーシェ!!」 佐古田「妙なあだ名つけないでっ!!」 ───やっぱり翌日。 凍弥 「……キミさ、新手のストーカーなのか?」 佐古田「どうしてわたしがあなた相手にそんなことしなきゃいけないのよ!!」 凍弥 「だったらいい加減にしてくれ。     一日に必ず起こるイベントが怒鳴り娘の相手ってのは疲れる」 佐古田「イ・ヤ・よ!」 凍弥 「そうか。ならば───もう容赦せんわぁああああっ!!!」 佐古田「おっ?ようやく本気!?バーカバーカ!!」 凍弥 「黙れブス!」 佐古田「ブッ……!?こ、このお馬鹿ぁああああああっ!!!」 ───……。 あとから聞いた話だが、佐古田好恵という人物は人を怒らせるのが好きらしい。 で、自分の言葉に無反応だった俺を標的にし始めた、と。 迷惑な話だ。 そしてそんな言い争いの日常を繰り返していたある日─── 男子1「知ってっか?一年に佐古田って女が居ただろ?     そいつの親ってヤクザらしいぜ……」 男子2「マジかよ……」 男子1「マジだよマジ!ほら、街の外れの方の牙王あるだろ?」 男子2「あのヤクザの巣窟ってゆう牙王か?」 男子1「ああ。そこのボスの名前がさ、佐古田重郎。     しかも、昨日一緒に歩いてるのを見たらしいんだ。     佐古田のヤツがボスのことを『おとうさん』って言ってるのも聞いたらしい」 男子2「うわっ……決定的じゃん」 男子3「どうするよ……」 男子2「どうするもなにも、あんまり関わらない方がいいだろ……」 俺は偶然、当時の3年が話していたことを聞いてしまった。 でも別にどうということはなく、ただ『そうなのか』と思っただけだった。 親は親、佐古田は佐古田だ。 親のことなんかでせっかく出来た『遠慮せずに騒げる相手』を拒絶するのは愚行だ。 だけど俺はその3年どもには干渉することはせず、その場を立ち去った。 ───そしてその翌日。 学校には佐古田がヤクザの娘だって噂が溢れかえっていた。 でも俺は普段通りに屋上でサボリ、眠ろうとしていた。 ……てゆうかね、志摩兄弟が家に泊まりにきた所為でロクに寝れてないんですよ。 眠くて眠くて。 ガチャッ。 凍弥 「んぐ……?」 眠気を逃がさないように、音のした方を見る。 すると、ドアを開けた状態で立っている佐古田。 佐古田「あ……」 そして俺と目が合うと─── 佐古田「な、なに?またサボってるの?     留年しても知らないわよ?ただでさえ馬鹿なんだから」 どこか遠慮がちに喋ってきた。 ……俺は何かを言い返そうとしたけど、眠くて眠くて。 ただ薄目で佐古田を見ることしか出来ませんでした。 ハンパじゃなく眠い時ってなにもする気が起きませんよね?まさにそれです。 だけど佐古田は何かを勘違いしたみたいで─── 佐古田「……ははっ……そうだよね。ヤクザの娘となんか話したくないよね……」 そう言って、階段を降りていった。 次の瞬間ドアが風で勢いよく閉まり、その音で俺の眠気は吹き飛んだ。 凍弥 「……おのれ。よく解らんが、それはあんまりですよ風神さま」 ビックリしました。 ───さて。 ここで俺が取る行動はなんでしょうねぇ。 ウッフッフ。 ガチャリ。 凍弥 「……右良し、左良し」 俺は放送室に侵入し、辺りの様子を窺った。 おっし、敵は居ない。 すぐさま放送室に忍び込むと、念のために鍵をかけた。 凍弥 「……フフフ。一度こういうことしてみたかったんだよね」 やがてマイクに近寄り、スイッチをオンにした。 凍弥 「あーあーあー……テステステス」 なんかマイクを見るとやりたくなるテスト。 けど、ンなことしてる場合じゃないな。 凍弥 「あー、諸君!壮健かね!?」 ……返事が無い、ただの屍のようだ。 まあでも、なんか騒々しくなってるのは聞こえるから成功ということで。 凍弥 「よいですか皆さん!佐古田好恵がヤクザの娘だという噂は、この俺!     蕊宝大将軍(ズイホウだいしょうぐん)が流した、     真っ赤なウソだぁあああーーーっ!!!!」 ……ざわ……!! 凍弥 「というわけで、わざわざ踊らされてくれてありがとう。愚かなる生徒どもよ」 ブチッ。 ウム、こう言えば諦めてくれるだろう。 あとはあの時の3年をブチノメーションすれば……ガチャンッ!ヂャコヂャコッ!! 凍弥 「ヌオッ!?」 放送室のドアが乱暴に開けられようとする。 だが鍵がかかっているのでそうそう開かない。 声  「先生、鍵です!」 声  「うむ!」 凍弥 「うぇっ!?」 大誤算!! そうだ!向こうには鍵ってもんがあるじゃないか! 凍弥 「え、えーと……!窓だ!」 こうなりゃなんでもやってやる!ここまでやりゃあ覚悟も決まるってもんだ! 凍弥 「チョエェエエエエーーッ!!」 俺は窓に向けて椅子を投げ、ブチ破った。 ガッシャアアアアアン!と、物凄い音が鳴る。 凍弥 「ふははははは!さらばじゃあーーーっ!!!!」 放送でそうしたように、声を裏返らせて叫んだ。 ───……。 教師1「ダメです、やはり逃げたようです」 教師2「そうかそうか」 教師1「なに呑気に笑ってるんですか柿崎先生!」 柿崎 「なぁに、まだまだこういう愉快なヤツが居て嬉しいってことだよ。     さ、もう戻りなさい」 教師 「しかし……」 柿崎 「ここに居てもどうにもならないだろう。行きなさい」 教師 「はあ……」 ……教師が去って行った。 柿崎 「……で。いつまで隠れてるつもりだ?」 ゲゲッ!バレてらっしゃる!! 凍弥 「……どうして解った?」 柿崎 「まあ、なんとなく経験上でな。     それで?佐古田好恵さんの噂を流したというのは事実か?」 凍弥 「さぁてね」 柿崎 「……やはりな。どうせ庇っただけなんだろう?」 凍弥 「うっ……だ、だからどうして解るんだよ!」 柿崎 「貴様など、ヤツに比べたら赤子も同然だからだ」 凍弥 「ヤツ?ヤツって?」 柿崎 「さぁな。……さ、今回はそのお節介に免じて見逃してやる。     さっさと教室に戻るなり屋上で寝るなりしなさい」 凍弥 「……そこまで解るのか?」 柿崎 「鍵を開けてるのは俺だからな。解ったらさっさと行け」 凍弥 「……了解」 なんか、目を見てたらこの人は『からかわれ馴れ』していると感じた。 この人はアレだ、猛者だ。 柿崎 「あーそうそう。     お前のばあさんに会うことがあったらよろしく言っておいてくれ」 凍弥 「……?来流美ばーさん?」 柿崎 「それだけだ。さっさと行け」 凍弥 「あ、ああ……」 ……さて、屋上である。 佐古田「どういうこと……?」 凍弥 「なにが?」 そこには既に先客が居て、俺を睨んでおりました。 佐古田「さっきの放送。さっきのって霧波川凍弥でしょ?」 凍弥 「いかにも」 佐古田「それじゃあ本当にわたしがヤクザの娘だってバラしたのは───!」 凍弥 「それは違うぞ。言いふらしてるのは3年の馬鹿どもだ。     俺は完全に噂が広がる前に『出鱈目だ』って先入観を持たせただけだぞ」 佐古田「………」 凍弥 「で、どうする?このままなにもしなけりゃ噂が固定されるだけだけど」 佐古田「……ひとつ、訊いていい?」 凍弥 「なんだ?」 佐古田「霧波川凍弥は……わたしが怖くないの?」 凍弥 「怖い?なんでさ」 佐古田「だって、わたしはヤクザの……」 凍弥 「……はぁ。ヤクザなのは親であって、お前じゃないだろうが。     俺はな、結構お前のこと気に入ってるんだぞ?     それを親がヤクザだから知ったこっちゃないだなんて、     そんなの損するだけだろうが。馬鹿かお前は」 佐古田「じゃあ……」 凍弥 「なんなら誓ってやろうか?俺は貴様のライバルだと」 佐古田「………」 佐古田はなにも言わない。 けど、足元に雫を落とし、顔をぐしぐしと拭った。 佐古田「わ、わたしも誓ってやろうじゃない!絶対に悔しがらせてやるんだから!」 凍弥 「やってみろ馬鹿めが!」 佐古田「うぐぐぐ……───ぷふっ」 凍弥 「……っ……ははははははは!!!」 佐古田「あははははははっ!」 俺達はよく解らなかったけど笑い合った。 そして軽い罵倒を浴びせながら、なんでも言い合える『友達』として手を叩き合わせた。 ───その翌日。 男子2「おい……!なんか俺達、ウソツキよばわりされてるぞ?」 男子1「そんなこと言ったってよ……!クソッ、誰だよあんな放送流したのは……!」 トントン。 男子1「あぁ?誰だよ」 凍弥 「ウス」 男子2「……?お前確か、一年の……」 男子1「なんの用だよ」 凍弥 「いけませんなぁ、人が困るだけの噂を流しちゃあ」 男子2「その声っ……!お前か!」 わざと声を裏返らせ、正体をバラした。 だけど怒られるいわれはない。 むしろ怒っているのはこっちの方だ。 男子1「てめぇの所為で俺達はウソツキ呼ばわりだ!」 凍弥 「あんたらの所為で佐古田は傷ついたな」 男子2「人を馬鹿にしやがって!!」 凍弥 「意味もなく怒鳴って凄むのは馬鹿のやることだな」 男子1「てめっ!!」 凍弥 「話し合いの解決も出来ないんだろ?」 ブンッッ! 凍弥 「ほら、すぐに手が出た」 男子2「るッせぇっ!!」 ガツンッ! 凍弥 「……てぇっ」 男子2「一年坊がナメたこと言ってんじゃねぇよ!!」 凍弥 「……ふっ……ふ、ふっ……は───はっはっはっはっはっは!!     あははははははははははははは!!!!!」 男子1「あ……?」 凍弥 「……2年早く生まれただけで威張るのは自分に自信の無いやつの行為だ。     あんた、早く生まれたこと以外で人に誇れることが何一つ無いんだな」 男子2「───!ンだとっ!?」 ブンッ!! 凍弥 「悪いけど───八つ当たりに協力してやれるほど、弱くないんだよ俺は」 男子2「え───?あ……」 ブンッ───ドボォッッ!!! 男子2「ぐ、きゃっ……あがぁあああああああっ!!!!!」 俺は拳をかわされてよろめいていた男の脇肋骨部分に、思いきり拳を振るった。 男子1「なっ……」 凍弥 「あのさ。つまらねぇことしてくれるなよ先輩。     俺、お前らみてぇなやつが一番嫌いなんだからさ」 男子1「チッ……!うぜぇんだよ馬鹿が!」 凍弥 「あー、そりゃあ嫌だけど奇遇だな」 ブンッ! 男子1「なっ!?」 凍弥 「俺もテメェがうざってぇよ……!!」 ガスッ!!ドガァンッ!! 男子1「ひぎゃっ!がぁあああああっ!!!」 センパイの攻撃をよけ、そのうなじ部分に握り拳を遠慮無く落とした。 それだけでは怒りが治まらず、センパイが倒れるのを拳で手伝ってやった。 凍弥 「あーあ、ムナクソわりぃ……」 俺は欠伸をしながらその場を去った。 校舎裏で助かったよ、人が居ないし。 ……って、居ました。 佐古田「………」 凍弥 「よお佐古田。奇遇ですな」 佐古田「アレ……霧波川凍弥がやったの?」 凍弥 「ん?んー……ま、隠してもしょうがないよな。そんなところだ」 佐古田「どうして?」 凍弥 「影でコソコソやる手口は大嫌いなんでね。鉄拳制裁ってやつだ」 佐古田「………」 凍弥 「用件はそれだけか?そんじゃな」 佐古田「あ、待つッス!」 凍弥 「……ッス?」 佐古田「へっ!?あ、な、なんでもない!!」 いや……なんだ? なにやら珍しい言葉遣いを聞いたような。 凍弥 「まあいいか。どした?」 佐古田「そ、その……あ、ありがとう」 凍弥 「………」 佐古田「なにキョロキョロしてるのよ」 凍弥 「い、いや……お前がそんなこと言うなんて。     まさか自分を囮にした何かの罠ではないかと」 佐古田「そんなことしないわよ!!」 凍弥 「そうか?」 佐古田「……こんな時は、だけど」 ぬおお……やはりか。 佐古田「とにかくお礼が言いたかっただけだから」 凍弥 「馬鹿めが……貴様のために動いたとでも思うたか!うつけ者め!」 佐古田「それでもいいの、結果として助かったし」 凍弥 「───き、貴様何者だ!!」 佐古田「……頭イカレた?佐古田好恵よ」 凍弥 「うそをつくな!俺の知ってる佐古田はどんな時でも人を落とし入れようとする、     極悪非道の女だぞ!?おのれ貴様!佐古田の皮かぶった頭の暖かい人だな!?」 佐古田「何気に扱いがヒドイわね……!!」 凍弥 「……冗談はさておき、お前ほんとに佐古田か?」 佐古田「『さておき』をした冗談をリピートしてんじゃねぇッス」 凍弥 「?……その『ッス』ってなんだ?」 佐古田「あ……な、なんでもないわよ」 凍弥 「………」 佐古田「な、なによ!」 凍弥 「もしかして……それが『素』の喋り方か?」 佐古田「!!」 凍弥 「……なんてな、そんなわけないよなぁ」 佐古田「そ、そうよ!当たり前じゃない!!」 凍弥 「ところで佐古田よ」 佐古田「なにッス?───あ」 凍弥 「……お前」 佐古田「ち、違うって言ってるでしょ!?もういいわよ!!」 そう言って、佐古田は逃走した。 ……むう、なんと足の速いヤツよ。 凍弥 「……で、どうしてこうなるんだか」 何故か靴を隠されていた俺は、四苦八苦しながらそれを発見した。 その頃には外はもう暗く、まんまとしてやられたと項垂れた。 凍弥 「闇夜の番には気をつけろってか……?」 風流じゃのう。 ……じゃなくて。 ガツンッ!! 凍弥 「ぐっ───!?」 冷静に状況を分析していると、突然後頭部に衝撃が走り、視界が途切れる。 ……いや、意識はあるんだがチカチカしていて何も見えない。 声  「一年坊……お前、死んだぜ?」 聞き覚えのある声に、俺を囲むようにして聞こえる多数の声。 凍弥 「……あーあ、やだねぇ。少数で負けたら次は多数ってのが一番情けない」 声  「ぐっ───!うるせぇ!勝ちゃいいんだよ勝ちゃあ!」 ???「……ほう?それならワシがそっちの小僧に加勢しても文句はないな?」 声  「あぁっ!?ンだよてめっ───えっ!?」 声  「う、うわっ……!が、牙王の……!」 ???「てめぇら!死にたくなかったら散りやがれ!     今度妙な噂を流して好恵を苦しめたらタダじゃおかねぇぞ!」 声  「ヒィイイイッ!!!!」 バタバタバタ……!! 人の気配が消える……いや、ひとりだけ残ってる。 ???「よぉあんちゃん。ウチの好恵が世話ンなったそうだな。     父親として礼を言うぜ」 凍弥 「そりゃどうも……ん」 ……うん、目も馴れてきた。 男  「ワシは好恵の親で佐古田重郎だ。知ってると思うが、牙王のボスを務めている」 凍弥 「初耳ですな」 重郎 「なに?はぁっはっはっは!なるほどな、好恵が気に入るわけだ!     ヤクザの親玉に面と向かって口を開いたのは、     普通のヤツじゃああんちゃんが初めてだぜ!」 凍弥 「そっか。それじゃあ俺も普通じゃないのかも」 重郎 「ああ、肝っ玉のデケェやつだ、気に入ったぜ。あんちゃん、名前は」 凍弥 「霧波川凍弥。佐古田好恵のライバルを務めている」 重郎 「ぷっ……くわぁっはっはっはっは!!本当なのか!     よ、好恵がそう言った時はなにかと思ったが……!!     くひっ……ぶ、ぶははははは!うわぁっはっはっはっはっは!!!!」 ……どうやらこの人は笑い出すと止まらない系の人みたいです。 重郎 「いやいやまったく……!マジで好恵が気に入るわけだ……!     ワシは面白いヤツが大好きでな……!あんちゃん最高だぜ……!!」 凍弥 「恐縮です」 重郎 「はっはっはっはっは!!恐縮するところじゃねぇだろそこは!!     がぁっはっはっはっはっは!ハゲホッ!ボゴホッ!!」 ……大丈夫なんだろうかこの人は。 でもなんとなく、『流石は佐古田親父だ』と思ってしまう。 重郎 「ふぅっ、ふぅっ……!!いやいやまいった……!     ここまで笑ったのは久しぶりだ……!     どうにも極道の世界に馴れちまうと笑いがなくていけねぇ。     どいつもこいつもしかめっ面ばかりしちまってよ。     そこんとこくると、あんちゃんはポイント高ェわけだ。     どうだ?ワシんとこに婿に来てみねぇか?」 凍弥 「……すんません。俺、今のところ誰も好きになるつもりないから」 重郎 「なんだ?ワシの誘いを断るのか?」 凍弥 「断るよ。申し訳無いけど、俺はあいつの『ライバル』だ。     だからこそ今の関係があるし、それを変えようって思わない。     それは多分、あいつも同じだ」 重郎 「───ブフッ!!」 凍弥 「!?」 重郎 「ブグフハハハハハハハ!!!!!クサッ!クサいぞあんちゃん!!!     今のは高ポイン……ゲフッ!!ぐはははははは!!!がははははははは!!!」 ……ダメだ、なんかダメですよこの人。 だって酒臭いもの。 重郎 「だがまぁ、納得出来た。あんちゃんみたいなヤツだからこそ、     好恵も気を許したのかもしれん。     どんな男か見に来た甲斐があったな」 凍弥 「え?」 重郎 「家に行ったら帰ってないってんでな。学校に来てみたってわけよ。     ……ところであんちゃんンとこのオナゴさん、何者だ?     いきなり輝く瞳で『ほ、本物のヤクザさん!?サインください!』なんてよ」 凍弥 「……サクラァ……」 重郎 「まあいいけどな。     そんじゃあ後日、組のモン全員で寄せ書きみてぇに書くからよ。     楽しみに待っとけって言っておいてくれや」 凍弥 「了解」 重郎 「そんじゃあな!アバヨ!」 おやっさんは背を向けながら手を振り、去っていった。 ……それからのことだが、おやっさんに釘をさされた3年どもは堅く口をつぐみ、 佐古田の親父さんのことをバラそうとはしなかった。 やがて3年は卒業。 俺と佐古田の関係も相変わらずの調子で、 ただ段々と『ッス』と『激』をつけるようになっていった。 おやっさんが言うには、 それは本当に気を許した相手じゃなければ出ない口調なんだそうだ。 で、今となってはそっちの口調に馴れてしまった佐古田は、 誰にでも構わずその口調で喋っている。 だけどおやっさんに言わせれば、そのきっかけを作ったのは俺なんだと。 そんなこんなでこの話は今に続く。 ───……ああちなみに。 後日、サクラに贈られた『超豪華極道色紙』は天界のおばあさまとやらに贈られた。 ……すると、さらに後日。 その天界から感謝感激の通知が腐るほど届いた。 ……もう何がなんだか解らなかったが、 与一だけは『相変わらずだな』と言って笑っていた。 ───佐古田と凍弥の出会い・完─── 凍弥 「あれから結局、     何度俺が『庇った理由は気にいらなかったからだ』って言っても、     全然信じようとしないで『喋るまで容赦しない』って言い出してなぁ」 佐古田「信じられるわけないじゃない。時間が経つごとに信じられないわよ。     あれから霧波川凍弥のことを知っていく度に、     霧波川凍弥が『お節介』だってこととかも知って、     それで『気にいらないだけ』って言われたって信じられるわけないわよ」 凍弥 「捻くれてるな」 佐古田「霧波川凍弥こそ、ウソは嫌いな筈でしょ?」 凍弥 「嫌いだぞ。だが一度ついたウソは証拠を握られない限りは貫き通すのが信条だ」 佐古田「それってウソついてるって言ってるようなものじゃない?」 凍弥 「いやいや、そんなことはない。そんなことはないから解いてくれ。     ライバルからのお願いだ」 佐古田「いやよ」 ライバルへの願いはあっさりと却下された。 凍弥 「……はあ。そういやさ、おやっさん元気?」 佐古田「遊びに連れてこいって毎日五月蝿いわよ。どう?一度来てみる?」 凍弥 「すまん、行ってみたいけど椛に殺される」 佐古田「ああ、あのチビっこ?そんなに怖い?」 凍弥 「お前、睨まれただけで悲鳴あげてたじゃないか」 佐古田「……わざとよ」 ウソだな。 凍弥 「まあそんなわけだから、おやっさんに謝っておいてくれ」 佐古田「そんなの自分でしなさいよ」 凍弥 「むう。ま、いいか」 どうせそうそう会ったりしないし。 凍弥 「ところでさ。いつまでこうしておくつもりだ?」 佐古田「一日放置」 凍弥 「なっ……し、仕返しか!」 佐古田「当たり前よ!人がどれだけ嫌な思いしたと思ってるのよ!」 凍弥 「知らん!」 佐古田「し、しらっ……!?このっ!少しは考えなさいよ!」 凍弥 「断る!いいからこれ解け!今なら貴様を救える!」 佐古田「救える?どういう意味よ」 凍弥 「だから。あとは俺に任せておけって。全てをウソに変えてやるから」 佐古田「………」 佐古田は突然沈んだ顔をすると、息を吐いた。 佐古田「……そういう目ぇしてる霧波川凍弥って有言実行出来るって知ってるよ。     でも……いまさらウソになったところで、     わたしはもうあいつらを友達だなんて思えないわよ……」 凍弥 「アホゥ、教室に居辛いってことが無くなるだろうが。     プラスになることは積み重ねれば大きなものになるんだよ。だから解け」 佐古田「………」 パパァン!! 彰利 「ハイお疲れさまでしたー!」 浩介 「なにぃ!?」 彰利 「いやー、緊張しましたか?でもいい絵が撮れたんで勘弁してくださいねぇ!     あ、実はリアルな反応を撮るために内緒で撮影してたんですよ!     キャストにも実物のヤクザさん使ってね!     ほら、佐古田サンて人が居たじゃない!?     あの人が昨年、ヤクザの娘か!?って噂が立ったでしょう!     そこで、それを実際っぽく撮ってみたらどうだろうというのが今回の企画!     どうでした!?驚きましたか!?」 ……突然入ってきた男がなにやら一気に喋った。 手にはカメラ。 男子1「えっ……!?じゃ、じゃあさっきのヤクザって……」 彰利 「お芝居です!」 男子2「じゃ、佐古田がヤクザの娘ってのはやっぱり……」 彰利 「出鱈目です!」 女子1「わたしたちを見て泣いたのは……?」 彰利 「ハイ!このロート製薬です!」 女子2「…………じゃあ、まんまと騙されたってこと?」 彰利 「まさに!見事に踊ってくれてありがとうございました!     おかげでいい恥さらしビデオが撮れました!     これはドッキリテレビに投稿させて頂きます!もちろん全国放送で!」 男子1「!お、おいっ!ビデオをひったくれ!放送されたらいい恥さらしだ!」 男子2「おおっ!うぉりゃぁああっ!!」 彰利 「甘いわっ!ムンアーッ!!」 ガシィッ!! 男子2「うわっ!?」 彰利 「ロンドン名物!タワァアアーーーブリッジ!!!」 男子2「うががががが!いでっ!いでぇーーーっ!!」 男子2……またの名を加藤伸吾が、どこかで見た男にタワーブリッジをキメられた。 彰利 「ムゥウウウオオオオ……!!」 グキッ!メキメキメキ!! 加藤 「げふっ!が、あ───」 浩介 「ム───!おい貴様!加藤は気を失った!下へおろせ!」 彰利 「わたしはまだギブアップを聞いておらん!」 加藤 「ギッ……ギバァーーップ!!ギバァーーーップ!!」 浩介 「なにぃ!?意識があったのか!?     ……と、そうではなく……ギブアップをしたぞ!おろしてやれ!」 彰利 「わたしはまだ『ギブアップ』を聞いておらん!」 浩介 「なにぃ!?」 めきめきめき……!! 加藤 「ごああああああ!!がは───!!」 加藤の手が力無く垂れる。 浩介 「───!おい!今度こそ気絶した!     気絶はギブアップと同じだ!さあ、離すんだ!」 彰利 「いいや!こいつは気絶の真似をしているのかもしれん!!」 ミリリ……メキメキ……GUWAA!! 妙な音とともに、加藤の体が裂ける! 浩介 「か、加藤が真っ二つに!!」 彰利 「馬鹿者め!これは等身大マスオ人形だ!」 浩介 「……ややっ!?」 見てみれば、裂かれたと思われた加藤はいつの間にかマスオになっていた。 彰利 「というわけで、ご協力感謝します!アディオス!」 ドシュウウウウウウン!!!! 浩介 「なっ───速ェーーーッ!!」 男はまるで滑るような速さで去っていった。 彰利 「……ムフウ、突然召喚してくれちゃうからなにかと思ったら。     こんなことで良かったんかい?どうせならダーリン呼んで、     30分内に教室で起きたことを忘れる霧が出ます、とでも創造させれば」 凍弥 「人の記憶に干渉するのは卑怯だろ。     だったら人間らしい方法で解決したらいいさ」 彰利 「チッ……気取りやがって」 凍弥 「あのさ。目の前でそういうこと言うのやめようよ」 椛  「……でも、なんだかあの人、納得出来なさそうな顔をしてますよ?」 椛の言葉を聞いて振り向いてみれば、なにやら不満を残した顔の佐古田。 凍弥 「どうしたんだ?」 佐古田「借りを作った自分が情けないだけよ」 凍弥 「む。こういう時くらい素直に受け取れ馬鹿」 佐古田「大きなお世話!」 チィ、かわいくない。 凍弥 「ま、いいさ。お前がどう思おうと、これでヤクザの説は」 ドタドタドタ……!! 重郎 「こんの馬鹿どもめ!あれほど学校には乗り込むなと言っただろうが!!     来い!クラスのやつらに詫びを入れるんだ!」 男1 「す、すんませんっすオジキ!!」 男2 「すんませんっす!!」 ドドドドドド……!! 凍弥 「………」 椛  「………」 佐古田「……まず、あれをなんとかしないと」 俺達の考えは一緒でした。 というわけで 彰利 「彰衛門ファイナルエルボーーッ!!!」 ゴパァン!! 男1 「ホゲェーーッ!!」 彰利 「ダイビングピーチボンバァーーッ!!」 ボイーム!! 男2 「ギャアアア!!!」 彰利 「彰衛門ストライクスリャァーーーッ!!!!」 ゴコッ───ごしゃあああああああん!!! 重郎 「ギィッ!!」 ───……どしゃしゃ……。 彰利 「成敗!!」 ヤクザ屋さんは滅んだ。 凍弥 「ふう……危うく台無しにされるところだった」 佐古田「……まあ、そうだけど。とうさん動かないわよ?」 彰利 「え?……えやっはっはっは!!」 凍弥 「笑って誤魔化すなっ!」 彰利 「まあよまあよ!     アタイをダーリンとルナっちの説教地獄から救ってくれた椛に免じて、     ここはステキに回復してやろうじゃねぇの!!」 佐古田「救った?なんのこと?」 凍弥 「知らない方がココロのためだぞ」 佐古田「………?」 ───さて。 こうしてヤクザ騒動も落ち着き、クラスは元のサヤに納まった。 だけど佐古田は自ら級友を避け、孤立するようになる。 やはり、急に態度が変わった人を見れば、その後の見る目も変わるものだ。 ……その変わりと言ってはなんなんだが…… 佐古田「ムナミー!今日という今日は貴様に勝つッス!」 凍弥 「だぁもう!しつけぇぞ!今日だけで何回目だ!?」 あの日から俺は佐古田に前以上に付き纏われている。 その理由は多分、俺は変わらないと思ったからなのであろう。 で、俺がなんとか逃げきると、次の標的になるのが志摩兄弟。 あいつらは人を見る目を変えるヤツじゃないので、 佐古田のお目がねに適っているようだ。 俺としては『女と居る』ってだけで椛が不機嫌になるから、 せめて椛が居る時だけは来てほしくないと思うのだが─── それに気づいていてなお……いや。 それに気づいているからこそ椛と一緒の時を狙ってくる。 相当に俺を困らせたいようだ。 佐古田「ムナミーは尻に敷かれるタイプッスね!情けない限りッス!」 凍弥 「黙れこのブス!」 佐古田「ブッ……!?い、いい加減にしやがるッスーーーッ!!!」 だけどまあ、俺もそう嫌な気分じゃないから。 だからせめて、状況ってものや事情ってものを踏まえた上で喧嘩を売ってほしい。 椛  「凍弥先輩!女の子にブスだなんて言ったらダメですよ!」 佐古田「チビッ子は黙ってるッス!!」 椛  「チッ……!?な、なんてことを言うんですか!気にしてるのに」(ブチッ) 凍弥 「あ」 佐古田「なにッス?今の音」 椛  「───……うきゃあああああああああっ!!!!!」 凍弥 「ヒィイイイイイ!!!か、開祖さまのお怒りじゃああああっ!!!!」 佐古田「な、なにッス!?奇声あげたって怖くブホォッ!!」 凍弥 「ああっ、佐古田が一撃で沈んだ!」 ……そして俺は、時々世界の理不尽さに悩む。 どうしてキレた椛は俺に襲いかかるんだろうとか、 どうしたら無傷で生還できるだろうかとか。 ……もちろん考えたところで答えが出るわけもなく。 キヒィンッ! 彰利 「ヨゥメェーン!遊びに来たブォッホォッ!!」 椛  「えっ!?わ、わぁあっ!おとうさん!!」 たまたま転移して現れた彰衛門が俺の盾となり、見えない力をまともにくらった。 やがて50メートルくらい吹き飛んで、 バキベキゴロゴロズシャアアアア!!!とかなり痛そうに大地を転がり滑った。 椛  「お、おとうさんごめんなさい!ごめんなさい!」 彰利 「フフフ……ド、ドジこいちまったぜ……」 椛  「おとうさん!?おとうさん!」 彰利 「あ、あとを……た、たのんだ……」 ……コトッ。 椛  「いっ……いやぁあああああっ!!!おとうさん!おとうさぁあああん!!」 ……さて。 椛を一番泣かせているのは誰だろうかと考えるに至り。 それはきっと彰衛門なんだろうなと瞬時に納得する俺が居ました。 死んだフリの上手さもさることながら、騙されまくる椛も凄いと思います。 ああ前略、両親様……俺はいったい、これからどんな生き方をするんでしょうね。 椛  「う、うー……!凍弥先輩がよけるからっ!!」 凍弥 「ゲェエーーーッ!!!!」 父さん、母さん、あなたの息子は今、心から大切な人に因縁をかけられています。 それは恐らく、一歩間違えれば死にも繋がる理不尽な因縁です。 どうやってこの場を凌ぐかが問題になりますが、あなたの息子はまず願います。 ……どうか、明日の朝日が拝めまドガァアアアアアアンッ!!!! Next Menu back