───サバイバルサマー志摩───
───夏本番。 ようやく訪れた長い休日───つまりは夏休みの中。 海を目の前にした俺達は喜んだ。 浩介 「ウヒョウ!夏だ!海だ!浜辺だ!イソギンチャクだ!」 浩之 「ウミウシ!ウミウシはどこだ!!」 浩介 「潮干刈りだ!食料を調達しろ!     夏休みの間は仕事場が休みだなんてどうかしてるぜ!」 浩之 「ブラザー!カニはどうする!?」 浩介 「食えそうなヤツだけ捕らえろ!魚もだ!」 浩之 「オッケーブラザー!」 志摩兄弟は乗り気だった。 夏休みの間、志摩兄弟が勤めているバイト先は店主の都合で臨時休業。 恐らく家族サービスなのだろう。 だが、それが志摩兄弟を地獄のどん底に突き落とした。 貯蓄の全てが家賃へと化す状況の中、志摩兄弟は飢えと戦うハメになった。 飢えは人にとって最大の敵。 今日のこの日まででさえ、水だけで凌いできたようなものなのだ。 浩介 「メシ……!ゲッゲッゲ……メシメシメシ……!!」 浩之 「ヒヒヒヒヒ……!!クイモノ……!メシ……!!」 そして、掻き揚げうどんととんこつラーメンを断って久しいふたりには、 既に禁断症状とも呼べるものが現れていた。 浩介 「ウドン!ウドン!!」 浩之 「ラーメン!ラーメン!!」 ふたりは亡者の如く浜辺を駆けてゆき、他の人々に恐れられていた。 凍弥 「……元気だなぁ……」 もちろん俺はたくましい生き様に感心しつつも呆れていた。 遥一郎「あいつらのことでどうのこうの言ってもどうにもならんだろ。     それより、お前はどうするんだ?」 呆れていると、与一が苦笑しながら話し掛けてきた。 凍弥 「せっかく海水浴に来たんだ、泳ぐさ」 遥一郎「そかそか。ま、たまの出掛けなんだ、目一杯遊んでこい」 やっぱり微妙に苦笑気味の与一は、海パンでもない私服である。 凍弥 「おっさんは?」 遥一郎「おっさんと言うのはやめろ。俺はここで荷物の見張りでもしてる。     荷物は少ないが、盗られるのも癪にさわるからな」 凍弥 「そっか。じゃ、行ってくる」 遥一郎「おー、行ってこい」 俺は与一に見送られながら海へと向かった。 サクラ「遥一郎さん、凍弥さんは?」 遥一郎「凍弥なら海だ。で、見ての通り俺は見張り」 サクラ「はぁ……保護者的ですね」 遥一郎「似たようなもんだ」 出る溜め息を惜しげもなく吐き出した。 実に退屈だが、まあ……どうとでもなるだろう。 サクラ「泳がないんですか?せっかく来たのに」 遥一郎「ああ。俺はこうしてた方が性に合ってる。     せっかくの遠出なんだ、景色でも堪能するさ」 サクラ「はあ……」 ミニは気の抜けたような声を出して俺の隣に座った。 サクラ「……平和ですねぇ」 遥一郎「これでうるさくなければ言うことは無いんだけどな」 周りはギャアギャアと騒ぐ人々で溢れている。 さすが夏休みだ。 浜辺をゆくバカップルに、男友達で騒ぐ輩とか。 そして─── 男  「おっ、カワイイ子!な、な、な、俺と一緒に遊ばねぇ?」 サクラ「………」 男  「おいっ、聞いてんの?彼女」 サクラ「え?わ、わたし?」 男  「そうだよそう!そんな頼りなさげな男なんてほっといてさぁ!」 サクラ「……頼りげがない?」 男  「どう見たってヤサ男じゃねぇか。     そんなヤツじゃあいざって時に守ってもらえねぇぜ?     俺が守ってやっからさぁ」 ぐいっ。 サクラ「きゃっ!?ちょ、ちょっとなにするんですか!」 男  「いーからいーから!俺といいことしようぜ?」 ……男がミニの腕を掴み、無理矢理立たせようとする。 遥一郎「ったく……おい、そこらへんにしとけ」 男  「あ?なんだよてめぇ!」 遥一郎「保護者だ」 男  「保護者ぁ?ぶはははははは!おいおいねーちゃん!!     保護者にするヤツ間違えたんじゃねぇか!?     こんなやつじゃあ相手にもなんねぇぜ!?」 遥一郎「いーからまずその手を離せっての」 ズビシ。 男の手に手刀を落とす。 男  「てっ!?て、てめぇなにしやがる!」 遥一郎「こっちのセリフだ馬鹿者。自分のことを棚に上げて、よく言えるな」 男  「てめぇじゃ役不足なんだよ。いいから女渡せよ」 遥一郎「出直してこい。ナンパするためだけに人を巻き込むな馬鹿者」 男  「てめっ!」 ごしゃっ! 男  「ぶっ……!」 俺の拳が男の鼻を捉え、鼻血を流しながら男が後退る。 遥一郎「ほら、失せろ。お呼びじゃない。ナンパなら余所でやれ」 男  「〜〜〜っ……マグレ当たりで調子に乗ってんじゃねぇ!」 ガッ!ドスッ!ボゴォッ!! 男  「えはっ……!!」 どしゃっ。 男が浜に倒れる。 遥一郎「まったく面倒くさい……。     あのな、怒るためや殴られるためにナンパしてたのかお前は。違うだろ?     だったらナンパが失敗した時点でとっとと失せろ。     目的を履き違えるんじゃない」 サクラ「……やりすぎじゃないですか?」 遥一郎「ハッキリ言うぞ。喧嘩ってもんは売ってくる方が悪い」 俺はフン、と息を吐いて寝転がった。 サクラ「……結構乱暴者だったんですね」 遥一郎「サクラと一緒に居た───まあ、普通の人だった時はそれほどでもなかったさ。     ただこの時代じゃあ性格が悪いヤツが多すぎるんだよ。     俺も精霊になってからは腕っ節が強くなったし、     なにより『争う』って認識した時点で相手の動きが遅く見えるんだ。     ようするに俺の動きが速くなるわけだが……って、     こんなこと話してもどうにもならないな、忘れてくれ」 サクラ「はあ……」 美紀 『相変わらず苦労してるんですね……』 遥一郎「よ、美紀。まあそんなところだ」 サクラの隣に姿を現した美紀に軽く手を挙げる。 美紀 『それにしても、大丈夫だったんですか?』 遥一郎「なにがだ?」 美紀 『ほら、凍弥くんの恋人とか。誘わなかったんですよね?』 サクラ「そうですよ。ちょっと不安なんですけど」 遥一郎「大丈夫じゃないか?俺は知らん」 美紀 『わぁ……投げ遣りだぁ……』 サクラ「投げ遣りですねぇ……」 遥一郎「ほらほら、俺の相手なんてどうでもいいからお前も泳いでこいよ」 サクラ「はぁ……そうですね、解りました。それじゃあ行きましょうか美紀ちゃん」 美紀 『そうだね』 サクラが海へ向かって走ってゆく。 俺はそれを見送ってから目を閉じた。 しかし、退屈なものだ。 そういやどうしてこんなことになったんだっけ……? ……思い出せん。 ───数日前─── 校長 「えー、これから夏休みに入るわけだが───」 校長がウダウダと御託を並べる中、俺と志摩兄弟はボ〜ッとしていた。 浩介 「───」 浩之 「───」 いや、志摩兄弟は放心している。 去年と同じく、志摩兄弟にとって夏休みは死活問題なのだろう。 凍弥 「……浩介、今年もバイト先見つからなかったのか?」 浩介 「……………………」(…………コクリ) 相当の間を置いて、浩介は頷いた。 去年もこんな感じで、夏休みの間のみのバイトを探すも見つからず、 死活問題を発生させていた。 志摩兄弟のバイト先は夏休みの間は休みなのだ。 浩介 「……またサバイバル生活だ」 凍弥 「貯蓄はないのか?」 浩之 「計算してみたんだがな……家賃を払うとギリギリなのだ」 凍弥 「うあ……」 浩介 「ど、同志……しばらく食事は貴様の家で食させてもらって構わんか?」 凍弥 「サクラが居る分にはなんとかなるな。     サクラが天界に行ってたままだったらほんとにサバイバルだったぞ」 浩之 「うお……したくはないが、感謝する他あるまい……」 浩介 「赤裸々撲殺乙女殿の助けで助かるのか……」 サクラの持っているポシェットのお蔭で、 鈴訊庵に住む俺と与一とリヴァイアも助かってるし。 ああ、ちなみにサクラのポシェットからは食材が出てくるから助かってるという意味だ。 しかも無限だから困らない。 何が出てくるかが解らないのが難点だが、そのお蔭で毎食が違うのだ。 浩介 「まあいい、この際贅沢は言わん。頼むぞ同志」 凍弥 「ああ、一応了解はしておく」 浩之 「助かる」 志摩兄弟は心底安心したように息を吐いた。 が─── 凍弥 「ポ、ポシェットの調子が悪い……?」 サクラ「はい……」 学校から帰り、鈴訊庵前でサクラから聞いた言葉は絶望的なものだった。 掃除をしていたサクラを捕まえてのお話だったわけですが。 サクラ「今朝から食材が出なくなったんです……。原因も解らなくて……」 凍弥 「………」 俺は恐る恐る志摩兄弟の様子を窺った。 ……その視線の先で、志摩兄弟は固まっていた。 浩介 「わ……我らはどうなるのだ!?我らの命は!」 サクラ「わたしに言われても……」 浩之 「我らの明日は貴様にかかっていたのだぞ!それを……貴様ぁっ!」 サクラ「だから!わたしに怒られてもどうしようもないでしょう!?」 浩介 「ええい貴様なんぞに希望を抱いた我らが愚かだったわ!」 浩之 「この幼児体型め!体も小さければ懐も小さいわ!」 サクラ「ようじ───」(ブチリ) ギャア!?久々にキレた! 凍弥 「とんずらぁあーーーーっ!!!!」 浩介 「なにっ!?同志、貴様どこに」 ボゴシャア!! 浩介 「げはっ!!」 浩之 「ややっ!?ブラザー!?どうしたのだブラ」 ボゴシャアッ!! 浩之 「げふぅっ!!」 逃げ出した場所から撲殺音が響く。 ああ、なんか久しぶりの状況だ! でも嬉しくもなんともねぇ! 逃げろ!逃げるンだッッ!! 逃げ───ズドドドドドドドド!! 凍弥 「キャーッ!?」 サクラ「懺悔ェエエエエエエエッ!!!!」 凍弥 「ど、どうして毎回俺も襲うんだよお前───わぁああああっ!!!!」 ドゴボキャベキゴキャガンガンガン………… ……そんなこんなで、せっかく到来した夏休みはギスギスとしたものになってしまった。 浩介 「ハル……ハルルルルル……!」 浩之 「ハラ……ハラ……ハラヘリヘリハラ……」 撲殺現場で目覚めた俺が見たものは、 野獣のようにヨダレをたらしながら唸る志摩兄弟だった。 凍弥 「いでででで……く、首が……」 俺は俺で殴られた個所をほぐすように動かして、痛みを和らげようと 浩介 「うがあああああっ!!!!」 ゴリリッ!! 凍弥 「いでぇっ!?」 か、噛まれてる噛まれてる! 肩が!肩がぁあああああああああああっ!!!!! 浩介 「ハラ!ハラ!」 浩之 「ヘリーハ!ヘリーハ!!」 ゴリリ!ゴリゴリ!! 凍弥 「いでででで!!いてぇっての!!」 ドゴゴスッ!! 浩介 「ギャウゥ!?」 浩之 「ガウッ!!」 凍弥 「もうちょっと人間っぽい痛がりかたしろよ!」 暴走したふたりは、それはもう野獣っぽかった。 浩介 「ぐふっ!がはっ……!グ……!か、掻き揚げうどんを食したい……!」 浩之 「と、とんこつラーメン……!うおお……!とんこつラーメン……!!」 早くも禁断症状が現れた。 去年はホントに驚かされたからなぁ。 ───説明しよう。 志摩兄弟は一週間のうち一度は好物を食さないと、禁断症状が現れるのだ。 しかし金は家賃で全て消え、どちらかと言うと足りないかもしれないくらいの金だ。 ふたりともどこかで食うわけにもいかないらしい。 浩介 「うう……!こうなったら何か食いまくって気を紛らわせるしかあるまい……!」 浩之 「ブラザーよ……それが出来ぬから苦労しているのだろう」 浩介 「ぐっ……!な、ならばどこかで調達だ!山か!?川か!?海か!?」 凍弥 「海?あ、いいかもな。久しく行ってないし」 志摩 『───!!』 俺が『ただふいに思ったこと』を口にしただけで、彼らは大きく反応した。 浩介 「───同志よ!」 凍弥 「ん?」 浩之 「車で行くのか!?」 凍弥 「いや……家で車に乗れるのって父さんと母さんだからな。     車はひとつしかないし、父さんは仕事で車に乗っていくし。     自動的に車の案は無くなる」 浩介 「なに!?それでは我らが同乗できぬではないか!」 凍弥 「それは俺に言っても仕方が無いことだろ」 浩之 「ええい役に立たんやつめ!」 凍弥 「だからっ!それは俺に言っても仕方が無いことだろうが!」 浩介 「盟友凍弥よ!それでは貴様はなにで海まで行くつもりだったのだ!?     海は遠いのだぞ!?」 凍弥 「電車で行けばいいだろ?」 志摩 『まったくだ』 凍弥 「………」 俺の言葉にあっさりと頷く志摩兄弟。 時折、本当に盟友と呼べるほどの仲なのかと疑いたくなる。 浩介 「だがな、よく聞け盟友。我らは電車賃すら危うい存在ぞ。     我は電車に金を使うくらいなら掻き揚げうどんを食らうぞ」 浩之 「我はとんこつラーメンを食らうぞ」 志摩 『そこでだ!盟友よ、我らのために金を出せ!』 凍弥 「態度太すぎだぞお前ら!!何考えてんだよ!」 浩介 「知れたこと!」 浩之 「我ら、ただ生きることのみを思考とする修羅よ!!」 凍弥 「………」 立派なんだか傍若無人なんだか解らん境界に居る盟友を見て、 俺は溜め息を隠せなかった。 柾樹 「フフフ、話は全て聞かせてもらった」 凍弥 「なっ……父さん!?」 浩介 「おお、ムナミー(父)ではないか」 柾樹 「その呼び方やめろ」 浩之 「何用なのだ、ムナミー(父)」 柾樹 「………」 人の話を聞いても、それを飲み込もうとしない志摩兄弟に頭を抱える父さん。 気持ちは解る。 柾樹 「ま、いいさ。お前ら、海に行くんだな?」 凍弥 「予定としては」 柾樹 「そうか。だったら与一とサクラも一緒に連れていってやってくれ。     家に篭りっぱなしじゃ疲れるだろう。金なら俺が用意するから行ってこい」 浩介 「なにっ!?それは真実であろうな!我らの分もだな!?」 柾樹 「お前らのことなど知らん」 浩之 「なにぃ!?」 柾樹 「冗談だ」 浩介 「なにぃ!?」 柾樹 「ほれ、一万もあれば足りるな?」 凍弥 「あ、ああ……だけどどういう風の吹きまわしだ?」 柾樹 「なに、お前に婚約相手が出来て嬉しいだけだ」 凍弥 「へっ!?な……ど、どこでそれを───」 柾樹 「ん」 父さんは待ってましたとばかりに一枚の紙を渡してきた。 そこには─── 『*霧波川凍弥、朧月椛、ついに婚約発表!!  ステキな愛と憧れの舞台をアナタに!───謎の仮面号外メン・ペルソナアキトシ』 凍弥 「ぐはっ……!ど、どこが謎だよあの馬鹿!!」 柾樹 「今朝、屋根の上を飛び交いながらバラ蒔いてたぞ」 凍弥 「………」 ああ、そっか。 もともとあの男が隠しごとなんて出来るわけがなかったんだ。 信じた俺が馬鹿だった。 い、いや、『秋に結婚』ってことさえ伏せればいいとでも思ったんだろう。 ということで馬鹿なのはあいつだけだ。 柾樹 「で、ホントなのか?」 凍弥 「……ホントだ」 観念するしかありませんでした。 ああ神様、アナタひどい人。 柾樹 「そうかそうか!しかし、なんだなぁ。     『そんな感情抱いてない』とか言ってた相手と婚約か!     なにはともあれ嬉しいもんだ!……で?日取りはいつだ?」 凍弥 「それは秘密だ」 柾樹 「親に日取りを秘密にするのはどうかと思うぞ?     俺だって仕事があるんだ、急に言われても休めんぞ?」 凍弥 「………」 俺は観念して、父さんの耳元で囁いた。 柾樹 「ばっ……おまっ……!そんなに早いのか!?」 凍弥 「ああ」 柾樹 「だっ……おま……!ええっ!?本当なのか!?」 凍弥 「本当だ」 柾樹 「あ、相手の親はなんて言ってるんだ!?それよりももう挨拶したのか!?」 凍弥 「した。てゆうか向こうがそうしたいって言ってきた(脅迫まがいに)」 柾樹 「は……」 父さんは心底驚いていた。 いや、絶句と言うべきか。 とにかくショックが喜びを上回り、言葉を無くす以外になかったんだろう。 柾樹 「そ、そうかそうか。OK、OKだ。解った、ああ。うん」 頻りに頷きながら少しずつ退く父さん。 頭の中はパニック状態だろう。 柾樹 「…………で、親御さんの家は?」 凍弥 「両親の家はこの近辺。祖父母は月詠街だけど」 柾樹 「そ、そかそか……」 苦笑いのような、状況に困ったようなフェイスの親父サマ。 こんな時ってどうすりゃいいか解らなくなるのが人間ってもんだ。 父よ、あなたの動揺はもっともだ。 柾樹 「よ……よ、よし。俺と夕は挨拶に行ってくる。お前らは海に行け」 凍弥 「挨拶って……」 柾樹 「子供だけに行かせて親が挨拶に行かないわけにはいかんだろうが!     あぁああ……いや、落ち着け落ち着け……」 激しく動揺しまくっている。 柾樹 「あっ───夕!?夕ーーーっ!!!」 やがて家へと走りこみ、ドタバタと騒音を撒き散らした。 しばらくして─── 声  「え───えぇえええええええっ!!!!????」 母さんの絶叫が響いた。 浩介 「やかましい親御さんだな。空きっ腹に響くではないか」 浩之 「まったくだ」 凍弥 「驚かない方がどうかしてるだろ」 ドタバタドタバタドシャシャシャッ!! 夕  「ちょっ、とうっ、えぇっ!?け、けけけ結婚って!?」 慌しく転げながらも俺に詰め寄る母さんは、なんだか勇ましかった。 呂律が合ってないけどね。 凍弥 「結婚する」 夕  「───……だ、だって……凍弥、あなたはまだ17よ?法律ってものが……」 凍弥 「それがさ……彰衛門のヤツが俺のデータを書き換えちゃってさ……。     だから、どこで俺の出生調べようとしても、     俺ってもう18になってるみたいで……」 夕  「……そういえばさっき、家の中の掃除してたら……」 ……母さんが言うには、 保険証やらなにやらの俺のデータすら書き変えられていたらしい。 しかも書き換えた痕跡が見えないとのこと。 ……ふふ、彰衛門? 犯罪って知ってるかい……? 夕  「で、でもね、凍弥?あなたの知り合いであればいくらでも生き証人が居───」 ……ん? 凍弥 「母さん?」 夕  「───あら?」 母さんが突然ボウッとしたと思ったら、ハッと気づく。 夕  「……なんの話だったかしら」 凍弥 「俺が17で結婚することがどうのって話だろ?」 夕  「17?なに言ってるの、凍弥はもう18でしょ?」 凍弥 「……へ?あ、ちょっと待った母さん、なに言ってんだよ、俺は……」 夕  「俺は?どうしたの?」 凍弥 「………」 気づいた。 母さんの後ろに居るシェイドの存在に。 ヤツはニッコリと穏やかな笑みを浮かばせ、スゥッと消えた。 ───野郎!記憶を操作しやがった! 凍弥 「浩介!浩之!お、俺は17だよな!?」 浩介 「なにを言っているのだ同志。貴様は18だろう」 浩之 「そうだぞ同志。貴様は18だ」 凍弥 「高校2年で18なわけねぇだろうが!!違和感くらい感じろよ!」 浩介 「───……貴様は留年したのだ」 凍弥 「不吉な情報に書き換えてんじゃねぇーーーっ!!     大体俺が留年で2年ならお前らも留年したってことになるんだぞ!?」 浩介 「したのだ」 凍弥 「ゲェーーーッ!!完璧に都合よく書き換えられてやがるーーっ!!」 夕  「どうしたの?今日の凍弥、変よ?」 凍弥 「変って言うな!俺は正常だ!」 ああくそ!大方、彰衛門のヤツがシェイドに情報操作を任せたんだ! そうじゃなきゃこんなことが実行されるわけがない!! 夕  「───あ、そうだ。仕度してお相手のご両親さんに挨拶に行かなきゃ」 凍弥 「イヤァアーーーッ!!待って!     待ってくれ母さん!誤解したまま行かないでくれぇっ!!」 懇願するも、母さんは家の中に消えてしまった。 凍弥 「………」 ……も、いいや。 浩介 「同志?」 凍弥 「明日……気分転換に海に行こうか……」 浩之 「おお、もちろんだ!」 凍弥 「……そうだ……それがいいさ……フ……フフフ……」 その時、俺の頬に涙が伝っていたことは誰も知らない。 ───数日前・完─── で、その翌日に雨が降り、そのまましばらく続いたために数日後の今、俺は泳いでいる。 凍弥 「………」 ただ黙々と泳ぐ。 特に感動は無かった。 凍弥 「……はぁ」 母さんの話じゃあ、椛の両親とはすっかり打ち解けて、今日は家に招かれたそうな。 今頃楽しくお話中だろう。 考えたくもない。 とか思いながらも…… 凍弥 「……椛、どうしてるかな」 考えることは椛のことばかりの自分の頭の中に少々呆れる。 俺は仰向けになって海を漂いながら、ただ愛しい人を思い浮かべた─── ───。 コンコンコン。 ……返事はない。 椛  「……居ないのかな」 鈴訊庵に来たわたしは、ノックをしても反応の無いその場所で息を吐いた。 突然訪れて驚かそうとしたわたしの計画は挫かれてしまった。 男の子「おまえ、なにやってんだ」 椛  「え?あ……えと」 考え事をしている横から、男の子が話し掛けてくる。 男の子「とーやたちならいないぞ」 椛  「え……?凍弥先輩を知ってるんですか?」 男の子「らいばるだ」 椛  「………」 男の子「それよりおまえこそなんだ!どろぼうとかだったらただじゃおかないぞ!」 椛  「えーと……わたしは朧月椛。凍弥先輩の恋人です」 男の子「おぼろづき……あーっ!おまえ、とーやとけっこんするおんなだな!?」 椛  「えっ……!?」 思いがけない言葉にわたしは自分が赤面するのを感じた。 男の子「とーやはおれのにいちゃんになるはずだったんだぞ!     ねーちゃんがあんなことにならなかったら、     とーやはおれのにーちゃんだったんだ!」 椛  「………」 男の子「……でも、おまえをやっつけてもねーちゃんよろこばないから。     だから、ゆるしてやる。ねーちゃんだってゆるしてくれるとおもうから」 ……よく解らないけど、 この子のねーちゃんとやらも凍弥先輩のことが好きだったらしい。 男の子「おい、ねーちゃん」 椛  「え?わたし?」 男の子「そうだ!こんなこというのはくやしいけどいってやる!     ……とーやとしあわせになってくれ!ねーちゃんのぶんまで!」 椛  「………」 驚いた。 言うことは滅茶苦茶だったけれど、この子の目には涙が浮かんでいたから。 男の子「もし『りこん』なんてしたら、     おれがおまえをろめろすぺしゃるでやっつけるからな!」 椛  「………」 ロメロスペシャル。 その言葉を聞いて、真っ先におとうさんの顔が頭に浮かんだ。 椛  「はい、解りました。必ず幸せになりますよ」 男の子「やくそくだぞ!」 椛  「もちろんです」 男の子が差し出した小指を小指に絡め、指切りをする。 そして離した頃─── 椛  「それで……凍弥先輩はどこに?」 男の子「とーやならうみにいくって」 椛  「海?」 海。 海は夏の恋人達のデートスポットと聞いたことがある。 椛  「……男友達と、ですよね?」 男の子「さくらねーちゃんもいっしょだったぞ」 椛  「───」 女。 女の人と……デートスポットに……? わたしは連れていってくれないのに……? そんな話すらしてくれなかったのに……? 男の子「あ、あれ……?なんかとりはだがたってきた……!」 椛  「フ───フフフフフ───」 わたしは笑っていた。 とても自然に笑っていた。 自然じゃないのはこの心だろうか。 ざわついて、ただただ苛立ちが募る。 そういえば聞いたことがある。 海は人を開放的にして、『なんぱ』とかゆうものをさせるって。 椛  「……───!!」 そんなことはさせない。 するとは思わないけど、されるかもしれない、 そんなことをする人は許さない。 許さない───!! ───ゾクゥッ!! 凍弥 「ハッ!?」 ふと感じた寒気に、俺は後ろを振り向いた。 浩介 「どうしたのだ同志。さあ、早く手伝え」 凍弥 「あ、ああ……なんか喩えようのない寒気がしてさ……」 謎が残ったが、そのままカニの捕獲に没頭することにした。 ───泳ぎ疲れた俺を待っていたのは浩介の誘いだった。 カニを捕らえたいから手伝ってくれと。 凍弥 「しかしさ、こんな浅瀬に居るカニ、食えるのか?」 浩介 「知らん。知らんがサバイバルとはそういうものなのだ。     生きるためならイソギンチャクをも食すぞ我は」 なんとも逞しいことだ。 凍弥 「そういや浩之は?」 浩介 「ヤツは魚釣りの最中だ。食えるものを釣ってくれればいいがな」 凍弥 「なんでも食うんじゃなかったのか?」 浩介 「流石に毒のあるものは食えぬだろう?」 凍弥 「それはそうだな」 頷きながらもカニを追う。 ジリジリと間合いを取りつつ、浩介もその逆から間合いを詰める。 手には軍手を二重にしたものと、虫カゴ。 こんなもので捕らえようだなんて、あまり良策とは思えないが─── とどのつまりは予算の問題だったらしい。 浩介 「今ァッ!!」 凍弥 「応ッ!!」 浩介の合図で一斉に襲いかかる。 それを察知したカニは高速で逃げ出すが、俺は神経を研ぎ澄まさせてそれを追った。 だが足が海水に浸かっていては思うように動けないのも道理なわけで。 浩介 「くっ!逃げられる!奥義・ダイビングキャッチャアーーッ!!」 ズバァーーッ!! 凍弥 「なにっ!?」 獲物の逃走速度に恐怖した浩介は、逃げられまいと飛びついた。 そして見事キャッチ!!ザクザクザクザク!!! 浩介 「ミギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」 しかし指を切り刻まれまくる。 だが離さない! ど根性でカニを虫カゴに放り、見事カニを捕まえてみせた!! 凍弥 「うお……すげぇ!お前すげぇよ!」 俺は素直に拍手した。 ナイス根性だ浩介! 浩介 「ぐ……!フフフ……!どうあれ、カニはゲットした……!」 痛みに耐えながらも、浩介は口の端を歪ませた。 切れてはいないものの、カニに挟まれると痛いものだ。 浩介 「よし次だ!ブラザーの様子を見に行こうぞ!」 凍弥 「ああ、解った」 俺と浩介は、浩之が釣りをしているという岩場の方へと向かった。 ……こちらとは反対側の方だ。 Next Menu back