───マグロと海産軟骨魚の壱───
───ギリギリギリ……!! 浩之 「フッハァーッ!!確かな手応え!これは大物ぞ!!」 岩場では浩之が吼えていた。 見れば、大きなゴツイ竿と揺れ動く糸。 浩介 「大丈夫かブラザー!」 浩之 「おおブラザー!丁度よかった、手伝ってくれ!我ひとりでは耐えきれん!」 浩介 「了解だ!同志、貴様も頼む!」 凍弥 「ああっ!」 三人がかりで竿を手に持ち、それを引いた。 これは確かに重い。 岩にでも引っ掛かってるんじゃないかと思ったが、糸の先は海面で揺れ動いていた。 凍弥 「ここでは何が釣れるんだ!?」 浩之 「知らん!」 浩介 「だがこういう波の強い場所には大物が居るのがセオリーだ!     ならば釣るしかあるまい!」 気合を入れてるためか、自然と声が大きくなる。 足をしっかりと大地に下ろし、俺と志摩兄弟は竿を引いた! キリキリキリ……! 浩之 「くう……!!」 浩介 「踏ん張れブラザー!これほどの大物、逃したら愚もいいところだぞ!」 浩之 「解っておるわブラザー!ぬぉおおおおおおおおっ!!!!」 リールが何度も巻かれ、やがて魚影が海面に姿を見せる。 凍弥 「でかっ!?なんだよアレ!」 浩之 「気にするな!『何か』よりも釣るか釣れぬかだ!」 浩介 「飢えた我らの力……!とくと味わえぇええええっ!!!!!!」 ウゴゴゴゴゴ……!!ドォッパァアアアアアアアン!!! 凍弥 「う、うぉおっ……!!!」 志摩 『なにぃっ!?』 魚が飛び跳ねた。 やがて海面に沈むその姿は───マグロだった。 凍弥 「ウソだぁっ!!今の絶対見間違いだ!!     こ、こんなところにマグロが居てたまるかぁっ!!」 浩介 「御託はいい!糸が切れぬうちに引き上げるのだ!!」 浩之 「オウ!!」 キリキリキリ……!! 凍弥 「無理だろコレ!ラインもロッドももたねぇって!」 浩介 「安心しろブラザー!ロッドに見えるこれは鉄の棒で、糸は太いものを選んだ!」 凍弥 「どうして妙なところで手回しがいいんだよお前は───ぐうぅっ!!?」 ギシィッ!と腕に重みがのしかかる! さすがにマグロを釣り上げるのは……ぐはああ……!! 浩介 「ブラザー!同志!気分だけでも気合を入れるのだ!     この獲物、逃すことは許さん!!」 浩之 「当たり前だブラザー!ヌゥウ……火事場のクソ力〜〜〜っ!!」 浩介 「メイルストロームパワァーーーッ!!」 凍弥 「………」 志摩 『同志!』 凍弥 「やかましい!」 俺は妙な言葉を口走る代わりに本気で力を込めた。 やがて、少しずつマグロは持ちあがり───ドチャチャッ!! とうとう陸に上げることに成功した!! 凍弥 「……夢だよな、コレ」 頬をつねってみるが、当然痛い。 浩介 「馬鹿者同志!跳ねて逃げられてはかなわん!もっと手前に引くのだ!」 凍弥 「あ、ああ……」 マグロを引きずるようにして、より手前に引く。 ……で、改めて見てみても……マグロだった。 凍弥 「……あのさ。コレ、どうする気だ?」 浩介 「………」 浩之 「………」 志摩兄弟は黙ってしまった。 おそらく釣るのに夢中で考えてなかったんだろう。 ……ちなみに志摩兄弟は共通して刺身が苦手である。 浩介 「マグロステーキというのはどうだろうか」 凍弥 「サバけるか?」 浩介 「………」 再び黙ってしまった。 ドスドスと突ついてみても、マグロは相当に硬かった。 並大抵の包丁じゃあ包丁の方が負けそうだ。 浩之 「───待てブラザー。来る途中に見たんだが、この近くに旅館があった。     そこに売るというのはどうだ?」 浩介 「おお……それは名案!」 凍弥 「どうやってそこまで運ぶんだ?」 志摩 『………』 また黙った。 志摩 『ええい為せば為る!!』 志摩兄弟は走りだし、リヤカーのようなものに海水を入れ、そこにマグロを放った。 ドバシャッ!!ガボンッ! 浩介 「暴れるな!海水が飛び散るだろう!」 浩之 「よしブラザー!この縄で縛ろう!」 浩介 「よしきたブラザー!!」 縄を取り出してマグロとリヤカーを縛り、やがてヨロヨロとしながらも駆け出すふたり。 ……うん、逞しい。 浩介 「急ぐのだ!生きたまま旅館に届ける!」 浩之 「ブラザー!?絞めてしまった方が鮮度が保たれるぞ!?」 浩介 「馬鹿者が!素人がそんなことをしたら傷つけるだけだ!急げ!」 浩之 「がってんだブラザー!!」 ……やがて見えなくなる志摩兄弟を、俺は一応追うことにした。 遥一郎「……ん?」 遠くの景色に見える三つの人影を確認する。 なにやらリヤカーのようなものを押し、慌てて走る影。 それは───志摩どもと凍弥だった。 岩場の方から来たようだが……なにやってるんだ? サクラ「は〜〜……海って初めてですから新鮮です」 遥一郎「お、丁度いいところに来た。     ミニ、あいつらが何をやってるのか調べてきてくれないか?」 サクラ「あいつら?……あ、凍弥さんに……あの兄弟ですね」 美紀 『それならわたしが行ってきますよ』 美紀はそう言うと、さっさと飛んでいってしまった。 サクラ「……なんか水が飛び跳ねてますね。リヤカーですか?あれ」 遥一郎「俺はそうだと思う」 …………………………。 しばらくして美紀が戻ってきた。 美紀 『………』 遥一郎「美紀?」 美紀 『あ、あの……ですね。驚かないで聞いてくださいよ?     あ、わ、わたしは相当に驚いたんですが……』 遥一郎「どうした?」 なにやら相当に驚いたようで、美紀は少し震えていた。 遥一郎「なにかヤバいものでも運んでたのか?」 美紀 『え?あー……ヤバイといえばヤバイ……かもしれないんですけど。     ちょっと常識外れと言いますかなんと言いますか……』 遥一郎「?ハッキリ言ってくれ。訳が解らん」 美紀 『は、はあ。それでは……』 美紀は一度息を飲んでから、おずおずと口を開け─── 美紀 『ま、マグロを運んでいました』 と、言った。 遥一郎「………………なに?」 美紀 『マグロ、です』 もう一度言った。 遥一郎「マグ───マグロォッ!?」 美紀 『そ、そうなんですよ!生きたマグロをリヤカーで……!     旅館に運んで売るんだ、って言って……!     凍弥くんに訊いてみたら向こうで釣ってきたって……!!』 遥一郎「釣ったって……こんなところに居るもんなのか!?」 美紀 『わたしに訊かないでくださいよ!』 俺と美紀はそれはもう慌てまくった。 マグロを釣ったってゆう時点で驚きだ。 サクラ「あのー……まぐろってなんですか?」 遥一郎「昔は嫌われていた魚だが今では大変に好まれている魚のことだ!     ぁあああっ!なにやっとるんだあいつらはぁっ!!」 なんかもう保護者気取りで来た自分が馬鹿みたいに思えた。 てゆうか、男としては一緒に釣り上げてみたかった。 ───…………。 凍弥 「……ってわけで……」 浩介 「現金5万円を手に入れた」 遥一郎「ほんとに売れたんかい!」 与一が本気で驚いていた。 そりゃそうだ、俺も眩暈がするほどだった。 浩介 「ちなみに料理もご馳走になった上でな。満腹だ」 浩之 「マグロの方は競り市に持って行くらしい」 凍弥 「俺から言わせてもらえば、競りならもっと値段が膨れ上がると思うけどな」 浩介 「馬鹿め、多すぎる金は人を荒ませるものだ。だから5万にしておいたのだ」 凍弥 「十分だと思うけどな」 遥一郎「………」 開いた口が塞がらないようだった。 遥一郎「質のいい本マグロとかなら1キロで1万以上なんて当たり前なんだがな……」 浩介 「マグロの見分けなど我には出来ん」 遥一郎「それにしたって5万は少ないだろ……」 浩之 「やかましいぞおっさん!我らがいいと言っているのだ!納得しろ!」 遥一郎「おっさん言うな!」 凍弥 「ま、いいんじゃないか?本人達が納得してるんだし。     それにしつこく言うと金の亡者みたいだぞ与一」 遥一郎「……それもそうだな」 ハフゥと息を吐いて、与一はシートに座り直した。 その際に呟いた言葉は『俺も生きたマグロを見たかった……』だった。 俺も相当に驚いたから気持ちは解る。 遥一郎「ああ、それじゃあお前らは食事を済ませたんだな?」 凍弥 「いや、俺は遠慮しといた。旅館とかの食べ物って口に合わないんだ」 遥一郎「そっか。じゃ、お前と俺とミニとで食いに行くか」 凍弥 「了解」 サクラ「はい」 志摩 『そうか。ならば我らは荷物を見張っていよう』 遥一郎「ああ、頼む」 浩介 「任せておけ」 自信満々に言う浩介に軽く手を挙げ、俺達は浜茶屋に行くことにした。 遥一郎「なに食う?ラーメンか?」 凍弥 「ヤキソバだろ。ラーメンはインスタントだと聞いた覚えがある」 遥一郎「それもそうだな。作らせてもらえるなら俺が作るんだが」 サクラ「ここに来てまで料理するつもりですか……」 遥一郎「骨の髄まで染み込んでるんだよ。今の俺なら料理人も……夢だな」 凍弥 「夢なのか」 遥一郎「高望みはあまりしない男なんだよ、俺は」 サクラ「なんかよく解りませんね」 凍弥 「まったくだ」 浜茶屋の椅子に座り、抵当に注文する。 飲み物は高くつくから注文しないが。 凍弥 「店の飲み物ってどうして高いんだかなぁ」 遥一郎「如何に安く仕入れて高く売るかだろ。     あんまりそういうの好きじゃないけど、売る側になってみれば解ると思うぞ」 サクラ「そんな機会はないと思いますけど」 遥一郎「だろうなぁ……」 ……妙な脱力感が俺達を襲う中、ただくだらない雑談を話しながら料理を待った。 ───……タンッ! 椛  「おじいさまっ!」 悠介 「うおっ!?」 境内の掃除をしていた時だった。 急に現れた椛が、俺に向かって凄まじい殺気を放ちながら俺に声をかける。 ……な、なんか怒ってないか? 椛  「おじいさま!おとうさんはどこですか!?」 悠介 「彰利?いや、ここには居ないぞ」 椛  「ほんとですか!?」 悠介 「ウソついてどうする。俺は誰がアイツを差し出せと言おうが喜んで差し出すぞ」 椛  「おとうさんを適当に扱わないでください!」 悠介 「あー……まず落ち着け。お前変わりすぎ」 椛  「だって!」 前は張り詰めた雰囲気もあったにはあったけど、 それでも大人しい娘って印象があったんだがなぁ……。 悪いとは言わないが、全てが彰利が過去に飛んだのが原因ってのが納得出来ん。 椛  「凍弥先輩が他の女の人と海に遊びに行っちゃったんです!     わたしは誘ってもくれなかったのに!ヒドイですヒドイです!」 悠介 「……それと彰利と、なんの関係があるんだ?」 椛  「おとうさんなら凍弥先輩がどこに居るか解る筈です」 悠介 「……その理屈がどこから出てくるのか是非とも訊きたいんだが」 椛  「おとうさんに解らないことなんて無いんです。     わたしがそう信じているだけです」 悠介 「………」 心の底から絶句だ。 俺の孫が不思議な人へとクラスチェンジしてしまったのを確かに感じた。 悠介 「そもそも何処に居るのかなんて知ってるんじゃないのか?     『海に行った』ってお前が言ったんじゃないか」 椛  「その海が何処にあるのかが解らないんです。     どこの海に行ったのかも解りません」 悠介 「……それを、彰利なら知ってると?」 椛  「絶対です」 悠介 「そ、そうか」 椛  「おとうさんは本当に居ないんですか?」 悠介 「居ないぞ。ホレ、ご神木を大きく若々しくしてからフラリと居なくなったぞ」 椛  「え?───あ……」 椛が振り向いた景色の先に、緑を生した大きなご神木が立っていた。 風に揺らされながらもしっかりと枝に掴まっている緑葉は、 夏らしさの他に力強さを見せ付けていた。 椛  「………」 椛はご神木を見つめたまま動かず、まるで懐かしむように小さく涙を溜めた。 椛  「……あの頃と同じ綺麗な木……」 悠介 「あの頃?……ああ、過去のことか」 椛  「はい───……おじいさま」 悠介 「うん?」 椛  「おとうさんは何処に行くと言ってましたか?」 悠介 「………」 ダメでした。 話は逸らせなかった。 悠介 「あー……」 椛  「おじいさま?」 目の涙をゆったりと拭い、だけどさっきよりはやさしい目で俺を見上げる椛。 悠介 「彰利なら雨になる前の日に───ああ、夏休みに入る前か。     その日に釣りに出ていってな。それから音沙汰無しだ」 椛  「そんな───探しに行かないんですか!?」 悠介 「彰利だし」 椛  「どういうことですか!?」 悠介 「ハッキリ言うぞ、あいつは敵に会う以外で死ぬことは有り得ない。     竜巻に巻き込まれてもひとりだけ無事だと思うぞ」 椛  「………」 悠介 「信じてやれって。あいつはもう勝手に死んだりなんかしないよ」 椛  「……もう、ですか?もしかして一度……?」 悠介 「………」 俺、いつから口が軽くなったっけ? まいったな……。 悠介 「この時間軸での彰利はな、本来なら存在してない筈だったんだ。     昔、俺が学生の頃に現れた死神───ゼノとの戦いで、     あいつはこの時間軸から消えた。     今この時間軸に居る彰利は別の時間軸から来た彰利なんだ」 椛  「……おとうさんがおとうさんじゃない……?よく解りません」 悠介 「お前も『開祖』なら解る筈だ。月空力で時間軸を何度も巡っているあいつは、     もう実際の年齢でいえば100歳以上だ。     あいつは俺を友達として認めてくれて、俺のために何度も死んだ。     その度に時間を遡って子供から人生をやりなおして、     でも……またゼノとの戦いで時間を遡る。     そんなことを繰り返していくうち、     あいつはいろいろな月操力を身に着けていった。……ゼノに負けないために」 ……そう、あいつはただ未来が欲しかったんだと思う。 運命に逆らい、その先にある未来を自分の手で掴みたかったんだと。 この時間軸でそれが実現してくれなかったのは残念だけど、 あいつが生きて、俺に会いにきてくれた時は嬉しかった。 結局───俺もあいつを友達として認めていて、 他の誰も友達にはいらないと思ったのだから。 悠介 「この時代にあいつが居て、この時間軸に残ってるなら───     あいつの時代でのやりたいことってゆうのは終わったんだろう。     それがゼノとの戦いの終着であり、未来を掴むことであり、     誰かと歩く道の先であっても……俺は素直に嬉しいよ」 椛  「おじいさま……」 悠介 「……ハイ、これでこの話は終わり。     彰利は釣りに行った。だけど帰ってこない。     だけど俺はあいつが無事だって信じてる。それでいいんじゃないか?」 椛  「………」 悠介 「納得いかないって顔だな。それじゃあ電車で二駅先の海に行ってみろ。     そこがここらへんの近場で一番有名な海辺だ」 椛  「二駅先、ですね?解りました」 キヒィンッ!! 悠介 「うおっ!?」 ……椛は頷くと同じにさっさと転移してしまった。 悠介 「……自分の孫が自分の祖先ってのも、なんか変な気分だよな……」 小さく息を吐いて、止まっていた竹箒を動かした。 やがてザッ、ザッと竹箒と石畳が音を奏でる景色の中。 俺はかつて、たったひとりの友人と月を見た場所を見下ろして苦笑した─── ザパァーーーン!! ドォッパァアーーーーーン!!! 彰利 「風向き良好!風力最強!ムウウ!これは危険だ!」 夜華 「なにを言っているのだ彰衛門!     このままでは海に沈むぞ!?わ、わたしは泳げないのだ!」 彰利 「安心おし!その時は───」 夜華 「た、助けてくれるのか!?」 彰利 「容赦無く見捨てる」 夜華 「な、ななななにぃっ!?き、貴様!!」 ザパァン! 夜華 「うわぁあっ!!」 彰利 「ムウ……こいつぁ……危機的状態ってやつ?」 夜華 「そんなものはこの現状を見れば解るだろう!」 彰利 「さっぱり解らん!」 夜華 「ご、ごがが……!!貴様助かる気があるのか!?」 SO……アタイ達は困っていた。 これで困らなきゃ……ウソだぜ!? 彰利 「よし、状況を把握しよう。     アタイがボラを釣ろうとして海に来たまではよかった。     何故か夜華さんが同行したのは納得いかなかったが。     で、漁師さんにボラが居そうなところを教えてもらって、     そこに向かおうとしたが船が無かったから筏(イカダ)を作って乗船。     出発したはいいが───漂流しちゃったんですねー!いやっはっはっは!!」 夜華 「笑いごとか!」 彰利 「夜華さん、是非とも訊きたいんだけど、     数日前からアタイに怒鳴りまくって、いい加減に喉が潰れません?」 夜華 「わたしをそこらのヤワな女と一緒にするな!」 彰利 「ヌウ……つまり他の女とは格が違うと?」 夜華 「そうだ」 彰利 「……実は筋肉ゴリモリのマッチョレディとか」 ズバシュウ!! 彰利 「ギャヤヤァーーーッ!!!!」 夜華 「女性をつかまえて筋肉とはなんだ!わたしには無駄な力など必要ない!     勝手なことを言うならば斬るぞ!」 彰利 「斬られてる!もうめっちゃ斬られてる!!」 ……ちなみに、今までは月然力『水』と、 捕らえた魚を焼いて食って生命を繋いできました。 例の如くブラストで焼いて。 彰利 「ぬう……カラスミを食いたかったとはいえ、     この時期外れにボラを狙ったのがそもそもの間違いだったか。     この雄山ともあろうものが……」 夜華 「よく解らぬが、     この『いかだ』とやらで出たことがそもそもの間違いだと思うぞ」 彰利 「なにを言うかと思えばこのカスは……。筏は漢の乗り物ぞ?     これで雄々しく釣り上げてこそ、真の海人というものだ。     余計なものは要らん。     これでポイントまで行き、素潜りか釣り上げで生きるのだ」 夜華 「何度も言わせるな。わたしをカスと言うのはやめろ」 彰利 「いやですじゃ」 ゴコォッ!! 彰利 「ギョオッ!?」 夜華 「はぁ……もういい」 鞘に収めたままで刀を振るい、 アタイの脳天を殴打した夜華さんは、溜め息を吐いて背中を向けてしまった。 夜華 「……なあ彰衛門。貴様、瞬間的な移動が出来ただろう。     別の場所へ飛ぶ、おかしな術が」 彰利 「んーん、ボク知らない」 夜華 「貴様……」 チキリ……。 彰利 「キャア!?また刀ですか!?や、やめたまえ!喉はマズイよ!」 夜華 「術が、使えたな?」 彰利 「な、なに〜っ、俺はそんなこと聞いたこともねぇ〜っ」 ヅプッ。 彰利 「いたやぁあああああっ!!!!!や、やめたまえ!なにをするのかね!!     ここは紳士的に話し合いで解決するべきなんじゃないのかね!?     解るね!?解ったら刀を納めたまえ!」 夜華 「解らん」 彰利 「ゲェーーッ!!」 聞く耳持たずでした。 なんかホント、アタイの周りってこんなんばっかり。 アタイも含めて。 彰利 「あーもう解りましたよ!使えますよ!使えたがどうしたこのカス!」 夜華 「カスと言うな!……で、何故その術を使わない」 彰利 「解ってねぇなぁ……これだからカスは。よいですかカスこの野郎。     アタイは自分の危機以外には極力人間らしく振る舞いたいのよ、解る?」 夜華 「今のこの状況を危機とは呼ばない気か貴様は」 彰利 「だってアタイ楽しんでるもの。食料の心配をせんでいいのに、なにが危機か。     夜華さんが居るから人とだって話せるわけだし、     人として最低限なことは出来るじゃない。自分を見失わなくて済みますぜ?」 夜華 「…………」 夜華さんは再び息を吐き、刀を納めた。 夜華 「あのな、もう一度訊くぞ。この状況は、危機ではないのか?」 夜華さんが海産軟骨魚のシャークさんを指差して言う。 SO……アタイ達は実際困っていた。 これで困らなきゃ……ウソだぞ!? 彰利 「いやー、そういやさっき魚をサバいてたら血が流れてって、     どうしてかこんな平凡な海にシャークさんが現れたんだっけ。     降り続いた雨の所為かなぁ」 夜華 「呑気に言っている場合か!     貴様が言うにはこの魚はとても危険らしいじゃないか!」 彰利 「うむ。その気になりゃあ人間だって食うぜ?」 夜華 「う……」 彰利 「しかも好物が『泳げない人間』」 夜華 「な、なにっ!?」 彰利 「ほら、泳げない人ってもがくじゃない?     それを元気な証拠と受けとって、真っ先にかぶりつくのよ」 夜華 「そ、そんな……それは本当なのか……?」 彰利 「ウソですじゃ」 夜華 「───……かがごわぁあああああああっ!!!!!」 彰利 「キャッ!?キャアアーーーーーーーッ!!!!!」 ザクザクドシュズバドシュドシュザクズバ………… 夜華 「───ハッ!?」 ふと気づけば、彰衛門はぐったりと倒れ…… その血が海に流れたためか、『しゃーく』とやらがうようよ現れた。 夜華 「あ、彰衛門!?どうするのだ!このままでは食われてしまう!     わたしは嫌だぞ!楓さまの婚儀を見届け、子を見るまでは絶対に死ねぬ!」 彰利 「………」 夜華 「彰衛門!?おい彰衛門!!なんとか言え!おい!」 彰利 「こ、この俺を……不老不死にしろーーっ!!」 ぱぐしゃあっ!! 彰利 「ギャア!!」 ……ゴトッ。 夜華 「あっ……どうして貴様はそれしか言わぬのだ!!     また殴ってしまったではないか!」 彰利 「がぼっ……がぼっ……」 彰衛門は口からガボガボと血を吐き、それを海に流している。 夜華 「き、貴様!なにをしているのだ!血を流せばまた『しゃーく』が!」 彰利 「あんさんがアタイを殴るからでしょうが!     こちとら流したくて流した血なんて一滴もねぇのよ!?     なに自分の都合で展開を捏造してやがりますかカスめ!」 夜華 「カスと言うな!」 ザザァア……!! 彰利 「む!?」 夜華 「な……なんだアレは!」 ───海面に、大きな背鰭が現れた。 そのカタチは間違い無く海産軟骨魚のシャークさんのものだが、問題はその大きさだ。 彰利 「こ、こいつが漁師のオヤっさんが言ってた大海原のヌシ……!     その名も超大型食人海産軟骨王ヌシャーク!」 夜華 「ぬ、ぬしゃく?」 彰利 「ヌシャークだ!ヌシでシャークだからヌシャーク!!     本来はもっと別の場所に生息すると聞いたんだが……!     まさかこんなところで遭遇しようとは!」 夜華 「それでどうする気なんだ!このままでは食われてしまうぞ!」 彰利 「意地でも捕らえる!もともと椛にカラスミを食わせてやろうとして来たんだ!     だがこんな大物と出くわしたんだ、捕まえなけりゃ漢じゃねぇ!!」 夜華 「ばっ……馬鹿を言うな!あの影を見ただろう!?     人が捕らえられる大きさじゃない!」 彰利 「お黙りなさい夜華さん!人間、やろうと思えば大抵のことは出来るものぞ!?」 アタイは巨大な魚影に向けて構え、印を開放した。 彰利 「我唱えん!我らを潤す煌く水源の上に!     さしずめ、虚空の閃きの如く、深海の闇より深く!死の意すら貫かん!」 やがてそれを両手の平に収縮し 彰利 「プリンス・カメハメ波ァーーーーッ!!!!」 ドチュウゥウウーーーン!!!!と一気に放つ!! ドパァアアアン!!! 夜華 「当たったか!?」 彰利 「手応えはあった!」 プリンス・カメハメ波は海を貫き、確かに超大型(中略)シャークさんに当たった。 だが……この不安はどうしたことだ……。 まだ戦いが終わっていない気がする……! 夜華 「彰衛門!右だ!」 彰利 「何がかね!」 夜華 「右だ!」 彰利 「右!?右がどうかしたのかね!ハッキリ言いたまえ!」 夜華 「いいから右を向け!」 彰利 「なんだというのかね!!     わたしを騙して隙をつこうとしているんじゃないのかね!?」 夜華 「早く見ろ!危ない!」 彰利 「だから何がかね!ハッキリ言いたまえと言った筈だがね!!」 夜華 「『しゃーく』が来ている!」 彰利 「なんと!?そういうことはもっと早く言いたまえ!これだからカスは!」 夜華 「言っただろう!」 彰利 「私は言い訳は見苦しいと思うがね!!」 夜華 「そんなことはどうでもいい!なんとかしろ!」 彰利 「なに!?貴様、私に命令するつもりかね!私は紳士だぞ!?」 夜華 「そんなことは訊いていない!」 彰利 「大体キミは」 ドッパァアアアアアアアン!!!! 彰利 「キャーッ!?」 夜華 「ぐっ……!ううう……!」 シャークさんの体当たりにより、筏が大きく揺れた。 壊れなかったのが奇跡じゃね。 彰利 「なにかねキミは!私は今このカスと話しているのだがね!!     邪魔しないでもらおう!」 夜華 「魚に言葉が通じるわけがないだろう!」 彰利 「なんだねキミは!この紳士に説教をするつもりかね!」 夜華 「いいから構えろ!来るぞ!」 彰利 「来る!?何がかね!」 ボゴシャア!! 彰利 「つぶつぶーーーっ!!!!」 思いっきり殴られてしまった。 夜華 「いい加減にしろ!生き残る気があるのか貴様!」 彰利 「大丈夫!オイラ、夜華さんをエサにしてでも生き残る気満載さ!」 夜華 「なにっ!?き、貴様まさかそのようなことを!?」 彰利 「馬鹿野郎!アタイはそこまで外道じゃねぇ!」 夜華 「……ならば少しは外道だと認めているのだな?」 彰利 「お、お黙り!!」 ザザザザ……!! 彰利 「む……!来る!」 デカい背鰭が海面に現れ、こちらへ向かうその勢いは増すばかりだった。 一気に噛み砕く気なのじゃろうて。 彰利 「夜華さん!アタイに掴まれ!」 夜華 「な、なに!?掴まれって……」 彰利 「抱き着いておればいい!早くせい!」 夜華 「あ、ああ!」 彰利 「エネルギー全開!マッスルオブフィナーレ!!」 ギュムと夜華さんが抱き着いてくる中、アタイは体に力を込めた。 彰利 「さあ来い!どんな攻撃だろうと耐えてみせキャーッ!!?」 ドッパァアアアアアアアアン!!!! なんと!あろうことかシャークさんは水面から飛び跳ね、アタイ目掛けて飛んできた!! 彰利 「考えおったな貴様!だがそれが命取りよーーっ!!オラァアアッ!!」 ガッシィッ!! 夜華 「なっ……!?う、受けとめた!?」 アタイは飛んできたシャークさんを受けとめ、 その勢いを殺さないように回転し、シャークさんを空へ投げ飛ばした! 彰利 「ディイェエエエエイ!!!!」 今度は投げ飛ばしたシャークさんに飛び移り、高らかに叫ぶ! 彰利 「冥土の土産に今からお前にいいものを見せてやる!     超人閻魔さま!技巧の神の力を!     ゼブラの芸術的テクニックを与えたまえーーっ!!」 月空力の転移の法(弱)で空を飛びつつ、月聖力標的固定でシャークさんを靴の裏に固定! これであとは陸地を探すだけよーーっ!! 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