───人の関係のバランス───
───……。 凍弥 「……でさ」 彰利 「なんじゃい」 椛の家───つまり、 神社の下の方にある家に連れられた俺は彰衛門に渡された服?を見た。 凍弥 「どうして……パンプキンなんだ?このマントみたいなヤツも……」 彰利 「馬鹿か貴様は。海パンでいるより最強だろうが」 凍弥 「そりゃそうだけど……」 少し重いパンプキンの被り物(大きなカボチャを刳り貫いたもの)を持ち、首を傾げた。 彰利 「ゴチャゴチャ言わんと装着しろ。それとも海パン一丁で帰りたいか?」 凍弥 「どうしてそう両極端なんだよお前は!」 彰利 「極端を選ばなきゃ区別がつかないと思わんか?」 凍弥 「彰衛門の場合は極端すぎるんだよ!」 彰利 「グムー……そうでもないと思うんだが」 彰衛門は首を傾げてから小さく『カスめ……』と呟いた。 凍弥 「あのなぁ……」 彰利 「とにかく、アタイはそれ以外に服なんぞ……おお」 彰衛門はポムと手を打つと、押し入れを開けてなにかを取り出した。 彰利 「こんなものがあるが」 バッと広げたそれは───和服だった。 恐らく、過去に飛んだ時のあの服だろう。 凍弥 「ところでさ、どうしてこの家に彰衛門の服があるんだ?」 彰利 「誰にも言わずにこの押し入れに住んでるからだ。     いずれドラえもんすら超越してみせるわ!」 声  「ほう……どうりで冷蔵庫の中身の減りが早いと思ったわ……」 彰利 「なにやつ!?」 突然の声にバッと振り向く彰衛門。 そしてその視線の先には───! 彰利 「き、貴様は───悠介!」 腕を組んだ悠介さんが居た。 悠介 「買った筈のレタスが必ず無くなるからおかしいとは思ったんだ。     夜な夜などっかからショリショリと音が鳴るし、     『もぉ我慢できねぇなぁ〜』とか聞こえるし」 彰利 「それは俺じゃないぞ」 悠介 「自信満々にウソつくなよ!このホッパ吹きめ!」(ホッパ吹き=ウソつき) 彰利 「ふいてねーーーっ!事実だ!なんで信じねーんだよてめーら!」 悠介 「信じられるかボケ!」 彰利 「な、なに〜っ、それなら第三者に訊いてみようじゃねぇか〜〜っ」 ガッシと俺の肩を掴む彰衛門。 なんだか知らんが、イヤな予感がする。 彰利 「小僧、アタイはそんな妖怪腐れ外道チックなことなんてしてねぇよね?」 凍弥 「いや、ウソだ」 彰利 「ホレみろ!───なにぃ!?」 凍弥 「実際俺がここに泊まった時、     冷蔵庫漁りながら『もぉ我慢できねぇな〜』とか言ってたじゃないか」 彰利 「ゲゲッ……!覚えてやがった!」 悠介 「お前っ……!そんな前の時から漁ってたのか!」 彰利 「んーん、違うよ。     ボクそんなことしてないもん。このカスがウソついてるんだ」 悠介 「子供のような言い方で人をカスと罵るヤツの言うことが信じれるか!」 彰利 「信じてーー!アタイを信じてーーーっ!!」 悠介&凍弥『だめだ』 彰利 「結局それかよ!」 だめだはもう聞き飽きたわYO!と叫ぶ彰衛門をよそに、俺は和服に腕を通した。 凍弥 「───……ああ。やはり和服は落ち着くな」 つい口調が戻ってしまう自分がなんだかくすぐったい。 悠介 「意外だな。随分着馴れてる」 凍弥 「前世が昔の人だからな。私は今の服よりこちらの方が落ち着くのだ」 彰利 「口調が完璧に戻ってるぞ小僧」 凍弥 「え?あ……すいません悠介さん」 悠介 「気にするな。俺は年齢ってものは気にしない。     故意に失礼なこと言わない限り、怒ったり気分を害したりはしないさ」 彰利 「ええっ!?そうなの!?じゃあ───タコ!カス!馬鹿!ボケ!     ダーリンのアホーッ!クズーッ!マスオーッ!!」 ボゴシャア!! 彰利 「つぶつぶーーっ!!!」 悠介 「故意に失礼すぎだぞてめえっ!!」 彰利 「故意じゃないやい!だから許せ!」 悠介 「許せるか!」 ふたりはギャアギャアと言い合いを開始した。 その言い合いは支離滅裂で、 しばらくしてようやくふたりが楽しんでいることに気づいた。 ……これが、本当の友達なんだろうな。 何言われても嫌いになれない友達。 それは……本当の意味で、傍に居てくれて嬉しい人なんじゃないだろうか。 彰利 「あ〜ん?なに気持ち悪い顔でこっち見て」 ボゴシャア! 彰利 「つぶつぶーーっ!!!」 こちらを向いた彰衛門の頬が、思いきり殴られた。 悠介 「ふはははは!貴様らしくもないな彰利!」 彰利 「おのれやってくれおったなダーリン!目ェ瞑って歯ァ食い縛りなさい!     そしたらアタイがマチュリとぶっちゅしてやらぁ!!」 悠介 「そこまで言われて瞑れるか!」 彰利 「おーっ!?じゃあ一生目ェ瞑るなよ!?」 悠介 「子供かお前はっ!!」 彰利 「子供ぞ!焼身証明20前の子供じゃーーっ!!」 悠介 「焼身を証明してどうすんじゃい!」 彰利 「やかましい!どうでもいいわそげなこと!     とにかくアタイはジジイなダーリンとは格が違うのよ!」 悠介 「お前だって正確な年齢は120歳くらいだって言ってただろうが!     お前よりかはマシだ!このクソジジイ!」 彰利 「クソジッ……!?こ、このバッケヤラァーーーッ!!!」 悠介 「おーっ!?やるかこのタコ!」 彰利 「やってやろうじゃねぇかこのハゲ!」 悠介 「誰がハゲだ!」 やがてふたりは取っ組み合いを始めた。 悠介&彰利『サミング!!』 ドチュチュッ!! 悠介&彰利『ぐああああああっ!!!!』 クロスカウンターサミングをし合い、ふたりしてもんどり。 ……奇妙なバランスが取れているふたりは、 だからこそ友達で居られるのだろうかと思った。 罵倒を飛ばしながらも笑い合えるって、 きっと上辺だけの友達じゃあできないことだから。 凍弥 「………うん」 邪魔をするのも無粋だし、俺は部屋出ることにした。 静かに障子を開け、縁側に出る。 凍弥 「……いい場所だな、ここは」 懐かしむように言う自分が少しおかしかったけど、 進化したのか退化したのかも解らないこの世界を見れば、懐かしむのも当然だった。 凍弥 「よし、神社に寄っていくか」 何かを忘れているような気分に抱かれながら、俺は晦家をあとにした。 ───……。 晦神社はあの頃のままの姿で目の前に建っていた。 なんでも彰衛門が能力で綺麗にしたらしい。 それはそれで歴史のありがたみが無くなる気もしたが、 誰も文句を言うヤツなんて居なかった。 凍弥 「この先が楓の部屋───あっちが篠瀬の部屋」 ひとつひとつを確かめるように歩く。 夢から覚めない子供のようにワクワクしながら。 そして思う。 俺も過去からあまり変わってないんだって。 でも───ああ、それもそうかもしれない。 だって俺は他人として生まれたわけじゃなく、転生したんだから。 そして記憶が戻ったんだ、本質ってものがそうそう変わるわけがない。 ただひとつ変わったとしたなら─── 凍弥 「………」 俺は、前よりももっと、楓巫女───椛を愛している。 止まることを知らないかのように、その気持ちは大きくなる一方だ。 こうして歩いている時でさえ、考え事をしている時でさえ、あいつを想っている。 自分で重症だと思うほどだ。 だからかもしれない。 椛が彰衛門に甘える時、どうしようもないくらいに胸が苦しむ。 親として彰衛門を見ていることくらい解ってる。 解ってるけど止められない。 どうにもならないんだ。 凍弥 「椛は俺に他の女を見るなとか言ってたけど……」 それは俺も同じ気持ちだった。 椛には俺だけを見て欲しい。 そう思うのは我侭なんだろうか───ヒュンッ! 凍弥 「───っ」 ふいに何かが飛んできて、俺の頬をかすめた。 男  「ちっ……腕鈍ったか、俺……」 振り向けば舌打ちする男。 先ほど椛を盾にした男だ。 凍弥 「へえ……丁度いいや」 椛を盾にしたこと。 椛に触れたこと。 椛の首を折ると言った男。 そいつが目の先に居るんだ───ぶっ潰してやる。 凍弥 「来いよ……椛を盾にしようとしたこと、後悔させてやる」 男  「霧波川凍弥だな?俺は姫桐翔。賞金稼ぎだ。     お前には五千の賞金がかけられてる。ちとシケてるが、その賞金、俺が頂く」 凍弥 「戯言を聞く気はない。来い」 姫桐 「後悔するのはお前の方だぜ───いくぜっ!」 姫桐は一気に間合いを詰めようと走ってきた。 俺は冷静に服の中に仕舞われていた木刀を抜き、それを振るう。 ───それで決着はついた。 ───……。 姫桐 「てめ……きったねぇぞ……なんのトリックだよそりゃあ……」 凍弥 「さあな。自分で考えろカスが」 アバンストラッシュをまともにくらった姫桐は大きく吹き飛び、 石畳の上でぐったりしていた。 姫桐 「まさか……お前も家系のヤツなのか……?     さっきの男が家系の……『あの』弦月彰利だってのは解ったが……」 凍弥 「俺はそんなのとは無関係だ。ただ、椛に多少でも危害を加えるヤツは許さない」 姫桐 「……チッ……伝説の開祖さまに守るヤツなんて必要ねぇだろうが……」 凍弥 「───お前、どこまで知ってるんだ?」 姫桐 「シェイドってやつにいろいろ聞いて、     ばあさんの言ってたことを思い出しただけだ……。     ったくどうかしてるぜ……この力がもとはあの女のものだったなんて……」 凍弥 「あんたのばあさんって?」 姫桐 「うるせぇな……お前にそこまで教える筋合いなんてねぇよ……」 凍弥 「あーそうかい。俺も忘れてた何かを思い出せてスッキリしたよ。     さっさと失せるんだな。私には貴様の戯言に付き合う筋合いがないのだ」 姫桐 「チッ……!」 俺は姫桐に背を向けてその場を去───いや。 姫桐 「ん……?なんだよ」 凍弥 「いいや。どうして俺が去らなきゃいけないのかってね。     お前が去れば済むことだ」 俺はそう言い放つと、姫桐の襟を引っ掴んで引きずった。 姫桐 「てめっ……な、なにしやがんだよ!」 凍弥 「───黙れ」 姫桐 「っ……!」 殺気を込めた目で相手を黙らせた。 やがて歩みを止める。 姫桐 「お、おい……なんだよ」 凍弥 「二度と椛に手を出すんじゃない。いいな?」 姫桐 「椛……朧月椛か。断る、あいつも賞金がかかって」 凍弥 「だったら消えろ」 ブンッ! 姫桐 「えっ───?」 俺は腕を振るい、そいつを滝壷に放り投げた。 姫桐 「あっ───ぁああああああああっ!!!!!」 崖のように高いその滝の横を、姫桐が落ちてゆく。 声  「おおーーっ!?カスが降ってきおったわ!殴れ殴れ悠介!」 声  「おう!くたばれカスが!」 声  「カスめ!カスめ!」 声  「クズめ!クズめ!」 声  「うわっ!やめろてめぇら!なにしやがる!」 声  「カスが!姉さんの孫にしてはカスすぎるぞてめぇ!」 声  「そうだそうだ!ダーリンの言う通りだカスめ!」 声  「うわっ───うわぁああああっ!!」 ……どうして滝壷に悠介さんと彰衛門が居るのかとかも考えるのが面倒で、 俺は最後まで見届けることもせず、踵を反してその場をあとにした。 ───そして俺は大樹のてっぺんに座っている。 そこから見下ろせる景色は随分と変わってしまったけれど、 また登れるだけでも俺は嬉しかった。 凍弥 「………」 やさしい風に抱かれている。 空を見上げれば綺麗な蒼空。 そんな空の下で、あの頃のままのこの場所に座りながら……俺は思い出にふけっていた。 声  「よいしょっ……よいしょっ……」 凍弥 「うん?」 ふと聞こえ始めた声に下を見下ろしてみれば、 不器用としか思えない手つきで大樹を登ってくる椛。 凍弥 「転移したほうが早いんじゃないか〜?」 椛  「いやですっ、わたしだってやれば出来ま───きゃあっ!」 凍弥 「ほらっ、危なっかしいからっ!」 椛  「いーやーでーすっ!」 頑なに助言を拒みながら、椛は登ってくる。 やがて頂上まで辿り着くと、どうですか?と胸を張ってみせた。 ……俺はなんだかおかしくなって、声をあげて笑った。 椛  「あっ、ヒドイです!笑うなんて!」 凍弥 「悪い悪い、なんか嬉しくてさ」 椛  「嬉しい?なにがですか?」 凍弥 「内緒」 椛  「うー……」 俺は未だに小さく笑いながら、椛の頭を撫でた。 サラサラとして髪が風に揺れるたびに、その髪を整えるように。 椛はくすぐったそうにして手から逃れようとする。 俺は苦笑してそれを追い、後ろから彼女を抱き締めた。 椛  「あ……」 凍弥 「………」 ───そして、ただ黙って空を見る。 椛  「……空、昔より蒼くないですよね……」 俺の胸に後頭部を預けるようにする椛は、そんなことを言って目を閉じた。 俺は俺でその言葉に小さく頷きながら、彼女を抱き締めたままで目を閉じる。 椛  「そういえば……服、着たんですね」 凍弥 「ああ。彰衛門に借りた」 椛  「そうですか、懐かしいですよね。     その服を着ていると、凍弥先輩が鮠鷹さまに見えます」 凍弥 「……そうだな」 俺、霧波川凍弥はどちらかと言うと霞吹鮠鷹に似ている。 だからそう思われるのは当然だ。 椛  「……その服を着ている時だけでも、鮠鷹さまって呼んでいいですか?」 凍弥 「じゃあさ、椛も巫女装束を着てみたらどうだ?     この神社にならあるだろ」 椛  「───いいですね。そうしたら、わたしのことも楓って呼んでくださいね?」 凍弥 「───」 ぎゅっ…… 椛  「あ……凍弥先輩?」 凍弥 「……俺を転生させてくれてありがとう」 椛  「ど、どうしたんですか?突然」 凍弥 「感謝したかったんだ。俺はお前の傍に居れて、今すごく幸せだから……」 椛  「凍弥先輩……」 椛は自分に回された俺の腕にやさしく手を添え、目を閉じた。 椛  「……幸せに───なりましょうね」 凍弥 「ああ……そうだな」 俺達はその景色に抱かれながら……しばらくの間、大樹の上でそうしていた。 ───やがて夕暮れが訪れる頃、 俺の腕でおだやかな寝息をたてている椛をもう一度抱き締めた。 ただ大事に思う人。 ただ愛しい人。 飛鳥が亡くなった時、もう二度とそんな人が現れることはないと確信した俺だけど…… そんな人ともう一度こうして会えて、確信なんてものが些細なものなのだと解った。 だからこそ強く願う。 この幸せが、たとえどんなに辛いことが起きたとしても消えることがないようにと。 俺達はまだ小さな子供だろうけど、自分の幸せがなんなのかは遠い昔から知っていた。 だからこそ、その小さな幸せを精一杯育てたいと思える。 だからこそ───俺は、この腕の中にあるあたたかなぬくもりを離したくないと思う。 凍弥 「………」 ……いつか彼女を自分の手で守る時が来た時、俺はどうしているのだろうか。 そんな小さな未来を想像しながら……俺は確かに今を生きていた。 今確かにこの腕の中にあるぬくもりとともに。 Next Menu back